sing my song for you~永遠のM/サヨナラの向こう側まで◆z9JH9su20Q
小野寺ユウスケの目の前で、
大道克己は風に還った。
人ならざる者と化してしまった己に絶望することなく、その力を悪用することもなく。誰かの自由で平和な明日を護るために戦い続け、見ず知らずの上一方的に攻撃してきたユウスケすら助けるために果てた男。
翔太郎や
フィリップから聞かされていた情報や、ダミーメモリで彼らの記憶から再現された複製とは、まるでその様子が異なる理由などユウスケにはわからない。
それでも、一つだけ確かなことは。彼は、ユウスケが目にした限りの大道克己は、悪魔なんかじゃなく――紛れもなく、一人の仮面ライダーであったということだ。
その喪失を惜しみ、彼の死を招いた己を責め立てようとする衝動を、ユウスケは意志の力で捩じ伏せる。今は、感傷に浸っている時ではない。
何故なら――同じ仮面ライダーとして、託されたのだから。
「ふははははは! これは好い、跡形もなく消え失せるとは、薄気味悪いゾンビにはお似合いの結末なのだ!」
――この邪悪から、皆が笑顔で過ごせる明日を、護り抜くという使命を。
気高き最期を、理解する能力もないまま嘲弄する
アポロガイストに対峙して、ユウスケは消耗を無視して立ち上がる。
全身から発した炎でスパイダーショックを破壊し、その拘束から脱したアポロガイストを同じく怒りに燃えた眼差しで睨む
美樹さやかは、しかしまだ立ち直れてはいない様子だった。
それで良い、とユウスケは思う。こんな奴のために、彼女がこれ以上暴力に訴える必要なんかない。
罪を背負うのは……こんな奴に好いように操られ、大道克己の死を招いて――笑顔を消してしまった、自分だけで良い。
「……変身」
決意を乗せて、ユウスケは静かに言葉を紡いでいた。
これ以上、誰の身も心も傷つかずに済むように――一刻も早く、あの疑う余地のない悪の怪人を、倒すための力を求めて。
だが、奴は手強い。消耗した今、いつもの姿では届かない。
なら、ありったけを――――っ!
そんなユウスケの意志に応えた霊石アマダムが放出したのは、黄金の波動だった。
金色の霞に包まれたユウスケの肉体は、戦士クウガのものへと変容する。
一瞬の後に顕となった四本角の禍々しい姿は、あの忌まわしき石の影響によって覚醒した最強の形態。
しかして、石の所有者ではなく自らの心でそれを制御するクウガの眼は、黒ではなく――常と同じ、暖かな赤。
例え自分一人が闇に落ちることになるとしても、誰かを笑顔にしたい――友の信じてくれた覚悟によって、己の意志で仮面ライダークウガライジングアルティメットへの変身を遂げたユウスケは、その両足が許す限りの力で地を蹴って、アポロガイストへと飛びかかった。
――そして、違和感に気づく。
「調子に乗るなっ!」
先程までに比べて、明らかに遅い、遅過ぎる――そのことに気づいた直後、クウガはアポロガイストが迎撃に疾らせた刃に胴を薙ぎ払われ、撃墜されてしまっていた。
「ぐぁ――っ!?」
無様に投げ出され、倒れ込んだ上体を起こそうとするが、意志と行動の間に明白なラグを感じる。不快感に手間取っている間に、視界一杯に映り込んだのはアポロガイストの爪先だ。
「大馬鹿者めが。我ら大ショッカーの切札の一つであるライジングアルティメットが敵に回るかもしれん状況で、何故この私が戦略的撤退を選ばなかったのかわからんか!?」
顔面を激しく蹴り上げられ、ひっくり返っていたクウガに浴びせられたのは、愉悦の滲んだアポロガイストの嘲笑だった。
「貴様が支配に抵抗しあの小娘を殺さずに済んだのは、元々そのような地の石の仕様に因るものだ。意識は残したまま我らの傀儡とすることで、貴様ら仮面ライダーの心を苦しめるためのなぁ!」
身を起こし、拳を振り被ったところにアポロガイストは更に一閃。強固な装甲のおかげで致命傷には程遠いが、力の入らない肉体はそれだけで何歩もの後退を余儀なくされる。
おかしい。アポロガイストは確かに強敵だが、あの仮面ライダーエターナルさえ圧倒したこの姿で……何故、未だ触れることすらできていないというのか?
