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忘れ形見

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匿名ユーザー

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忘れ形見


だんっ、と何かが廃墟に打ちつけられた。

「ッ!?」
廃墟にいた全員が目を瞠った。二人が止めるより速く静葉が外へ飛び出す。
そこにいたのは、遠くから壁まで吹き飛ばされた冥だった。
「冥っ!大丈夫…!?」
「う…平気、です。」
痛みはない、が頭を打ったようで視界が眩んでいた。その身体がふっと宙に浮く。
焔が冥の首を掴んで持ち上げたからだ。
「っぐ…!」
「冥っ、焔っ!」
「(…其処を退けッ!)」
静葉を押し退けて飛び出したのは風だった。まだ重力も効いてる中、渾身の力で切りかかる。
剣は腕を這う血管で止められた。煩わしそうに焔が睨む。
冥を離して右手を空けると、そのまま風に向ける。瞬時に風の身体は業火に包まれた。
「風…ッ!」
火傷で倒れる風を前に、静葉はなにもできない。焔の目が次の獲物と合う。
それは冥と静葉をかばうように、両手を広げる紅だった。
「こ…う。」
やめて、おねがいやめて。かたかたと震える喉。紅は無言のまま、退こうとはしなかった。焔が振りかざす爪がスローモーションに迫る。
震えを堪えて体育座りをしていた姿を思い出す。戦う術は持ってないはずだ。
私と同じ、弱い子のはずなのに。
そんな子にまで守らせて、そんな子すら殺させてしまうの?
私が、私があまりにも弱いばっかりに。
「いや…。」
震える喉が、絞りだす。

嫌だ。

人が死んでいく惨状を
人を殺させていく惨状を
人を失っていく惨状を
静葉は初めてその"存在"を認めて
逃げることもできないくらいまっすぐ直面して
嫌だ、と叫んだ。

栞、薫、樹、冥、

鉄、紅、風、青、翠、翼、

焔。



傷つけるのは 嫌。



肉を貫く確かな音と感触。
宙に弧を描く大量の鮮血。
大きく見開かれたのは赤色の瞳と
他でもない、緑色の瞳だった。

串刺しの静葉を、前にして。














*

霞の中で静葉を呼びとめる声がした。
繰り返し。繰り返し。繰り返し呼びとめる。
光のように綺麗な声。なのにとても必死に、何度も何度も。

彼女の言葉は聞き取れない。聞いたこと、あるはずの声だけれど。
どうしてこっちじゃいけないのだろう。足を止めながらも考える。
これでいいはず。こっちで合ってる。
だって私が此処にいたって、誰も幸せにならないよ。

霞が徐々に晴れ始めた。
不意に気付く。これは夢で見ていた霞だと。
徐々に晴れる霞。髪色だけが認識できる。いつもならここで夢の終わり。
けれど今日はまだ終わらなかった。
霞が晴れていく。姿が現れていく。肩口の水色の髪、薄汚れた白衣、大きな丸眼鏡。
優しい黒の瞳。
静葉は息を呑んで魅入っていた。
どうして今まで忘れていたんだろう。
それは何よりも、何よりも、何よりも、大切な記憶。



『みぃもしぃも居てくれることが、お父さん達の幸せなんだよ。』


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