第六章 蝿の女王 _heavy_player_
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くるくる。と、少女は器用に白い裸身に黒い帯を巻きつけてゆく。
胸から、左腕、右腕。腰を通って下腹部、両脚と、荒廃の魔王の全身に魔殺の帯が巻かれてゆく。
その間、上条当麻は所在無さげに、佇んでいる事しかできなかった。
原因は右手。
神の奇跡すら打ち消す右手は、魔法治療の害にこそなれ益する所は何も無い。
胸から、左腕、右腕。腰を通って下腹部、両脚と、荒廃の魔王の全身に魔殺の帯が巻かれてゆく。
その間、上条当麻は所在無さげに、佇んでいる事しかできなかった。
原因は右手。
神の奇跡すら打ち消す右手は、魔法治療の害にこそなれ益する所は何も無い。
見上げた空には紅い月。
第八世界に出現する、侵魔の張った月匣という小世界(けっかい)には、必ず出現する裏界の風景。
今の上条たちは、ウィザードたちが張った月匣の中に張られた、もう一つの月匣に包まれている状態である。
月匣の主(ルーラー)曰く「そう簡単には破られないわ」。そういう訳で、とりあえずも一休みと言ったところだ。
しかし、紅い月匣を展開したのは、上条の腕の中で、死にそうになっていたアゼルではない。勿論、ただの人間である上条でもない。
今、アゼルを治療している、この銀髪金眼の少女こそ張本人。そして、この数時間ばかりの騒動の元凶であった。
今の上条たちは、ウィザードたちが張った月匣の中に張られた、もう一つの月匣に包まれている状態である。
月匣の主(ルーラー)曰く「そう簡単には破られないわ」。そういう訳で、とりあえずも一休みと言ったところだ。
しかし、紅い月匣を展開したのは、上条の腕の中で、死にそうになっていたアゼルではない。勿論、ただの人間である上条でもない。
今、アゼルを治療している、この銀髪金眼の少女こそ張本人。そして、この数時間ばかりの騒動の元凶であった。
「っと。ま、こんなもんでしょ」
癒しの光がアゼルを包み込み、後には傷の消えた滑らかな肌。色白を通り越して蒼白の肌は、元々の瑞々しいハリとツヤを取り戻していた。
魔法でアゼルを癒したのは銀髪の少女。そして、遠因としてアゼルを傷つけたのも、この魔王。
治療がひと段落したところを見計らって、上条は声をかけた。
魔法でアゼルを癒したのは銀髪の少女。そして、遠因としてアゼルを傷つけたのも、この魔王。
治療がひと段落したところを見計らって、上条は声をかけた。
「お前、一体何なんだよ」
この少女が、アゼルの事を大切に思っている事はよく判る。口調は乱暴で態度はぶっきらぼうだが、その言動はすべてアゼル・イヴリスを案じているからに他ならない。
そうであるのに―――
そうであるのに―――
「そうね。自己紹介をしましょうか。
我が名はベール・ゼファー。空行くモノを遍く支配する美しき蝿の女王。
そして、アゼル・イヴリスの所有者よ」
我が名はベール・ゼファー。空行くモノを遍く支配する美しき蝿の女王。
そして、アゼル・イヴリスの所有者よ」
気を失い人形のように動かないアゼルに、輝明学園の制服を着せながら、魔王と名乗った少女の言葉。その不穏な響きに、上条は眉を顰める。
「所有者?」
「そう、アゼルはあたしの所有物(モノ)。
だから、そうね。上条当麻、アンタには一応礼を言っておく。
アンタがいなけりゃ、アゼルはきっとここまで来る事はできなかったもの―――」
「んな事はどうでもいい」
「そう、アゼルはあたしの所有物(モノ)。
だから、そうね。上条当麻、アンタには一応礼を言っておく。
アンタがいなけりゃ、アゼルはきっとここまで来る事はできなかったもの―――」
「んな事はどうでもいい」
上条は問う。
「なんで、こんな事をしたんだよ」
「言ったでしょ。
これはゲームだから。この状況は必要なフラグなのよ」
「言ったでしょ。
これはゲームだから。この状況は必要なフラグなのよ」
足をそろえて畳んで地面に座り、アゼルの頭を白い太腿に乗せて、その少女はそう言った。
その物言いに、再度理性が跳びそうになる。
その物言いに、再度理性が跳びそうになる。
「ゲームだと………。それ本気で言ってるのか?」
「ええ。本気よ」
「ええ。本気よ」
冷静に、努めて冷静に上条は言葉を重ねる。
「そんな下んねぇことで、こんな事を引き起こしたのか?」
「下らない。とは言って欲しくないわね。
必要だった。それだけよ」
「下らない。とは言って欲しくないわね。
必要だった。それだけよ」
静かに、空気が帯電する。
まるで零れる寸前にまで水を湛えたグラスのように、何かの切掛けがあれば、表面張力を失って溢れるだろう。
まるで零れる寸前にまで水を湛えたグラスのように、何かの切掛けがあれば、表面張力を失って溢れるだろう。
