第六章 蝿の女王 _heavy_player_
1
巨大な河は、大地に刻まれた傷痕のようにも見える。
山から海へ、内から外へ、
学園都市に発生した侵魔の群もまた、流れると言う点では河のようなもの。
けれどソレは、外から内への大海嘯。いや、唯一点へと収束する、譬えるならば湖だろうか。例外は海に続く出口がないこと。蒸発する他減る事は無く。蒸発すれば濃度は増す。
湛えるのは悪意と憎悪。
湖面は沸き立ち黒々と煮え立つ真性の悪魔たち。
第六学区の廃墟は、この世に出現した地獄そのもの。
ならば、それに蓋をしなければ。舞台の下、板子一枚挟めば底なしの奈落。しかしその床(ふた)失くして、人の生など立ち行かぬ。
山から海へ、内から外へ、
学園都市に発生した侵魔の群もまた、流れると言う点では河のようなもの。
けれどソレは、外から内への大海嘯。いや、唯一点へと収束する、譬えるならば湖だろうか。例外は海に続く出口がないこと。蒸発する他減る事は無く。蒸発すれば濃度は増す。
湛えるのは悪意と憎悪。
湖面は沸き立ち黒々と煮え立つ真性の悪魔たち。
第六学区の廃墟は、この世に出現した地獄そのもの。
ならば、それに蓋をしなければ。舞台の下、板子一枚挟めば底なしの奈落。しかしその床(ふた)失くして、人の生など立ち行かぬ。
「ぅおおおおおおおおおおおお!!!!!」
声は力。腹の底、魂の奥から搾り出す。
身の丈を超える巨大な剣は、裂帛の気合に呼応するように、刃を震わす甲高い音を立てた。
身の丈を超える巨大な剣は、裂帛の気合に呼応するように、刃を震わす甲高い音を立てた。
薙ぐ。横一閃に。
刃圏に入った下級侵魔共を、一撃で両断してのける魔法の箒。
神殺しの魔剣を素体に、鍛ち上げられたウィッチブレード。振るう事が許されるのは、柊蓮司唯一人。
殺すものは、群からはぐれた悪魔たち。
人の居なくなった学園都市に被せる蓋。多重複合結界の基点の一つ。
第六学区へ向う本筋からはぐれた怪物たちは、そこに襲撃をかけ、しかし。魔剣使いと超電磁砲。そしてこの世界の学生たちによって阻まれていた。
神殺しの魔剣を素体に、鍛ち上げられたウィッチブレード。振るう事が許されるのは、柊蓮司唯一人。
殺すものは、群からはぐれた悪魔たち。
人の居なくなった学園都市に被せる蓋。多重複合結界の基点の一つ。
第六学区へ向う本筋からはぐれた怪物たちは、そこに襲撃をかけ、しかし。魔剣使いと超電磁砲。そしてこの世界の学生たちによって阻まれていた。
しかし、マジカルウォーフェアを戦い抜いたベテランウィザードも、他の学生たちも、人の身の枠に囚われている事は変わりない。
無限再生機能を持つ侵魔の群。
有限(人間)の身では、無限など架空の概念に過ぎない。それは、人の精神の射程を大きくは擦れている。
けれど、『無限』とは、限りが無いのではなく、限りを測れない事であるのなら―――、尤も。それでもソレを殺しつくすというのなら、終わりを見る事が叶わない事は当然至極。
悪魔を切り裂く柊も、すでにして満身創痍。大小深浅多種多様。頭、胴体四つの肢。傷の無い箇所を探す方が困難である。
身につける特別製の呪錬制服は、斬られ破れ鉤裂かれ、視るも無残な襤褸切れ同然。血の滲む箇所も、両の指では数え切れない。
それこそ、激戦を物語る虚像の指標。
けれど、その体から力が無くなる事はありえない。
無限再生機能を持つ侵魔の群。
有限(人間)の身では、無限など架空の概念に過ぎない。それは、人の精神の射程を大きくは擦れている。
けれど、『無限』とは、限りが無いのではなく、限りを測れない事であるのなら―――、尤も。それでもソレを殺しつくすというのなら、終わりを見る事が叶わない事は当然至極。
悪魔を切り裂く柊も、すでにして満身創痍。大小深浅多種多様。頭、胴体四つの肢。傷の無い箇所を探す方が困難である。
身につける特別製の呪錬制服は、斬られ破れ鉤裂かれ、視るも無残な襤褸切れ同然。血の滲む箇所も、両の指では数え切れない。
それこそ、激戦を物語る虚像の指標。
けれど、その体から力が無くなる事はありえない。
「ぅおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
叫ぶ。
脳に直流する精神の電流は、心臓を鼓舞し鼓動を速める。
開いた傷から、血があふれ出す。
赤黒い命の滴。血塗れになった神殺しの刃。
脳に直流する精神の電流は、心臓を鼓舞し鼓動を速める。
開いた傷から、血があふれ出す。
赤黒い命の滴。血塗れになった神殺しの刃。
魔剣使いの命を喰らい、彼の剣は切味を増す。
巻戻すように起き上がる侵魔を、処女血を啜る吸血鬼のような、刃鳴りの音が笑う。
何度斃しても起き上がる。殺しても殺しても死なない相手。
だがそれに何の意味がある。
達成すべき勝利の条件は、敵の殲滅にはない。地獄と日常を分ける結界(フタ)。それを形成するまでの時を、稼ぐ事ができればそれで良い。
そうであるのなら、魔剣使いの勝利は確定している。
異界の神々の力を、異界の理論で編み上げ、異界の理と絡み合って組み上がった領域の壁。
ソレは、数分前に完成していた。
何度斃しても起き上がる。殺しても殺しても死なない相手。
だがそれに何の意味がある。
達成すべき勝利の条件は、敵の殲滅にはない。地獄と日常を分ける結界(フタ)。それを形成するまでの時を、稼ぐ事ができればそれで良い。
そうであるのなら、魔剣使いの勝利は確定している。
