淑女のフォークリフトVS仮面ライダー……観客:怪奇蛇男 ◆4EDMfWv86Q
深緑の森を白い悪鬼が駆け走る。
目に見える程の憎悪を放ちながら走る姿はまさしく鬼。
オルフェノクの強化装甲服。ライダーズギア一号機。その名はデルタ。
全身を覆う光子(フォトン)、脳を狂わせる装置(デモン)は定めた標的を追い狙う。
間桐桜という女の中に燻っていた情念は力という名の火種を喰らい、燃え盛る狂気が肉体を蹂躙している。
種を取り除かない限りはいくら火を消そうとも再燃は止まらない。
そして種は、悪魔の魅了をもって自らを手に取る獲物を離さない。
故にこの火は永久機関。くべられた薪が灰になるまで燃え続ける。
目に見える程の憎悪を放ちながら走る姿はまさしく鬼。
オルフェノクの強化装甲服。ライダーズギア一号機。その名はデルタ。
全身を覆う光子(フォトン)、脳を狂わせる装置(デモン)は定めた標的を追い狙う。
間桐桜という女の中に燻っていた情念は力という名の火種を喰らい、燃え盛る狂気が肉体を蹂躙している。
種を取り除かない限りはいくら火を消そうとも再燃は止まらない。
そして種は、悪魔の魅了をもって自らを手に取る獲物を離さない。
故にこの火は永久機関。くべられた薪が灰になるまで燃え続ける。
「ふぁいあ!」
≪burst mode≫
≪burst mode≫
火を噴く銃口。右の腰に付けられたデルタムーバーからオルフェノクを焼き尽くす光が放たれる。
狙う先は青と金に彩られた令嬢。
はじめて見る筈なのに、その顔には忌々しい既視感がつきまとう。
ついさっき、目の前で死んでいた姉の姿を幻視する。忘れかけていた、深い喪失の念を想起してしまう。
駄目だ。思い出すな。捨てろ。記憶野から消し去れ。
胸に懐く憧憬と、胸を焼く嫉妬がせめぎあい、一刻も早い抹消を望み引き金を何度も引く。
携帯銃には望めない高威力。オルフェノクが支配する大企業スマートブレインの技術力を遺憾無く発揮される。
青白い閃光は地面を、草木を、樹木を穿ち焼き撃ち抜いていく。
反して、その成果は期待に沿うことはなかった。白光は青い背中に届くことなく逃走を許し続ける。
狙う先は青と金に彩られた令嬢。
はじめて見る筈なのに、その顔には忌々しい既視感がつきまとう。
ついさっき、目の前で死んでいた姉の姿を幻視する。忘れかけていた、深い喪失の念を想起してしまう。
駄目だ。思い出すな。捨てろ。記憶野から消し去れ。
胸に懐く憧憬と、胸を焼く嫉妬がせめぎあい、一刻も早い抹消を望み引き金を何度も引く。
携帯銃には望めない高威力。オルフェノクが支配する大企業スマートブレインの技術力を遺憾無く発揮される。
青白い閃光は地面を、草木を、樹木を穿ち焼き撃ち抜いていく。
反して、その成果は期待に沿うことはなかった。白光は青い背中に届くことなく逃走を許し続ける。
ルヴィアが逃走に東、森林地帯を選んだのには幾つかの理由がある。
ひとつは今追う怪物を、あの場に留まっていた他の者から引き離すため。
いずれも初対面の相手。格別礼を払う必要もないがあのまま暴れられても混乱を招くしかない。
もうひとつは、地の利を存分に活かすため。
生い茂る木々の群れは身を守る盾であり追う足を阻む障害物である。
身を掠め、通り過ぎた木が砕けることはあっても、敵の銃光は決して直撃することはない。
森の中、常に遠ざかる相手を狙い撃つなど熟練者にも至難の業だ。
そしてその点、ルヴィアは追撃者の欠点にも合点がいった。威圧と異常性に隠れているが、付け入る隙は多い。
戦術考察を隅に固めつつ、魔力を回した足を止まらず動かす。
今はまだ逃げに徹するべきだ。この屈辱を倍にして利子をつけて返すためには我慢の時だ。
ひとつは今追う怪物を、あの場に留まっていた他の者から引き離すため。
いずれも初対面の相手。格別礼を払う必要もないがあのまま暴れられても混乱を招くしかない。
もうひとつは、地の利を存分に活かすため。
生い茂る木々の群れは身を守る盾であり追う足を阻む障害物である。
身を掠め、通り過ぎた木が砕けることはあっても、敵の銃光は決して直撃することはない。
森の中、常に遠ざかる相手を狙い撃つなど熟練者にも至難の業だ。
そしてその点、ルヴィアは追撃者の欠点にも合点がいった。威圧と異常性に隠れているが、付け入る隙は多い。