「だが、我らがそのためだけにただ戦力を損ねかねない真似をしたと思っていたのか? 馬鹿め。その仕様の本当の目的は、こういった事態への対策の一環なのだ!」
そんなクウガの疑問に答えるように、アポロガイストは悪趣味な嫌がらせ以外の真相を口にする。
「何……うぁっ!?」
アポロガイストが放った銃弾が直撃し、困惑していたクウガは踏み堪えられず仰向けに転がった。
「キングストーンである地の石で常にフルパワーを強制されながら、それを押さえ込もうと支配に抗い続けるということが、どれほど己の負担になっていたのかもわからんか。そして、クウガの力の源であるアマダムが、二つの矛盾した命令や貴様からの要求の変わり様を受けてどれだけ混乱し……その結果が、どうなるのか!」
苦痛に呻くクウガを力任せに踏みつけて、アポロガイストは見下すままに言葉を吐く。
「今の貴様は肉体こそライジングアルティメットにできても、その力はグローイングに毛が生えた程度しか発揮できん状態にあるのだ!」
どんな姿でもな、と付け足しながら、アポロガイストは嗜虐的な欲望を隠そうともせずにクウガへの踏みつけを連打する。
タイタンフォームを遥かに凌ぐ強靭さを得たこの肉体なら、大したダメージにはなり得ない攻撃力だ。だが満足な抵抗も許されずに積み重なれば、高い治癒力を以てしてもいずれ致命となることは明白――少なくとも、変身を維持するためのメダル消費は、確実に追いつかなくなってしまう。
「クウガが奪還された際の対策として、そうなるように我ら大ショッカーの優秀な科学者達は調整しておいたのだ。
アンクのメダルを奪い、魔人を弱らせ……そしてエターナルも倒した今、弱り果てた貴様を仕留めるなど容易いこと。回復の暇は与えん、このまま処刑してやるのだ!」
(待て……今こいつ、回復の暇は、って……!)
執拗なストッピングに晒されながらも、クウガは逆転の糸口を求めていた。故に、アポロガイストの漏らした情報を聞き逃さなかった。
奴の言う通り、この姿でもマイティフォームほどの力を発揮できなくなっていることは明白だ。だがそれも一時的な症状で、回復さえ間に合えば……!
一縷の希望を見出したクウガは、自らの胸の上に乗っていたアポロガイストの足首を掴む。
メダル消費に間に合うのかはわからない。だが、混乱に打ちのめされ、何の勝算もなかった頃よりは、遥かに意志の力も蘇って来ている。
諦めない、彼のように。自分も、仮面ライダーなのだから……!
「ええい、放さんかっ!」
しかし、やはり肉体はその意志に付いて来れない。
顔面に銃撃を受ける。視界が揺れた隙に捕らえていた足はあっさりこちらの拘束を抜け出して、再び激しく蹴りつけて来る。
そしてアポロガイストが足裏から放出した火炎は、クウガの全身を呑み込んだ。
「ぐぁあああぁあああああああああああっ!?」
全身を超高温の炎に嬲られながら、更に力強く蹴りつけられる。
まるで見えたばかりの希望を、蹂躙するかのように。
負けるわけにはいかない。自分だって仮面ライダーの名を背負っているのだから。
これ以上、誰かの笑顔が失われるのを見たくないから。
戦うべき理由がある限り――仲間が呪縛の中から救い出してくれたクウガの心はもう、何者にも屈することはない。
だが、肉体がそれに付いて来る前に――変身を維持するために残されたメダルもまた、その猶予をじりじりと、目減りさせ始めていた。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「あっ……あ、わあぁぁぁああああああああああああっ!」
喪失に座り込んでいたさやかは、予想外の苦戦の末に追い詰められたクウガを見、絶叫とともに弾かれたようにして駆け出した。
先程までの圧倒的な力を、クウガはまるで発揮できていない――このままでは、成す術なくアポロガイストに殺されてしまう。
克己が命と引き換えに解放した彼が、明日を奪われてしまう。
そんなのは、絶対に嫌だった。
「む……ふんっ!」
しかしさやかの投剣を、アポロガイストは翼を出現させるだけで遮断する。
それで敵が自ら視界を塞いだ隙に、さやかは自らの体重を切っ先に乗せて飛び掛かったが、翼が開くだけで手にしていた剣までへし折られる――克己のようには、いかなかった。
「いつまでも調子に乗るな、ど素人めが!」
そして一閃。アポロガイストの刃が、さやかの腰目掛けて振り切られる。
「さやかちゃ――うあっ!?」
咄嗟にアポロガイストの足を引き、攻撃を妨害しようとしたクウガだったが、それでも刃が少女に届くのを阻みきれなかった。さらには羽撃きを利用して勢いを増したアポロガイストの踏みつけにより、苦嗚と共に再度大地へと沈められる。
対照的に、切り上げられた衝撃でさやかの痩身は宙を舞っていた。
それでも急所を狙ったアポロガイストの一撃は、少女のソウルジェムを砕くには至っていなかった。
(ごめん……ガタックゼクターッ!)
