敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw




【0】


 そこは、地獄だった。
 あらゆる生命を焼き尽くす業火が闊歩し、何処を歩いても呪詛が耳に入り込んでくる。
 ふと地面に目を向ければ、そこにあるのは焼け垂れた"人間だったもの"。
 目線を上げてみれば、黒に塗り潰された空が死の世界を見下ろしているのが見える。
 衛宮切嗣には、この景色に見覚えがあった。
 聖杯に潜む「この世全ての悪(アンリマユ)」が遺していった、絶望の残滓達。
 それが烈火へと姿を転じて、冬木の地に存在する全てを焼き尽くしているのだ。
 衛宮切嗣への最大の罰が、今まさに彼に目の前で再現されている。

 さながら夢遊病患者の様に、切嗣は地獄を進んでいく。
 自分に齎された罰から、一人でも多くの人間を救う為である。
 何処かに生きている者はいないか――それだけを考えて歩いて行った。

 不意に、前へと歩もうとする足が止まった。 
 いや、何者かに足を掴まされ、止められてしまったと言うべきだろう。
 急に動きを阻害されたのには驚かされたが、
 しかしそれは、まだ足を掴めるだけの生命力を有しているという事だ。
 僅かな希望を胸に、切嗣は足止めを行った者に顔を向け――絶句した。
 切嗣を見上げるその者は、かつて自分が罠に掛け、絶望に追いやった末に殺した男。
 あのケイネス・エルメロイ・アーチボルトが、血濡れの顔を憎悪で歪めながら、切嗣の足を万力の如く締め上げていたのだ。

――我々の尊厳を踏み躙っておきながら、今度はのうのうと偽善者ごっこか……ッ!?――

 切嗣はかつて、この男の華々しい栄光を蹂躙し、仲間もろとも絶望の底に叩きこんだ。
 婚約者の為に全てを投げ捨てた彼を、無慈悲にも殺害したのである。
 まだ理想にしがみ付いていた頃の切嗣の罪が、彼の足元に顕在していた。

――私達を散々苦しめておいて、今更あなたに救済があると思ってるの……?――

――正義……?正義だと……!?俺の望みを汚した亡者如きがそれを語るかッ!――

 次々と現れるのは、切嗣が殺してきた者達の怨霊である。
 顔面が悪鬼の如く豹変した彼らは、切嗣に纏わりつきながら呪詛を吐き続ける。
 憎しみに塗れたそれらは、切嗣の罪を延々と苛み続けているのだ。
 怨霊の妨害で身動きがとれず、切嗣はどうにか解放されようともがき続ける。
 しかし、無数の怨念達は一つとして彼に離れようとはしない。
 それどころか、悲壮感と憎悪にまみれた呪詛がますます増えていくばかりだ。

 そうして、切嗣の身体という身体に怨霊が纏わり付いた頃、切嗣の眼が一人の女の影を捉えた。
 長髪がさながら雪の様に白いその女は、切嗣の最大の罪の一つである。
 かつて自分を信じ続けた妻を、彼は最後の最後で裏切った。
 彼女が何よりも愛していた娘も、遂には取り返せなかった。
 アイリスフィール・フォン・アインツベルンもまた、切嗣の理想に振り回された犠牲者なのである。

 アイリは無言のまま切嗣に歩み寄り、彼の首に手を掛ける。
 白い指が彼の首に絡まり――その直後、切嗣の表情が更なる苦悶に歪んだ。
 華奢な体格からは想像も付かない程凄まじい力で、首を締め上げられているのだ。

『切嗣。あなたの身勝手な願いで、こんなにも沢山の犠牲が出たのよ……自分の罪を棚に上げて、今更"正義の味方"を気取るつもりなの?』

 ゆっくりと、首を絞める力が強くなる。
 呼吸を封じられた切嗣は、次第に顔を青白くしていく。
 しかし、相手の方はそんな事まるで気にも留めずに、指に更に力を込める。
 もうその頃には、アイリの表情には鬼が宿っていた。

