ナイトシャークはそれなりに時間を要したが、ようやく意識を取り戻した
しかし負傷と疲労は凄まじく、意識を取り戻してもなお視界が霞む。
しかし負傷と疲労は凄まじく、意識を取り戻してもなお視界が霞む。
気を抜けば今にも離れそうな意識を愛奈に対する想いと気合いで繋ぎ止め、ナイトシャークは歩を進める。
ゆっくり、ゆっくりだが着実に1歩ずつ。
ゆっくり、ゆっくりだが着実に1歩ずつ。
この殺し合いに愛奈が巻き込まれてる。愛奈が先程の男のような狂人に襲われる可能性がある。それだけで無茶をしてでも動く理由は十分だ。
だというのに、その足取りはあまりにも覚束無い。
本来ならば休息してから行動するべきはずのダメージを受け、疲労も凄まじいので当然だ。
だからナイトシャークは体を引きずり、東へと進む。
今の自分が向かって何が出来るかわからないが、何もしないよりはマシだ。
本来ならば休息してから行動するべきはずのダメージを受け、疲労も凄まじいので当然だ。
だからナイトシャークは体を引きずり、東へと進む。
今の自分が向かって何が出来るかわからないが、何もしないよりはマシだ。
(愛奈……。私が必ず、貴女を救うから……)
朦朧とする意識の中で思い浮かべるのは友の顔。
なんとしても、もう彼女を穢してはならない。
なんとしても、もう彼女を穢してはならない。
○
閻魔は暫く戦闘後の余韻に浸っていた。
大したダメージはないが、ほんの少しだけ確かに痛みを感じる。
それが自分が負けたという事実を再認識させ、愉悦に浸る。
まさか自分があんな小娘に敗けるとは思わなかった。
たかだか殴り飛ばされただけ。肉体の損傷は全くないし、ダメージも大したことない。
大したダメージはないが、ほんの少しだけ確かに痛みを感じる。
それが自分が負けたという事実を再認識させ、愉悦に浸る。
まさか自分があんな小娘に敗けるとは思わなかった。
たかだか殴り飛ばされただけ。肉体の損傷は全くないし、ダメージも大したことない。
しかし敗北は敗北。
渇いた心が多少は、潤った。
こんな最高の幕開けから始まるとは思わなかった。殺し合いの主催者には感謝してやっても良い。
渇いた心が多少は、潤った。
こんな最高の幕開けから始まるとは思わなかった。殺し合いの主催者には感謝してやっても良い。
あんな小娘が自分を負かしたのだ。
きっとこの殺し合いには自分を負かせるような存在が、何人かいるに違いない。あんな幕開けをされたら、そう期待せざるを得ない。
きっとこの殺し合いには自分を負かせるような存在が、何人かいるに違いない。あんな幕開けをされたら、そう期待せざるを得ない。
特に元から“喧嘩無双”で名が知れていたシエルは自分を楽しませてくれるに違いない。
ひなたが真実を知り、どんな反応をするかも気になる。イカレ具合では閻魔は彼女を高く評価しているからこそ、この殺し合いでも楽しませてくれるだろう。
ひなたが真実を知り、どんな反応をするかも気になる。イカレ具合では閻魔は彼女を高く評価しているからこそ、この殺し合いでも楽しませてくれるだろう。
ぼっちの集いの連中は先程戦った真白以外、それぞれ“罪”を抱えている。そういう奴らは、強くなる余地もあるだろう。
まあ真白のように弱くとも、シエルを怒らせることに使える。
まあ真白のように弱くとも、シエルを怒らせることに使える。
他にも強者や狂人は色々と集められているだろう。
そう考えるだけで嬉しくて、思わず武者震いしてしまう。
もっと楽しませろ。この渇いた心を、愉悦で満たしてみせろ。
そう考えるだけで嬉しくて、思わず武者震いしてしまう。
もっと楽しませろ。この渇いた心を、愉悦で満たしてみせろ。
きっとここならば――今までにないくらい最高に楽しめる。
彼女は自分自身の本来の渇望――「全力で生きることを楽しんで、全力で生きようと足掻いても、虫けらのように理由もなく殺される」ことを自覚していない。潜在意識に眠る、無意識的な渇望を圧倒的な暴で包み隠している。
真白以外がそれぞれの罪を背負うぼっちの集いに裁きを与えようとするのは、その渇望も関係している。
真白以外がそれぞれの罪を背負うぼっちの集いに裁きを与えようとするのは、その渇望も関係している。
“あいつら全員あたしと同じ、クソの掃き溜めの同類なんだよ”
という言葉は彼女達の罪を自分と重ねたからだ。
罪を犯した者は、周りに災厄を齎す者は罰して裁かれるべき。
そんな当たり前の考えが閻魔の潜在意識の根底には眠っている。
罪を犯した者は、周りに災厄を齎す者は罰して裁かれるべき。
そんな当たり前の考えが閻魔の潜在意識の根底には眠っている。