「アゼルを傷つけてもか?」
「ええ。必要だったから」
「アゼルは大切な存在(ひと)なんだろ?」
「ええ。それでも」
「巫山ッ戯んな!!!」
「ええ。必要だったから」
「アゼルは大切な存在(ひと)なんだろ?」
「ええ。それでも」
「巫山ッ戯んな!!!」
もう一度、上条当麻は爆発した。
「テメェのいうゲームとやらは、大勢の人を殺して、大切な人を悲しませて苦しませて、辛い思いをさせてまで、やんなくちゃいけない事なのかよ!!」
あふれ出した怒りを、止める術はない。
上条の怒号を前に、ベール・ゼファーは何も言わず、慈しむようにアゼルの頭を撫でる。
上条の怒号を前に、ベール・ゼファーは何も言わず、慈しむようにアゼルの頭を撫でる。
「そんなもんの何がゲームだ!! そんなもんに何の意味があるってんだ!!」
唯、瞳だけは真直ぐに、上条を見据える。
口を開きかけ、しかし留まって、一度唾を飲み込み、もう一度話そうとした、そのとき。
口を開きかけ、しかし留まって、一度唾を飲み込み、もう一度話そうとした、そのとき。
「―――上条君? ………ベル?」
朦朧と、意識を取り戻したアゼルが薄っすらと瞼を上げていた。
「アゼルっ!」
安堵と喜びを確かめようと、上条が右手を伸ばす。
その手を、
その手を、
「触れるな! 上条当麻(イマジンブレイカー)ッ!!」
猛烈な剣幕で、ベール・ゼファーが叩き落とした。
「さっきも言ったけど、これ以上アゼルに触らないでくれる?」
本物の魔殺の帯を壊されてしまえば代えは無い。そうなれば、もうどうしようもない。と、ベルは言う。
それと、アゼルに着せた制服は呪錬制服という魔術的強化服であり、此方も幻想殺しの前では紙屑同然である。
ソレを理解して、上条は手を引っ込めた。
それと、アゼルに着せた制服は呪錬制服という魔術的強化服であり、此方も幻想殺しの前では紙屑同然である。
ソレを理解して、上条は手を引っ込めた。
ゆっくりと、身体を起こして、アゼルは周囲を見回す。
状況を把握し、彼女はほっと溜息をついた。
状況を把握し、彼女はほっと溜息をついた。
「良かった。上条君もベルも無事だったんだね」
何よりも先ず、他人(上条とベル)の無事を確認して、そして荒廃の魔王は自分の状態に気が回る。
「これは………、魔殺の帯? どうして―――」
「あたしがすり替えといたのよ」
「あたしがすり替えといたのよ」
それだけで、聡い少女は総てを理解した。理解出来てしまった。
「――――どうして?」
呆然と、呟く。
それ以外に言葉はなく、それ以外は心にない。
その目で見つめられて、蝿の女王はその言葉を口にした。
それ以外に言葉はなく、それ以外は心にない。
その目で見つめられて、蝿の女王はその言葉を口にした。
「理由は二つ。
一つは、魔殺の帯を壊されるわけにはいかなかったから。それはこれから必要に成るもの―――」
一つは、魔殺の帯を壊されるわけにはいかなかったから。それはこれから必要に成るもの―――」
人差し指を一本立てて、次いで中指を立てる。
「そしてもう一つ。それはこの問いを発する為」
超越者の証である黄金の瞳を、ベール・ゼファーは上条に向け、
「上条当麻。アンタはこれで完全に部外者になった。
唯の巻き込まれただけの一般人(被害者)に成り下がった ――――」
唯の巻き込まれただけの一般人(被害者)に成り下がった ――――」
魔殺の帯は戻り、完全ではないものの、死の嵐『荒廃の力』は押さえ込まれた。
そして、魔殺の帯を奪ったのはベール・ゼファー。上条が詰め寄った通りに元凶といえるのはこの目の前の少女。
もう何処にも、上条当麻がアゼル・イヴリスの味方をしなければならない理由など、存在しない。
そして、魔殺の帯を奪ったのはベール・ゼファー。上条が詰め寄った通りに元凶といえるのはこの目の前の少女。
もう何処にも、上条当麻がアゼル・イヴリスの味方をしなければならない理由など、存在しない。
「アンタはもう加害者(アゼル)と同じ所には立っていない。
それでも、アンタは―――」
それでも、アンタは―――」
―――アゼルの味方でいられるの?
人外の色を湛えた瞳で、ベール・ゼファーは上条を見つめる。
「―――」
少しの沈黙を挟んで、上条当麻は息をつく。
唇を開いて、答えようとしたその瞬間。
唇を開いて、答えようとしたその瞬間。
巨大な硝子を砕くような音と共に、空の紅月が砕け散った。
景色が揺らぐ。
広がるのは変わらぬ廃墟、しかし境界の壁は蒼く。
空には両手の指ほどの数の影が、
広がるのは変わらぬ廃墟、しかし境界の壁は蒼く。
空には両手の指ほどの数の影が、
「ちっ……良い所で」
小さく、魔王が舌打ちして。
「此処までだエミュレイター!!
