雪の妖精さん達が何やら騒がしいです…。
久しく感じる喧騒の気配に私はぼんやりと目を開きますが、ベッドが
私を離してくれそうにありません。
惰眠を貪るより楽しい事なんてそうそうないものなのです。
しがない
魔族の小娘である私がこの街に引越ししてどのくらい経ったでしょうか?
自身でも認めるぐうたらな性分なので正確な日数は忘れましたが、最近は雪の妖精さん達とそれなりに楽しく暮らしています。
寝返りをうてば霜ついたシーツがパキパキと小気味良い音を立て、こうして二度寝を楽しむ生き方が悪いハズが……むにっ。
むに?ああ、ついに雪の妖精さんに頬をひっぱられてしまいました。
過去を回想していたら本当に寝てしまう所だったようです。
それにしても珍しいですね?妖精さん達がここまでするなんて。
_________どうやらお客さん来訪の様子。
寝起きで頭の中がまとまらないまま、妖精さん達に手を引かれて街を見渡せるバルコニーに連れ出されてしまいました。
成る程、街のあちこちで雪煙を上げながら誰かしらが妖精さん達と一緒に作った
雪だるま達と戦っているみたいです。
…………ん?なんで雪だるま達が動いているのでしょうか?
まぁそういう事もあるのでしょう。がんばれー、雪だるまさーん。
さりげなく応援しつつ、吹雪の魔法を放ってその一帯を凍らせてはい終了。
これで安心して二度寝に…と思ったら、再び妖精さん達に頬をつねられるように引き止められてしまいました。
なんでそんな酷い事を…と思ったら、雪煙の中から現れるお客さん達の姿。
あれは…ホネ?
骨、骸骨、
スケルトン。
白骨死体の動くヤツです、久し振りに見ました。
この街周辺だと死体でも何でもすぐに凍って氷像になりますから。
だけど骨は凍りません。
水分を含んでいるものは冷やせば氷に包まれますが、乾いた骨は冷やしても骨のままです。
それにどうやら…。これは野良スケルトンが迷い込んできたとかそういうものじゃなさそうですね。
まず数が多く、一か所につき十か二十ぐらいの群れが隊列を組んで歩いています。
寒くても動けるスケルトンをよこした辺り、きちんと考えてるみたいですね。
…まったく。
「…めんどくさい」
若干の苛立ちを込めて、雪だるま諸共に氷の塊で押し潰しました。
ごめんなさい、妖精さん達。また一緒に作りましょうね。
でも、これで終わりという訳でもないでしょう。
はっきりとした意図で攻め込んで来てるんですから、この程度は恐らく想定済み。
________ほら来た。
追加でカチャカチャと音を立てて雪煙の中から現れるホネ、ホネ、ホネ。
積もった雪と雪煙が姿と音を消すのをうまく利用している様子。
でもやりたい事は何となく判りました。
これは『大元を叩かないとダメだぞ、キリがないぞ』って、私をおびき出そうと考えているのでしょう。
デートのお誘いなら私だって淑女の端くれとしてきちんと準備するのに…。ここにやって来る人達はいつも勝手です。
淑女の扱いと言うものをまるでわかっていません。
まぁ乗ってあげるんですけどね。お気に入りの街の景観が損なわれるのもイヤですし。
そんな事を考えながら行進するホネを逆流する格好で郊外まで来てみれば…。
見つけました
白い髪の人間さん、
ネクロマンサーでしょうか?
その傍らの地面に刺さってるのは剣かな?なんかすっごい禍々しいんですけど。
あれで土地を穢し、死霊を生み出す場にしているみたいです。切実にやめて欲しい。
それと上半身だけの
巨大なスケルトンの中に陣取っていますが、そんなスカスカじゃ寒さは凌げませんよ?
とりあえず死んでもらおうと思ったら、突然私の背後で爆砕音!
なにごと?と振り返れば、通りにあった大きな家が私に向けて倒れてくる真っ最中!
これはもう私には直せない。あいにくですが近所に大工さんなんていないのです!
私はこの街の景観が気に入っているのに、なんてひどいことをするのでしょうか!
咄嗟に氷柱を作り出して倒壊する家を支えつつ、このままゆっくり戻せばどうにかならないかなとか思っていたその時。
崩れた家の隣の屋根に、
でっかい剣を持った人間さんが現われたのです。
その人間さんは屋根の上から私に向けてなにやら異国の言葉を叫んでますが、全くもって分かりません。
とりあえず邪魔っぽいので、お話の途中で恐縮ですが死んで貰って…。
ああダメですかそうですか…。五回くらい殺そうとしましたが攻撃を弾かれてしまいました。
めんどうなのでもう一帯毎吹雪で飲み込んでそのまま凍って貰いましょう。
…って、凍った防具や衣服を脱ぎながら突っ込んで来ましたよこの人!?
