魔女と神様.2
実際のところ、住む場所というより立ち寄る場所だった。
大抵は怪我をした時の保養所として。しかし瀕死で倒れこむことは是が非でも避けた。気を失っている間にまた"奇跡の技"を使われてはたまらないからだ。
すると自然に戦い方が変わってくる。がむしゃらだった戦い方が、生き残ることを考えた戦い方に。致命傷を受ける前に撤退するようになったのも大きい。
「おや、いらっしゃい。」生臭神父はねじくれた笑顔で言ってくる。
それに毒を吐いてやるには、しっかり生きていることが肝要だったのだ。
そうして過ごすうちに段々、思い出してきたものがあった。休むことで生まれた余裕のせいだろうか。
私には、守るべき人がいる。
その人を探さなくてはいけなかった。
大抵は怪我をした時の保養所として。しかし瀕死で倒れこむことは是が非でも避けた。気を失っている間にまた"奇跡の技"を使われてはたまらないからだ。
すると自然に戦い方が変わってくる。がむしゃらだった戦い方が、生き残ることを考えた戦い方に。致命傷を受ける前に撤退するようになったのも大きい。
「おや、いらっしゃい。」生臭神父はねじくれた笑顔で言ってくる。
それに毒を吐いてやるには、しっかり生きていることが肝要だったのだ。
そうして過ごすうちに段々、思い出してきたものがあった。休むことで生まれた余裕のせいだろうか。
私には、守るべき人がいる。
その人を探さなくてはいけなかった。
それは誰だったろう。大切な人は誰だったろう。
"誰か"を求めながら"誰か"を奪う日々。
奪わなければ奪われる。"彼"らは奪う者、だから。
仕留め損ねた眼鏡の男とそれを庇った端麗な男。
逃げられた背中に舌を打ちつつ、ふいに思った。
"誰か"を求めながら"誰か"を奪う日々。
奪わなければ奪われる。"彼"らは奪う者、だから。
仕留め損ねた眼鏡の男とそれを庇った端麗な男。
逃げられた背中に舌を打ちつつ、ふいに思った。
彼はどうして彼を庇ったのだろう。
少女にとって"男性"とは、理屈の通じない別の生物だった。
少女にとって"男性"とは、理屈の通じない別の生物だった。
「さぁ、そう思うのなら殺さなければいいんじゃありません?」
…とある日の翠が涼しい顔で言ってのけた。その瞬間切り刻んでやりたくなったのは言うまでもない。
「…私は何も言ってないのだけど。」
「顔に書いてありますから。このままでいいのかって迷ってるんでしょう?」
くすくすと笑う翠は、普段絶対しないような優しい仕草で手を差し伸べた。
「ほら、可哀想な仔羊さん。迷いが生まれたなら信じなさい?」
「黙れ下種。」
「そう言うと思ってました。」
力いっぱい手を弾かれても翠は楽しそうだ。
「本当にそう思うから言っているのですよ?」
翠はそう言うと、テーブルに置いていた聖書を手に取った。そして臙脂がかった赤い表紙を愛おしそうに撫でた。
その本はいつ見ても、栞の心をざわつかせる。
その理由はわからない。奇跡の技の元だから、という理由ではなさそうだ。
「例えば、この本は決して私を裏切らない。」
翠が口を開いた。
「この本は人の命を、殺めた数だけ正確に綴じ込む。そして綴じ込んだ命の数だけ、正確に誰かを救う。"殺めた数だけ誰かが救われる"。裏切ることのない、信じるに値する公式です。」
骨ばった長い指。愛おしそうに表紙を撫でる。
本に注がれていた視線が、ちらりと栞に向けられた。
「しかし貴女の持つ公式…"奪われる前に奪う"という公式を、貴女は信じきれていない。」
「……。」
「だから迷うのですよ、仔羊さん。迷いが生まれたなら、信じなさい?」
再び赤い本に目を落とした、神父の横顔を栞は見つめる。
右手は愛おしそうに本を撫でていた。
が、左手は縋りつくように本を掴んでいた。
それら全てを栞は見つめる。
…とある日の翠が涼しい顔で言ってのけた。その瞬間切り刻んでやりたくなったのは言うまでもない。
「…私は何も言ってないのだけど。」
「顔に書いてありますから。このままでいいのかって迷ってるんでしょう?」
くすくすと笑う翠は、普段絶対しないような優しい仕草で手を差し伸べた。
「ほら、可哀想な仔羊さん。迷いが生まれたなら信じなさい?」
「黙れ下種。」
「そう言うと思ってました。」
力いっぱい手を弾かれても翠は楽しそうだ。
「本当にそう思うから言っているのですよ?」
翠はそう言うと、テーブルに置いていた聖書を手に取った。そして臙脂がかった赤い表紙を愛おしそうに撫でた。
その本はいつ見ても、栞の心をざわつかせる。
その理由はわからない。奇跡の技の元だから、という理由ではなさそうだ。
「例えば、この本は決して私を裏切らない。」
翠が口を開いた。
「この本は人の命を、殺めた数だけ正確に綴じ込む。そして綴じ込んだ命の数だけ、正確に誰かを救う。"殺めた数だけ誰かが救われる"。裏切ることのない、信じるに値する公式です。」
骨ばった長い指。愛おしそうに表紙を撫でる。
本に注がれていた視線が、ちらりと栞に向けられた。
「しかし貴女の持つ公式…"奪われる前に奪う"という公式を、貴女は信じきれていない。」
「……。」
「だから迷うのですよ、仔羊さん。迷いが生まれたなら、信じなさい?」
再び赤い本に目を落とした、神父の横顔を栞は見つめる。
右手は愛おしそうに本を撫でていた。
が、左手は縋りつくように本を掴んでいた。
それら全てを栞は見つめる。
「迷っているの?」
つややかな金の瞳が、ふっと瞠られた。
「…私、が?」
栞はこくりとうなずく。
翠は"女性"ではない、はずなのに。"女性"でなければ"男性"であるはずなのに。
栞は翠から感じるものを、自らの理屈で"理解"できた。
「貴方が信じてるものは"主"じゃない。その、本。」
瞠られた金。見据える金。同じ生き物の瞳が交わる。
「信じたいのは本を行使する、"神<貴方自身>"。」
「…私、が?」
栞はこくりとうなずく。
翠は"女性"ではない、はずなのに。"女性"でなければ"男性"であるはずなのに。
栞は翠から感じるものを、自らの理屈で"理解"できた。
「貴方が信じてるものは"主"じゃない。その、本。」
瞠られた金。見据える金。同じ生き物の瞳が交わる。
「信じたいのは本を行使する、"神<貴方自身>"。」
そうでしょう?と問いかける気にはなれなかった。
いつだって瞳は何よりも雄弁だ。
翠は何も言わず、ただ困り果てた笑みを浮かべる。またひとつ彼の人間らしい顔を見つけた。
人を救うなどと大それたことを言う割には
それが正しいという証明を欲しがる、ありふれた人間の顔だった。
いつだって瞳は何よりも雄弁だ。
翠は何も言わず、ただ困り果てた笑みを浮かべる。またひとつ彼の人間らしい顔を見つけた。
人を救うなどと大それたことを言う割には
それが正しいという証明を欲しがる、ありふれた人間の顔だった。
迷いが生まれたなら信じなさい。
できるものならそうしている。私達はどうしようもなく、人間だった。
できるものならそうしている。私達はどうしようもなく、人間だった。