『お前が見捨てたイリヤの分まで、ずっと苦しめばいい。絶望の中で野垂れ死ぬのが、衛宮切嗣がすべき贖罪だ』

 彼女が吐いたその言葉には、これまでに浴びた呪いの中で最も強い怨念が籠っている様に思えた。
 裏切られた彼女の怒りは、途方もない程に凄まじい熱を帯びているのだろう。
 ここまで自分の妻を豹変させてしまうとは――こんな感情を、今までの自分は振り撒いてきたのか。

「僕、は……それ、でも……」

 意識が深い闇の中へ落ちていく中、切嗣はうわ言の様に呟く。
 例え幾つもの過去に憎まれようが、ここで斃れるつもりはない。
 今ここで"正義"を喪うという事は、士郎への裏切りを意味している。
 自分の希望となってくれた少年との記憶も、その日見た美しき月夜も――あの夜に起きた全てが嘘となってしまう。
 だから、最期に残ったこの"正義"だけは、捨てる訳にはいかなかった。
 それが今の切嗣の生きる意味であり――彼に掛けられた"責務"という名の"呪い"なのだから。

 朦朧としていた切嗣の意識が、遂に消失する。
 彼の耳が最後に捉えたのは、アイリの蔑むような呪詛の言葉。

『ならせいぜい"正義"を掲げるといい。だが忘れるな――お前の"正義"は、お前が積み上げた屍で成り立っているという事をな』


【1】


 鈴羽の視線の先で繰り広げられるのは、セイバーと緑の怪人との戦い。
 現状では、風を操って戦う怪人を上手くあしらっているセイバーが優位に立っている。
 この調子なら、あと数分程度で彼女の勝利という形で戦いは終わるだろう。
 それにしても、どうしてセイバーはすぐさま怪人を斬り付けたのだろうか。
 ああまで怒りに震えている彼女の姿は、この殺し合いが始まって初めて見るものだ。
 怪人の方も、何だか我武者羅に戦っている様に思えて仕方がない。
 あの戦い方は、まるで怒りに何もかもを委ねているかのようではないか。
 一体、両者の身に何が起こったというのだろか。

(……そんな事考えている場合じゃないよ)

 戦いの事はセイバーに任せておいて、今はこの瀕死の男に意識を向けるべきだ。
 自分の目の前で、彼の命の灯火は消えようとしているのである。
 鈴羽の脳裏に蘇るのは、この地で命を落とした一人の少女。
 心拍数が減っていく彼女に、鈴羽は何もしてあげれなかった。
 あの頃のように、命が消えかかるのを黙って見てるだけだなんて堪えられない。
 今倒れている男とは接点など何も無いが、それが彼を見捨てる理由になどなるものか。
 どうにかしてでも、死の世界に引きずり込まれていく彼の手を取ってあげたかった。

 だが、彼を救うにはどうすればいい。
 医療器具など所持していないし、そもそも持ち運び可能な器具で彼の傷を癒せるとは思えない。
 教会に行けば微小ながら手段を手に入れられるかもしれないが、その施設の入り口付近が既に戦場と化している。
 男を救う手立ては、今の所何処にも存在していないのである。

 それでも何かできないかと考えている内に、鈴羽はある事に気付く。
 彼は意識を失う直前、途切れ途切れにだが「メダル」と呟いていた。
 鈴羽が試しにセルメダルを投入してみると、その男の表情が僅かにだが和らいだのである。
 原理は不明だが、彼はセルメダルを用いて傷の修復ができるのかもしれない。
 つまり、このままメダルを投入し続けていれば、彼を助けられる可能性があるという事だ。

 首輪から数枚程セルメダルを取り出し、それを男の首輪に流し込んでいく。
 どういう構造をしているのか、メダルは吸い込まれる様に首輪へ消えていった。
 するとどうだろうか、男の顔色が少しばかりだが良くなっていくではないか。

「これなら……!」

 希望への活路は、まだ閉ざされてはいなかった。
 こうしてメダルを供給していけば、きっと男を救う事ができる筈だ。
 もう二度と、そはらを喪った悲しみを繰り返してなるものか――そう心に誓いながら、鈴羽はメダルを男に施し続ける。
 どうか救われて欲しいという願いを、その胸の内に秘めて。


