概要
セトロ・セフィロス(Setoro Sefirosu)は、ライトノベルおよびアニメ『月とライカと吸血姫』に登場する、アーナック連合王国(UK)側の宇宙開発計画における中心人物の一人である。
彼はアーナック連合王国の「天翔(スカイハイ)計画」を実質的に指揮する工学博士であり、設計局のトップを務める。物語の直接的な舞台であるツィルニトラ共和国連邦(ウルズス)からは「UKの魔王」「計算機械」などと呼ばれ、その存在がツィルニトラの主席設計士セルゲイ・コローヴィンら技術者チームにとって最大の障壁となっている。
作中では直接的な登場シーンは少ないものの、彼の設計思想や政治的判断が、東西の宇宙開発競争の行方を大きく左右する。
生い立ちと経緯
セフィロスは、アーナック連合王国の出身ではなく、大陸中南部の旧王国(作中世界における南欧モチーフの国家)からの移民の家系に生まれる。彼の両親は、大陸中南部での政治的混乱と経済的困窮を逃れてアーナックに渡った知識階級であった。セフィロスはアーナックの市民権を持たない「二級市民」としての扱いを受け、幼少期は差別的な環境で育つ。
この経験が、彼の「出自や人種ではなく、能力と結果のみを評価する」という徹底した実力主義の思想を形成したとされる。
幼少期から数学と物理学に類稀なる才能を示し、特に流体力学と推進工学に関心を寄せる。第二次世界大戦(本作における「世界大戦」)では、航空機の設計補助として軍に徴用された。戦時中、彼は従来のレシプロエンジンに見切りをつけ、黎明期にあったジェットエンジンやロケット推進の研究に没頭。この時の研究が、後の弾道ミサイル「ランス(聖槍)」シリーズの基礎となった。
大戦終結後、その功績と才能をアーナック政府に見出される。ツィルニトラのミサイル技術に対抗するため、アーナック政府はセフィロスの国籍問題を不問とし、破格の待遇で彼を国家プロジェクトの中枢に据えた。これが「天翔計画」の始まりである。彼は自らの才能を唯一の武器に、アーナックの旧態依然とした貴族主義的な軍上層部と渡り合い、実権を握っていった。
作中での活躍
物語の序盤では、主にツィルニトラ側の諜報員や上層部の会話の中でその名が言及される。彼が率いるアーナックのロケット開発チームは、ツィルニトラの計画を常に一歩先んじているかのような描写がなされる。
ツィルニトラがスプートニク(作中では「第一号人工衛星」)の打ち上げに成功した際、アーナック議会はパニックに陥るが、セフィロスは「あれは技術的な虚仮威しに過ぎない。重要なのはペイロード(積載重量)だ」と冷静に分析し、より大型の衛星打ち上げ準備を急がせた。
特に「ノスフェラトゥ計画」(吸血鬼を試験飛行士にする計画)がツィルニトラで進行する中、セフィロスはいち早くその情報を掴む。彼はツィルニトラの「N44(イリナ・ルミネスク)」の情報を得ると、アーナックが保有する複数のチンパンジー(作中では「アダム」と呼ばれる個体群)による生物実験を前倒しで実行。データ収集を最優先し、安全マージンを削ってでもツィルニトラの有人飛行より先に生物を宇宙空間に到達させようと試みる。
彼は、ツィルニトラが「吸血鬼」という未知の要素に賭けていることを「非合理的」と断じ、より確実性の高いデータ収集を優先する。
中盤以降、レフ・レプスが地球周回軌道を達成したという報を受けた際も、彼は祝辞を送るどころか、即座に「ツィルニトラの使用した推進剤の比推力と、軌道投入の誤差」についての試算を部下に命じている。彼の関心は常に、敵の成功の裏にある「数値」に向けられている。
レフの成功でツィルニトラが有人飛行で先行すると、セフィロスは焦りを見せるアーナック上層部を抑え、次世代のドッキング技術や月面着陸計画へとリソースを集中させるよう進言。目先の成功(最初の宇宙飛行士)よりも、最終的な月面到達(宇宙開発競争の最終勝利)を見据えた戦略家としての一面が強調される。
対戦や因縁関係
セルゲイ・コローヴィン(主席設計士)
セフィロスが最も強く意識する、ツィルニトラ側のカウンターパート。二人は大戦前の国際航空学会で一度だけ顔を合わせたことがあるという設定が、作中の回想で示唆されている。
コローヴィンが理想主義的かつ大胆な発想で計画を推進するのに対し、セフィロスは徹底したデータ主義とリスク管理で対抗する。コローヴィンが「R-7(セミュールカ)」というクラスター方式のロケットで成功を収めたのに対し、セフィロスは「単一の巨大なエンジン(F-1エンジンに相当)」こそが月面到達の鍵であると信じ、異なる技術ツリーを突き進む。
作中、二人の設計思想の違いは、そのまま東西の技術競争の様相を呈している。
セフィロスが最も強く意識する、ツィルニトラ側のカウンターパート。二人は大戦前の国際航空学会で一度だけ顔を合わせたことがあるという設定が、作中の回想で示唆されている。
コローヴィンが理想主義的かつ大胆な発想で計画を推進するのに対し、セフィロスは徹底したデータ主義とリスク管理で対抗する。コローヴィンが「R-7(セミュールカ)」というクラスター方式のロケットで成功を収めたのに対し、セフィロスは「単一の巨大なエンジン(F-1エンジンに相当)」こそが月面到達の鍵であると信じ、異なる技術ツリーを突き進む。