戦術考察を隅に固めつつ、魔力を回した足を止まらず動かす。
今はまだ逃げに徹するべきだ。この屈辱を倍にして利子をつけて返すためには我慢の時だ。
「で、いったいあれは何ですの!?知ってることがあったら包み隠さず吐きなさい!!」
「えーとだな、要するにオルフェノクがあのベルトを使うと変身できんだ!俺様あんなベルト見たことねえけどな!」
「えーとだな、要するにオルフェノクがあのベルトを使うと変身できんだ!俺様あんなベルト見たことねえけどな!」
最後の理由は、蛇の意向を持つ灰色の同行者から話を聞き出すためだ。
オルフェノク態の海堂はルヴィアと同じ方向で逃走を図っている。
速力では海堂が勝っているが身のこなしでは劣っているため並走している状態だ。彼もまた直撃を受けてはいない。
追う側―――如何なる因果かルヴィアに執着している―――にすれば標的が増えるだけでも狙いに苦労することだろう。
オルフェノク態の海堂はルヴィアと同じ方向で逃走を図っている。
速力では海堂が勝っているが身のこなしでは劣っているため並走している状態だ。彼もまた直撃を受けてはいない。
追う側―――如何なる因果かルヴィアに執着している―――にすれば標的が増えるだけでも狙いに苦労することだろう。
「つまり、あの女はオルフェノクだということですの!?」
「たぶんそう―――あーでも人間でも変身できるやつがたまにいるからな……」
「どっちなのかハッキリさせなさい!!優柔不断な男ですわね……!」
「たぶんそう―――あーでも人間でも変身できるやつがたまにいるからな……」
「どっちなのかハッキリさせなさい!!優柔不断な男ですわね……!」
悪態をつきながらもルヴィアは、温室育ちを窺わせる立ち居振る舞いからは想像できない走力と持久力で走り続ける。
露になる二の腕やロングスカートから伸びる腿は、美しさと力強さがミックスされた、草原を走るカモシカを思わせる。
それでも、オルフェノクである海堂よりもスタミナが下だろう。
敵が諦める様子はない。追いすがる速度も、全身から漏れる悪意も減衰していない。
海堂はともかくとして、ルヴィアは追いつかれてしまう危険性は捨てきれない。そもそも敵の狙いはそちらにあるのだ。
露になる二の腕やロングスカートから伸びる腿は、美しさと力強さがミックスされた、草原を走るカモシカを思わせる。
それでも、オルフェノクである海堂よりもスタミナが下だろう。
敵が諦める様子はない。追いすがる速度も、全身から漏れる悪意も減衰していない。
海堂はともかくとして、ルヴィアは追いつかれてしまう危険性は捨てきれない。そもそも敵の狙いはそちらにあるのだ。
(ちゅーか、なんで俺こっちについてきてんだ……?)
今更に海堂は自問する。なぜ自分はこの女の後を追ってしまったのか。
海堂は好んで厄介事に首を突っ込むタイプではない。逃げるにしてもわざわざ危険になる方角へ向かうことはなかった。
理由は……正直言って、あまり考えていない。あの時はほとんど反射的に動いていたのだ。
そうなると、ルヴィアの呼び声に素直に従ったと解釈できてしまうので海堂的には面白くない。
護衛を務めると申し出た身とはいえ、命を張るだけの義務というものでもない。
海堂は好んで厄介事に首を突っ込むタイプではない。逃げるにしてもわざわざ危険になる方角へ向かうことはなかった。
理由は……正直言って、あまり考えていない。あの時はほとんど反射的に動いていたのだ。
そうなると、ルヴィアの呼び声に素直に従ったと解釈できてしまうので海堂的には面白くない。
護衛を務めると申し出た身とはいえ、命を張るだけの義務というものでもない。
だから、理由なんてきっと単純。
一人で追い詰められたこの女が死ぬことを見過ごすことが、人間を見捨てるという行為が許容できなかっただけ。
海堂直也は、理屈や理由で動くにはお人好し過ぎる男だった。
一人で追い詰められたこの女が死ぬことを見過ごすことが、人間を見捨てるという行為が許容できなかっただけ。
海堂直也は、理屈や理由で動くにはお人好し過ぎる男だった。
「…しゃーねえな。こうなりゃ俺様の華麗な戦いを見せるっきゃねえな……!」
「なにをブツブツと……アレについて知ってるのなら早く何とか……!?」
「なにをブツブツと……アレについて知ってるのなら早く何とか……!?」
「ちぇっく!」
