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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第02話01

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
「オーダー入りまーす!
 ペペロンチーニ1、カフェオレ2、棒棒鶏(バンバンジー)1、熊肉の卵とじ丼1、ちゃんこ鍋1、みっくちゅじゅーちゅ1、ロイヤルミルクティー3!」
「っだぁぁぁぁっ!?誰だこの真夏に喫茶店でちゃんこ鍋なんぞ頼むバカはっ!?」
「うるせぇよ、どこの誰かわからん奴にケンカ売ってるヒマがあったら手ぇ動かせ柊」
「キュウリ千切りして、ミルク蒸気であっためて、カップ出して―――うぉぉ、俺がもう3人くらいほしいっ!」
「黙れ隼人、ハヌマーンだったら自力で分身してみせるくらいの根性を見せやがれ」
「……上月、お前なんか無駄に達観してないか?」
「触れてやるなよ柊。司がこういう性格になったのにはこいつの兄貴に原因があってな……」
「兄貴のことは言うなぁぁぁぁっ!?」

……とまぁ、柊が現れてから―――というか永斗が消えたその日から、毎日がこんな感じで元気なキッチン。
かといってフロアにその喧騒が伝わることはない。
基本的にキッチンは隼人・柊・司の三人と、あとたまに誰かが入るくらいでなんとか上手く回っていっている。
フロアに出ているメイドたちとウェイターはあちこち忙しく動き回る。
そんな中で、一人。新人のメイドは一際異彩を放っていた。
メイド喫茶とはいえども、従業員はほとんどが日本人。髪を染めている人間はいても、そうそう派手な人間はいない。
その中で。長い銀の髪をツインテール風味に結び、赤い瞳をきらきら輝かせ、右へ左へ笑顔を振りまくメイド服の小柄な少女がいた。
また一人客が入る。少女が笑顔でお客に挨拶する。

「お帰りなさいませでありますよ、ご主人様っ!」

……口調のギャップも含め、あらゆるところにあるギャップがギャップ萌えとして彼女を人気キャラクターにしているので、これも結果オーライというべきなのだろうか。
住み込みで働いている彼女の名は、ノーチェといった。


回想 <魔法使いたちの再会>


鏡は古来より洋の東西を問わず不思議な力を持つとされてきた。
西においては姫の継母である魔女の相談役として遠見の予言を行い、東においては魔の存在を暴く聖なる力として妖狐退治に用いられた。
また、鏡は異界を映すものとしても知られてきた。時間を見計らい合わせ鏡を行えば、自身の未来や前世、知らない世界を映すこともあるという伝承もある。
その伝承を形にしたのが魔導具・『水銀鏡』。当然世界結界で阻害される類の力であり、『魔法』である。
能力は『異世界や平行世界、並列世界などを映す』こと。
映すだけしかできないために基本的に無害な魔導具であり、遠い昔に観賞用に作られていたが、世界結界の圧力に対抗する力を持たないほどの無力さを誇るため、
いつしか一つまた一つと消えていき―――現存するものは片手で数え切れると言われるような骨董品魔導具。
が、しかし。ここに一つの仮定が生まれる。
見ることしかできないというのは、観測者が鏡に映るのでこれは『鏡でしかない』という認識が発生するためである。
では、『鏡に映らない』ものがこれを覗いたらどうなるか。
『水銀鏡』に映るのは通常の鏡としての能力の正面にいるものと、水銀鏡そのものの能力である他の世界の映像のみである。つまり、通常の鏡の法則は適用される。
吸血鬼と呼ばれる存在は流水を触れず、日光に当たれば灰になり、にんにくの臭いに弱く、木の杭で心臓を貫かれれば死に―――鏡に映らないという伝承を持つ。
流水と日光については種として強靭になることで乗り越え、にんにくはもとは民間信仰の魔よけであって、そんなものに屈する夜の王はそもそも数は少ない。
杭に心臓を貫かれれば確かに死ぬが、そもそもそんなことされれば人間も死ぬ。
しかし―――自身への強化では成しえない、存在の外界干渉である鏡の映像については対策を行う意味も特にないため行われなかった。今でも吸血鬼は鏡に映らない。
吸血鬼にとって、『水銀鏡』は異界の存在を映すものでしかない。『鏡』であるという認識がないのである。
映すことができる、というのはつながりが生まれるということ。その意味を魔法的に解釈、意味づけをして、『水銀鏡』を異界とつなぐための『門』と見なす。

