とある廃工場の中。昼にも関わらず全体的に薄暗く、汚れた作業道具や機械の部品があちらこちらに散らばっている。かつてはうるさいくらいに音を響かせながら機械が稼働していたのであろうが、今はそのほとんどが撤去され、残った機械はガラクタとなってすっかり錆びついている。聞こえてくるのは、その工場を住処とする野生動物の鳴き声くらいなもの…のはずなのだが、何故か今日は工場全体に女の声が響き渡っている。
その声の発生源となっている女は、工場の中でも特にがらんとしていて広い部屋、その真ん中にぽつんと立ち、項垂れている。
「何とかやりきった…でもやっぱり地味に疲れたよ。二度目とは言え、人を殺すのってエネルギーいるよね」
女は眼鏡を外し、血の汚れをティッシュで拭いてから再度かけ直す。
「というか、よりにもよって刺殺を選んじゃったのは失敗だったなあ…。服にべったり返り血ついちゃったし、床からすごい匂いするし、最悪だよ」
上着の袖や履いているスカートを撫でて眉尻を下げ、とほほ、と困ったように下の方を見る。
視線の先には、服を血で赤く染めた男が転がっていた。首の辺りが掻き切られていて、そこからあふれ出した血の池が、女の足元まで広がっている。出血量からして確実に死んでいると言っていいだろう。
「一回霊体化したら服の汚れはリセットできるし、場所も移動すればいいだけなんだけど…地味にそんな時間はないよね」
はは、と女は諦めたように力なく笑いながら少しかがみこんで、手の中にある、血に濡れたナイフを血の池の外側に置いた。そしてすぐに立ち上がり、目を閉じて小さく息を吸う。
次の瞬間。彼女の白い右手が赤く輝き、紋章が浮かび上がる。それが何なのかは見る者が見ればわかる。令呪だ。
目を開けた彼女は令呪に加え、いつのまにか手の中に白地のカードがあることを確認し、堪えられなくなったようにふふっと笑いをこぼす。成功だ。そして高らかに声を張り上げる。
「さあ来て! 私のサーヴァント!」
その声に呼応するように、みるみるうちに目の眩むような白い光で、部屋が満たされていく。
そうしてから何秒経っただろうか。光が収まった後にいたのは、その女の他にもう一人。白いスクール水着を着た、スタイル抜群の少女だ。
少女は、しばらく無表情で女を見た後、短く「だれ?」と呟く。
それに対し女は硬直し——目を輝かせて早口でまくしたてる。
「えっ、巨乳スク水美少女とかやばいよ! あざとかわいすぎる! それってあなたの世界だと標準服だったりするのかな? ってあっえともしかして同業者? 同好の士だったりする? だとしたらすごくうれしい! コスプレ趣味の人って地味にいないんだよね! というかその衣装凝ってる! どんな素材なのか触っても…あっごめんオタク特有の早口になっちゃってて!」
女の怒涛の勢いに反し、少女の方は全く表情を崩さない。そしてもう一度「だれ?」と言いわずかに首を傾げる。
流石に女もこれでクールダウンしたらしく、眼鏡の位置を調節し、背筋をぴんと伸ばす。
「えっと…地味にはじめましてだね。私は”超高校級のコスプレイヤー”白銀つむぎ。サーヴァントにしてマスター。大冒険の途中で出てくる氷と炎の半身を併せ持つ岩石生命体的な、相反する二つの属性を持つ、地味に特殊な存在だよ」
『サーヴァントにしてマスター』という言葉が興味を引いたのか、少女はピクリと眉を動かす。だが何も言うことなく白銀の全身を上から下まで見て、尋ねた。
「そのぶつぶつはなに?」
白銀は自分の身体を見下ろす。少女の言うぶつぶつ——蕁麻疹は、手首や太ももなど、見える範囲の肌の至る所で発生していた。顔に手を当ててみてもやはりざらざらしていて、蕁麻疹が顔にも出ていることがわかる。
白銀は「ああやっぱり気になるよね」とため息を漏らす。
「それについては話の順序的に後に話すことにしていいかな。とりあえず先に君の名前も教えてほしいな」
「スイムスイム」
少女——スイムスイムは即答する。
「サーヴァントにしてマスターって?」
ぶつぶつの話は後にすると言われたことを受け、他に気になったことを話題に上げる。
「あはは…マイペースなんだね。もうちょっと自己紹介的なのを期待してたんだけど…まあ私も人のこと言えないか」
白銀はどんよりとした様子で苦笑する。