≪exceed charge≫
≪exceed charge≫
処刑宣言の電子音と共に出現する銀の三角錐。
ルヴィア達を縫い留めるように向かってくるそれは、死神の鎌ならぬ神託の槍だ。
ルヴィア達を縫い留めるように向かってくるそれは、死神の鎌ならぬ神託の槍だ。
「危ねえ!!」
「な……ッ!」
「な……ッ!」
どのライダーギアも持つ必殺技の準備段階。その威力を知る海堂は焦りを覚える。
オルフェノクすら灰燼に帰す破壊力。人間に向けるものでは断じてない。
咄嗟に腕力で思い切り、横にいたルヴィアを突き飛ばした。その結果起きる自分の身を考える間もなく。
オルフェノクすら灰燼に帰す破壊力。人間に向けるものでは断じてない。
咄嗟に腕力で思い切り、横にいたルヴィアを突き飛ばした。その結果起きる自分の身を考える間もなく。
「あ、やっべ……っ!!」
槍に貫かれ磔になる白い身体。ダメージはないが海堂の気は休まることはない。
『これ』はそういう仕組みなのだ。発射したエネルギーで相手を拘束し、その隙に必殺の一撃を叩き込む。
一度縛られた拘束を破るのは上級のオルフェノクでも困難だ。
その点、身体の中心に打ち込まれた海堂は致命的だ。オリジナルでない、使途再生で進化した体では耐え切れない。
こうなれば、自身の最期を焼き付ける他にない。
『これ』はそういう仕組みなのだ。発射したエネルギーで相手を拘束し、その隙に必殺の一撃を叩き込む。
一度縛られた拘束を破るのは上級のオルフェノクでも困難だ。
その点、身体の中心に打ち込まれた海堂は致命的だ。オリジナルでない、使途再生で進化した体では耐え切れない。
こうなれば、自身の最期を焼き付ける他にない。
「あ、外れちゃいましたか。まあいいですよね。順番がひとつ繰り上がっただけです」
そして、近づく白い処刑者。
海堂の知る形ではないがその姿は紛れもない、ライダーズギアを纏ったもの。
仮面に隠れた瞳は、海堂を見ているようで見ていない。
幼い少女の声から感ずるのは歓喜と愉悦の念であり、それを向ける対象のことは問題ではない。
蟲を指で押し潰すような、絶対的な力の差を味わいたいだけでしかない。蟲か蛇かなど、余りにも瑣末な要素。
補足を終えた銃を律儀に腰に付け直し、空へ発つために腰を沈める。
海堂の知る形ではないがその姿は紛れもない、ライダーズギアを纏ったもの。
仮面に隠れた瞳は、海堂を見ているようで見ていない。
幼い少女の声から感ずるのは歓喜と愉悦の念であり、それを向ける対象のことは問題ではない。
蟲を指で押し潰すような、絶対的な力の差を味わいたいだけでしかない。蟲か蛇かなど、余りにも瑣末な要素。
補足を終えた銃を律儀に腰に付け直し、空へ発つために腰を沈める。
「これだけじゃ死なないかもしれないですけど、頑張ってくださいね。
さっきの女の白鳥さんみたいに、たくさん痛がってください」
「な……に?」
さっきの女の白鳥さんみたいに、たくさん痛がってください」
「な……に?」
必死に戒めを外そうともがき、デルタの言葉など聞く耳を持たなかった海堂が、そこで止まる。
『この世界の彼』において、決して聞き逃せない言葉があったからだ。
『この世界の彼』において、決して聞き逃せない言葉があったからだ。
「―――おめえ、まさか結花を……!?」
この会場にいるプレイヤーとやらにどれだけオルフェノクにいるかを判別する手段などはない。
オルフェノクになっても人間であった過去はあり、大抵はその名のままで生活しているからだ。
だが、女性で、なおかつ鳥の意向を持つオルフェノクが2人以上ここに会することなど、そうそうあるものではない。
ただでさえ死ねない理由が、さらに強固になる。
だが、どれだけ足掻こうが捕らわれた蛇身は動かない。
無情にも、未練も悔恨も嘲笑う堕天使の鉄槌が降り下ろされる。
オルフェノクになっても人間であった過去はあり、大抵はその名のままで生活しているからだ。
だが、女性で、なおかつ鳥の意向を持つオルフェノクが2人以上ここに会することなど、そうそうあるものではない。
ただでさえ死ねない理由が、さらに強固になる。
だが、どれだけ足掻こうが捕らわれた蛇身は動かない。
無情にも、未練も悔恨も嘲笑う堕天使の鉄槌が降り下ろされる。
その刹那。
飛び蹴りの態勢に入った戦士の横ばいから、無数の礫が弾け飛んだ。
