イグナイト(後編) ◆QpsnHG41Mg
エンジェロイドといえば、いわゆるアンドロイドだ。
彼女らはみな、銃弾をも寄せつけぬ鋼鉄以上の硬度の身体を持っている。
そんなエンジェロイドにヘッドバッドをお見舞いされたジェイクのダメージは、決して小さくはない。
鼻血を吹きだし、両手で顔面を抑えながら、ジェイクはよろよろと後退していった。
そんなジェイクに、弾丸の如き速度で肉薄した虎徹は、
「ッラァッ!!」
「ゲブァァッ!?」
その顔面を、殴り飛ばした!
拳は、回避も防御もされなかった。
あのジェイクが、情けない叫びを上げながら、転がっていった。
いてえ、いてえ、と嘆きながら、地べたに蹲るジェイク。
そんなゲス野郎を見下ろし……
そして、横たわって動かなくなった
ニンフを見、虎徹は言った。
「よくわかんねーけどよォ……どうやら……お前の能力……無くなっちまったみてーだな……ッ!」
「なッ……なァァ!? そんなッ! 馬鹿なッ! 読めねぇ!? 何も……聞こえねぇぇぇ!?」
ゆらりと……怒りに燃える虎徹はジェイクの前に立つ。
ニンフは、自分に出来ることを精一杯やった。
此処から先は、その魂を受け継いだ虎徹の仕事だ。
虎徹は、逃げ出そうとするジェイクの肩を掴み上げ、無理矢理立ち上がらせ……
もう一撃、その真っ赤になった顔面に鋭いパンチを叩き込んだッ!!
「ゲェェッ、ガ、ァァァッ!?」
血反吐を吐きだして、吹っ飛ぶジェイク。
無様に地べたを転がるジェイクを見下しながら、虎徹は言った。
抑えきれない怒りを声いっぱいに滲ませながら、言った。
「立てよ……ジェイク……お前、まだ戦えんだろ……!」
「ちょ、まっ、待て! 待ってくれぇぇ! 違うんだッ!!」
「何が違うってんだ……この…ゲス野郎ッ!!」
「お、おおおオレが悪かった! 全部謝るよ! もう悪い事はしねえ!」
「……………」
「だから、なっ? なっ!? 頼むッ! 許してくれよォォォ!!」
この男は……以前バーナビーに負けた際にも、こうして命乞いをした。
だが、その実「改心する」という言葉はただのその場逃れの嘘に過ぎなかった。
この男は、フォローのしようもない正真正銘のクズ野郎だ。
その証拠に――
「…ッ……!?」
一瞬動きを止めた虎徹を、あのビームが直撃した。
虎徹のヒーロースーツの胴体で、紫の光が炸裂した。
再び吹っ飛ばされた虎徹は、ゆらりと立ち上がるジェイクを見た。
「……油断したなぁ? ヒーローさんよぉ……」
「手痛い仕打ちしてくれやがってよォォォ……」
やはり。やはりだ。
奴の言葉は、所詮薄汚い「嘘」でしかなかった。
そんなジェイクは、大袈裟に笑いながら続けた。
「あのガキがオレの能力を一つ消しちまった時はよォ……」
「実にヤバイとパニクったよ……このオレですら、本当に絶望だと思った……」
「だが……なんてことはねぇ! オレにはまだ、バリアの能力がある!」
「これだけで! テメーはオレに攻撃を当てられねェーーーッ!!」
高らかな哄笑ののちに、ジェイクのビームが虎徹を襲った。
咄嗟に飛び退いてそれを回避する虎徹。
すぐに再び肉薄し、ジェイクに拳を叩き込むが……
虎徹の拳は、ジェイクに命中する前にバリアによって阻まれた。
「ほらなァァァァァ!!!」
ジェイクの絶叫と共に、その拳が、虎徹を殴り飛ばした。
それでも構わず、虎徹は反撃の攻撃を繰り返すが……しかし。
パンチも、キックも、どんな攻撃も、ジェイクには当たらなかった。
心は読まれていないのに、それでもジェイクのバリアは十分な脅威だった。
思い切り蹴り付けたキックの攻撃も、バリアに弾かれ……そして、カウンターを喰らう。
「ばぁ~ん!」
至近距離からのビーム砲撃が、虎徹を再び吹き飛ばした。
ヒーロースーツのお陰で今は致命傷にはならないが、そろそろスーツも限界だ。
これ以上の長期戦になるのはまずい……そう思った時だった。
いつの間にか虎徹に肉薄していたジェイクが、虎徹を掴み上げた。