百戦錬磨の大幹部の一振りを狂わせたのは、クウガによる妨害だけではない。残るの恩人の正体は、さやかの腰で輝いていた銀の帯だ。
そこに鎮座すべき相棒を失ってからも、その勇姿を忘れまいと身に着け続けていたさやかの気持ちに応えたかのように――今は亡き彼と同様、ベルトもまた、その身を楯に斬撃の進行を微かに遅らせ、さやかの命を守護していた。
しかし正面から断たれたベルトはさやかの腰から外れ、重力に引かれて地べたに叩きつけられる。
見事に両断され、二度と身につけることの叶わぬだろう形見を回収する余裕は、今のさやかにはなかった。
「ハイパーマグナムショット!」
炎を纏った銃弾が、さやかの頬を裂き、髪を一摘み散らして行く。
追撃の弾幕から、さやかは逃れるのに必死だった。
いくら再生できるとしても、あのマグナム銃の威力に頭や足を吹き飛ばされてしまえば、露出したソウルジェムは今度こそ砕かれてしまう。
(死んで、たまるか……っ!)
ここで自分が死ねば。誰がユウスケを助ける。誰が既に戦う力を失くしたアンクを、瀕死のネウロを護れる。
誰が、克己の最期を――覚えて、いられるのか。
そんなさやかの意地も虚しく、アポロガイストの射撃は徐々に精度を増して来て――そして大きく外れた家屋を吹き飛ばした。
「――貴っ様、アンクゥウウウウウウウっ!」
アポロガイストの憤怒の先には、再びシュラウドマグナムを構えたアンクの姿があった。
地の石はともかく、あれで今のアポロガイストは倒せない――それでも手元を狂わせる程度の力はあった。
横槍に激怒したアポロガイストは、踵を返して物陰に隠れようとするアンクへと応射を開始した。生半可な物陰では意味のないことを知っているアンクが逃げ惑うのを、戦車すら破砕する銃弾がひたすらに追っていく。
「やめろ……っ!」
今度は足を押し除けたクウガが手を伸ばした。アポロガイストの銃を払い飛ばすと、巨体を壁にするようにして立ち塞がる。
しかしただでさえ劣化していた力は、度重なる暴行によって更に損なわれていた。アポロガイストの猛攻に抗えず、クウガは瞬く間に膝を着く。
「どいつもこいつも邪魔ばかりしおって……まぁ良い。どうせ奴らではこのハイパーアポロガイストは脅かせん。当初の予定通り、まずは貴様から処刑してやるのだ!」
改めて標的をクウガに絞ったアポロガイストの宣告に、さやかは再び飛び出しそうになる己を必死に抑えた。
奴の言う通りだ。さやか達が今可能とする攻撃では、精々手元を狂わせるだけ。弱り果てた今のクウガと比べてなお劣るような力では、アポロガイストを倒すことなどできはしない。
だが――切札はまだ、ある。
ガタックゼクターの形見が思い出させてくれた、そして克己が何度も見せてくれた、正義の力が。
「……お願い、力を貸して!」
銃撃の止んだその隙に、さやかは飛び出す前の位置――克己が果てたその場所にまで、駆け戻って来ていた。
手にしたのは克己が腰に巻いていたロストドライバーと……自らに支給されていた、翡翠のパッケージ――T2ユニコーンメモリだった。
《――UNICORN!!――》
「なっ、貴様……!」
「変身!」
ガイアウィスパーの囁きに、クウガから目を離したアポロガイストが驚愕の声を晒す前で――さやかはメモリを、身に着けたロストドライバーへと挿入する。
《――UNICORN!!――UNICORN……UNICOR……UNI……》
「――どうして!?」
変身は、できなかった。
もう一度挿し直しても、直に肌に押し付けても。ユニコーンは無意味な電子音を漏らすだけで、さやかに力を貸し与えてなどくれない。魔法少女への変身を解き、生身で試しても同様だ。
「ふふ……はーっははは! 焦らせおって! 所詮貴様のようなゾンビの小娘が、仮面ライダーの力に相応しいわけがないのだ!」
そんなさやかの戸惑いと徒労を、アポロガイストは無様と嘲笑った。
「仮面ライダーの力にも見放された惨めな小娘よ、そこで己が無力を噛み締めているが良いのだ!」
宣告の後、暴力に酔った哄笑と共にアポロガイストがクウガへの攻撃を再開する。それを前にして幾度スイッチを押し込んでもなお反応しないメモリに、そんな様に向けられたアポロガイストの言葉に、さやかは徹底的に打ちのめされていた。
