月と星と柊と #14 02
「―――痛ってぇ・・・・・おい、コイズミ、生きてっか?」
「か、仮面が無ければ即死でした・・・・・・」
「か、仮面が無ければ即死でした・・・・・・」
頭を振りながら立ち上がる。回りを見回せば、引き裂かれ磨り潰された闇の精霊の残骸が広間全体に散乱し、先程エルンシャが呼び
出した破魔の石碑もまた、今の一撃で見る影もなくへし折れ、その陰に隠れていたコイズミを危うく押し潰しかけたようだった。
柊自身も、咄嗟にエルンシャが防御障壁を張ってくれていなければ、護法剣で防いでさえ致命傷を受けていただろう。
出した破魔の石碑もまた、今の一撃で見る影もなくへし折れ、その陰に隠れていたコイズミを危うく押し潰しかけたようだった。
柊自身も、咄嗟にエルンシャが防御障壁を張ってくれていなければ、護法剣で防いでさえ致命傷を受けていただろう。
「残念ながら、闇の精霊は全滅したようですね・・・・」
『うむ。今の私の力では君達二人を守るのが精一杯だった。だが、魔法陣は安定したよ。これでエルヴィデンスを冥界から切り離せた』
「けどよ、封印の魔法陣で冥界の力を抑え込んだってのに、それでもまだ、このザマなのかよ・・・・どんだけ化けモンなんだ、アイツは」
『あれでも本来の力の0.5%だか0.05%だかに過ぎないらしい。だからこそ、絶対に彼女の本体を解放してはならないのだ』
「ええ。そのとおりですわ」
『うむ。今の私の力では君達二人を守るのが精一杯だった。だが、魔法陣は安定したよ。これでエルヴィデンスを冥界から切り離せた』
「けどよ、封印の魔法陣で冥界の力を抑え込んだってのに、それでもまだ、このザマなのかよ・・・・どんだけ化けモンなんだ、アイツは」
『あれでも本来の力の0.5%だか0.05%だかに過ぎないらしい。だからこそ、絶対に彼女の本体を解放してはならないのだ』
「ええ。そのとおりですわ」
自力で防御結界を張ったものの、至近距離で狂風を受け、部屋の端まで跳ね飛ばされたアンゼロットが神の力への畏怖と負傷に喘ぐ
柊の横に並ぶ。二人の見据える先では、戦姫が哄笑を上げていた。
柊の横に並ぶ。二人の見据える先では、戦姫が哄笑を上げていた。
「あぁっはぁっはっはっ! 愉しい、愉しいぞ、アンゼロット! そうだ! こうでなくてはな!
例えお前を手に入れられずとも、此の為だけにでも今日此処まで来た価値は在ったわ!
そして! アレに耐えたか、柊蓮司! 何とも、壊し甲斐のある玩具ではないか! 幻夢神が気に入るだけの事はある! お前を目
にした誰もが、お前を弄りたくて仕方が無くなるのも頷けるわ!」
「るせえっ! もう充分遊んだだろ! とっとと帰りやがれ!」「まったくですわ!」
例えお前を手に入れられずとも、此の為だけにでも今日此処まで来た価値は在ったわ!
そして! アレに耐えたか、柊蓮司! 何とも、壊し甲斐のある玩具ではないか! 幻夢神が気に入るだけの事はある! お前を目
にした誰もが、お前を弄りたくて仕方が無くなるのも頷けるわ!」
「るせえっ! もう充分遊んだだろ! とっとと帰りやがれ!」「まったくですわ!」
雄叫びとともに柊が魔剣から衝撃波を放ち、アンゼロットが鞭を振るうも、戦姫は翼を楯となし、双方の攻撃を防ぎきる。攻撃に対
して斜めに突き出された黒翼が衝撃を逸らしダメージを最小限に抑え、柊達の攻撃は翼の表面を薄く削ぎ取るに留まり、そして更に―
して斜めに突き出された黒翼が衝撃を逸らしダメージを最小限に抑え、柊達の攻撃は翼の表面を薄く削ぎ取るに留まり、そして更に―
「ガーディアン・ストリーム」
風の姫の呪に応え、峻烈なる疾風が渦巻き、如何なる飛び道具をも防ぐ絶対の障壁を形成する。
「そんな?! 冥界の力は封じたはず?!」
「私をエンディヴィエと一緒にするな。私は108の古代神が一柱。主八界の創造神だ。確かに冥界由来の力は封じられたが、風の精
霊界から力を引っ張ってくる分には何の問題もありはせん!」
「チッ! エルンシャ様は魔法陣の維持に集中! 柊さんは、わたくしと同時に左右から挟み撃ちを仕掛けて! コイズミは下がって
いなさい!」
『任せてくれ、アンゼロット!』「おう!」「・・・・・・了解しました」
「私をエンディヴィエと一緒にするな。私は108の古代神が一柱。主八界の創造神だ。確かに冥界由来の力は封じられたが、風の精
霊界から力を引っ張ってくる分には何の問題もありはせん!」
「チッ! エルンシャ様は魔法陣の維持に集中! 柊さんは、わたくしと同時に左右から挟み撃ちを仕掛けて! コイズミは下がって
いなさい!」
『任せてくれ、アンゼロット!』「おう!」「・・・・・・了解しました」
アンゼロットと柊が同時に走る。超高密度に圧縮された大気の砲弾が織り成す弾幕を掻い潜り、飛来する闇風を、真空の刃を打ち払
い、避け、耐え忍びながら間合いを詰める。全身にプラーナの輝きを纏い、霊妙なる風の障壁へと肩から飛び込み、突き破る。
い、避け、耐え忍びながら間合いを詰める。全身にプラーナの輝きを纏い、霊妙なる風の障壁へと肩から飛び込み、突き破る。
「でぇやぁぁぁぁぁ!」 柊の魔剣が、右の黒翼を刺し貫き。
「ガッデム!!」 アンゼロットの拳が左の黒翼を打ち抜き。
共に、戦姫の体に届く事なく止まる。
「それで終わりか、アンゼロット! 此処までなのか、柊蓮司!」
両の黒翼が羽ばたき、二人の身体を跳ね飛ばす。受身こそを取ったものの、動きの止まった二人へと斬撃波を送らんと、邪神の手に
握られた神殺しの魔剣と魔王の妖剣が振り上げられ。
握られた神殺しの魔剣と魔王の妖剣が振り上げられ。
「まだだ!」 コイズミの投げた槍が、無防備な戦姫の胸に当たるも、素の防御力で弾かれる!