「テメェェェさっきはよくもこのオレ様をブン殴ってくれたよなァァァオイ!?」
激情に歪んだジェイクの顔が、唾がかかるくらいの距離で虎徹を睨んでいた。
虎徹の返事を待つ事もなく、ジェイクは虎徹の顔面を殴りつけた。
ヒーロースーツを纏ったジェイクのそれは、強烈な一撃だった。
その一撃で、タイガーのマスクの視界がシステムダウンする。
「クソっ!」
急いでフェイスオープンし、素顔を晒す虎徹だが、
「オォォォォォラァァァァッ!!」
今度は虎徹の生身の顔面に、ジェイクの鉄の拳が直撃した。
一撃で意識が飛びそうな一撃だった。
鼻血を吹きだしながら、虎徹は数歩よろめいて、くずおれた。
まるで息をするように、ジェイクはビームを放った。
ビームが虎徹の身体で爆発し、全身に激痛の振動が伝播する。
「本当に幸せを感じる…って状況……あるよなァァァ」
絶え間なく放たれるビームが、くずおれた虎徹を滅多打ちにする。
一撃、また一撃……命中するたびに、スーツが陥没し、亀裂が増えてゆく。
「自分の精神力と経験で……絶望を逆転できたんだ……」
ビームを放ちながら、ジェイクは嬉しそうに語る。
それを見上げる虎徹の意識は……もはや、消失寸前だった。
「それって……幸せだって感じるんだよ……今、本当に……!」
全身のダメージによって、ろくに動く事も出来なかった。
嬉しそうに語る下衆を眺めながら、ただやられることしか出来なかった。
“クソ……オレはこんなヤツに……こんなところで……!”
死ぬ、と……そう思った時だった。
暴力的なビームの嵐に、諦めそうになった時だった。
頭に……今はもういない最愛の人との約束が、蘇った。
虎徹は……ワイルドタイガーは……まだ……死ぬワケにはいかない!
刹那、ワイルドタイガーのスーツ各所が、緑の光を放った。
虎徹の瞳が、煌めく様なブルーに輝いた。
「――ッ!」
次の瞬間、虎徹はジェイクのビームを掻い潜り。
呑気に笑いながら、空を見上げていたジェイクの頭に。
今までとは比べ物にならない威力のパンチを叩き込んでいた!
「――ァァァァァッ!!」
「なっ……グゲァァァァァァァッ!!?」
本当に。今までとは、比べ物にもならない威力だった。
ボールのように地面をバウンドしながら、ジェイクが吹っ飛んでいった。
立ち上がった虎徹は、発動されたハンドレッドパワーが傷を癒すのを感じながら、
「悪ぃ、ずっと使ってなかったもんでオレも忘れてたんだけどよぉ……」
怒りに蒼く燃える瞳を、驚愕に目を白黒させるジェイクに向けて、
「オレも最後の切り札……まだ使ってなかったわ」
本当の戦いはここからだと、そう言外に告げた。
○○○
口から痰のような血の塊を吐き出しながら、ジェイクは立ち上がる。
「チッ……なぁ~にが最後の切り札だ! そりゃつまり、レジェンドの豚野郎と同じ能力ってこったろ!」
「そのレジェンドに逮捕されたテメーにゃ十分な能力だろうがよ」
その挑発に、ジェイクがブチギレるのは明白。
額に青筋を浮かばせながら、ジェイクは例のビームを放った。
だが……今の虎徹には、それが「見える」。
放たれたビームの「軌道」が「見える」のだ。
能力の減退が始まってから、異常なまでに強化されたハンドレッドパワー。
その力をフル活用すれば、その程度のビームは止まっているも同然だった。
予め読んだビームの軌道を避け、地を蹴り尋常ならざる加速で飛び出した虎徹は、
ジェイクですら感知する間もなく、瞬く間にその目前にまで飛びこんだ。
そして放たれる、ハンドレッドパワー状態のハイキック。
「ガァァァァアアアアアアアッ!?」
ただの蹴り一発だ。
それが、ロケットランチャーにも等しい威力をもっている。
それが、完全なる無防備の間合いから、ジェイクに激突したのだ。
ジェイクの身体は成す術もなく地べたを転がっていった。
それでも立ち上がるジェイクに、虎徹は一瞬のうちに接近。
「このックソが!」
虎徹のパンチに対応し、バリアを張るジェイク。
だが……そんな動きも、今ならすべて読める!