「私は元々そこにいる彼から、サーヴァントとして召喚されたんだよ」
白銀は転がっている死体を指さす。
「けど彼は聖杯戦争に地味に消極的で…元の世界に帰還しようとしてたんだ。でもわたしは聖杯にどうしても叶えてほしい願いがあったから、すごく困っちゃって…だから一日だけここを観光したいってお願いしたんだ。それで廃工場(ここ)に連れてきて…ぐさりと」
その結果がこれなんだけどね、と白銀は自分の服をぽんぽんと叩く。
「サーヴァントがサーヴァントを召喚できた理由は?」
スイムスイムは死体を一瞥した後、白銀を顔を見つめた。
「それは地味にスキルのおかげなんだよね。わたしの才能は”超高校級のコスプレイヤー”だから変装とか地味に得意なんだけど…それがEXランクの変化スキルに化けたんだよ。そのスキルが特殊で、自分の魂の在り方まで変化させられるものだった。で、これなら聖杯すらも騙せるんじゃないかって思ったんだ。
だからマスターを殺してすぐに、そのスキルでわたしの魂を彼の魂に模倣(コスプレ)して、聖杯の認証を誤魔化した。…彼の魂は既に消滅してるから、必然的にわたしが彼で、令呪の持ち主だということになる。
で、面白いのはここからでね、令呪を手に入れた後、わたしはスキルを解除したんだ。スキルを使っただけで、わたしの魂であることは変わらないから、マスターとしての資格は維持される。そしたら聖杯はさらに勘違いしたんだ。彼(わたし)がまだサーヴァントを召喚していないって。『彼』はサーヴァントを召喚したけど、突如出現したマスター、『白銀つむぎ』はまだサーヴァントを召喚していないって。正直この辺は賭けだったんだけど、ほんと上手くいってよかったよ」
白銀はにやにやしながら、かゆいのか顔をぽりぽりとかく。
「で、この蕁麻疹は変身スキルの副作用だよ。わたし、現実の人間の変装をするのがどうしても無理なんだ。それってコスプレじゃなくてモノマネじゃんって思っちゃうし、コスプレイヤーとしての矜持に反するんだよね…それでもやろうとするとアレルギー反応みたいになって全身に蕁麻疹が出来ちゃうんだ」
スイムスイムは白銀の言葉を聞き流す。彼女の中では、そこはもう重要なポイントでは無かった。
疑問に思ったのだ。果たして本当にそんなことが可能なのか? そんなに都合よく聖杯を騙し、動かせるものなのか? 聖杯システムの穴をつくにしても、そのやり方は強引に過ぎる。だが今は情報不足で、真偽のほどはわからない。ただ、現に白銀はサーヴァントの身で令呪を持っていて、スイムスイムを召喚した。それは確かなことだ。ならばどの道白銀をマスターとして活動する他ない。
ならば問題はむしろ——
「白銀と活動するのはいい。けど条件がある」
「何かな?」
「私がリーダーになること」
えっ、と白銀は素っ頓狂な声をあげる。
「形式上は白銀がマスター。でも作戦立案と指揮は私がやる。主導権は私」
スイムスイムとしてもここは譲れないところなのか、語気を強めて強調する。
「まあ地味なわたしがやるより、そっちの方が絵になると思うし、別にいいけど…リーダーに拘りがあるの?」
白銀からの問いかけに、こくんとうなずく。
「わたしはルーラにならないといけないから」
「ルーラ?」
「お姫様。強くて賢くて頼りになるリーダーで、憧れの対象。皆がそれに近づこうとすることで組織が活性化する。…だからわたしもルーラに、お姫様になろうとした。けど、駄目だった。わたしはルーラのような、偉大なリーダーじゃなかった。ルーラになれなかったから手下を死なせた」
スイムスイムはわずかに目を伏せる。
「でも、ルーラが言ってた。『リーダーになろうという強い意思があれば、それだけで最低限の資質はある』。…一度失敗したけど、まだルーラになれる可能性は残されてる。わたしにはルーラしかない。ルーラになれるならなんでもする。だから」
一呼吸置く。
「聖杯にお願いして、ルーラになる」
相変わらず平坦で抑揚のない声だったが、白銀には確かな覚悟、強い意思が込められているように思えた。
「なるほどね。本当にそのルーラって人が大好きなんだ! わかるよ。わたしも推しキャラになりたくてなりたくてしょうがないから、コスプレしてるところもあるし!」
白銀は胸のあたりでぐっと握りこぶしを作り、共感を示す。
