カナン…… あなたは私の光。 どこまでもまっすぐに輝き続けるあなた。
あなたに愛され、 あなたに照らされることで、 心の片隅に生まれてしまう影。
ごめんね、カナン…… 私はあなたを、照らすことができない……
ごめんね……
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上海の鉄道を行く列車の中で、カナンとアルファルドの激闘が続く。
マリアの乗る車両は切り離され、カナンたちの列車の遥か後方に置き去り。
しかも、時限爆弾が仕掛けられている。
ユンユンがとっさに、走行中の列車から飛び降り、マリアの車両目がけて全力疾走する。
ついに時限爆弾が作動し、大爆発──!
カナン (マリアぁ──っ!)
マリア (カナン……)
線路の彼方で、もうもうと黒煙があがる。
アルファルド「本当に、頭のいい女だよ。あいつは。お前から逃げたんだ」
カナンは無言で、アルファルドを睨みつける。
アルファルド (!? なんだ、この目は? 怒りでもない。ただ、どこまでも見られている……)
カナン (ただそのまま、ありのままを見つめろ。すべてを、ありのままに……!)
アルファルド「見るな…… 見るな、見るな…… わ、私を…… 見透かすなぁぁっ!!」
アルファルドが激高して、発砲する。
カナンは銃撃をかわして、反撃に転じる。
アルファルド「(なぜだ? なぜ乱れない? 奴は、大沢マリアを失ったというのに…… 私はここでも、亡霊を殺すことができないのか?) 結局、終わらせることはできなかったな。道連れになってもらおうか。お前も、私も。またこの列車に置いておく。想いも、懺悔も、後悔も。お前はまたあの日のように、ここで失い、私はまた、決着をつけられずに置いて行く」
突然のヘリコプターの音。
機関銃の銃撃が、列車の窓を叩き割る。
カナンが気を取られた隙に、アルファルドは外に飛び出し、屋根の上によじ登る。
カナンも追って来る。
カナン「アルファルド!」
アルファルド「光栄だね! 大沢マリアは追わずに、私に執着してくださるとはな!」
カナン「マリアは、死んでいない」
アルファルド「……!」
カナン「死んでいない。私にはわかる」
マリアの乗っていた車両が炎上している。
煤だらけのユンユンがマリアを背負い、息を切らしつつ脱出する。
ユンユン「はぁ、はぁ…… カナン! 私は、約束を守る女っス! マリアは、絶対になんとかするッス! だから、へばったら承知しないっスよぉ!」
マリア (ごめんね…… ごめんね、カナン…… でも私、守られてるんじゃなくて、あなたの隣に立ちたいの……)
カナン「わかる。色が見えなくても、マリアの優しさは伝わってくる。それがわかるのは、きっとマリアは、私にとっての……」
アルファルド「光。それがお前の強さの正体だ。お前は、新たな光を見つけることで、シャムの亡霊から解き放たれようとした」
カナン「違う。マリアは光じゃない。友達だ」
アルファルド「……プッ! フフフ、アハハハハハ!」
ヘリコプターが縄梯子を垂らし、アルファルドがそれを掴む。
アルファルド「お友達のために戦うか!? それはいい。私が振り回され続けた呪いから、お前はそんなちっぽけな願いで解放されたというんだな!?」
カナン「行かせない。お前はここで、私が……」
アルファルド「私がぁっ!?」
アルファルドの銃撃を避けつつ、カナンも縄梯子を掴む。
カナンの銃撃がアルファルドの手から銃を弾き飛ばし、さらにヘリ機内の銃撃手を撃つ。
ヘリがバランスを崩し、墜落する。
カナンとアルファルドは、再び列車の屋根の上に舞い降りる。
列車の上で戦いが続く。
銃を失ったアルファルドを、カナンは何度も殴りつける。
