前章において、企業という組織に対してCSRが浸透すると、組織にメリットがあることはコーポレートブランド価値を用いて証明された。この章では、企業という組織をさらにクローズアップし、従業員という個人に対してCSRを浸透させるとどのようなメリットがあるのかということについて述べていきたい。
3-1 組織から個人へとクローズアップする意義
私達が企業の中の従業員に焦点を当てた理由は、伊藤健市氏の先行研究(注1)を踏まえたためである。その中で、企業経営に必要な経営管理は下の図に見られるように四輪駆動の車の運転に例えられている。
<自動車の図>
図では、後輪の生産力と財務力、前輪のR&Dと販売力を動かす車の心臓ともいえるエンジンに当たるものが「ヒト」とされている。この例から分かるように、ヒトは企業の中心に位置し、欠かせない存在となっている。また、ここでヒトとは企業の構成員を指す。以上から分かるように、従業員は企業の原動力であり、重要な役割を担っているのである。したがって、私達はその個人に着目して本論文を進める。
3-1 従業員に対するCSRの浸透
第2章でも示した通り、経営理念とはトップが提示する企業の方針を定めたものであり、企業に属する者全員に認知されなければならないものである。なぜなら、トップの企業方針がボトムにまで伝わらなければ、企業が1つのベクトルに向かって進んでいくことが困難になってしまうからだ。ボトムはトップが提示した経営理念をCSRを通して認知する必
要がある。そこで、以下では従業員に対するCSRの浸透についてのいくつかの先行研究を紹介し、そこから要素を捉えて従業員に対するCSRの浸透に対する理解を深めたい。
梅澤正氏の先行研究(注2)では、経営理念を浸透させるとは経営理念を確立することであるとされている。経営理念を確立するためには、まず社員全員が経営理念の内容をよく知っており、その精神を持っているということが重要であるとしている。これを一言で経営理念の共有とした。つぎには一人ひとりの社員も、そして企業全体も、経営理念を実践しているということが重要であるとしているしている。企業のことについて言えば、その意思決定の内容や経営戦略は当然のことながら、事業の内容、扱う商品や製品、研究開発の対象、マーケティング、社内人事など、企業の存在と活動の全体が経営理念に沿っており、経営理念を具現化したものでなければならない。
水谷雅一氏の先行研究(注3)ではこれからの企業の経営幹部はもとより従業員一人一人に至るまで、この難しいが実現しなければならないCSRという新しい価値観を、常に身につけ、また、身をもってそれを日常業務活動の中で実現しようとする意識的努力が期待されているとしている。
以上より、CSRを浸透させるための要素を抽出すると、以下の要素が抽出される。
①従業員各々がCSRを通して経営理念を認知していること。
②従業員各々がCSRを通して経営理念を共有すること。
③企業内部で従業員によって経営理念すなわちCSRが実践されていること。
したがって、本論文において従業員に対するCSRの浸透とは「従業員各々がCSRを通して
経営理念を理解し、それが従業員間で共有され、実践されていること」と定義する。
3-2 従業員に対するCSR浸透によるメリット
私達は従業員という個人に対してCSRを浸透させると、従業員の
モチベーションアップに
つながるというメリットがあるのではないかと考察する。なぜなら、小河光生氏の先行研究(注4)や日経リサーチ(注5)でも示されているように、CSRが従業員のモチベーションアップにつながるといったことが近年議論されているからだ。以下の図は、それをグラフを用いて表したものである。
<理想的な仕事の図>
<モチベーションと誇りの関係図>
近年では、働く人々の価値観が多様化して、仕事をする意義が以前とは異なってきた。つまり、以前は昇給や出世といった外的報酬が重視されていたのに対し、近年では自己実現などの内的報酬が重視されてきたということだ。こういった内的報酬に対しこの考察については次の3-2において述べていく。
注釈
(注1)伊藤健市『労務論講義』晃洋書房、1996年、p.115
(注2)梅澤正『顔の見える企業~混沌の時代こそ経営理念』有斐閣、1994年
(注3)水谷雅一『経営倫理学のすすめ』丸善、1998年
(注4)小河光生「現場の社員が元気になる会社~CSRと人材活性化~」
『CSR 企業価値をどう高めるのか』日本経済新聞社、2004年
(注5)日経リサーチ
『社会における企業のあり方に関するアンケート』日本経済新聞社、2005年
参考文献
小河光生「
“仕事の誇り”を生むCSR~CSR活動を社員の働きがいに連動させる方法~」 『月刊人事マネジメント』株式会社ビジネスパブリッシング、6号、2008年、専門解説
寺崎文勝「やりがいに応える人事~やる気・達成感・モチベーションを刺激せよ~」
『月刊人事マネジメント』株式会社ビジネスパブリッシング、6号、2008年、専門解説
松村洋平編著、根本孝・茂垣広志監修
『企業文化 コーポレートカルチャー 経営理念とCSR』学文社、2006年
高巌+日経CSRプロジェクト編
『CSR 企業価値をどう高めるのか』日本経済新聞社、2004年
藤芳誠一『経営管理学事典』泉文堂、1985年
内閣府『国民生活における世論調査』、2003年
最終更新:2009年11月09日 17:47