嘘予告 ~悪夢を紡ぐもの~
「ここは……一体?」
そこは、教室。
「はわ……なんでこんなところに?」
ごくありきたりな、何の変哲もない教室。
「私にも、何がなんだか……」
ただ、普通と違うのは。
「おかしいですね、ここに来た理由とか経緯とか、さっぱり思い出せません……」
そこに目覚めた数人の男女が。
「っていうか……自分が誰かも思い出せないんですけどぉ~!!」
すべて記憶を失っていたという事と。
「……扉も窓も、すべて閉まっていてびくともしない。脱出は不可能と考えるべき」
その教室が、不可思議な力で閉鎖されているという事。
「あちゃあ……なんかヤバイってかんじ?」
そんな彼らを、煌々と輝く月のみが静かに見下ろしていた。
「はてさて。一体何の因果なのやら……」
一際大きく輝く、真っ赤な月のみが。
外に出ようと言う試みも、外部と連絡を取ろうと言う試みも全て徒労に終わる。
互いに事情を話そうにも、記憶が全て抜け落ちていて、それすらままならない。
唯一の進展は、呼び合うのための便宜的な名前をつけあったことのみ。
互いに事情を話そうにも、記憶が全て抜け落ちていて、それすらままならない。
唯一の進展は、呼び合うのための便宜的な名前をつけあったことのみ。
「まったく……なんだってんだ一体全体?!」
一人は険のある青年。指貫グローブにジャケットに茶髪の”先輩”。
「はわー、不思議なこともあるもんだねぇ」
一人はどこかのんびりとした女性。”はわ”が口癖な、巫女装束にバッシュの”巫女さん”。
「私たち……帰れるんでしょうか……?」
一人は不安げな少女。白ブレザーにマスケット帽とリボンの”転校生”。
「今の私たちに出来ることはありませんし、とにかく救助を待ちましょう」
一人は真面目な印象の少女。眼鏡の面差しも鋭い黒ブレザーの”委員長”。
「うーん、私バイトがあるんですけどねぇ……いえ、良く覚えてないんですが~」
一人は明るい少女。そこかしこに生活臭を感じられる同じく黒ブレザーの”苦学生”。
「………………………………」
一人は無口な少女。長い赤毛と年齢不相応な落ち着きが印象深い同じく黒ブレザーの”赤毛”。
「なんでこんな事になってるのかなぁ……」
一人は快活な少女。短く揃えられた神とくるくる変わる表情が印象深い三人と同じ黒ブレザーの”姉御”。
「やはり、失われた記憶を取り戻すことが、必要なのでしょう」
一人は異相の男性。この閉鎖された空間に、あとから踏み込んできた唯一の男。
「……やっぱりアンタ、なにか事情を知ってるんじゃねぇか?」
「いえいえ。私は当時者ではないので、なんとも……
真(まこと)と理(ことわり)は、皆さん自身に思い出していただかねば……」
真(まこと)と理(ことわり)は、皆さん自身に思い出していただかねば……」
「なんだそりゃ?」
派手な柄の着物に顔を覆う黄色の隈取、長い髪を頭巾でまとめ行李を背負った下駄履きの”薬売り”。
「閉鎖空間を作り出す”ぬりかべ”、
目をくらませ記憶を封じる”砂かけ婆ぁ”、
どちらの様でもありますが、どちらとも違う……」
”薬売り”の手にある金色の剣の柄頭、顔の形をした拵えは、歯をかすかに揺らすが、それだけだ。
「ならばこのモノノ怪の形(かたち)とは? どうにも正体がつかめません」
「空にも”一反木綿”が飛んでもいねぇし、”子泣き爺”や”猫娘”や”ネズミ男”がひそんでいそうにもねぇし、
ついでに目玉が茶碗で一っ風呂浴びてたりもしねぇな」
「おや、お詳しい」
「まぁ、日本人ならな」
「なんにせよ、私がこの退魔の剣を抜くには、モノノ怪の形と真と理とを剣に示さねばなりません」
「”まこと”と……”ことわり”?」
「真とは、事の有様。
理とは、心の有様。
それを明らかにして、初めてこの事態は解決できましょう。
―――ならば!