ゆえにぼっちの集いは皆殺しだ。罪には、罰を。
呪いにも似た人生の果てに、閻魔は歪んだ。最も憎いのは、自分だけ生き残るという罪を重ねた挙句に未だ無事な自分自身だ。
呪いにも似た人生の果てに、閻魔は歪んだ。最も憎いのは、自分だけ生き残るという罪を重ねた挙句に未だ無事な自分自身だ。
しかし自殺しても意味がない。
悪は、裁かれるべきだ。それを裁くのは他者でなくてはならない。
悪は、裁かれるべきだ。それを裁くのは他者でなくてはならない。
ゆえに閻魔には先程の戦闘で受けた痛みが愛おしくすら思える。
本人は“自分を負かした小娘と戦えた”からだと思っているが、実際はその痛みが罪に僅かながら罰を与えているようであるからだ。
本人は“自分を負かした小娘と戦えた”からだと思っているが、実際はその痛みが罪に僅かながら罰を与えているようであるからだ。
そして彼女は退屈で渇いた人生を潤わせるために強者を求めてると思い込んでいるが、実際は潜在意識に眠る渇望――「全力で生きることを楽しんで、全力で生きようと足掻いても、虫けらのように理由もなく殺される」ことを満たしたいだけ。
無意識的な願いは。渇望は、彼女を突き動かす。
無意識的な願いは。渇望は、彼女を突き動かす。
そして暫く余韻に浸っていると、派手な戦闘音が聞こえた。これは、期待しても良いだろう。
閻魔は秋月とナイトシャークが戦闘している場所に行き先を決めた
閻魔は秋月とナイトシャークが戦闘している場所に行き先を決めた
○
「よう」
不意に、背後から声を掛けられてナイトシャークが振り向く。
その声の主は、閻魔だ。
彼女が辿り着いた頃には戦闘は終わっていた。
その声の主は、閻魔だ。
彼女が辿り着いた頃には戦闘は終わっていた。
「誰かと思えばナイトシャークじゃねぇか。無様だなぁ、オイ」
閻魔はナイトシャークは認知している。
ぼっちの集いの罪を知ってるように、罪人については事情通だ。
それにナイトシャークはVRCでは有名人。知らないわけがない。
ぼっちの集いの罪を知ってるように、罪人については事情通だ。
それにナイトシャークはVRCでは有名人。知らないわけがない。
「そういう貴方も、すごいアバターね」
閻魔のアバターを見れば、彼女がどんな輩かだいたい察する。
燃え盛る焔の意匠を象った前張り。顔には無数のテープを巻いており、その隙間からは火傷のようなタトゥー。
こんなアバターを好んで使う者は、狂人かチンピラくらいだろう。
どうしてチンピラがVRCなんて平和な場所に足を踏み入れたのかはわからないが……まあロクな相手じゃないことはわかる。
燃え盛る焔の意匠を象った前張り。顔には無数のテープを巻いており、その隙間からは火傷のようなタトゥー。
こんなアバターを好んで使う者は、狂人かチンピラくらいだろう。
どうしてチンピラがVRCなんて平和な場所に足を踏み入れたのかはわからないが……まあロクな相手じゃないことはわかる。
ゆえにナイトシャークは臨戦態勢に入ろうと肉体を動かそうとするが――
「おせぇんだよ!」
先程のダメージと疲労によりその動きは鈍く、それより前に閻魔に蹴り飛ばされる。
「怪盗ナイトシャーク。義賊気取りらしいが、義賊も所詮は怪盗と変わんねぇだろ」
「それは……あっ、ぐ!」
蹴り飛ばされ、無様に倒れ伏したナイトシャークの顔面を踏んづける。
怪盗ナイトシャークには以前から目を付けていた。
義賊だなんて名乗れば己が罪から逃れられると思ってるのなら、大間違いだ。むしろ忌々しくすら感じる。
怪盗ナイトシャークには以前から目を付けていた。
義賊だなんて名乗れば己が罪から逃れられると思ってるのなら、大間違いだ。むしろ忌々しくすら感じる。
ゆえにこうして、罰を与える。
「あっ、ぐっ、あっ、ぁあっ!」
何度も何度も、顔面を踏み潰して。
虫けらを潰すようにナイトシャークを嬲る。
閻魔の潜在意識では、いつか自分もこうして情けなく殺されることを願って――。
虫けらを潰すようにナイトシャークを嬲る。
閻魔の潜在意識では、いつか自分もこうして情けなく殺されることを願って――。
「今まで散々犯してきた罪の罰を受ける気分はどうだ?オラァ!」
ああ――己が犯した罪を裁かれることの、なんと羨ましいことか。
ナイトシャークの歯が何本も折れ、美貌は醜いグロテスクなものへと変わっていく。
それでも――ナイトシャークは意識を手放さない。
こんな危険人物を放って置いたら、愛奈が危ないから。
こんな危険人物を放って置いたら、愛奈が危ないから。
(お願い、愛奈。今だけ力を貸して!――私に出来るだけのありったけを、コイツにぶつける!)