「……ということなのでありますが―――って、蓮司ー。ついてきてるでありますか?」

柊が喫茶『ゆにばーさる』の住み込みのバイトを終えた一日目。
へとへとになりつつも、とりあえずマンションの一階のフロアにあるサロンでノーチェに紙コップのコーヒーを渡しながら話を聞いている。
まず聞きたいことだった「なんでお前がここにいる?」という質問に返ってきた答えがこれだ。
正直な話、魔法の世界に住んでるくせに魔法関連の話に疎い前衛職の柊にはちょっと厳しい話だった。

「すまんノーチェ、もうちょっとわかりやすく頼む」
「どのくらいにすればいいでありますか?」
「三行で」
「短っ!?」

あまりの耐性のなさに、ノーチェが思わずいつもの口調を忘れるほどだ。
ともあれ、話を理解してもらわないと意味がない。しばらく考えた後、彼女は柊に言った。

「えーと……つまりでありますな。
 家計の傾き加減がえらいことになってきたので売れるものを家捜しした時に、
 使えない魔導具を発掘して、それをじーっと見てたらなんか面白い術式が思いついたので試してみたらなんと本当に色んな異世界にいけることが判明。
 バカンスの時には異世界に逃げ込むという、誰にも邪魔されない完っ璧な方法を確立した、ということであります」
「納得した。っつーかそれは純粋にうらやましいぞ。俺もアンゼロットに邪魔されない休みがほしいぜ……」

哀愁に満ちたため息を吐く柊。
ノーチェはその様子を見て、苦笑しながら同情するように言った。

「蓮司は本当に休みもらえてないみたいでありますからなぁ。とはいえ、休みがあってもトラブル勝手に吸い寄せるのでありましょうが」
「人をなんだと思ってやがるっ!?休みの日は普通に過ごしてるっつーの!」
「聞いた話だと休みの日でも自分の部屋に女の子が落ちてきたそうではありませんか。
 前回も実家に帰省する途中で昔の知り合いに協力頼まれて2週間ほど住み込みバイトさせられる羽目になってましたし、今回も休日に侵魔に狙われたのでありましょう?」

ぐ、とうめいて黙る柊。
ノーチェが悪気のない様子でそう言うため、柊としても強く言えない。事実だし。
それで、と彼女は柊にたずねた。

「蓮司はなんでこんなところにいるのでありますか?
 ここ、ファー・ジ・アースの系列とはまったく違う世界系列でありますよ?しかもえらく遠い感じの。
 たまたまゲートが繋がるような距離にはないでありますし、狙って来るにしてもわたくしみたいに特別な方法を使わないとなると、
 人何人かを全部プラーナに変換しないといけないくらいエネルギーが必要なのでありますよ?」
「偶然だ偶然。月匣でエミュレイターと戦ってたら、次元の歪みが出てきてそれに虚属性魔法がぶち当たって暴走して気づいたらここだったってこった。
 ……って、そういえばアンゼロットが俺がここに飛ばされたのは自分のせいとか言ってたっけ?」

それを聞いて首を傾げるノーチェ。

「アンゼロットと話したのでありますか?」
「いや、なんか勝手に人の携帯にホログラフの投影機能つけてテレビ電話とかできるようにしてたらしくてな。それで一方的に連絡受けただけだ。
 確かその時にその詳細について後でメールよこすとか言ってたな……」