バリア程度では、今の昂った虎徹は止められない!
ジェイクの動きを「見切った」虎徹は。
パンチをフェイントにして……
逆脚からのハイキックを、バリアの張られていない方向から叩き込んだ!
「なっ――ぶふぁあっ!?」
蹴りが見事にジェイクの後頭部にヒット。
一瞬白眼を剥き失神しかけるジェイク。
「これは……お前に尊厳を踏みにじられたバーナビーのぶんだ……ッ!」
続けざまに、虎徹のボディブローがジェイクの腹を抉った。
大量の胃液が、ジェイクの口から溢れ出した。
それでも反抗の意思をやめないジェイクを、虎徹は再び殴り飛ばす!
「これは、お前に非道な仕打ちをされた
牧瀬紅莉栖のぶん……ッ!」
最早自由な身動きすら取れなくなったジェイクに、二度三度拳を叩き込む!
「これは、お前のために両腕を失い傷付いたニンフのぶん……ッ!」
そして……殴られ、無様なダンスを踊るジェイクに――
「これは今までお前に苦しめられてきた大勢の人々のぶんだぁぁあああああッ!!」
一際強烈なパンチの一撃を、鉄槌のように振り落とした!
「これも! これも! これも! これも!」
だが、それだけでは終わらない!
爆発する虎徹の怒りが、拳の嵐となってジェイクを打つ!
ジェイクの身体を超高速で抉る、数えきれないパンチの嵐!
失った命は戻らないから……せめて、拳で鎮魂を……!
「これも! これも! これも! これも! これも!」
マシンガンの如きパンチが、ジェイクのスーツに亀裂を入れた!
だが、それだけではまだ足りない……
たいていのダメージはスーツにシャットアウトされて、身体の芯までは届かない!
だから虎徹には――その守りの最後の壁を、ブッ潰す必要があった!
「――ォォォォラァアアアアッ!!」
つんのめったジェイクの身体を、強烈なハイキックで上空へと蹴り上げる。
まるで体重のない人形のように空へと舞い上がったジェイク。
同時に跳び上がり、それよりもさらに高く飛び上がる虎徹。
そして!
「オォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――!!!」
さっきのパンチよりもなお威力を増した拳のラッシュ!
地球上のどんなマシンガンよりも速いのではないか………!
そんな錯覚すら抱く程の強烈なパンチを、強化されたハンドレッドパワーで放つ!
やがて、漆黒のヒーロースーツ全体に生じる数えきれない程の亀裂!
だが、それでも虎徹は拳を振るうのをやめない!
「オォォォオオオオォォォオオォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
打撃の重低音を何重にも響かせながら、虎徹はジェイクを殴る! 殴る! 殴る!
何度も、何度でも、幾度となく、十重二十重に、激しく殴り続けるッ!!
やがて、ヒーロースーツの亀裂は上半身全体に拡がり――!
「ナァーーーァァアアアアァッ!?」
ついに! ジェイクの身体を覆うスーツが、粉々に砕け散った!
《――GOOD LUCK MODE――》
電子音と共に、ワイルドタイガーの右腕が瞬時に変形した!
従来の拳を一回りも二回りも上回る巨大な拳!
特大の鉄拳を、
「オオオオオオオオオオオオオオラァアアアアアアアアアアアッ!!」
虎徹はジェイクの胴に、
「ヤッダーバァアァァァァアアアアアッ!?!?」
全力で叩き込んだッ!!
上空で虎徹の拳の直撃を喰らったジェイクは、
凄まじい速度で地面目掛けて急降下してゆく!
その先に待つものは、ジェイク自身が乗って来たバイクだ。
さっきジェイクが紅莉栖にしたのと同じように、
ジェイクの身体が放り投げられた人形のようにバイクに激突した!