一網打尽にぶち殺してやる!!」
一網打尽にぶち殺してやる!!」
ウィザードの殺気が三人を打った。
7
あふれ出す殺気は、どろりどろりとヘドロのように。
質量を錯覚させて彼ら三人にまとわりついた。
人間とは、ココまでナニカを憎めるのだろうか。
強烈な感情に中てられて、上条当麻は内臓がひっくり返る様な不快感を覚える。
質量を錯覚させて彼ら三人にまとわりついた。
人間とは、ココまでナニカを憎めるのだろうか。
強烈な感情に中てられて、上条当麻は内臓がひっくり返る様な不快感を覚える。
狂笑(えがお)すら見せて、怒り狂うウィザードを、けれどベール・ゼファーは
「ご苦労な事ね。
その内、渋谷の駅前に銅像が建つんじゃない? その忠犬ぶりは」
その内、渋谷の駅前に銅像が建つんじゃない? その忠犬ぶりは」
後ずさるアゼルを支え起し、心の底から詰まらないものを見るような貌で、彼らを見据える。
「忠犬? 何の事だ」
彼は、訝しげに首を傾げた。そうして曰く。
俺たちは、野良犬だ。己の意思でココにいる。
俺たちは、野良犬だ。己の意思でココにいる。
「極上生徒会は、アゼル・イヴリスを拘束しろ。と、命令を変えた。
そんなもの、俺たちは呑まない」
「命令無視かよ!?」
そんなもの、俺たちは呑まない」
「命令無視かよ!?」
驚く声は上条のもの。
しかし、考えてみれば『魔術師』という連中は、ヤニ臭い似非神父しかり露出多過な女教皇しかり、自分の信念以外に興味を持たない生き物ばかりだった。
ナニモイラナイカラ、ワタシノジャマヲスルナ。
そんな、子供みたいな考えを極めた連中が、上条当麻の知る『魔術師』というもの。
だとすれば、彼ら(ナイトウィザード)はどうして、其処までアゼル・イヴリスを憎むのか。
しかし、考えてみれば『魔術師』という連中は、ヤニ臭い似非神父しかり露出多過な女教皇しかり、自分の信念以外に興味を持たない生き物ばかりだった。
ナニモイラナイカラ、ワタシノジャマヲスルナ。
そんな、子供みたいな考えを極めた連中が、上条当麻の知る『魔術師』というもの。
だとすれば、彼ら(ナイトウィザード)はどうして、其処までアゼル・イヴリスを憎むのか。
「言っただろう? 上条当麻。
俺は被害者だ。加害者を憎んで何が悪い―――」
俺は被害者だ。加害者を憎んで何が悪い―――」
ウィザードは語る。
マジカルウォーフェアと呼ばれる戦争の一幕を。
土星圏での惨劇と悲劇を。
マジカルウォーフェアと呼ばれる戦争の一幕を。
土星圏での惨劇と悲劇を。
「あの戦場で、星々の海で、ただ一人生き残った俺だけは―――。
決して、そこの怪物を許すわけにはいかない」
決して、そこの怪物を許すわけにはいかない」
なんて解り易い、個人的な理由(うらみ)。
ナニモイラナイカラ、オレノジャマヲスルナ。
告げるウィザード。己と同じでありながら、全く正反対の相手。
加害者の理由だとか過程だとか、内心だとか行動だとか、最終的にそう言ったモノで救われるのは、横で見ているだけの傍観者だけ。
どちらの当事者にとっても、ソレが救いになる事は無い。
上条が何を言おうと、最初からその言葉が届くはずも無かったのか―――?
ナニモイラナイカラ、オレノジャマヲスルナ。
告げるウィザード。己と同じでありながら、全く正反対の相手。
加害者の理由だとか過程だとか、内心だとか行動だとか、最終的にそう言ったモノで救われるのは、横で見ているだけの傍観者だけ。
どちらの当事者にとっても、ソレが救いになる事は無い。
上条が何を言おうと、最初からその言葉が届くはずも無かったのか―――?
