Welcome to mad tea party

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Welcome to mad tea party ◆Z9iNYeY9a2



おめかしの魔女。
その性質はご招待。理想を夢見る心優しき魔女。寂しがり屋のこの魔女は結界へ来たお客さまを決して逃がさない。

(魔女図鑑より)


その瞬間、二人の周囲の風景がガラッと変わる。

崩壊したビルの傍にいたはずだったさやかと巧、しかしその周囲にあるのは巨大なテーブルや椅子のような物体。
さっきまでいたあそこと同じ場所とは思えない。

「おい、どこだここは」
「まさか…」

困惑する巧。一方でさやかは心当たりがある様子だ。

「知ってんのかお前」
「魔女の、結界……」
「魔女って、お前ら魔法少女が戦ってるとかいうやつだろ?何でこんなところに―――おい、マミ、しっかりしろ、おい!!」

考えていた最中、マミが目を覚まさなくなっていることに気がついた巧が呼びかける。
しかしマミは目を覚まさない。

それどころか、心臓の鼓動すら止まっていた。

「ねえ、マミさんのソウルジェムはどうしたの?!あれがないとマミさんは…」
「いや、分からねえ、さっきまで確かにマミが持っていたはずだったぞ」

周囲に目を配らせてもどこにもマミのソウルジェムは見つからない。
あれがなければここから逃げ出すこともできない。そう思って周囲を見渡していた、その時だった。

「…!危ない!」

空をかける黄色い光がこちらへと迫ってくる様子を偶然目にした巧がさやかを押し倒す。

さやかの頭があっただろう場所を、黄色い輪っかが通り過ぎて巨大なテーブルの前で静止した。

手の平に乗りそうなほど小さな、黄色い髪のようなものをつけた小柄な何かが黄色い粒子を発しながらふわふわと浮遊している。
明らかに既存の生き物ではない。オルフェノクやポケモンといった生物とも違う。

「魔女…!あんたがマミさんを…?」

それが魔女であるとするならば、マミのソウルジェムをどこかにやったのはあいつではないのか。
そうさやかが考えるのは自然なことだった。

気絶したニャースの体を地面に下ろし、さやかは。

「マミさんを、返せえええええええええええええ!!」

その手に一本の剣を作り出し、魔女に向けて突っ込んでいく。

「おい待て!何かおかしい!!」

その魔女の様子に警戒心を覚えた巧はさやかを静止するが、彼女は止まらない。
そのまま剣を振りかざして一気に斬りつけようと迫り。


ガキィン

その刃は金属音をもって受け止められた。

一歩引いてそれを受け止めた何かの姿を見据えるさやか。

「―――!!!…嘘……」

そこに立っていたのは、給仕服のような衣装を纏った人型の使い魔。
まるでお茶会の案内をしようと言わんばかりの格好をしたそれ、しかし。
それは赤い髪をしてその手には見覚えのある形の槍を携えている。

その髪、そして槍をさやかは知っている。

「…杏、子」

忘れることはできない、自分が死なせた魔法少女。
彼女のものとあまりにもそっくりだった。

―――ヒュン

「危ねえ!!」

咄嗟に巧が唖然としていたさやかの横に、オルフェノク形態へと変身して割り込む。
腕を構えて迫るその一撃を受け止めた。
巨大な質量の一撃に受け止めた腕が痺れる。

そこに立っていたのは、ネコミミのようなものを頭に装着した緑髪の使い魔。
その手にはまるで猫の肉球をイメージさせる巨大なメイスを軽々と構えている。

もしここに佐倉杏子か巴マミ、あるいはメロがいたならばその使い魔に対してこう感じただろう。
まるで千歳ゆまのようだ、と。


あかいろさんとネコミミさん、その2体を警戒する二人。


バチッ

そこに割り込むかのように地を這う電流が発された。
巧がいち早く気付き飛び抜きつつさやかを押し出したことで命中することはなかったそれはあらぬ方向に走ってやがて消滅した。

その電流の発生源へと目を向ける。


真っ白な拘束衣のような衣装で体を縛られ直立している、緑髪の使い魔。
ネコミミさんが髪を両側に結んでいると見るならば、こっちは腰まで届きそうな長髪をストレートに伸ばしている。

その姿を見るさやかの、その剣を握った手が震えている。

「C.C.…?」

巧にも分かる。
あの外見はさっき死体となっていた少女に酷似していた。

「おい、何なんだよこいつら…」

杏子、C.C.、もう一体もあるいは。

全て巴マミにとって思い入れのある者達のはずだと思う。
杏子はマミの昔の知り合いであるし。
C.C.も政庁にいたのならそれなりの付き合いがあったはず、仲良くなっていてもおかしくはない。

