a survivor.6
それが、
時狩りと並んで語り継がれる、二つ目の悪魔の所業
『同族狩り』
だった。
時狩りと並んで語り継がれる、二つ目の悪魔の所業
『同族狩り』
だった。
ディアルガに仇なす者と、同じ種族の者を全て処刑する。
ただ普通に暮らしていても、流れる血によって処刑されることがあり得る。
この報せに民衆は戦慄し、同種族を激しく警戒する風潮が生まれた。
それこそが…赤い瞳の思う壺だと、気づかぬまま。
以降、反逆者の数は格段に減った。
団結していた革命軍も、ただ胸の内を探り合う群れとなり果てた。
最高492回執行可能な処刑。
実際に行われたのは、後にも先にも1回きりだった。
ただ普通に暮らしていても、流れる血によって処刑されることがあり得る。
この報せに民衆は戦慄し、同種族を激しく警戒する風潮が生まれた。
それこそが…赤い瞳の思う壺だと、気づかぬまま。
以降、反逆者の数は格段に減った。
団結していた革命軍も、ただ胸の内を探り合う群れとなり果てた。
最高492回執行可能な処刑。
実際に行われたのは、後にも先にも1回きりだった。
この日、大陸から、"ジュプトル"が絶滅した。
「…入りますよ。」
形だけのうかがいをたててルワーレは少女の部屋に入った。
それなりに調度品の整った、清潔感のある部屋。椅子にかけている少女は窓の外を見ていたが、緩慢に視線をルワーレへと向けた。
「…終わった、みたいね。」
「えぇ、御苦労さまでした。あれだけの人数を大陸全土から探しだすのは大変だったでしょう。」
黙する、少女。男は尚も続けた。
「ありがとうございます。貴女がいなくては、あの処刑は実行できませんでした。」
…青い前髪が、少女の目を覆う。
引き結んでいた口元を、ゆっくりと開いた。
「…駒ですから。」
「…くく、殊勝なことで…。」
ルワーレは愉しそうに、嗜虐を込めた目で見やる。
「窓からちゃんと見えました?なかなか…いい見世物でした。貴女は気になりませんか?"処刑"を受けた哀れな男のこと。」
「………。」
「その男…考古学者、だそうですよ。」
全てわかった上で、この男は言っている。
少女は窓に目を向けて、別に、と言った。
「…"犠牲者"に、興味はないから。」
背後から蛇のようにねとつく笑い声が聞こえても
少女は聞こえない振りをした。全部全部、聞こえない振りをした。
「…くくくく、やはり貴女は面白い。ひとつ教えてあげましょうか…あの男は、殺しませんよ。」
少女は、振り向いた。黒い目でじっとルワーレを見る。
ルワーレはもったいぶるように背を向けて、背後の扉を押しあけた。
「脅威になりうる古代遺跡はまだまだある…あの男の知識は、有用なんですよ。」
少女の眉間が、かすかに顰められた。痛みをこらえる顔にも似て。
それに…と、ルワーレは目だけで少女を見やった。
形だけのうかがいをたててルワーレは少女の部屋に入った。
それなりに調度品の整った、清潔感のある部屋。椅子にかけている少女は窓の外を見ていたが、緩慢に視線をルワーレへと向けた。
「…終わった、みたいね。」
「えぇ、御苦労さまでした。あれだけの人数を大陸全土から探しだすのは大変だったでしょう。」
黙する、少女。男は尚も続けた。
「ありがとうございます。貴女がいなくては、あの処刑は実行できませんでした。」
…青い前髪が、少女の目を覆う。
引き結んでいた口元を、ゆっくりと開いた。
「…駒ですから。」
「…くく、殊勝なことで…。」
ルワーレは愉しそうに、嗜虐を込めた目で見やる。
「窓からちゃんと見えました?なかなか…いい見世物でした。貴女は気になりませんか?"処刑"を受けた哀れな男のこと。」
「………。」
「その男…考古学者、だそうですよ。」
全てわかった上で、この男は言っている。
少女は窓に目を向けて、別に、と言った。
「…"犠牲者"に、興味はないから。」
背後から蛇のようにねとつく笑い声が聞こえても
少女は聞こえない振りをした。全部全部、聞こえない振りをした。