思い出せる範囲で構いません。
皆々様の、真と理を、お聞かせ願いたく候!」
突き出した剣にあつらえられた鈴が、しゃんと鳴る。
目をくらませ記憶を封じる”砂かけ婆ぁ”、
どちらの様でもありますが、どちらとも違う……」
”薬売り”の手にある金色の剣の柄頭、顔の形をした拵えは、歯をかすかに揺らすが、それだけだ。
「ならばこのモノノ怪の形(かたち)とは? どうにも正体がつかめません」
「空にも”一反木綿”が飛んでもいねぇし、”子泣き爺”や”猫娘”や”ネズミ男”がひそんでいそうにもねぇし、
ついでに目玉が茶碗で一っ風呂浴びてたりもしねぇな」
「おや、お詳しい」
「まぁ、日本人ならな」
「なんにせよ、私がこの退魔の剣を抜くには、モノノ怪の形と真と理とを剣に示さねばなりません」
「”まこと”と……”ことわり”?」
「真とは、事の有様。
理とは、心の有様。
それを明らかにして、初めてこの事態は解決できましょう。
―――ならば!
思い出せる範囲で構いません。
皆々様の、真と理を、お聞かせ願いたく候!」
突き出した剣にあつらえられた鈴が、しゃんと鳴る。
晴れることのない不安。
じりじりと歩み寄る焦燥。
”薬売り”が天秤や呪符を配置するが、あちらこちらを指し示しなんの役にも立たない。
先の見えない監禁状態に、次第に彼らも口を閉ざしていく。
救助は? 外部からの連絡は? なんでもいい、いっそ何か起きてくれ……!
じりじりと歩み寄る焦燥。
”薬売り”が天秤や呪符を配置するが、あちらこちらを指し示しなんの役にも立たない。
先の見えない監禁状態に、次第に彼らも口を閉ざしていく。
救助は? 外部からの連絡は? なんでもいい、いっそ何か起きてくれ……!
……その切なる願いは、叶えられる。
最悪の形で。
最悪の形で。
「?!」
「きゃ?」
「動かないで」
「きゃ?」
「動かないで」
不意に消える照明。窓の外で煌々と輝く赤い月は、しかし教室内を照らさない。
そして消えた時と同じように、不意にともる照明。
そして消えた時と同じように、不意にともる照明。
「あ、戻った」
「よかったぁ……」
「あれ?」
「どうした?」
「……”巫女さん”がいません」
「あ……本当ですね」
「どこ行ったんでしょうか?」
「というか、どこか行けるんでしょうか?」
「それもそうよね。じゃあ、どっかに隠れてたりとか?」
「………………………廊下に、誰かいる」
「え?」
「?!!」
「「「きゃああああああああああああああああ!!」」」
「よかったぁ……」
「あれ?」
「どうした?」
「……”巫女さん”がいません」
「あ……本当ですね」
「どこ行ったんでしょうか?」
「というか、どこか行けるんでしょうか?」
「それもそうよね。じゃあ、どっかに隠れてたりとか?」
「………………………廊下に、誰かいる」
「え?」
「?!!」
「「「きゃああああああああああああああああ!!」」」
そこに倒れ伏すのは、袈裟懸けに斬られた”巫女さん”。
教室の中からでは、その生死は判らない。
教室の中からでは、その生死は判らない。
「な、なんだ?! なんでこんなことに!?」
「……気配は、なかった」
「おい! 大丈夫か! ”巫女さん”!! おい! 返事をしやがれ!!」
「……気配は、なかった」
「おい! 大丈夫か! ”巫女さん”!! おい! 返事をしやがれ!!」