飛び蹴りの態勢に入った戦士の横ばいから、無数の礫が弾け飛んだ。
「……ッ!」
いかに強固な装甲でも、人の形をなす以上必ず隙は生じる。
中空へ飛んだ瞬間での奇襲は体のバランスを失わせ、デルタの必殺技、ルシファーズハンマーを不発に終わらせた。
中空へ飛んだ瞬間での奇襲は体のバランスを失わせ、デルタの必殺技、ルシファーズハンマーを不発に終わらせた。
「まだ……邪魔をするんですね……」
倒れ込んだ姿勢からゆっくりと立ち上がる桜。声に篭った怒気は海堂に向けた比ではない。
どす黒い灼熱の泥の情念を眼前の淑女へと注ぐ。
どす黒い灼熱の泥の情念を眼前の淑女へと注ぐ。
桜を撃墜せしめたルヴィアの周辺に重火器の類は置いてない。
代わりに差し出された、両の人差し指が機関砲の役目を果たすとばかりに伸びている。
それは遊戯の真似などではなく、指先から銃弾が撃たれた北欧の呪い、ガンドの一工程(シングルアクション)だ。
エーデルフェルト家稀代の魔術回路から生じた濃密な魔力は、通常の効果である体調不良のみならず物理的な破壊力も有している。
それを高速、多量に放射できる白い指は短機関銃(サブマシンガン)のそれと変わりない威力だ。
代わりに差し出された、両の人差し指が機関砲の役目を果たすとばかりに伸びている。
それは遊戯の真似などではなく、指先から銃弾が撃たれた北欧の呪い、ガンドの一工程(シングルアクション)だ。
エーデルフェルト家稀代の魔術回路から生じた濃密な魔力は、通常の効果である体調不良のみならず物理的な破壊力も有している。
それを高速、多量に放射できる白い指は短機関銃(サブマシンガン)のそれと変わりない威力だ。
「ほんとうに……邪魔ばかりするんだから……あなたは」
その威力も、デルタの前には豆鉄砲も同然だ。デルタのボディは態勢を崩されただけで重大なダメージは全く感じさせない。
むしろ魔術師としての腕の器量を見せつけられたことが、火に余計な油を注いだ真似となっている。
沸点を超えて蒸発した悪意が周囲に充満していく。常人なら息を詰まらせる密度の瘴気を溢れさす。
むしろ魔術師としての腕の器量を見せつけられたことが、火に余計な油を注いだ真似となっている。
沸点を超えて蒸発した悪意が周囲に充満していく。常人なら息を詰まらせる密度の瘴気を溢れさす。
「おいおまえ!結花に会ったのか!?あいつに何しやがった!!」
女二人を中心に形成されかけていた雰囲気に割り込みをかけるのは、ポインターが消え自由の身となった海堂。
彼とて空気を読めないわけでもないが、さりとて事を静観するわけにもいかなかった。
長田結花。『この』海堂にとっては秘めたる想いを向ける相手。
その彼女が危難に見舞われたのを知って黙っていられる程気が長くはない。
彼とて空気を読めないわけでもないが、さりとて事を静観するわけにもいかなかった。
長田結花。『この』海堂にとっては秘めたる想いを向ける相手。
その彼女が危難に見舞われたのを知って黙っていられる程気が長くはない。
「うるさいですね、すこし黙っていてくれませんか?踏み潰しますよ」
「いいから答えろや!結花を……あいつをどうしやがったんだ!!」
「いいから答えろや!結花を……あいつをどうしやがったんだ!!」
これまでにない剣幕で叫ぶ海堂にルヴィアも桜も表情を変える。
それだけで、結花という人物がこの男にとってどれだけ重大なファクターなのかが見て取れた。
まるで愛する者に向けるような叫びになにか苛立ち、桜は鬱陶しげに吐き捨てる。
それだけで、結花という人物がこの男にとってどれだけ重大なファクターなのかが見て取れた。
まるで愛する者に向けるような叫びになにか苛立ち、桜は鬱陶しげに吐き捨てる。
「さあ……名前は聞いてませんからその人かどうかは分かりませんけど。
ちょっと痛めつけてあげたら素直に言うことを聞いてくれましたよ。悪い奴らを殺せってね」
ちょっと痛めつけてあげたら素直に言うことを聞いてくれましたよ。悪い奴らを殺せってね」
肩を震わせる。さも可笑しそうに。愉しそうに。
我慢ならずに飛び出そうとする海堂。それを前に出た白い手が阻む。
我慢ならずに飛び出そうとする海堂。それを前に出た白い手が阻む。
「貴方は引っ込んでいなさい。そんな頭に血が上っていては先程の二の舞ですわよ」
