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Dawn(暁、夜明け)

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Dawn(暁、夜明け) ◆nkOrxPVn9c



『でよーチアキがまた生意気なんだこれは。 一体どうやったらあの生意気が直るだろうね』
「ほう」

黒竜の言葉に適当に相槌を打つ。
色んな意味で変わった襲撃者との戦闘を潜り抜け、
屋内プールに向かって歩いているところである。
支給品の竜を使って飛ぼうかと思ったが、竜曰く

『疲れた』

などとふざけたことをぬかし、そのまま時間切れで降りてしまったのだ。
まああのまま飛んでいると流石に目立って余計な戦闘を繰り広げてしまうから今はいいだろう。
ともかく地図ではF4エリアに入ったはずなので、魅音達と合流できるのはもうすぐである。
もちろん支給品のテーブルかけから出した食料で腹ごしらえをするのも忘れていない。

『ほうじゃないよほうじゃ。 私はもっと面白い答えを期待していたのだよ』

知るか。
出した食料であるカレーパンを口に運びながら吐き捨てた。
封には『爆熱ゴッドカレーパン』と書いており、やけに辛いがテッカマンの口を前にすれば食べられないものではない。
それにしてもこの竜、しゃべるなと言ったはずなのに少し間を置いたらこの有様である。
本来なら、今すぐにでも破り捨ててしまいたいところだが、
生憎与えられた支給品をわざわざ無駄にしてしまうことはない。
参加者のサイズ差をも含めて考えると戦闘能力は高い部類に位置するものであり、
いざとなったら代わりに戦わせたり、こうしてアシとして使うこともできたり捨石にさえできる。
おまけにカード本体が無事であればいかなる目にあっても再び呼び出すことも可能だ。
うるさくなければ本当に優秀な支給品なのだ。 地球侵略時に従えていたラダム獣達よりも何倍も頼りになる。
使用後24時間使用不能という制限を除いてもなお魅力的なことだろう。

『さて放送聴いた限りだとハルカもチアキもまだ無事だし、私はもう少しのんびりしていますかねー』

ハルカとチアキ。 名簿上では南春香南千秋だったか。
構う相手がいないと怠けの極地に達する姉にバカ野郎が口癖の妹、ろくなやつがいない。
どうやら彼女達もマムクートらしい。
普段は地球の虫けらと変わらないが、竜に変身する力と数百年の寿命を持つ種族らしいのだ。
そんなに強大な力を持つ生物ならば何故今までテッカマンたる自分が遭遇しなかったのだろうか。
存在していたならば地球を侵略する上でマムクートは必ず障害となって立ちはだかったであろう。
もっともテッカマンたる自分が苦戦するとは思えないが、少なくともラダム獣程度は簡単に追い払ってしまうのであろう。
結局のところは平行世界の存在に過ぎないのか、それとも当の昔に滅んでしまったのか真相は不明である。


『考え込まないで前見ろよ前・・・・・・ってあれ!?』
「どうした?」
『いや前だよ前』


素っ頓狂な声を上げる夏奈に吊られて正面の景色を眺めてみる。
よく見ると街中を横切って走っている人影があるではないか。
テッカマンの視力を持ってよく見てみるとその素性が明らかとなった。
確か柊つかさ、あのうるさい女が連れていった女の名前だ。
しかし身に着けている服はボロボロであり、そこから覗かせる皮膚は全て赤く染まっている。
なおかつその状態で集合場所を放棄して一人で明後日の方向へ息を切らせて走っているのだ。
この時点で大体何があったのかは想像がついた。


「どうやら予定は中止らしいな」


「はぁっはぁ・・・・・・」


草原を駆ける少女が約一名。
傷だらけの身体に鞭を打って一歩一歩大地を踏みしめながら駆けていく。
襲撃者から逃げるため、それに命を賭けた二人の男のために柊つかさは走り続けた。
自分の我侭に付き合って姉を演じてくれた6/は足を貫かれた
そして初対面であったが自分のことを思ってくれたやる夫は再起不能にまで痛めつけられた。
全ては自分を拷問するためにだ。
だがそれでも彼らは自分達を身代わりにした。
明後日の方向へ駆け出す自分が再び捕らわれないために、残された力で襲撃者を抑え付けてくれた。
破れた服から風が入り込んで傷口を痛めつけるが気にする暇はない。
自分が受けた痛みなど彼らのそれに比べたら微々たるものなのだから。
だから柊つかさはひたすら走り続けた。
彼らの願いを無駄にしないために。
しかしそれもここで終わる。