異界の神々の力を、異界の理論で編み上げ、異界の理と絡み合って組み上がった領域の壁。
ソレは、数分前に完成していた。
一心不乱に、祈りを捧げた異世界の神官、巨漢の神術師に、褐色の肌の妖精僧兵。役割を果たした彼らは、既にこの街の住人の手で『外』へと避難し終えている。
柊が成すべき事は、あとは、御坂美琴と合流して上条当麻を助けにいくことだけ――――
そのために、立ちはだかる悪魔の壁をぶち抜く必要がある。
そうして、魔剣を振り上げて、
柊が成すべき事は、あとは、御坂美琴と合流して上条当麻を助けにいくことだけ――――
そのために、立ちはだかる悪魔の壁をぶち抜く必要がある。
そうして、魔剣を振り上げて、
不意に、世界から音が消えた。
まるで、彩度の無いフィルムに押し込められた写真。
若しくは、ブルーレイにハイビジョン録画した映像を、最早博物館にしか無いであろう白黒テレビで再生したような。
そんな、覚えの在りすぎる灰色の世界。
若しくは、ブルーレイにハイビジョン録画した映像を、最早博物館にしか無いであろう白黒テレビで再生したような。
そんな、覚えの在りすぎる灰色の世界。
柊蓮司は、そこでそれに出会った。
2
深い緑に輝く破壊の槍。矢継ぎ早に撃ち掛けられる攻撃魔法は、目標を捉え得ず粉塵を巻き上げる。
一瞬、視界を覆い隠すカーテンが晴れた時には、既に其処には何も無く、何時の間にか拳が届く範囲にまで接近を許していた。
慌てて、空に飛に逃げる。
魔王と超能力者が重ねた拳が、箒を掠めて機能停止。ガラクタは重力法則と言う基本原理に則り、落下する。上に乗っていた魔法使いごと。
落下までの短い間に体勢を立て直して、無様に転がる事は避けたウィザードだが、その間に踏込んできた、二人組の拳に脳を揺らされる。
三日三晩の徹夜明けの、睡魔にも似た暴力的な衝動が四肢に根を伸ばし、ウィザードは仰臥する。
そんな方法で、戦闘不能に追い込まれたのはこれで三人目だった。
一瞬、視界を覆い隠すカーテンが晴れた時には、既に其処には何も無く、何時の間にか拳が届く範囲にまで接近を許していた。
慌てて、空に飛に逃げる。
魔王と超能力者が重ねた拳が、箒を掠めて機能停止。ガラクタは重力法則と言う基本原理に則り、落下する。上に乗っていた魔法使いごと。
落下までの短い間に体勢を立て直して、無様に転がる事は避けたウィザードだが、その間に踏込んできた、二人組の拳に脳を揺らされる。
三日三晩の徹夜明けの、睡魔にも似た暴力的な衝動が四肢に根を伸ばし、ウィザードは仰臥する。
そんな方法で、戦闘不能に追い込まれたのはこれで三人目だった。
邪魔な下級侵魔を排した月匣の中。葛葉亨以下、十名の魔王監視部隊は、アゼル・イヴリスと上条当麻を追い詰めた。しかし、それが直接的な攻略には繋がっていない。
荒廃の力と幻想殺し。
前者を後者が押さえ込んでいる以上、アゼル・イヴリスより先に上条当麻を殺すことは出来ない。
幻想殺しが効果を失えば、その先に待っているのは破局(カタストロフ)唯一つ。
ソレを防ぐ為にウィザードが居るというのに、それでは本末転倒だ。
タイミングは、二人同時かアゼル・イヴリスが先。それが望ましい。
しかし、広範囲に二人とも巻き込む攻撃は、幻想殺しでガードされ、アゼルを狙った攻撃は、安全地帯に入り込まれて空を切る。
上条当麻に向けられる攻撃は、アゼル・イヴリスの行動を制限する為だけの牽制。上条当麻が一秒前に居たところには、決して致命傷が飛んではこないのだから。
荒廃の力と幻想殺し。
前者を後者が押さえ込んでいる以上、アゼル・イヴリスより先に上条当麻を殺すことは出来ない。
幻想殺しが効果を失えば、その先に待っているのは破局(カタストロフ)唯一つ。
ソレを防ぐ為にウィザードが居るというのに、それでは本末転倒だ。
タイミングは、二人同時かアゼル・イヴリスが先。それが望ましい。
しかし、広範囲に二人とも巻き込む攻撃は、幻想殺しでガードされ、アゼルを狙った攻撃は、安全地帯に入り込まれて空を切る。
上条当麻に向けられる攻撃は、アゼル・イヴリスの行動を制限する為だけの牽制。上条当麻が一秒前に居たところには、決して致命傷が飛んではこないのだから。
遠距離からの射撃は、かわされ防がれる。
ならば、近距離(ショートレンジ)での白兵戦はどうか。
接近した一人が、刃を振りかぶり叩き落す。
あろうことか、其処に二人は、握りあった右手左手を突き出してきた。
この一撃は、いわば牽制。魔王の腕を切れるとは思わない、しかし、人間上条当麻の右手はどうか? それでもし、幻想殺しの効果が失われてしまえば!
その迷いが、刃の進行を滞らせる。その時間は一瞬にも満たず、しかし、その一瞬で上条とアゼルは踏込み、左手と右手の掌底を、挟みこむようにウィザードの脇腹に叩き付ける。
合計二十四本の肋骨の内、左右第八から第十一までの計八本が、鈍い音を立てた。
かはっ。と、湿った咳のような音をたてて、肺の中身が空になる。身体が酸素を求めたその隙に、箒(ウィッチブレード)を折り砕いて、複合ストレートが顔面に突き刺さった。
ならば、近距離(ショートレンジ)での白兵戦はどうか。
接近した一人が、刃を振りかぶり叩き落す。
あろうことか、其処に二人は、握りあった右手左手を突き出してきた。
この一撃は、いわば牽制。魔王の腕を切れるとは思わない、しかし、人間上条当麻の右手はどうか? それでもし、幻想殺しの効果が失われてしまえば!