呟きながら、柊は携帯を取り出す。
軽く何度か操作すると、『送信者:あなたのあんぜろっと(はぁと)』と書かれている新着メールを発見する。
……そんな風に登録した覚えはないので後で通常のものに変えることを固く心に誓いつつ、メールを開くと『長くて本文に収まらないのでファイル添付します』とのこと。
ファイルを開くと、嫌がらせのように専門用語だらけの報告書。
戦闘要員としての<ウィザード>という意味なら優秀な部類に入る柊も、一般的な<魔法使い>としての能力に長けているわけではない。
っていうか、その手の知識は門外漢にもほどがあったりする。ある程度の知識も詰め込む時間を与えられない状況下だったともいう……可哀想なことに。
柊が苦い顔をしているのに気づいたのか、横から携帯の画面を覗きこむノーチェ。

「なるほどなるほど。万魔節の世界結界の強化儀式に巻き込まれたのでありますか。それはまた不幸でありますな」
「不幸言うなっ!?って、まてノーチェ。お前この報告書意味わかるのか?」
「当たり前ではないですか。ウィザードならこのくらい……と、いうのも失礼でありますね。わからないなら代わりに読むでありますよ?」
「俺がその手の知識ないのは俺のせいだけじゃねぇ。けどまぁ、読んで解説してくれると助かる」

言って、案外素直に携帯を手渡す柊。自分一人ではできないことが多すぎるということを知っているからだ。
そしてノーチェの魔法知識と情報収集能力については前回の事件で身にしみて知っている。意地を張ることに意味はない。
わかったでありますよ、と言って彼女は携帯を柊から奪い取る。
しばらく添付ファイルを読んでいた彼女は、報告書を噛み砕いて解説しだす。

柊が戦っていた時はちょうど万聖節前日の万魔節。ハロウィンとは、世界の内外に関わらず『異界』との境界の薄れる日(=世界結界が効果を薄くする日)。
当然侵魔による侵略が増えるが、ウィザード達も黙っちゃいない。10月31日深夜から、11月1日に日付が変更される瞬間、世界結界の一斉補修を行う。
要は信じる心が力になるんだから、『魔』に対する心理防壁が薄くなってるハロウィンから変わる瞬間に、祭りの終わり―――日常への回帰を信じさせることにより
世界結界の強度を一気に引き上げることでその日から一週間くらいは雑魚魔王なんぞ入ってこれないくらいの超☆強力世界結界が誕生するのである。
なお、これは世界結界を形成しているイノセントの『信じる心』、その形成余剰分を全人類一年分使用しての大掛かりな対抗手段であるため、そうそう連発はできない。
全ては10月31日に起きる世界結界の弱体化を後の世界に持ち込まないための対策である。(これをハロウィンをふっとばせ!作戦という)

なお。まったくの余談になるが、日本では侵魔の出現率が他国に比べ異様に高いため世界結界の消耗が局地的に異常に早い。
11月1日の年に一度だけだと絶対的に足りないため、半年に一度の頻度で同じ規模の補修作業が行われる。


閑話休題。
また、月匣も異界の一つである。しかし世界結界が強いと常識に反するものは弾かれるため、作戦実行時までに月匣から出ないと月匣にさまざまな異常をきたす。
当然知っている人は知っているが、知らない人は知らない。しかも月匣内に入ると外の世界がどうなっているかはわからないため、それに気づかないことも多い。
この異常に、毎年十数人程度のウィザードが巻き込まれるわけである。
世界規模のこの作戦を主導するのは世界魔術協会会長という立場であるアンゼロットであるため、柊との通信で彼女も自分の責任、という表現をしたわけだ。
ちなみに月匣ごと吹っ飛ばされてもだいたい主八界のどこかに落っこちるため、作戦終了後ロンギヌスにより追跡調査がなされる。
すぐさま発見して現地のロンギヌスメンバーに捕まえてもらい、転送陣のあるところまで移動、おおむね2、3日で帰ってこれる。
が。しかし。……戦ってた侵魔が苦し紛れに撃った魔法がちょうどそこに開いてしまった次元門に直撃。
そのまま大人しく飲み込まれていればファー・ジ・アースか、それ以外の主八界のどれかの世界に落ちるだけで住んだのだろうが、侵魔の放った魔法により門が変質。
それがとんでもないところまでねじくれてねじくれてこんな(概念的に)遠い場所まで偶然にたどりついてしまったのだという。