「邪魔すんな!あいつには言いたいことと聞きたいことが山ほどな……!」
「ええ、その点についてはワタクシも同感です。なにやらあちらから謂れのない因縁をふっかけられてるようですので。
ですから、ここはワタクシに任せなさいと言ったのです」
「邪魔すんな!あいつには言いたいことと聞きたいことが山ほどな……!」
「ええ、その点についてはワタクシも同感です。なにやらあちらから謂れのない因縁をふっかけられてるようですので。
ですから、ここはワタクシに任せなさいと言ったのです」
正義だの悪だのといった二元論には到底適さない敵意と憎悪。理由を問い質したいのはルヴィアも同じだ。
どの道一度立ち止まって追いつかれてしまった以上、態勢を立て直すための切欠が必要だ。
銃口に晒される危険を承知の上で、暗き仮面に対峙する。
どの道一度立ち止まって追いつかれてしまった以上、態勢を立て直すための切欠が必要だ。
銃口に晒される危険を承知の上で、暗き仮面に対峙する。
「あら、逃げないんですか?さっきみたいに」
「戦略的撤退とおっしゃいなさい。程度も知れましたので、手袋を受け取る猶予くらいは差し上げたいと思いましてね」
「戦略的撤退とおっしゃいなさい。程度も知れましたので、手袋を受け取る猶予くらいは差し上げたいと思いましてね」
適度な挑発を挟み主導権を握る。こちらが優位なのだと錯覚させるために。
「………………」
無言で立ち尽くすデルタ。
怒りに満ちているのか笑みを浮かべているのか、覆われた仮面の下の表情は窺えない。
ややあって沈黙を破り右の腰のグリップを掴む。
銃のホルダー部分のみを分割すると体表を走るラインが輝き、鎧が解除された。
怒りに満ちているのか笑みを浮かべているのか、覆われた仮面の下の表情は窺えない。
ややあって沈黙を破り右の腰のグリップを掴む。
銃のホルダー部分のみを分割すると体表を走るラインが輝き、鎧が解除された。
「……?」
それは余裕の表れなのか、あるいは自身の顔を直接見せることに意義があるのか。
変身を解除し、改めて少女の姿がルヴィア達の前に現れる。
変身を解除し、改めて少女の姿がルヴィア達の前に現れる。
瑞々しい紫の髪は肩まで伸ばし、左の房は赤いリボンで結ってある。
年の頃はルヴィアよりも下だが、既に女性的な体つきは成熟しており、多感な思春期の男子の目を奪うだけの色香を漂わせている。
元の伏目がちな憂いを秘めた表情は見る影もなくなった邪悪な笑みに変わり、逆に女としての魅力を上げている。
さながら蛇か、誘蛾を絡ませる網を張って蠱惑する女郎蜘蛛だ。
年の頃はルヴィアよりも下だが、既に女性的な体つきは成熟しており、多感な思春期の男子の目を奪うだけの色香を漂わせている。
元の伏目がちな憂いを秘めた表情は見る影もなくなった邪悪な笑みに変わり、逆に女としての魅力を上げている。
さながら蛇か、誘蛾を絡ませる網を張って蠱惑する女郎蜘蛛だ。
「おや、顔を見せて話すだけの殊勝さは持っているようですわね」
「ええ、なんだかこのままじゃ気が済まなかったので。着心地はいいんですけどね」
「ええ、なんだかこのままじゃ気が済まなかったので。着心地はいいんですけどね」
胸の前で腕を組むルヴィアと、外したホルスターを弄ぶ桜。
声はあからさまな刺が立ち、今にも突き刺さるだけの千の茨となって両者を包んでいる。
声はあからさまな刺が立ち、今にも突き刺さるだけの千の茨となって両者を包んでいる。
「……妙ですわね。どうも貴女の顔には見覚えがあるような気がしますわ。
視界の外でたまたま網膜に移った程度の無駄な情報ですけど」
「……奇遇ですね。私も知っている人に貴女とよく似た人がいるんですよ。
―――とっても嫌いな人と」
視界の外でたまたま網膜に移った程度の無駄な情報ですけど」
「……奇遇ですね。私も知っている人に貴女とよく似た人がいるんですよ。
―――とっても嫌いな人と」
舌戦はもはや、鞘当てを省略した真剣での鍔迫り合いに入っていた。
まず間違いなく、二人の視線の間には稲妻が飛び散っていることだろう。
まず間違いなく、二人の視線の間には稲妻が飛び散っていることだろう。
「まさか、他人のそら似などという理由だけでワタクシに喧嘩を売ったわけですの?」
「ええそうです。それに貴女、顔だけじゃなく中身までそっくりなんですよ。あの人のことはよく知ってるから分かります。