そう願うと――今この状況で。
一方的に嬲られ、声すら出せず。アイテムを持ってない状態でも出来る気がした。
創造武具やスキルは、想いに左右される
一方的に嬲られ、声すら出せず。アイテムを持ってない状態でも出来る気がした。
創造武具やスキルは、想いに左右される
(シャークジラ!)
無数の鮫が、閻魔を取り囲む。
こればかりは流石の閻魔も驚いた
こればかりは流石の閻魔も驚いた
「なんだよ。やれば出来るじゃねぇか」
が――それらは一瞬にして、灰燼となる。
シャークジラは強力だが、閻魔の夜摩判決を前には為す術なく焼き尽くされるしかない。
シャークジラは強力だが、閻魔の夜摩判決を前には為す術なく焼き尽くされるしかない。
希望をあっさりと打ち砕かれ。
焼き尽くされる鮫達を見て――ナイトシャークの瞳から光が消えた
焼き尽くされる鮫達を見て――ナイトシャークの瞳から光が消えた
「褒美だ。お前に極上の罰をくれてやるよ」
そして閻魔はナイトシャークを焼き尽くす。
文字通り、ナイトシャークの身体全体を焼かれる。
文字通り、ナイトシャークの身体全体を焼かれる。
激痛をナイトシャークが襲う。
殺そうと思えば簡単に殺せるが、そうはさせない。
生きるのが嫌になる程に。己が犯した罪を悔いる時間を与えるために、あえて死なない程度の炎で焼き尽くす。
殺そうと思えば簡単に殺せるが、そうはさせない。
生きるのが嫌になる程に。己が犯した罪を悔いる時間を与えるために、あえて死なない程度の炎で焼き尽くす。
「どうした、義賊さんよ。痛すぎて声も出ねぇか?」
絶叫すらあげないナイトシャークを煽るが、ナイトシャークは何も返事をしない。
当然だ。
希望を打ち砕かれ、彼女の瞳から光が消えた時から――彼女は死んだようなものだから。
当然だ。
希望を打ち砕かれ、彼女の瞳から光が消えた時から――彼女は死んだようなものだから。
奇跡は訪れず、逆転劇すらも許されず。
少女の心は、死に向かうのみ。
少女の心は、死に向かうのみ。
「そうかよ。お前の心は、もう死んでるんだな。じゃあこんなことしても仕方ねぇ……身体もさっさと逝けや!」
(ごめんね、愛奈――)
ナイトシャークは最期に親友に詫びながら、希望も肉体も心も――全てを焼き尽くされてこの世を去った
「義賊だかなんだか知らねぇが、罪は罪だ。お前に生きる価値はなかったんだよ」
最後の一言はまるで自分に言い聞かせるように吐き捨てて、閻魔は黒焦げに焼き爛れたナイトシャークの死体へと告げた
たった今殺した相手が自分と激闘を繰り広げた正義の味方の親友と知らぬままに。
たった今殺した相手が自分と激闘を繰り広げた正義の味方の親友と知らぬままに。
【怪盗ナイトシャーク 死亡】
【D-6/一日目/朝】
【閻魔】
[状態]:疲労(中)、右頬の殴打痕(小)、創造武具使用による自傷ダメージ(中)
[装備]:夜摩判決@創造武具
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]基本方針:全力で生きる、生きて楽しむ。
1:シエルに『真実』を叩きつける。
2:あのヒーロー女(フレイヤ)は要警戒。いい意味でイカれてやがる、気に入った。次あったら最初からマジでやらせてもらう。
3:シエル以外の「ぼっちの集い」メンバーはどうでもいい、殺して首でもどっかに飾るか。
4:てめぇも難儀なもんだなぁひなた。会いに行ってやろうか?
※自分の渇望を自覚していません
【閻魔】
[状態]:疲労(中)、右頬の殴打痕(小)、創造武具使用による自傷ダメージ(中)
[装備]:夜摩判決@創造武具
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]基本方針:全力で生きる、生きて楽しむ。
1:シエルに『真実』を叩きつける。
2:あのヒーロー女(フレイヤ)は要警戒。いい意味でイカれてやがる、気に入った。次あったら最初からマジでやらせてもらう。
3:シエル以外の「ぼっちの集い」メンバーはどうでもいい、殺して首でもどっかに飾るか。
4:てめぇも難儀なもんだなぁひなた。会いに行ってやろうか?
※自分の渇望を自覚していません
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037:そして、ひなたは愛に思いを馳せる | 投下順 | 039:MEMORIES OF NOBODY -だから、黒百合は祈りを捧げる- |
037:そして、ひなたは愛に思いを馳せる | 時系列順 | 040:ティアドロップーだからタチバナは雫を垂れ流し、仔猫は密かに決意するー |
前話 | 登場人物 | 次話 |
シャーク・ガールvs怪人ヘッジホッグ | 怪盗ナイトシャーク | GAME OVER |
麻痺 | 閻魔 |