「じゃあさ、これから結構人を殺すことになると思うんだけど…ルーラになるためならやれる?」
まともなサーヴァントならまずNOを突き付けるだろう。少なくともやむを得ない場合に限定するくらいはするはずだ。
だが、スイムスイムはまともではない。
「ルーラが言ってた。『手段を選んでいるうちは2流。一流のリーダーは、どんな手を使ってでも目標を達成する。その後で、周りにそれが正しかったと認めさせればいい』。…殺すことに問題は無い」
スイムスイムは無表情で、無感動に言った。だがこれまで色々な人間を見てきた白銀にはわかる。表面上では感情が無いようにも思えるが、その胸の中には激情が渦巻いていることが。ルーラなる者への強い執着。粘り気のある狂気。そしてお姫様になりたいという願望。そういったものがルーラの言葉の解釈を歪め、スイムスイムに極端な思想を抱かせるようになったのだろう。
「ルーラが言ってた。『リーダーたるもの、手下が何を考えているかを常に把握しておくべき。そうすることで利用しやすくなる』。白銀の願いを教えて」
「いや『利用しやすくなる』まで言ったら駄目でしょ! 魂胆が筒抜けだよ?! もうちょっとルーラの言葉隠した方がいいよ!」
白銀は激しくつっこむ。
「あぁ、このわたしが、ツッコミしかできないなんて…一応わたし、ボケとツッコミを両立できる二刀流だったんだけどなぁ」
明日の方角を向き、たそがれる。
「気を取り直して…えぇっと、わたしの望みだよね? …それは『ダンガンロンパの復活』だよ!」
腰に手を当て、胸を張る。
「ダンガンロンパ?」
スイムスイムの知らない単語が出てきた。
「ダンガンロンパっていうのはね! 閉鎖空間に閉じ込められた、超高校級と呼ばれる才能の持ち主たちが生き残りをかけてコロシアイをするゲームなんだよ! ただ殺し合うだけじゃなくて、殺人が起こった後学級裁判で推理を…」
スイッチが入ったのか、白銀はダンガンロンパについて語りまくる。鼻息を荒くして目を見開き、早口でほとんど息継ぎをすることなくにじり寄ってくる様は、変態さながらである。
「もういい。十分」
マイペースさに定評のあるスイムスイムも、これには耐えかねた。
「あっ、ごめん! オタクって、自分の好きなものに興味を持ってもらえると、つい押しつけがましく説明しちゃうんだよね…気を付けててもついやっちゃうんだよ…」
白銀は頭を抱えて座り込む。
「復活させるというのはどういうこと?」
スイムスイムは白銀の様子に構うことなく尋ねる。
「えっと、それがね。53回目のダンガンロンパは、わたしが参加者に交じって運営してたんだけど…色々やらかしちゃって、結局参加者たちにダンガンロンパというコンテンツそのものを破壊されちゃって…。
恐らく今はもうあの世界にダンガンロンパは存在しない。わたしの生きがいである至高のエンターテインメントは終わってしまった。それは覆せないくらいに決定的だった。
でも、さ。聖杯の力があれば話は別だよね。万能の願望器なら、万難を排してダンガンロンパを再開するくらいたやすいはず。だからお願い。ダンガンロンパを…わたしの希望を復活させるために、協力して。スイムスイムさん」
今までの軽い様子から一転、白銀は真剣な表情でスイムスイムの目を見る。
「ルーラが言ってた。『利用できるものは何でも利用しろ』。目的を達成するのに白銀は利用できそうだから、手を貸す」
スイムスイムのその言葉に、白銀は頬を紅潮させ、涙を浮かべる。
「ありがとう! スイムスイムちゃん! わたしたち、ズッ友だよ!」
血まみれの服で抱き着いてくる、全身蕁麻疹の白銀を、スイムスイムは押しのける。
「ルーラが言ってた。『手下とリーダーの関係はあっても、友達なんていい加減な関係はない』。早く離れて……血生臭いから」
その声の発生源となっている女は、工場の中でも特にがらんとしていて広い部屋、その真ん中にぽつんと立ち、項垂れている。
「何とかやりきった…でもやっぱり地味に疲れたよ。二度目とは言え、人を殺すのってエネルギーいるよね」
女は眼鏡を外し、血の汚れをティッシュで拭いてから再度かけ直す。
「というか、よりにもよって刺殺を選んじゃったのは失敗だったなあ…。服にべったり返り血ついちゃったし、床からすごい匂いするし、最悪だよ」
上着の袖や履いているスカートを撫でて眉尻を下げ、とほほ、と困ったように下の方を見る。
