オリジナルキャラ・バトルロワイアル2nd(ver.2)まとめwiki

許されざる者

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許されざる者 ◆ORI/A.SOic


「貴様、逮捕だ!」
 手錠を振ってそう叫ぶのは、痩せぎすで貧相な男。
 見るからにチンピラ然とした身なり風貌だが、器用にひも付きの手錠を振り回しポーズを決める。
「ゴキ、あんたがバカなのは知ってたけど、バカも時と場所を選んでよ」
 そう冷たく言い放つ女性は真琴真奈美。今手錠を手にふざけているチンピラ、御木魚師とは旧知の間柄だ。
 とはいえ、2人の関係は決して友好的ではない。むしろ敵対的であったと言っても良い。
 親しくもなければ友人でもない。
 片や広域暴力団の構成員。片や若くして本庁殺人課配属となったエリート刑事。
 つまり、取り締まる側と取り締まられる側、だ。
 その2人が、今ここで手を組んでいる。
 勿論、この"事件"に立ち向かうため、だ。

 2人が出会ったのは勿論偶然だ。
 出会ったのはこの広い会場にある数ある施設の中でも、この2人にとって最も縁深い場所。
 警察署で、だった。
 真琴は状況を把握する手がかりが何か無いかと考え、御木はここで武器が手に入らないかと思い、それぞれに別の場所から移動してきた。
 結果、ここが全くの無人で、かつ警察署にあるはずであろう武器類も特に残されていない事を知り、と同時に旧知の相手と遭遇してしまったのだ。
 直接の面識はそれほど多くはない。御木は組織暴力団の構成員だが、真琴の知る限り殺人或いはそれに類する行為で検挙されたことも嫌疑を掛けられたこともない。
 所謂マル暴、暴力団対策は警視庁組織犯罪対策部の管轄で、殺人課に配属されている真琴にとっては本来管轄外だ。
 最初はただ、別件での殺人事件の捜査上、参考人として会っただけだった。
 それで何度か会っているうちに、何故か妙に御木が馴れ馴れしく振る舞うようになっていった。
 真琴の御木への印象は、「こすっからいチンピラ」 というものだ。
 御木は暴力団構成員でありながら、暴力沙汰に滅法弱い。暴力恐怖症とでも言えるほどに、荒事と関わり合いたがらない。
 かといって所謂インテリヤクザというタイプでもない。
 要するに、口先だけで渡世を泳いでいる、まさにチンピラそのものというタイプだ。
 有り体に言って、真琴は御木を"舐めている"。だから、ゴキ、等というあまり褒められているとも言えないあだ名で呼べる。

 御木の方はどうか、というと、彼は"舐められる事に慣れている"。
 これは、ヤクザとしてはかなり変わった性質だと言える。
 本来ヤクザ家業等というのは、面子と見栄だけで出来ていると言っても良い。
 舐められたらお終い。そういう世界だ。

 その世界で、御木の立ち位置振る舞い、いわば処世術というのは、かなり特殊だ。
 彼は表向きは、非常に臆病で弱々しい風に振る舞う。
 事実、荒事は苦手で、純粋な腕っ節ではまず誰にも叶わない。
 ただし、のらりくらりと受け流し、逃げ出す事に関しては、ピカイチなのだ。
 まず相手に自分を舐めさせる。それでいて、本当に痛いところは決して晒さずに、巧く逃げ出す。
 しかる後に搦め手で相手を填めて、"勝つ"。
 最初に相手がこちらを舐めれば舐めるほど、後の搦め手が巧く行く。
 この手で、御木はのし上がってきた。
 御木がヤクザ業をしていて最も"恍惚"を感じる瞬間は、数日前まで自分を舐めきっていた相手の顔が、恐怖と苦痛でぐしゃぐしゃになり、恥も外聞もなく地を舐め鼻水を啜りながら許しを請うているときだ。
 その上で、「優しく許して」支配下に置くのも、或いは最期の希望をぶった切って、さらなる地獄に突き落としてやるのも、どちらも愉しい。