頭から煙を出しはじめた柊にだいじょーぶでありますかー?と頭をつんつん突っつきつつ、ノーチェはそれを噛み砕いて説明する。

「つまりでありますな?
 ハロウィンの日は、弱ってる世界結界を全世界的に強化する日で、その関係上空間が不安定になってるわけであります。
 ファー・ジ・アースに存在するあらゆる結界の外側に位置する世界結界が強化されるその時間に月匣内にいると他の世界に飛ばされる可能性が高いわけでありましてな。
 蓮司はたまたまその時に月匣内に取り込まれてた上、色んな偶然が関係してここに飛んだわけでありますな。
 ……それにしても大変でありますなぁ、蓮司」
「そうか?命があるんだし、世界的に指名手配されるわけでもなし、衣食住が保障されてるわけだし、かなりラッキーなところに落ちたもんだと思ってるけどな」

今まで行った先での苦労が忍ばれる発言をする柊。
戦う度に生死判定の憂き目にあったり、見知らぬ世界で見知らぬ勢力に追い回されたり、お尋ね者として旅生活をしなければならなかったりな異世界生活。
……本人が気づいていなくても、端から見るとそれはもう力いっぱい不幸である。
ノーチェはそんなことには気づくことなくさらなる事情を彼につきつけた。

「え?でもこのファイル読む限り、エミュレイターを倒しても蓮司は迎えに来てもらえないでありますよ?」
「なにぃっ!?なんだそりゃどーゆーこったっ!?」
「だってそう言う風に書いてあるでありますよ?ほらここに『すべてが終わった後、自力で帰還せよ』って」

いきなり告げられた事実に柊が驚く中、ノーチェは淡々と説明を続ける。

「そうでありますなぁ。
 蓮司にも分かるように噛み砕いて言うと、まずここがファー・ジ・アースから遠すぎることが理由に挙げられるでありますな。
 一つ道を繋ぐのに、とんでもないプラーナ量と、正しい道を分析・解析するための人材がいるのでありますよ。具体的にいうと一つのチームが必要になるくらい。
 もう一つは、蓮司と一緒に来た侵魔以外の他のエミュレイターがここを狙わないようにでありますな。
 向こうから道を繋ぐとなると、その道を使って二度の世界移動が行われるのであります。
 そうすると、世界と世界の間に強い魔法的なつながりの跡が残って……わかりやすく言うと、侵魔にこっちとあっちを行き来する手がかりを作ってしまうのでありますよ」
「アンゼロットの奴はこっちのお偉いさんと知り合いみたいだぞ?」
「なにが原因で知り合ったのかまでは知らないでありますが、通信機器での会話のやり取りと人間一人を通すのでは行きかう情報質量がダンチなのであります」

つまり何億と会話のやり取りをしても、概念的にこれだけ遠ければほとんど影響を与えないが、
人間を通すだけの大きさの穴を向こうから開け、そこを柊が通ってしまうと跡がどうしても残ってしまって侵魔にも便利な道になってしまうのだという。
これでは向こうとしてもおいそれと柊を助けには来れない。
それに納得したあと、彼は首をかしげた。


「ノーチェ、お前の移動法はどうなんだよ。その理屈だとそれもかなり危険なんじゃねぇのか?」

ノーチェの作った術式も、転送の魔法陣と形は違うとはいえ魔法の一種。
世界の間に強いパイプを作ってしまえばファー・ジ・アースからの侵略の危機があることを知っている彼女が、そんなことを理解できていないわけがない。
そう思ってたずねると、彼女は薄い胸をとん、と叩いて自慢げに答える。

