オリジナルキャラ・バトルロワイアル2nd(ver.2)まとめwiki

生の実感

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生の実感 ◆BUgCrmZ/Lk


甲高い金属音が響く。
自然の奏でる音楽ではない。
命を削り人が奏でる、剣戟の音だ。

金属がぶつかり合い、火花が散る。
ぶつかり合うは二人の男。
攻め入る男と守る男。
使い手は双方ともに一流。
互いに決定打を与えられず一進一退の攻防が続いていた。

タン、とサバイバルナイフを逆手に持った金髪の男が地面を蹴る。
先ほどから烈火の如く攻め入っているのはこの男だ。

一定の距離を保ちながら、相手の隙を窺うようにヒットアンドウェイを繰り返している。
未だ息一つ切らしておらず、目は氷のように冷たく感情すら見えない。
ただ目の前の相手を以下に仕留めるか、それだけを考えている冷徹な狩人の目である。

異常殺人者(オーヴァー)。

新進気鋭の暗殺者に付けられた異名がそれだ。
名の売れた暗殺者など三流の証であるのだが、何事にも例外はある。
いや、彼の場合、その評価は、暗殺者としては落第だが、殺人者としては有名といったほうが正しいか。

依頼された標的に限らず、目撃者や標的の護衛、その場に居合わせた関係者をその全てを皆殺しにする過剰殺人者。
そのやり口は、同業者からも恐れられ、嫌悪されている。
裏社会においてもなお異端とされる、業界きっての鼻摘み者。
それがこの男だ。

対して、対峙する男は手にしたサーベルを巧みに操り、その猛攻を見事なまでに凌ぎ切っている。
だがその卓越した技量とは裏腹に、その様子は穏やかではない。
息は切れ切れになり、歯の根がガタガタと震えていた。
隈の走る目は見開かれ血走り、その必死さが読み取れるというモノだろう。
それでもなお、的確に相手の攻撃を防ぐ様は奇妙と言えば奇妙であった。

攻撃を凌ぐ青年、橘蓮霧にもとより剣術の心得などなかった。
その技量はスキル【剣技】の恩恵に他ならない。
だが、このスキルで上昇するのはあくまで技量のみ、筋力や体力はそのまま。
なにより経験値や覚悟と言った精神面はどうしようもない。
ならば態度とは裏腹の技量にも頷けるというもの。

「ハッ…………ハッ……ハッ……!!」

蓮霧の息が切れる。
肺が口から飛び出そうな感覚。
動きまわっている運動だけでなく、命のやり取りという極限の緊張感で体力がゴリゴリと削れる。

【剣技】の恩恵により技量こそ蓮霧が上回っているものの、体力があまりにも違いすぎる。
今は凌げているが、いずれジリ貧で負けるだろう。
このままでは負ける。
負ける。
負ける?

―――殺される。

この場では負けるとはそういうことだ。


「い、嫌だ…………ッ!」

脳裏に焼き付いた死のイメージを打ち払う

蓮霧はもともとひきこもりだった。
理由はイジメによる不登校。
故に彼は強さを求めた。

誰かに頼ることもできなかった彼が始めたのは、ネットや雑誌で得た情報を元に編み出した自己流のボクシングだ。
だが、トレーナーもなしに一人で出来ることなどたかが知れている。
そんなものがうまく行くはずもない。

だが、一念岩をも通す。
一年間ただひたすら愚直に鍛えあげてきたそれは、いつの間にか何者にも劣らぬ武器となっていた。
武器を得た彼は夜の街を彷徨った。
復讐のように肩をいきらす不良どもを蹴散らしてゆき。
そしていつしか、彼はヤンキー狩りとして呼ばれ、地元の不良どもの間で恐れらる存在となっていた。

不良相手に実戦経験ならいくらでもある。
その筋の人間と小競り合いになったこともある。
刃物を持った相手とやりあったことも一度や二度じゃない。

だが違った。
目の前の相手はすべて違った。

街の不良とは存在としての次元が違う。
強さとか弱さとか以前に、生体としての在り方が違う。

獣のような速度で敵が、蓮霧の眼前に踏み込む。

見えるのは口元に粘り着くように張り付く殺し合いを謳歌するような笑顔。
見るだけで吐き気を催す、ドブ川の腐ったような瞳の色。
まるで息を吸う様に人を殺す。

ああ、コレが本物の――――殺人鬼。

このまま続けたところで、待っているのは確実な死だ。
状況を打破するには、一か八かの賭けに出るしかない。
グッと歯を食いしばり蓮霧は覚悟を決めた。
生き残るために。

幾度目かのオーヴァーの攻撃を凌ぎ、攻撃を終えたその引き際を狙って、蓮霧は前に踏み出した。
防戦に徹していた蓮霧が攻めに出たのだ。

だが、移動速度はオーヴァーの方が早い。
踏み込みは僅かに足らず、剣の間合いには一歩足りない。
それは互いに理解していた。

故に、このタイミングがベストだった。

蓮霧はオーヴァー目がけて、振りかぶったサーベルを全力で放り投げた。
よもやこの極限の状況で、唯一の武器を手放すなど愚行を行うなど誰が思おう。
虚を突かれ、僅かにオーヴァーの反応が遅れた。