 そしてだから、御木は真琴に執着をしている。
 男勝りで、化粧っ気もなく、仕事一筋。
 何が楽しくて生きているのか分かりもしない。
 犯罪者、特に殺人犯を蛇蝎の如く嫌い、憎み、蔑んでいる彼女は、やはりヤクザ者など当然見下している。
 以前、真琴の父が何者かに殺されたことが、彼女が刑事を目指し、また今の性格を作った一因であると聞いたことはある。
 成る程そういうものだろう、と思った。彼女の核にあるのは殺人者、ひいては犯罪者への復讐心だ。しかしそれをそのまま復讐心として現すことも出来ない。
 復讐心の素顔の上に、法という名の仮面を被る事が、彼女に出来る唯一の事だったのだ。
 しかし、御木にとって重要なのはその事ではない。
 御木は真琴に舐められれば舐められる程に、軽蔑されれば軽蔑されるほどに、その立場が逆転したときの顔を見る事を考え、それがたまらないのだ。
 勿論、普段はそんな欲望などおくびにも出さないし、刑事とヤクザという関係上、それは見果てぬ夢である。
 漫画やドラマのヤクザとは違い、現実問題としてヤクザが警察関係者に手を出すことなど有り得ない。それは文字通りに自殺行為だ。
 警察は、身内に対しての攻撃は、決して許さないのだ。
(それが、違法な犯罪行為であるか、合法かつ正当なものであるかなど、関係なく、だ)
 ヤクザと同じかそれ以上に、警察組織というのは面子と見栄の世界なのだ。
 だからそれは、御木にとってはとても甘い、スウィートな見果てぬ夢であり、それを夢見ているだけでも十分に"恍惚"を得られる。

「まなみん、そう言うなってよ~。
 俺だッてこう見えて、正義の味方に憧れていた少年時代もあるんだぜ?」
 手錠をくるくると回しながら、そうおどける御木。
「鏡を見てから言え。正義の味方ってツラか。
 それと、その呼び方はやめろと言ったろう」
「うぅ~、つれないねェ」
 大仰に肩をすくめてみせる御木に、だん、と机を叩いて、
「バカも時と場所を選べ、とも言ったよな?」
 睨み付ける。
 流石に口答えを止めて、コートのポケットに手錠をしまうと、話を別の方へと向けた。
「しっかし、本当に人っ子一人いやしねぇな。
 ここだけじゃなく、街中全部、人の住んでる気配もありゃしねぇ。
 本当にあのけったいな自称宇宙人の言うような、他の参加者なンて居るのかね?」
 辺りを見回す。
 今いる場所は、警察署内の一室。普段なら多くの捜査員が詰めて居るであろう大部屋で、辺りは先程まで実際にここに刑事達が居て仕事をしていたかの様な雑然とした状態。
 他の部屋も似たようなもので、まるで何処かの街の警察署から、忽然と人間だけが消え失せたかの様だ。
 不気味である。
 勿論、自分達が宇宙人を自称する変人に誘拐されたらしいと言うことも、そいつが何を狂ったか殺し合いをしろなどと言ってきた事も不気味だし、いつの間にかつけられていたこの金属の首輪も不気味でたまらない。
 しかしこの、まるで突然一つの街から人間だけを取り除いたかのような様子。そこにかつてあったことの分かる日常性の残滓。それこそが、何よりも不気味ではある。
 これならば、虐殺の跡が生々しく残っている方が、"分かりやすい分"まだマシかもしれない。
 真琴と御木の2人が、まるで普段通りの様に振る舞っていられるのは、やはりそれらの底知れぬ不気味さを、少なくとも知人である人間と共にいることで、紛らわせることが出来ているからだ。
 しかしそれは本質的な状況理解とは関係ない。
 ただ、不気味さの本質と向き合う時間を、先送りできているだけに過ぎない。

「あのスキルとやら…」
 不意にそう切り出す真琴だが、些かそれまでよりも声の調子が落ちている。
「試しに、使ってみろ」
 御木にそう促す。
「うえぇ~? ちょ、何だよ急にさぁ」
 大仰に驚き返す。
「アンタのカードに書かれている但し書きが本当なら、もしかしたら"他の参加者"とやらが、分かるかもしれない」
 眉根を少し寄せている。それもそうだ。これを口に出し決断すると言うことは、少なくとも"自称宇宙人"の異常な言葉を、一部認め受け入れる事に他ならないからだ。

 刑事である真琴も、ヤクザである御木も、どちらも徹底的な現実主義の世界に生きている。
 どこかの夢見る中二病や、異常人格者達の様に、「特別な能力が手にはいるカードです」等という言葉を、そう易々と受け入れる事は出来ない。
 しかし、それでも真琴は、そうすべきだと考えた。
 とにかく、今ここではそれらを一旦受け入れるしかないのだという事が、肌で感じられてきているからだ。