「――お願い……!」
それでも。
どんなに打ちのめされても、今のさやかは、ただで絶望に屈しはしなかった。するわけには、いかなかった。
「お願いだから、あたしに力を貸して……! このままじゃ、あの人が殺されちゃう!」
どんなに惨めだろうと、無様だろうと。さやかは仮面ライダーの力を与えてくれる記憶の結晶に、正義のための力を懇願していた。
足掻くことができる限りは、できる限りのことを尽くそうと決めていたからだ。
「そんなの、許せない……ずっと覚えていて欲しいっていう克己の望みを、あたしはこんなところで終わらせたくない!」
それは、彼の思い出させてくれた祈りと――彼と交わした忘れえぬ約束が、今も力強くこの胸に響いていたからだ。
しかし、どんなにさやかがそれを求めても、ユニコーンは応えてくれない。
克己は、ユニコーンをさやかになら相応しいと言ってくれたのに。本当の自分は、ユニコーンに認めて貰えていないというのか。彼の期待を、裏切ってしまっているのではないかという無力感が、気づけばまたも雫となって頬を伝う。
「あたしはあいつの、あいつの想いを、永遠に……っ!」
どんなに願えども、それは叶わないのかと――――涙に声を詰まらせた、その、瞬間。
―――――――夜闇を切り裂くようにして輝く、蒼白い光が生まれた。
「何ィッ!?」
あまりの眩さに、再びアポロガイストがクウガから目を逸らした時には――その発光体は、自らさやかの掌に収まっていた。
その中心に刻まれた、無限回廊を思わせる意匠の凝らされたアルファベットを目にしたさやかは――悲しみや恐怖とは異なる感情に、もう一度だけ涙を流す。
ああそうか、そういうことだったのか――
「……ありがとう」
――認めて貰えていたのだ、自分は。
克己やガタックゼクターだけでなく……共に戦っていた、この子にも。
そして……ある意味では、ユニコーンにも。
さやかの願いは――人々の記憶に残され、永遠に受け継がれて行くべきものなのだと。
……なら、そのためにこそ戦おうと。
昨日の弱さを抱えたまま、信じた明日を掴めるように。
未熟を言い訳に誰かに守られてばかりだった自分から、この瞬間今度こそ変わってみせようと――さやかはその覚悟を表明するための言葉を、全霊を以て宣誓した。
「――変身ッ!!!」
《――ETERNAL!!――》
ドライバーを介してメモリと一体化したその瞬間、力強く高らかに歌い上げられたのは、彼が願った夢。
叶うはずのない理想を、それでも胸に足掻き続けて――少しでも昨日よりも素敵な今日を、そして未だ見ぬ明日を作って欲しいという望み。
忘却の炎に焼かれ、記憶の内から忘れ去られても、なお灰から再生して人々の魂に受け継がれて行く尊き祈りを、途絶えさせることなく守るための力が――さやかの中に、満ち溢れて行く。
変化した姿は、彼のそれとは違う。
しかし――それも、一瞬。
次の瞬間には、逞しく伸びた白い四肢を彩る紅の炎が、蒼へとその色を変え――白い装甲が剥き出しだった手足や胸に、ユニコーンを始めとする仲間達と力を合わせるための帯が巻きついて。
新たな希望の誕生を祝福するかのように吹く風が、肩から出現した黒いローブを翻す。
「克己は死んでない、死なせるもんか! あたしがあいつを永遠にするって……そう、約束したんだから!!」
叫び終えると同時、さやかの顔を白い兜が覆い尽くし――――――ここに、仮面ライダーエターナルブルーフレアが再誕した。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
君が抱きしめているのは
あの日の約束、一つ。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
「馬鹿な、小娘如きが仮面ライダーに……っ!?」
弱り果てたクウガへの暴行を止め、喫驚するアポロガイスト。
しかし己の半身となった存在が覚えたのと、アンクが打たれた驚愕はまったく別のものだった。
――おまえのおかげで、俺はただ死体が動かなくなるんじゃなくて……人として死ねる。それで、満足だ