「…くくくく、やはり貴女は面白い。ひとつ教えてあげましょうか…あの男は、殺しませんよ。」
少女は、振り向いた。黒い目でじっとルワーレを見る。
ルワーレはもったいぶるように背を向けて、背後の扉を押しあけた。
「脅威になりうる古代遺跡はまだまだある…あの男の知識は、有用なんですよ。」
少女の眉間が、かすかに顰められた。痛みをこらえる顔にも似て。
それに…と、ルワーレは目だけで少女を見やった。
「ああなれば、死んだも同然でしょう?」
…ぱたん。扉が、沈黙した。
リヒルト・シュテンバーグ、貴方は生かしてあげましょう。
その代わり、貴方はこれから我々の管理下に置かせていただきます。
逃亡も自殺も、許可しません。許可していない行動は、とらせません。
貴方はただ、我々の命じるままに
その代わり、貴方はこれから我々の管理下に置かせていただきます。
逃亡も自殺も、許可しません。許可していない行動は、とらせません。
貴方はただ、我々の命じるままに
ディアルガ様の、駒となればよいのです。
5日間、返事の猶予を与えられた。
その5日間は痺れ粉漬けで、人形のように牢に横たわっていた。首も手首も切れないように、舌を噛み切ることがないように。
全ての自由を奪われた状態で、動かせるのは脳だけ。
文字通り、考えるためだけの5日間だった。
その5日間は痺れ粉漬けで、人形のように牢に横たわっていた。首も手首も切れないように、舌を噛み切ることがないように。
全ての自由を奪われた状態で、動かせるのは脳だけ。
文字通り、考えるためだけの5日間だった。
(…師匠。)
喋れない口の代わりに、頭の中で。
(師匠。)
喋れない口の代わりに、頭の中で。
(師匠。)
師匠。
俺はどこから間違ったのでしょうか。
俺はどこから間違ったのでしょうか。
遺跡を発掘したことでしょうか。
考古学者になったことでしょうか。
考古学を学び始めたことでしょうか。
貴方に出会ったことでしょうか。
考古学者になったことでしょうか。
考古学を学び始めたことでしょうか。
貴方に出会ったことでしょうか。
生まれてきたことでしょうか。
"ジュプトル"の血で、生まれてきたことでしょうか。
『―――ねぇ、リヒ。』
あれ、師匠の声だ。
何故だろうと思ったが、それは記憶の中の師匠の声だと気づいた。
あれ、師匠の声だ。
何故だろうと思ったが、それは記憶の中の師匠の声だと気づいた。
『もし、世界を危機に陥れる力を持って生まれたら、君はどうする?』
確かまだ、学者になりたてだった頃、師匠が言った言葉だった。
『え…危機って、どんな?』
『危機は危機だよ、大ピンチ。自分のせいで世界が大ピンチになっちゃうんだよ。』
『それは…。』
リヒルトは想像し、目を曇らせる。
『俺なら、死にたくなりますね。』
『…そうだね。私もそう思うよ。』
その時師匠に浮かんだのは、事実を冷静に分析する目と、少し悲しげな微笑。
『きっとそれが、"正義"というやつだ。』
その後師匠はわずかに沈黙した。
一体何があったんだろう。そう思ったリヒルトが戸惑った時、よしっと師匠は顔をあげた。
『リヒ、私は悪になるよ。』
世界を危機に陥れる人を、私は全力で愛して、全力で守りぬく。
そういう悪に、私はなるよ。
『え…危機って、どんな?』
『危機は危機だよ、大ピンチ。自分のせいで世界が大ピンチになっちゃうんだよ。』
『それは…。』
リヒルトは想像し、目を曇らせる。
『俺なら、死にたくなりますね。』
『…そうだね。私もそう思うよ。』
その時師匠に浮かんだのは、事実を冷静に分析する目と、少し悲しげな微笑。
『きっとそれが、"正義"というやつだ。』
その後師匠はわずかに沈黙した。
一体何があったんだろう。そう思ったリヒルトが戸惑った時、よしっと師匠は顔をあげた。
『リヒ、私は悪になるよ。』
世界を危機に陥れる人を、私は全力で愛して、全力で守りぬく。
そういう悪に、私はなるよ。
だって私は、その人に生きていて欲しいんだ。