【2】


 フィリップは、襲い掛かってきたその少女の名を知らない。
 何の意図があって自分を剣を向けてきたのかなど、知る由もなかった。
 だが、どんな理由があったにせよ、フィリップに敵意を向けたという事実に変わりはないのである。
 怒りに震える動機など、その一つだけで十分ではないか。
 あのバーサーカーと同様に、この女も倒すべき"悪"以外の何物でもないのである。
 彼女が引き連れていたもう一人の少女も、恐らくは同様に打倒すべき存在に違いない。
 どうにしかして二人を撃破し、切嗣を救出しなければ。
 激情に支配されていたフィリップは、自分を少しも疑わずに、ただそればかりを考えて戦っていた。

 だがしかし、いくら怒りを滾らせた所で、それが実力に作用するケースは少ない。
 どれだけ憎しみを募らせたとしても、必ずしも新たな力に目覚める訳ではない。
 つまりは、フィリップが激情に身を任せた所で、セイバーとの戦闘力の差は縮まないという事である。
 現在彼が変身しているサイクロン・ドーパントは、T2サイクロンメモリとのとの適合率が高いお陰で並のドーパントよりも高い性能を保有しているが、
 当のフィリップ自身が満身創痍の状態のままでは、その性能の高さも十分に発揮する事はできない。
 それ加えて、今彼が相手をしているのは、最強の英霊と名高いあの「アルトリア・ペンドラゴン」その人なのだ。
 手負いのままそんな強敵に単騎で挑もうなど、自殺行為とほぼ同義である。

 その証拠に、フィリップは既にセイバーに追い詰められつつあった。
 彼がどう攻撃しても決定打にはならず、逆にセイバーに傷を付けられていくだけで、
 最早それは戦いというよりも、一方的な暴行とも見て取れる。
 騎士王の剣技と宝具の前では、フィリップの怒りなど何の優位性も齎さなかったのだ。

 カオスやバーサーカーの時と同様に、相手があまりにも悪すぎる。
 それに加えて、いよいよセルメダルが底を尽きそうだ。
 ここまで追い込まれたのなら、いっそこれまでの様に逃げてしまえばいいのではないか。
 命さえあればま"悪"に挑めるが、逆に言ってしまえば、命を喪えばもう二度と"悪"とは戦えないのだ。
 翔太郎の遺志を継ぐと決心した以上、こんな場所で殺される訳にはいかない。
 だが、ここで逃げたら残された切嗣はどうなるのだ。
 彼を助けようにも、その為には二人の敵を撃退する必要がある。
 今戦ってる女が切嗣に近づかせるものかと上手く立ち回っているし、彼女の仲間も常に切嗣の傍にいるのだ。
 こんな様子では、どうやっても切嗣を救い出せはしない。
 つまりは、この場から撤退するというのは、切嗣を見捨てるのと同義なのである。

(駄目だ!ここで逃げるなんて……!)

 頭に過った弱い考えを、フィリップはすぐさま振り払う。
 翔太郎の"正義"を継承するのなら、ここで安易に逃げを選んでいい訳が無い。
 例え逆境に陥っても、諦めずに自分の意思を貫かなければならないのだ。
 それに、目の前の"悪"に何もしないで逃走するだなんて、そんなのはもう沢山なのである。

 まだチャンスはある――デイパックの中で眠っている道具を利用すれば、この状況を乗り越えられる。
 フィリップは無言を貫いたまま、これまでにも何度も作ってきた竜巻を再び巻き起こす。
 戦闘の余波で砕けた道の瓦礫をも巻き込み、その竜巻は徐々に色を変えていく。
 フィリップが作りだしたのは、周囲の煤等を利用した砂嵐。

「またそれかッ!」

 セイバーの言葉など気にも留めないまま、フィリップは砂嵐を放出する。
 襲い掛かる砂嵐は瞬く間にセイバーの元に到達し、彼女の視界を塞ぐ。
 だがこの程度では、彼女は一瞬程度しか怯みはしない。
 しかし、フィリップにとっては"一瞬程度"だけでも十分だった。

