外国の地。夜の荒野を2台のトラックが行く。
拳銃を握った少女が、目の前に躍り出る。
「──…ん?」「うわっ!!」「なんだぁ!!」「誰だ! アイツは…」
少女が銃を連射する。
「うああ…あ…!」
たちまちトラックが2台とも横転、爆発。
乗員2人が、かろうじて難を逃れ、銃を手にする。
「くそっ!」「殺れぇ!!」
銃撃の雨が降り注ぐ。
少女はそれをたやすく避け、乗員の1人に飛び蹴りを見舞う。
「ひっ!」
もう1人の乗員が背後から少女を狙う。
少女は振り向きもせずに、背後の彼を撃ち抜く。
「な… なに…?」
少女の背後に、トラックが転がっている。
(もう一人──いる 殺意の青──…)
荷台の上に飛び乗り、荷台目がけて銃撃。
「ぐあぁあ……」
荷台から、少女を狙っていた男が倒れる。
「そ…そんな… バカな…」
共感覚──
視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚…
独立している五感が同時に動く機能……
文字に色が見えたり、
音を形としてとらえたりする感性間知覚──…
その感覚を用いて、
犯罪組織「蛇」にはむかう一人の傭兵──
鉄の闘争代行人と呼ばれる少女…
その少女の名は──
カナン──
夜。日本の廃病院の一室。
「致死率100%の殺人ウィルス・ウーアの人体実験のため、感染させられた村の ただ一人の生き残り。そしてそのウィルスの影響により生まれた、共感覚者… フン、共感覚者なんて所詮、体ばかりでかくなった、ただの赤ん坊よ」
犯罪組織「蛇」の一員の女性であるリャン・チーが、パソコンでカナンのデータを見ている。
リャン「こんな小娘が… 姉さまのジャマをする天敵だなんて… こんな奴… 今すぐにでもこの私が… 私の愛の裁きを下してやるのに…!」
物語の黒幕にして「蛇」のボスである女性のアルファルドが、画面に映る。
アルファルド『──…随分 悠長だな… リャン』
リャン「姉さま…!!」
アルファルド『──どうだ? そちらの進行状況は』
リャン「ああ姉さま… お久しぶりです…」
アルファルド『──おい、リャン…』
リャン「もうしばらくお待ち下さい。姉さま。このリャン・チー、必ずや、あの小娘とウィルスの関係をあばき、あの小娘、…いえ、あの小娘以上の生物兵器を作り出して見せます…」
アルファルド『楽しみだな』
リャン「あっ 姉さま!! 愛しておりますぅぅぅ 姉さまぁぁぁ…」
アルファルド「さて… リャンの高い学力と知能指数を買ったんだが… どこまでやれるものかな── (ウーアを使ってカナンを超える生物兵器を作る研究… そう これはビジネス。そしてあいつは── 我々とは── 違う── たしかにそうだよ、シャム。そしてお前はそんなもののために自らを、そして私を絶望へと追いやった… あんな遺物と混同していたのはお前の方だ、シャム。ましてあいつが希望であるわけがない。あれは単なる、感情を持った兵器──) 違って当然何だよ… シャム。(そしてこの私も──)」
部下「ボス、よろしいですか?」
アルファルド「なんだ」
部下「客人です」
アルファルド「ああ、そうだったな。──と… この事をリャンに伝え忘れたな… ──まあいい…… 待っていたよ。テンジン・チュター」
客人は雇われのスナイパー、テンジン・チュター
アルファルド「私はアルファルド・アル・シュヤ。早速だが、あなたには日本へ向かってもらう。さて… 新しいビジネスの始まりだ
ヘブン出版の編集長・頭山 照男、フリーライターの磯 千晶。
頭山「──ボツだ。何度言えばわかるんだ千晶!! ジャーナリストにおけるインタビューってのはケンカだ!! 相手の全てを聞き出し、知り尽くしてやろうという魂の叫びをぶつけて、はじめて相手の生の答えを導き出せるんだろうが──!!」
千晶「ス…スミマセ… 編集長…」
頭山「ったく… なんで御法川がおらんと『しどろもどろの千晶』になっちまうんだか…」
千晶「うう… ミノさん 早く中東から戻って来て下さい」
頭山「なんだアイツ、中東行ってんのか」
千晶「あ、ハイ!! 昨日仕事に詰まって電話したら、昨年の渋谷ウィルステロの事件がらみで何か追っているそうですよ」
頭山「ほほぅ、それは特ダネの臭い… っていうか!! そうやって御法川を頼って連絡取るのやめんか!!」
千晶「ス、スミマセ~ン」
頭山「──という事でだ、千晶… お前にとっておきの企画を用意したぞ。『これからが旬!! 今夏注目の心霊スポットベスト5』!! こいつで度胸をつけて来い!!」
千晶「し… 心霊スポット~? ひええええ~っ」
千晶が喫茶店で、ノートパソコンに向かっている。
千晶「そんな… そんな恐ろしい事、私に…」
検索ボタンを押すや、「戦慄の恐怖体験 心霊スポットレポート」と題し、血まみれの女性が映し出される。
千晶「ヒィィィィ… 無理ですぅ~ こんなの検索すらできませんよ~」
「お客様。コーヒーのおかわり いかがですか?」
ウェイトレスとしてアルバイトしている少女、大沢マリア。
千晶「(あれ…!? この人どこかで…) ああ、思い出しました!! たしか… 昨年、緑山学院のミスキャンパスを… 双子でダブル受賞した… 大沢姉妹!!」
マリア「あ、はい! 姉の大沢マリアです。よくご存じですね!! もしかして同じ大学の学生ですか?」
千晶「あ、ス… スミマセン… わ、私 フリーライターの磯千晶って言います。今、ヘブン出版の『噂の大将』っていう三流ゴシップ雑誌で記事を書かせてもらってまして…」
マリア「ヘェ~ そうなんですか」
千晶「その節は大変お世話になりました」
マリア「え…と… なんでしたっけ?」
千晶「あれ… あれですよ、4・28… 4月28日、ここ渋谷で起こったテロ騒動…」
マリア「テロ… テロ騒動… うーん… たしかに昨年、大事件があったハズなのに、私… なんだか記憶が曖昧で…」
千晶 (あれ…? この人… 自分がその事件の被害者だったのに、憶えてない…? そう…4月28日、この渋谷を激震させた 中東の武装集団によるウィルステロ… その際、誘拐され致死率100%の殺人ウィルス「ウーア」を人為的に感染させられたものの 大越研究所所長であり、父、大沢賢治の抗ウィルス剤投与により命を取り留めたのが彼女… 大沢マリア… まさかその影響で…?)