彼女の前に見慣れぬ青年が現れた。
どこかで会った気もするが、少なくともつかさの知り合いにこのような男はいない。
記憶を探っていると、彼の口から思わぬ言葉が飛び出した。


「お前が柊つかさだな? 魅音と合流を予定していた相羽シンヤという者だ」



☆ ☆ ☆ ☆


「腹が減っているなら何か好きなものを言え」

シンヤは息を切らしているつかさの前にグルメテーブルかけを出して詳細を説明する。
別につかさの腹が空いているから気を使ったというわけではない。
使用回数は十分すぎるほどあるから気まぐれに使ってしまっても構わんだろう、そんな気まぐれだ。
百貨店で大量に得た食料があるから特に問題にはならない。

「じゃあサラダを食べようかな・・・・・・」

疲労した胃に油っぽいものは入らないせいかあっさりとした料理を口にするつかさ。
そして実際に出てきたサラダとおまけのドレッシングを見るなり驚く。
されどそれも束の間、彼女はドレッシングとして用意されたバルサミコ酢をサラダに振りかけて口にし始めた。

(バルサミコ酢ってあんま使う機会ないよなぁ)
(お前は黙ってろ)
(へーい)

カードであるレッドアイズブラックドラゴンこと南夏奈が小声でシンヤに話しかけるが、彼は一言で一蹴する。
レッドアイズブラックドラゴンは強力な支給品だ、故にあまり他者に存在を明かしたくはない。
目の前の少女、柊つかさがサラダを食べている中、シンヤはつかさの支給品を確認していた。
彼女はまだ自分の支給品を見ていないらしい。 だから代わりに確認しようと進言してみたらあっさりとデイバッグを貸してくれた。

まったく愚かなことだ、つかさに聞こえないように呟きながらデイバッグの中を漁ると同時に彼女に起こったことを推理する。
つかさの様子を察するに、屋内プールで待ち合わせしているところで何者かに襲われて逃げ延びたのだろう。
そのとき他にいた魅音と彼女の姉である柊かがみとはぐれた、大体こんなところだ。
しかしそこまで推測したところでシンヤに一つの疑問が生じる。

(あの傷はどうやって傷つけられた?)

柊つかさは体中が何かで叩かれた後がある、
一見すると襲撃者によってつけられたものだと見れるが、そう決めてしまうのは早計だと言わざるを得ない。
第一に傷が背中、足、腕、尻、これらに集中して付けられていること。
そしてその傷があまりにも多すぎるということ。
激しい戦闘を繰り広げたならこのぐらいの傷はつくだろうが、そうだとしたら前者はおかしい。
戦闘中に相手に背を向けるのは愚の骨頂、攻撃を受けたならば必然的に傷が前面につくはずである。
彼女が戦いを行う人間だとも思えない。 小早川ゆたかのように守られるだけの力の無いタイプの人間だろう。
なので不意打ちを受けたという過程を立ててみるがそれも否定
柊つかさの背に刻まれた傷は無数と言ってもいいぐらいだ。
不意打ちで受けたにしては多すぎる。
となると結論は一つしかない。

(大方無抵抗な状態で甚振られたのか・・・・・・いずれにせよ魅音達の生存は絶望的だな)


これでデイバッグの中に未使用の銃や剣があったらとんだ笑い話だ。
あげく中に入っていたのは金細工が施された黒い手の平サイズの箱と缶詰めぐらいで、どちらも役に立つようには見えない。
缶は猫の餌とわけのわからないものであったが、どうにも黒い箱が気になる。
なので付属していた説明書を開いて読み進めることにしたのだ。
そうして紙を開いたと同時にシンヤの表情が強張る。

「あの、シンヤくん・・・・・・」


サラダを食べ終えたつかさが話しかけてきた。
シンヤが険しい顔をしていたため話しかけ辛いようだが、大分落ち着いたらしい。
その手に彼女の支給品を握り締めたまま、シンヤは話の本題に入ることになったのだ。