苦しげに、上条当麻はウィザードを見る。
それに、
それに、
「ばっかじゃないの?」
蝿の女王は心底馬鹿にした口調で、そう言った。
ザワリ。と、空気が蠢く。
爆発寸前の爆弾を、気化したガソリンに放り込んだ様な剣呑さ。
意にも解さず。
意にも解さず。
「なんつーかね。あたしもさ、馬鹿って嫌いじゃないのよ。
ソコのソレ(かみじょうとうま)とか、アソコのアレ(ひいらぎれんじ)とかね。観てて面白いもの。
でもさ、アンタのソレは面白いけど、酷く不愉快だわ。
そうねえ―――。巷に溢れているクズ芸人みたいなもんかしら? 滑稽なマネをしなければ笑いを取れない三流共―――」
ソコのソレ(かみじょうとうま)とか、アソコのアレ(ひいらぎれんじ)とかね。観てて面白いもの。
でもさ、アンタのソレは面白いけど、酷く不愉快だわ。
そうねえ―――。巷に溢れているクズ芸人みたいなもんかしら? 滑稽なマネをしなければ笑いを取れない三流共―――」
本物の芸人と言うのは、ただ喋っているだけで人を笑わせる(たのしませる)ものだ。と、
比喩表現(はつげん)の意図が掴め無いウィザードを憐れみながら、
比喩表現(はつげん)の意図が掴め無いウィザードを憐れみながら、
「アンタは滑稽なの。見てて可哀想になるぐらい。
そんな見当違いの信念(いかり)を掲げて、あまつさえあたしの所有物(モノ)に手を出そうなんてさ――ホント、いい加減してくれない?」
そんな見当違いの信念(いかり)を掲げて、あまつさえあたしの所有物(モノ)に手を出そうなんてさ――ホント、いい加減してくれない?」
呪ってやる。
魔王は低く笑い。そして、告げた。
魔王は低く笑い。そして、告げた。
―――アンタさ、一体何時からロンギヌスやってんのよ。
「 。え?」
何を言われたのか解らない。と、ウィザード葛葉亨は間抜けな声をあげた。
呑み込むまで数瞬。
葛葉亨が、ロンギヌスに名を連ねたのは、マジカルウォーフェアで減った補充人員として。
ソレがどうした。と、いったい何が言いたいんだ。と、応えようとして、
呑み込むまで数瞬。
葛葉亨が、ロンギヌスに名を連ねたのは、マジカルウォーフェアで減った補充人員として。
ソレがどうした。と、いったい何が言いたいんだ。と、応えようとして、
(なに?)
小さな引っ掛かりに息を呑んだ。
その隙間に滑り込むように、
その隙間に滑り込むように、
―――アンタが『学園迷宮(スクールメイズ)』に放り込まれたのって何でだっけ?
魔王は、そんな問いを重ねてきた。
ソレは、ウィザードとしての研修のために。ロンギヌスになってから日の浅い自分たちは、もっと経験を積まねばならない。
そう、冥魔『夜闇よりも冥きもの』の時のように。
ソレは、ウィザードとしての研修のために。ロンギヌスになってから日の浅い自分たちは、もっと経験を積まねばならない。
そう、冥魔『夜闇よりも冥きもの』の時のように。
(??)
口には出せない。答えを思い浮かべる度、激しくなる違和感が唇を縫い付ける。
―――アンタが、アンゼロットに『学園迷宮』に送り込んだのは何で?
アンゼロット。
現在第三世界に出張している、第八世界の本当の守護者。
それは答えるまでも無い。それこそ冥魔に関わる事件だからだ。
彼の高名な魔剣使い、柊蓮司と、現守護者代行、赤羽くれはと共に、そしてこの魔王ベール・ゼファーともそこでまみえたのが初見の筈だ。
現在第三世界に出張している、第八世界の本当の守護者。
それは答えるまでも無い。それこそ冥魔に関わる事件だからだ。
彼の高名な魔剣使い、柊蓮司と、現守護者代行、赤羽くれはと共に、そしてこの魔王ベール・ゼファーともそこでまみえたのが初見の筈だ。
それは、様々な思惑の絡み合った事件であった。
守護者アンゼロットは策のため、当時――と言ってもそれほど昔の事ではなく、今と変わらず三下だった自分たちを任務に就けたのだった。
其処には、成長を願った部分もあったそうだが―――柊蓮司のように世界を救えるようなウィザードになれるように。
上品に罵倒されて、内心泣きそうだったのは秘密だ。
守護者アンゼロットは策のため、当時――と言ってもそれほど昔の事ではなく、今と変わらず三下だった自分たちを任務に就けたのだった。
其処には、成長を願った部分もあったそうだが―――柊蓮司のように世界を救えるようなウィザードになれるように。
上品に罵倒されて、内心泣きそうだったのは秘密だ。
(???)