(……死んだ?)
ただ、動かなくなったのではなく。
ただ、消え去ったのではなく。
元より命を無くしていた死人が、単なる化学反応の結果でもう一度動けるようになっただけで。
次々と人間性を欠落し、そこにある花の美しさにも、暖かな日差しにも、熟れた果実の味にも……何も感じない、そこにあるだけの単なるモノに、自分達グリードに近づいていたあの大道克己が、死んだ、というのか。
――死んだことに、満足したと言ったのか。
戦える力が残っていないからと、地の石を破壊した後再び距離を取っていたアンクはしかし、思わず身を乗り出してしまっていた。
永遠を求めていた克己が最期に残した言葉は、アンクにとってそれほどの衝撃だった。
「……それがあいつのおかげ、だと?」
克己が消えたのではなく死んだのは、あのどこか苛立たしくも扱い易い、馬鹿な娘によるものだというのか。
魔法少女とは言え、何か特別な奇跡を持っているわけでもない美樹さやかが――大道克己に、命を与えたというのか。
気がつけば、危険だというのにもう一度だけ手を貸してしまっていた――さやかの力で状況を打開できるはずなど、ないとわかっているのに。もう少し、彼女のことを見ていたくて。
だがアンクが再び身を潜める間に、無視できない言葉が、もう一つ……さやかの口から、吐き出されていた。
「克己は死んでない、死なせるもんか! あたしがあいつを永遠にするって……そう、約束したんだから!!」
そんな絶叫が、再びアンクを射抜き、身を乗り出させていた。
彼は完全に消滅した。ただ消えただけなのか、死んだと言って良いのかはともかくとして、その存在が終わりを迎えたことは疑う余地もない。
なのにさやかは、克己は死んでいないなどというのだ。
それを、単なる逃避だと謗るのは簡単だ。無意味な気休めでしかないなどと、これまでのアンクなら人間の愚かさを笑うところだっただろう。
しかし……グリードに近しい存在となっていた、克己の生命の有無と満足に関わるというのなら、話は別だ。
ましてそれが、単なる命ではなく――『永遠の命』だと言うのなら。
死ねることに――命あることに満たされたと、あの克己が漏らす一方で。それが約束なのだと、さやかが永遠を謳うそれは。
それこそが――――アンクの果てなき欲望を満たす、一つの光明なのではないのかと。
思わず、もう一歩。アンクはエターナルに変身したさやかへと近寄る。
命を求める欲望の化身は、そこに命への、新たな可能性を見出していた。
そして、今一人の人外――“謎”を喰らう魔人は、そこに進化と、一つの解を見出した。
「……我が輩は、何と愚かな思い違いをしていたのか」
美樹さやかを護り進化に導くのは、
脳噛ネウロではなかった。
弥子の死の負い目を本当に感じているのは、さやかではなかった。
人間を魔人が救ったのではなく、魔人を救ったのが人間だった。
人間とは、既に――魔人に食料源として護られるだけの存在では、なくなっていた。
「素晴らしいぞ、人間よ」
そして、さやかが克己を受け継いだように。
人間だとか、魔人だとか。何の役に立つとか立たないとか、それが得だの損だのと言った理屈などなく。託す託さないですらなく。
相棒の命を受け継いだのは、結局のところ……相棒でしか、なかった。
「よくぞこの、愚かな魔人の目を覚まさせた……!」
本気だの全力だの言ったところで……結局ネウロは、恐れて虚勢を張っていただけだ。何より恐怖していたのだ――再び敗北し、失うことを。
生まれて初めての敗北は、自分でも気づかないような、しかし確かな折れ目を脳に残していた。
だが、人間は。敗北すらも、喪失すらも超えるほどに強かった。一つの命に与えられた時は短くともそれを無為にせず、更には先人を礎に悠久を歩み、足掻き、前に進み続けていた。誰に何を言われるまでもなく、進化し続けていた。種族と性別しか似ていないような相手に、みっともなく喪った影を重ね縋っていた魔人に心配される筋合いなど、どこにもなかった。
……そもそもこの胸に空いた穴は、そんな簡単に替えが効くような、安い物ではなかったというのに。要らぬことにばかり、気を回し過ぎた。
