"ドン・パスクァーレ"

対訳

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全曲(動画対訳)

騎士はそのまなざしに(動画対訳)


訳者より

  • ドニゼッティの喜劇の傑作のひとつとして名高いオペラです。けれどこの主人公ドン・パスクァーレと年齢も性格も近い私には(彼が金持ちであるという点だけが私に似ていないのがとても残念です)到底この話が喜劇とは思えず、苦々しい思いだけが残る惨劇なのです。最後こそパスクァーレの寛大な心でハッピーエンドらしきものを迎えてはおりますが、このパスクァーレを陥れている三人組の手口はどうひいき目に見ても結婚詐欺という犯罪、高齢者の隙をついてカモにしようというオレオレ詐欺も真っ青な悪行で、もしもう少し続いていたらパスクァーレはショックで死んでいたかも知れないほどの酷い仕打ちです。確かにパスクァーレ、頑固でわがままな年寄りではありますが、それが理由でここまでひどい目に遭わねばならぬ理由があるとは私はどうしても思えません。そんな手口でこのノリーナとエルンストのバカップル(と言わせてください)、パスクァーレの遺産をせしめて結婚できたとしても幸せな将来は待っていないような気がします。彼女を愛しているのなら叔父の遺産など当てにせずに自分の愛を貫けば良いものを、すっかりいじけて放浪の旅に出ようとするエルンストに、彼に遺産を継がせるためならどんな悪辣な罠でも眉ひとつ動かさず実行してしまうノリーナ、どう考えてもうまく行くとは思えないこの二人に、パスクァーレの友人であるふりをしながら、彼を不幸のどん底に落とすドクター・マラテスタ、かれらが嬉々としてパスクァーレをいたぶるその言動ひとつひとつに訳していて私は腹が立ってなりません。すべてが明らかになる結末、私がもしも彼だったら「三人まとめて出てけ!顔も見たくないわ!」というところ(いや それどころかこりゃ警察沙汰・裁判沙汰ですよ)、何と彼らは皆あっさりと許されてしまうばかりか、ノリーナなど最後までパスクァーレを小馬鹿にした歌を歌うのです。こんな邪悪なお話にドニゼッティは何と活気あふれる美しい音楽を付けたのでしょうか。ケルテスの指揮したウイーン国立歌劇場の録音(Decca)の弾けるような音楽を堪能するたびに、こんなお話と知らなければもっと楽しめたのにと思ってしまう私がおります。
  • 管理人さんの用意下さっていたテンプレート、だいぶ欠落があったのと誤植らしいものが目に付きましたので(せっかくご用意頂いたのに済みません)、ネットにある何かのCDの対訳より別のリブレットを引っ張って参りました。ただこのオペラ、けっこう上演の版が色々あるようで、参照したいくつかの録音のリブレットとの差異がそこかしこにあるようです。観賞に使われるときにはご注意ください。

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@ 藤井宏行

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最終更新:2024年02月02日 20:08