5日後の朝、連れられた男は手枷も足枷も外されていた。
血のように赤い絨毯の敷かれた丸い部屋で、ルワーレが慇懃に微笑む。
「おはようございます。ゆっくり休めました?」
男は黙したまま、動かずに直立していた。視線は床に落としていて、茶緑の前髪が金の目を隠している。
ルワーレはヤミラミ達にちらりと目くばせする。男を連れてきたヤミラミ達は、さっと男から距離を取った。
けれど身構えは油断がない。男が不審な行動を取れば、すぐに取り押さえるよう命じている。
「…さて、返事を聞かせていただきましょうか。」
「リヒルト・シュテンバーグ。私達の、駒となりなさい。」
…男は、視線を上げなかった。
その代わり、一歩、一歩。ルワーレへと歩を進める。ヤミラミ達が爪の構えをした。
けれど男は、想定外の行動を取った。
血のように赤い絨毯の敷かれた丸い部屋で、ルワーレが慇懃に微笑む。
「おはようございます。ゆっくり休めました?」
男は黙したまま、動かずに直立していた。視線は床に落としていて、茶緑の前髪が金の目を隠している。
ルワーレはヤミラミ達にちらりと目くばせする。男を連れてきたヤミラミ達は、さっと男から距離を取った。
けれど身構えは油断がない。男が不審な行動を取れば、すぐに取り押さえるよう命じている。
「…さて、返事を聞かせていただきましょうか。」
「リヒルト・シュテンバーグ。私達の、駒となりなさい。」
…男は、視線を上げなかった。
その代わり、一歩、一歩。ルワーレへと歩を進める。ヤミラミ達が爪の構えをした。
けれど男は、想定外の行動を取った。
男は、ルワーレの足元に跪いたのだ。
「…"私"は、誓いましょう。」
これまで得てきた知識・技術、全てディアルガ様の為に使うことを。
行動の全て、思想の全てを、全てディアルガ様の命に準じることを。
この身とこの身に内包する全てを、ディアルガ様の駒として
ディアルガ様に、そしてルワーレ様に、惜しまず捧げることを。
「―――けれど、」
黄金の瞳が、ルワーレを映した。
「私は、リヒルト・シュテンバーグではない。」
これまで得てきた知識・技術、全てディアルガ様の為に使うことを。
行動の全て、思想の全てを、全てディアルガ様の命に準じることを。
この身とこの身に内包する全てを、ディアルガ様の駒として
ディアルガ様に、そしてルワーレ様に、惜しまず捧げることを。
「―――けれど、」
黄金の瞳が、ルワーレを映した。
「私は、リヒルト・シュテンバーグではない。」
「"私"の名前は…"ジュプトル"だ。」
真っ直ぐな金色の光は、まるで邪悪な赤眼を射抜かんとするかのように。
驚いたような絶句の後…ルワーレは肩を震わせて、笑った。
「…くくっ…はははははははっ!成程、成程、そうきましたか…。」
なんて気違いな趣味だろう。この男も、あの少女も。
まるで生ける屍。いいや、もっとタチが悪い。自ら屍であろうとする、醜き生者。
けれど。愉悦に歪む、右目。
実に…私好みの、愚かしさ。
「…いいでしょう。」
不気味に浮かぶ右の腕が、跪いた男へと差し出された。
驚いたような絶句の後…ルワーレは肩を震わせて、笑った。
「…くくっ…はははははははっ!成程、成程、そうきましたか…。」
なんて気違いな趣味だろう。この男も、あの少女も。
まるで生ける屍。いいや、もっとタチが悪い。自ら屍であろうとする、醜き生者。
けれど。愉悦に歪む、右目。
実に…私好みの、愚かしさ。
「…いいでしょう。」
不気味に浮かぶ右の腕が、跪いた男へと差し出された。
「ようこそ、"ジュプトル"…貴方に神の加護があらんことを。」
大陸にそびえたつ、次元の塔。
そこに住まうのは、狂った神の王と
側近のルワーレ、無数のヤミラミ達、時の巫女である少女
そして
制圧の為の地図を描く、悪魔の手先の考古学者。
そこに住まうのは、狂った神の王と
側近のルワーレ、無数のヤミラミ達、時の巫女である少女
そして
制圧の為の地図を描く、悪魔の手先の考古学者。