オーヴァーが眼前に迫る刃をナイフで弾き飛ばす。
それと同時に、間合いを詰めた蓮霧。
ナイフを振りぬいたオーヴァーはこれに対応できない。
相手の吐息すら感じらる距離。もはや剣の距離ではない。


そう、蓮霧の武器は剣だけではない。
彼の腕には、一年間鍛え続けた武器がある。

放たれる、渾身の右ストレート。

迫る一撃。
それを前に、オーヴァーは超人的反応で崩れるように上体をそらした。
蓮霧が渾身を込めた一撃は、オーヴァーの頬を掠めるに終わった。
襲撃は失敗。
捨て身の攻撃もかわされた。
全身をなげうってもなお届かない。

だが、それでいい。

剣の投擲も、素手での格闘も、これすらも布石。
相手の体制は崩れた。

蓮霧は殴りかかった勢いのまま、そのままオーヴァーの脇を駆け抜ける。

その先にあるのは川。
オーヴァーを挟んだ先にあるため超えられなかった脱出口。
それを彼は超えたのだ。

振り返ることなく蓮霧は川に飛び込んだ。
後は、この激流に身を任せこの場を逃れるだけだ。
無事に地面にたどり着けるか、このまま溺れ死ぬか。
それこそ一か八か、後は己の幸運にかけるだけだ。

「ぷは…………っ!」

水中から頭を出したところで、彼我の距離を測るため蓮霧は僅かに振り返った。

そこで彼は完全に言葉を失った。

オーヴァーはすでに足を止めていた。
彼我の距離はもう人間の足では追いつくことはかなわない程度には離れている。

だが、問題はそこではない。

蓮霧の目に入ったのは、その片腕に掲げられた雷神の瞬き。
夜に火花が散った。
照らされた口元には歪んだような笑みが――――。

蓮霧は失念していた。
自らに【剣技】のスキルが与えられていたように、相手にも何らかのスキルが与えられていたということを。

雷が河川に目がけ放たれた。
雷速を前にして彼我の距離など無いに等しい。
大気が破裂したような炸裂音。
そこで蓮霧の意識は途絶えた。


■■■■

ぷかぷかと河川に黒い煙を放つ死体が浮かんでいた。
死体から粒子が浮かび上がり、カードの形に固定される。
そのカードを拾い上げるとオーヴァーは事務的な声で宣言する。

「スキル【剣技】」

カードが融けるようにオーヴァーに飲み込まれてゆく。
脳裏に浮かぶスキル【剣技】の詳細。
そして、それとは別に新たなイメージがオーヴァーの脳裏に浮かび上がった。

踵を返すと、先ほど蓮霧が放り投げたサーベルを拾い上げる。
そして、頭の中のイメージに従い、力を籠める。
すると刃は紫電を纏い、パチパチと音を立て始めた。
試しに軽く振るってみれば、刃先から雷鳴が散り、草原を薙いだ。
物質に雷を纏わせる能力。
これがオーヴァーの手に入れた新たる力だった。

複合スキル。
スキルシステムの応用編。
特定のスキルにより生まれる新たなスキルだ。

新たな力を手にして、異常殺人者の思うことは一つ。
これでまた殺す武器が増えた、それだけだった。

人を殺めたという結果に対して罪悪感などない。
先ほど殺した相手に対して思うこともない。

基本的に彼はこの世界そのものを恨んでる。
呪っていると言ってもいい。

生まれてすぐに親に売られ、悪趣味な金持ち連中の愛玩物として育てられた。
名など与えられず、ただ男が楽しむためだけの道具として、主人である男が死ぬまでの8年間、毎日のように被虐の限りを尽くされてきた。
あの醜男(ブタ)は顔だけは傷つけなかったが、体中には当時の古傷が山のように刻まれている。
そんな状況で、心を殺すことだけが生き残る術だった。

何も思わず、何も感じず、何もできず、何もない。
あの男の呪縛から逃れたところでそれは変わらなかった。

そんな彼が唯一、生を実感できる瞬間がある。
それは命に触れる瞬間。
それは死を感じる瞬間。
自らの命を削り、相手の命を刈り取る瞬間の高揚感。
それだけが、彼の生の証だった。

「宇宙人だかなんだか知らないが、殺せというのなら殺してやる」

だから彼は殺す。
己の生を実感するために。
全て殺す。

「――――お前ごと、全部」


【一日目・深夜/D-4 市街近くの川】
【オーヴァー】
【状態】健康
【装備】サーベル⇒サンダーソード
【スキル】『剣技』『平賀源内のエレキテル』『雷剣士』
【所持品】基本支給品、サバイバルナイフ
【思考】
1.この場にいる全てを皆殺し
2.最後にヨグスも殺す

【橘蓮霧 死亡】

【複合能力】『平賀源内のエレキテル』+『剣技』or『剣豪』
【スキル名】雷剣士
【効果】装備に雷属性を付随する
【持続】術者が解除するまで永続
【備考】術者が死亡後も効果は持続

14:騎士と姫2 時系列順 19:魔法少女になりました!
14:騎士と姫2 投下順 16:許されざる者
オーヴァー 20:そして彼の受難は続く
橘蓮霧 死亡


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