視線の先には、服を血で赤く染めた男が転がっていた。首の辺りが掻き切られていて、そこからあふれ出した血の池が、女の足元まで広がっている。出血量からして確実に死んでいると言っていいだろう。
「一回霊体化したら服の汚れはリセットできるし、場所も移動すればいいだけなんだけど…地味にそんな時間はないよね」
はは、と女は諦めたように力なく笑いながら少しかがみこんで、手の中にある、血に濡れたナイフを血の池の外側に置いた。そしてすぐに立ち上がり、目を閉じて小さく息を吸う。
次の瞬間。彼女の白い右手が赤く輝き、紋章が浮かび上がる。それが何なのかは見る者が見ればわかる。令呪だ。
目を開けた彼女は令呪に加え、いつのまにか手の中に白地のカードがあることを確認し、堪えられなくなったようにふふっと笑いをこぼす。成功だ。そして高らかに声を張り上げる。
「さあ来て! 私のサーヴァント!」
その声に呼応するように、みるみるうちに目の眩むような白い光で、部屋が満たされていく。
そうしてから何秒経っただろうか。光が収まった後にいたのは、その女の他にもう一人。白いスクール水着を着た、スタイル抜群の少女だ。
少女は、しばらく無表情で女を見た後、短く「だれ?」と呟く。
それに対し女は硬直し——目を輝かせて早口でまくしたてる。
「えっ、巨乳スク水美少女とかやばいよ! あざとかわいすぎる! それってあなたの世界だと標準服だったりするのかな? ってあっえともしかして同業者? 同好の士だったりする? だとしたらすごくうれしい! コスプレ趣味の人って地味にいないんだよね! というかその衣装凝ってる! どんな素材なのか触っても…あっごめんオタク特有の早口になっちゃってて!」
女の怒涛の勢いに反し、少女の方は全く表情を崩さない。そしてもう一度「だれ?」と言いわずかに首を傾げる。
流石に女もこれでクールダウンしたらしく、眼鏡の位置を調節し、背筋をぴんと伸ばす。
「えっと…地味にはじめましてだね。私は”超高校級のコスプレイヤー”白銀つむぎ。サーヴァントにしてマスター。大冒険の途中で出てくる氷と炎の半身を併せ持つ岩石生命体的な、相反する二つの属性を持つ、地味に特殊な存在だよ」
『サーヴァントにしてマスター』という言葉が興味を引いたのか、少女はピクリと眉を動かす。だが何も言うことなく白銀の全身を上から下まで見て、尋ねた。
「そのぶつぶつはなに?」
白銀は自分の身体を見下ろす。少女の言うぶつぶつ——蕁麻疹は、手首や太ももなど、見える範囲の肌の至る所で発生していた。顔に手を当ててみてもやはりざらざらしていて、蕁麻疹が顔にも出ていることがわかる。
白銀は「ああやっぱり気になるよね」とため息を漏らす。
「それについては話の順序的に後に話すことにしていいかな。とりあえず先に君の名前も教えてほしいな」
「スイムスイム」
少女——スイムスイムは即答する。
「サーヴァントにしてマスターって?」
ぶつぶつの話は後にすると言われたことを受け、他に気になったことを話題に上げる。
「あはは…マイペースなんだね。もうちょっと自己紹介的なのを期待してたんだけど…まあ私も人のこと言えないか」
白銀はどんよりとした様子で苦笑する。
「私は元々そこにいる彼から、サーヴァントとして召喚されたんだよ」
白銀は転がっている死体を指さす。
「けど彼は聖杯戦争に地味に消極的で…元の世界に帰還しようとしてたんだ。でもわたしは聖杯にどうしても叶えてほしい願いがあったから、すごく困っちゃって…だから一日だけここを観光したいってお願いしたんだ。それで廃工場(ここ)に連れてきて…ぐさりと」
その結果がこれなんだけどね、と白銀は自分の服をぽんぽんと叩く。
「サーヴァントがサーヴァントを召喚できた理由は?」
スイムスイムは死体を一瞥した後、白銀を顔を見つめた。
「それは地味にスキルのおかげなんだよね。わたしの才能は”超高校級のコスプレイヤー”だから変装とか地味に得意なんだけど…それがEXランクの変化スキルに化けたんだよ。そのスキルが特殊で、自分の魂の在り方まで変化させられるものだった。で、これなら聖杯すらも騙せるんじゃないかって思ったんだ。