☆ ☆ ☆ ☆


柊つかさ、誰が彼女の悲劇を想像できただろう。
仮初とは言え、姉となってくれる存在に会うことができた。
彼女に背負われ安らかな夢を見る。 目が覚めたら彼女がそこにいて微笑んでくれる。
彼女とともに楽しいお買い物の時間。
誰もいない店内からかわいい服を彼女に着せる。
はにかむ彼女の表情がとてもかわいらしい。
楽しい楽しい『姉妹』の時間、そんな時間も終わりに近づいた。


―今度こそ、俺が死ねないお前に死ってものを叩き込んでやるからよぉ……じっくり、くっきりとなぁ……


現れたのは金髪スーツの男。
狂ったように笑いながら歩み寄ってきた。
口にする言葉は死。
男は彼女を知っている、彼女も男を知っている、だけど自分は男を知らない。
彼女は姉なんだ、そう自分に言い聞かせて再び彼女にしがみついた。


―いきなりの放送事故失礼したね。 では早速だが第一回定時放送を始めよう・・・・・・おい


そこからが悲劇の始まりだったのだろう。
新たに現れた少女達に助けられたのはいいが、そこに響くのは道化師の声。
放送という名目で発せられた事実はここで現実に一気に引き戻されることになる。


―えーと死亡者は



泣き疲れて眠ってしまったのでここは覚えていない。



―――けひひ


そこからが本当の悪夢の始まりであった。


―泣け! 叫べ! 嘆け! 世界を! 理不尽なこの世界を呪うがいい! この私のように! あはははははははは

―つかさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


感じる感覚は激痛、見ず知らずの魔女に拷問されている。
助けてくれるはずの彼女は自分のせいで何もできなくて、
自分のせいで傷つき倒れていく。
だけど彼女は、いや彼は―――


―いいかつかさ……っ! かがみはまだ生きてる! こなたもゆたかもみなみも黒井先生もまだ死んじゃいねぇッ! だからお前は生きろ!
―どんなに辛いことがあっても絶望するな! 希望を捨てるな! 簡単に人生投げ出したら一生呪ってやるからな! だから生きろぉぉぉお!


自分以上に痛いはずなのに、泣き出してしまいたいほど痛いのに、
傷ついた体を引きずって、自分を助けてくれた。


―行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! つかさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
―行くんだおぉぉぉぉぉぉ!!!! つかさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


彼らの想いを受けて走り出す。
これは逃走ではない。
自分にとってのバトルロワイアルのスタートダッシュ。
残した仲間にいつかは助けると残してひたすら走り続ける。
そして柊つかさのバトルロワイアルは始まったのだ。


だが彼女の苦痛が終わったわけではなかった。

―――ドン

つかさの身体が前方に押し倒される。
立ち上がろうとするが、背中を押さえられている。
何かと思い、後ろに目をやると自分を冷たい視線で見下ろしている相羽シンヤの姿がそこにあった。





バチィィィィン!!!
バチィィィィン!!!
バチィィィィン!!!




「っ!痛っ!痛いよぉぉぉぉぉぉ!!!」


甲高い音が野に響く。
悲鳴を上げる少女は柊つかさ、
年相応の柔らかさを肌触りを持ったかわいらしい尻が何度も叩かれて、
鞭の後に加え新たな傷跡を残していく。

「痛っ!シンヤく痛っ!なんでっ・・・・・・!」

少女は苦痛に表情を歪ませながら問いかける。
だが彼女の尻を平手で叩き続けている少年、相羽シンヤはつかさとは正反対に何も感じていない、
冷たい瞳を向けながら黙々と叩き続けているのみ。


☆ ☆ ☆ ☆


反吐が出る。

それが柊つかさの話を聞いた相羽シンヤの感想であった。
彼女に対する仕打ちでも、彼女をこうした襲撃者への怒りでもない。
その矛先が向いたのは柊つかさ自身である。
人間など所詮虫けらに過ぎないから彼女が何もできなかったのはどうでもいいことだ。
例えば蟻が人間に勝てないからって誰も蟻を責めはしないだろう。
元から力が違いすぎる、もし対立することがあるならばそれは運が悪かったとしか言いようがない。
ラダムに狙われた地球人のようにだ。

だがシンヤにとってはつかさはそれ未満。


―私のお姉ちゃんになってくれますか?