なんだろう。ナニカが引っかかる。悪魔の言葉など聞いてはいけないのに、ナニカが心をつかんで離さない。
思考の海が広がる。
いったい何が引っかかっているのか、一体ナニに違和感を覚えているのか。
思考の海が広がる。
いったい何が引っかかっているのか、一体ナニに違和感を覚えているのか。
葛葉亨は、ウィザードだ。
所属は超時空多次元機甲特務武装黄金天翼神聖魔法騎士団。通称ロンギヌス。
常に、人間の世界を奪いに来るエミュレイターとの戦いの最前線にでる部隊にいる事は、彼の誇りだった。
そして、この学園世界でも彼は魔王がらみの任務についていた。
学園世界に入り込んできた二体の魔王。その魔王の監視が、その任務の内容だった。
所属は超時空多次元機甲特務武装黄金天翼神聖魔法騎士団。通称ロンギヌス。
常に、人間の世界を奪いに来るエミュレイターとの戦いの最前線にでる部隊にいる事は、彼の誇りだった。
そして、この学園世界でも彼は魔王がらみの任務についていた。
学園世界に入り込んできた二体の魔王。その魔王の監視が、その任務の内容だった。
そして、その日が来た。
異世界の街に吹き荒れたのは、プラーナを収奪する死の嵐。魔王アゼル・イヴリスが荒廃の力。
絶好の機会であった。
裏界の最終兵器たる荒廃の魔王を斃す。それは、第八世界の平和の為に、意義のあること。
世界を護るウィザードとして、命を懸けて成し遂げねばならないことだった。
絶好の機会であった。
裏界の最終兵器たる荒廃の魔王を斃す。それは、第八世界の平和の為に、意義のあること。
世界を護るウィザードとして、命を懸けて成し遂げねばならないことだった。
『そして何より、希望の宝玉を廻る土星会戦で散った同僚たちの仇をとるためには、この機会を逃すわけには行かなかった』
そうだ、だから、ウィザードとしてだけではなく個人としてもあの怪物を許す事はできなかった。
そうでなければ、絶対である命令に逆らったりはしない。
この胸にある虚。其処に満たされた怒りは、押さえようがなかった。
そうでなければ、絶対である命令に逆らったりはしない。
この胸にある虚。其処に満たされた怒りは、押さえようがなかった。
だから―――
矛盾を噛殺す。
違和感を踏み潰す。
アゼル・イヴリスを殺す。
この胸の虚に、渦巻く憎悪は止められない。
それが、なければ―――
違和感を踏み潰す。
アゼル・イヴリスを殺す。
この胸の虚に、渦巻く憎悪は止められない。
それが、なければ―――
「くだらない」いらいらと「結局ソコに落ち着くわけ?」
ベール・ゼファーは呟いた。
「はっきり言わないと解らないようだから、言葉にしてあげる」
死神の鎌を振り下ろす冷酷さで、
「幻想殺しも無いアンタが、荒廃の力を潜り抜けられると思ってんの?」
冷徹な真理を舌に乗せた。
鉄は熱いうちに鍛て。冷え固まれば、最早砕く事しかできないのだから。
鉄は熱いうちに鍛て。冷え固まれば、最早砕く事しかできないのだから。
バキン。と、何かが壊れるような音がした。
『荒廃の魔王』アゼル・イヴリス。
裏界の荒野に佇む孤独な魔王。周囲から無差別にプラーナを奪い取るが故に、同じ侵魔たちからも忌み嫌われる怪物。
身体に巻く帯状結界で能力を抑制したところで、完全に押さえ込む事ができるわけではなく、そのチカラは視認できる距離に近づいただけで並みのウィザードを消し飛ばす。
だから、土星戦役では数多くのウィザードがその力の餌食になった。
葛葉亨の『同僚』もまた。一切の矛盾もなくそのチカラはスベテを喰らう。
裏界の荒野に佇む孤独な魔王。周囲から無差別にプラーナを奪い取るが故に、同じ侵魔たちからも忌み嫌われる怪物。
身体に巻く帯状結界で能力を抑制したところで、完全に押さえ込む事ができるわけではなく、そのチカラは視認できる距離に近づいただけで並みのウィザードを消し飛ばす。
だから、土星戦役では数多くのウィザードがその力の餌食になった。
葛葉亨の『同僚』もまた。一切の矛盾もなくそのチカラはスベテを喰らう。
―――だとすれば、なぜ、葛葉亨は生きている。
「それが、矛盾?」
気付いてしまえば、後は容易い。
刻まれた溝が川になるように。
そもそも、新米ロンギヌスの自分が、どうして土星戦役に参加していたんだ。とか目を凝らせば、穴は幾らでも浮かび上がってきた。
刻まれた溝が川になるように。
そもそも、新米ロンギヌスの自分が、どうして土星戦役に参加していたんだ。とか目を凝らせば、穴は幾らでも浮かび上がってきた。
だとすれば、この胸の虚も其処に渦巻く憎悪も、スベテ―――
「まさか。一体誰が、何のために―――」
「考えれば判るでしょ? アゼルを殺させるために」
「考えれば判るでしょ? アゼルを殺させるために」