「問題ないのでありますっ!
 わたくしのは、行きたいところを指定しないかぎり完全にランダムで行くことになりますゆえ」
「……つまり、出るところは完全に運任せってことか?」

年齢に意味のない不死者の吸血鬼であるとはいえ、気の長い話である。
半眼になった柊に、しっけいな、と彼女は腰に手を当てて答える。

「ちゃんと行きたいところの指定もできるでありますよっ。蓮司、これまだ持ってるでありますか?」

そう言って彼女が月衣から取り出すのは、小指の爪ほどのサイズの水晶球だった。
これは彼女の持つ先祖伝来の『叡智の水晶』とのリンクを持ついわば子供のような存在であり、これがあればいつでもノーチェの親水晶との間のリンクで話ができる代物だ。
ノーチェは、友だちになった人にこの子水晶を作っては渡しているのだ。柊も前回の事件の際にご飯をおごった礼としてこれを受け取っている。
柊が頷くのを見て、彼女は説明を続ける。

「わたくしの親水晶とこの子水晶は魔法的なリンクがありましてな。
 子水晶の位置を親水晶から補足して親水晶をさらに術式にリンク。
 その位置情報を道標にして、子水晶を持っている人がいるところなら移動できるように調整すればいいのであります。
 これなら毎回同じところに同じ道はできないでありますからな」
「……正直理屈はさっぱりよくわからんが、お前がファー・ジ・アースに問題なく帰れることはわかった。
 でだ、ノーチェ。本題はこっからなんだが、その術式とやらで俺も一緒にあっちに戻ることってできるか?」

さっきの話を聞いたところだと吸血鬼以外は難しそうな気がするんだが、と柊は続けつつ彼女に尋ねる。
ノーチェの話によれば、彼女の世界移動とは彼女が吸血鬼であるからできるものらしい。
ならばウィザードであってもただの人間である自分では無理だろう、という考えのもとにダメ元で聞いてみた柊だったが、それにノーチェは意外な答えを返す。

「できなくはないでありますよ」
「ほんとかっ!?」
「えぇ。世界移動の魔法を発動させることができるのは吸血鬼だけでありますが、発動した魔法で移動するものが吸血鬼だけなら、お土産持って帰れないでありましょう?」

当たり前じゃないか、というように首を傾げるノーチェ。
……なお、そのお土産の一部はファー・ジ・アースに帰るたびにとある居酒屋に送られているとかいないとか。
ただ、と彼女は困ったように続ける。

「エネルギーの問題があるのであります。
 わたくしだけや、+お土産くらいならわたくし一人でもなんとかなるのでありますが、人一人となるとそうもいかないのでありますよ。
 さっき言ったでありましょう?世界移動を個人で行うには、ソレ相応のエネルギーを必要とするのであります。
 わたくし一人の移動でも結構消耗してエネルギー補給が必要になるのに、もう一人分なんて無理でありますよー」
「エネルギー補給って、お前―――」

知らず、眼光の鋭くなる柊。
ノーチェは吸血鬼、血を吸う鬼だ。
ウィザードとして働く吸血鬼は、基本的に自力で吸血衝動を抑えられることを最低条件とした上で背教者会議で研修を受けた後、ウィザードとして働くことを許される。
それが吸血鬼と呼ばれる他種族が、人間の社会に出て働くための最低条件。
けれど、あくまで衝動は衝動。人間でいう本能のようなものだ。ふとした拍子にそれが頭をもたげることもある。
実際ウィザード同士であり、両者合意の上での吸血行為であるのならある程度黙認されてもいる。
それで命を救ってもらったウィザードもいるのだから黙認せざるをえないとも言うが。
けれど勝手に血を吸う行為は認められていない。
そんな(吸血鬼視点で)無粋なことをすれば背教者会議の方から追っ手がかかるし、他のウィザードからも日常を壊すものとして認定される。
しかし。吸血行為は、彼らにとって甘美なまでの衝動であり、これ以上なく効率的なエネルギー補給の手段でもあるのだ。