必死に窓を叩く”先輩”。だが、窓は無情にも、びくともすることはない。
「おい”薬売り”さんよ! なんとか助けられねぇか?!」
「……手当てをしようにも、ここが開かないことには……」
「くそ!」
「それよりも……”先輩”、お尋ねしますが」
「なんだよ、こんな時に?!」
「その手に持っているのは……なんですか?」
「手? ……!!」
「……手当てをしようにも、ここが開かないことには……」
「くそ!」
「それよりも……”先輩”、お尋ねしますが」
「なんだよ、こんな時に?!」
「その手に持っているのは……なんですか?」
「手? ……!!」
いつの間にかその手に握られていたのは、禍々しいまでの鋭い光を放つ長剣。
思わず手放し床に転がったそれは、しかし澄んだ音を響かせる。
その刀身は、静かに赤い月光を反射し佇むのみ。
思わず手放し床に転がったそれは、しかし澄んだ音を響かせる。
その刀身は、静かに赤い月光を反射し佇むのみ。
「”先輩”……まさか、あなたが……?」
「ち、違う! 俺はそんなことやったり」
「ち、違う! 俺はそんなことやったり」
しかしそこで脳裏に走る光景。
どことも知れぬ荒野。
互いに満身創痍の体で、彼の握る剣が、巫女装束姿の少女の肩口に叩き込まれている。
彼に手に蘇る、肉を裂き骨を叩き割った感触。
どことも知れぬ荒野。
互いに満身創痍の体で、彼の握る剣が、巫女装束姿の少女の肩口に叩き込まれている。
彼に手に蘇る、肉を裂き骨を叩き割った感触。
「俺は……俺が……?」
「お気を確かに、”先輩”さん。まだ、そうと決まったわけでは、ありませんよ?」
「だけどっ……! 俺の手には、アイツを斬った感触がはっきりと……!」
「お気を確かに、”先輩”さん。まだ、そうと決まったわけでは、ありませんよ?」
「だけどっ……! 俺の手には、アイツを斬った感触がはっきりと……!」
混乱する”先輩”。だが、その真偽を確かめる暇もなく、次々と起こる惨劇。
胸の中心を貫かれた”苦学生”。
一刀の元に斬り伏せられた”赤毛”。
照明が消えるたびに一人ずつ消え、無残な姿を晒す。
自分は断じてやっていない。転がった剣には、指一本触れていないし、剣は転がした場所から動いてもいない。
だがしかし、彼のその手には、たしかに”それ”を行なった感触が残っている。
胸の中心を貫かれた”苦学生”。
一刀の元に斬り伏せられた”赤毛”。
照明が消えるたびに一人ずつ消え、無残な姿を晒す。
自分は断じてやっていない。転がった剣には、指一本触れていないし、剣は転がした場所から動いてもいない。
だがしかし、彼のその手には、たしかに”それ”を行なった感触が残っている。
「私……思い出したことがあるんです……!
私……生きてると皆にすごい迷惑をかけるって言われて……死ぬように言われて!
でも、死ねなかったんです!
死ぬのが怖くて……逃げ出しちゃったんです!」
”転校生”の、悲痛な叫び。しかし、彼女の恐怖は、その先にあった。
「この話……”巫女さん”も、”赤毛”さんもしてたんです!」
ぎゅっと、自分の身体を抱きしめる”転校生”。
「もしかして……このことを思い出した人から、殺されちゃうんですか?!」
彼女の、恐怖に濡れるすがるような瞳から目を晒せず、しかし何も言葉をかけてやることの出来ない”先輩”。
私……生きてると皆にすごい迷惑をかけるって言われて……死ぬように言われて!
でも、死ねなかったんです!
