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Grand Guignol

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Grand Guignol



「クロは死ンじゃっタヨ?」


真っ白になった樹の頭に、けたたましい笑い声が響いた。


「ゲームオーバーダネ!ソレともコンティニュー?」

「処刑人はモウイナイ。妖精の手ハ弾いチャッタ。シズハがイル限リ夢かラ出られナイ。」

「ワカッタ?モウ逃ゲ道はなイんダヨ。臆病羊ハ負ケちゃっタ!」




「イツキはこの夢ノ中デ、ズゥット死ねナイんだヨ!」







誰かがその足音に振り向いて。
振り向いた顔のまま首を落とした。

「…ッ!」

落ちた通行人の首を見た、周りの者の首も落ち。
あっというまにあたりは阿鼻叫喚となった。その真ん中で樹は呆然と立つ。
こんなに。こんなにやかましくなるほど人がいるのに。

どうして だれも 俺を 殺さない の?

「…ッあ゛…」
がたがた、震える手で剣をひっつかみ、だっと地を蹴った。
「あ゛あああああああああああああッッ!!!!!」

それはもはや斬るとも呼べない、刃を叩きつけるだけの連続。
滅茶苦茶に振り回す刃は人に当たり瓦礫に当たり。あっというまに刃零れるのに、次の瞬間には零れる前以上に研ぎ澄まされていた。
夢の世界は想いの世界。
振り回す度研ぎ澄まされる刃はまさに。
樹の想いをそのまま、映していた。


嫌だ。嫌だ。もう嫌だ。
何もかもが、嫌だった。
誰も俺を裁いてくれない。罪から解き放ってくれない。悪夢から、解き放ってくれない。
この世界が何であろうと関係ない。生きていること、それ自体がもはや悪夢でしかないんだ。
だから忘却を望んだのに。望んでおきながら忘れた自分は記憶を探し当ててしまった。それが自分の本質だと言うのならいくら願っても永遠に逃げ切れない。考えただけでも、ぞっとする。
逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。
逃げられない。
死なせてくれない。

「けタタッ!ムダだヨォ、イツキ。コレも、ソレも、弱ァい糸。」
落ちた手をくしゃっと踏みつぶし、樹の姿でアノニマスは笑う。
「弱ァい糸ジャ、恨ミ言も紡げナイヨ。イツキをコロすにハこンナんジャダーメ。ダッてイツキにハ…。」
ずる。手に持つ剣が腕ごと溶解する。両腕をおもむろに樹の首元へ絡め、アノニマスはにぃと笑んだ。
「…2本。強ォい糸が絡ンデるカラ。けたた、首輪ミタイダネ!」
「…ッ…!」
ぶんっ、と振りはらえばアノニマスは簡単に剥がれた。アノニマスから逃げるかのように樹は雑踏へ飛び込む。
「…五月蠅い…ッ」
剣を突き立てる。見えない何かを叩き斬るかのように、死体も生身も構わずに。
「五月蠅い五月蠅い五月蠅い、五月蠅い…ッ!!!」

血まみれの両手で、
『きみ自身がきみを、』
耳を強く塞いだ。
『どんなにゆるせなかったとしても』
もはや樹にはそれが、呪いとしか思えなくなっていた。絡みつく糸。樹を絡め取り、地上へ縛りつける糸。空へ逝きたがる樹を許さない強固な糸。
もうたくさんだ。聞きたくない。何も聞きたくない。その優しい呪いのせいで、俺はずっと悪夢から醒められない!
溺れる者が掴む藁のように、樹は目の前の人影の髪をひっつかんだ。
「ひッ…!!」
人影の怯える声など聞こえない。そんなものが聞こえる余裕などない。
樹は掴んだ髪を地に叩きつけると、剣を振りあげた。

もう嫌だ。もう解放されたい。
この悪夢から解き放たれたい。
こんな人生から解き放たれたい。
こんな世界から解き放たれたい。
こんな世界は、

要らない。







「…いけない子。」

彼に手を出すなんて、身の程知らずね。
瓦礫塀の上にちょんと腰かけて、桃が歌うように呟く。
「うふふ。けれどちょっとだけお手柄よ。あなた使えそうだからしばらく許してあげるわ。」

ああ、ごめんなさいねリヒルト。
とってもとっても痛いでしょうけど、少しだけ我慢してくださる?
すぐに楽にしてあげますわ。

赤いお人形は使えなくなったけど。
代わりにその子を使いましょう。夢を模したお人形なんて、素敵ね。

「ねぇ、リヒルト。」
赤い爪先を唇に当て、大きな目をゆっくり細めた。
「要らないものは、斬り捨てて仕舞いましょう?」




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