カナン (なんだ、この手応え? まるで、まるで白い闇を殴ってるみたいだ…… そう、か……)
アルファルド (カナンは、2人も要らない…… 同じ名を持った私たち……)
(シャム『アルファルド……』)
アルファルド (そうだ…… シャムは私を、アルファルドとは呼ばない。違う。あいつは最後に一度だけ……)
シャム「アルファルド、お前は無敵だ。だが、もし目的でなく、個人としての欲望を持ったのなら……」
アルファルド「持ったのなら?」
シャム「そのときには、訪れるだろう。お前の新しい名が持つ意味、孤独が……」
アルファルドがナイフで反撃に転じるが、脚を滑らせ、屋根の上から滑り落ちる。
とっさにカナンがアルファルドの腕をつかみ、必死に体を支える。
アルファルド「……なぜだ!? 私がここで死ねば、あの日は繰り返さない! お前はシャムの亡霊から逃れられるというのに!?」
カナン「お前、いつも変な色してる…… シャムみたいな茶色だったり、今日なんて真っ白だ! その理由がやっとわかった…… もうお前は、死んでいるからなんだ!」
アルファルド「……!」
カナン「シャムが死んだ時点で、お前は、お前の心は死んだ! でも私は違う! あの日から、いろんな人に会った。みんな、忘れられない人になった。私は、あの日で止まっていない!」
アルファルド「……」
カナン「お前の心は、もう死んだ…… 決定権は、生きている者にある。私は生きている。生きている者として命令する…… お前をこれ以上、死なせない!! 死なせない…… ここで誰も救えなかったら、あの日と同じだ。たとえそれがお前でも」
アルファルド「(……リャン、お前の言うとおりだ。私は確かに、あの時代に縛られ続けていた。私は、カナンとその化け物を作れば、シャムに、シャムに近づけるとでも思ったのか? カナンは、とうの昔に解き放たれていた…… シャムの亡霊から、繰り返すあの日から、そして、私だけが……) 同じ名を、同じ刺青を持つ私たち!」
列車の屋根の上から銃が滑り落ち、アルファルドがその銃をつかむ。
アルファルド「シャム、お前はどこまでも私に絡みついてくる…… 私は、蛇の呪縛を解き放つ!」
アルファルドが銃口をカナンに向ける。
カナンを撃つかと思われたそのとき、不意に表情を緩め、なんとカナンが握っている自分の腕目がけて、銃を乱射する。
血が飛び散り、アルファルドの体が眼下の渓谷へと消えてゆく。
屋根の上にはカナンと、ちぎれたアルファルドの腕が残されたのみ──
マリアとカナンが、あやとりで遊んでいる。
マリア「違うよ」
カナン「ここ?」
マリア「そう。で、中指をこっち。──そう」
カナン「マリア」
マリア「ん?」
カナン「謝りたいことがあるんだ」
マリア「それは私の方だよ、カナン。謝りたいこと、たくさん……」
カナン「そうか…… だったら、おあいこだ」
マリア「……うん、おあいこだね」
ふと、マリアが指のあやとりに視線を戻す。
マリア「あ~ぁ、こんがらがっちゃったね」
カナン「うん、こんがらがっちゃった。もう、元には戻せないよ」
マリア「……戻せない?」
次第にカナンの姿が遠ざかってゆく。
カナン「うん。もう、元には戻せないよ……」
マリア「カナン!?」
マリアが目覚めると、そこは夜の病室のベッドの上。
翌朝。
御法川が病室を訪れる。
御法川「おっ、お目覚めか! 思ったより傷が浅くて、良かったなぁ」
マリア「じゃあ、ここは天国じゃない……」
御法川「こんな辛気臭い天国なんてあるかよぉ!? ユンユンみたいなこと言いやがって」
マリア「えっ?」
御法川「お前を、必死こいて運んでくれたよ。あいつは」
回想。
夜道を行く御法川の車の前に、ユンユンとマリアが倒れている。
御法川「おい! 大沢、ユンユン! ケガしてるじゃねぇか!?」