それでもジェイクは、着地した虎徹を怨めしげに見上げようとするが――
すぐに意識を保っていられなくなったのか、ジェイクの頭はガクンと項垂れた。
「………………ところで」
虎徹は、そんなジェイクに視線を送り、言った。
「お前がブチ撒いていた"幸福論"だが……」
「こうして今のお前を見ても、"幸せ"なんか全然感じないぜ」
「お前には……最初から勝っていたからな」
最高の"決め台詞"だった。
少なくとも、虎徹自身はそう思っていた。
同時に、極端に短いハンドレッドパワーは、その発動時間を終了した。
戦闘が終了したと判断するや、虎徹は急ぎニンフの元へ駆け寄った。
○○○
戦いは、ワイルドタイガーの完全勝利に終わった。
それを見届けたニンフは、安心からか全身の力が抜けるのを感じていた。
元より両腕もなく、腹には大剣が突き刺さっていると……自立は難しい状況ではあったが。
だがそれでも、エンジェロイドゆえ、ニンフの能力ゆえ、
ニンフの機能はまだ停止していないし、意識もハッキリしていた。
「オイ! 大丈夫か、ニンフ!」
「タイ、ガー……ええ、まあ…なんとか……ね」
駆け付けたタイガーに、無理矢理にでも笑顔を作って答える。
ただ笑うだけのことにも、力がいる。
こんなことにすら、力がいる。
不思議な感覚だった。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
「それより…やったじゃない……タイガー」
「ああ、これでジェイクのヤローはもう動けねえだろ、オレ達の勝ちだ!」
そう、"私達の勝ち"だ。
紅莉栖がいなければ、ジェイクの正体は掴めなかった。
ニンフがいなければ、ジェイクの読心術は破れなかった。
タイガーがいなければ、ジェイクは倒せなかった。
これは……みんなで掴んだ勝利だった。
みんなで、あの最強最悪の強敵に勝利したのだ。
いかに恐ろしい敵であろうと、所詮「悪」は「正義」には勝てない。
それがこの世の鉄則……人が人として生きるための、当然の
ルールだ。
だから、どんなに道が暗闇でも、必ず最後には光に辿りつける。
ニンフはそう信じている。
“そして…同時に……仇は取ったわよ……紅莉栖”
知り合いというには一緒にいた時間があまりにも短い少女に告げる。
紅莉栖を苦しめ、これからも外道の限りを尽くそうとしていたクソ野郎はもう再起不能だ。
気休めでしかないだろうが、これで彼女の魂が少しでも安らぐなら……
「……いや…待て……」
そこで、ニンフは異常に気付いた。
物音が聞こえる。
ジェイクが吹っ飛ばされた方向からだ。
ギギギと重たい首を回し、見れば――
ジェイクは、血反吐を吐き散らしながら、バイクに跨っていた。
「――な、ぁぁ……ッ!?」
絶句したのは、ニンフだ。
虎徹はまだ気付いてすらいない。
エンジェロイドの人間を越えた聴覚でなければ気付けなかっただろう。
それ程までに、ジェイクは慎重にバイクを起こし、それに乗ったのだ。
どころか、たまたま近くに落ちていたザンバットソードまで回収している。
「アイツ……逃げ……ッ!」
バイクのエンジン音が響いた。
そこでようやく虎徹も気付いた。
振り返った虎徹に、ジェイクは言う。
「テメェ……覚えてろよ、クソがッ! ぜってぇ……後悔させてやるッ!!」
血走った眼でそう言うと、ジェイクはフルスロットルで逃げ出した。
ジェイクも必死だったのだろう。これ以上戦う体力はなかったのだろう。
だからこその全力逃走。
最悪だ。
勝利だと思っていたら……それはぬか喜びだったということか。
――いいや違う。
“私達がやったことには……意味があった!”
ニンフは、逡巡している虎徹に言った。
「何してんのよ……とっとと……いきなさいよ!」
「で、でもっ……」
随分と小さい点になったジェイクとニンフを見比べる虎徹。
人命救助を、何よりも最優先しようとしている。
この御人好しが考えていることは一目瞭然だった。
常時ならばそれでいい。素敵な心がけだ。
だが……だが! 今はそれでは駄目だ……!
「馬鹿……! 私は、エンジェロイドは…そう簡単に、死なないって……言ったでしょ!」
「………ッ……」
「それよりも、アイツをここで逃がしたら……アイツは、あの吐き気を催す邪悪は!
