仁科学タイガー【魔女とコルク抜き】
いつも通りのはずだった。
お気に入りの窓際の席で、差し込む日の光を背中にし、器用に椅子に体育座りをして本を読んでいた。
このまま、下校のチャイムが鳴るまで、静かに本を読んでいる。そのはずだった。
お気に入りの窓際の席で、差し込む日の光を背中にし、器用に椅子に体育座りをして本を読んでいた。
このまま、下校のチャイムが鳴るまで、静かに本を読んでいる。そのはずだった。
黒金亜子は、目の前に立つ人物に気づいて、本を読み進めるのをぴたりと止めた。
誰だろうと思い、視線を上にずらして顔を覗くと、そのまま固まってしまった。
誰だろうと思い、視線を上にずらして顔を覗くと、そのまま固まってしまった。
魔女の一撃。
一瞬で動きは封ぜられ、もはや視線をそらす事すら許されない。ただ、じっと目の前の魔女を見るほか出来ない。
一瞬で動きは封ぜられ、もはや視線をそらす事すら許されない。ただ、じっと目の前の魔女を見るほか出来ない。
向こうは亜子の目をじっと見て、腰に手を当て、反対の手で自分の顎をさすりながら、しげしげと亜子を観察していた。
おそらく背中を覆い尽くしているであろう、長い黒髪は、窓から差し込む光を反射し、僅かに動くたびにきらきらと輝いてみせた。着やせするタイプなのだろうか、制服の胸のボタンは僅かな緊張を強いられる程度に引っ張られ、僅かながらボディラインを現した。
しかし、すらっと長い手足は、決して彼女がグラマーな体型だとは言っていない。全体の雰囲気は、繊細でスマートな印象を与えるには十分だった。
結果、亜子は目の前の魔女が、途方もなく綺麗な身体であろうと結論づけた。
出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んで。
良くも悪くも「平均」のさらに平均的な体格の亜子は、それを素直に憧れとして捉えた。
おそらく背中を覆い尽くしているであろう、長い黒髪は、窓から差し込む光を反射し、僅かに動くたびにきらきらと輝いてみせた。着やせするタイプなのだろうか、制服の胸のボタンは僅かな緊張を強いられる程度に引っ張られ、僅かながらボディラインを現した。
しかし、すらっと長い手足は、決して彼女がグラマーな体型だとは言っていない。全体の雰囲気は、繊細でスマートな印象を与えるには十分だった。
結果、亜子は目の前の魔女が、途方もなく綺麗な身体であろうと結論づけた。
出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んで。
良くも悪くも「平均」のさらに平均的な体格の亜子は、それを素直に憧れとして捉えた。
しばらく観察を続けていた魔女は、腰に手をやったまま前かがみになり、亜子の顔面に自分の顔を近付けて、さらにじろじろと目を覗いてくる。
切れ長の目の真ん中にある深い黒の瞳は、亜子を串刺しにして逃すまいと、見えない魔法の杭を打ち込んで来る。動けない。
切れ長の目の真ん中にある深い黒の瞳は、亜子を串刺しにして逃すまいと、見えない魔法の杭を打ち込んで来る。動けない。
亜子は、顔と顔を思い切り近付けてじろじろ観察され、恥ずかしいや何やらと、困惑した表情で頬を紅潮させ、大きな目をさらに見開いた。
じっと亜子を見つめる本棚の魔女、文芸部部長の霧崎は、「ふむふむ」となにやら納得した声を出して、まだ、じろじろと亜子の目を覗き込んでいた。
じっと亜子を見つめる本棚の魔女、文芸部部長の霧崎は、「ふむふむ」となにやら納得した声を出して、まだ、じろじろと亜子の目を覗き込んでいた。
小咄:【魔女とコルク抜き】
「あ……あの」
亜子は動けないまま、何とか声を振り絞った。
「ふむ」
「えっと……その……」
「なるほど」
「えっと……その……」
「なるほど」
すーっと、霧崎は顔を離して行く。今だ硬直したままの亜子は、黙ってそれを見る。
腰に手を当てたままにまっすぐ立った霧崎は切れ味抜群な程に整った顔の口角を僅かに上げ、ちょっと意地悪そうに微笑んだ。
腰に手を当てたままにまっすぐ立った霧崎は切れ味抜群な程に整った顔の口角を僅かに上げ、ちょっと意地悪そうに微笑んだ。