 真琴の真剣な目に見つめられ、御木は些か顔を赤らめつつ、それ以上反論はしなかった。
「しっかしさぁ~。これ、今は早くねぇ? またで精々2時間かそこら、ってとこだろう?」
 そうボヤキはするが、ポケットに仕舞っていた1枚のカードを、丁度ポーカーでイカサマをするときのようにするりと取り出す。
「賭け、ではあるさ」
「出る方にBET、か?」
「出来れば、出ない方を祈る」
 へっ、と口の端を歪めて笑う。
 御木はカードを改めて見つめ、それから一旦深呼吸。
 そしておもむろに一言呟いた。

「『パブリックエネミー』」

 瞬間、カードが光った。錯覚か、或いは現実か。しかしそれは直ぐに消える。
 そして光と共にカードそのものも、消えて無くなっていた。
 暫しの沈黙。
「…おい」
 先に耐えきれなくなったのは真琴の方で、しかし御木はその言葉に反応を見せず、惚けたような顔をしてあらぬ所を見ている。
「…おい!」
「おうっ!?」
 ビクリとして意識が引き戻されるが、些か落ち着きがない。
「いや、うん…まあ、何だ、うん」
「どうなっているんだ」
「…居たよ、居た。しかも、驚いた名前だ」
 そう言って御木が再び右手を掲げて呟くと、そこに瞬時に件のカードが現れる。
「現時点の殺害数トップは、どーやら3人居るらしいぜ。
 マジなら、いきなり連れてこられて、殺し合えなんざ言われてハッスルしちまったどアホウが、3人も居るってー事になる。
 イカレてやがるぜ」

 御木が真琴に見せたカードには、文字が浮かび上がっていた。
「…猪…目…だとッ!?」
「ああ、ヤっベェだろ。
 それが、ご本人なら、な」

 ――― 6年前。
 S県某所で発覚した連続殺人事件。俗に彼の経営していたバーの名前から、『魔の巣連続殺人』等と呼ばれる事件の主犯が、猪目道司だ。
 バーの経営者である猪目は、常連客の何人かとちょっとしたギャンブルをしていた。
 それ自体はさほど大きな問題ではなく、あくまで入り口。
 金を持っていて、賭け事や儲け話に容易く乗る人間を選別するための手段でしかない。
 勝ったり負けたりをしつつ、頃合いを見て誘いを掛ける。
 こんなちんけなギャンブルじゃない、大きな儲け話があるんだが一つ乗らないか? と。
 例えばそれは未公開株の値上がりを前提とした仕手戦であったり、骨董の売買であったり、稀少な保護動物の密輸であったり、相手により色々だ。
 何れにせよ欲をかいて大金を用意してきた客から金を受け取り、殺す。毒を飲ませた後に山奥の別荘へ運んでは解体。バラバラにして処分してしまっていた。
 判明しているだけで5人。その他消息不明の人物を合わせれば、或いは20人はくだらない人数を闇へと葬り去ってきた嫌疑が掛けられている。

 しかし、御木と真琴が「ヤバイ」と言っているのは、この男が異常殺人鬼だという事、ではない。
 勿論、この近くに躊躇無く人を殺せる異常者が居るかもしれない、というのは危険だ。しかし猪目の名、その存在が示す脅威には、さらに別の意味がある。
 社会の中に平然ととけ込んでいた猪目は、正に目に見えぬ静かな脅威ではあった。
 しかし、写真ではあるが猪目の顔はある程度知られている。御木は別として、特に真琴はよく覚えている。
 問題は、現在収監中である彼が、もし本当にここに連れてこられて居るのだとすれば、それはつまり、ヨグスと名乗った自称宇宙人は、彼を脱獄させたのだという事実である。
 異常殺人犯を脱獄させてまで、殺人ゲームを開きたいというのか?
 脱獄させる事が出来たという事実も、またそこまでして殺し合いをさせたいという執着も、どちらも彼ら2人の心胆を寒からしめるに十分であった。

「3人―――」
 言いかけて、真琴の視線がカードに浮かび上がったある名前で止まる。
 板垣退助、という歴史上の偉人の名はどうでも良い。普通に考えれば当然ただの同姓同名だ。
 しかしその次。名前と言うには些か無理のあるある言葉が、真琴に猪目道司以上の衝撃を与える。
 御木はその真琴の表情の変化を見逃さなかった。
 もとより観察力には優れている方だが、相手は真琴だ。御木は何時如何なる時でも、真琴の弱みに繋がりそうな事を見逃そうとはしない。
 そこをさらに突っ込んでみようと口を開けた瞬間、自体を更にややこしくする出来事が起きる。