《――SPIDER――》
「な……ッ!?」

 その電子音が鳴り響いた瞬間、突如として飛来してきたワイヤーがセイバーに巻き付いた。
 フィリップがスパイダーショックを起動させ、彼女の動きを封じたのである。
 砂嵐を起こしたのはこの為だったか――セイバーは相手の策に歯噛みした。
 "直感"で攻撃が来るのは分かっていたが、状況も相まって巻き付く糸の驚くべき速度に対処できなかった。
 風を利用した攻撃以外にも、まさかこんな隠し玉を持っていたとは。

 エンジェロイドですら容易には脱出できなかった拘束だ。
 いくら最強のサーヴァントと謳われていようが、自力での解放は厳しい。
 そうしてできた隙を、フィリップが見逃す訳がなかった。
 すぐさま暴風を叩き付け、セイバーを後方へと吹き飛ばす。
 上手くバランスが取れない状態で強烈な烈風に煽られたが故に、
 彼女は手にしていた武器を取りこぼし、無様に地を転がる羽目となった。

 身動きを取れない相手を尻目に、フィリップは落ちていた剣を手に取った。
 奴の武器は奪い取ったし、これで第一の脅威は無くなったと言ってもいいだろう。
 激しい憤怒を顔に見せる彼女に目も暮れずに、フィリップは切嗣の元へ歩み寄る。
 横たわっていた彼の傍にいた少女の表情が、一気に緊迫の色に染まった。

「……ッ!止まれ!」

 抵抗のつもりか、少女は懐から拳銃を取り出すと、それをフィリップに向けた。
 それで警告のつもりなのだろうか――彼は拳銃をまるで気にしていないかの様に進み続ける。
 無言のまま迫って来る怪人へ、少女は躊躇なく発砲した。
 しかし、彼女が何回引き金を引いた所で、フィリップは歩みを止めようとはしない。
 一般的な拳銃では、ドーパントの肉体を傷つける事はできないのである。
 彼女の悪あがきは、超人の前では何の足止めにもならないのだ。

 どうやら彼女はそう強くもないようだし、必要以上に警戒しなくてもよさそうだ。
 何故切嗣の傍らにいるのかが多少気になりはしたが、きっと後でゆっくりと拷問でもするつもりなのだろう。
 すぐにでもこの女の手から切嗣を救出し、すぐさま此処から撤退しなければ。
 その思想を実行に移そうとして――真横から突如として襲来してきた突風に、フィリップは吹き飛ばされた。
 その風の砲弾によって彼を勢いよく弾き飛ばされ、切嗣との距離を大きく引き離される羽目となる。
 この突風を発生させたのは、他でもないセイバーである。

 これこそがセイバーの宝具の一つ――「風王結界」を応用して放たれる「風王鉄槌」だ。
 刀身に纏わせた風を一気に放出し、相手に暴風として撃ち出すのである。
 本来は、知名度の高すぎる「約束された勝利の剣」を周囲に晒さない為にある「風王結界」だが、
 この宝具は剣以外にも様々な物を覆う対象に選ぶことが可能だ。
 セイバーは自身の肉体を「風王結界」で覆い、そしてすぐさま「風王鉄槌」を発動させる事で、鈴羽達を敵の魔の手から救ったのである。
 腕が自由に動かせない状況で立ち上がるのに時間がかかってしまい、切嗣を奪われる寸前の所での発動となってしまったが。

 いくらドーパントの肉体といえど、「風王鉄槌」の直撃はそれなりのダメージとなる。
 暴風に晒されたフィリップは、満身創痍という言葉がよく似合う様な状態にまで陥っていた。
 やっとの思いで掴んだチャンスも、奥の手によって潰されてしまった。
 もう自分に打つ手はない――切嗣を救うのは、もう不可能なのである。

「…………すまない」

 他の者に聞こえない程の声量でそう呟くと、フィリップは風を巻き起こす。
 武器が拳銃しかない鈴羽は言うまでもなく、「風王鉄槌」を発動した影響で、
 すぐには「風王結界」を使えないセイバーにも、彼の行動を止める事はできない。
 緑の怪人が風の中へと消えていく光景を、二人は黙って見ている事しかできなかった。