作中、二人の設計思想の違いは、そのまま東西の技術競争の様相を呈している。
レフ・レプス / イリナ・ルミネスク
セフィロスにとって、この二人は「ツィルニトラの非合理性」の象徴である。
セフィロスは、イリナが吸血鬼としての特異な身体能力(G耐性や暗所視能力など)を持つ可能性を考慮しつつも、それを「再現性のないデータ」として切り捨てる。彼にとって、標準化できない個体の成功は、将来の宇宙開発計画において「無価値」であった。
レフに対しても、その精神力や操縦技術を評価せず、「主席設計士の運の良さに救われたパイロット」という低い評価を下している。しかし、二人が成し遂げた技術的・政治的成果(特にイリナが生還したこと)は、彼の計算をわずかに狂わせ、アーナックの計画に遅れをもたらす一因となった。
セフィロスにとって、この二人は「ツィルニトラの非合理性」の象徴である。
セフィロスは、イリナが吸血鬼としての特異な身体能力(G耐性や暗所視能力など)を持つ可能性を考慮しつつも、それを「再現性のないデータ」として切り捨てる。彼にとって、標準化できない個体の成功は、将来の宇宙開発計画において「無価値」であった。
レフに対しても、その精神力や操縦技術を評価せず、「主席設計士の運の良さに救われたパイロット」という低い評価を下している。しかし、二人が成し遂げた技術的・政治的成果(特にイリナが生還したこと)は、彼の計算をわずかに狂わせ、アーナックの計画に遅れをもたらす一因となった。
バート・ファイフィールドとアーナックの飛行士たち
バート・ファイフィールドは、アーナック側の宇宙飛行士候補生であり、セフィロスの計画を実行するパイロットの一人である。
セフィロスは彼ら飛行士の訓練プログラム(「マーキュリー計画」に相当)を設計したが、その内容は極めて過酷であり、人命よりもデータの取得を優先するものであった。彼はバートらに対し、「君たちは歴史に名を残す英雄になるためにここにいるのではない。セフィロス設計局のロケットの性能を証明する『測定器』として搭乗するのだ」と言い放ち、彼らの反感を買っている。
バート・ファイフィールドは、アーナック側の宇宙飛行士候補生であり、セフィロスの計画を実行するパイロットの一人である。
セフィロスは彼ら飛行士の訓練プログラム(「マーキュリー計画」に相当)を設計したが、その内容は極めて過酷であり、人命よりもデータの取得を優先するものであった。彼はバートらに対し、「君たちは歴史に名を残す英雄になるためにここにいるのではない。セフィロス設計局のロケットの性能を証明する『測定器』として搭乗するのだ」と言い放ち、彼らの反感を買っている。
性格や思想
極端な功利主義者であり、リアリスト。彼の行動原理は「国家の勝利」と「技術の進歩」であり、その過程で生じる犠牲や非人道的な実験(動物実験など)に対しても一切の良心の呵責を見せない。
彼は「失敗は許容する。ただし、それは次の成功のためのデータが取得された場合に限る」という信条を持つ。アーナックのロケット爆発事故の際も、彼はパイロットの安否より先にテレメトリ(遠隔測定)データの回収を最優先させた。
作中では「宇宙は感情で飛ぶ場所ではない。数学と物理学だけがそこへの到達を許す」というセリフに、彼の思想が端的に表れている。このセリフは、ツィルニトラ側がイリナの「宇宙への憧れ」やレフの「仲間への想い」を原動力にする描写と、痛烈な対比をなしている。
一方で、彼は技術そのものに対しては純粋な探求心を持っており、ツィルニトラのロケットが打ち上がった際には、敵国の成功でありながらもその技術的達成に静かな敬意を払うような描写も見られる。ただし、その敬意はあくまで「数値的な美しさ」に対するものであり、コローヴィンのようなロマンチシズムは一切介在しない。
私生活は謎に包まれているが、執務室でチェスを一人で嗜む場面があり、常に数手先を読んで行動する彼の戦略家としての一面を象徴している。
物語への影響と考察
セフィロスは、物語における「見えざる壁」としてツィルニトラ側の主人公たちに立ちはだかる。彼の存在そのものが、ツィルニトラの宇宙開発における最大のプレッシャーとなっている。
セフィロスの存在がツィルニトラにもたらした影響は大きい。彼の冷徹な計画進行に対抗するため、コローヴィンらはしばしば危険な政治的・技術的賭けに出ざるを得なくなる。イリナ・ルミネスクの「ノスフェラトゥ計画」が強行された背景には、セフィロス率いるアーナックの生物実験が目前に迫っていたという時間的制約があった。
物語の終盤(原作ライトノベルにおいて)では、セフィロスが主導する月面着陸計画「アルテミス計画(仮称)」が、ツィルニトラの「L計画(月面着陸計画)」と熾烈なデッドヒートを繰り広げる。
彼の存在は、「月とライカと吸血姫」という物語が、単なる人間ドラマや異種族交流の物語ではなく、冷戦下の国家間競争という厳しい現実を描いた作品であることを読者に強く印象付けている。彼の冷徹な合理主義は、命を賭けて宇宙を目指すレフや、差別に苦しみながらも純粋に宇宙に焦がれるイリナの「人間性」を際立たせる対極的な存在として、作品のテーマ性を深める役割を担っている。