人間さんは寒さに弱い筈ですが、どうやらその前に私をやっつけてしまおうとしてるみたいですね。
しかも凍り付いた剣まで捨てて素手になってます。
まぁでも、特に脅威は感じませんので…。
「捕まえた」
そんなに私に近づきたいなら近づいてあげましょう。
淑女としてはちょっと恥ずかしいですが、遠慮せず密着してあげます。
こうして抱きしめてあげれば、この通り新しい氷像のできあがり。
白い髪の人間さんが何か叫んでますが、次はあなたです。
狗山座敷郎、此処に敗るる。
哀れ氷に包まれた像として、久遠の虜囚と成り果てて…。
否、否。否否否否断じて否。
お前は選ばれし者だ、故に斯様な終劇なぞ有り得ない。
華胥の国へ至る流離譚はまだ開幕すらしていないのだから。
何をしている?既に舞台は整った。
強大なる敵手、絶体絶命の窮地、己を愛する女の涙。
さぁ黄泉帰れ黄泉帰れ、此等総ては主演が為の演出に過ぎぬが故に。
敵手が温めた舞台へと今ぞ降臨するが良い。
腥風を纏いながら、尚も凛烈に、尚も凄艶に、いざ吟ぜよ。
「『私は必ず大義を成す』」
紡錘が糸を紡ぐが如く、流離い渡れよ流離譚。
此ぞ天意神慮なり。
「『私は必ず大義を成す』」
「__え?」
ありえない事が起こりました。
鼓動を止め、芯まで凍った筈の人間さんから熱を感じたのです。
全身から噴き出す金色の
魔力?いいえ、もっと別の何か。
神聖魔術にも似た奔流が氷を内側から灼き溶かしていきます。
ああ、そして久しく感じるコレは…
「_熱い」
熱い、熱い、熱い、熱い。
輪郭を煮立たせ、触手を蠢かせる人間さん__じゃないですよね、コレ?
炙られる様な熱を浴びながら、私は初めて相対する人間の顔をちゃんと拝見しました。
至近距離で燃えるような三つの瞳と目が合います。
その瞳に気を取られていると地面に突き刺して周囲を穢していた剣が眩い光を放ち、人間さん?の触手が伸びて投げ捨てられていた大きな剣共々回収されていました。
「貴方、誰?」
先頃名乗りを上げていた様ですが、聞いてなかった私はそう問わざるを得ません。
ああ、それともやっぱりこちらから名乗るべきでしたでしょうか?
返されたのは、そのたった一言。
いや、無愛想が過ぎませんかね?
「この勝負、暫し預ける」
そう言うと、勇者候補と名乗ったその男は白い髪の人間さんを触手で掴み凄まじい速度で逃げてしまいました。
自分の言いたい事だけ言って、好き勝手に街を破壊して帰ってくなんて常識的に考えてかなり悪い男だと思うんですが…。
「…」
追い討ちません。
預けると言ったなら、またちゃんと来てくださるでしょう。
皮膚にまだ熱が疼きます、ひりひりと。
この借りは次回きっちりとお返しさせていただくとしましょう。
その時は魔族の小娘ではなく、
ふぅ~…カッコよく決まりました。
こーゆー時だけは魔王候補と名乗るのも悪くありません。
さて…これから…後片付けです。
周囲を見れば、崩れた家や術者が居なくなったおかげで崩れ散らばる骨の山。
…やっぱりもう来なくていいよ!
―Guzan'sSideDigest―
鏖金の明星視点での解説。
まず
苺は危険性から後方待機。
事前に代謝を高めて身体を温める料理を二人に食べさせておく。
釣り出し作戦を行ったのは確かだが、スケルトンの包囲網の中で一直線に本拠地を捕捉されてしまった。
当初の予定ではスケルトンを肉盾ならぬ骨盾にして消耗を強いる筈が、道すがらにほぼ全てが粉砕された形である。
咄嗟にグザンが手近な家屋の基礎を破壊し、タマラ目掛けて崩れさせるも氷柱で受け止められた。
その上で蔦から目を逸らせる為に名乗りを上げて敵意を誘導するも、即座に巨大な氷塊や氷柱による五連撃が飛来。
グザンはギリギリでこれを捌くも、次の瞬間に区画を飲み込む程の吹雪により装束が凍結。
動けなくなる前に凍った装備を脱ぎ捨てて吶喊を仕掛けるも瞬きの内に捕らえられ、知覚する事すら許されずに意識は暗転したのだった。
世間一般的な感覚で言えば紛れもない完敗からの敗走であり、よくぞ引き分けたみたいな顔が出来た物である。
ちなみにグザンの復活がほんの僅かにも遅れた場合、蔦は自身と支配下のアンデッドの全てを贄とした呪詛をぶっ放す覚悟を決めていた模様。
その場合タマラを倒せたかどうかはさておき、周囲にどれだけの被害が出たか知れた物ではない。
そしてさらなる余談。
寝ぼけ状態は中々愉快なタマラだが、殆ど表情は崩してはいない。
グザンが不完全ながら
外神形態を発動させた時に目を瞬たかせたのとグザンとの再戦を思ってほんの僅かに口角を上げたのみである。
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最終更新:2026年08月02日 20:36