もっと多くの命を奪うわ! あなたへの憎しみをもって、もっと多くの殺戮をするッ!」
「……そ、それはッ…」
「逃がしちゃいけないのよッ! アイツだけは……!!」
そう。絶対に逃がさないと言う覚悟で、ニンフは挑んだのだ。
ここで逃がせば、ここまでダメージを負ってやったことが無意味になる。
それだけは許せない。それだけは、絶対に認められない。それが本当の"最悪"だ。
このニンフがここまでやったのに、逃げられましたで済ませられる筈がないのだ。
それに……
「それに、アイツは今、ダメージを負ってる! 私達にやられて、怪我をしている!」
「読心術もしばらくは使えない! 倒すなら今よ! 今を置いて、ほかにはないのよ!」
「だから……早く行きなさい! ヒーローなんでしょ……ワイルドタイガーッ!」
その言葉に、タイガーはハッとした。
ニンフの決意を推し計り、ようやく決意を固めたらしかった。
重い腰を上げて、ジェイクが消えていった先を睨む。
「悪い……ニンフ、必ず、戻ってくっからよ……」
「それまで……死ぬんじゃねえぞ……」
ニンフはなるたけタイガーを安心させようと……
不敵に、フッ、と微笑んだ。
「それでいいのよ……」
タイガーは、微笑みで返してくれた。
力強い微笑みだった。
彼になら、信じて、任せられる。
そう思った時、ニンフは、一気に楽になった気がした。
“上手く……やりなさいよ、タイガー……”
必ず、ジェイクを倒し、智樹達を傷付ける「悪」を打ち倒せと。
ニンフは、ライドベンダーで彼方へと消えていったタイガーに言葉をかける。
もっとも、そんな野暮なことを言わずとも、タイガーならば大丈夫だと信じているが。
だって、タイガーは、あの絶望的な状況から、ジェイクに逆転してみせたのだから。
“それじゃあ……そろそろ…私も、少しだけ……休憩、しよう…かしら……”
極度の疲労ゆえか。
とても眠い。
とても、とても眠い。
もう、意識を保っているのがやっとだ。
それに、寒いのだ。
痛みは感じないが、全身のセンサーが、寒さを訴えている。
……いいや、じきに、そのセンサーすらも眠りについたのか、機能をしなくなった。
徐々に薄れていく意識の中で、ニンフは、キングラウザーを見た。
己の腹に突き刺さったままの大剣を見た。
まだ……メダルは、少しだけ、残されていた。
“…最後の……ハッキン、グ……”
残りの全体力を使って。
残りの全メダルを使って。
ニンフは、自分に突き刺さった大剣にハッキングをかけた。
内容は――
この剣を、「相応しくない者」には抜けないようにする……ということ。
この正義のために使われるべきだった大剣を、悪人の手に抜かれないようにすること。
例えニンフに突き刺さった大剣を見付けても、悪人の手ではピクリとも動かないように。
正しい心の持ち主だけが、この剣の次の使い手として剣を抜けるように。
そんなハッキングを、「大剣」と「自分の身体」に施して――
やるべきことをすべて終えたニンフは。
「少しだけ……眠ろう、かしら……」
願わくは、この剣が「正義」の「切り札」とならんことを。
そして、その力が、必ず智樹達を救うことを信じて。
「おやすみ……トモ、キ……」
そうしてニンフは。
ここにはいない愛するマスターにおやすみを言って。
二度と帰らぬ眠りについた。
エンジェロイドとしての全機能が――停止した。
○○○
「クソッ! クソがッ! あのクソカスどもがァァァッ!!」
血走った目を剥き出しにしながら、ジェイクは夜の街に絶叫する。
全身が痛い。痛くない所なんてもう何処にもないほどにあちこちが痛い。
ヒーロースーツを着ていなければ、確実に死んでいた。
肋骨なんか、もう半分以上は折れているのではないか。
手足の骨が折れていないのが幸いだった。
だが、本当につらいのは、能力を一つ消されたことだ。
「クソォォォオオオオオオオッ!! 聞こえねえ! 何も! もう! 聞こえねェェェエエエエエッ!!」
どんなに意識を集中しても、ジェイクの耳には何の声も聞こえない。
神が与えてくれたNEXT能力が、あんな取るに足らないガキに消されてしまったのだ。
これに激昂しないワケがない。
あのガキは放っておいても死ぬだろうし……
ヤツが守ろうとしていた智樹とか言うヤツも、ただの一般人だ。
見付け次第血祭りにあげてやる方針でまったく問題はない!
しかし……!
しかしあの虎徹! 糞虎徹! アイツだけは! 絶対にゆるせねえ!!
「あのヤロー……最初会った時、シュテルンビルトにスーツの替えを取りにいくって考えてやがった!」
だからジェイクは、シュテルンビルトに先回りをする。
予備のタイガーのスーツを一つ奪って、他は全部破壊してやる。
そして自分だけが唯一無二のワイルドタイガーとなって……
悪事の限りを働いてやる! 邪魔な参加者は全員ブッ殺してやる!!
