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Pray ~それぞれの想い~

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Pray ~それぞれの想い~ ◆nkOrxPVn9c


彼女は待っていた。
薄暗いトイレの個室、一体の相棒を連れて待っていた。
時間は僅か数分。
それは朝、だるいからと床でじっとしていれば、いつのまにか経過する短い間隔。
なんとなくぼーっと、していればチャイムが鳴ってしまう休み時間程度のもの。

「まだかなぁ~ほんっと早く放送鳴って欲しいわ」
「あわてないあわてない。 待つっていったのは貴女でしょ」

女、黒井ななこが相棒であるサスペリアに指摘される。
放送が始まった瞬間に村雨を襲う、ななこが言い出した計画だ。
本当は今すぐにでも襲いたいのだが、この施設には先ほど共にトイレに行くと告げた、いさじと教え子のかがみがいる。
ここで殺すと直後の放送で彼の名前が呼ばれるだろう。 その時真っ先に疑われるのは黒井ななこ、ただ一人。
つまり、ヤってしまうと自分の立ち位置を危なくしてしまうのだ。

「まあそうやけどな。 でも待ちきれないものは待ちきれないんや」

ななこは壁にかけられている時計を見る。
あと数分、あと数分、秒針が一周回るごとに分針が動いた。
高鳴る気持ちを抑えきれず、体をむずむずと動かしているななこ。
それはまるで遠足に連れていかれるのを楽しみにしている児童のようだ。
だがその顔に浮かべた笑みは、子供とはかけ離れたものである。

「村雨さん、きっと凄い量を搾り取れるんやろうなぁ」

頬を赤く染め、微かに涎を流しているななこの顔は、蠱惑の妄想を描いている痴女そのものであった。




『おまえら人間じゃねぇ!』


「えぇっ!! あたしのこと!?」
「た、多分ちゃうと思うで!?」

突如、早朝の静寂を破るほどの大声にななことサスペリアは困惑した。
その後も聞こえてくる奇声が、個室の中にいるという現実を忘れさせる。


『いきなりの放送事故失礼したね。 では早速だが第一回定時放送を始めよう・・・・・・おい』
『は、はいピエモン様、それでは禁止エリアの発表を始めます』


「びっくりしたわ、まさか事故だったなんて・・・・・・」
「なんやしっかりしろアホどもが!」
「こんなこと書き手ロワにもなかったわよ」


『さて今回の禁止エリアは・・・・・・

7時からE-5
9時からE-4
11時からD-3

だ。 くれぐれも首輪爆発なんて間抜けな死に方はしないように。
・・・・・・言っておく死亡者から外された首輪でも禁止エリアに反応するぞ』


「ってこれってもう放送始まっているやんかー!」
「みたいね。 とりあえず禁止エリアは記憶したわ」


『武器に使えるかも知れませんね!』
『冗談はほどほどにしておけ。 では次はお待ちかねの死者の発表をしようか』


「てかせっかくだからこのまま放送全部聴いおうか?」
「ええーい、そんなことはどうでもええんや! 早く村雨さんを、村雨さんを!」



     |┃三\                /
     |┃   \           /
     |┃三    \         〃
 ガラッ. |┃      ヽ\'´ ̄ ̄`ヽ//
     |┃三    /`ーO  三  Oヽ、
     |┃    /        '      ヽ,
     |┃三   ) ̄,ゝ'⌒ヽ    r'⌒ヽ( {
     |┃   r' ̄/:.:.:.:.:.:.:.ハ |/^{:.:.:.:.:.:.}`l  俺を呼んだか?
      |┃ ヽ {   >:.:.:.:.:.ノ‐´T`ヽヽ:.:.:.:ノ、_!
     |┃\ーY´ /`7T´ ̄`T´ ̄ |ヽ ヽノ
     |┃>―>' / ├  ̄| ̄ ーl  ヽ|〕
     |┃ヽ、`ヽゝノ  ├  ̄| ̄ ‐| ,ヘハlヽ
     |┃ヽ ヽ、\\__|― T ー‐|/ト,リlノ
※画像はイメージです



「「あ」」



☆ ☆ ☆



彼女は待っていた。
薄暗いカラオケルームの中で、残りの同伴者を待っていた。
後数分待てばよいだろうか。
明日のデートの予定を考えていればすぐに過ぎ去ってしまう短い感覚。
恋人と会話を弾ませた食事をしているとあっというまに経ってしまうぐらいのもの。