死ぬのが怖くて……逃げ出しちゃったんです!」
”転校生”の、悲痛な叫び。しかし、彼女の恐怖は、その先にあった。
「この話……”巫女さん”も、”赤毛”さんもしてたんです!」
ぎゅっと、自分の身体を抱きしめる”転校生”。
「もしかして……このことを思い出した人から、殺されちゃうんですか?!」
彼女の、恐怖に濡れるすがるような瞳から目を晒せず、しかし何も言葉をかけてやることの出来ない”先輩”。
血塗れの少女たちが、”先輩”ににじり寄る。
「違う……! 俺は、俺は殺すつもりなんて!」
「落ち着いて、落ち着いてください、”先輩”さん」
「え? あ……今のは……夢、なのか?」
「ええ、夢です。ですから、落ち着いて」
「あ、ああ……」
「ですが」
「ん?」
「夢とは言え、あなたの記憶の一部。あなたの取り戻すべき記憶は、
そして私の探す真と理は、その先にあるはず」
「……向き合う必要もあるってことか」
「ええ、その記憶の、何が真実で何が幻か。見極めるべきかと」
「違う……! 俺は、俺は殺すつもりなんて!」
「落ち着いて、落ち着いてください、”先輩”さん」
「え? あ……今のは……夢、なのか?」
「ええ、夢です。ですから、落ち着いて」
「あ、ああ……」
「ですが」
「ん?」
「夢とは言え、あなたの記憶の一部。あなたの取り戻すべき記憶は、
そして私の探す真と理は、その先にあるはず」
「……向き合う必要もあるってことか」
「ええ、その記憶の、何が真実で何が幻か。見極めるべきかと」
「なぁ……思い出したことがあるんだ」
「なんですか、”先輩”?」
「俺は”巫女さん”……くれはを斬った記憶が、確かにある。だが、そのあと助かった記憶もあるんだ」
「え?」
「翠と灯にいたっては、斬った記憶は俺本人のものじゃねぇ」
「”先輩”くん、大丈夫? 疲れてるんじゃない?」
「えーと、言ってることがよく判らないんですけど……」
「”転校生”……いや、エリス。俺の記憶だと、お前はもう、輝明学園の制服の手配はすんでるはずだぜ?」
「え? ”先輩”、何を言って……?」
「それを見たのは卒業式の日くらいだから、俺に取っちゃあ確かにそっちの白ブレザーの方が印象深いがな。
それから”委員長”と”姉御”……チハヤに晶。
お前らもとっくに……輝明学園から去ってた記憶があるんぜ?」
「何をいってるのよ”先輩”くん?」
「わ、私たちを疑っているんですか?!」
「そんな、”先輩”……
「なんですか、”先輩”?」
「俺は”巫女さん”……くれはを斬った記憶が、確かにある。だが、そのあと助かった記憶もあるんだ」
「え?」
「翠と灯にいたっては、斬った記憶は俺本人のものじゃねぇ」
「”先輩”くん、大丈夫? 疲れてるんじゃない?」
「えーと、言ってることがよく判らないんですけど……」
「”転校生”……いや、エリス。俺の記憶だと、お前はもう、輝明学園の制服の手配はすんでるはずだぜ?」
「え? ”先輩”、何を言って……?」
「それを見たのは卒業式の日くらいだから、俺に取っちゃあ確かにそっちの白ブレザーの方が印象深いがな。
それから”委員長”と”姉御”……チハヤに晶。
お前らもとっくに……輝明学園から去ってた記憶があるんぜ?」
「何をいってるのよ”先輩”くん?」
「わ、私たちを疑っているんですか?!」
「そんな、”先輩”……
気付くのが遅すぎますよ~♪」
ついに姿を現すエミュレーター、”悪夢を紡ぐもの”。
記憶を取り戻した”先輩”――柊も応戦するも、幻夢に翻弄され疲弊し、しかもその力を吸収した敵相手に
不利は否めない。
だが、しかし。
彼だけを捕らえ狙い撃ちにした罠の中に、踏み込んだいるはずのないモノがここにもう一人――。