「無粋な真似をするな、下僕。私はアンゼロットと遊んでいるのだ」
戦姫が一睨みするや、コイズミの心臓が大きく跳ね・・・・・・止まった。
「ぐ・・・は・・・」
「コイズミ!」
『案ずることはないよ、アンゼロット』
「コイズミ!」
『案ずることはないよ、アンゼロット』
床に崩れ落ちたロンギヌスへと、柊の手の魔剣に宿ったエルンシャから治癒の光が飛び。
安堵し、胸を撫で下ろした守護者の耳に邪神の嘲笑が突き刺さった。
安堵し、胸を撫で下ろした守護者の耳に邪神の嘲笑が突き刺さった。
「クックック。下僕の生死に気を取られたか。お前も随分甘くなり、弱くなったな、アンゼロット。そんな事では戦女神は務まらんぞ」
「それは弱さじゃねぇ!」
「それは弱さじゃねぇ!」
怒号と共に打ち込まれた苛烈な斬撃は、億戦錬磨の戦姫をして受け流す事を許さず。ガキリと。刃が噛みあい、二本の魔剣が鍔競り
合った。床をしかと踏みしめ、両腕に力を込め、少女の姿をした邪神へと、無理矢理に魔剣を押し下げんとする。吐息が触れ合うほど
に顔を近づけ、我鳴る。
合った。床をしかと踏みしめ、両腕に力を込め、少女の姿をした邪神へと、無理矢理に魔剣を押し下げんとする。吐息が触れ合うほど
に顔を近づけ、我鳴る。
「コイツはしょっちゅう、誰かを斬り捨ててばっかしいるけどな! それもこれも、一人でも多くの仲間を、出来る限り確実に助ける
ためなんだよ! 俺達は守る為に戦ってんだ! いくら敵を倒したって、仲間を死なせたら意味がねぇんだよ!」
「望みを適えるには、常に何らか代償が不可欠だ。必要な時に、必要な犠牲を払わぬ者は、結局何も得られはせん」
ためなんだよ! 俺達は守る為に戦ってんだ! いくら敵を倒したって、仲間を死なせたら意味がねぇんだよ!」
「望みを適えるには、常に何らか代償が不可欠だ。必要な時に、必要な犠牲を払わぬ者は、結局何も得られはせん」
幼子に教え諭すかのように穏やかな、侮蔑に満ちた台詞とともに。柊の、無防備な下腹へとヒルコの切っ先が突きだされる。
だがそれはエルンシャの張った防御結界に阻まれ、大きく跳び退り、間合いを外した戦姫へと慈父神の思念が放たれた。
だがそれはエルンシャの張った防御結界に阻まれ、大きく跳び退り、間合いを外した戦姫へと慈父神の思念が放たれた。
『エルヴィデンスよ。アンゼロットは最早、戦女神ではなく世界の守護者だ。そして世界とは、その地に生きる人の仔の総て。
一番大事なものを犠牲にして得た勝利など、虚しいものさ』
「エルンシャ様・・・・・・柊さん・・・・・・」
一番大事なものを犠牲にして得た勝利など、虚しいものさ』
「エルンシャ様・・・・・・柊さん・・・・・・」
今まで散々、筆舌に尽くし難い苦難を味あわせ続けてきた男達の言葉にアンゼロットの目が驚きに見開かれ。
黒翼の戦姫の笑みが――禍々しい亀裂めいたソレから、柔らかいものへと――変わった。
黒翼の戦姫の笑みが――禍々しい亀裂めいたソレから、柔らかいものへと――変わった。
「お前は実に幸せ者だな、アンゼロット。此れ程までに良い漢達に囲まれて」
「ええ、わたくしは幸せです。こんなにも、素晴らしい仲間達に恵まれているのですから」
「ええ、わたくしは幸せです。こんなにも、素晴らしい仲間達に恵まれているのですから」
古女王は静かに答えた銀髪の少女を優しい瞳で見つめ・・・・その身体をグラリと揺らし、またも咳き込み、蝿を吐いた。
「どうやら、ここまでのようですわね、エルヴィデンス」
「らしいな。裏界の蝿めの写し身では、我が依り代と成すには不足であったか」
「もういいよな? これで終らせてやる!」
「いや。もう少し遣りたい事があってな。来い! 我が下僕よ!」
「らしいな。裏界の蝿めの写し身では、我が依り代と成すには不足であったか」
「もういいよな? これで終らせてやる!」
「いや。もう少し遣りたい事があってな。来い! 我が下僕よ!」
突進する柊の眼前に生じた召喚円から、古女王の呼びかけに応じ、白髭を蓄えた巨大亀が這い出すも、神殺しの魔剣使いは構わず間
合いを詰めて魔剣を振り下ろし、硬い甲羅を打ち砕いた。
僅か一撃で甲羅を割られた大亀は血を吐きつつも力を振り絞り、何処からともなく黒い箱を取り出すや柊へと白煙を放った。
合いを詰めて魔剣を振り下ろし、硬い甲羅を打ち砕いた。
僅か一撃で甲羅を割られた大亀は血を吐きつつも力を振り絞り、何処からともなく黒い箱を取り出すや柊へと白煙を放った。
「煙幕? いや、違う!」
煙に包まれた柊を急な寒気が襲った。
全身から力が抜ける。目が霞む。魔剣が重い。背筋が曲がる。関節が痛む。手の甲に染みが浮き、皮膚に皺が寄る。
全身から力が抜ける。目が霞む。魔剣が重い。背筋が曲がる。関節が痛む。手の甲に染みが浮き、皮膚に皺が寄る。
「柊さんが・・・老化・・・している・・・・・・?」
「然り。九姫騒乱の折には、此れを使って聖土姫の軍勢を打ち破ったものよ。
どんな気分だ、“下がる男”? 年齢が“上がる”というのは!」
「然り。九姫騒乱の折には、此れを使って聖土姫の軍勢を打ち破ったものよ。
どんな気分だ、“下がる男”? 年齢が“上がる”というのは!」
戦姫に蹴り出された大亀の甲羅が胸を打ち、肋骨が朽木のように砕け散る。仲間達の悲鳴を遠くに聞きながら、声も無く倒れ込んだ
全身の骨がバラバラになり、声にならない苦鳴が漏れた。
全身の骨がバラバラになり、声にならない苦鳴が漏れた。
「ぉ・・・・ひゅぅ・・・ひゅぉっ・・・」
「ククククッ。其の様ではもう戦えまい。杖を持って出直してくるのだな!」
「チックッ・・・ショウ・・・・・・」
「そこまでです!」
「ククククッ。其の様ではもう戦えまい。杖を持って出直してくるのだな!」