「なるほど。理解した」
「……は?」
「間違いないだろう。ああ、初めまして、私が霧崎さんだ」
「はぁ」
「……は?」
「間違いないだろう。ああ、初めまして、私が霧崎さんだ」
「はぁ」
知っている。
知らないはずなどないのだ。
この膨大な人口を誇る仁科学園に於いて、霧崎は目立つ人物の一人なのだから。
文芸部の部長で、本棚の魔女の異名を取る、長い黒髪の美女。図書館に出入りしていれば、嫌でも目に入る。
知らないはずなどないのだ。
この膨大な人口を誇る仁科学園に於いて、霧崎は目立つ人物の一人なのだから。
文芸部の部長で、本棚の魔女の異名を取る、長い黒髪の美女。図書館に出入りしていれば、嫌でも目に入る。
「君は実に解りやすい」
霧崎は、亜子を指差して言う。一言一言が様になり、得も言われぬ尊厳を孕んでいる。ともすれば高圧的にも見えるが、全体の雰囲気はあくまで穏やかで、透明感のある気配を纏っているためか、そうは見えない。
あくまでも、優美な佇まいだった。
あくまでも、優美な佇まいだった。
「私には分かるぞ。君は今まさに、青春を謳歌している真っ最中なのだ、と」
椅子に座っていた亜子は、まるで霧崎の指先から見えない鎖が飛び出して、自分を雁字搦めにしているような、そんな気分だった。
唯一出来た動作は、椅子の上での器用な体育座りをやめ、普通に座り直す事くらいだ。それ以降は、またかっちりと固まってしまった。
唯一出来た動作は、椅子の上での器用な体育座りをやめ、普通に座り直す事くらいだ。それ以降は、またかっちりと固まってしまった。
「良い物だろう。きっと君の心の中は膨れ上がる期待と、ちょっとした不安。そして言葉にならない幸福感で満ちているだろう。ともすれば、それは君の心を深く傷つけるかもしれない。君もそのリスクは十分に理解しているだろう。
だが止められない。君を止められる者など居やしない。そんなもの、今の君には無力に等しいのだ」
だが止められない。君を止められる者など居やしない。そんなもの、今の君には無力に等しいのだ」
霧崎はまるで、多くの民衆に語りかける演説のような、尊大な口調で語っている。たった一人、亜子に向けてだ。
ぽかんと見ている亜子に、霧崎はさらに言う。
ぽかんと見ている亜子に、霧崎はさらに言う。
「さぁ、君自身はそれを自覚しているのか?」
びしっと、再び指先に力を込めたような動作をして、霧崎は言葉を切った。
「……え? あの……どういう事ですか?」
「ふふん。恥ずかしがる事は無いぞ。誰しも通る道。人はそれを経験し、時には喜び、時には傷つく。そして、成長する。君は今まさに、成長している真っ最中なのだよ。成長期とは身体だけではない。心も成長するのだ。だから、多くの者はその時期それを経験するのだ」
「あの……何の話か……」
「ふふん。恥ずかしがる事は無いぞ。誰しも通る道。人はそれを経験し、時には喜び、時には傷つく。そして、成長する。君は今まさに、成長している真っ最中なのだよ。成長期とは身体だけではない。心も成長するのだ。だから、多くの者はその時期それを経験するのだ」
「あの……何の話か……」
ぽかんとした亜子は、堂々と語る霧崎の発言についていけない。
おそらく、とても重要な事を言ってそうな気はする。が、一体それが何なのか、さっぱり解らない。すると、今度は霧崎がさらなる行動に出た。
おそらく、とても重要な事を言ってそうな気はする。が、一体それが何なのか、さっぱり解らない。すると、今度は霧崎がさらなる行動に出た。
再び前かがみになって、また鼻と鼻がくっつきそうなくらいに顔を近付けて、亜子の頬に両手を添えた。
その手は冷たく、細い指はしっとりと、亜子の頬に吸い付いた。
まだ動けない亜子は、やっぱり固まったまま、また至近距離で目と目を合わせ、緊張からか顔を強張らせ、頬を赤くする。
無意味に体温が上がり、心臓の鼓動が早くなるのを、亜子自身が感じていた。
その手は冷たく、細い指はしっとりと、亜子の頬に吸い付いた。
まだ動けない亜子は、やっぱり固まったまま、また至近距離で目と目を合わせ、緊張からか顔を強張らせ、頬を赤くする。