 真っ暗だった警察署内が、突然光に包まれたのだ。


◆◆◆

 ドルルルルルル……。
 低いうなり声の如きその音は、さほど広くない地下室の中を振動と共に蠢いている。
 何の音か? 猛獣の唸りでも、天然自然の響きでもない。
 駆動音だ。
 この重低音は、中型の発電装置が発する音なのだ。
 入り口から僅かに頭を出して中を伺う。
 反対側にはやはり壁にぴたりと貼り付く御木。
 黒いコートに、さらにはバッグの中にあった二つめの道具であるケブラー製ヘルメットを被っているその姿は、正しくあだ名通りゴキブリの様だが、そんな事に構っている場合じゃない。
 真琴は手にした銃を構える。しかしそれはハンドガンではなく、H&KMP5。所謂サブマシンガンだ。
 30発の9㎜パラベラムを装填出来る、全長約70センチのこの短機関銃は、取り回しの良さと命中精度の高さから、世界各国の警察や特殊部隊でも採用されている。
 日本の警察では採用されてはいないが、真琴自身は密かに海外で射撃練習をしていて、ある程度は使い慣れてはいるものだ。
 しかしそれでも、実戦の場で銃を手にしたことなど無い。
 まして、人に向けて撃った事もない。
 その事が、不測の事態に繋がらないとは、言い切れない。
 少なくとも今の真琴に、人を殺す気はない。あるとしたらそれは正当防衛か緊急避難。つまり、殺意を持って誰かを、或いは自分を殺そうとする者が居た場合で、やむを得ぬ時になるだろう。
 目で、御木に合図をする。それをきちんと受け取っているかは分からぬが、先に入るのは真琴の役目だ。
 呼吸を整える。拍子を取る。3.2.1...
 低い姿勢で一歩。目線で左右を確認。さらに奥。
 その脚が、止まる。
「う…う゛ぅ~~~……」
 唸りとも、嗚咽ともとれぬくぐもった声。
 怪我人か何かかと考えるが、どうやらそうでは無かったようだ。
「うう…よし、よし、これだ…うぅ……」
 そこに居たのはひょろりと背の高い一人の男だ。
 壁に向かって、なにやら作業をしながらぶつぶつと独り言を呟き、ときにはそれがうなり声の様にもなっている。
 バチン!
 不意に、男が何かのスイッチを入れた。
 バチン! バチン! バチン!

 立て続けにそう音がする。
「何をしている!?」
 銃を構えたまま、真琴はついそう語気を荒くする。
 振り向いた男は、真琴を(或いはその手にした銃を見て)、突然大声を発した。
「ああぁぁぁ~~~~~!!
 銃だ! 銃だ! 銃は悪い道具! 人を殺す道具だ! 銃は駄目だ! 銃はとても悪い道具だ!!」
 叫んで後ずさり、この地下室の隅へでうずくまる。
 真琴も御木もその尋常ではない怯えぶりに面食らう。
「待って、待って、害意は無い。いい、落ち着いて。銃は降ろす。ね?大丈夫。貴方を攻撃したりはしないから」
 そう言って真琴は手にした銃の銃口を下げる。
「いい? ここ。これ、床に置くから。大丈夫。だから、ね。落ち着いて。叫ばないで」
 床に銃を下ろし、両手を開いて相手に向ける。
 蹲っていた男はその様子を見て、徐々に落ち着いて叫ぶのを止めた。
「…銃は、駄目だ。銃は人を殺す。悪い道具だ。銃を持つのは悪いことだ…」


 世に、天才と称される人間が存在する。
 何かの才に秀でている者。それが天性の、生まれつきのものに由来するとされる者。
 彼、トーマス・アルバ・エジソンもその一人だ。
 実在した発明王と同じ名前を持つ彼は、文字通りに天才であり、発明王の再来と呼ばれている。
 まだ若い頃から機械工学の博士号をとり、飛び級で大学に進学している。
 ただし、天才ならではとでも言うべきか。多くのことに対して繊細で神経質であり、また偏執的な面を強く持っている。
 彼の偏執的気質は、同時に彼が機械工学の道に進んだ一因でもあった。
 一つに、彼は子供の頃から、機械や装置を見るとそれを解体し原理を解き明かさなければ気が済まないという性格だった。
 与えられた玩具から、ラジオ、電話、庭の芝刈り機と、とにかく何でも解体しては組み立て直す。
 あまりにもそれが激しいため、危険も考慮した両親は、彼専用のガレージを建て作業場とし、その中でのみ、許可されたものを解体して良いとした。
 一度作業に没頭すると、周りのことは殆ど見えなくなる。食事も睡眠も取らずに、不眠不休で解体と再組み立てを繰り返す。
 次第にただ組み立て直すことに飽きてきたのか、新たな装置を組み入れ改良するようになる。
 20歳になった現在で、既に56の特許を持っているのだ。