「チックッ・・・ショウ・・・・・・」
「そこまでです!」
両手に闇の刃を生み出したアンゼロットが戦姫の前に躍り出で。
圧し掛かり喉に喰らいつかんとする老亀を、老化した身体に鞭打った柊が魔剣で押し返す間に、またしても両女王の剣舞が始まった。
圧し掛かり喉に喰らいつかんとする老亀を、老化した身体に鞭打った柊が魔剣で押し返す間に、またしても両女王の剣舞が始まった。
「クククッ。お前も老人にしてやろうか、アンゼロット? もう既に白髪になっているが」
「これは銀髪です!」
「これは銀髪です!」
咆哮と共に振るわれたアンゼロットの斬撃を、戦姫は大きく跳び退って避けるやプラーナを開放し。
風の象徴色たる“透明”の、色無き色の輝きを纏いて、遂に最後の切り札を切った。
風の象徴色たる“透明”の、色無き色の輝きを纏いて、遂に最後の切り札を切った。
「集え! 風霊達よ! そして、歌え! 謡え! 詠え! 謳え!」
エルヴィデンスの詠唱に応え、無数の風の精霊達が次元を超えて集結する。
たちまちに現われた、大勢の半透明な風乙女達が広大な大広間を埋め尽く様は、亀型冥魔の下からその様を目の当たりにした柊を絶
句させて余りある荘厳かつ神話的な光景だった。
たちまちに現われた、大勢の半透明な風乙女達が広大な大広間を埋め尽く様は、亀型冥魔の下からその様を目の当たりにした柊を絶
句させて余りある荘厳かつ神話的な光景だった。
「コイツぁ・・・スゲェ・・・・・・くれはや・・・エリスに、見せてやれねぇのが残念なくれぇだ・・・・・・」
『見とれている場合ではないよ、柊君』
「おおっ!?」
『見とれている場合ではないよ、柊君』
「おおっ!?」
一瞬、ソレが意味するモノを忘れた柊を慈父神の声が現実へと引き戻し、防御結界が喉を狙った大亀の嘴を阻む。柊もまた、全身の
プラーナを奮い起こして新陳代謝を活性化、全身の複雑骨折を癒していくが―
プラーナを奮い起こして新陳代謝を活性化、全身の複雑骨折を癒していくが―
「ちっ、アンゼロットの加勢にゃ間にあわねぇか」
更にプラーナを巡回させた柊が跳ね上がった年齢を凄まじい勢いで引き下げるのを待たずして、月と古の女王の戦いは決着の時を迎
えていた。
えていた。
「アンゼロット! この一撃、凌げたならばお前の勝ちだ!!」「女王神アンゼロット最大の技! 目に焼き付けて散りなさい!!」
古女王の挑戦を受け、月女王もまた、総てのプラーナを一撃に込め―
「風霊よ! 汝らの唄にて、我が眼前の敵を鎮魂せよ!!」「狂気の果てで朽ち果てよ!」
双女王の詠唱と共に、地下空間に、苛烈なる神気が荒れ狂い。
「シルフィード・レクイエム!!」「ルナ=バースト!!」
永遠の眠りへと誘う風霊の鎮魂歌と、精神を打ち据える月の歌が響き渡る。
その力は収束され、絶大な威力の大半を互いのみに叩き込んだものでありながら。
余波だけで、広間に居合わせた定命の者の意識を消し飛ばすに充分な、精神に衝撃を与える波動を撒き散らし。
この場に集いし風霊達の群れを一瞬にして消滅させ、合い争う柊と亀型冥魔を昏倒させた。
余波だけで、広間に居合わせた定命の者の意識を消し飛ばすに充分な、精神に衝撃を与える波動を撒き散らし。
この場に集いし風霊達の群れを一瞬にして消滅させ、合い争う柊と亀型冥魔を昏倒させた。
『しっかりしてくれ、柊君』
「お? おおうッ!」
「お? おおうッ!」
エルンシャの呼びかけで目を覚ました柊の前で。
古女王の身体がグラリと傾ぎ。
月女王の唇の端が、つい、と釣り上がり。
パタリと。
糸の切れた人形のように倒れ伏したのは、アンゼロットの方だった。
月女王の唇の端が、つい、と釣り上がり。
パタリと。
糸の切れた人形のように倒れ伏したのは、アンゼロットの方だった。
「ククククッ。精神への攻撃に関しては、私の方に一日の長があったようだな、アンゼロット」
「ちっきしょうぉ! おい、アンゼロット! しっかりしやがれ!」
「ちっきしょうぉ! おい、アンゼロット! しっかりしやがれ!」
不甲斐無い守護者を怒鳴りつけ、未だ意識を取り戻さぬ亀型冥魔に魔剣を突き立て息の根を止めた柊に耳に届いたものは。
くぴー。すぴー。
実に心地良さそうな寝息だった。
「は?」
「この技はな、対象を永遠の眠りへと誘うのだ」
「この技はな、対象を永遠の眠りへと誘うのだ」
予想外の事態に、つい、間抜けな声を出した魔剣使いに戦姫が丁寧に解説した。
「一度こうなった以上、私が望むか倒されぬ限り、アンゼロットが目覚める事は無い」
「へっ、ならお前を倒せばいいんじゃねぇか!」
「まだ戦う気か、柊蓮司?」
「へっ、ならお前を倒せばいいんじゃねぇか!」
「まだ戦う気か、柊蓮司?」
息絶えた老亀の下から這い出し、立ち上がり、改めて魔剣を構えた柊を。
戦姫は呆れた顔で見遣り、一つずつ、柊が“勝てない理由”を並べ立てた。
戦姫は呆れた顔で見遣り、一つずつ、柊が“勝てない理由”を並べ立てた。
「この地に幻夢神の加護は及ばず、神殺しの魔剣は我が手にある。エルンシャは魔法陣の制御に手一杯。最早、其の身に無限の治癒力
は無く、アンゼロットは倒れ、お前の剣技は私に届かん。これで、一体、どうやって私に勝つ心算なのだ?」
「勝てるから戦うとか、勝てないからやめるとか、そんなモンじゃねぇんだよ! 俺はッ、絶対にッ、仲間を見捨てたりはしねぇッッ!」
は無く、アンゼロットは倒れ、お前の剣技は私に届かん。これで、一体、どうやって私に勝つ心算なのだ?」
「勝てるから戦うとか、勝てないからやめるとか、そんなモンじゃねぇんだよ! 俺はッ、絶対にッ、仲間を見捨てたりはしねぇッッ!」