それと似た使い魔達。
これは果たして偶然なのか。



シャラン


鈴の鳴るような音が響き、おめかしの魔女の姿が掻き消える。
同時に、周囲にいた使い魔達の数が増える。

槍を構えた使い魔。
メイスをこちらに向ける使い魔。
遠くから牽制するようにこちらを見つめる使い魔。

それぞれが3体ずつほど。

「…さっきの魔女、こいつらの中のどれかに取り付いてるみたい」
「どれなのかは分からねえ、ってことか」
「…うん」

魔力反応から推測した事実。
しかしそれを9体全て虱潰しに倒さなければならないとなるとかなりの難度だ。

「…お前、大丈夫か?」
「大丈夫、戦える。早くこいつら倒して、マミさんを助けないと…!」

ふと心配になって声をかける巧の言葉、それに対して大丈夫だと返すさやか。
しかし、その手元の剣は小さく震えていた。

もしかしたらこの時にはさやか自身、無意識下で気付いていたのかもしれない。

彼女は、巴マミは、もう――――――



木場勇治が、そして園田真理が政庁にたどり着いた時、そこは既に廃墟であった。

それもついさっき壊された、という空気ではない。既に崩壊して数時間以上は経過している様子だ。

(だとすると、彼らはどこへ…?)

政庁を過ぎ去った後、木場は周りの建造物の中でもひときわ高いビルの上に上がり周囲の様子を探る。

その時遠くに見えたのは、山の上にある巨大な建物。
それも上半分ほどがまるで爆撃でも受けたかのように消し飛んでいる。

こちらはまだ煙が収まっておらずあの攻撃があったのはついさっきとでも言ったところになるのだろう。

「おそらく乾はあそこだ」
「………」

脇に抱えた真理に呼びかける木場。
しかし彼女の返答はない。
足を折られたまま、ずっと応急処置すら取らずに放置しているのだ、その痛みに口を開くことすらままならない様子。

だが大丈夫だろう。
乾巧の前まで連れて行きさえすれば、言葉を喋る気力くらいは取り戻すはずだ。

「――――――――はっ!!」

木場勇治、、ホールオルフェノク激情疾走態はそうしてビルを蹴って跳び上がり、目的地、さくらTVビルへと向けて駆け出した。





おめかしの魔女の使い魔。
その役割はご案内。放っておくと逃げてしまうため、魔女によって手足を縛られている。魔女の大切なお友達。

おめかしの魔女の使い魔。
その役割はご案内。赤い使い魔と仲がいい食いしん坊。魔女の大切なお友達。

おめかしの魔女の使い魔。
その役割はご案内。触れられることをおそれているため近寄るとビリっとする。魔女の大切なお友達。







おめかしの魔女の使い魔。
その役割は守護。誰も近寄らないように、全身を刃が包んでいる。魔女の大切なお友達。



ウルフオルフェノクの拳があかいろさんの頭を打ち砕き。
さやかの振るった剣はネコミミさんの体を切り刻む。

横から放たれた槍の突きとメイスの振りぬきを飛び退いて回避する二人。

しかし飛び退いた先にはみどりいろさんの放った電撃が襲いかかってきた。
命中し周囲に火花を散らす二人。

どうにか持ち直した二人はさやかが剣を投擲、三体の使い魔の体をほぼ同時に串刺しにし。
そこから急接近したウルフオルフェノクが一気に剣を腕で、足で押しこみ貫通させて完全に消滅させた。

――――――――――――――!!!!


その時、結界内にまるで壊れた音響装置のような音が鳴り響いた。
魔女が絶叫している。
自身の使い魔を傷付けられ、殺されることに対して。

―――――――――ザッ


「おい、後ろだ!!」
「えっ――――ぁっ!!」

その時、さやかの背後からこれまでの使い魔とは一線を画す速さの何かが飛び出してきた。
さやかはそれを視認することも間に合わず攻撃を許してしまい。

結果、片腕が血で放物線を描きながら打ち上げられていった。

「……!?」
「えっ………」

その影が、まるで他の使い魔への攻撃を防ぐように巧とさやかの前に立ち塞がる。

灰色の体。
狼をイメージさせる頭と全身の毛。
全身は触れられることを拒むかのように鋭い刃が覆っている。

他の使い魔と比べても最も人から離れた姿をして、形もどこかしらが歪んでいる。

その姿が何なのか、さやかと巧が認識するのはそう時間はかかっていない。

何故ならばさやかにとってはそれは目の前にあるもので、そして巧にとっては忌み嫌っていた最も近しい姿形。

その使い魔の姿形はウルフオルフェノクのようだった。


「…何なんだよ」

その存在に心を揺さぶられつつも、巧は拳を握りしめる。

「―――何なんだよ!お前らは!!」

そのまま顔を狙うように握った拳を振りぬく。
しかし灰色の使い魔、オオカミさんは敢えて守ることなくそれを胸で受け止め。
攻撃直後の硬直を狙って反撃の拳を打ち込んできた。