その迷いが、刃の進行を滞らせる。その時間は一瞬にも満たず、しかし、その一瞬で上条とアゼルは踏込み、左手と右手の掌底を、挟みこむようにウィザードの脇腹に叩き付ける。
合計二十四本の肋骨の内、左右第八から第十一までの計八本が、鈍い音を立てた。
かはっ。と、湿った咳のような音をたてて、肺の中身が空になる。身体が酸素を求めたその隙に、箒(ウィッチブレード)を折り砕いて、複合ストレートが顔面に突き刺さった。
接近戦を挑めば、魔王の膂力の前に敗北する。
『幻想殺し(イマジンブレイカー)上条当麻』。
葛葉亨の最大の誤算は、彼の存在を見誤った事だ。
ありとあらゆる異能の力を打ち消す右手。彼らの最大の武器である荒廃の力を押さえ込むハンディキャップ。
表界ではないこの世界で、魔王相手に対等に戦える。彼等(ウィザード)にとってのアドバンテージ。
それだけだと思っていた。けれど蓋を開ければ『荒廃の力』という確実な『死』を、余計に浮き彫りにする恐怖の象徴。
機能停止=死。
自然、攻撃の手は弛み、相手は其処につけ入ってくる。
此方の魔法を打ち消す事や、学園都市製一般人的身体能力など瑣末な事、上条の存在は、ウィザードたちの行動をも縛り付ける鎖であった。
『幻想殺し(イマジンブレイカー)上条当麻』。
葛葉亨の最大の誤算は、彼の存在を見誤った事だ。
ありとあらゆる異能の力を打ち消す右手。彼らの最大の武器である荒廃の力を押さえ込むハンディキャップ。
表界ではないこの世界で、魔王相手に対等に戦える。彼等(ウィザード)にとってのアドバンテージ。
それだけだと思っていた。けれど蓋を開ければ『荒廃の力』という確実な『死』を、余計に浮き彫りにする恐怖の象徴。
機能停止=死。
自然、攻撃の手は弛み、相手は其処につけ入ってくる。
此方の魔法を打ち消す事や、学園都市製一般人的身体能力など瑣末な事、上条の存在は、ウィザードたちの行動をも縛り付ける鎖であった。
しかし、葛葉亨は、ウィザードだ。
異能の力を操り、無垢なる人々の為に命を使う、夜闇の魔法使いである。
裏界の最終兵器たる荒廃の魔王を斃す。それは、第八世界の平和の為に、意義のあること。
世界を護るウィザードとして、命を懸けて成し遂げねばならないことだった。
そして何より、アゼル・イヴリスは希望の宝玉を廻る土星会戦で散った同僚たちの仇。
異能の力を操り、無垢なる人々の為に命を使う、夜闇の魔法使いである。
裏界の最終兵器たる荒廃の魔王を斃す。それは、第八世界の平和の為に、意義のあること。
世界を護るウィザードとして、命を懸けて成し遂げねばならないことだった。
そして何より、アゼル・イヴリスは希望の宝玉を廻る土星会戦で散った同僚たちの仇。
あの戦場で、星々の海で、荒廃の魔王と対峙してただ一人生き残った自分だけは、
決して、この少女の姿をした怪物を逃すわけにはいかないのだ。
決して、この少女の姿をした怪物を逃すわけにはいかないのだ。
監視部隊の残りは七人。対する相手は二人。数の上では十分にこちらが有利。
それに、もう幻想殺しを見誤りはしない。
それに、もう幻想殺しを見誤りはしない。
「桂木、相川、稲枝! 間合いを取って集中砲火!!
粟根、十叶は私と共に白兵戦!!
菫は雨原、峰百、麦奈を回復後、四人で砲撃に回れ!!
何も考えるな!! 魔王を斃す事だけを念頭に置け!!」
粟根、十叶は私と共に白兵戦!!
菫は雨原、峰百、麦奈を回復後、四人で砲撃に回れ!!
何も考えるな!! 魔王を斃す事だけを念頭に置け!!」
戦術を投げ捨てる。選ぶのは特攻。
部下を二人引き連れて、槍型箒を掲げて突進する。
質を変えた三種類の砲撃が、上条とアゼルの足を止めた。幻想殺しを掲げて防御する。其処に、光輝の槍先が肉薄。三方向からの直接攻撃に、逃げ場をなくした魔王は、跳躍する。
唯一開いた上空。
そこに、待ち構えるように、四つの砲口が光を湛えていた。
部下を二人引き連れて、槍型箒を掲げて突進する。
質を変えた三種類の砲撃が、上条とアゼルの足を止めた。幻想殺しを掲げて防御する。其処に、光輝の槍先が肉薄。三方向からの直接攻撃に、逃げ場をなくした魔王は、跳躍する。
唯一開いた上空。
そこに、待ち構えるように、四つの砲口が光を湛えていた。
対多数戦の鉄則は、攻防の主導権を常に持ち続けること。
常に攻め手を持ち、決して護る為だけに護ってはならない。防御は須らく次の攻撃への布石で無ければ成らない。
意識的、または無意識的に、幻想殺しの機能停止=荒廃の力の開放という恐怖を使って、上条当麻はウィザードの動きを牽制していた。戦場での主導権を占有していた。
ならば、避けられようが防がれようが、アゼルだけを狙えばいい。喩え上条の右手が機能を失ったとしても、そのときには荒廃の魔王を斃して居ればいい。