無意味に体温が上がり、心臓の鼓動が早くなるのを、亜子自身が感じていた。
「受け入れる事が大事だぞ、少女よ」
目の前で、本当に目の前で霧崎は言う。
今度は穏やかで、諭すような優しい声だ。
完璧に計算されて作られたかのような綺麗な顔の口元に僅かに微笑みを含ませて、亜子をじっと見ている。
そして、また魔女の一撃を放った。
今度は穏やかで、諭すような優しい声だ。
完璧に計算されて作られたかのような綺麗な顔の口元に僅かに微笑みを含ませて、亜子をじっと見ている。
そして、また魔女の一撃を放った。
「君は今、恋をしているね?」
はぁ!?!? え? ええ!?
と、亜子は素っ頓狂な声を出して、元から赤い頬をこれまたさらに真っ赤に染めて、大きな目はさらに大きく開いて、口はどんな言葉を吐いていいかわからず、かといって閉じている事も出来ずに。
霧崎が放った魔女の一撃は、亜子の心を無意味にかき乱すには十分な威力があった。
と、亜子は素っ頓狂な声を出して、元から赤い頬をこれまたさらに真っ赤に染めて、大きな目はさらに大きく開いて、口はどんな言葉を吐いていいかわからず、かといって閉じている事も出来ずに。
霧崎が放った魔女の一撃は、亜子の心を無意味にかき乱すには十分な威力があった。
「どうなんだね? 心当たりはあるだろう?」
「いや! ……その、無いですけど、その……」
「おや、それは本当かな?」
「うわ、えっと、その……」
「いや! ……その、無いですけど、その……」
「おや、それは本当かな?」
「うわ、えっと、その……」
霧崎はまた、ちょっと意地悪そうに微笑んでいる。
そして亜子は、真っ赤な頬でたっぷり困惑した表情のまま、霧崎の手を払いのけて、
そして亜子は、真っ赤な頬でたっぷり困惑した表情のまま、霧崎の手を払いのけて、
「ししし、失礼しますッ」
立ち上がった。なんとか魔女の呪縛を振り払って、自力で。
そして、慌ててその場から駈け出した。走って図書館から出て行く姿を、霧崎は眺めている。
よほど大急ぎだったのだろうか、短いスカートは思いきり風で舞い上がり、後ろから見れはパンツが丸見えな有様だ。
霧崎は、満足そうにそれを眺める。動きを止める魔法は途中で解かれたが、呪いはたっぷりかかっている。しばらくは、亜子の心をおもちゃ箱をひっくり返したような状態にしているだろう。
そして、慌ててその場から駈け出した。走って図書館から出て行く姿を、霧崎は眺めている。
よほど大急ぎだったのだろうか、短いスカートは思いきり風で舞い上がり、後ろから見れはパンツが丸見えな有様だ。
霧崎は、満足そうにそれを眺める。動きを止める魔法は途中で解かれたが、呪いはたっぷりかかっている。しばらくは、亜子の心をおもちゃ箱をひっくり返したような状態にしているだろう。
また、ちょっと意地悪そうに微笑んだ。
※
「ふふ」
腕を組んで、霧崎は満足気な表情で静かに微笑んだ。
普段からの悪いクセ。相手次第では、霧崎のそれは大変な威力を発揮してしまうのだ。
普段からの悪いクセ。相手次第では、霧崎のそれは大変な威力を発揮してしまうのだ。
「少し、やりすぎたかな?」
呟いて、本棚の間を移動していく。自身より遥に背の高い本棚は、静かな威圧感と心地よい程度の圧迫感、そして、印刷のインクと紙の香りを放っている。
その間を、霧崎は優美に歩いている。
その間を、霧崎は優美に歩いている。
これ以上ない程に様になる画ではあるが、それ故に異物が在れは簡単に雰囲気はぶち壊しにされる。
霧崎はぱたりと足を止めて、一瞬だけびくりと肩を震わして髪を乱れさせた。本棚に納められた本の、ほんの僅かな上のスペース。それが居た。
霧崎はぱたりと足を止めて、一瞬だけびくりと肩を震わして髪を乱れさせた。本棚に納められた本の、ほんの僅かな上のスペース。それが居た。
「いけません、いけませんなぁ霧崎様」
_ノ乙(、ン、)_
↑こんな感じで、黒鉄懐が本棚の隙間に挟まっていた。
普通なら大声出しても仕方ない程に奇怪な状況だが、霧崎はあくまで一瞬びっくりしただけ。
さすが霧崎、なんでもないぜ!