「村雨さん達まだかな・・・・・・」
「まだー云わないで呪文めいたその言葉」

女、ロリスキーの嘆きにいさじが忠告する。 というより歌う。
村雨と黒井が戻ってきたときに正体を打ち明ける、ロリスキーが考えた誤解を解く方法だ。
本当は今すぐにでも打ち明けたいのだが、それと相対して、言い出せない恐怖もあった。
もし正体を知ってしまったらどうなってしまうだろう、その時真っ先に非難されるのはロリスキー、ただ一人。
だが彼らの性格を見る限り、見せしめの彼女と重ねて説明することで、理解して貰える可能性もある。
それに村雨はどうやら記憶が戻った後からの参戦であり、彼ならばもしかしたら・・・・・・

「“愛”なんて羽のように軽い、
囁いてパパより優しいテノールで奪う覚悟があるのならばー」
(うんそうだよね! 覚悟完了、やっぱり打ち明けよう!)

ロリスキーは壁にかけられた時計を見る。
遅いな、まだかな、絶対言ってやるんだから、一周回るごとに分針が動いた。
もしかしたら放送が終わる後になるかも知れないが、それでも構わなかった。
いさじの歌をBGMとして聴いているのも悪くはない、むしろ良い。

「百万の薔薇のベッドに埋もれ見る夢よりも、馨しく私は生きてるの」

いさじの歌が室内に響き渡り、惚けているうちに二番に突入していく。
薔薇のような毒のある歌詞を、野薔薇のように逞しい声で歌う。
彼といる空間ならば退屈な時間でさえ、恋人と待ち合わせをしている感覚さえ感じられる。
乙女としてのロリスキーの姿は、まるでまだ見ぬ最愛の人を待っているようにさえ思えた。

ちょうどそこにだ。
空気をぶち壊す雑音が鳴ったのは。


『おまえら人間じゃねぇ!』


てめえに言われる筋合いはねぇ。



☆ ☆ ☆


(彼女は何をしている?)

村雨良は困惑する。
突如、目の前のななこが体を密着させてきたのだ。
彼女の口の先から自分のそれへと体温が伝わってくる。
熱を送られているはずなのに、何故か吸い取られている感覚だ。

この行為はなんなのか、理解不能。
それをこの場でやる意味、理解不能。
己が何をされたのかもわからぬまま、彼の時間は過ぎていく。


『えーと死亡者は

高良みゆき
ルイズ』


(いかん、まだ放送だ)

ななこの行為に頭を悩ませていた村雨の耳に、主催者達の声が聞こえてくる。
今現在行われている重要な伝達を思い出してそちらに意識を傾ける。
口内を暴れ回る異物が思考をかき乱そうとするが、気にかけている暇はない。


『前原圭一(ニコ)
キョン
桂ヒナギク・・・・・・


(ヒナギクだと!?)

新たに発せられた名前に、村雨は両目を見開いた。
脳裏を埋め尽くしていた困惑が驚愕へと塗り替えられる。
桂ヒナギク、何故彼女を救うことができなかったのだろう。
記憶を授けてくれた彼女に何をすることができたのだろうか。


『セフィロス
川田章吾
ピッピ
笑点のピンク
ゴマモン

の10名です!』


(・・・・・・)

嘲笑が消え、個室に静寂が再来する。
多くの人が死んだ。
バトルロワイアルが始まってそれほど時間が経っていないのに、もう10人の命が消えてしまった。
彼らの名前を知っていたのだろうか。 ヒナギクを除いた9人にも会ったことがない。
自分がこうしている間にも、また人々が傷つき散っていく。


「っ・・・・・・!?何さらすねん!」

突き飛ばされたななこが村雨に怒声を浴びせてくる。
だが彼は服装が変化したななこを気にする素振りもせずに、彼女を見据えていた。

「すまない、黒井さん。 だが今はふざけている場合じゃない。
こうしている間にも多くの参加者が傷ついているかもしれないんだ」

本当は全て吐き出してしまいたい。
心の中で暴れる獰猛な獣を言葉にしてぶちまけてしまいたい。
今にも爆発しそうな火山のような感情を全て噴出してしまいたい。
だがそれを彼女にするべきではない。