咆哮と共に激しく斬りつける。太刀筋を見切られ、最小の動きで避けられながら、その身に古代神を宿した戦姫の腹の傷から零れ落
ちる蝿の死骸に、もう一柱の古代神の存在を思い出し、呼びかける。
ちる蝿の死骸に、もう一柱の古代神の存在を思い出し、呼びかける。
「やい、ベル! お前も、このまんまでいいのかよ! 見せ場もなしで、やられっぱなしでよ!」
「愚かな。あの蝿は、もう此処には居らん。お前達が勝利を掴むには奇跡が必よ― ごふっ」
「愚かな。あの蝿は、もう此処には居らん。お前達が勝利を掴むには奇跡が必よ― ごふっ」
咳き込み、よろめいた戦姫に好機と見た柊が肉薄し鋭く斬りつけるも。
戦姫は片手でそれを受け流して柊の体勢を崩すや、クルリと身体を回転させ、柊の顔の前に黒翼を掲げて視界を塞ぎ、瞬転、遠心力
を乗せた靴裏を鳩尾に叩き突けて蹴り飛ばす。
邪神の一撃を受けた神殺しの魔剣使いは身体をくの字に曲げて声もなく数mの距離を吹き飛び、辛うじて倒れ込むのを堪えるも、破
れた胃に満ちた血が喉をせり上がり、熱い塊を盛大に床にぶちまけた。
戦姫は片手でそれを受け流して柊の体勢を崩すや、クルリと身体を回転させ、柊の顔の前に黒翼を掲げて視界を塞ぎ、瞬転、遠心力
を乗せた靴裏を鳩尾に叩き突けて蹴り飛ばす。
邪神の一撃を受けた神殺しの魔剣使いは身体をくの字に曲げて声もなく数mの距離を吹き飛び、辛うじて倒れ込むのを堪えるも、破
れた胃に満ちた血が喉をせり上がり、熱い塊を盛大に床にぶちまけた。
『柊君! 今、治―』
(俺に構うんじゃねぇ! おめぇは結界の維持に集中してろッ!)
(俺に構うんじゃねぇ! おめぇは結界の維持に集中してろッ!)
柊の負傷に動揺し、魔法陣の構成を乱した慈父神を思念だけで怒鳴りつけ、プラーナを循環させて自ら傷を癒す。
何度でも、どれほどにでも。
神と、人との。
邪神と、神殺しとの。
十万年に及ぶ古代神戦争を闘った戦姫と、剣を取って二年にもならぬ魔剣使いとの。
世界が始まるよりも前から存在し続ける者と、ハタチにもならぬ若者との。
専制君主と、不良学生との。
十万年に及ぶ古代神戦争を闘った戦姫と、剣を取って二年にもならぬ魔剣使いとの。
世界が始まるよりも前から存在し続ける者と、ハタチにもならぬ若者との。
専制君主と、不良学生との。
絶対的なまでの力の差を。
圧倒的な技量の差を。
積重ねた年輪の差を。
存在としての在り方の差を。
圧倒的な技量の差を。
積重ねた年輪の差を。
存在としての在り方の差を。
見せ付けられ、突きつけられ。打ちつけられようとも。
柊蓮司は、諦めない。
足があるなら、立ち上がる。
腕があるなら、剣を振る。
命があるなら、闘える。
腕があるなら、剣を振る。
命があるなら、闘える。
(余裕ブッコいて見せちゃーいるけどよ。アイツだって、無傷って訳じゃねぇ)
柊が魔剣を突き立て、エルンシャが浄化の光を浴びせ、コイズミとも協力して冥界から切り離し、アンゼロットが切り札をぶつけた。
拠り代は崩壊を始め、ベルの写し身への支配力も下がって来ている。
また、今の攻防でも両手の重たい魔剣と妖剣を使わずに蹴って来たし、柊が血を吐いてる間も追撃をしてこない。
拠り代は崩壊を始め、ベルの写し身への支配力も下がって来ている。
また、今の攻防でも両手の重たい魔剣と妖剣を使わずに蹴って来たし、柊が血を吐いてる間も追撃をしてこない。
「俺はまだ、闘える。アイツは、もう、限界が近い、筈だ。諦めなけりゃ、勝てるッ!」
未だ闘志を失わぬ柊の鋭い眼光を、蔑みに満ちた邪神の眼差しが迎え撃つ。
「私に一太刀浴びせたければ、守護者と連携して命の総てを一撃に注げ。先程のようにな」
柊蓮司は全力を尽くして戦うとき、一太刀ごとに全生命力の約二割を注ぎ込んだ痛烈な斬撃を放つ。後に冥魔王エンダースはその戦
法を指して「不幸」と評するのだが、下僕の特攻を見慣れた古女王の意見はまた異なる。
法を指して「不幸」と評するのだが、下僕の特攻を見慣れた古女王の意見はまた異なる。
「半端者め。死ぬ気が無いなら、もう少し防御を固めるが良いわ」
「ちっくしょう・・・・・・言いたい放題・・・言いやがって・・・・・・」
「ちっくしょう・・・・・・言いたい放題・・・言いやがって・・・・・・」
愚かな人の子を傲岸に見下す邪神の、呪詛の篭った舌鋒が胸を刺す。どっと冷や汗が噴出し、膝が震え、脚が萎える。安藤来栖に一
蹴され、相手にもされなかった屈辱が蘇る。『フレイスの炎砦』事件で様々な敵に打ち倒され、幾度となく生死の境を彷徨った苦い記憶
が、『星を継ぐ者』事件にて道半ばにして倒れ伏し、友に総てを押し付けた悔しさがぶり返す。
己の未熟さを、無力さを、至らなさを、思い出す。諦念が、腹の底から込み上がる。手の力が抜け、魔剣が滑り落ち――かけるのを
堅く握り締め直し。
蹴され、相手にもされなかった屈辱が蘇る。『フレイスの炎砦』事件で様々な敵に打ち倒され、幾度となく生死の境を彷徨った苦い記憶
が、『星を継ぐ者』事件にて道半ばにして倒れ伏し、友に総てを押し付けた悔しさがぶり返す。
己の未熟さを、無力さを、至らなさを、思い出す。諦念が、腹の底から込み上がる。手の力が抜け、魔剣が滑り落ち――かけるのを
堅く握り締め直し。
「俺はッッ、絶対に、諦めねぇッッ!」「―くッッ!」
轟く獅子吼を受けた戦姫は一声呻くや魔剣を取り落とし、次いで、口元にやった手を一振りして大量の蝿の死骸を床に撒いた。
「我が呪言が効かぬか。だが、動く力はないようだな」
「るせぇ! テメェこそ、俺に止め刺す力、残ってねぇじゃねーか」
「るせぇ! テメェこそ、俺に止め刺す力、残ってねぇじゃねーか」
呪詛には耐えたが、全身が痺れに包まれ、両脚がビクとも動かない。血を流しすぎたのか、身体の感覚もロクにない。月衣に拳を突