【3】


 もう助からないとばかり思っていた切嗣は、いつの間にかその顔色を大分良くしていた。
 微弱だった呼吸もそれなりに回復しており、この様子ならそのまま死亡する事はまずないだろう。
 戦闘を終えたセイバーが歩み寄り、切嗣をまじまじと見つめる。
 いつの間にか傷が癒えていた彼の姿を確認して、彼女は彼の身に何があったのかを察した。
 恐らく、切嗣はその身に「全て遠き理想郷(アヴァロン)」を宿らせているのだろう。
 対象の傷を癒すその宝具は、セイバーとの距離が近づけば近づくほど治癒の性能が上昇していく。
 この性質によって、どうにか切嗣は命を繋げられたのである。

 鈴羽の話を聞けば、かなりの枚数のメダルを切嗣に与えていたらしい。
 それにしては、今の切嗣の様子は見るも無残なものである。
 治癒の機能が向上し、鈴羽によるメダルの援助があってもこの状態となると、
 どうやら彼は肉体という肉体を徹底的に破壊されていたようだ。
 宝具の加護を受けていたとしても、もしもあの怪人に切嗣を拉致されていたら、彼は絶対に助からなかっただろう。
 マスターの無事を確認して、セイバーはここにきてようやく安堵する。
 例え殺し合いを打破したとしても、マスターに先立たれててはいずれは自分も消滅する羽目になる。
 いくら分かり合えないとは言っても、一応は同じ目的を持った主従なのだ。

(それにしても……)

 目の前にいるのは、紛れもなく衛宮切嗣その人だ。
 だがしかし、何やら妙な違和感を覚えざるを得ないのは何故だろうか。
 今の彼の表情など、まるで数年もの時間が経ってしまっているかのようだ。
 セイバーの知らぬ内に、一体この男に何があったというのだろうか。

 今の彼の惨状にしたってそうである。
 まだ切嗣に召喚されてから数週程度しか経っていないが、彼がここまで叩きのめされる様な状況に陥るとは思えない。
 不意打ちを始めとする卑劣な行為を平気で行うこの男が、果たしてこんな失敗をするのだろうか?
 まるで何かを人質にとられ、為す術もなく暴力の嵐に晒されたかのような――。

「セイバー、どうかしたの?」

 鈴羽のその呼びかけで、セイバーの意識は現実に引き戻された。
 鈴羽の方に視線を向けると、彼女は不思議そうにセイバーの姿を眺めている。
 切嗣の得体の知れない不可解さに、どうやら一人で考え込んでしまっていたようだ。

「申し訳ありません。切嗣の様子がどうにも気になって……」
「そうなんだ……って切嗣!?じゃあこの人がセイバーの言ってた……」

 そういえば、既に鈴羽には説明していたか。
 世界の平和の為に身を削り、外道に手を染めてまで戦い続ける存在を。
 自分のマスターであり、同時に敵対しかねない男の名を。



「ええ。衛宮切嗣――私の、マスターです」



【一日目-夜】
【B-4/言峰教会周辺】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(極大)、貧血、全身に打撲、右腕・左腕複雑骨折、肋骨・背骨・顎部・鼻骨の骨折、片目失明、牧瀬紅莉栖への罪悪感
【首輪】0枚:0枚
【コア】サイ(一定時間使用不可)
【装備】アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
 0.――――――――。
 1.偽物の冬木市を調査する。 それに併行して“仲間”となる人物を探す。
 2.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
 3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
 4.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
 5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介キャスター、グリード達を警戒する。
 6.セイバーと出会ったら……? 少なくとも今でも会話が出来るとは思っていない。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。
※かろうじて生命の危機からは脱しました。
※顎部の骨折により話せません。生命維持に必要な部分から回復するため、顎部の回復はとくに最後の方になるかと思われます。
 四肢をはじめとした大まかな骨折部分、大まかな出血部の回復・止血→血液の精製→片目の視力回復→顎部 という十番が妥当かと。
 また、骨折はその殆どが複雑骨折で、骨折部から血液を浪費し続けているため、回復にはかなりの時間とメダルを消費します。

【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(小)、安堵
【首輪】60枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】無し
【道具】基本支給品一式、スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
 1.切嗣に一体何が?
 2.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
 3.衛宮切嗣、バーサーカー、ラウラ、緑色の怪人(サイクロンドーパント)を警戒。
 4.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。

阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】110枚:0枚
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
 0.この人が衛宮切嗣……。
 1.セイバーの手助けをしたい。
 2.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
 3.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
 4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
 5.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
 6.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。