だから、悪い人なんです。貴女」
「ええそうです。それに貴女、顔だけじゃなく中身までそっくりなんですよ。あの人のことはよく知ってるから分かります。
だから、悪い人なんです。貴女」
とんでもない暴論だ。これにはルヴィアも辟易した。
理屈が飛躍している。過程が破綻している。
噛み合わない筈の歯車を、それでも無理やりに押し込んで動かした齟齬と軋轢がある。
海堂に対してと同様に、桜はルヴィアを見ていない。
ここにいない、偶々似通っているらしき女の幻影を勝手に重ね見ているのみだ。
そんなのは、妄想の独り言と相違がない。
理屈が飛躍している。過程が破綻している。
噛み合わない筈の歯車を、それでも無理やりに押し込んで動かした齟齬と軋轢がある。
海堂に対してと同様に、桜はルヴィアを見ていない。
ここにいない、偶々似通っているらしき女の幻影を勝手に重ね見ているのみだ。
そんなのは、妄想の独り言と相違がない。
「貴女みたいな悪い人は、必ず先輩の邪魔をする。姉さんみたいに悲しませて、傷つかせる。私から、何もかも奪う。
そんな人、いていい筈がないんだから」
「………………」
そんな人、いていい筈がないんだから」
「………………」
ルヴィアの脳内で渦巻いていた疑問が氷解する。
どうやらこうして殺して回ってるのは言葉の節々に出てくる『先輩』とやらのためらしい。
それだけなら、いい。愛する者のために鬼女と化す。愚かと嗤いこそするが理解できなくもない。
しかし、この女は今、その理論すら捨てている。
『姉』という存在に鬱屈した感情を抱え、報復に出ようとしている。
しかしその対象が見つからないから、特徴が似ている自分にぶつけようとしている。
正義の執行とも愛故の暴走とも関係がない。ただの私情の八つ当たりだ。
どうやらこうして殺して回ってるのは言葉の節々に出てくる『先輩』とやらのためらしい。
それだけなら、いい。愛する者のために鬼女と化す。愚かと嗤いこそするが理解できなくもない。
しかし、この女は今、その理論すら捨てている。
『姉』という存在に鬱屈した感情を抱え、報復に出ようとしている。
しかしその対象が見つからないから、特徴が似ている自分にぶつけようとしている。
正義の執行とも愛故の暴走とも関係がない。ただの私情の八つ当たりだ。
そう理解したら、余白の出来た理性にふつふつと怒りが溜まってきた。
どうして、初対面の相手にここまで絡まれなくてはならないのだろうか。
要するにストレスの捌け口にされているのだ。通りすがりに耳が弟に似ていると難癖をつけて当り散らしているようなものだ。
甚だ迷惑千万であり、不愉快極まりない。
どうして、初対面の相手にここまで絡まれなくてはならないのだろうか。
要するにストレスの捌け口にされているのだ。通りすがりに耳が弟に似ていると難癖をつけて当り散らしているようなものだ。
甚だ迷惑千万であり、不愉快極まりない。
「つまりは単なる憂さ晴らしですか……全くもって品性に欠けていますわね。これで魔術師だというのだから頭が痛くなりますわ。
ミス・トオサカに輪をかけた、いえ、それ以下の野蛮人ですわね」
ミス・トオサカに輪をかけた、いえ、それ以下の野蛮人ですわね」
銀の装甲服の威圧に隠れていたが、生身の今ならば感じる魔力からこの少女もまた魔術師であると判断する。
それが尚更ルヴィアの琴線を激しく揺さぶってくる。
それが尚更ルヴィアの琴線を激しく揺さぶってくる。
魔術とは禁忌。常世より隠匿され行われるべき神秘の業だ。
それを用いる魔術師とは、より深く、より高みに昇るために魔術を研究する者だ。
その過程で渦巻く狂気と妄執は、今も夥しい血を流している。
ルヴィアもそちらに身を置く側だ。片足どころか、生まれた頃より魔術の世界に両足に突っ込んでいる。
そこに忌避はない。むしろ誇りを持って邁進している。
エーデルフェルト家の頭首として神秘を継ぎ、より研鑽を積み重ね、やがてその成果を次代に引き継がせるだろう。
だからこそ、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは嫌悪する。
年若いとはいえ魔術を学んでおきながら、たまさか拾った力を無差別に振るい快楽に耽る徒を、魔導の恥と言わずしてなんと言おう。
それを用いる魔術師とは、より深く、より高みに昇るために魔術を研究する者だ。