死の恐怖で行動が縛られる。状況の分析が攻撃を阻害する。そんなものは捨ててしまえ。そうすれば、戦場は民主主義が席巻する。
常に攻め手を持ち、決して護る為だけに護ってはならない。防御は須らく次の攻撃への布石で無ければ成らない。
意識的、または無意識的に、幻想殺しの機能停止=荒廃の力の開放という恐怖を使って、上条当麻はウィザードの動きを牽制していた。戦場での主導権を占有していた。
ならば、避けられようが防がれようが、アゼルだけを狙えばいい。喩え上条の右手が機能を失ったとしても、そのときには荒廃の魔王を斃して居ればいい。
死の恐怖で行動が縛られる。状況の分析が攻撃を阻害する。そんなものは捨ててしまえ。そうすれば、戦場は民主主義が席巻する。
閃光がすべてを塗りつぶす。
二人が頼るものは、幻想殺し以外にありえない。
攻勢魔力の奔流を、上条の右手が打ち消して安全地帯を形成する。
思惑通りに。
ウィザードは、槍の穂先を上空に向ける。
燐光を纏い、爆光を噴射して光の槍が魔王に迫る。
あらゆる異能を封じられた今、支えの無い空中では、流石の魔王と雖も体勢を立て直す事はできない。
攻勢魔力の奔流を、上条の右手が打ち消して安全地帯を形成する。
思惑通りに。
ウィザードは、槍の穂先を上空に向ける。
燐光を纏い、爆光を噴射して光の槍が魔王に迫る。
あらゆる異能を封じられた今、支えの無い空中では、流石の魔王と雖も体勢を立て直す事はできない。
「アゼルッ!!」
上条の絶叫も、肉を貫く嫌な音を掻き消す事はできなかった。
この通り、嘘の様にあっさりと、結果(こたえ)がでる。
どさり。と、重たい音をたてて魔王と超能力者の身体が地に伏せる。
衝撃に悶絶する上条。そして、
衝撃に悶絶する上条。そして、
「ぅぐっ、■■■ぁ!!」
苦痛に呻く。
アゼル・イヴリスは、豊かな胸から、なだらかな腹から、絞まった腿から、光の刃が貫通した傷口から噴き出した血で、全身を染め上げていた。
ウィザードは攻撃の手を緩めない。
泥にまみれた芋虫のように、身を捩るアゼルに光の刃を振り下ろす。
アゼル・イヴリスは、豊かな胸から、なだらかな腹から、絞まった腿から、光の刃が貫通した傷口から噴き出した血で、全身を染め上げていた。
ウィザードは攻撃の手を緩めない。
泥にまみれた芋虫のように、身を捩るアゼルに光の刃を振り下ろす。
刃は大地を抉る。
自らも肋骨の何本かは持って行かれているであろう、もしかしたら内蔵も痛めているかもしれないその体で、上条当麻は少女の身体を巻き込むように転がった。
そして、魔王の血で全身を汚しながら、少女を抱えて身を起こす。
上条の腕の中で力なく、アゼルは咳と共に大量の血を吐き出した。
そして、魔王の血で全身を汚しながら、少女を抱えて身を起こす。
上条の腕の中で力なく、アゼルは咳と共に大量の血を吐き出した。
「てめぇら………」
睨み付ける。その瞳に浮かぶのは怒りの一色。
「何で、何でこんな事が出来るんだよッ!!」
自明。ソレは敵だ。
ウィザードは言葉なく断言する。
ウィザードは言葉なく断言する。
「それに、俺は被害者だ。加害者を憎んで何が悪い」
ウィザードは光をたたえる。
憎しみで彩られた、死の光。
その光は、上条とアゼルを消し飛ばすだろう。
憎しみで彩られた、死の光。
その光は、上条とアゼルを消し飛ばすだろう。
ギシリ。と、奥歯が鳴った。
死の光が解き放たれる。
網膜を灼く閃光は、この身、この腕に抱く少女の身体すら焼き尽くすだろう。
握られる右手を突き出す。
ソレが異能の力であるのなら、仮令神様の奇跡であっても打ち消す右手。
網膜を灼く閃光は、この身、この腕に抱く少女の身体すら焼き尽くすだろう。
握られる右手を突き出す。
ソレが異能の力であるのなら、仮令神様の奇跡であっても打ち消す右手。
光が掻き消える。
異世界の魔法とは言え、所詮異能の力。
上条の網膜に補色の痕跡を刻んで、攻勢魔力は霧散した。しかし、
異世界の魔法とは言え、所詮異能の力。
上条の網膜に補色の痕跡を刻んで、攻勢魔力は霧散した。しかし、
(!?)
敵は一人ではない。
灼き付いた色を砕いて、襲い来る攻撃魔法の嵐。
圧迫する闇が、牙のような隆起が、出現した瀑布が、竜の息吹とばかりの炎が、巨大な竜巻が、歪んだ闇の矢が、拳のような空気が、炎の獣が、泥の拳が、
すべて、上条ごとアゼルを討ち滅ぼそうとする殺意の顕現。
灼き付いた色を砕いて、襲い来る攻撃魔法の嵐。
圧迫する闇が、牙のような隆起が、出現した瀑布が、竜の息吹とばかりの炎が、巨大な竜巻が、歪んだ闇の矢が、拳のような空気が、炎の獣が、泥の拳が、
すべて、上条ごとアゼルを討ち滅ぼそうとする殺意の顕現。
(……っ、クソッ!!)