【4】


 教会から離れたB-5とB-4の境い目にて、フィリップは変身を解いた。
 いや、正確に言うのであれば、変身を解かされたと言うべきなのだろう。
 フィリップの所持メダルが完全に底を尽き、変身の維持に必要なコストを払えなくなってしまったのだ。
 変身が解かれるや否や、フィリップは地面に吸い付く様に座り込んだ。
 これまでの疲労によるものもあるが、己の不甲斐なさが彼をそうさせたのである。
 何しろ、今回で三度目の敗走となるのだ。
 逃げてはいけないと言い聞かせたばかりだというのに、早くもその誓いは破られてしまった。

 仕方ないだろうと、今一度自分に言い聞かせる。
 あの時は、もうこうするしか手は無かったのだ。
 襲撃者が強力だったのもあるが、フィリップの方も相当なダメージを受けていた。
 あんな状況では、もう逃げを選ぶ他に無かったのである。
 もっと体制を整えられてさえいれば、切嗣を救えたかもしれないというのに。
 結局、またしてもフィリップは最後まで戦い抜く事ができなかった。
 自分の命惜しさに、救えれた筈の命を見捨てたのである。

「すまない切嗣……僕は……君を見殺しにしてしまった……」

 置いてきた切嗣は、きっともう助からないだろう。
 見るからに瀕死の状態だったし、例えそうでなくとも、襲撃者の手によって始末された筈だ。
 自分を置き去りにしたフィリップを、果たして彼はどう思ったのだろう。
 それで良いのだと納得してくれたのか、それともどうして助けてくれないのかと恨んでいたのか。
 彼の生存がほぼ絶望的になった以上、もうそれさえ聞く事ができない。
 最期を看取れなかった後悔が、今になって押し寄せてきた。

 そんな中でも、敵から武器を奪い取れたのは、不幸中の幸いと言うべきなのだろうか。
 黄金色の刀身を有した、刃毀れ一つ無い名剣である。
 かつて切嗣が召喚したサーヴァントも、こんな美しい剣を所有しているらしい。
 彼女もまた、この殺し合いには反抗の意を示すだろうと彼は言っていたか。
 もし彼女に出会えたのなら、その時は今回の愚行を余さず告白しよう。
 身勝手かもしれないが、フィリップの贖罪を聞いてくれるのは、もうその少女しか残っていないのだ。
 もしも彼女が自分の罪を赦してくれるのなら、その時は今度こそ「仮面ライダー」に相応しい戦いをしよう。

 何度挫折を味わおうが、翔太郎の"正義"が――「仮面ライダー」の"正義"がある限り、挫けたりなどするものか。
 「仮面ライダー」の"正義"が邪悪を打ち砕くその日まで、ひたすらに前へと進み続けるだけだ。


【一日目-夜】
【B-5/西部】

【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(極大)、決意
【首輪】0枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、
    T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ロストドライバー+スカルメモリ@仮面ライダーW、約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.切嗣の分まで戦う。
 1.あの少女(=カオス)は何とかして止めたいが……。
 2.バーサーカーと「火野という名の人物」、金髪の女を警戒。また、井坂のことが気掛かり。
 3.切嗣を救いたかったが……。
 3.セイバーに出会ったら、これまでの事を正直に話す。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません
※衛宮切嗣のデイバッグを回収しました。



















「――――――――――――――――あれ?」



















 唐突に頭に過った疑念で、決心は半ばで停止した。
 自分は今、何か致命的な間違いをしているのではないか。
 恐るべき過ちを犯し、未だにそれに気付けていないのではないか。
 フィリップの意思とは無関係に、冷静になった彼の頭脳が記憶が蘇らせる。
 これまでに行ってきた情報交換の様子が、忠実に再現されていく。

「あ」

 切嗣が召喚したサーヴァントの外見なら、既に切嗣本人から聞いている。
 青色が目立つ甲冑を着た、小柄な金髪の少女だと言っていた。
 フィリップが対峙した相手も、同じ様な特徴を有していたのではないか。