ならば、どれもこれもを保護(まも)らねばなどという、余計な気遣いはここまでだ。
これより魔人探偵脳噛ネウロの――自分自身が欲する望みのためだけに、我が身に許される全ての力を費やそう――!!
「魔帝7つ兵器(どうぐ)………………!!」
笑えるほど時間を要する切札の召喚を始めながら、ネウロは瓦礫の中から這い出した。
タイムリミット、などと……もっともらしい言い訳で、自分自身すらも騙したその脳髄の欲望を、満たすために。
――一度折れた脳こそが、強くなるチャンスを秘めているのだから。
○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○ ○○○
運命を受け継ぎ、エターナルへの変身を果たした直後。一瞬だけ目を閉じ、記憶を確かめたさやかの脳裏を過ぎったのは――微かな寂寥を滲ませた彼と交わした、約束だった。
――せめておまえは忘れるな。何もかも
「忘れないよ。絶っ対に忘れない……誰のことも、絶対にっ!」
見開いた目で、仮面越しに討つべき邪悪を見据えて――鮮明に思い出したその言葉に、さやかは本心からの返答を吐き出した。
失敗して迷惑をかけて、嫌われるのが怖くて、言い訳ばかりしていた駄目なさやかでも、克己は必要としてくれた――ただ、さやかという少女の魂に、覚えていて欲しいからと。
まどかや仁美だって、別にさやかがマミのように完璧だから一緒に居てくれたんじゃなくて――ただ、他の誰でもない美樹さやかという一人の少女を好いて、ただの級友ではなく親友になってくれたはずなのだ。
魔法少女や、ムードメーカーや、正義の味方や――そんな、言い訳(メッキ)ではない、本当のさやか自身を、見て。
だから…………そんなものに振り回されるのは、もうやめよう。
彼が届けたかった音楽は、祈りは――そんな、過ちを隠した上っ面だけじゃなくて。
輝きも穢れも等しく抱えたさやかの心にこそ、響いて欲しかったもののはずだから。
自分を良く見せようという、言い訳のためではなく。ただ、この震えている胸が、さやかが経験した何もかも――さやかを構成する全ての中から迷い傷つき、それでも他ならぬさやか自身が愛して選び取った、祈りのために。
見て聞いて感じた昨日を、明日へ繋いで見せるために。さやかは今日を、足掻き抜くのだ。
克己達のように。誰かのためでも、誰かのせいでもなく――自分自身の、そうなって欲しいという望みのために。
「――忘れさせて、たまるかぁああああああああああっ!!」
この声の限りに、叫びを上げて。
克己に。まどかに。仁美に。
そしていつか繋げる、まだ知らぬ誰かに――サヨナラの向こう側まで、心の中で響いているこの曲が、届くように。
エターナル=さやかは、未来を描くため。仮面の下に隠された涙も乾かぬまま、目の前の道を走り出した。
【二日目 深夜】
【F-3(北東端) 市街地】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康、決意、杏子への複雑な感情、X及びアポロガイストへの強い怒り、仮面ライダーエターナルブルーフレアに変身中
【首輪】25枚:0枚
【コア】シャチ(放送まで使用不可)、ワニ(放送まで使用不可)
【装備】ソウルジェム(さやか)@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW、T2エターナルメモリ+ロストドライバー+T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:克己の祈りを引き継ぎ、正義の魔法少女として悪を倒す。
1.皆を守るために、アポロガイストを倒す。
2.事態が落ち着いたら、小野寺ユウスケと情報交換したい。
3. アンク達と一緒に悪を倒し、殺し合いを止める。
4.克己やガタックゼクターが教えてくれた正義を忘れない。
5.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
6.マミさんと共に戦いたい。
7.少なくとも、
暁美ほむらとは戦わなければならない。
佐倉杏子は……?