幻想殺し(イマジンブレイカー)は間に合わない。
効果が及ぶのは右腕、その手首から先。全方位からの範囲攻撃には対応のしようがない。
約束された絶命までの数瞬。
その間、上条にできたのはアゼル・イヴリスを庇う壁になる事だけだった。
効果が及ぶのは右腕、その手首から先。全方位からの範囲攻撃には対応のしようがない。
約束された絶命までの数瞬。
その間、上条にできたのはアゼル・イヴリスを庇う壁になる事だけだった。
3
学園都市は広い。
開発の遅れていた西東京一帯を一挙に買い取って造られた学校の街は、東京、埼玉、神奈川の三県を又に掛け、東京都の半分ぐらいの敷地を円形に切り抜いて鎮座していた。
この学園世界へも、街一つがそのままやって来ている。そのため、世界内でも有数の広さを持っているわけだ。
つまり、何が言いたいのかと言えば、そんなところで人一人を見失えば、見つけ出すのはとても大変だという事。
そしてそれが、一度見つけた迷子であるのなら、その精神的疲労感はイロンナモノを振り切ってしまうという事だ。
開発の遅れていた西東京一帯を一挙に買い取って造られた学校の街は、東京、埼玉、神奈川の三県を又に掛け、東京都の半分ぐらいの敷地を円形に切り抜いて鎮座していた。
この学園世界へも、街一つがそのままやって来ている。そのため、世界内でも有数の広さを持っているわけだ。
つまり、何が言いたいのかと言えば、そんなところで人一人を見失えば、見つけ出すのはとても大変だという事。
そしてそれが、一度見つけた迷子であるのなら、その精神的疲労感はイロンナモノを振り切ってしまうという事だ。
「ちょっと!! 待ってってば!!」
何もかも投げ出したくなるような徒労感を回避する為に、魔法少女カレイドルビー・プリズマイリヤこと、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、声を張り上げる。
怖しくすばしっこく、体格を生かして狭い路地ばかりを逃走する、肉体年齢一〇歳程度の少女が、振り向きもせずにのたまわく。
怖しくすばしっこく、体格を生かして狭い路地ばかりを逃走する、肉体年齢一〇歳程度の少女が、振り向きもせずにのたまわく。
「待てと言われて待つ奴がいるかぁあ!! って、ミサカはミサカはどこかで聞いたような科白をカナミンの偽者に向って言ってみる!!」
「まぁ!? なんという事でしょう!! この由緒正しき(リリカルマジカルな)魔法少女(カレイドルビー)を偽者扱いだなんてっ!!」
「まぁ!? なんという事でしょう!! この由緒正しき(リリカルマジカルな)魔法少女(カレイドルビー)を偽者扱いだなんてっ!!」
イリヤの手にある杖が、傷ついたような声をあげる。
因みに、カナミンとは学園都市で放映されていたテレビアニメ『超起動少女(マジカルパワード)カナミン』。と、その主人公のことである。
言うまでも無く、日本が誇るオタクの戦略物資(ジャパニメーション)であったりする。
因みに、カナミンとは学園都市で放映されていたテレビアニメ『超起動少女(マジカルパワード)カナミン』。と、その主人公のことである。
言うまでも無く、日本が誇るオタクの戦略物資(ジャパニメーション)であったりする。
それはともかく。
戒厳令(コード・ブラック)下の学園都市で、発生した迷子。名前を『打ち止め(ラストオーダー)』という彼女は、一度はイリヤを含めた執行委員の手で保護された。
なんでも、同じく学園都市出身の御坂美琴の妹らしく、執行委員長とでも言うべき柊蓮司と、彼女が捜索に加わった途端、いともあっさり見つかった。というか自分からやってきた。
ふらふらと。
で、曰く。
なんでも、同じく学園都市出身の御坂美琴の妹らしく、執行委員長とでも言うべき柊蓮司と、彼女が捜索に加わった途端、いともあっさり見つかった。というか自分からやってきた。
ふらふらと。
で、曰く。
「うわーい、お姉様だお姉様だって、ミサカはミサカは偶然の出会いに吃驚してみるって、いたたたたたた!!
なんでいきなりミサカのこめかみをグリグリするの! ってミサカはミサカは暴力反対って声高に叫んでみたり!!」
「喧しいわこのアホ妹!! 戒厳令(コード・ブラック)よ、戒厳令!!
にも拘らずふらふらふらふらと! どれだけの人に迷惑掛けたか!! 解ってんの!!」
「だって、あの人が近くに居る気がしたんだもん!! って、ミサカはミサカは自分の正当性を主張してみる!!」
「なに言ってんのよ!! 学園都市の人間は避難してるの!! アンタが避難し終えてない最後の一人なのよ!!」
「痛いいたいいたい!! 御免なさいお姉さま!! ってミサカはミサカは泣きながら謝ってみる!!」
なんでいきなりミサカのこめかみをグリグリするの! ってミサカはミサカは暴力反対って声高に叫んでみたり!!」
「喧しいわこのアホ妹!! 戒厳令(コード・ブラック)よ、戒厳令!!
にも拘らずふらふらふらふらと! どれだけの人に迷惑掛けたか!! 解ってんの!!」
「だって、あの人が近くに居る気がしたんだもん!! って、ミサカはミサカは自分の正当性を主張してみる!!」
「なに言ってんのよ!! 学園都市の人間は避難してるの!! アンタが避難し終えてない最後の一人なのよ!!」
「痛いいたいいたい!! 御免なさいお姉さま!! ってミサカはミサカは泣きながら謝ってみる!!」
周囲に迷惑を掛け捲った妹を折檻する姉の声が、住人が殆どいなくなった街に反響した。
その後、御坂美琴と柊蓮司は他の執行委員からの電話で、街に張る複合結界の基点の防衛に回され、イリヤは打ち止めの避難誘導を任されたのだが、
その後、御坂美琴と柊蓮司は他の執行委員からの電話で、街に張る複合結界の基点の防衛に回され、イリヤは打ち止めの避難誘導を任されたのだが、
「なんで逃げるのぉお!!」
姉譲りの電撃をイリヤに食らわせて、怯んだ隙に逃げ出しやがったのだ。
「だってだってコッチの方からあの人の気配がしたんだもん! ってミサカはミサカは自分の直感を信じてみたり!!