吹き飛び地面に倒れる巧。
それをオオカミさんは引っ張り上げるようにして持ち上げ、腹部目掛けて幾度となく拳を叩き込み続ける。

顔面を狙った一撃をどうにか体を下げて回避した巧は、足払いを放ち態勢を崩させようとし。
しかしそれをまるで予期していたかのように飛び上がったオオカミさんは、今度は3体の使い魔を相手に手こずっているさやかへと狙いを定めて襲いかかる。


「…っ!」

片腕を失い魔力を回復に回しつつもどうにか使い魔達を捌いていたさやか、しかしそこにさらに乱入してこられては対応が間に合わない。
メイスをかわし、槍を受け止め。
しかしオオカミさんの追撃は避けられず、体当たりをその身に受けてしまう。

どうにか腹のソウルジェムへの直撃だけは避けるように防ぐも、吹き飛んだ体は全身の刃に傷付けられて鮮血を流す。

起き上がろうとするさやかを引きずり上げて追撃をかけようとするオオカミさん。

「―――おらぁ!!!」

しかし横から巧の中段蹴りが放たれその体を吹き飛ばす。

「しっかりしろ……、お前その腕―――」
「大丈夫、これくらいなら魔法ですぐに治せるから…。それより、この使い魔達…」
「……」

倒したはずの使い魔はいつの間にかまたしてもその数を増やしている。
あの魔女の姿は未だどこにも見つかっていないというのに。

なのにこうもあの使い魔達の存在は二人の心を揺さぶってくる。

あの、自分たちの知る者とよく似た使い魔。
巴マミが何かしら想いを持っていただろう者達に。

紅茶のカップの並べられたお茶会のような空間。
黄色いリボンの魔女。

嫌な予感が二人の中で木霊する。
しかしそれは認めてはいけない、認められない。

認めてしまえば。
乾巧は折れてしまう。
美樹さやかは戦えなくなってしまう。


あの魔女が、巴マミの成れの果てなのだという事実など。

だが、それでも心のどこかでは意識していたのかもしれない。

際限なく生み出される使い魔。それが倒されるたびに響く叫び声。
それは。

――――私、ただ寂しかった。いつも一人ぼっちだった
――――私どうしてこうなのかな?いつも誰も守れなくて、自分ばっかり



あの彼女の最後の独白を連想させる。


(そんなこと、あるはずない…。魔女さえ倒せば、きっとマミさんは元に戻る…!)

根拠のない推測を唯一の希望のようにしてしがみつきながら剣を振るい続けるさやか。
しかし。

ここに来て幾度と無く問われたこと。
濁りきったソウルジェムはどうなるのか、と。

実際、あの時の巴マミのソウルジェムは完全に濁りきっていた。
そこから生まれ出たのが、魔女だとしたなら――――?


―――――私達魔法少女は、いずれ魔女になる存在だった?



(違う!そんなはずはない!私は、そんなものになるために魔法少女になったんじゃない…!!)

さやかは心の中でそう叫ぶ。しかしその疑念は如実に太刀筋に現れる。

それまでどうにか対応できていたあかいろさんの槍が体を掠める。
血が吹き出てくるが魔力を込めて止血。
腕の修復も完了した。これで万全の状態で戦えるはずだ。

そう自分に念じることで、さやかは戦意を失わないようにし続ける。



一方で巧はオオカミさんを抑えることに必死だった。
オルフェノクのような耐久力とパワーを備えた存在。
戦い慣れているかのような動き。しかし正道というよりは相手を倒すことに重点をおいたいわゆる我流の動き。

まるで自分のような。

その動きを認識した時、何の偶然か一人と一体の戦いはほぼ互角に回っていた。
自分ならこうするだろう、という動きを相手は正確に再現してくれる。しかしこちらの攻撃は読まれている。