普通なら大声出しても仕方ない程に奇怪な状況だが、霧崎はあくまで一瞬びっくりしただけ。
さすが霧崎、なんでもないぜ!
「お前はなぜそんなところに挟まっているのだ」
「細かい事は気にしちゃいけません」
「細かい事は気にしちゃいけません」
隙間に詰まった懐はのほほんとした口調で言う。
さしもの霧崎もそれ以上突っ込んではいけない気がした。
さしもの霧崎もそれ以上突っ込んではいけない気がした。
「その悪い趣味、やめた方がいいですよ霧崎様」
「様は止めろ」
「亜子はねぇ、良くも悪くも影響されやすいっていうか、簡単に思い込みをしてしまうって言うか、あんな事言ったらホントに誰か好きになっちゃいますよ」
「なんだ見てたのか」
「一部始終」
「最初から?」
「最初から」
「私がお前の妹だと気付いていたの、知っていたのか?」
「そりゃもちろん」
「意外だな。お前が図書館に居るなんて」
「俺も本くらい読みますよ。はだしのゲンにブラックジャックによろしくに火の鳥に……」
「全部マンガじゃないか」
「とにかく、亜子をからかうのは止したほうがいいですよ」
「何故だ? 妹がそんなに心配か?」
「むしろ周りが心配ってか、性格の割に口より先に手が出るタイプっていうか……」
「なんだそれは」
「とにかく、人をからかって遊ぶクセは良くないですよ。性悪でひん曲がった趣味してんだからもう。そんな綺麗な顔して怖い人!」
「褒めてるのかけなしてるのか」
「両方です」
「そうか両方か。……ってコラ」
「冗談です」
「ふん。そういうお前も、脳天気なクセに妹が心配なようだな」
「そりゃもう」
「おや、意外とあっさり認めたな」
「周りが心配です。亜子が心をかき乱してうっかり手を出したら……」
「気にし過ぎだろう。お前にまったく似てなくて、あんな可愛い子じゃないか」
「ばかやろう。死人が出るぞ」
「は?」
「とにかく、亜子からかうのはこれっきりにして下さい。心労が絶えません」
「心労って」
「それはそうと霧崎様、今度デートしません?」
「誘ってくれてありがとう。超断る」
「さすが霧崎、なんでもないぜ!」
「様は止めろ」
「亜子はねぇ、良くも悪くも影響されやすいっていうか、簡単に思い込みをしてしまうって言うか、あんな事言ったらホントに誰か好きになっちゃいますよ」
「なんだ見てたのか」
「一部始終」
「最初から?」
「最初から」
「私がお前の妹だと気付いていたの、知っていたのか?」
「そりゃもちろん」
「意外だな。お前が図書館に居るなんて」
「俺も本くらい読みますよ。はだしのゲンにブラックジャックによろしくに火の鳥に……」
「全部マンガじゃないか」
「とにかく、亜子をからかうのは止したほうがいいですよ」
「何故だ? 妹がそんなに心配か?」
「むしろ周りが心配ってか、性格の割に口より先に手が出るタイプっていうか……」
「なんだそれは」
「とにかく、人をからかって遊ぶクセは良くないですよ。性悪でひん曲がった趣味してんだからもう。そんな綺麗な顔して怖い人!」
「褒めてるのかけなしてるのか」
「両方です」
「そうか両方か。……ってコラ」
「冗談です」
「ふん。そういうお前も、脳天気なクセに妹が心配なようだな」
「そりゃもう」
「おや、意外とあっさり認めたな」
「周りが心配です。亜子が心をかき乱してうっかり手を出したら……」
「気にし過ぎだろう。お前にまったく似てなくて、あんな可愛い子じゃないか」
「ばかやろう。死人が出るぞ」
「は?」