記憶を取り戻した”先輩”――柊も応戦するも、幻夢に翻弄され疲弊し、しかもその力を吸収した敵相手に
不利は否めない。
だが、しかし。
彼だけを捕らえ狙い撃ちにした罠の中に、踏み込んだいるはずのないモノがここにもう一人――。
「柊蓮司さんの記憶を封じ、その中の悪夢や罪の記憶だけを蘇らせ、彼を苦しめる……
この月匣(はこ)の中の物は、柊蓮司さん本人以外は、全て幻……これが真」
退魔の剣の柄頭の顔が、かちんと澄んだ音をたてて歯を打ち鳴らす。
「その悪夢の中で彼の力を削ぎ、我が物とし、討たんとする……これが理」
今一度打ち鳴らされるかちんという澄んだ音。
この月匣(はこ)の中の物は、柊蓮司さん本人以外は、全て幻……これが真」
退魔の剣の柄頭の顔が、かちんと澄んだ音をたてて歯を打ち鳴らす。
「その悪夢の中で彼の力を削ぎ、我が物とし、討たんとする……これが理」
今一度打ち鳴らされるかちんという澄んだ音。
「此を引き起こせしモノノ怪の形……
閉鎖空間を作り出す”ぬりかべ”でもなく、
目をくらませ記憶を封じる”砂かけ婆ぁ”でもなく、
罪の重さを背負わせる”子泣き爺い”でもなく、
それら全てを引き起こすもの。
目をくらませ記憶を封じる”砂かけ婆ぁ”でもなく、
罪の重さを背負わせる”子泣き爺い”でもなく、
それら全てを引き起こすもの。
其は即ち、侵魔の夢使い……
”悪夢を紡ぐもの”!」
”悪夢を紡ぐもの”!」
三度、退魔の剣が歯を打ち鳴らす。
「
形と
形と
真と
理を得て
」
」
すっと差し上げる”薬売り”の両手。
その指し示す指の先に、退魔の剣が浮かぶ。
その指し示す指の先に、退魔の剣が浮かぶ。
「
我
我
剣を
解 き 放 つ !
」
」
「 ト ー キ ー ハ ー ナ ー ツ ー ! 」
”薬売り”の言葉に呼応し、退魔の剣の柄頭が甲高い叫びを上げる。
”薬売り”の背後へ背中合わせに浮かび上がる、褐色の肌に黄色い着物の男。
”薬売り”の隈取と襦袢の文様が潮が引くように消えていき、代わりに背後の男の全身に、絡みつくように
目を思わせる文様が浮かび上がる。
男の手が退魔の剣を手に取ると同時に、全身の”目”が、ぎょろりと一斉にエミュレイターを見据えた。
”薬売り”の隈取と襦袢の文様が潮が引くように消えていき、代わりに背後の男の全身に、絡みつくように
目を思わせる文様が浮かび上がる。
男の手が退魔の剣を手に取ると同時に、全身の”目”が、ぎょろりと一斉にエミュレイターを見据えた。
そは双剣の演舞。
柊の手にある魔剣よりは炎刃が尾を引き、
”薬売り”の手にある退魔の剣は光刃を尾を引く。
柊が魔力によって加速し敵を翻弄し、”薬売り”が斬る。
”薬売り”が呪符を展開し敵を防ぎ、柊が斬る。
魔剣に裂かれた傷は焼き焦がされ、
退魔の剣に裂かれた魔力は華となって散る。
知己もなく、共に肩をならべて戦うのも初めてな二人は、
しかし互いを援護しつつ刃を振るう息のあったその戦いぶりは、
幾多の敵を斬り屠ってきた歴戦の剣士としての本能か。
柊の手にある魔剣よりは炎刃が尾を引き、
”薬売り”の手にある退魔の剣は光刃を尾を引く。
柊が魔力によって加速し敵を翻弄し、”薬売り”が斬る。
”薬売り”が呪符を展開し敵を防ぎ、柊が斬る。
魔剣に裂かれた傷は焼き焦がされ、
退魔の剣に裂かれた魔力は華となって散る。
知己もなく、共に肩をならべて戦うのも初めてな二人は、
しかし互いを援護しつつ刃を振るう息のあったその戦いぶりは、
幾多の敵を斬り屠ってきた歴戦の剣士としての本能か。
だがしかし、柊の記憶とプラーナを奪ったエミュレイターもまた負けてはいない。
柊の剣技のクセと、剣技そのものを盗んで応戦する。
「がっ!」
「しまった!」