ウィザードが魔王を斃すのは当然であり。その事実が都合の良いダレカが。
「そんな記憶など、俺には―――」
ない。と、応える前に答えに気づいた。
「―――the dream hunter」
それは『夢使い』と、分類される魔法使い。
幻想と精神を操る彼らならば―――、在り得ない記憶を刻み込む事も、その逆もまた、容易だろう。
人であるウィザードに可能なら、人ならざる悪魔であるのなら、
その異能(チカラ)は、<偽りの記憶>という。
幻想と精神を操る彼らならば―――、在り得ない記憶を刻み込む事も、その逆もまた、容易だろう。
人であるウィザードに可能なら、人ならざる悪魔であるのなら、
その異能(チカラ)は、<偽りの記憶>という。
「嘘だ――……」
それは、致命的なまでの、破滅(呪い)だった。
立脚点を否定される。
ガラガラと、崩れ落ちる様な音がする。
立脚点を否定される。
ガラガラと、崩れ落ちる様な音がする。
「嘘だ嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁあああああああああッ!!」
ウィザードの絶叫は、灼熱の妖光、月匣を砕く轟音に、熔けて消えた。
8
蒼色をした境界線が砕ける。
魔法使いの月匣は、地獄を遮る板子の床。
犇き蠢く悪鬼羅刹。吹き荒れる咆哮は求める声。命を望む亡者の怨嗟。
檻を外され、ケダモノたちが踊り嗤う。
魔法使いの月匣は、地獄を遮る板子の床。
犇き蠢く悪鬼羅刹。吹き荒れる咆哮は求める声。命を望む亡者の怨嗟。
檻を外され、ケダモノたちが踊り嗤う。
ゆらり。と、熱波に景色が揺れた。
陽炎の向うから現れる、小さな影。
金糸を梳いた髪を二つに括り、飾りの鈴をぶら下げた少女。年のころは十三か、十四。白い小袖に緋袴という、上条当麻に同級生を髣髴とさせる服装。
素直に巫女服と表現できないのは、足全体を覆う緋袴が膝の上で断ち切られ、プリーツの入ったスカートのように見えるからか。
何にせよ、奇妙な少女と評しても間違いではない。
金糸を梳いた髪を二つに括り、飾りの鈴をぶら下げた少女。年のころは十三か、十四。白い小袖に緋袴という、上条当麻に同級生を髣髴とさせる服装。
素直に巫女服と表現できないのは、足全体を覆う緋袴が膝の上で断ち切られ、プリーツの入ったスカートのように見えるからか。
何にせよ、奇妙な少女と評しても間違いではない。
「パール・クール……」呆然とアゼルが「そんな、自分から出てくるなんて―――」
ちりん。と、髪留めの鈴が涼やかな音を立てた。
少女は、パール・クールは笑っている。唇の両端を吊り上げて、三日月のように口元が裂けていた。
少女は、パール・クールは笑っている。唇の両端を吊り上げて、三日月のように口元が裂けていた。
「まったく、使えない犬よね。高々人形一つ壊せないなんて―――」
結局私が出て来なくちゃいけなくなったじゃない。
無邪気に邪悪に嗤われているのは、上条ではなかった。
灼けて熔けた地面を挟み、そそり立つ光の壁。防御魔法の輝きの向うに、立ち尽くすウィザード。
無邪気に邪悪に嗤われているのは、上条ではなかった。
灼けて熔けた地面を挟み、そそり立つ光の壁。防御魔法の輝きの向うに、立ち尽くすウィザード。
葛葉亨。
犬と呼ばれた監視部隊のウィザードは、焼け焦げた身体で新たな魔王を見る。
犬と呼ばれた監視部隊のウィザードは、焼け焦げた身体で新たな魔王を見る。
「おまえは、何を言っている」
全身が赤く、何処か白っぽい。
典型的な温熱熱傷の症状。人間の皮膚は約四五℃の温度で熱傷になり、七〇℃以上の高熱に曝されると一秒で組織の崩壊が始まる。
深度Ⅱと呼ばれる症状。
今の彼は、全身に強い痛みと灼熱感に苛まれている筈だ。
すぐにでも治療をしなければ、命に関わるだろう大怪我で、しかし彼は、
典型的な温熱熱傷の症状。人間の皮膚は約四五℃の温度で熱傷になり、七〇℃以上の高熱に曝されると一秒で組織の崩壊が始まる。
深度Ⅱと呼ばれる症状。
今の彼は、全身に強い痛みと灼熱感に苛まれている筈だ。
すぐにでも治療をしなければ、命に関わるだろう大怪我で、しかし彼は、
「答えろ! パール・クール!!」
その手の槍を、魔王に向けた。
言葉で否定されても、感情は付いていかない。
この胸に抱く虚。ソコに渦巻く憎悪と怒り。
それは、どうしようもない恐怖に取って代わった。
この胸に抱く信念が砕かれる事の方が恐ろしい。と、このどうしようもない感情の波は何処にぶつければいいのか、と。
一瞥する魔王を睨みつけ、
言葉で否定されても、感情は付いていかない。
この胸に抱く虚。ソコに渦巻く憎悪と怒り。
それは、どうしようもない恐怖に取って代わった。
