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布陣

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布陣


たっと駆け抜ける鋭い風。
それを荒れ狂う暴風が追った。

樹は廃墟から距離を取るように走って逃げていた。
時には飛び上がって瓦礫に乗り、縦横無尽に逃げていく。
「ぎガ…ッ!」
樹の踏んだ瓦礫を片端から壊しながら、血眼でそれを追う焔。
どこに逃げようとこの羽根に追いつけない場所はない。爪も炎も振り回すその姿は化け物そのものだった。

お前さえ来なければ
お前さえ居なければ
お前さえ無くなれば
オ前ヲ殺セバ彼女ハ

樹は逃げることに専念していた。炎の避け方も逃げるルートも正確だ。それが尚更焔の怒りに火をつける。放つ火の玉が雨のように降り注ぐ。
その一つが樹の進もうとしてた瓦礫を壊した。さすがに樹の足がたじろぐ。
焔はその一瞬を見逃さなかった。
振り向く隙も、判断させる隙も与えない。

切り裂いた。

肩から足まで袈裟切りに、真っ二つに切り裂いた。
「―――ッ!」
零れそうなほど金眼が見開かれた。声も出ない。口からも身体からも血が迸った。
もはやただの肉となった二つが、重力に従い落ちていく。
焔は振り抜いた右手から、ぞくりと何かが伝わるのを感じていた。
口端が、歪に吊り上がる。ついに、ついに、この手で。







「…くく。」
どろり。
「けた、た。」
樹が、融解する。

「―――やっと会えたネェ、ヒカトv」

驚いて固まる焔の後ろで、冥が叫んだ。
「『じゅうりょく』!」
刹那、飛んでいたはずの焔が落下した。
訳もわからないまま焔は起きようともがく、が身体が重たくて叶わない。強い力で地面に押しつけられる。
焔の目の前では樹だったモノが別の形に作り変わり、にやにやと笑みを浮かべていた。焔に瓜二つな紫の青年…アノニマス
樹に化けた、囮<メタモン>。気づいても焔は呆然とする他なかった。まさかアノニマスが此処にいるなんて。
冥は重力の効果を確認すると目を閉じて念じた。足元に赤く光る魔法陣が浮かぶ。『トリックルーム』だ。その後ろに控えていた鉄がおずおずと尋ねた。
「冥…ほんとに大丈夫なん?俺様荒っぽいことからきしよ?」
「大丈夫、だと祈りましょう。…アノニマス。」
「はぁーい。」
再びアノニマスの姿が書き代わり始めた。
「けたた…ヒカトってばホントにおばかサンvひっかかっちゃったーv」
「グ…がガ…ッ」
「ヘンなものいっぱい入っちゃってるけどォ、やっぱりヒカトだネェ。詰め、あまァいよ?」
言い終える頃には変身が終わっていた。
大きな耳に丸い眼鏡の青年。一見するとそれは紅そっくりだが、白衣を着ていて髪も青い。
アノニマスはにたりと笑い、その爪を長く伸ばした。
「…ねェ、ヒカト。僕と遊ボウ?」

ヨノワールの冥、ボスゴドラの鉄、カビゴンの力を得たアノニマス。これが今の精いっぱいの布陣。
冥は祈る気持ちで焔を睨んだ。
どうか、全てうまくいきますように。


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