エミュレイターを前後よりはさんで攻める二人だが、死角より振るわれた攻撃に
柊の魔剣と”薬売り”の退魔の剣が弾き飛ばされる。
澄んだ音をたてて天高く舞い上がる二振りの剣。
柊と”薬売り”が素早く視線を交わす。一瞬のアイコンタクト。
二人は地を蹴り、空中で頭上の剣を掴み取る。
柊の手には、退魔の剣が。
”薬売り”の手には、魔剣が。
そして得物を交換した二人の剣士は、同時にエミュレイターへと突進する。
柊の剣技のクセと、剣技そのものを盗んで応戦する。
「がっ!」
「しまった!」
エミュレイターを前後よりはさんで攻める二人だが、死角より振るわれた攻撃に
柊の魔剣と”薬売り”の退魔の剣が弾き飛ばされる。
澄んだ音をたてて天高く舞い上がる二振りの剣。
柊と”薬売り”が素早く視線を交わす。一瞬のアイコンタクト。
二人は地を蹴り、空中で頭上の剣を掴み取る。
柊の手には、退魔の剣が。
”薬売り”の手には、魔剣が。
そして得物を交換した二人の剣士は、同時にエミュレイターへと突進する。
「こしゃくな!」
再び前後の剣士を迎撃しようとするエミュレイター。
だが、その攻撃は空を切る。
エミュレイターへと踏み込んできた二人の剣士は、しかしどちらもその手の剣を敵に振るわず、投げつけたのだ。
エミュレイターの身体を掠めて飛ぶ剣を、受け止めるのはやはり二人の剣士。
柊の手には、魔剣が。
”薬売り”の手には、退魔の剣が。
本来の主の手に戻った二振りの剣は、共に歓喜を叫ぶかのごとくに一層のまばゆい輝きを放つ。
「モノノ怪は、斬らねばならぬ」
「魔器……解放!!」
そして二人の剣士の必殺の一撃が、迎撃を外して体勢を崩すエミュレイターに叩き込まれた。
再び前後の剣士を迎撃しようとするエミュレイター。
だが、その攻撃は空を切る。
エミュレイターへと踏み込んできた二人の剣士は、しかしどちらもその手の剣を敵に振るわず、投げつけたのだ。
エミュレイターの身体を掠めて飛ぶ剣を、受け止めるのはやはり二人の剣士。
柊の手には、魔剣が。
”薬売り”の手には、退魔の剣が。
本来の主の手に戻った二振りの剣は、共に歓喜を叫ぶかのごとくに一層のまばゆい輝きを放つ。
「モノノ怪は、斬らねばならぬ」
「魔器……解放!!」
そして二人の剣士の必殺の一撃が、迎撃を外して体勢を崩すエミュレイターに叩き込まれた。
「まさか……二重のスイッチだとは……っ!」
「そんな大層なものじゃないさ」
「ええ」
「なん……だと……?」
「単に、そうじゃなきゃ収まりが悪かっただけさ」
「そういうことです」
「そんな大層なものじゃないさ」
「ええ」
「なん……だと……?」
「単に、そうじゃなきゃ収まりが悪かっただけさ」
「そういうことです」
かくて解放された柊蓮司。
その立役者となった”薬売り”は、しかし何も告げず、何も得ようともせずに去ろうとする。
さながら、モノノ怪さえ斬れたのなら、それだけで十分といわんばかりに。
「よお、アンタ」
「なんでしょう?」
柊の呼び止める声に、”薬売り”は足を止め、肩越しに振り返る。
「アンタ……結局のところ一体何者だったんだ?」
”薬売り”は、一度小さく俯く。
その立役者となった”薬売り”は、しかし何も告げず、何も得ようともせずに去ろうとする。
さながら、モノノ怪さえ斬れたのなら、それだけで十分といわんばかりに。
「よお、アンタ」
「なんでしょう?」
柊の呼び止める声に、”薬売り”は足を止め、肩越しに振り返る。
「アンタ……結局のところ一体何者だったんだ?」
”薬売り”は、一度小さく俯く。
「ただの」
顔を上げ、流し目に笑う。
「薬売り」
その笑顔は、不敵にして涼やか。艶やかにして深遠。
「ですよ」
ただその手に持った退魔の剣の鈴が、しゃらんと涼やかに鳴るのみ――。