その過程で渦巻く狂気と妄執は、今も夥しい血を流している。
ルヴィアもそちらに身を置く側だ。片足どころか、生まれた頃より魔術の世界に両足に突っ込んでいる。
そこに忌避はない。むしろ誇りを持って邁進している。
エーデルフェルト家の頭首として神秘を継ぎ、より研鑽を積み重ね、やがてその成果を次代に引き継がせるだろう。
だからこそ、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは嫌悪する。
年若いとはいえ魔術を学んでおきながら、たまさか拾った力を無差別に振るい快楽に耽る徒を、魔導の恥と言わずしてなんと言おう。
「本来なら触れることすら汚らわしいですが状況が状況。何より売られた喧嘩を買わない野暮な真似は致しません。
いいですわ。手袋を受け取りましょう。雑草と土の味というものを直々に教えてさしあげます」
いいですわ。手袋を受け取りましょう。雑草と土の味というものを直々に教えてさしあげます」
ルヴィアが紡いだ発言は多少に挑発の意味も込めたものとはいえ、紛れも無い本心だ。
その中で選んだ一つの言葉が、追う者と追われる者だけだった二人の関係を変化させる。
その中で選んだ一つの言葉が、追う者と追われる者だけだった二人の関係を変化させる。
「貴女、姉さんの知り合いですか?」
考えつかなかった疑問に桜が怪訝な表情を見せる。
遠坂家の頭首である凛ならば交友のある魔術師がいるのも自然だが、この限定された環境下で遭遇することは予想外だった。
遠坂家の頭首である凛ならば交友のある魔術師がいるのも自然だが、この限定された環境下で遭遇することは予想外だった。
「姉、さん?」
ルヴィアもまた、桜の言葉に強い引っかかりを感じた。
今この女は何と言った?
誰を、何と呼んだのだ?
今この女は何と言った?
誰を、何と呼んだのだ?
「まさか貴女……トオサカリンの妹?」
口をつぐむ様を見て、沈黙を肯定と受け取る。
有り得ない―――と断じようとしたが、可能性は皆無とは言えない。
魔術の家督は原則として一子相伝。頭首に選ばれなかった子供は魔術の存在さえ知らされずに過ごすのが通例だ。
なら、姓を変え他家に渡っていても不思議ではないだろう。学園の中で顔を見たこともあるかも知れない。
しかしそれでは、この魔力の濃さが説明出来ない。
認めたくないが、性能だけなら自分や遠坂凛に迫るものがある。明らかに魔術師としての修行を重ねている証拠だ。
他の魔術師の家に養子として出された線も無いではないが、それがこうして会することなど余りにも……
有り得ない―――と断じようとしたが、可能性は皆無とは言えない。
魔術の家督は原則として一子相伝。頭首に選ばれなかった子供は魔術の存在さえ知らされずに過ごすのが通例だ。
なら、姓を変え他家に渡っていても不思議ではないだろう。学園の中で顔を見たこともあるかも知れない。
しかしそれでは、この魔力の濃さが説明出来ない。
認めたくないが、性能だけなら自分や遠坂凛に迫るものがある。明らかに魔術師としての修行を重ねている証拠だ。
他の魔術師の家に養子として出された線も無いではないが、それがこうして会することなど余りにも……
(作為的、ですわね)
出来過ぎた人選だ。アカギに何らかの意図が込められていたのは確実だろう。
平行世界、時間旅行、考察する材料は幾らでもある。
だがその前に、目の前に意識を集中させるべきだ。
今はとにかく―――この女を完膚なきまでに叩きのめさないと気が済まない。
平行世界、時間旅行、考察する材料は幾らでもある。
だがその前に、目の前に意識を集中させるべきだ。
今はとにかく―――この女を完膚なきまでに叩きのめさないと気が済まない。
「成る程、合点がいきました。まさかトオサカの一族だったとは……その性根の悪さも頷けますわ」
「一緒にしないで下さい。もう私は姉さんより強い。もう誰にも負けたりなんかしません
「一緒にしないで下さい。もう私は姉さんより強い。もう誰にも負けたりなんかしません
だって姉さんは、もうどこにもいないんだから」
沈黙は、森のざわめきが聞こえる程に場を静めた。
「……どういう、意味ですの?」
声は、本人も気づかぬ程僅かに掠んでいた。寝耳に水とはこのことだ。
