次に参考にしたのが、大フィルに保管されている、ボーカルスコアです。残念ながらこのボーカルスコアには出版社が載っていません。CAVALLERIA RUSTICANA というタイトルの下に<SIZILIANISCHE BAUERNEHRE> OPER IN EINEM AUFZUG とドイツ語が書かれ、スコアにはドイツ語訳も印刷されていますので、もしかしたらしたら朝比奈隆がドイツで入手したものかもしれません。ピンクの表紙に朝比奈のサインがあります。
朝比奈隆は基本的にはイタリア語のテキストに忠実に訳しています。ただ、音楽に合わせるために訳語変えているところも多々あります。時には言葉遊びも見受けられます。例えば、サントゥッツァがアルフィオに、トゥリドゥとローラの仲をばらす場面に Uso a mentiere(嘘をつく習慣)という台詞がありますが、このUsoに合わせて「嘘」と歌わせて、歌の内容と音とが見事に合っています。
時代を感じさせる訳語もあります。例えば nostre donne を「女房」でなく「山の神」と訳しています。この「山の神」という言葉だけで、女房に頭の上がらない亭主という夫婦の関係が表現されていますが、残念ながら「山の神」という言葉は死語になりつつあるようです。