ユンユン「あ…… ミノさん。極楽っスか、ここは……? 先に逝ってたっスね…… ナンマンダブ、ナンマンダブ」
御法川「ふざけんなぁ! 俺は生きてるってのぉ!」
ユンユン「あ!?」
いきなりユンユンが、御法川に泣きつく。
ユンユン「……じゃあ、マリアを! マリアを、助けてくださぁい! そんで、そんで…… 哀れなユンユンに… なんか、お供えをください……」
ユンユンが倒れる。
御法川「おい!?」
腹の虫が泣く。
ユンユン「お、お供えは…… 饅頭がいいっス……」
御法川「メシ食わせたら元気になってなぁ、もうバイトに行ったぞ」
マリア「そうだったんだ。ありがとう、ユンユン…… あ、カナンは!?」
マリアが飛び起きようとし、傷の痛みに顔を歪める。
御法川「お、おい!? 無茶するな! カナンのことは、お前の携帯からかけた番号を調べてみたが、使われてないってさ」
マリア「えっ!?」
御法川「あんなに一緒に居たのに、カナンのことは結局、何もわからないままだ……」
マリア「カナンが見てる世界、カナンが抱えてるもの、それが見たくて、それを知りたくて、やっと隣に立てるかもしれないって思ったのに…… なのに……」
御法川「わかってやれ。あいつの望みは何だ?」
マリア「……私を」
御法川「あぁ。あいつは、お前を守りたいんだ」
マリア「結局、そうなんだ…… どこまで行っても、カナンは、私を隣に立たせてくれない……」
御法川「立てるはずがない。お前たちの境遇は違いすぎる」
マリアが肩を震わせ、涙を流し始める。
御法川「だけど、寄り添うことはできるだろう?」
マリア「……寄り添う?」
御法川「そう。心だけ、寄り添うことなら……」
マリア「心だけ、寄り添う……」
どこかの道を、カナンが行く。
カナン (初めて会ったとき、あの灰色の街で、マリアだけは輝いていた…… 私がそばにいたいと願わなければ、マリアを危険な目に遭わせることもなかった。ごめん、マリア…… でも、どこにいたって、マリアの優しさはわかるから…… そう、どこにいたって、離れていたってわかるから……)
御法川が街中で、様々な景色をカメラに収める。
御法川 (上海…… 上海蟹のシーズンには未だ遠く、この街は、俺たちが初めて足を踏み入れたときと、何ら変わりない。流れるニュースだけが、わずかに違いはするが、すでに誰も興味を示さず、産まれた空白は次々に塗り替えられる)
日本の後輩のライター、磯 千晶へ電話をかける。
千晶『何やってんですかぁ!? メールも電話も繋がらないしぃ!』
御法川「あぁ、すまん」
千晶『ほらぁ、あのヘンテコな事件はどうしたんですか? 消えた村とか、なんとか……』
御法川「あれは、もういい」
千晶『はぁ!?』
御法川「そうだ、他にとびっきりのネタが」
千晶『えっ、どんなですか?』
懐から、今は亡きサンタナとハッコーの写真を取り出して見つめる。
御法川「上海の街で1人の女に魅入られた男が、恋に破れ、彼女の面影を追う……」
千晶『はぁ? それ、何の三文小説ですか? もう、しっかりして──』
電話を切る。
御法川「転職しようかなぁ…… (そう、この三文小説の続きを、俺は書き終えなければいけない)」
サンタナの営んでいたバーを訪れる。
つけっぱなしのテレビ。
アイドル歌手・ネネの歌声が流れている。
御法川「ったく、テレビくらい消して行けっての……」
無人の店内で、ネネの歌声を真似る。
御法川「俺は…… クッ、くそぉ…… あぁ、いいケツしてたなぁ~、ホント」
御法川とマリアが上海を発つ日。
マリア「お父さんにユンユンの薬を送ったら、複製できるだろう、って」
御法川「おぉ、良かったなぁ! で、その本人は?」
マリア「バイト持ちすぎて、来れないって」