き込み、残り少なくなった魔石を握り砕いてプラーナを吸い上げるが――斬撃の威力を増すために、魔剣に食わせる分の生命力は到底
足りそうにない。
立ち尽くす柊に冷笑を送った戦姫は、またも咳き込むと、その視線を床に倒れ伏す銀髪の少女に向けた。
き込み、残り少なくなった魔石を握り砕いてプラーナを吸い上げるが――斬撃の威力を増すために、魔剣に食わせる分の生命力は到底
足りそうにない。
立ち尽くす柊に冷笑を送った戦姫は、またも咳き込むと、その視線を床に倒れ伏す銀髪の少女に向けた。
「この身体は、もう、保たん・・・・・・・ゲイザーの拵えた悪趣味な器に宿るのは気に食わぬが、この際仕方が無いか」
『いかん! アンゼロットの身体を乗っ取るつもりだ!』
「何だと?!」
「以前イクスに乗り移ろうとした時には地神の加護に防がれたが、此度は既に幻夢神から切り離している。邪魔するものは何も無い」
『いかん! アンゼロットの身体を乗っ取るつもりだ!』
「何だと?!」
「以前イクスに乗り移ろうとした時には地神の加護に防がれたが、此度は既に幻夢神から切り離している。邪魔するものは何も無い」
未だ回復のままならない柊の前で、戦姫の指が、倒れ伏すアンゼロットの頭上で印を描く。
アルム テフリ ステイン リ・ダルト ラー フォーグナー・・・
天の聖盃より持ち出せし至高の力返さんとする時はきたれり
汝が器に我が心を、汝が力を我が盃につがん
天の聖盃より持ち出せし至高の力返さんとする時はきたれり
汝が器に我が心を、汝が力を我が盃につがん
エルヴィデンスが呪を紡ぎ、アンゼロットの月光を束ねたが如き銀髪が夜闇の如き黒へと変じ―
「アスペクト!」
術が完成し、黒翼の戦姫がアンゼロットの上へとその身を被せ、融合が始まった。
「てめっ! ソイツから離れやがれッ!」
「クックック、其処で悔しがっているがいい。間もなく、この身体は私のものとなる」
「クックック、其処で悔しがっているがいい。間もなく、この身体は私のものとなる」
― お生憎様でしたわね、エルヴィデンス。ここは満員ですわよ ―
プラーナを循環させ、傷の痛みと邪神の呪詛に麻痺した身体を無理矢理に動かした柊の耳に。
突如、優しい女性の声が響き、迸る暖かい陽光が邪神を跳ね飛ばし。
黒髪の少女の手が、床に落ちた神殺しの魔剣を掴んで柊の方へと放る。
突如、優しい女性の声が響き、迸る暖かい陽光が邪神を跳ね飛ばし。
黒髪の少女の手が、床に落ちた神殺しの魔剣を掴んで柊の方へと放る。
「これを!」「ありがてぇ!」
この上もない歓喜の声を上げ、床を滑ってきた愛剣を蹴り上げ、その手に収めた魔剣使いの目の前で。
「イクス!」
振り上げた手に斧を生み出した戦姫が、床に伏せたままの少女の頭へと一撃を打ち込み、その光景に、柊の動きが、止まった。
「アン・・・・ゼ・・・・・・・ロット・・・・・・・・・? 嘘だろ、おい・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・・」
「此処で動きが止まるか。今まで、余程楽な戦いばかりだったようだな、柊蓮司」
「此処で動きが止まるか。今まで、余程楽な戦いばかりだったようだな、柊蓮司」
色を失っていく黒髪を呆けたように見つめ続ける柊を嘲笑う戦姫に、突如、床から生えた無数の木の根が絡みついて動きを封じ。
『アスペクト!』
膨大な、暖かいプラーナが戦姫の身体へと流れ込んでいく。
「む、この器を乗っ取る気か、エルンシャ。だが純粋な意志力の勝負で私に敵う心算か?」
『アンゼロットのルナ=バーストを受けたのだ。お前とて立っているのがやっとだろう。幾ら私が無能な文官でも、暫く動きを封じる
くらいは出来る。さぁ、柊君、今の内だ!』
「お、おう・・・けどよう・・・アンゼロットが・・・・・・・・・アンゼロットが・・・・・・・・・」
『アンゼロットのルナ=バーストを受けたのだ。お前とて立っているのがやっとだろう。幾ら私が無能な文官でも、暫く動きを封じる
くらいは出来る。さぁ、柊君、今の内だ!』
「お、おう・・・けどよう・・・アンゼロットが・・・・・・・・・アンゼロットが・・・・・・・・・」
未だ、頭に斧の食い込んだ少女から目を離せない柊に、慈父神の叱咤が飛んだ。
『エルヴィデンスが使った“叫びの斧”は精神のみを砕く物。人の子であれば一撃で廃人になるところだが、アンゼロットならば気絶
するだけで済むだろう。元より、本体の封印を解きたいエルヴィデンスにはアンゼロットを殺せはしない。それに今の一撃を受けたの
は恐らく・・・・・・いや、ともかく、アンゼロットの命や精神に大事はない』
「そ、そうなのか?」
『ああ、そうだとも。だから安心して、神殺しの魔剣を振るってくれ』
「おいおい、エルンシャ。それではお前も道連れだぞ。それでも良いのか?」
『お前の復活は私の愚かさが招いた事だ。責任は取らなければなるまい』
「ああ、お前はそれでも良かろうな。では、柊蓮司。お前はどうだ?」
するだけで済むだろう。元より、本体の封印を解きたいエルヴィデンスにはアンゼロットを殺せはしない。それに今の一撃を受けたの
は恐らく・・・・・・いや、ともかく、アンゼロットの命や精神に大事はない』
「そ、そうなのか?」
『ああ、そうだとも。だから安心して、神殺しの魔剣を振るってくれ』
「おいおい、エルンシャ。それではお前も道連れだぞ。それでも良いのか?」
『お前の復活は私の愚かさが招いた事だ。責任は取らなければなるまい』
「ああ、お前はそれでも良かろうな。では、柊蓮司。お前はどうだ?」
苦笑する邪神に、答える慈父神の思念には一片の迷いもなく。