そんな柊の勘ぐりをまったく無視し、彼女は話を続けた。

「もうお腹減ってしかたなくなるのでありますよう。
 だから移動終了したすぐそばにあったこのお店で思う様食べてしまいましてな、後でお財布の中身に気づいて冷や汗かいたであります。
 なんとか頼み込んで結希に食べた分は体(ろうどうりょく)で払うからって雇ってもらえてよかったでありますよー」

ノーチェの言葉にしばし呆気にとられる柊。
そうだ。この娘はこういうヤツだった、と実感すると、苦笑しながら彼女の頭をわしわしっと撫でた。

「そうだな、悪ぃノーチェ。お前はお前なのに、ひどいこと言っちまった」
「わ、悪いって謝ってる割に扱いがぞんざいでありますよっ!?頭!頭ぐちゃぐちゃにしないでほしいでありますー!」
「なんだよ、これから寝るだけだっつーのに頭気にしてどうすんだ」
「やめるでありますよー!せっかくあの時間が終わったのでありますのに―――」
「ノーチェ!」

ノーチェが全部言い終わるよりも早く、サロンに駆け込む影があった。
赤みの強い茶髪。邪魔にならないように、というのを最優先にさせたかのようにところどころまとめた髪。生真面目そうな美人。
彼女の名は玉野椿(たまの・つばき)。UGNのチルドレン出身で今は一人前にエージェントとなり、幾多の事件を解決してきたオーヴァードで、隼人の相棒でもある。
チルドレン時代から隼人とセットで徴用されることが多く、日本各地を飛び回る生活なのだが、現在は結希の霧谷への要望でしばらく秋葉原支部に留まることになっている。
椿はノーチェを見つけると微笑み、彼女の腕を掴んだ。

「もうそろそろ寝る時間だよ。子どもは早く寝なくちゃダメでしょう」
「だから、わたくし見た目より子どもじゃないでありますってばー!だいたい、結希はこの時間でもまだお仕事してるじゃないでありませんかっ」
「薬王寺支部長はあなたとは違うの。支部長としてのお仕事があるし、休ませる時間になったら智世さんがお仕事を代行してくれるから。
 それで……柊蓮司さん、でしたか?」
「あぁ。あんたは椿だっけ?なんか高崎がそう呼んでたような気がする」
「玉野椿です。きちんとした挨拶が遅れたみたいなので、これからよろしくお願いします」

その堅苦しい挨拶に、ちょっと苦手意識を持ちつつもこっちこそよろしくな、と答える柊。
不良学生は優等生が苦手なもんである。柊もう学生じゃないけど。
閑話休題。
椿はノーチェと柊をしばし見比べた後、柊にたずねた。

「ノーチェとお知り合いなんですか?」
「おう。同郷っつーか、戦友っつーか……詳しくはこいつか支部長さんに聞いてくれ。たぶん俺が説明するよりはわかりやすい」

はぁ、とうまく納得いかないような椿の声。
彼女はノーチェの方を見て、優しく頭を撫でる。

「髪の毛、せっかく梳いたのにぐちゃぐちゃになっちゃったね。話を詳しく聞かせてもらいながら、もう一回梳こう」
「う~……、またじっとしてるのでありますかぁ?」
「女の子なんだから髪の毛はきちんとしないと。お客様の前に出るんだし」

悪意のない彼女の様子に、ノーチェは諦めたようにため息をついた。
椿は柊に向けてきちんと一礼すると、ノーチェをその<肉体>10の腕力でずるずると引きずっていった。それで後衛キャスターなノーチェが抗えるはずもない。
一人取り残された柊は、あいつじっとしてんの苦手そうだもんなー、と呟いて踵を返す。
とりあえずエネルギー問題さえなんとかなれば元の世界に戻れることがわかったのだ、絶望するには早すぎる。
とにかく今日は疲れた。考えるのは後回しにして、明日も早いんだし、さっさと寝ることにしてしまおう―――。

……なんか、喫茶店のバイトとしての日常にもう順応しているような気がするが、気にしないことにした。


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