御法川「相変らずだなぁ」
2人の前に、いつものタクシーが停まる。
運転手「どうぞ。旦那、お嬢さん」
2人を乗せ、タクシーが街を行く。
カーラジオが流れている。
『じゃあ、この辺りで次のリクエストに行こうかなぁ。『新しい世界に旅立つお友達に、ぜひネネさんの曲を贈りたい』──』
運転手「う~ん! わかってるねぇ、このリスナー!」
『では、聞いてください。ラジオネーム・シルクロード饅頭さんからのリクエストで──』
御法川「あ!? シルクロード……」
マリア「……饅頭!?」
ユンユンが営んでいた饅頭屋の名前──
マリアが、カーラジオから流れる歌声に耳を傾けつつ、街景色を眺める。
マリア「凄いですね……」
御法川「ん?」
マリア「本当、雑多なパワーに満ち溢れてて…… 凄いですね」
御法川「久しぶりだな、それ」
マリア「え?」
御法川「お前、昔は『凄い、凄い』を連発してたろ? 近頃、何見ても言わなくなったって思ってたが」
マリア「……カナンの隣に立つためには、それじゃ駄目だって思ったんですよね。周りを凄いって思うだけじゃなく、自分が凄くならなくちゃって」
マリアが改めて、街景色を見渡す。
マリア「でも、みんなそれぞれ必死で、一生懸命で、だからこその輝きで、凄いこと、普通じゃない手の届かないことなんて、本当はどこもないのかもしれない。だから、ミノさんが言ってたみたいに、心は寄り添えるんですね。きっと……」
御法川「フン。お前は、凄いよ……」
マリア「え?」
御法川「いや……」
ユンユンは街角の八百屋で、アルバイトに励んでいる。
ユンユン「バナナ、バナナ、バナナを食べて、ガンバナナ! スイカもいかがっスイカ~! (マリア。お別れの言葉は、無しっスよ。きっと、また……)」
ユンユンが巨乳を揺らし、売り声を張り上げる。
店主が、ユンユンの胸に詰め込まれたスイカを取り上げる。
店主「勝手に、売りもん詰めるなぁ!」
ユンユン「お、お客さんに喜んでもらおうと……」
街外れの寺院。
修道僧の列の中に、出家したカミングスの姿がある
カミングスがふと、道端で足を止め、落ちていた木の実を拾い上げる。
修道僧「どうか、しましたか?」
カミングス「現世への…… 未練の形です」
亡きリャン・チーの愛用の玩具銃の弾に似た形──
空港。
アルファルドが椅子に座っている。
腕の通っていない袖が、ぶらりと垂れ下がっている。
この街で、出逢った人たちを忘れない。
忘れないで……
この街で目にした出来事を、忘れない……
この街で感じた想いを、忘れない……
忘れない……
御法川とマリアを乗せた飛行機が、上海から日本へと飛び立つ。
カナンが上海の街角で、銃の照準で飛行機を捉える。
カナン「バーン…… フッ。あれ、私のだ」
何日かが過ぎた。
日本、渋谷での写真展。
マリアの撮った写真が展示されており、多くの客で賑わっている。
前作のゲーム『428』の登場人物と思しき者たちの姿も見える。
アルファルドとカナンの顔写真が、並べて壁に掛けられている。
マリアは、2人の写真に添えられている「CANAAN」の題を、愛おしそうに撫でる。
カナンは生きてる。
その命は、激しく輝いて、
この目で直接見るには、眩しすぎて。
でも、目がつぶれそうになっても、
私は見つめることができたと思う。
それはきっと、普通の女の子の物語──
どこかの国、どこかの部屋。
カナンのもとに、夏目から電話が入る。
夏目『仕事です』
カナン「あなたも懲りないよね。相変らず私を使うなんて」
夏目『その言葉、そっくりお返しします。それに今回は、相手が相手ですから』
カナン「ターゲットは?」
夏目『片腕の女……』
カナン「……了解」
最終更新:2020年12月19日 12:07