戦姫は笑みを絶やさぬまま、内なる宿敵から、眼前に立つ魔剣使いへと意識を向けた。
戦姫は笑みを絶やさぬまま、内なる宿敵から、眼前に立つ魔剣使いへと意識を向けた。
「さあどうする、柊蓮司? エルンシャを犠牲にして私を倒すか? さあ、どうするのだ、柊蓮司?」
『気にしないでくれ、柊君。ただ依り代を砕いただけでは、この者はまた別の器に乗り移る。私が抑えている間に、魂を斬るのだ』
「ダメだ・・・・・・俺には・・・アンタを犠牲にするなんて、できねぇ・・・・・・アンゼロットだって悲しむし・・・・・・アンタにゃ、まだ小せぇ娘も
いるじゃねぇか・・・・・・」
『気にしないでくれ、柊君。ただ依り代を砕いただけでは、この者はまた別の器に乗り移る。私が抑えている間に、魂を斬るのだ』
「ダメだ・・・・・・俺には・・・アンタを犠牲にするなんて、できねぇ・・・・・・アンゼロットだって悲しむし・・・・・・アンタにゃ、まだ小せぇ娘も
いるじゃねぇか・・・・・・」
柊は剣を下ろし、硬く目を瞑って首を横に振った。
触れ合った時間は短くとも、言葉を交わし、手合わせを行い、共に苦難に立ち向かい、密度の濃い時間を共有し・・・・・・そして何より。
触れ合った時間は短くとも、言葉を交わし、手合わせを行い、共に苦難に立ち向かい、密度の濃い時間を共有し・・・・・・そして何より。
「アンゼロットに散々な目に会わされたオメェは、他人たぁ思えねぇんだよ! どうして、見捨られっかってんだッ!」
苦渋に満ちた表情で佇む愚かな人の子の苦悩する様を、太古の邪神が愉快気に見つめ・・・・・・
「ふむ、そうだ。柊蓮司、お前の選択肢を、一つ増やしてやろう」
急に何やら思いついた顔になり、ククククッと邪悪な含み笑いを洩らすと意外な取引を持ちかけた。
「我が本体の開封に助力するならば、お前にゲイザーと同等の力を与えてやるぞ。その為には、アンゼロットの身体を私の傍まで運ぶ
だけで良い。さすれば私は其奴の魂を鍵として天界による封印を解き、神としての本来の姿を取り戻せるのだ。
そして、取り戻した権能で以って、お前を神の戦士にしてやろう」
「今度は買収工作かよ。邪神様も焼きが回って来たみてーだな、おい」
「そうでもないぞ? 私は別に此の儘でも良いのだ。今回はエルンシャが一緒だからな。この場に封じられた処で退屈はせん。
それに、何れは此奴を従属させて自由を取り戻せるだろうさ」
だけで良い。さすれば私は其奴の魂を鍵として天界による封印を解き、神としての本来の姿を取り戻せるのだ。
そして、取り戻した権能で以って、お前を神の戦士にしてやろう」
「今度は買収工作かよ。邪神様も焼きが回って来たみてーだな、おい」
「そうでもないぞ? 私は別に此の儘でも良いのだ。今回はエルンシャが一緒だからな。この場に封じられた処で退屈はせん。
それに、何れは此奴を従属させて自由を取り戻せるだろうさ」
柊の揶揄を鼻先で笑い飛ばし、邪神は神殺しの耳へと毒の蜜を注ぎ込む。
「お前がゲイザーを殺して開放した闇界の冥魔は、私の大事な下僕達まで食べてしまうのでな。お前がゲイザーの代わりをしてくれる
と嬉しいのだよ。お前に与える力には、私の下僕には使えぬよう制限を仕掛けておけば邪魔にもならん。
お前にとっても悪い話ではないのだぞ? お前が今の生き方を続けて行けば、何れは天界とも事を構える事になろう。私との共通の
敵と争う際にしか使えぬとしても、神の力があれば、お前は自分の信じる道を、より遠くまで歩いて行けるだろう」
『耳を貸すなッ! さあ、早く斬ってくれッ!』
「くっっっっっっッッッ!」
と嬉しいのだよ。お前に与える力には、私の下僕には使えぬよう制限を仕掛けておけば邪魔にもならん。
お前にとっても悪い話ではないのだぞ? お前が今の生き方を続けて行けば、何れは天界とも事を構える事になろう。私との共通の
敵と争う際にしか使えぬとしても、神の力があれば、お前は自分の信じる道を、より遠くまで歩いて行けるだろう」
『耳を貸すなッ! さあ、早く斬ってくれッ!』
「くっっっっっっッッッ!」
異世界の、世界の守護者の悲痛な思念が柊をせかし。
異界の邪神は――もう幾度目になるのか――ごふりと蝿の死骸の塊を吐き捨てつつも、愚かな人の子の苦悩をたっぷりと楽しみ。
砕けんばかりに奥歯を噛み締めた魔剣使いは、噛み締めた歯の間から軋るような声を絞り出して、問うた。
異界の邪神は――もう幾度目になるのか――ごふりと蝿の死骸の塊を吐き捨てつつも、愚かな人の子の苦悩をたっぷりと楽しみ。
砕けんばかりに奥歯を噛み締めた魔剣使いは、噛み締めた歯の間から軋るような声を絞り出して、問うた。
「・・・・・・アンゼロットはどうなる?」
「お前が何もしなければ、永久に眠ったままだ。お前が私に従うのなら、私の娘として生まれ変わる」
「そうか・・・」
「お前が何もしなければ、永久に眠ったままだ。お前が私に従うのなら、私の娘として生まれ変わる」
「そうか・・・」
つまりは、慈父神の言葉に従えばエルンシャが、邪神の言葉に従えばアンゼロットが犠牲になるのだ。なら、結論は決まっている。
「俺は・・・・・・俺は誰も犠牲にしねぇッ! アンゼロットもッ! エルンシャもだッ!」
叫び、自分の魔剣を宙高く放り投げ、即座に晶の魔剣を両手で水平に構え、右肩へと引き付ける。
「こっちの魔剣でその身体から叩き出してッッ! 俺に乗り移ったところを俺の魔剣で刺してやらぁッッ!」
ディングレイとの戦いでポーリィが使ったのと同じ手法だ。神ではない柊が神殺しの魔剣で刺されたところで、普通の剣で刺された
のと同じ影響しか受けはしない。エルンシャの蘇生魔法はさっき使った分で打ち止めだが、生死判定には自信がある!