マリア「ところで、何か…お困りのようでしたけど、大丈夫ですか?」
千晶「あ゙… いや、その… お恥ずかしい話なんですが… 実は、その雑誌の企画で心霊スポットを調べる事になりまして…」
マリア「心霊スポット? うわぁ。楽しそうですね!」
千晶「た、楽しくなんかないですよ。もう怖くて怖くて どこからどう調べていいか…」
マリア「そだ! まだあてが無いようでしたら紹介しましょうか?」
千晶「ほ… 本当ですか?」
マリア「丁度近所にオバケが出るって話題の廃病院があるらしくて、行ってみたかったんですよ── よかったら一緒にどうですか?」
千晶「な゙っ? 神様、仏様、マリアさま~っ」
声「おーい、マリアちゃん ちょっと!」
マリア「あ、はーい じゃ明日6時にこの店の前でね、千晶さん」
千晶「ハ、ハイ、よろしくお願いしますっ!」
次の日──
千晶とマリアの2人が夕暮れに、リャンのいる廃病院を訪れる。
千晶「こ… ここですか? そのウワサの心霊スポット…」
マリア「ええ、夜な夜な女性の叫び声が聞こえるという── 緑山病院です。自前のカメラ持って来ちゃいました。オバケが出たら取りますよーっ」
千晶「え゙ーと… ひとつ質問なんですが… マリアさんは怖くないんですか?」
マリア「怖いですよ」
千晶「じゃあ なんでそんなに楽しそうなんですか!」
マリア「うーん… そうだなぁ。もしかしたら私… ドキドキが恋しいのかも…」
千晶「ドキドキが恋しい… ──ですか?」
マリア「私──以前、中東旅行で怖い目にあってね。その時、助けてくれた人がいるの。その子は私と全く違う境遇、私の全く知らない世界の人で── とても冷たい目をした、やさしい人だった。その子の事を知るのは正直怖い… でも、知りたい… 正面からその子と向き合いたい…!! なぜか最近になってそう強く想うようになって…」
千晶「だからドキドキが恋しい…ですか!」
マリア「──なんてね。自分でもよくわからないんだけど」
千晶「いえ、それは… 確実にマリアさんは恋してるんです。聞いた事があります。恐怖のドキドキが恋愛感情に転じてしまうというロマンスを… これは、この心霊企画に加えない手はありません!! 題して『恐怖と恋愛はシンクロするのか!?』『ここが心霊デートスポットベスト5!!』です。さあ、急ぎましょう、マリアさん!!」
マリア「あ、ちょ… 待って下さい、千晶さ~ん」
リャンの部屋の壁面は、アルファルドの写真で埋め尽くされている。
リャン「ス… 素晴らしいわ… 私の部屋が姉さまでいっぱい 姉さまをもっとたくさん感じたくて、姉さまと私だけの愛の部屋を作りました…♡ 私はこの部屋で、私の全てを姉さまに捧げます…♡」
モニター画面がアラームを鳴らす。
リャン「ん…? なんだ?」
画面に、マリアと千晶の姿が映っている。
リャン「チッ またゴキブリか… 何が面白いのか。日本人が好んでする悪シュミな遊び… 『肝だめし』というやつか。私と姉さまの愛の巣を汚す汚い害虫め。そんな奴らは…… 地獄に落ちなさい!!」
リャンがスイッチを入れるや、マリアたちの足元の床が砕け、2人は床下へと落ちてゆく。
マリアたち「!! き… キャアアア…」
リャン「プッ あははは 落ちた落ちたァ。バカな日本人… あ~ スッキリしたァ~」
リャンが気配に気づき、身をひるがえして構えを取る。
テンジン・チュターが姿を現す。
リャン「何者だ… お前は…」
マリアたちは床下に落下したものの、どうにか無事でいる。
マリア「…たた…たー… ち…千晶さん、だ…大丈夫ですか…?」
千晶「あ、は…はい、なんとか~ そ… 想像以上にこの建物、老朽化してたみたいね」」
千晶「いえ… 手ヌキ工事だったのかもしれません」
声「マリア、大丈夫?」
カナンが現れる。
カナン「マリア…」
マリア「──…カ… カナン…」
千晶「ふう あ~もう、何がいったい…」
マリアが夢中で、カナンに抱きついている。
マリア「カナン♡ カナン♡ カナ~ン♡」
千晶「──… どうなってるんでしょうか…」
最終更新:2018年10月30日 08:12