ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第07話06

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完結編・その4


<月下 -after->


「……まったく、お別れ私も言いたかったんですけどね」
「あの子たちも唐突にいなくなるんだから困ったものねぇ」
「フッ、せわしない連中だ」

正確に言うと、中に入れる人間が3人だけだったというだけで、月匣の外には「ゆにばーさる」の面々が集まっていた。
中には月匣が消えた後も名残のように振るきらきらと輝く光の粒子を名残惜しそうに見つめる者や、彼らの残したものをじっとみつめるものもいる。

と、その時。

「なんだなんだ今の光はっ!?敵襲かっ!?そうか俺を狙ってきたんだな上等じゃねぇかタマとったらぁー!」

……空気をまったく読まない声。
全員がそちらを向くと、そこには黒いコートの男がいた。胸ポケットに、血のように赤いバラを挿している。
男は「ゆにばーさる」の人の群れから知り合いを見つけたらしく、声をかけた。

「お、支部長じゃないか。元気そうでなによりだ。っていうかなんでこんなところに?」
「……永斗、さん?」

黒いコートの男の名は上月永斗(こうづき・ながと)。
司の兄であり、「ゆにばーさる」の料理長をしている伝説の暗殺者である。
コートの中から免税店で買ったらしい土産をごそごそと取り出しつつ、彼は言う。

「あ、そうそうとりあえずこれお土産。テキーラとメキシコば奈々。
 いやーよかったよーメキシコ。俺のコルトがずきゅんどきゅーんって火ぃ吹いてさー、やっぱ打ち放題っていいよネっ」

お前今度はメキシコでなにやらかしてきたんだ。
そんな心の声が聞こえてきそうな中―――結希は笑顔でその話をうんうん、と聞いて、一通り止まったところで、一言告げた。

「なるほどなるほど、大変だったんですねぇ永斗さん。


 ―――それで。言い残したいことはそれだけですか?」

「……し、支部長?」

笑顔の圧力。よく見れば、彼はなんだか大量の「ゆにばーさる」の店員に囲まれているのに気づく。
しかも全員名前持ちオーヴァード。シャレになんねぇ状況過ぎる。出来たてPCならはだしで逃げ出す面々がぞろっとそろっているのだ。
結希は、笑顔で続ける。

「トイレはいきました?
 神さまにお祈りは?
 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOKですか?」

ま、ここ屋外ですけど、と絶望の言葉を口にする結希。
え?え?とじりじり迫る絶望の壁を前にしながら、結希は言った。

「皆さんっ!今ここに集まった全てのみなさんっ!あの地獄を生き抜いてきた真の勇者たちよっ!
 この一月の恨みも疲れもいらだちも。すべてすべて、こちらの大魔王が引き受けてくださるそうですっ!さぁ、思う存分に殺ってしまってかまいませんっ!



 遠慮なし、配慮なし、手加減なしの―――大盤振る舞いでおねがいしますっ!」

あ、最期は司さんですからその分だけはとっておいてくださいねー。と気楽に言いながらワーディング。
直後。
浜辺に殺戮の宴が開幕した。

結論。みんな、じぶんのしたことにはせきにんもとーね?

<エンディング・司の場合。>


仕事を終え、帰ろうとした彼の足元に、わんっ!と小さなかたまりがまとわりつく。
ため息をついて抱きかかえると、尻尾をぶんぶか振ってご満悦。

「こら、ボタン。あの部屋から出てくんなって言ったろうが」

椿と隼人があの慰安旅行からすぐに任務に直行してしまい、双枝市に戻れなくなってしまったボタン。
わざわざわんこ一匹のためにUGNが車を出してくれるわけもなく、今ボタンは懐いている司のいるアキハバラ支部預かり、という形になっているのだった。
なお、ボタンをお願いね、と言う椿の横から入ってきた永斗が、
『おぉ、司。いいなこの子犬、うまそうだな?』と無神経な発言をして椿にスペシャルお仕置きされることになったのは完全な余談である。
閑話休題。
あまり変わらない毎日と言えば毎日だが、ちょっと前まではこのぬくもりは彼にはなかったものだ。
そのぬくもりに触れるのを怖がっていたのは彼の方で、そのぬくもりは触れてみれば意外に強く、暖かかった。
そうだと気づくことができたのはあの夏の日々のおかげで、彼がボタンと短い間とはいえ一緒にいられるのはこの街があるおかげで。
そんな他愛もないことを思いながら、部屋に戻る。