ふざけるな。
お前にとっての姉というものはその程度のものか。
何者かに襲撃された、拷問をかけられた、仲間が殺された、
そんなことはどうでもいい。
姉ではない人間を姉と呼んだ、それは何故だ。
同じ顔をしているから?同じ声を発するから?同じように接してくるから?
されどそれは全て作り物に過ぎないことをお前は知ったはずだ。
柊かがみに非常によく似た女性、ただそれだけでしかない。
見た目が姉であれば誰でもよかった。
まさかそこまで堕ちた虫けらだったとはね。

シンヤの中のつかさへの嫌悪感は深まっていく。
それこそ怒りを通り越して呆れさえ感じさせるほどに。
ラッドを殺せなかったこと、百貨店にて急に襲い掛かってきた女に梃子摺る自分、
最強だと思っていた誇りを兄以外の者に打ち砕かれる屈辱。
それらの経験があったから虫けら、いや蛆虫といえる存在に最も羞恥を感じさせる格好でぶつけているのかも知れない。

相羽シンヤにとって兄、相羽タカヤは尊敬の対象であるとともに超えるべき存在であった。
己よりも運動に優れ、己よりも上回る頭脳を持ち、そして己よりも父からの愛を受けて育った。
この差はテッカマンになった今とて変わるものではない。
故にシンヤよりも強く、シンヤよりも他人に愛を注ぐことができるそれが相羽タカヤという人間なのだ。
もしもこの殺し合いに参加しているタカヤがテッカマンとなる前のものだったら、平行世界の虫けら同然の存在であるとしたならば・・・・・・決着をつけるほどの価値もない、そんな相羽タカヤを想像するなりシンヤは首を振るって否定する。
そんなものは相羽タカヤなどではない。

気が済んだのか、シンヤはつかさの尻を叩くことをやめて立ち上がり、
放置したままになっていたテーブルクロスの上に置いてあった一本のビンを取る。
そして蓋をあけたまま、中身を今まで叩いていたところに零し始めた。

「――――――――――っ!!!!!!」

酸性の液体が鞭の傷跡に染み込んで、忘れようとしていた痛みを抉っていく。
叫びは最早声になっていないが、表情を見れば激痛に悶えているのがすぐわかる。


問おう柊つかさよ。
お前の姉は玩具なのか。
壊れたり失くしたりすれば買い換えればいいだけの存在、
それがお前にとっての姉というものなのか。

「お前の姉は代用品で済むものなのか?」

その一言がつかさにとってやけに冷たく感じられた。
そして相羽シンヤは悪魔の言葉を解放した。

「テックセッター」


☆ ☆ ☆ ☆


「お前の姉は代用品で済むものなのか?」


その一言が私の心を抉る。
お姉ちゃんだと思って近づいたら実は6/という人だった。
それは話をして直ぐにわかったことだ。
でも私はそれに甘えてしまった。
一人では何もできないから、怖かったから、彼に私のお姉ちゃんを強要させてしまった。
ただのそっくりさんなのに私、自分勝手だよね。
だから今私が受けているのは仕方の無いことかもしれない。
シンヤくんはそんな私に罰を与えているだけなんだ、そう思っていた。
いや、そう思いたかった。


「テックセッター」


聞きなれない言葉が耳に入る。
こなちゃんが聞いたらヒーローの変身の掛け声っていうだろうね。
でもやっぱり現実は違ったんだ。
光の中から現れたのはかっこいいヒーローとは全然違うものだった。


「せめてものの情けとして一瞬で殺してやるよ。 抗うのならばこれを使え」


目の前に現れた悪魔は私の元に黒い箱を投げる。
これってシンヤくんがさっき持っていた私の支給品だよね・・・・・・
正直支給品はまったく確認していなかったため、これがなんなのかは私にはよくわからない。
わからないほうがよかったのかもしれない。
一緒に落ちていた紙を見ると、それにはこう書いてあった。