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのか、また濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVER、グリード、ネウロ関係に関する知識を得ました。
※アンク、ネウロが魔女について知っている事は知りません。
※佐倉杏子の、アンクから伝え聞いたこの場での活躍と、自身の見た佐倉杏子の差異に困惑しています。
※エターナルの制限については、第81話の「
Kの戦い/閉ざされる理想郷」に続く四連作を参照。
※T2エターナルメモリがさやかにとっての『運命のガイアメモリ』となりました。メモリ使用の副作用はありませんが、他のT2ガイアメモリでの変身が困難となりました。
※T2ユニコーンメモリはエターナルメモリにさやかの『運命のガイアメモリ』の座を譲りましたが、ユニコーンにとっても適合率が最も高い人物は引き続きさやかのままです。
【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感、『王』への恐怖と憎悪、さやかと克己のやり取りへの非常に強い興味
【首輪】50枚:0枚
【コア】タカ(感情A)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、大量の缶詰@現実、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1~2
【思考・状況】
基本:映司と決着をつけ、その後は……
0. アポロガイストに対処する。
1.『王』が背後にいるのなら、バカ正直に優勝を目指すつもりはない、が……
2.もう一人のアンク、及びアポロガイストのメダルを回収する。
3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
4. Xへの殺意、次に会った時は容赦しない。
5.ネウロへの警戒。場合によっては肉体の真実を明かし、牽制する。
6. 杏子を復活させられる人材とメダルを準備したい。
7. 事態が落ち着けば小野寺ユウスケと情報交換したい。
8. 克己は、さやかのおかげで死ねた……?
【備考】
※本編第45話、他のグリード達にメダルを与えた直後からの参戦
※翔太郎と
アストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て「泉信吾の肉体」に取り込んでいます。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。
※アポロガイストのグリード化、及び所持メダル数の逆転により、グリードとしての力が弱まっています。
※ネウロにコアメダルを破壊することができる能力があると推察、警戒しています。
※『王』と真木の結託に何かしら裏があり、それが主催陣営の弱点になるかもしれないと予想しています。
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、高揚、「二次元の刃」召喚中、右肩に貫通創、ボロボロの服
【首輪】25枚(消費中):0枚
【コア】コンドル:1(放送まで使用不可)
【装備】魔界777ツ能力@魔人探偵脳噛ネウロ、魔帝7ツ兵器@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式×2、弥子のデイパック(桂木弥子の携帯電話+あかねちゃん@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)※黒ずみ進行度(中)@魔法少女まどか☆マギカ、
衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero)赤い箱(佐倉杏子)
【思考・状況】
基本:己の欲望を満たす
0. 「二次元の刃」でアポロガイストを倒す。
1.さやかの進化に感心。
2.怪盗Xに今度会った時はお望み通り“お仕置き”をしてやる。
3.アンクをメダル補充の為殺す準備も必要……か?
4. 佐倉杏子を復活させられる人材とメダルを準備したい。
5.