「あ、ああ」

 そのサーヴァント――セイバーは、その名の通り剣を武器に戦うらしい。
 刃に風を纏わす事で、剣を不可視にするのも可能だと説明を受けた。
 そんな能力を有した者と、フィリップはついさっき戦ったばかりである。

「そんな、嘘だ」

 セイバーの切札は、"約束されし勝利の剣(エクスカリバー)"と呼ばれる宝具だ。
 黄金色に輝く刀身から放たれる光は、万物を消し飛ばせるのだという。
 フィリップが手にしているのは、思わず見惚れてしまいそうな程の美しさを備えた剣。
 その剣の刀身もまた、黄金色の煌めきを放っていた。

「ありえない、だって、僕は」

 思い返してみれば、本当に彼女は敵だったのだろうか。
 フィリップを殺す為だなんて、そんな単純な理由だけで襲ってきたのだろうか。
 血濡れの切嗣を運んでいる自分の姿を見て、思わず激昂してしまっただけなのかもしれない。
 もしそうだとすれば、ちゃんと事情を話せていば、彼女とも分かり合えたのではないのか。

「嘘だ、なんで……僕は、そんな、そんな……」

 切嗣のすぐ近くにいた少女だってそうだ。
 今にして考えれば、フィリップによる救出を妨げるのが、彼女の目的ではなかったのだろう。
 それどころか、彼女は弱り切った切嗣を保護しようとしていたのかもしれない。
 彼女も彼女なりに、切嗣を助けようとする為に傍にいたのだ。

 あの戦いに、果たして"悪"は存在していたのか。
 いいや――あの場においては、誰一人として悪意など有してはいなかった。
 強いて言うのであれば、フィリップ自身が勝手に逆恨みを抱いていただけである。
 あの闘争容認されるべき理由など、一つとしてあるものか。

『やっちまったな。フィリップ』

 唐突に耳に入ってきたのは、二度と聞く事は無いと諦めていた声。
 視線を前に向けると、そこには今は亡き相棒が立っているではないか。
 生前と何一つ変わらない格好のまま、フィリップを見据えている。
 だが、どうしてだろうか――彼の視線は、今までに無い程に冷ややかになっていた。

『お前は救うどころか、救おうとした奴の足を引っ張っちまったんだ』
「違う!僕はただ、切嗣を助けようと……」

 翔太郎に向けた否定の言葉は、浮かんできた疑念によって妨害される。
 本当に自分は、切嗣を救う為にセイバーと戦ったのか。
 仲間の救出なんて所詮建前で、実際には誰かに怒りをぶつけたかっただけなのではないのか。
 他の者にも自分が受けた痛みを思い知らせたかったと、本能的に考えていただけなのかもしれない。

『いい加減、自分の非を認めたらどうだ』

 別方向から聞こえてきたのは、これまた懐かしい声だ。
 声の方向に顔を向けると、そこにはフィリップの恩人――鳴海壮吉の姿があった。
 彼も翔太郎と同様に、フィリップへの視線が嫌に鋭い。

「僕が悪い……!?襲ってきたのはセイバーの方じゃないか……!」
『……自分の感情だけで全てを決める奴がいるとすれば、そいつは半人前以下だ』

 壮吉の口から出てきたのは、当然の正論であった。
 あの時、セイバーに「何者なのか」と一言聞いてさえいれば、今頃悪役の様に逃げてはいなかった筈だ。
 先に攻撃を仕掛けてきた彼女の方にも問題はあるが、怒りに身を任せて戦い続けていた自分の方にも十分非がある。
 誤解を解こうともせずに、常にセイバーを倒すべき"悪"だと信じて疑わずに行動していたのだ。
 少し冷静になれれば、僅かでも相手の気持ちを汲んであげれば、避けられた事態だったというのに。

『フィリップ……お前が「仮面ライダー」の意思を継いでくれるって、そう信じられたからこそ、俺は安心して逝けたんだぜ』
『よく考えてみろ。お前は「仮面ライダー」として戦えてたかどうか、をな』

 "正義"の名の下に、"悪"を倒して平和を守るのが「仮面ライダー」だ。
 "正義"の権化である彼らが、同じ"正義"と争うなど言語道断である。
 ならば、自己の基準で"正義"であるはずの存在を"悪"と断定し、叩き潰そうとしたフィリップは、果たして"正義"と言えるのか?
 怒りで周りを見失い、可能だった筈の和解すら放棄して襲い掛かるのは、「仮面ライダー」として許されるのか?