拉致が開かない、しかしだからこそこれをさやかに任せるわけにはいかない。
彼女が相手にするには荷が重すぎる。
そしてもしこちらにあの使い魔が回ってきたならば、この均衡は崩れてしまう。


さやかと巧、二人の戦いは互いに手を貸せず各個でのものに入り込むという泥沼に陥っている。

もしそれが二人だけだったならば、もう少し戦いは長引いたかもしれない。
しかし。

「――っ、しまっ……、巧さん!使い魔が…!」

さやかの脇を通りすぎていく赤色の使い魔。
その向かう先にいるのは巧、ではなく。

「ニャース!!!」

未だ意識を取り戻せぬままのニャース。
あかいろさんの構えた槍の切っ先がその体へと向く。

追いすがろうとするさやかは、しかし地面を這ってきた電流に足止めを余儀なくされる。

「くそっ…!」

巧はオオカミさんを蹴り飛ばしてニャースの元へと向かう。
気が付かぬうちに疾走態となっていたその脚で地を蹴ってあかいろさんに向けて跳びかかり。
そのまま地面に頭を叩き付けて沈黙させた。

それまで数に押されていた二人に、ニャースという守らねばならない存在を認識してしまったことで一層の不利な状態に追いやられる。

が、その時さやかが一体の使い魔を打ち倒した時。

フワリ、と小さな何かが飛び上がっていく。


「見つけた…。魔女!!」

魔女を守るように隊列を組む使い魔達を突破して、さやかは魔女に向けて剣を振るう。
自分の考え、あの魔女が巴マミの成れの果てではないかという考えを打ち倒すために。

しかし。

シュッ

その彼女の体を、何かが絡めとった。

「…っ、これは」

腕を縛り上げているもの、それは魔女から放たれた、黄色いリボン。

――――――巴マミのものと同じ色をした。

「っはあっ!!」

その考えを否定してもう一方の手で作り出した剣でリボンを切断。体の自由を取り戻す。
しかしその一瞬で、魔女は一体の使い魔の元へ向かって飛び上がっていく。

取り付いたのはネコミミさん。
大きなメイスを構えた使い魔。しかし攻撃が大振りなこともあってさやかには最も対応がしやすい相手だ。

一直線にその使い魔に向けて走るさやか。
目の前であれに取り付いたのだ。間違えるはずもない。

そうして迫るさやかの目の前で。
巨大な砲口が展開された。

「――――――っ!!」

思わず脚にブレーキをかけて迫る体を静止させるさやか。

その砲口が火を吹き、さやかの体は吹き飛ばされた。

(…今の、は)

自分を吹き飛ばした砲口、それは。
忘れもしない、巴マミの象徴であった必殺技。

ティロ・フィナーレのものと全く同じ形の大砲だった。



体が浮遊する中でその事実に気付き。
受け身を取ることもできぬまま地面を転がっていくさやかの体。


「くそ…、どけ!!」

ニャースに迫りよる使い魔達を捌きながら、巧はさやかの元へと駆けようとする。
今の攻撃は巧自身にも見覚えのあったもの。それをあの魔女が使った。

(…違う!そんなはずはねえ!まだマミは…)

しかし巧の中ではほぼ確信に近づいている思考だった。





かつて一人の人間がいた。
だがそいつはオルフェノクになり、人の心を失って怪物へと成り果てた。
一片の迷いもなく人を襲う怪物へと。


あのマミも、それと同じような化け物へと変わってしまったのではないか。


「クソッ…」

舌打ちするように悪態をつく巧。
それは何に対しての悪態だったのだろうか。

こうして化け物へと変化してしまった彼女の運命に対するものか、未だその事実を受け入れられない自分に対してか。







―――――――――巧っ!!