ワイルドタイガーを信じてたクソ人間ども、タイガーの手で全員ブッ殺してやる!!!
「待ってろよクソタイガー……テメェの尊厳……地の底まで叩き落としてやっからよォォォオオオ!!!」
激しい憎悪を抱えて、ジェイクはシュテルンビルトを目指す。
そして、それを追うヒーロー……
ワイルドタイガーは、果たしてジェイクに追い付けるのだろうか。
ジェイクの憎悪と同じか、それ以上に正義の怒りを燃やすタイガーは、
ニンフの願いを継いで、見事ジェイクを打ち倒すことが出来るのだろうか?
「待ってろよ……ジェイク…テメェだけは……絶対にこの手でとっ捕まえてやるッ!!」
虎徹もまた、ライドベンダーをフルスロットルで加速させるのだった。
【一日目-夜】
【C-5 キバの世界寄り】
【
ジェイク・マルチネス@TIGER&BUNNY】
【所属】無
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、能力消失に対するストレス(極大)、憎悪(極大)、ライドベンダー搭乗中
【首輪】80枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(ダークネス)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式×2(ジェイク、カリーナ)、魔皇剣ザンバットソード@仮面ライダーディケイド、
天の鎖@Fate/Zero、ランダム支給品×2~9(ジェイク1、カリーナ1~3、切嗣+雁夜1~4:切嗣の方に武器系はない)
【思考・状況】
基本:ゲームを楽しむ。
0.虎徹の野郎だけは絶対に許せねえ! 殺しても気が済まねえ!!
1.クソ虎徹の尊厳を地の底まで貶めてやる!
2.そのため、ヒーロースーツを奪取、残りは全部ブッ潰すッ!!
3.ついでに智樹とかいう野郎も見付けたらブッ殺す!
4.神から与えられたオレの能力が消えちまったよぉぉぉぉぉぉぉ!!
【備考】
※釈放直前からの参加です。
※NEXT能力者が集められた殺し合いだと思っています。
※ニンフは三重能力のNEXT、フェイリスは五重人格のNEXTだと判断しています。
※散髪しました。原作釈放後のヘアースタイルです。
※
バーサーカー用の令呪:残り一画
※身に纏っているヒーロースーツは上半身が完全に破壊され、インナースーツ剥き出しです。
※魔皇剣ザンバットソード@仮面ライダーディケイドはジェイクの支給品でした。
※読心能力が永久に使用不能なのか、一定時間使用不能なのかは不明です。
ニンフは死亡しているため、一定時間経過すれば回復する可能性は高いです。
※搭乗しているライドベンダーは元々切嗣が乗って来たものです。
【一日目-夜】
【C-4とC-5の間】
【
鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、背中に切傷(応急処置済み)、激しい怒り、NEXT能力使用不可(残り約一時間)、ライドベンダーに搭乗中
【首輪】80枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(血塗れ、頭部破損、胸部陥没、背部切断、各部破損)、不明支給品1~3
【道具】基本支給品、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
0.カリーナやネイサン、翔太郎のぶんまで戦わなければならない。
1.ジェイクへの激しい怒り。ヤツは絶対にこの手で倒す!
2.それが終わったらニンフの下に戻り、ニンフを助ける。
3.シュテルンビルトに向かい、スーツを交換する。
4.
イカロスを探し出して説得したいが………
5.他のヒーローを探す。
6.ジェイクとマスターの偽物と金髪の女(セシリア)と赤毛の少女(X)を警戒する。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」「そらのおとしもの」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
……
バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』
※ヒーロースーツは大破寸前、とくに頭部はカメラ含め完全に機能を停止しています。
そのためフェイスオープンした状態の肉眼でしかものを見れません。
【全体備考】
※戦闘した場所はD-4北東寄りです。そこにニンフと紅莉栖の遺体が放置されています。
※ニンフの遺体の胴体には重醒剣キングラウザー@仮面ライダーディケイドが突き刺さったいます。
これはニンフの能力により、相応しい者以外の手ではピクリとも動きません。
ニンフ亡き今、このカリバーン効果がいつまで持続するかは不明です。
【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate 死亡確認】
【ニンフ@そらのおとしもの 死亡確認】
最終更新:2013年04月30日 03:39