仮面ライダー

「え・・・・・・?」

思わず声を出してしまう。
仮面ライダーというのはよくわからないけど、説明書を読む限り強いのだろう。
丁寧に能力や武器まで書いてある。
自分が今までこんなすごいものを持っていたなんて気づきもしなかった。
気づきたくもなかった。
気づいていたら6/さん達を助けられていたかも知れないのにそれをしなかった自分を認めたくなかった。


「どうした? 変身しないのなら殺してしまうぞ」


怖い声を出して長い槍を向けてくる悪魔に対して私は何もできない。
いや、何もできないと決め付けているだけかも知れない。
そうだ、私は殺し合いが始まってからずっとこうだった。
何もできないと勝手に決め付けて、誰かに頼りっぱなしてずっと怯えていたんだ。
今の私には力がある。


―いいかつかさ……っ! かがみはまだ生きてる! こなたもゆたかもみなみも黒井先生もまだ死んじゃいねぇッ! だからお前は生きろ!
―どんなに辛いことがあっても絶望するな! 希望を捨てるな! 簡単に人生投げ出したら一生呪ってやるからな! だから生きろぉぉぉお!


6/さんの言葉を思い出す。
そうだ、私が今やるべきことは一つしかない。
どんなにかっこ悪くても、どんなに苦しくても生きなくちゃいけないんだ。
だから私は立ち上がる、手の平の力を握り締めて。

転がっているバルサミコ酢が入っていた空き瓶にデッキをかざすと同時に腰にベルトが現れる。
右手を左上に伸ばし、そのまま右手を上に旋回する。

「変身!」

そう叫んで右手でベルトにデッキをはめると同時に左手を右上に突き出した。
理由はわからないけれどこうしなきゃいけない気がした。
そうしないといけない気がしたのだ。
次の瞬間、体中が熱くなる気がした。


彼女のこの動作、それが並行世界の殺し合いにある、柊つかさと僅かながらにともにした青年、
本郷猛の変身動作であることを彼女は気づくことはないだろう。
そこに現れたのは柊つかさではない、赤のスーツに銀の鎧を纏い、龍の紋章を持つ戦士、
仮面ライダー龍騎であった。


☆ ☆ ☆ ☆



―SWORD VENT―


龍騎の左腕に装着されているガントレット、龍召機甲〈ドラグバイザー〉から
無機質な男性の声が響くと同時に天から剣が舞い降りてくる。
赤き龍の尾を彷彿とさせる刀は龍騎のアドベントカード、『ソードベント』で呼び出されたドラグセイバーだ。
つかさは龍騎のカードデッキの説明書を読んだとき大体使い方を把握しているので特に驚くこともなくそれを手にするが、
その動作はどこかたどたどしいものである。

「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ドラグセイバーを握り締めたつかさは得たライダーの脚力を持って悪魔の名をもつテッカマン、テッカマンエビルへと突撃していく。
仮面ライダー龍騎の脚力は100m5秒、そこから生み出される加速力は常人のそれを遥かに凌ぐものだ。
そして助走がついたドラグセイバーが勢いよエビルに振り下ろされた。
されど相対するテッカマンエビルは特に慌てる様子もなくテックランサーでそれを受け止める。
得物を構える両者の腕は互いの力に震えるが、それを確認したエビルはドラグセイバーを勢いよく弾き飛ばした。

「パワーはそれなり、流石は仮面ライダーの力といったところか。 だが」

エビルはドラグセイバーを拾いなおす龍騎にそのままテックランサーで切りかかる。

「―――っ!」

反応が遅れた龍騎の体にテックランサーが切り込まれた。
とはいっても致命傷には程遠く、すぐさまドラグセイバーで切り返そうとする。

「遅いんだよ」

しかしエビルは既に龍騎の背後に回りこんであり、
テックランサーの一撃が再び龍騎の体を傷つけた。
後ろにドラグセイバーを振るうもあっさり避けられてしまう。
その後はそれの繰り返しだった。
龍騎の振るった一撃は全て当たらずあるいは弾かれ、エビルのテックランサーだけが
龍騎の装甲と体力を削っていく。