そんな時に。
巧は最も聞きたかった、しかし同時に最も会いたくなかった者の声をその耳に届かせていた。




リザードンに乗って二人を追跡していたN。
ホースオルフェノクの速度は速く、リザードンは食いついていくだけでも必死だった。

それでもどうにか見失わずにいられたのは、政庁でほんの僅かに彼が速度を落としたおかげだろう。

政庁の惨状は空からでもはっきりと認識できた。
そこにおそらく乾巧はいなかったのだろうということも。

そして彼らが向かい始めた場所の先を向くと、そこには巨大なビルの跡のような建物があった。

あそこに乾巧達がいるのかは分からない。
分かるのは、今彼らが向かっている場所こそがそのこわれかけたビルのある場所だということ。

見失うことがないように、Nは必死に二人を追い続けていた。

そしてその山の上に建っているビルの付近まで辿り着いた時に、それは起こった。

「……消えた?」

ビルのすぐ傍まで辿り着いた時、二人の姿が掻き消えたのだ。
まるで何かに導かれたかのように。そこにあった別の場所に繋がる扉を開いてしまったかのように。

「リザードン、下りてくれ」

消えた周囲を、まるでその様子を探るように見回すN。

その時、肩の上で小刻みにブルブルと震えているグレッグルに気が付く。

「グレッグル、何か感じるのか?」
「ゲッ」
「…マリ達は、どこに向かったか分かるかい?」
「ゲゲゲッ」

じっとグレッグルが見つめているのは、二人がいなくなった空間。
何もないはずの場所で、グレッグルは危険予知の特性で何かを感じ取っている。

意を決したようにその場所に飛び込んだグレッグル。
その瞬間、木場と真理の二人がそうであったようにグレッグルの姿が視界から消え去った。

「…ここに何かがあるってことか」

Nはリザードンをボールに一旦戻し、その謎の空間へと飛び込んだ。



ビルへと向けて駆けていた木場と真理の二人。
その視界が急に変化したのはNが二人の姿を見失った辺りだった。

まるでいきなりここではない別の場所へと誘い込まれたように移動した二人。
ファンシーでありながら、どこか閉鎖的なものを感じる景色。

木場にも真理にも何も分からないことばかりだらけ。
ただ、一つだけ確かな確信があった。
このどこかに、乾巧がいるということ。

ふと木場の持つオルフェノクの聴覚が、この空間内で響く音を捉えた。
まるで何者かが戦っているかのような。

その時、目の前にまるでそれを遮るかのように赤い人形のような存在が立ち塞がる。

それを木場は、疾走態を解くことなく振り抜き轢き倒して進んでいく。
その中には見覚えのある、かつて戦った魔法少女のような人形も存在した。

しかしそれらに意識を奪われることなく進み続ける木場。

やがて、一つの空間にたどり着いたところで、疾走態を解除。

そこはまるでお茶会のような巨大なテーブルの置かれた空間で。
青い髪の少女と、灰色の体を持つ男が人形を相手に立ち回っている。


「――た、くみ…」

それまで口を開くことすらなかった真理が、その戦う彼の姿を見た瞬間、口を開き。

「―――――巧っ……」

そのまま真理は、こちらの持っていたバッグに仕舞ったファイズギアを取り出し、木場の手を解いて。
折れて歩行すらままならぬはずの体を、脚を引きずるようにして彼の元へと走りだした。

それを追おうとした木場の目の前に、またしても立ち塞がった人形達。
敵意を向けるそれらに対し、木場は静かに剣を向けた。



(―――巧…)

会いたかった。
謝りたかった。

(―――巧っ…!)

傷つけるようなことを言ったこと。
オルフェノクである巧に対して信頼を揺らがせてしまったこと。


「―――――――巧っ!!」

そう、巧はオルフェノクであっても人間を、みんなを守ろうとしている。
こんな場所でも、自分を見失わずに戦っている。

オルフェノクかどうかなど関係ない。
それが、巧が巧であることの証明なのだから。

「な…、真理…?!」


だから。
巧に必要な力を。
守るための力を。

彼が持つべき、救世主の力を、届けたい。





痛みを感じることも忘れて、脚を引きずりながら駆ける真理。
その存在を、変な人形達が認識する。

「バカ、ここから離れろ、真理!!」
「…っ、巧、受け取って!!」

そのまま、抱えたトランクケースを放り投げる。

ファイズギアとその道具一式が収められたケース。
それを巧がキャッチしたことを確認して、真理は地面に倒れこんだ。

既に歩ける状態ではなかった脚を強引に動かしたツケがここで回ってきた。
もう、立ち上がることもできない。

「真理!待ってろ、今行くから――――」

そんな彼女の元に行こうとする巧だが、使い魔達を振り切ることができない。
逆に、2体の使い魔は武器を構えてこちらに迫ってきている。

もう脚は動かない。巧の手も届かない。

だから。

「―――――巧!」

最後に残った体力を振り絞り、真理は声を上げる。

「ファイズは―――救世主は――――!!」

使い魔が槍を振り上げ、メイスを持ち上げ。

「闇を切り裂き、光をもたらす――――――――――――」

グシャリ



その言葉が、本当に巧に届いたものなのかどうかは分からない。
ただ言えることは。
その言葉を最後に、園田真理という人間の命は終わりを迎えたということだけ。


【園田真理@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト 死亡】



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