きっと迷子になって泣いてるんだからミサカが行ってあげなくちゃいけないのってミサカはミサカは不退転の意思で断言してみる!!」
きっと迷子になって泣いてるんだからミサカが行ってあげなくちゃいけないのってミサカはミサカは不退転の意思で断言してみる!!」
此方は空を飛べるとは言え、土地勘は地元民(ラストオーダー)の方が圧倒的に上。
つまり、ちょこまかと動き回る打ち止めの行動に、イリヤはついていくのがやっと。
このままでは、遠からず見失ってしまうだろう。
つまり、ちょこまかと動き回る打ち止めの行動に、イリヤはついていくのがやっと。
このままでは、遠からず見失ってしまうだろう。
と、その時ポケットの中が震える。バイブレーション設定の0-phoneを取り出して、通話ボタンを押して。
「もしもし初春お姉ちゃん!? 今すっごく立て込んでるんだけど!!」
『イリヤさん? 迷子ちゃんの避難誘導のことを伺いたかったんですけど………』
「今全力で追っかけてる!」
『イリヤさん? 迷子ちゃんの避難誘導のことを伺いたかったんですけど………』
「今全力で追っかけてる!」
電話の向こう。コンピュータに向っているであろう初春飾利に、イリヤは叫ぶようにそういった。
『なるべく急いでくださいね。その子が最後の住人です』
「それホント? なんか知り合いがいる気がするって言ってたんだけど」
『……少なくとも、学園都市の住民として登録されている人たちは、間違いなく避難完了していますよ』
「………。解った、急いで捕まえるね」
『お願いしますね。
っと、そうだ、もう一つ確認しておきたい事があったんです』
「それホント? なんか知り合いがいる気がするって言ってたんだけど」
『……少なくとも、学園都市の住民として登録されている人たちは、間違いなく避難完了していますよ』
「………。解った、急いで捕まえるね」
『お願いしますね。
っと、そうだ、もう一つ確認しておきたい事があったんです』
わざわざ前置きをする初春の様子に、イリヤはなんだろうと首を傾げ、
『柊さんたちが第六学区に向わず、結界基点の防衛に向っているんです―――』
何故だかわかりますか? と、疑問を呈するその科白に思わず「は?」と、聞き返していた。
『ですから、柊さんたちが複合結界の基点に向っているのは―――』
「いや、そうじゃなくて。それ、ノーチェが電話して頼んだでしょ? 0-phoneから声聞こえてたよ?」
「いや、そうじゃなくて。それ、ノーチェが電話して頼んだでしょ? 0-phoneから声聞こえてたよ?」
今度は、向うから『は?』と返って来た。
『へ? それホントですか!?』
「うん。美遊も聞いてたはずだけど」
「私も聞いてましたよ~」
「うん。美遊も聞いてたはずだけど」
「私も聞いてましたよ~」
魔法の杖にも太鼓判を押されて、スピーカーの向うで慌しい音が聞こえてくる
『ノーチェさん? いつの間にそんな事を? 『知らないであります。私は演算にかかりきりでありましたよ!!』』
「………。ノーチェじゃないの?」
『本人は違うと言い張ってますが―――『そもそも、迷子の捜索に加われなんて言った覚えも無いであります!!』……だ、そうです』
「―――じゃあ、だれが?」
『………ちょっとまずそうですね。
―――わかりました。それはコッチで何とかしますからイリヤさんは迷子の追跡に全力を尽くしてください』
「………。ノーチェじゃないの?」
『本人は違うと言い張ってますが―――『そもそも、迷子の捜索に加われなんて言った覚えも無いであります!!』……だ、そうです』
「―――じゃあ、だれが?」
『………ちょっとまずそうですね。
―――わかりました。それはコッチで何とかしますからイリヤさんは迷子の追跡に全力を尽くしてください』
通話を切って飛行に専念する。
打ち止め(ラストオーダー)の背中は、思ったよりも小さくなっていた。
打ち止め(ラストオーダー)の背中は、思ったよりも小さくなっていた。
「ヤバ」
4
腕の中には死にかけた少女の躯。
護ろうとしたものに刃を突きたてられ、痛々しく血に塗れた。
上条の身体など壁にすらならないとしても、死なせてたまるかと抱きすくめる。
護ろうとしたものに刃を突きたてられ、痛々しく血に塗れた。
上条の身体など壁にすらならないとしても、死なせてたまるかと抱きすくめる。
その魔法は殺意の具現。
再現された自然現象を模して、死神の鎌が迫る。
背を向けた。襲い来るであろう破壊に、歯を食いしばる。
恐らくは、空前にして絶後の痛み。死を告げるチカラであるのなら。
耐える為に力を込めて、しかし痛みは――――――無い。
再現された自然現象を模して、死神の鎌が迫る。
背を向けた。襲い来るであろう破壊に、歯を食いしばる。
恐らくは、空前にして絶後の痛み。死を告げるチカラであるのなら。
耐える為に力を込めて、しかし痛みは――――――無い。
―――紅い月が昇る。
魔法の代りに届いたのは、
「で? アンタはいつまでアゼルを抱きしめてる気なのかしら?」
まるで害虫を見下ろすような冷え切った視線と声。そして同時に、上条の脇腹に激痛。
「みぎゃぁあああ!!」
折れた肋骨の上から、黒革のローファーを叩き込まれて、上条当麻は愉快な絶叫を上げた。
仰臥して苦悶のダンスに身を捩る上条を無視して、凶悪無比な蹴りを放った当人は、気を失っているアゼル・イヴリスの身体から、血で汚れた黒い帯、その残骸を引き剥がす。
仰臥して苦悶のダンスに身を捩る上条を無視して、凶悪無比な蹴りを放った当人は、気を失っているアゼル・イヴリスの身体から、血で汚れた黒い帯、その残骸を引き剥がす。
「う、うぐぉおおおお……」
上条を蹴たぐった少女は、その身体に刻まれる大小さまざまな生傷の数々に貌を顰めながら、取り出した包帯のようなものを巻きつけていく。
首、胸と、帯を巻きつけ、左腕に及ぼうかと言う辺りで、
首、胸と、帯を巻きつけ、左腕に及ぼうかと言う辺りで、
「おおおおぅうるぅおおお……」
眦を吊り上げる。
ぎゅうっ。と、握り締められた左手。いまだに悶え続ける上条の右手を握り締めている左手にピクピクと眉を上下させ、
ぎゅうっ。と、握り締められた左手。いまだに悶え続ける上条の右手を握り締めている左手にピクピクと眉を上下させ、
「ちょっと、手を離しなさい」
「おおおおおお、き、効いたああああああ。どごって、脇腹、ボキってなんか、ぐぉっ」
「おおおおおお、き、効いたああああああ。どごって、脇腹、ボキってなんか、ぐぉっ」
苦悶の声をあげて何一つ聞いていない上条に、再び革靴で蹴りを入れた。
大きく咳き込んで跳ね起きる上条に、彼女はもう一度同じことを告げると、
大きく咳き込んで跳ね起きる上条に、彼女はもう一度同じことを告げると、
「いや、俺がこの手はなしたら大惨事だし。荒廃の力つったか? それがあらゆるプラーナだかなんだかを吸い取っちまうらしい って、何でアゼル裸なんだよ!?」
「欲情したら殺すわよ」
「んあっ!? 欲情するなってそんな無茶な っ!? ごめんなさい許してください冗談ですそんな状況じゃないのはよく解ってます!!」
「………どうでもいいから、土下座する前に目ェ瞑って右手を離せ」
「―――いや、だから。俺の右手は幻想殺しっつって―――」
「欲情したら殺すわよ」
「んあっ!? 欲情するなってそんな無茶な っ!? ごめんなさい許してください冗談ですそんな状況じゃないのはよく解ってます!!」
「………どうでもいいから、土下座する前に目ェ瞑って右手を離せ」
「―――いや、だから。俺の右手は幻想殺しっつって―――」
上条は、自分の右手と、アゼルの力について説明しようとするが、少女はそれを遮って、
「んなこと解ってるわよ。
だから魔殺の帯を巻くのに、アンタの右手が邪魔だっていってんの」
だから魔殺の帯を巻くのに、アンタの右手が邪魔だっていってんの」
意識をなくして尚、しっかりと幻想殺しを握り締めるアゼルの左手を引き剥がし、その少女が告げた言葉に、上条は引っ掛かりを覚える。
「………魔殺の帯って、アゼルの力を抑えてたって言う? それってかなり貴重なんじゃなかったか? 確かアゼルが代えはないとか言ってたけど―――」
価格、日本円にして約三百万円。そんなもの、そうそう用意できるものではない。
目の前の少女は、見た感じ御坂美琴と同じくらい。つまり中学生ぐらいの年齢にしか見えない。そんな少女が、どうして魔殺の帯など持っているのだろう?