だからマスターを殺してすぐに、そのスキルでわたしの魂を彼の魂に模倣(コスプレ)して、聖杯の認証を誤魔化した。…彼の魂は既に消滅してるから、必然的にわたしが彼で、令呪の持ち主だということになる。
で、面白いのはここからでね、令呪を手に入れた後、わたしはスキルを解除したんだ。スキルを使っただけで、わたしの魂であることは変わらないから、マスターとしての資格は維持される。そしたら聖杯はさらに勘違いしたんだ。彼(わたし)がまだサーヴァントを召喚していないって。『彼』はサーヴァントを召喚したけど、突如出現したマスター、『白銀つむぎ』はまだサーヴァントを召喚していないって。正直この辺は賭けだったんだけど、ほんと上手くいってよかったよ」
白銀はにやにやしながら、かゆいのか顔をぽりぽりとかく。
「で、この蕁麻疹は変身スキルの副作用だよ。わたし、現実の人間の変装をするのがどうしても無理なんだ。それってコスプレじゃなくてモノマネじゃんって思っちゃうし、コスプレイヤーとしての矜持に反するんだよね…それでもやろうとするとアレルギー反応みたいになって全身に蕁麻疹が出来ちゃうんだ」
スイムスイムは白銀の言葉を聞き流す。彼女の中では、そこはもう重要なポイントでは無かった。
疑問に思ったのだ。果たして本当にそんなことが可能なのか? そんなに都合よく聖杯を騙し、動かせるものなのか? 聖杯システムの穴をつくにしても、そのやり方は強引に過ぎる。だが今は情報不足で、真偽のほどはわからない。ただ、現に白銀はサーヴァントの身で令呪を持っていて、スイムスイムを召喚した。それは確かなことだ。ならばどの道白銀をマスターとして活動する他ない。
ならば問題はむしろ——
「白銀と活動するのはいい。けど条件がある」
「何かな?」
「私がリーダーになること」
えっ、と白銀は素っ頓狂な声をあげる。
「形式上は白銀がマスター。でも作戦立案と指揮は私がやる。主導権は私」
スイムスイムとしてもここは譲れないところなのか、語気を強めて強調する。
「まあ地味なわたしがやるより、そっちの方が絵になると思うし、別にいいけど…リーダーに拘りがあるの?」
白銀からの問いかけに、こくんとうなずく。
「わたしはルーラにならないといけないから」
「ルーラ?」
「お姫様。強くて賢くて頼りになるリーダーで、憧れの対象。皆がそれに近づこうとすることで組織が活性化する。…だからわたしもルーラに、お姫様になろうとした。けど、駄目だった。わたしはルーラのような、偉大なリーダーじゃなかった。ルーラになれなかったから手下を死なせた」
スイムスイムはわずかに目を伏せる。
「でも、ルーラが言ってた。『リーダーになろうという強い意思があれば、それだけで最低限の資質はある』。…一度失敗したけど、まだルーラになれる可能性は残されてる。わたしにはルーラしかない。ルーラになれるならなんでもする。だから」
一呼吸置く。
「聖杯にお願いして、ルーラになる」
相変わらず平坦で抑揚のない声だったが、白銀には確かな覚悟、強い意思が込められているように思えた。
「なるほどね。本当にそのルーラって人が大好きなんだ! わかるよ。わたしも推しキャラになりたくてなりたくてしょうがないから、コスプレしてるところもあるし!」
白銀は胸のあたりでぐっと握りこぶしを作り、共感を示す。
「じゃあさ、これから結構人を殺すことになると思うんだけど…ルーラになるためならやれる?」
まともなサーヴァントならまずNOを突き付けるだろう。少なくともやむを得ない場合に限定するくらいはするはずだ。
だが、スイムスイムはまともではない。
「ルーラが言ってた。『手段を選んでいるうちは2流。一流のリーダーは、どんな手を使ってでも目標を達成する。その後で、周りにそれが正しかったと認めさせればいい』。…殺すことに問題は無い」
スイムスイムは無表情で、無感動に言った。だがこれまで色々な人間を見てきた白銀にはわかる。表面上では感情が無いようにも思えるが、その胸の中には激情が渦巻いていることが。ルーラなる者への強い執着。粘り気のある狂気。そしてお姫様になりたいという願望。そういったものがルーラの言葉の解釈を歪め、スイムスイムに極端な思想を抱かせるようになったのだろう。
「ルーラが言ってた。『リーダーたるもの、手下が何を考えているかを常に把握しておくべき。そうすることで利用しやすくなる』。白銀の願いを教えて」