ラウラ・ボーデヴィッヒを探し出し、
ウヴァに操られていないかを確認する。ウヴァが生きている場合は丁重にもてなした(※意訳)後コアを砕く。
6. ラウラやウヴァについて、可能ならインキュベーターから情報を搾り取る。
【備考】
※DR戦後からの参戦。制限に関しては第84話の「
絞【ちっそく】」を参照。二日目0時時点での維持コストはセルメダル1枚です。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」「禁断の退屈」「花と悪夢」「無気力な幻灯機」「惰性の超特急5」「射手の弛緩」「卑焼け線照射器」を使用しました。
※
ノブナガ、キュゥべえ、アンク、克己、さやかと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※杏子のソウルジェムについては第131話の「
悩【にんげん】」を参照。
※体の維持が少しずつ困難になってきています。メダルの枚数の為なのか、最早メダル関係無しに限界なのか、弥子の命の炎ではネウロの体にパワー不足が生じているのかは不明です。
※コンドルメダルはアンクだけでなくここにいる全員に秘匿中です。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。アンクから聞いた情報によっては、ノブナガと映司にはそれ以上のものが発生していると気付いているかもしれません。
※「二次元の刃」でコアメダルを破壊することができると予想しています。
※『王』と真木の結託に何かしら裏があり、それが主催陣営の弱点になるかもしれないと予想しています。
※さやかの成長を目撃したことで、セルメダルが増加しました。
【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、克己を殺めてしまった罪悪感、仮面ライダークウガライジングアルティメットに変身中、地の石への抵抗による消耗、アマダムの不調
【首輪】20枚:0枚
【コア】クワガタ(次回放送まで使用不能)、カンガルー(次回放送まで使用不能)
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
0. 大道さんを殺してしまった……
1. アポロガイストを倒す。
2. 事態が解決したら、さやか達と情報交換後、B-4に戻って千冬、切嗣達と合流する。
3.井坂、士、
織斑一夏の偽物を警戒。
4.士とは戦いたくないが、最悪の場合は戦って止めるしかない。
5.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
6. 大道克己の変わり様が気になる。
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。
※ライジングアルティメットクウガへの変身が可能になりましたが、地の石の支配に抗っていた反動からの消耗及びアマダムの不調により、暫くの間は本来の力を発揮できません。
反動が続く具体的な時間は後続の書き手さんにお任せします。
【ハイパーアポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)
【首輪】50枚:0枚
【コア】クジャク(感情:アポロガイスト)、タカ(十枚目)、クジャク:1、コンドル:2、パンダ(次回放送まで使用不可)
【装備】龍騎のカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:生き残る。
0. 小娘の変身したエターナルに対処する。
1.リーダーとして優勝する為にも、アンクを撃破して陣営を奪う。
2. アンクの仲間もこの場で全員殺す。特にクウガは力を回復する前に殺す。
3.ディケイドはいずれ必ず、この手で倒してやるのだ。
4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。
※パーフェクターは破壊されました。
※ドラグブラッカーが死亡したため、龍騎のカードデッキからドラグブラッカーに関わるカードが消滅しました。
※クジャクメダルと肉体が融合しました。
グリード態への変化が可能な程融合が進んでいますが、五感の衰退にはまだ気付かず、夜目が悪くなった程度にしか思っていません。そのため自分が受けたダメージが体感以上であることにまだ気づいてはいません。
※大道克己=仮面ライダーエターナルを、仮面ライダークウガを用いて死に追いやったことでセルメダルが増加しました。
【全体備考】
※地の石@仮面ライダーディケイド、スパイダーショック@仮面ライダーWが破壊されました。
※E-4南東端にキュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ(ネウロの支給品だった個体)が存在しています。
※F-3北西端の市街地に克己のデイパック{基本支給品、NEVERのレザージャケット×?-3@仮面ライダーW、カンドロイド数種@仮面ライダーOOO}、ライダーベルト(ガタック)の残骸が放置されています。
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……僕の心に 住み着いていた 弱さが今も歌っている
忘れぬmelody 未だ見ぬ景色 明日を越えてあの場所で……
最終更新:2016年08月22日 22:36