『もう分かってるだろ?フィリップ』
『半人前以下が、自分の"正義"を語る資格はねえ』

 ポケットから、ロストドライバーとスカルメモリを取り出した。
 ロストドライバーが、貴様は"悪"に加担したのだと責めているようで。
 スカルメモリが、お前に"正義"などありはしないと嗤っているようで。
 全身がわなわなと震え始め、手にしていた「仮面ライダー」の証が零れ落ちる。

 切嗣の傍にいた少女には、フィリップの姿はどう映っていたのだろうか。
 瀕死の切嗣を拉致しようとしていて、セイバーが攻撃したら無言のまま彼女に襲い掛かった。
 言葉を交わそうともしないで、少女の仲間を討たんとするフィリップのその姿は――――。







『『お前はもう、「仮面ライダー」じゃない』』







 ――――まるで、「仮面ライダー」の前に立ち塞がる「悪の怪人」ではないか。






「あ、あああ、あ、ああぁぁあぁぁあああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁああああッ!!」

 その一言で、遂にフィリップの心が悲鳴を上げた。
 抑えていた感情が決壊し、叫びとなって口外から放出される。
 自分を責める二人が幻覚である事くらい、既に理解できていた。
 しかし、例え自身が生み出した幻影だとしても、相棒と恩人の口から出てくる言葉はあまりにも重すぎる。
 ここにきて、彼の精神はいよいよ限界に近づきつつあった。

「違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!
 違うんだ……僕は……違う……違うッ!違うんだぁあぁぁああああぁぁぁぁッ!!」

 気付いた頃には、疲労など無視してそこから逃げ出していた。
 ロストドライバーとスカルメモリなど気にも留めないで、ひたすらに逃避する。
 提示された絶望に背を向けて、少年は怯えた子供の様に走り続ける。

 フィリップの後ろから吹き付けるのは、懐かしい故郷の風。
 本来なら心地よさを感じる筈のそれが、まるで背中を焼き付かせるようで。
 その風からさえも、必死になって遠ざかろうとしていた。



         O         O         O



 ゲームが始まった頃、ある一人の男が言っていた。
 姿形が違えど、その魂に正義があれば、それは「仮面ライダー」なのだ、と。
 彼の基準で考えるのなら、フィリップは「仮面ライダー」なのだろうか。
 答えは"否"――彼の在り方は「仮面ライダー」のそれとは程遠いものだった。

 自分以外の意思をまるで受け付けず、ただ自分の思うがままに暴れていた。
 フィリップ自身の精神が衰弱していたのもあるだろう。理不尽への怒りが強かったのもあるだろう。
 だが、それは決してその行為が容認される理由になどなりはしない。
 一時的にとはいえ、フィリップは背負った筈の十字架を落としてしまったのだ。
 そのたった一度の"敗北"は、彼の心をじわじわと蝕んでいくだろう。


 蟻地獄の中へ落ちていく様に。
 少年の魂は、今も深い闇の中へと沈んでいく。



【一日目-夜】
【B-5/西部】
※ロストドライバー+スカルメモリ@仮面ライダーWが放置されています。

【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(極限)、幻覚症状、後悔
【首輪】0枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、
    T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.違うんだ……ッ!
 1.あの少女(=カオス)は何とかして止めたいが……。
 2.バーサーカーと「火野という名の人物」を警戒。また、井坂のことが気掛かり。
 3.切嗣を救いたかったが、どの面下げて会いに行けというのか。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません
※衛宮切嗣のデイバッグを回収しました。


097:怠惰 ――Sloth―― (前編) 投下順 099:Fに誓いを/ダイヤモンドは砕けない
096:アンブレイカブル・シャドームーン 時系列順 099:Fに誓いを/ダイヤモンドは砕けない
091:運否天賦 フィリップ 115:Rの流儀/砕かれた仮面
衛宮切嗣 099:Fに誓いを/ダイヤモンドは砕けない
セイバー
阿万音鈴羽


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最終更新:2013年11月18日 01:48