「いや『利用しやすくなる』まで言ったら駄目でしょ! 魂胆が筒抜けだよ?! もうちょっとルーラの言葉隠した方がいいよ!」
白銀は激しくつっこむ。
「あぁ、このわたしが、ツッコミしかできないなんて…一応わたし、ボケとツッコミを両立できる二刀流だったんだけどなぁ」
明日の方角を向き、たそがれる。
「気を取り直して…えぇっと、わたしの望みだよね? …それは『ダンガンロンパの復活』だよ!」
腰に手を当て、胸を張る。
「ダンガンロンパ?」
スイムスイムの知らない単語が出てきた。
「ダンガンロンパっていうのはね! 閉鎖空間に閉じ込められた、超高校級と呼ばれる才能の持ち主たちが生き残りをかけてコロシアイをするゲームなんだよ! ただ殺し合うだけじゃなくて、殺人が起こった後学級裁判で推理を…」
スイッチが入ったのか、白銀はダンガンロンパについて語りまくる。鼻息を荒くして目を見開き、早口でほとんど息継ぎをすることなくにじり寄ってくる様は、変態さながらである。
「もういい。十分」
マイペースさに定評のあるスイムスイムも、これには耐えかねた。
「あっ、ごめん! オタクって、自分の好きなものに興味を持ってもらえると、つい押しつけがましく説明しちゃうんだよね…気を付けててもついやっちゃうんだよ…」
白銀は頭を抱えて座り込む。
「復活させるというのはどういうこと?」
スイムスイムは白銀の様子に構うことなく尋ねる。
「えっと、それがね。53回目のダンガンロンパは、わたしが参加者に交じって運営してたんだけど…色々やらかしちゃって、結局参加者たちにダンガンロンパというコンテンツそのものを破壊されちゃって…。
恐らく今はもうあの世界にダンガンロンパは存在しない。わたしの生きがいである至高のエンターテインメントは終わってしまった。それは覆せないくらいに決定的だった。
でも、さ。聖杯の力があれば話は別だよね。万能の願望器なら、万難を排してダンガンロンパを再開するくらいたやすいはず。だからお願い。ダンガンロンパを…わたしの希望を復活させるために、協力して。スイムスイムさん」
今までの軽い様子から一転、白銀は真剣な表情でスイムスイムの目を見る。
「ルーラが言ってた。『利用できるものは何でも利用しろ』。目的を達成するのに白銀は利用できそうだから、手を貸す」
スイムスイムのその言葉に、白銀は頬を紅潮させ、涙を浮かべる。
「ありがとう! スイムスイムちゃん! わたしたち、ズッ友だよ!」
血まみれの服で抱き着いてくる、全身蕁麻疹の白銀を、スイムスイムは押しのける。
「ルーラが言ってた。『手下とリーダーの関係はあっても、友達なんていい加減な関係はない』。早く離れて……血生臭いから」
【サーヴァント】
【CLASS】
ランサー
ランサー
【真名】
スイムスイム
スイムスイム
【出典】
魔法少女育成計画
魔法少女育成計画
【性別】
女
女
【ステータス】
筋力D 耐久B 敏捷D 魔力C 幸運C 宝具A
【属性】
混沌・善
混沌・善
【クラス別能力】
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
カリスマ:E
国を統率はできても、兵の士気が極端に下がる。ただし、一軍を率いる将官程度の役職であれば、天賦の才と言えるランクである。
カリスマ:E
国を統率はできても、兵の士気が極端に下がる。ただし、一軍を率いる将官程度の役職であれば、天賦の才と言えるランクである。
心眼(真):C
修行・鍛錬によって培った洞察力。 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
修行・鍛錬によって培った洞察力。 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
【宝具】
透潜万中(スイミング・マジック)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:無し 最大捕捉:無し
自分の体を物質透過出来るようにする能力。発動するとあらゆるモノを泳ぐが如くすり抜けられるようになる。スイムスイムがモノと認識したあらゆる物体を透過でき、地面・壁・置物はもちろん相手の攻撃や防御まで通り抜けられる。ただし光・音・衝撃波は透過不可能。また、透過中は自分のコスチューム以外の物体を携行することができない。
