おとがなった
教会の扉を激しく叩く音が聞こえた。神父は手に持った聖書らしき分厚い本を閉じ、扉に歩み寄る。
何の躊躇も無く扉を開くと、そこには青い髪の少女と、その後ろに橙の髪の傷だらけの青年がいた。
何の躊躇も無く扉を開くと、そこには青い髪の少女と、その後ろに橙の髪の傷だらけの青年がいた。
その言葉で状況を察した神父はにっこりと笑うと、扉を大きく開け放ち、二人を中に招き入れた。
少女に支えられながら青年は教会の中に入り、冷たく硬い床の上に横たわった。
翠はちらりと、二人を見下ろす。彼は心身共に疲弊しきっているようではあったが、怪我の方はあまり重大そうではない。
…とは言え、この傷を放って置くわけにはいかないだろう。
少女に支えられながら青年は教会の中に入り、冷たく硬い床の上に横たわった。
翠はちらりと、二人を見下ろす。彼は心身共に疲弊しきっているようではあったが、怪我の方はあまり重大そうではない。
…とは言え、この傷を放って置くわけにはいかないだろう。
翠はぺらぺらと、聖書のページを一枚ずつめくっていく。最後のページまで辿り着いてから、もう一度少女を見下ろした。
心配そうに青年を見つめている。
彼女を再び視界に入れた瞬間、
翠の金の瞳に、先ほどまでとは明らかに違う光が宿った。
心配そうに青年を見つめている。
彼女を再び視界に入れた瞬間、
翠の金の瞳に、先ほどまでとは明らかに違う光が宿った。
「…その方を、救いたいですか?」
翠の問いかけに、少女は彼を降り仰ぐ。少女の瞳を見ただけで、彼女の総意が分かった。神父は再び、にこやかに微笑んだ。
「申し訳ないんですが、今丁度贄のストックが空なんです。」
「………え?」
「ですので、彼を癒す為には貴女の命が必要なんです。…まぁ、彼のためなら仕方ない、と言うことで」
「………え?」
「ですので、彼を癒す為には貴女の命が必要なんです。…まぁ、彼のためなら仕方ない、と言うことで」
いつもなら、足りるはずのストック。この前の妙な客人に使って以来補填してなかったな、と後悔した。
けどまぁ、構わない。一人苦しんでいて、もう一人は苦しんでいないのだから。
もとより結論は出ている。
けどまぁ、構わない。一人苦しんでいて、もう一人は苦しんでいないのだから。
もとより結論は出ている。
神父の聖書を持っていない方の掌の中で、音を立てて風が舞っている。
神父はそれを、腕を伸ばして少女に見せてやった。
神父はそれを、腕を伸ばして少女に見せてやった。
「苦しくはないですよ。首筋、ちゃんと綺麗に切り裂いてあげますから。」
少女の抱いていた感情が急速に冷え込み、“疑念”から“恐怖”へと色を変えた。
風が、空を切る。
一度翠は瞬きして、目を扉の方へやる。青年が彼女の手を引き、扉の方へと駆け出していた。
もう一度風を飛ばそうとして、ふと誰かの気配に気付く。この建物の外からだ。
もう一度風を飛ばそうとして、ふと誰かの気配に気付く。この建物の外からだ。
血の臭いを嗅ぎ付けたのか、元々彼らを追いかけていたのか。そして誰なのかは、分からないが。
閉められていたドアを勢い良く開き、二人は外へと飛び出した。
閉められていたドアを勢い良く開き、二人は外へと飛び出した。
だが突然、時が止まったかの様にびたりと二人の足が止まる。
翠はごくごく自然な動作で、ゆっくりと扉を閉めた。一言何か、呟いてから。
*
教会を飛び出した二人の目の前には、体の右半分を包帯で巻いた男が立っていた。誰だかは、知らない。
包帯を巻いていても分かる、彼の半身の異常。気持ち悪い程に膨れ上がっている右手の先からは、包帯で隠しきれていない鋭い爪。
焔は静葉を守るようにして身構える。ぎっと睨んだのは、自分が映った彼の瞳。
包帯を巻いていても分かる、彼の半身の異常。気持ち悪い程に膨れ上がっている右手の先からは、包帯で隠しきれていない鋭い爪。
焔は静葉を守るようにして身構える。ぎっと睨んだのは、自分が映った彼の瞳。
「お前は、強い、か?」
「知らない。」
「……」
「自分で確かめてみなよ、狂戦士<バーサーカー>さん?」
「……そう、やな」
右手の包帯を静かにほどく。現れたのは、赤く硬そうな肌。
「………殺して、もっと強く、なる…」
大きな爪が、焔の頭上にまで飛んできた。それを静葉を抱えながら何とか避けると、すぐ近くで壁の崩れるような音がする。
教会の壁が、また新たに傷をつけてられてしまったらしい。焔は心の中でざまぁみろ、とそっと毒を吐いた。
静葉を建物の影に行くように促し、焔は改めて相手を見る。
そして、軽やかに地面を蹴った。
教会の壁が、また新たに傷をつけてられてしまったらしい。焔は心の中でざまぁみろ、とそっと毒を吐いた。
静葉を建物の影に行くように促し、焔は改めて相手を見る。
そして、軽やかに地面を蹴った。
*
建物の影に隠れた静葉は、胸の鼓動を押さえつけるようにしながら二人の闘いを見守っていた。
あの人物に負けてほしいと、焔に勝ってほしいとは思わない。ただ、傷つかないでほしい。
「大丈夫ですよ」
血が、凍った。
ゆっくり、後ろを振り返る。貼り付けられた笑みを浮かべた、神父の姿。
「仮に傷ついたとしても、貴女がいますから。」