この胸に抱く信念が砕かれる事の方が恐ろしい。と、このどうしようもない感情の波は何処にぶつければいいのか、と。
一瞥する魔王を睨みつけ、
魔法の光に飲み込まれた。
再び吹き荒れる熱光波。見えない力の壁が軋み、閃光に目を閉じた上条は、サウナに放り込まれたかの様な錯覚に襲われる。
光が収まり、静寂が戻った。攻撃そのものは一秒にも満たず、薄っすらと目を開ければ、
光が収まり、静寂が戻った。攻撃そのものは一秒にも満たず、薄っすらと目を開ければ、
「ふん、狗の分際でご主人様に歯向かってるんじゃないわよ」
あっさりと、魔法使いの姿はソコから消え去っていた。
「―――――」
あまりの事に、言葉が出ない。
いままで目の前で喋っていた人間が、一瞬で消え去った。
冗談か、悪夢であるといわれれば、そちらの方が納得し易いほどに
いままで目の前で喋っていた人間が、一瞬で消え去った。
冗談か、悪夢であるといわれれば、そちらの方が納得し易いほどに
コロサレタ。
メノマエデヒトガコロサレタ。
メノマエデヒトガコロサレタ。
瞬間、上条当麻は絶叫を放っていた。
魔王は五月蝿げに視線を流す。
魔王は五月蝿げに視線を流す。
「何? 何であんたが怒るのよ。アレはあんたの敵でしょ? 片付けてやったんだから涙でも流して感謝しなさいよ。
ありがとうございますパール様、このご恩は一生忘れません。ってね」
ありがとうございますパール様、このご恩は一生忘れません。ってね」
咽の奥から這い出す、言葉にならぬ感情。
視界が白濁する。聴覚が遠ざかる。
灼熱する脳髄の深奥。その熱に導かれるまま、上条の足が大地を蹴った。
後であがる制止の声も届かない。激情に駆られるがまま間合いを詰める。硬く握った右手を叩き付けるために。
一秒でも早く、この巫山戯けた餓鬼を殴り飛ばす為に。
視界が白濁する。聴覚が遠ざかる。
灼熱する脳髄の深奥。その熱に導かれるまま、上条の足が大地を蹴った。
後であがる制止の声も届かない。激情に駆られるがまま間合いを詰める。硬く握った右手を叩き付けるために。
一秒でも早く、この巫山戯けた餓鬼を殴り飛ばす為に。
魔王は動かない。
人間の拳など脅威ではないという事か。
それでも、何体かの下級侵魔が主を庇うように前に出た。
夫々に鉈のような大爪を振り上げる。一撃で人の頭など西瓜のように砕くであろう打撃。
上条の足は止らない。
人間の拳など脅威ではないという事か。
それでも、何体かの下級侵魔が主を庇うように前に出た。
夫々に鉈のような大爪を振り上げる。一撃で人の頭など西瓜のように砕くであろう打撃。
上条の足は止らない。
瞬殺。
軽い右手のジャブ。連射された上条の拳に触れた瞬間、黒い悪魔は霞と消える。
その光景に、魔王は多少驚いたのか、先程よりも眼を見開いていた。
踏込む。
突進を、無理矢理に止めた左足の負荷を、腰を回し肩を入れて、この右拳の威力に加算する。
その光景に、魔王は多少驚いたのか、先程よりも眼を見開いていた。
踏込む。
突進を、無理矢理に止めた左足の負荷を、腰を回し肩を入れて、この右拳の威力に加算する。
ゴッ!! と、上条の拳が空気を裂いた。
何を感じたか、咄嗟に両腕を掲げて防御した魔王の両脚が、大地を離れる。
数メートル吹き飛ばされた魔王は、一瞬の空白を挟んで怒りに染まる。
何を感じたか、咄嗟に両腕を掲げて防御した魔王の両脚が、大地を離れる。
数メートル吹き飛ばされた魔王は、一瞬の空白を挟んで怒りに染まる。
「人間の分際でッ!!」
「テメェはッ!! 人の命を何だと思ってやがるッ!!!」
「テメェはッ!! 人の命を何だと思ってやがるッ!!!」
爆発した。
そうとしか表現できない怒号は、悪魔を前にして見当違いも甚だしい。だからこそ力のこもった人間の咆哮。
呆気にとられたパール・クールは、一瞬、怒りを忘れた。
そんな馬鹿馬鹿しい事を、正面きってぶちまける人間など、終ぞ見たことは無かったのだから。
そうとしか表現できない怒号は、悪魔を前にして見当違いも甚だしい。だからこそ力のこもった人間の咆哮。
呆気にとられたパール・クールは、一瞬、怒りを忘れた。
そんな馬鹿馬鹿しい事を、正面きってぶちまける人間など、終ぞ見たことは無かったのだから。
「エサよ」
だから応えた。
「私たちは喰らうもの、あんたたちは餌。
あんただって見てたでしょうが、ソコのアゼル・イヴリスが街一つを食い尽くすところを。
私がやったことと、そいつのやったこと、何が違うのよ」
あんただって見てたでしょうが、ソコのアゼル・イヴリスが街一つを食い尽くすところを。
私がやったことと、そいつのやったこと、何が違うのよ」
「―――ねぇよ……」
震えながら、上条は言う。
「テメェとアゼルを一緒にするんじゃねぇよ!!」