透潜万中(スイミング・マジック)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:無し 最大捕捉:無し
自分の体を物質透過出来るようにする能力。発動するとあらゆるモノを泳ぐが如くすり抜けられるようになる。スイムスイムがモノと認識したあらゆる物体を透過でき、地面・壁・置物はもちろん相手の攻撃や防御まで通り抜けられる。ただし光・音・衝撃波は透過不可能。また、透過中は自分のコスチューム以外の物体を携行することができない。
【人物背景】
本来の姿は小学1年生の7歳と非常に幼い。そのためニンジンが苦手だったり漢字が読めなかったりと年相応な面も見せる。
同じ魔法少女であり所属するチームのリーダーであるルーラの事を、狂信的なほどに崇拝しており、彼女に理想の女性像を抱き「憧れていたお姫様」だと思っている。
そんな中、ある出来事をきっかけに自分が「憧れていたお姫様」になることを目指し始めるのだが、その中で彼女はルーラを殺すことを思いつき、謀殺。所属するチームのリーダーの座に収まった。
リーダーとなってからはルーラのやり方を”自分なりの解釈で”踏襲する。その踏襲ぶりは徹底しており、ルーラの生前の発言を実行するためならば、大事に思っている仲間さえも殺害する。
冷静で高い戦術眼を持っており、殺人に躊躇がない。そのため魔法少女同士の戦いの中で、彼女の率いるチームは多くの魔法少女を殺害できた。しかしその過程で恨みを買い、殺害される。
本来の姿は小学1年生の7歳と非常に幼い。そのためニンジンが苦手だったり漢字が読めなかったりと年相応な面も見せる。
同じ魔法少女であり所属するチームのリーダーであるルーラの事を、狂信的なほどに崇拝しており、彼女に理想の女性像を抱き「憧れていたお姫様」だと思っている。
そんな中、ある出来事をきっかけに自分が「憧れていたお姫様」になることを目指し始めるのだが、その中で彼女はルーラを殺すことを思いつき、謀殺。所属するチームのリーダーの座に収まった。
リーダーとなってからはルーラのやり方を”自分なりの解釈で”踏襲する。その踏襲ぶりは徹底しており、ルーラの生前の発言を実行するためならば、大事に思っている仲間さえも殺害する。
冷静で高い戦術眼を持っており、殺人に躊躇がない。そのため魔法少女同士の戦いの中で、彼女の率いるチームは多くの魔法少女を殺害できた。しかしその過程で恨みを買い、殺害される。
【サーヴァントとしての願い】
ルーラと同等かそれ以上のリーダーになる。
ルーラと同等かそれ以上のリーダーになる。
【方針】
聖杯のためなら、残虐なこともする。
生前のルーラの言葉には絶対に従う。いかなる場合でも例外は無い。
聖杯のためなら、残虐なこともする。
生前のルーラの言葉には絶対に従う。いかなる場合でも例外は無い。
【マスター】
白銀つむぎ
白銀つむぎ
【出典】
ニューダンガンロンパV3
ニューダンガンロンパV3
【性別】
女
女
【能力・技能】
マスターでありながら、同時にサーヴァントでもある。
以下、サーヴァントとしてのステータス等を記述する。
マスターでありながら、同時にサーヴァントでもある。
以下、サーヴァントとしてのステータス等を記述する。
【CLASS】
キャスター
キャスター
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運B 宝具EX
【属性】
混沌・悪
混沌・悪
【クラス別能力】
陣地作成:EX
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。膨大な魔力があれば、『才囚学園』を形成することが可能。
道具作成:B
魔術的な道具の中でも、変装に関わるもののみを作成できる。
陣地作成:EX
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。膨大な魔力があれば、『才囚学園』を形成することが可能。
道具作成:B
魔術的な道具の中でも、変装に関わるもののみを作成できる。
【保有スキル】
変化:EX