のと同じ影響しか受けはしない。エルンシャの蘇生魔法はさっき使った分で打ち止めだが、生死判定には自信がある!
『よすんだ、柊君ッ! 私が犠牲になれば済む事だ!』
「俺はッ絶対にッッ、犠牲なんか払わねぇッッッ! 誰一人だってッ犠牲にしねぇッッ!!」
「俺はッ絶対にッッ、犠牲なんか払わねぇッッッ! 誰一人だってッ犠牲にしねぇッッ!!」
絶叫とともに、床を蹴る。
戦姫の胸に、柄も通れとばかりに深々と晶の魔剣を突き立て、直後、落下してくる神殺しの魔剣に自らの胸を晒せば―
戦姫の胸に、柄も通れとばかりに深々と晶の魔剣を突き立て、直後、落下してくる神殺しの魔剣に自らの胸を晒せば―
“まったく、あんたって本当に頭が悪いわね”
晶の魔剣が戦姫に刺さるよりも、早く。
戦姫の胸を突き破り、魔王の腕が現れる。
その手に、脈打つ心臓を握り締めて。
戦姫の胸を突き破り、魔王の腕が現れる。
その手に、脈打つ心臓を握り締めて。
“ほら、コイツの魂だけ抜き出してやったわよ! さっさと斬りなさい!”
「おお! エルンシャ! おめぇもコッチに来い!」
『心得た!』
「おお! エルンシャ! おめぇもコッチに来い!」
『心得た!』
柊は歓喜の咆哮を上げて突進を中断し、自分を目掛けて下がってきた愛剣を掴み取る。同時、邪神の拠り代を抜け出した慈父神の暖かく、安らぎに満ちたプラーナが心を満たし、四肢に力が蘇る。
「蝿ッッ!! 貴様ァァァぁァァァッッ!!」
「勝負あったぜ! さあ、大人しく―」
『滅せよ』
「勝負あったぜ! さあ、大人しく―」
『滅せよ』
神殺しの魔剣が一閃――する直前。
戦姫が口笛を鳴らすや、撃ち出された圧縮大気の砲弾が魔剣使いの肩を砕き、柊の右手が力を失い、神殺しの魔剣を取りこぼし―
戦姫が口笛を鳴らすや、撃ち出された圧縮大気の砲弾が魔剣使いの肩を砕き、柊の右手が力を失い、神殺しの魔剣を取りこぼし―
「見苦しいぜ、カミサマよっっ!!」
振り上げられた柊の足が、床へと落ちるウィッチブレードを蹴り飛ばす。スロットルが入り、バーニアを吹かせた白兵箒が邪神の心
臓に突き刺さり、次いで、慈父神の放つ、瘴気を浄化する白い閃光が封印の間の総てを飲み込んだ。
臓に突き刺さり、次いで、慈父神の放つ、瘴気を浄化する白い閃光が封印の間の総てを飲み込んだ。
― おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ ―
邪神の苦鳴が響き渡り、柊の見つめる中、戦姫の身体が崩壊し・・・・・・
― やってくれたな、蝿。この対価は高くつくぞ ―
憎悪に満ちた思念が脳裏に響き、神殺しの魔剣が戦姫の心臓を切り裂くよりも早く、邪神が寄り代を放棄していたのを知らせ。
忌々しげに、蝿の女王が毒突いた。
忌々しげに、蝿の女王が毒突いた。
“チッ! 一瞬早く離脱しやがったわね。あんたがノロマな所為よ、柊蓮司!”
「てめぇこそ、しっかり掴んどけってんだッ! この、ぽんこつ大魔王ッ!」
“んですってっっ!!”
「てめぇこそ、しっかり掴んどけってんだッ! この、ぽんこつ大魔王ッ!」
“んですってっっ!!”
自分のミスを棚上げして他人を責める身勝手な言い草をする魔王を怒鳴りつけると、柊は、人間としての意地を込め、虚空に浮かぶ
邪神の思念に呼びかけた。
邪神の思念に呼びかけた。
「おい! 最後に一言、言わせて貰うぜ、カミサマよ! おめぇは人間を創ったとき、確かに家畜にするつもりだったんだろーけどな。
創られたモンが、いつでも創り主の思い通りになるとは限らねぇんだよ!」
― は・・・・・・・はは・・・・・・ははははっはっ・・・・創り主の思い通りにならんだと? だから、お前は不良品だというのだ、柊蓮司! ―
「るせえよっ! カミサマの家畜になるくれぇだったら、俺は不良品でいいぜッ!」
― クックックッ。まぁ、好きに吼えるがいいさ。ああ、どうやら今日は、本当に此処までのようだ・・・・・・アンゼロット! ―
創られたモンが、いつでも創り主の思い通りになるとは限らねぇんだよ!」
― は・・・・・・・はは・・・・・・ははははっはっ・・・・創り主の思い通りにならんだと? だから、お前は不良品だというのだ、柊蓮司! ―
「るせえよっ! カミサマの家畜になるくれぇだったら、俺は不良品でいいぜッ!」
― クックックッ。まぁ、好きに吼えるがいいさ。ああ、どうやら今日は、本当に此処までのようだ・・・・・・アンゼロット! ―
エルヴィデンスの意識がアンゼロットに方を向き。
― 愉しかったぞ ―
その言葉を残して。古女王エルヴィデンスの精神はエル=ネイシアへと帰っていった。
邪神の思念が去るやいなや、大広間を包んでいた重苦しい圧迫感は跡形もなく消え去り、呼吸が楽になった柊は静かに息を吐いて床
にへたり込んだ。視界の隅に床に突っ伏す銀髪の少女の頭に刺さっていた斧が幻のように消失するのを認め、そちらに顔を向けるとア
ンゼロットがもぞもぞと動いて起き上がり、大きく伸びをした。
にへたり込んだ。視界の隅に床に突っ伏す銀髪の少女の頭に刺さっていた斧が幻のように消失するのを認め、そちらに顔を向けるとア
ンゼロットがもぞもぞと動いて起き上がり、大きく伸びをした。
「ふぁー。うぅん。どうにか終ったみたいですわね、わたくしの活躍で」
「おめーは負けてノされてたんだよ。その後大変だったんだぞ?」
「おめーは負けてノされてたんだよ。その後大変だったんだぞ?」
“叫びの斧”は精神のみを砕く物だと言うエルンシャの言葉に偽りはなく、少女の頭部に目立った外傷がないのを見て取って、柊は