と。

なんだか、玄関の前からして焦げ臭い。
またトラブルのもとか、とため息をついて意を決して一度ボタンを下ろし、ここでおとなしくしてろよ?と言い含めると、思い切りドアを開いて叫ぶ。

「うぉいこらバカ兄貴ぃぃぃっ!今度は何しやがったっ!?」
「つつつつ司っ!?い、いやこれはけしてちょっとスプレー缶しゅーってしながら髪の毛を整えていたとかそういうわけでは―――」
「100%それが原因だっ!?つーか火ぃついてるだろうがバカかあんたはちったぁ反省しろっ!」

がしゃーん、ぱきーん、<ブレインコントロール>+<氷の塔>!

……ここ、敷金とかどうするんですか?日本支部長。
ともあれ、天井まで衝く巨大な氷の塔にくすぶる火と兄貴を閉じ込めた後、彼は一つため息をついて支部長の部屋に向かった。
今月もあのバカの給料を全額カットするくらいですめばいいのだが、と思いつつ歩き出すと、ボタンがその後をついてくる。
こんなのも悪くないか、と内心思い―――彼はボタンを抱き上げると、足を速めた。


<エンディング・ノーチェの場合>


「ただいま戻りましたでありますよ」
「―――君は今何月かわかってるかね?」

絶滅社の上司のところにでかでかと『お中元』と書いた紙を張ってある東京土産の東京ば奈々を渡して返ってきたその返答に、首を傾げるノーチェ。
意外に季節感、しかも日本の季節のことを知っている上司だった。
ともあれ、彼は胃が痛そうにノーチェに言った。

「まったく……君はこれでも結構優秀な傭兵なんだ。『休暇をいただきます』の一言で半月も休まれては困るんだよ。わかってもらえるかね?」
「イタリア人の傭兵に何期待してるでありますか?」
「全イタリアンに謝りたまえ」

ヘタリアアニメ化らしいですね。おめでとうございます。
閑話休題。

「まぁ、休んだ分は働くでありますよ。お金ほしいでありますしな」
「うむ……さっそくだが、君には日本に飛んでいただきたい」

日本でありますか?と尋ねるノーチェ。うむ、と唸って上司は告げる。

「あの世界の危機大国でまた魔王が観測されたらしくてな。現地要員の斉堂一狼、その所有物の姫宮空とともになんとか世界の危機を救ってきてほしい」
「帰ってくるなり世界の危機でありますか……もう少し神さまはわたくしにお休みをくれてもいいような気がするのでありますが」
「待ちたまえ吸血鬼」

もっともである。
ともあれ、いつまでもへこんでいるのは彼女のキャラではない。すぐに元気に笑顔になると、告げた。

「任務了解でありますよっ。……っていうか、所有物ってスゴい響きでありますな」
「上ではそういうことになっているが、彼女自身の自意識はある。その辺りは配慮するように気をつけてくれ」
「別にいいでありますけど……って、日本のどのあたりに行けばいいので?」
「世界の危機は彼らの修学旅行先で起きようとしているようだ。具体的に言うと京都だな」
「ワーオマイーコ、ゲイーシャ!」
「いきなり似非外国人にならないでくれたまえイタリア吸血鬼」

胃が痛い、という表情をする上司に気のない返事を返し、彼女は部屋を出ようとして……一言だけ、聞いた。

「質問があるであります」
「―――ほう、なんだね?事件の概要についてはそちらにメールで送るが」
「いえ。お土産は木刀でいいでありますか?と聞こうと……」
「いらんっ!」
「え。だって今日本の木刀が外国人の間で大流行とこの間新聞で……」
「それは洞爺湖の話だっ!」

