Compenser
来る。
それは確実に。
着実に。
それは確実に。
着実に。
耳を塞いでいるだけ。
ずぐっ、と背中に痛みが刺しこまれた。
同時に羽根が、そして背後の空気がかっと熱を帯びる。羽根をつかんでいた男は慌てて飛び退った。
「"オーバーヒート"…!ちっ…!」
青い翼竜の男…翼<よく>は悪態をついて爪を振るう。解放された焔は鋭く翼を睨めつけた。発熱する両羽根を、威嚇するように大きく広げる。
もっと熱く。もっと熱く。オーバーヒートは緩めない。あの男を焼き殺すんだ。
その度うごめく背中の痛みは、気付かないフリ。
きんと冴えた交錯の音。二匹の竜の爪が鎬を削り、焔は空いた手で火球を放つ。翼の注意が逸れたその隙に焔は空高く舞い上がった。
眼鏡の奥の目が冷たく光る。両手の平は灼熱に染まる。羽根が、背中が、どくどくと脈打って痛む。
両手の炎は渦巻き、肥大化し、解け合わさり…産み落とされた大蛇が牙を剥いた。
「葬り去ってやる…!」
最大火力の"火炎放射"。
手加減無しのフルパワーだ。許さない、静葉に触れようとしたこの男だけは。怒りに呼応するように大蛇は駆け抜ける。喰い殺さんとその口を開く。
翼は為す術もなく呑まれた、ように見えた。
異質な気配に空を見上げ、焔が息を呑むのはその数瞬後。
「…"りゅうせいぐん"!!?」
翼が描いた、群青に輝く天空。そこから降り注いだのは無数の隕石だった。気付いた焔は心臓が凍った。隕石は地上に、即ち静葉に降り注がれているのだ!
焔の悲鳴は轟音に呑まれて消える。
見開いた橙の瞳が、網膜に焼きついた。
同時に羽根が、そして背後の空気がかっと熱を帯びる。羽根をつかんでいた男は慌てて飛び退った。
「"オーバーヒート"…!ちっ…!」
青い翼竜の男…翼<よく>は悪態をついて爪を振るう。解放された焔は鋭く翼を睨めつけた。発熱する両羽根を、威嚇するように大きく広げる。
もっと熱く。もっと熱く。オーバーヒートは緩めない。あの男を焼き殺すんだ。
その度うごめく背中の痛みは、気付かないフリ。
きんと冴えた交錯の音。二匹の竜の爪が鎬を削り、焔は空いた手で火球を放つ。翼の注意が逸れたその隙に焔は空高く舞い上がった。
眼鏡の奥の目が冷たく光る。両手の平は灼熱に染まる。羽根が、背中が、どくどくと脈打って痛む。
両手の炎は渦巻き、肥大化し、解け合わさり…産み落とされた大蛇が牙を剥いた。
「葬り去ってやる…!」
最大火力の"火炎放射"。
手加減無しのフルパワーだ。許さない、静葉に触れようとしたこの男だけは。怒りに呼応するように大蛇は駆け抜ける。喰い殺さんとその口を開く。
翼は為す術もなく呑まれた、ように見えた。
異質な気配に空を見上げ、焔が息を呑むのはその数瞬後。
「…"りゅうせいぐん"!!?」
翼が描いた、群青に輝く天空。そこから降り注いだのは無数の隕石だった。気付いた焔は心臓が凍った。隕石は地上に、即ち静葉に降り注がれているのだ!
焔の悲鳴は轟音に呑まれて消える。
見開いた橙の瞳が、網膜に焼きついた。
どれぐらい経っただろう。
瞑った目を開いた頃には、世界は静まり返っていた。
羽根から石の破片が落ちた。隕石の欠片だ。両の羽根は隕石から中を守るシェルターとして広げられている。
その中で、腕の中で抱きしめている大切な人。
焔はその人の名前を呼んだ。
「静…」
瞑った目を開いた頃には、世界は静まり返っていた。
羽根から石の破片が落ちた。隕石の欠片だ。両の羽根は隕石から中を守るシェルターとして広げられている。
その中で、腕の中で抱きしめている大切な人。
焔はその人の名前を呼んだ。
「静…」
ずる。
彼女は。
腕からずるりと、滑って、崩れて、落ちて、いっ、た。
腕が赤い。何かでべっとり赤い。そう、だから、彼女は滑ってしまった。
赤いぬめついた液体。
赤いぬめついた液体と彼女を、見る。
腕からずるりと、滑って、崩れて、落ちて、いっ、た。
腕が赤い。何かでべっとり赤い。そう、だから、彼女は滑ってしまった。
赤いぬめついた液体。
赤いぬめついた液体と彼女を、見る。
それが契機だった。
どくん、どく、どく、どくどくどくどくどくどくどく。
遠くにあった自分の心音。不規則に急加速して迫り来る。一対の自分の羽根。命じてもいないのにゆらりと羽ばたいた。
背中の血管が脈打つ。突然それは"成長"した。激しく脈音をかきならして焔を包み、その背の肉を割いて中をも侵した。
声があげられない。そこもすでに絡めとられている。骨が、臓腑が、神経が、瞬く間におぞましい根で蹂躙される。
来てしまったんだ。
恐れていたものが、今。
『…モウ、イイダロウ?』
ぞっと低く冷えた声が耳を侵した。その間も根は伸びて、焔を抱きしめる。
『ヤクブソク、ダッタネェ。』
…やめろ。
『サァ、"ヤクソク"ダ。』
やめろ、
『"キミ"ハ、』
やめ、
遠くにあった自分の心音。不規則に急加速して迫り来る。一対の自分の羽根。命じてもいないのにゆらりと羽ばたいた。
背中の血管が脈打つ。突然それは"成長"した。激しく脈音をかきならして焔を包み、その背の肉を割いて中をも侵した。
声があげられない。そこもすでに絡めとられている。骨が、臓腑が、神経が、瞬く間におぞましい根で蹂躙される。
来てしまったんだ。
恐れていたものが、今。
『…モウ、イイダロウ?』
ぞっと低く冷えた声が耳を侵した。その間も根は伸びて、焔を抱きしめる。
『ヤクブソク、ダッタネェ。』
…やめろ。
『サァ、"ヤクソク"ダ。』
やめろ、
『"キミ"ハ、』
やめ、
『此ヨリ "ワタシ" ダ。』
ぱきん。
破片が散った。落ちた眼鏡の、破片。
破片が散った。落ちた眼鏡の、破片。