「とにかく、亜子からかうのはこれっきりにして下さい。心労が絶えません」
「心労って」
「それはそうと霧崎様、今度デートしません?」
「誘ってくれてありがとう。超断る」
「さすが霧崎、なんでもないぜ!」
霧崎は、最後にもう一度、本棚に挟まる懐に聞いてみた。
「ところで、お前はなぜそんなところに挟まっているのだ?」
「細かい事は気にしちゃいけません」
「細かい事は気にしちゃいけません」
※
その頃、ばたばたと廊下を走る亜子は、顔を真っ赤にしてなんとか平常心を取り戻そうと躍起になっていた。
霧崎の放った言葉はもちろんただの悪戯に過ぎないが、多感な時期真っ最中な上にあらゆる意味で素直な亜子。心中穏やかなはずは無く。
どたどたと廊下を走って、ごちゃごちゃになった思考を整理しようと頑張っている。
霧崎の放った言葉はもちろんただの悪戯に過ぎないが、多感な時期真っ最中な上にあらゆる意味で素直な亜子。心中穏やかなはずは無く。
どたどたと廊下を走って、ごちゃごちゃになった思考を整理しようと頑張っている。
「あいたっ!」
誰かとぶつかった。
考え事しながらでは、周りに払う注意力も下がる物。
亜子は、誰かと思い切りぶつかって、派手に尻もちをついてしまう。
考え事しながらでは、周りに払う注意力も下がる物。
亜子は、誰かと思い切りぶつかって、派手に尻もちをついてしまう。
「いたた……。ごめんなさい……」
「……またお前っスか」
「……またお前っスか」
ぶつかった相手の声を聞いて、亜子はがばっと顔をあげる。相手の顔を見る。また、顔を真っ赤にする。
ある意味で因縁の相手がそこにいた。
ある意味で因縁の相手がそこにいた。
「しししししししし省君んん!?」
小型省が居た。
「テンパり過ぎっす」
省はうんざりと言った表情だ。以前、亜子にパンツ見えてますよと善意から注意したら、それ以来パンツ覗き魔と勘違いされて久しい省は、亜子と遭遇するとげんなりするらしい。
おまけに、省は亜子の正体を知る数少ない人物でもあるのだ。
おまけに、省は亜子の正体を知る数少ない人物でもあるのだ。
「……いつまで尻もちついてるんスか。またパンツ丸見えっす……」
げんなりした感じで言う。
「……ま、ままままた覗いた! エッチ! スケベ!」
「見たくて見たわけじゃないっス。だいたいそんな短いスカートじゃ見えても仕方ないっス……」
「省君のバカ!」
「見たくて見たわけじゃないっス。だいたいそんな短いスカートじゃ見えても仕方ないっス……」
「省君のバカ!」
自分のスカートを押さえながら立ち上がる。恥ずかしいのか、心臓をドキドキさせて省を睨む。
「お前はもっと注意力を養うべきっス」
「省君に言われたくないもん」
「なんで? だいたい君じゃなくて省先輩ッスよね。常識的に考えて……」
「う……うるさいよッ! この覗き魔……はッ!?」
「省君に言われたくないもん」
「なんで? だいたい君じゃなくて省先輩ッスよね。常識的に考えて……」
「う……うるさいよッ! この覗き魔……はッ!?」
魔女の呪い発動。
亜子の心臓のドキドキはあくまで恥ずかしさであり、過去の事件のせいなのだが、魔女の呪いによってそれは違う物に変換される。
亜子の心臓のドキドキはあくまで恥ずかしさであり、過去の事件のせいなのだが、魔女の呪いによってそれは違う物に変換される。
『君は今、恋をしているね?』
こうなります。
「……」
「なんで急に黙るんスか」
「なんで急に黙るんスか」
先に行動を起こしたのは亜子だ。
