対訳
あらすじ
- 南北戦争が終わり、奴隷解放がなされた南部のアーカンソー州、白人たちが農場を放棄し、黒人たちのコミュニティが作られています。ただこれまで奴隷の階級に押し込まれていた彼らには迷信を信じる者も多く、そんな者たちをカモにして金儲けをする「魔術師」たちもはびこっておりました。
- そんな魔術師のひとりゾデトリックは今日も農夫ネッドの妻モニシャに幸運のお守りを高く売りつけようとします。あやうく引っかかって買いそうになる彼女のところに夫のネッドが登場し、そんなものは必要ないとゾデトリックを追い返すのでした。
- すごすごと帰ろうとする彼を一人の少女が呼び止めます。彼女はトゥリーモニシャ、ネッドとモニシャの娘です。彼女はこのコミュニティでただ一人教育を受けていましたので、こういう迷信がはびこる村の様子に心を痛めておりました。そこで魔術師ゾデトリックを捕まえて一言説教しようというのです。それに加勢する彼女の幼馴染レムス、しかし若造どもの言うことなど聞いてられるかと「覚悟して置け」の捨て台詞を残し彼は去って行きます。
訳者より
- 映画「スティング」などで1970年代にリバイバルを遂げたラグタイムの大家の黒人作曲家スコット・ジョプリン、「ジ・エンターテイナー」などピアノソロの作品には今でも演奏され続ける名曲がいくつもありますが、彼が情熱を傾け、自費でスコアを出版までしたこのオペラのことは世にはあまり知られていないでしょうか。黒人のみを登場させたガーシュウィンの「ポーギーとべス(1935)」に先立つこと15年、黒人の作曲家による黒人キャストによる黒人のためのオペラが既に書かれていたのでした。残念なことにジョプリンの生存中には受け入れられることなく、自らのピアノ伴奏による上演が一度なされただけで長らく忘れ去られてしまったのでした。その間には作曲者自身によるオーケストラ譜も失われてしまうという不幸もありましたが、作曲者のリバイバルに合わせてスコアが再発見されて1970年代の半ばに、他人の手によるオーケストレーションではありますが本格的なオペラハウスでの上演をようやく果たすことができました。ギュンター・シューラーのオーケストレーションによるヒューストン・グランドオペラでの上演は録音・録画されて今でも見ることができます。
- ジョプリンお得意のダンスナンバーなどは実に見事でうっとりと聞き惚れてしまうのですが、作曲者自らが手掛けた台本の方は人物描写や歌詞の言い回しなど今一つの切れ味で、もし手練れの台本作家が一枚噛んでいたらもっと素晴らしいものになったのにと惜しくてなりません。
- とは言いつつも、このお話、差別されていた黒人コミニュティのリーダーに若い女性がなるという、極めて現代的なテーマでもあるのですね。今から100年以上も前にこういうプロットでオペラが書かれているというのも極めて興味深いことです。
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最終更新:2017年12月29日 17:39