高山外套(ポンチョ)の下に輝明学園の制服を着ている事からきっと第八世界の関係者だとは思うが。
波打つ銀髪の下から、黄金の瞳を覗かせて、その少女は不機嫌に告げる。
目の前の少女は、見た感じ御坂美琴と同じくらい。つまり中学生ぐらいの年齢にしか見えない。そんな少女が、どうして魔殺の帯など持っているのだろう?
高山外套(ポンチョ)の下に輝明学園の制服を着ている事からきっと第八世界の関係者だとは思うが。
波打つ銀髪の下から、黄金の瞳を覗かせて、その少女は不機嫌に告げる。
「そ。苦労したわよ。あんたとアゼルを引き合わせるのはゲーム上の必要事項だもの。
その時、間違いなく幻想殺しが魔殺の帯を破壊するでしょうし、そうなるとココから先には進めないもの―――」
その時、間違いなく幻想殺しが魔殺の帯を破壊するでしょうし、そうなるとココから先には進めないもの―――」
あらゆる異能を否定する右手。それは魔王の装備ですら例外なく破壊するだろう。
だから。と、彼女は、
だから。と、彼女は、
「贋物にすり替えておいたわ。
そこの残骸は、単に魔殺の帯っぽい感触がするだけの布切れよ」
そこの残骸は、単に魔殺の帯っぽい感触がするだけの布切れよ」
なんでもないように、告げた。
「そういうことだから、今後一切アゼルに触れるんじゃないわよ。アンタが壊した贋物と違って、本物(コレ)は跡形も無く消えちゃうんだから――――」
「…………ちょっと待てよ」
「…………ちょっと待てよ」
何かを言っている少女の言葉を遮って、上条は声をあげた。
「ってことは何か? 第六学区が壊滅したのって……」
もしも、アゼル・イヴリスの魔殺の帯がちゃんと機能していたのなら、此処まで被害が出る事はなかった。
もしも、此処までの被害が出る事がなければ、アゼルがこれほど傷つく事はなかったのではないか。
つまり、それは―――
もしも、此処までの被害が出る事がなければ、アゼルがこれほど傷つく事はなかったのではないか。
つまり、それは―――
「お前が―――、元凶?」
上条の視線を受けてその少女は、ニィっ、と三日月の笑みを浮かべる。
「半分ほどね。
力を解放したのはルー・サイファー。被害を広げたのはこのあたし。
ま、帯が贋物だって気付かなかったアゼルも迂闊と言えば迂闊かしら――――っ!?」
力を解放したのはルー・サイファー。被害を広げたのはこのあたし。
ま、帯が贋物だって気付かなかったアゼルも迂闊と言えば迂闊かしら――――っ!?」
気付けば、上条の手は少女の胸倉を掴みあげていた。
その気楽な物言いに、理性の掛け金が弾け跳んでいた。
その気楽な物言いに、理性の掛け金が弾け跳んでいた。
「この手を離しなさい、上条当麻」
「テメェはッ!! どの面下げてココに居るんだッ!!」
「何を怒るの上条当麻。私たちは魔王。悪魔の王よ。
望まれる役割(ロール)なんて、人に仇為す事だけでしょう?」
「五月ッ蝿ェ!! そんな言葉で誤魔化せると思うな。
死んじまった一万人以上の人たちに、何よりお前はアゼルを傷つけたんだぞ!!」
「テメェはッ!! どの面下げてココに居るんだッ!!」
「何を怒るの上条当麻。私たちは魔王。悪魔の王よ。
望まれる役割(ロール)なんて、人に仇為す事だけでしょう?」
「五月ッ蝿ェ!! そんな言葉で誤魔化せると思うな。
死んじまった一万人以上の人たちに、何よりお前はアゼルを傷つけたんだぞ!!」
氷河のように冷え渡る少女に、烈火の如き上条が拮抗する。
「お前はアゼルの事が大事なんだろ!!