「…それで、トーマスさん。貴方はあの発電機を直していた、ということ?」
 再び先程の大部屋に戻り、真琴と御木の2人はこの奇妙な外国の青年に質問をしていた。

「そう。電気だ。電気は良い。明るいし、色んな道具が使える。電気がないのは良くない。だから直した。
 配電盤があったから、それも直した。ほら、明るい。明るいから、怖くない」  
 窓の外を見ると、市街地の街路の街灯や、いくつかの建物も光が灯っている。
「…多分こりゃ、ここの発電機で、地図で言うところの旧市街の主要電源を賄えるようにはなってるみてえだな」
 旧市街にはこの警察署の他、市長宅、学校、図書館という建物があり、位置的にそのあたりと思われる場所が明るくなっていた。
 もし、ここの発電機が警察署内のみであれば、この明るさは問題だったろう。
 少なくとも、この場所を目指して何者かが訪れる可能性は高くなる。そしてそれが、危険人物でないとは言い切れないのだ。
 さてどうしたものか。
 御木は眉を軽くつり上げて真琴を見る。
 その表情は露骨に、「こいつ、面倒臭ェな」と言っていた。
 たしかに彼は機械に強いらしい。それは役に立ちそうだとは思う。
 ただそれでも先程の、銃に対してのまるで恐怖症とも取れる過剰な反応を見れば、危険人物と遭遇してしまった場合には明らかに足手纏いとにりそうだ。
「ねえ、トーマスさん…」
 いいかけた真琴の言葉をまるで無視して、トーマスは独り言のように言葉を続ける。
「発電所だ。発電所に行く。これじゃ足りない。もっと電気が必要だ……」
 真琴は御木と顔を見合わせる。
 いくら電灯事業の父と同じ名前だからといって、そこまで電気に執着する事もあるまい、とも思う。
 しかし、彼が電気に執着していたのは、2人の考えを上回る、明確な理由があった。
「電気を付ける。それから病院に行く。レントゲンを使って、中身を見る。
 中身を見るんだ。この不思議な首輪の……」
 御木と真琴は再び顔を見合わせる。
 いや、2人がお互いの首に填められた、滑らかな金属の首輪を見る。

◆◆◆

 このことにより、御木は真琴がカードの何に表情を変えたのかを、改めて問う事が出来なかった。
 オーヴァー
 その姿その素性全てが不明。存在だけがまことしやかに囁かれている謎の暗殺者。
 真琴真奈美は、この男を知っている。
 おそらくは、全ての目撃者を始末することを信条とし、決して痕跡を残さないオーヴァーの、唯一の誤算。
 そして、真琴真奈美がまだ若い人生のほぼ全てを賭けて探していた相手。
 彼女の父の、仇である。
 雲をも掴む様な相手が、今、近くにいる。



【一日目・黎明 C-3とD-3の境界 警察署】

【真琴真奈美】
【状態】健康
【装備】H&KMP5(30/30)
【スキル】不明スキルカード
【所持品】基本支給品 、H&KMP5予備カートリッジ(60/60)
【思考】
1.御木、トーマスと行動を共にし、守る。
2.オーヴァーが居る…?

【御木魚師】
【状態】健康
【装備】特殊手錠、ケブラー防弾ヘルメット
【スキル】『パブリックエネミー』(AM8時以降再使用可)
【所持品】基本支給品
【思考】
1.真琴と行動を共にし、なんとかこの状況から逃れる。

※特殊手錠
 一見ワイヤーのついたごく普通の手錠。
 何か特殊な仕掛けがあるらしいが、御木しか確認していない。

トーマス・A・エジソン
【状態】健康
【装備】
【スキル】不明スキルカード
【所持品】基本支給品 、不明支給品1~2
【思考】
1.発電所で電気を使えるようにする。
2.その後病院へ行って首輪をレントゲンで調べる。


※黎明(深夜2時過ぎ辺り)から旧市街地の街路灯、市長宅、学校、図書館で光が灯り、電気が使えるようになります。

19:魔法少女になりました! 時系列順 17:片手だけつないで
15:生の実感 投下順 17:片手だけつないで
真琴真奈美 22:蛮勇引力
御木魚師 22:蛮勇引力
トーマス・A・エジソン 22:蛮勇引力


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