任意の対象に完全に変身することができる。変身の精度は極めて高く、魂の在り方など、存在の本質的なレベルで模倣することが可能。真名看破や魂喰いにおいても偽装は有効であり、聖杯すらも騙せる。ただしパラメーターは変わらない。
変化:EX
任意の対象に完全に変身することができる。変身の精度は極めて高く、魂の在り方など、存在の本質的なレベルで模倣することが可能。真名看破や魂喰いにおいても偽装は有効であり、聖杯すらも騙せる。ただしパラメーターは変わらない。
【宝具】
才囚学園
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:10~100 最大捕捉:1000人
外界とは隔絶された学園を生成する。学園の中では、モノクマやエグイサルなどの兵器が多数配備されている。
才囚学園
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:10~100 最大捕捉:1000人
外界とは隔絶された学園を生成する。学園の中では、モノクマやエグイサルなどの兵器が多数配備されている。
模倣犯(コスプレイヤー)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
自己または他者に、全く別の人格・記憶・才能を任意に与える。この宝具を発動させるには、相手を無力化する必要がある。
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
自己または他者に、全く別の人格・記憶・才能を任意に与える。この宝具を発動させるには、相手を無力化する必要がある。
【weapon】
無し。
無し。
【人物背景】
漫画やゲーム、アニメのフィクションキャラクターの、高い再現性をもつコスプレをする《超高校級のコスプレイヤー》。
本人は自分が「地味」であることに一種のコンプレックスを抱いているらしく、自身の才能や趣味を「地味」と前置きしてから主張していた。普段でも「地味に~」が口癖となっている。
フィクションキャラクターなら男でも女でもほぼ完璧になりきることができるが、「リアルの変装」に対しては嫌悪感を抱き、「リアルの人間」のコスプレをするとアレルギーが出てしまう体質。
実はコロシアイ学園生活の首謀者であり、コロシアイの様子をエンターテイメントとして世界中に配信していた。
しかし最終的に主人公たちの策により視聴者たちがコロシアイへの興味を失い、興行としてのダンガンロンパは崩壊することになった。
白銀はそのことに深く失望し、失意の中瓦礫に押しつぶされて死んだ。
漫画やゲーム、アニメのフィクションキャラクターの、高い再現性をもつコスプレをする《超高校級のコスプレイヤー》。
本人は自分が「地味」であることに一種のコンプレックスを抱いているらしく、自身の才能や趣味を「地味」と前置きしてから主張していた。普段でも「地味に~」が口癖となっている。
フィクションキャラクターなら男でも女でもほぼ完璧になりきることができるが、「リアルの変装」に対しては嫌悪感を抱き、「リアルの人間」のコスプレをするとアレルギーが出てしまう体質。
実はコロシアイ学園生活の首謀者であり、コロシアイの様子をエンターテイメントとして世界中に配信していた。
しかし最終的に主人公たちの策により視聴者たちがコロシアイへの興味を失い、興行としてのダンガンロンパは崩壊することになった。
白銀はそのことに深く失望し、失意の中瓦礫に押しつぶされて死んだ。
【マスターとしての願い】
ダンガンロンパの復活。
ダンガンロンパの復活。
【方針】
聖杯の獲得を目指す。
残虐な行為を厭わない。
聖杯の獲得を目指す。
残虐な行為を厭わない。
【ロール】
高校生
高校生
【令呪の形・位置】
右手にある。
右手にある。
【把握媒体】
ゲーム
ゲーム
【備考】
白銀はランサーの召喚に成功した後、自分の端末と腕輪を取得している。他のマスターと同様にその機能を用いることができる。
サーヴァントとしての白銀の依り代は自分自身である。
白銀はランサーの召喚に成功した後、自分の端末と腕輪を取得している。他のマスターと同様にその機能を用いることができる。
サーヴァントとしての白銀の依り代は自分自身である。