「そのままの意味に決まってるじゃないですか。遠坂凛なんて人は、とっくにもう死んじゃってるんです。
死体なら向こうの方にありますよ。頭を割られてあっけなく、惨めに死んでいました」
死体なら向こうの方にありますよ。頭を割られてあっけなく、惨めに死んでいました」
森の奥地を指差して死臭の居場所を示す。
桜の顔には張り付いた笑顔。余裕をもって勝ち誇った笑みを見せている。
目の前の女が見せるのはどんな表情か。驚愕?恐怖?畏怖?憤慨か?いずれにしてもその視線は溜飲が下がることだろう。
桜の顔には張り付いた笑顔。余裕をもって勝ち誇った笑みを見せている。
目の前の女が見せるのはどんな表情か。驚愕?恐怖?畏怖?憤慨か?いずれにしてもその視線は溜飲が下がることだろう。
だが、ルヴィアが見せるのはそのどれでもない。
冷ややかな視線は氷の低温で桜を射抜く。さもつまらなさそうに顔を上げ。
冷ややかな視線は氷の低温で桜を射抜く。さもつまらなさそうに顔を上げ。
「―――――――――無様ですわね」
「……え?」
「……え?」
突いて出たのは、嘲笑。
それは死んだ姉に向けてでもあり、それを桜にも向けられたものだ。
双方に対しての侮蔑で満ちた女帝の貫禄に思わずたじろぐ。
それは死んだ姉に向けてでもあり、それを桜にも向けられたものだ。
双方に対しての侮蔑で満ちた女帝の貫禄に思わずたじろぐ。
「貴女がミス・トオサカより上?は。ジャパニーズジョークにしても滑稽に過ぎますわ。
彼女の杜撰な魔術と粗野で暴力的なハッケイと小狡く小賢しい卑怯さに比べれば貴女など一番の小物。まるで相手になりませんわ」
彼女の杜撰な魔術と粗野で暴力的なハッケイと小狡く小賢しい卑怯さに比べれば貴女など一番の小物。まるで相手になりませんわ」
賛辞としては半端ではない扱き下ろした言動。しかしルヴィアは本気だ。
彼女にとって、これが遠坂凛に対する掛け値なしの正当な評価だ。
彼女にとって、これが遠坂凛に対する掛け値なしの正当な評価だ。
「ベストも尽くさず限界まで挑まずにただ優れている他を妬む。闘争本能も誇りも捨ててまで道具に頼る。そんな者に真の勝利は訪れません。
幾ら強かろうがそれは勝者などではない、安物の酒に溺れた敗者です。
貴女のようなスト女に付き纏われるとは、その先輩とやらも不憫な方です。いやむしろ、これは殿方の品格を疑うべきでしょうか?」
幾ら強かろうがそれは勝者などではない、安物の酒に溺れた敗者です。
貴女のようなスト女に付き纏われるとは、その先輩とやらも不憫な方です。いやむしろ、これは殿方の品格を疑うべきでしょうか?」
効果的なキーワードなど明白だ。突き出た逆鱗を、思い切り逆撫でしてやる。
優れたアスリートはマイクパフォーマンスにおいても一流であるべし。そこに地の高圧さを織り混ぜれば、それはもう劇物の域だ。
優れたアスリートはマイクパフォーマンスにおいても一流であるべし。そこに地の高圧さを織り混ぜれば、それはもう劇物の域だ。
案の定、殺意が膨張していくのが見て取れる。唇を噛む音、爪が肌に食い込む音が軋む。
「許さない。私を馬鹿にしたこと、先輩を馬鹿にしたこと、姉さんみたいな台詞を吐くことが、みんなみんな許せません。
絶対に―――許さない」
「でしたらさっさとかかって来なさいな。無駄な前口上は試合のムードを盛り下げるだけですわよ。
―――それにいい加減、ワタクシも貴女の物言いがトサカに来てますのよ」
絶対に―――許さない」
「でしたらさっさとかかって来なさいな。無駄な前口上は試合のムードを盛り下げるだけですわよ。
―――それにいい加減、ワタクシも貴女の物言いがトサカに来てますのよ」
視線は、草葉を焦がす稲光となり火花を散らす。
無限の並列に並んでいた因果はここに交差し、新たな因縁を生んでいく。
互いを許せずに、認めずに、己が立つがために敵意を交わす。
女の矜恃(プライド)を賭けた戦いのゴングが、森のリングに鳴り響いた。
無限の並列に並んでいた因果はここに交差し、新たな因縁を生んでいく。
互いを許せずに、認めずに、己が立つがために敵意を交わす。
女の矜恃(プライド)を賭けた戦いのゴングが、森のリングに鳴り響いた。
そして。
完全に蚊帳の外に追いやられていた海堂直也は。
完全に蚊帳の外に追いやられていた海堂直也は。
「なにこれ……こわい……」
二人の鬼女の背中に、修羅を見た。