遊ばれている。
つかさはそう思った。
その気になればエビルはつかさを殺すことぐらい簡単にできるのだ。
仮面ライダーに変身することで得られるのは身体能力とカードの力だけ。
反応速度と基礎体力は柊つかさのままなのだ。
息を切らせながらドラグセイバーを杖にして立ち上がる龍騎をエビルは見下ろしている。
しかし止めは刺さない。
以前、相羽シンヤは仮面ライダーを名乗る男、村雨良を追い詰め、また追い詰められた。
だからつかさの支給品の、仮面ライダーという語に嫌悪を示したのだ。
そこで彼は考えた。
どうせ利用価値の無くなった柊つかさを殺すのであれば、仮面ライダーの姿にしてから殺そう、と。
これは戦いではなく、テッカマンによる仮面ライダーの私刑だということにつかさが気づくこともない。

「さあさっさと起き上がれよ、甚振ってやる」

仮面の奥では禍々しい笑顔を作っているだろうエビルはテックランサーを龍騎に向ける。
このままではまた同じことになる。
時間だけが浪費され、制限時間である10分が経ってしまうのだ。
そうなってしまったらつかさを守るものは何も無くなって本当にどうしようも無くなってしまう。

(まだ、私は死ねないんだ!)

それでもつかさの瞳から闘志が消えることはなかった。
仮面の奥で生きる希望を燃やし、この状況を打破するために説明書の内容を思い出していく。
まだあったはずだ、こんなときには・・・・・・

「このカードを使うのは嫌だったんだけど・・・・・・でも!」

そう意気込んだ彼女はベルトのデッキから新たなカードを取り出して、
ドラグバイザーにセットした。


―ADVENT―


「なんだと!?」

龍の咆哮が轟く。
鏡面、すなわち二体の戦いをぼんやりと映していた空き瓶から灼熱の龍が現れたのだ。
龍の名はドラグレッダー、龍騎の契約モンスターにて守護者である。
ドラグレッダーはエビルの視界から完全に離れたところから現れエビルを突き飛ばす。
まったく想定してなかった出来事に呆けたエビルはそれをまともに喰らって突き飛ばされてしまった。
そしてドラグレッダーは龍騎を守るようにして長い体で包み込んだ。

「また誰かに助けられちゃったね・・・・・・ありがとうドラグレッダー」

つかさの言葉に呼応するかのように龍が吼える。
だがまだ危機が去ったわけではない。
受身をとって立ち上がったエビルがここに来て初めて本物の殺気を出して龍騎を睨みつけた。

「ドラグレッダー、今度は私も戦うよ。 だから一緒に頑張ろう」

エビルの威圧に屈することもなく、龍騎は更なるカードを取り出す。
カードデッキや額に刻まれた紋章と同一の絵柄のそれは、つかさにとっての逆転の切り札。


―FINAL VENT―


瞬間、龍騎が跳んだ。
跳躍に合わせてドラグレッダーが螺旋を描きながらともに昇っていく。
前方宙返りをして体を捻りつつ足をエビルに向かって突き出す。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

つかさの叫びとともにドラグレッダーの口から灼熱の火の玉が放たれて、
それに包まれた龍騎がそのまま蹴りを放った。
赤熱化した蹴撃は重力を加えて更に加速を増していく。
燃え盛る炎は彼女の決意を込めていた。
無力な自分から生まれ変わろうと思った。
どんなに辛いことがあっても切り開いていこうと思った。
龍騎の一撃は彗星となり、天に炎のラインを僅かに刻みながらエビルを貫こうとしていた。





―――轟音が響き、大地が揺れる。
そこから爆風が吹き荒れて、熱くなった空気が草木を撫でる。
後に残ったのは一つのクレーター、そしてその中央に立っていた龍騎のみ。

「はぁはぁはぁ・・・・・・」

慣れない戦闘に流石に疲労を感じたのか、両膝をついて息を切らしていた。
直後、制限時間が来たのか、龍騎の鎧が消えて柊つかさの姿が現れる。
その胸には勝利したという達成感、そして襲ってきたとはいえ人を殺めてしまったという罪悪感が渦巻いて、
なんともやりきれない表情を浮かべていた。


088:HAL・スクリーミング・ショウ(後編) 投下順 089:Dawn(暁、夜明け)(後編)
088:HAL・スクリーミング・ショウ(後編) 時系列順
087:ETERNAL DRAGON 相羽シンヤ
088:HAL・スクリーミング・ショウ(後編) 柊つかさ
065:彼 ら の 行 方 パピヨン



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