洞爺湖の木刀ならほしいのか、名もなき絶滅社上司よ。サミット効果すげー。むしろ銀魂効果すげー。

<エンディング・柊の場合>


「……まぁ、マシになったと思うべきなのかね、こりゃあ」

柊はファー・ジ・アースに帰還。
どうやらノーチェは場所指定までして転移してくれたらしく、東京の秋葉原にこれたまではよかったものの、上から某ポケットに入るモンスターのカプセルが襲来。
人一人入るサイズのそれにぱっくん、と食われた彼はなす術もなくアンゼロット宮殿へとご招待されたのだった。
ともあれ、今度は京都でなぜかは分からないが飛騨(現在の岐阜県飛騨地方)の大鬼侵魔が復活し、それを魔王が写し身の体にしようとしてるみたいなんでなんとかしてこい
と言われて珍しく一人新幹線に乗ることになっていた。
なぜ電車移動なのかと聞くと、
『最近公共交通機関でぽこぽこ姿を確認されてる魔王がいるそうです。Suicaまで持ってるとのこと。もし見かけたら駆除しといてください』とのこと。
駆除とか言われても魔王は魔王、そもそも柊一人に任せていいようなものではないはずなのだが。殺られる前に殺れってことだろう。たぶん。
世界の守護者の横暴に頭を痛めるのは今に始まったことではないが、もう少しあの娘は使われる側の気持ちを考えてくれないだろうか、と思うのは悪いことではないだろう。

たぶん落下よりもなお心臓に悪い列車の旅を送りながら、彼はあいにくの曇天を見る。
今から行く先の状況の困難さを暗示するような空色を一瞥してすませると、彼は車内販売のお茶とパンを買って、一息つく。
その時、柊の0-Phoneにメールの受信を知らせる音が鳴った。
電車内はマナーモードにしておくのが基本なのだが、久しぶりの交通機関移動で切るのを忘れていたらしい。あわてて操作しマナー設定して、メールを開く。
差出人は隼人。
世界を超えてメールが届くのはちょっと嬉しい。

なんだろうな、とメールを開いて、添付ファイルを開いて―――知らず、口元に笑みが履かれた。
ファイルは二つ。両方とも画像ファイルだった。
一つは最終日のお祭りに行った後従業員全員で撮った写真。
テレーズに右腕を掴まれ、ミミズクに羽で打たれ、司の逆側で隼人にヘッドロックされ、マーヤに慈愛のまなざしで見られている柊。
椿とエミリアと狛江に三箇所からぎゅっと抱きしめられ、応理にそっぽ向かれて目をぐるぐる回しているノーチェ。

なつやすみの思い出、とタイトルをつけたくなるような写真。
そして、もうひとつは―――


<エンディング・隼人の場合>


「隼人」

呼ばれて、ん?と彼は名前を呼んだ相棒―――椿の方を向く。
どこかの路地裏。あまり記憶力もなければ覚える努力もしない隼人にとってはここがどこかなんてことはどうでもいい。
それまで張り詰めた表情をしていた椿は、呆れたように表情を厳しくした。

「わかってるの?今は任務の待機中でしょ?」
「へいへい。わかってますよ」

相変わらずお堅い相棒にため息が出る。

「……ったく、ノーチェと会って少しは柔らかくなったかと思えば」
「なにか言った?」
「いや何も」

必死に首を横に振って否定する隼人に、椿はため息をついた。
とはいえ、任務中とはいえ待機中である。そこまで確かに意味もなくぴりぴりしていても仕方がないか、と思い直し、隼人にたずねた。

「それで、どこにメール送ってたの?隼人はそんなにメール送れる知り合いいた覚えがないけど」
「失礼なこと言うなよっ!?
 ……ちょっと前にヒカル支部長からメールが来て、その写真画像を送っただけだ」

実物は送れないからな、と彼はそれでもどこかうれしそうに言った。
あぁ、とその話を聞いた覚えのある椿は声を出した。

「あの事件の時、ヒカルさんが秋葉原全域を衛星カメラからジャームの位置を捕らえてくれてたんだっけ。
 その時の偶然撮れたって例の写真?」

それに肯定の意を示す隼人。
偶然の産物であるそれは、しかし実によくに撮れている、と隼人は思う。
おかげで胸ポケットの定期入れに一枚プリントアウトした写真が増えたくらいには。
見せてよ、と言われて隼人は定期入れを取り出して広げる。


そこにいるのは、ぼろぼろの四人組。
血に汚れ、焼け焦げ、それでも満更でもない表情で、笑顔で、拳を打ち合わせている、四人の少年少女の姿が―――。


同時に鳴る隼人と椿の携帯。
いつものとおりに話を聞いて、いつもの通りに軽口を言って、いつもの通りに目で打ち合わせ。
そして彼らは戦場に赴く。
約束を守るために。あの、魔法使いが落ちてきた夏と、騒がしい「ゆにばーさる」の面々の思い出を胸に。


fin


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