こっそりと安堵の溜息をついた。精神へのダメージも、この様子なら大した事はなさそうだ。仮面のロンギヌスに目をやれば、コイズ
ミも自分でプラーナを使い、傷を癒し終えて立ち上がっていた。
こっそりと安堵の溜息をついた。精神へのダメージも、この様子なら大した事はなさそうだ。仮面のロンギヌスに目をやれば、コイズ
ミも自分でプラーナを使い、傷を癒し終えて立ち上がっていた。
『アンゼロット、柊君、コイズミ君。君達には多大な迷惑をかけた。いくら謝罪しても足りはしない』
「気にすんなって。わりぃのは全部、今倒したアイツだろ?」
「そうですわ。エルンシャ様が気にする事なんか何一つありません」
『そう言って貰えると有り難い。申し訳ないが、私はこれから、娘の闇海姫を助けに行きたいと思う』
「よし、付き合うぜ!」
『いや、君達にはそれぞれやるべき事がある筈だ。エル=ネイシアには、私に従う神姫もいる。心配は無用だ』
「エルンシャ様。わたくしもファー・ジ・アースの方を落ち着けて、すぐに其方に参るつもりですわ」
『では、その時にゆっくりと旧交を温めよう。それから、アンゼロット』
「はい?」
「気にすんなって。わりぃのは全部、今倒したアイツだろ?」
「そうですわ。エルンシャ様が気にする事なんか何一つありません」
『そう言って貰えると有り難い。申し訳ないが、私はこれから、娘の闇海姫を助けに行きたいと思う』
「よし、付き合うぜ!」
『いや、君達にはそれぞれやるべき事がある筈だ。エル=ネイシアには、私に従う神姫もいる。心配は無用だ』
「エルンシャ様。わたくしもファー・ジ・アースの方を落ち着けて、すぐに其方に参るつもりですわ」
『では、その時にゆっくりと旧交を温めよう。それから、アンゼロット』
「はい?」
エルンシャはアンゼロットに注意を向け、一旦、言葉を切ってから再び思念を発した。
『君とは話したい事が山ほどあるが、今は仕事の話だけをしよう。
エルヴィデンスにとって、君の帰郷は全くの予想外でね。何の対処もしていなかったし、改めて行なう時間もなかった。
それで一秒でも時を稼ぐべく、今回の事件を起こしたのだ』
「つまり、急いで戻れば、速やかにエル=ネイシアを取り返せる。そういうことですわね」
『そのとおりだ。情けない話だが、私一人ではエルヴィデンスに敵わない。君の力を貸してくれ』
「任せてください、エルンシャ様。そして、それが済んだら・・・」
『ああ。エル=ネイシアの全軍を持って、主八界から古代神の勢力を一掃しよう。冥魔も、裏界もね』
エルヴィデンスにとって、君の帰郷は全くの予想外でね。何の対処もしていなかったし、改めて行なう時間もなかった。
それで一秒でも時を稼ぐべく、今回の事件を起こしたのだ』
「つまり、急いで戻れば、速やかにエル=ネイシアを取り返せる。そういうことですわね」
『そのとおりだ。情けない話だが、私一人ではエルヴィデンスに敵わない。君の力を貸してくれ』
「任せてください、エルンシャ様。そして、それが済んだら・・・」
『ああ。エル=ネイシアの全軍を持って、主八界から古代神の勢力を一掃しよう。冥魔も、裏界もね』
初恋の相手のその言葉に、アンゼロットの顔が微かに曇ったが、居合わせた男達の誰一人として、その意味に気付く事はなかった。
『それと、これは自戒も込めて言うんだが、決して油断をしないでくれ。
エルヴィデンスは、自らの敗北すらも次の勝利の布石として利用する。倒したと思って気を抜いていると、どこかでコッソリと力を蓄え、強烈な不意打ちを仕掛けてくるんだ。そして、仮に戦いに破れたとしても、戦う前よりも状況を好転させている。
あの者は恐るべき策士だよ。至上神様が断固として再戦を拒んでいるのも、決して故無き事ではないのだ』
エルヴィデンスは、自らの敗北すらも次の勝利の布石として利用する。倒したと思って気を抜いていると、どこかでコッソリと力を蓄え、強烈な不意打ちを仕掛けてくるんだ。そして、仮に戦いに破れたとしても、戦う前よりも状況を好転させている。
あの者は恐るべき策士だよ。至上神様が断固として再戦を拒んでいるのも、決して故無き事ではないのだ』
「だ、そうですわよ、ベル。何処かの誰かさんとは大違いですわね」
「ふん! 助けてもらっといて、出てくる台詞がソレ? 誰のお陰で勝てたと思ってるのよ」
「ふん! 助けてもらっといて、出てくる台詞がソレ? 誰のお陰で勝てたと思ってるのよ」
力を消耗し尽くして床に横たわり、身体の端から蝿の死骸に変わって行く裏界の魔王は、揶揄されて苛立たしげに鼻を鳴らした。
『では、そろそろエル=ネイシアに戻るとするよ。皆、また会おう』
手にした魔剣から神の力が抜け出し、急に身体が重くなる。心身を包んでいた暖かいものが喪われ、急に寂しさを覚えた柊は気を紛
らわせようと、脇に立つコイズミに声をかけた。
らわせようと、脇に立つコイズミに声をかけた。
「・・・・なあ、コイズミ。アイツ、いい漢だったよな」
「はい、同感です」
「全く、アンゼロットにゃ勿体ないくらいだったぜ」
「ええ、仰るとおりで― ハッ!」
「・・・・・・・・・ここは怒るところですか?」
「はい、同感です」
「全く、アンゼロットにゃ勿体ないくらいだったぜ」
「ええ、仰るとおりで― ハッ!」
「・・・・・・・・・ここは怒るところですか?」
口を滑らせたコイズミに、アンゼロットが――目だけは笑わないまま――笑顔で小首を傾げ・・・・・・
「アンゼロット」
唐突に呼びかけられ、振り向いた守護者と、蝿の女王の目があった。
「さっさと帰って来なさいよ? でないと、あたしが世界を奪っちゃうわよ?」
ベルは、それだけ言って写し身を放棄した。