だったら何でそんなコトができるんだよ!!」
だったら何でそんなコトができるんだよ!!」
ほんの一瞬。いや、それ以下の時間、彼女は言葉につまり、
「―――、……」
そう、小さく呟いた声は上条には届かず、彼女は音を発てて上条の腕を叩き落とした。
「恨み言なら後で幾らでも聞き流してあげる。
アゼルを治した後でね」
アゼルを治した後でね」
5
心にある感情はたった一つ。
ただ、怒りだけが―――すべてを塗り潰していた。
ただ、怒りだけが―――すべてを塗り潰していた。
葛葉亨は、ウィザードだ。
所属は超時空多次元機甲特務武装黄金天翼神聖魔法騎士団。通称ロンギヌス。
常に、人間の世界を奪いに来るエミュレイターとの戦いの最前線にでる部隊にいる事は、彼の誇りだった。
少し前には、あの柊蓮司とともに冥魔『夜闇よりも冥きもの』の封印に関わる事件で、輝明学園秋葉原分校の『学園迷宮(スクールメイズ)』に潜った事もある。
そして、この学園世界でも彼は魔王がらみの任務についていた。
所属は超時空多次元機甲特務武装黄金天翼神聖魔法騎士団。通称ロンギヌス。
常に、人間の世界を奪いに来るエミュレイターとの戦いの最前線にでる部隊にいる事は、彼の誇りだった。
少し前には、あの柊蓮司とともに冥魔『夜闇よりも冥きもの』の封印に関わる事件で、輝明学園秋葉原分校の『学園迷宮(スクールメイズ)』に潜った事もある。
そして、この学園世界でも彼は魔王がらみの任務についていた。
『蝿の女王』ベール・ゼファー。
『荒廃の魔王』アゼル・イヴリス。
『荒廃の魔王』アゼル・イヴリス。
学園世界に入り込んできた二体の魔王。その魔王の監視が、その任務の内容だった。
魔王とは、世界に対するクリティカルな危機的存在のことである。戦闘能力は低くとも、世界の危機に直結する能力を持つもの。『荒廃の魔王』などが、その代表格であろう。
予想されうる危機に対して、その発言の兆候をいち早く発見し、それに対応する事が彼らに求められる仕事だった。
魔王とは、世界に対するクリティカルな危機的存在のことである。戦闘能力は低くとも、世界の危機に直結する能力を持つもの。『荒廃の魔王』などが、その代表格であろう。
予想されうる危機に対して、その発言の兆候をいち早く発見し、それに対応する事が彼らに求められる仕事だった。
そして、その日が来た。
学園世界でも、有数の土地を有する学校の街『学園都市』。その第六学区が消滅した。
異世界の街に吹き荒れたのは、プラーナを収奪する死の嵐。魔王アゼル・イヴリスが荒廃の力。
其処に在るだけで世界を滅ぼす怪物は、ついにその正体を顕にしたのだった。
異世界の街に吹き荒れたのは、プラーナを収奪する死の嵐。魔王アゼル・イヴリスが荒廃の力。
其処に在るだけで世界を滅ぼす怪物は、ついにその正体を顕にしたのだった。
彼と、その部下たちはただちに迎撃に出た。
魔王は、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』という異世界の異能者によって、あらゆる力を封じられていた。忌まわしき『荒廃の力』も含め、すべての魔法も特殊能力も使えない。
絶好の機会であった。
裏界の最終兵器たる荒廃の魔王を斃す。それは、第八世界の平和の為に、意義のあること。
世界を護るウィザードとして、命を懸けて成し遂げねばならないことだった。
そして何より、希望の宝玉を廻る土星会戦で散った同僚たちの仇をとるためには、この機会を逃すわけには行かなかった。
魔王は、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』という異世界の異能者によって、あらゆる力を封じられていた。忌まわしき『荒廃の力』も含め、すべての魔法も特殊能力も使えない。
絶好の機会であった。
裏界の最終兵器たる荒廃の魔王を斃す。それは、第八世界の平和の為に、意義のあること。
世界を護るウィザードとして、命を懸けて成し遂げねばならないことだった。
そして何より、希望の宝玉を廻る土星会戦で散った同僚たちの仇をとるためには、この機会を逃すわけには行かなかった。
ソレなのに、自分たちが張った月匣の中に、更に強力な月匣を張ることでアゼル・イヴリスは彼らの手から逃れ得た。
心には怒りが在った。
アゼル・イヴリスは残酷だ。
ソレが与える死のカタチは、尊厳そのものを奪い去る。
プラーナを食い尽くされるという事。ソレは物事が存在する為の力。ソレを失ったものは消滅する。
肉体がなくなることではない。魂が食われるだけでも無い。ソレそのものが、存在していたという事実が、消えて、無くなる。
記憶も、記録も、何一つ残らない。
誰に聞いても、何を聞いても、誰も知らない。
今まで生きてきたすべてを、人生を、すべて無かった事にされてしまう。
ソレが与える死のカタチは、尊厳そのものを奪い去る。
プラーナを食い尽くされるという事。ソレは物事が存在する為の力。ソレを失ったものは消滅する。
肉体がなくなることではない。魂が食われるだけでも無い。ソレそのものが、存在していたという事実が、消えて、無くなる。
記憶も、記録も、何一つ残らない。
誰に聞いても、何を聞いても、誰も知らない。
今まで生きてきたすべてを、人生を、すべて無かった事にされてしまう。
それは、人間の死ではありえない。
それが、どれだけ残酷な事か
それが、どれだけ残酷な事か
人は、肉体が滅んだ程度では死に得ない。ソレまでにかかわった人々の中に、有形無形の影響として残るからだ。
だから、人間らしく死ねなかったものは、唯の無意味な肉の塊になる。否、其の骸(にく)すら残っていない。
だから、人間らしく死ねなかったものは、唯の無意味な肉の塊になる。否、其の骸(にく)すら残っていない。
アゼル・イヴリスは、ソレを与える。
関わった人々はまだ生きているのに、忘れ去られてしまう。いや、最初から居なかったことにされてしまう。
関わった人々はまだ生きているのに、忘れ去られてしまう。いや、最初から居なかったことにされてしまう。
人間の尊厳を、正面から踏み砕く蛮行。
その怪物に、仲間を殺された。そして、自分ひとりが生き残った。
記録など何処にも無く、もう、顔も名前すら思い出せない。
それでも、失った事実だけは残っている。ぽっかりと黒々とした穴がこの胸に開いている。
記録など何処にも無く、もう、顔も名前すら思い出せない。
それでも、失った事実だけは残っている。ぽっかりと黒々とした穴がこの胸に開いている。
だから、苦しい。
だから、許せない。
この胸の欠落を埋めるには、幕を引くしかない。
だから、許せない。
この胸の欠落を埋めるには、幕を引くしかない。
怒りの一色で心を塗りつぶし、ウィザードは魔王を殺す為に引き金を引いた。