「へぇ、ソレと私と、一体何処が違うのかしら? そもそも、アンタはソレの何を知ってるのよ」
「へぇ、ソレと私と、一体何処が違うのかしら? そもそも、アンタはソレの何を知ってるのよ」
危険な響きを含ませて、パール・クールは呟く。
「知ってるさ。
たった数時間だけどな。俺はアゼルと一緒に居たんだから」
たった数時間だけどな。俺はアゼルと一緒に居たんだから」
目の前には強大な魔王。
恐らくは、夏の海で出会った天使にも、勝るとも劣らぬ超越者。
恐らくは、夏の海で出会った天使にも、勝るとも劣らぬ超越者。
「コイツは人を殺した。数え切れないくらい沢山の人を。悲しませた人の数はきっとそれ以上だ」
罪は消えない。ソレが自分の意思ではなかったとしても、その事実が多少なりとも救いとなるのは横で眺めている傍観者だけだ。
「でもな、知ってるんだ、ソレが許されないコトだって。
被害者と加害者が明確な以上、どんな事情があったって一切の感情移入を否定されるべき怪物なんだって―――」
被害者と加害者が明確な以上、どんな事情があったって一切の感情移入を否定されるべき怪物なんだって―――」
だから、苦しいのだ。
だから、これ以上被害を出したくなくて、それでも関係の無い高校生を巻き込んでしまって。それが、更に苦しくて、護りたくて、その身に刻む傷すら、その命すら些細な事で。
だから、これ以上被害を出したくなくて、それでも関係の無い高校生を巻き込んでしまって。それが、更に苦しくて、護りたくて、その身に刻む傷すら、その命すら些細な事で。
「もう一度言う、巫山戯んな。お前の何が、何処と同じなんだ!!」
この数時間、上条はアゼルと共に居た。
だから知っている。彼女がどれだけ悲しんでいたか、苦しんでいたか。
決して表には出さなかったけれど、それでも肌で感じていた。
だから知っている。彼女がどれだけ悲しんでいたか、苦しんでいたか。
決して表には出さなかったけれど、それでも肌で感じていた。
罪を罪と知る者と、力を理由に正当化する者。
その差異は僅かだろう。
しかし、その紙一重は、明らかな断絶だった。
だから、被害者に成り下がった上条当麻は、ソレでもアゼル・イヴリスの味方を出来る。
しかし、その紙一重は、明らかな断絶だった。
だから、被害者に成り下がった上条当麻は、ソレでもアゼル・イヴリスの味方を出来る。
「アゼルを―――」
上条は、溢れる感情を込めて、金の髪をした魔王を睨みつける。
「テメェみたいなバケモノと一緒にするんじゃねぇ!!」
行間 六
「アゼルを―――テメェみたいなバケモノと一緒にするんじゃねぇ!!」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の心に溢れたのは歓喜だった。
ある程度予想はしていた、恐らくは、上条当麻ならばそう応えるだろうと。
けれど、人の心などこの世で一番解らないもの、上条のような人種になれば尚更のこと。
ある程度予想はしていた、恐らくは、上条当麻ならばそう応えるだろうと。
けれど、人の心などこの世で一番解らないもの、上条のような人種になれば尚更のこと。
だから―――完全にフラグが立った事を、『蝿の女王』ベール・ゼファーは心から喜んでいた。
これで必要なものはすべて揃った。長い時間をかけて準備してきたものが実を結んだ。
その達成感、充足感が血管を駆け巡る。
その達成感、充足感が血管を駆け巡る。
成長が喪失の回復であるのなら、それをもたらすのは、希望ではなく絶望。
けれど、失っている事すら知らなかった。
だからこそ、これでお膳立ては十分。
ここでやるべき事は全て終わった。だからこそ、役の跳ねた演者には早々に舞台から去ってもらわなければ。
けれど、失っている事すら知らなかった。
だからこそ、これでお膳立ては十分。
ここでやるべき事は全て終わった。だからこそ、役の跳ねた演者には早々に舞台から去ってもらわなければ。
人間に正面から怒鳴りつけられて、パール・クールは目を白黒とさせていた。
当然か、魔王相手に此処まで言う人間など、第八世界には居そうにない。
あの柊蓮司だって、魔王=捕食者と言う構図(だいぜんてい)に、文句をつけるような事はしないだろう。
当然か、魔王相手に此処まで言う人間など、第八世界には居そうにない。
あの柊蓮司だって、魔王=捕食者と言う構図(だいぜんてい)に、文句をつけるような事はしないだろう。
全く、馬鹿は愉しい。
小さく微笑んで、息をつく。
―――名残惜しいが幕を引こう。
成すべき事は総て成した。後はスタッフロールに名を連ねるだけ。
成すべき事は総て成した。後はスタッフロールに名を連ねるだけ。
変わらず笑みを浮かべながら、ベール・ゼファーは腕を振るった。