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対峙

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mato4869

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対峙


「夢を、見たかったんです。」

彼に辛そうな顔をさせる自分が嫌いだった。
彼の名前すら呼べない自分が嫌いだった。
彼が懐かしそうに話してくれた思い出を
一つも理解れない自分が嫌いで嫌いで嫌いで

せめて夢の中ではあの子になりたかった。
彼との記憶を持つ "私<あの子>" になりたかった。

愚かで滑稽、不完全なキメラ。弱い器に強酸性の記憶。
耐えきれない器はみるみる溶けて自壊した。
弱くなり。脆くなり。守られなければすぐさま死んでしまう程儚くなり。
その結果、

私は酷いものを生み出してしまった。
酷いことを、してしまった。





目を覚ました静葉の言葉を、冥は黙して聞いていた。
その間もずっと、彼女の視線は眠る樹に注がれている。
此処は冥の住む家から少し離れた、別の廃墟だった。
今は…とても二人を家へ連れ込む訳にはいかなかった。それに彼女の話が本当なら、もうじき迫る大きな危険がある。
「焔…ですか。」
リザードン、と聞けばもう気づかないフリはできなかった。成長して姿は変わったが、彼ら二人はヒカトと、ミズハなのだろう。
今でも思い出せる、ひたむきで純真なヒトカゲの少年。
その記憶は、静葉が語る凄惨な事実とは、あまりにもかけ離れていた。
「…もうじき、焔は私達を追ってくる…。」
そして其処にいるみんなを殺すでしょう。静葉の目から、感情が死んでいた。
「そうなったら…逃げてください。できれば、樹を連れて。」
「貴女は?」
「私は…駄目。」
ぎゅっと薄汚れたワンピースを握りしめた。

「私がいる限り、焔は戦い続けてしまう、から。」

事実上の自殺宣言。冥は不愉快げに眉を寄せた。
「…あれだけ我々と戦い続けた貴女が、この程度で白旗ですか。」
「それは、あの子ができたこと。」
いかなる窮地も諦めず、革命に走り続けた少女。
「私じゃ、ないの。」
そう。
名前と記憶を貰っても、彼女には成れないのだ。
「貴女の命令など…受ける筋合いはない。立場をわきまえなさい。」
「…ふふ。」
突然無邪気に笑って、静葉は立ちあがった。
肩越しにそっと冥を振り返る。
「変なの…なんだか冥には似合わない言葉、だね。不思議、同じルワーレなのに。」
ふいに目が合う。冥は少したじろいだ。その目は冥の、変わってしまった所を的確に見抜いているようで。
オレンジの目は一瞬だけ、寂しげに細められ。
そのまま静葉は冥に背を向けた。廃墟の外へ歩きだす。
「待ちなさい、何処へ。」
「どこにも行かないよ。だから早く逃げて。」
「だから貴女もっ…」
「冥。」
彼女はもう振り返ることはなかった。

「聞こえる、よね。」

…ばさり。冥の耳でなくとも、その羽音は容易に聞き取れた。


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