すっと左足を一歩前に出し、重心を落として右の股関節に力を貯めた。
省は僅かな気配からそれを察知し、速やかに回避を始めた。
すっと左足を一歩前に出し、重心を落として右の股関節に力を貯めた。
省は僅かな気配からそれを察知し、速やかに回避を始めた。
「こっち来ないでー!」
亜子は叫ぶ。
そして、自分の右足首を内側へぐるりとねじりあげるような動作を始め、次いで、股関節に貯めた力を前方へと移動させ始める。体重移動だ。
右足首から発生したパワーは順に体の上の方へと向かい、ねじれた筋肉はRCSSによって激しく進展、緊張を繰り返し、土台となる足腰から上半身、そして、腕へと伝わって行く。
やがて腕へと到達し始めた時、ねじれの力を開放した右足はまっすぐ伸びはじめ、体重移動をさらに加速させる。股関節にたまった力は左脚へと移り、しっかりと体重を乗せる。
そして、前身のねじりのパワーを集約させた右の拳が、激しく反時計周りに回転しながら、全身から集めたエネルギーを開放すべく突きだされる。同時に、体重移動のパワーと、足腰の進展によるパワーも同時に、そして一点に。
それらすべてが、インパクトの瞬間に一つになった。同時に、省が取った回避行動も完了した。
そして、自分の右足首を内側へぐるりとねじりあげるような動作を始め、次いで、股関節に貯めた力を前方へと移動させ始める。体重移動だ。
右足首から発生したパワーは順に体の上の方へと向かい、ねじれた筋肉はRCSSによって激しく進展、緊張を繰り返し、土台となる足腰から上半身、そして、腕へと伝わって行く。
やがて腕へと到達し始めた時、ねじれの力を開放した右足はまっすぐ伸びはじめ、体重移動をさらに加速させる。股関節にたまった力は左脚へと移り、しっかりと体重を乗せる。
そして、前身のねじりのパワーを集約させた右の拳が、激しく反時計周りに回転しながら、全身から集めたエネルギーを開放すべく突きだされる。同時に、体重移動のパワーと、足腰の進展によるパワーも同時に、そして一点に。
それらすべてが、インパクトの瞬間に一つになった。同時に、省が取った回避行動も完了した。
「バカー!!」
「あぶねー!!!!!!」
「あぶねー!!!!!!」
小型省は、ぱらぱらと小さな破片が舞っている事に気づいて、顔を青くする。
ちらりと横を見ると、壁に砲撃でも受けたような穴が穿たれていた。
ちらりと横を見ると、壁に砲撃でも受けたような穴が穿たれていた。
「省君のバカー!」
亜子はそういって、走ってどこかへ行ってしまった。
もちろん、壁に穴をあけたのは亜子である。説明しよう。亜子のちっちゃな可愛いゲンコツは、コンクリートブロック二枚くらいなら粉砕しちゃうのだ!
そして、間一髪で亜子のコークスクリュー・ブローを回避した省は、血の気の引いた表情だったというのは言うまでもない。
もちろん、壁に穴をあけたのは亜子である。説明しよう。亜子のちっちゃな可愛いゲンコツは、コンクリートブロック二枚くらいなら粉砕しちゃうのだ!
そして、間一髪で亜子のコークスクリュー・ブローを回避した省は、血の気の引いた表情だったというのは言うまでもない。
「もし顔面に食らっていたら……」
ちなみにコークスクリューとはコルク抜きの事だ。
「なぜか命を狙われているような気がしてならないっス……」
ちなみに、霧崎の呪いが解けるまでは一週間ほどかかった。
被害者は兄である懐が一人やられただけで済んだとか。
被害者は兄である懐が一人やられただけで済んだとか。
おわり