バトルロワイアルに対する怒りと己の無力感を心に秘めたまま、
それでもななこに理解してほしいと村雨は彼女に説明をした。

「そうか・・・・・・そうやな、見るからにいい男だったし、そんなこと言い出しても当たり前やな」
「何を言っている?」

予想外の返答に疑惑の念がこみ上げてくる。
そして村雨に映ったのは銀の代わりに金によって形成された刃、
かつて王が振るったとされる宝具、エクスカリバーだった。

「なんでうちの接吻が利かんかったのかはわからんわ」

ななこの瞳は殺意に満ち溢れ、それでいて迷いの無い。

「どういう意味だ?」

村雨はななこに問いかける。
だが口を開く彼女だが、それでも剣を振るう動作を止めようとはしない。

「それはなぁ、こういう意味や! エクス・・・・・・」

剣が輝きだす。
電灯でほどよい明るさを保っていた個室も、陰影の区別さえつかなくなる。
人の作った文明を嘲笑うが如く、光は全てを飲み込んだ。





☆ ☆ ☆


『バイニ~』

振り落とされた腕でテーブルが大きな音を立てて、グラスの液体が揺れるが構いやしない。
また、助けることができなかった。
ゴマモン。 彼がここで呼ばれてよいものか。
こんなやつらに呼ばれてよいものか。
彼はどんな思いで死んだのだろう。
苦しかったに違いない、あの時も苦しんでいたのだから。
謝りたかったに違いない、あの時も謝っていたのだから。

そして笑天のピンク。
彼もここで呼ばれていい人間ではない。
こんな状況でさえ己の意思を貫き通し、最後まで一人の落語家であり続けたのだ。
強い明色の着物のように、何者にも染められず、笑いの星として最後まで輝き続けていた。
彼の後光の前には、動画サイトで人気者になった程度で浮かれている自分が恥ずかしくさえ思える。


「ちくしょう・・・・・・」

だから許せなかった。
こんなふざけたやつらがゴマモンの名を、ピンクの名を口にするのが。
ある意味罵倒を超える侮辱であろう。
彼らの命を、感情を、誠実な想いを彼らは嘲笑った。


「いさじさん・・・・・・」
「あ、ごめん。 俺ついカッっとしちゃって・・・・・・」

『かがみ』ちゃんが弱々しく呟く。
いけない、彼女みたいないい声の持ち主がこんな声を出しちゃ。
彼女には笑い声がよく似合う。
あいつらをぶん殴りたい怒りをこらえながら、彼女に謝罪をした。
そうだな、さっきは中断してしまったことだし村雨さんが来るまでもう一曲いっておこう。

「じゃあせっかくだから曲でも歌わない? 演歌にロックにアニソンに特撮にゲームソングに電波ソング、なんでもあるよ」
「えーっとじゃあ私はこの『もってけ!セーラー服』で」
「OK」

                           ,,==二==、、
                          /       ヾヽ
                                   ヾヽ
                       _. .─:─-、_     l l
              ,-‐: :  ̄: : `:‐´: : : : : : : : : : : :ヽ    | /
            /:_:_: : ‐: : : : : : : : /: : : : : : : : : :`:ヽ.」/
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                / // : : : : /: :/:/  l: /l : : : / ┤A: : : : : : :l: : : : :l
           '´  l : : : : /: /l/、__|/ l : : :/  l l l`:、: : : : :V: : : :l
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     /  冫' //,l  /  l: : イ  /  /  /: : : : /彡彡=l : : : : ヽ
曖昧3センチ、そりゃぷにってこと


           ,,-''"  ,, --''"ニ_―- _  ''-,,_    ゞ    "-       ズ
          て   / ,,-",-''i|   ̄|i''-、  ヾ   {              ド
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    ._,-"::::/    ̄"''---  i|     |i            ヽ::::i      !!!!!!!!!
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    l://://: : : イミ土=、_/: : :/:::::::::l∧: : :l: : :l `ヾ、
    l/: :l l: : : イ:llo:::::::/:::/://:::テテヵl: : :ハ: : l
     l: : :l: l: :/.:l.:l し: 」:::::l/:'::::::P::::/'/l: : :l:N: :l
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.    l: : : : :ハ: : : ト、   ー=    ノlハ: :ハl
    l: : : : : :、: : : 「フ`‐- ,、-┬:T´: :l l/
.   l: : : : :,レ、: : :ヾ、  /、`Y/:l:l: : l
    /: : :rニミミヽ: : ヾ、-─┤ `┤: : l
   /: : / ̄\ヾヽ: : :ヾ、   l  ll: : l
  /: : /    ヽヾヽ: : lヽ  l  /l: : l
  /: : /      l \ヾ、: l ヽ  l //l: :/
 /: : :l       l ハ ヾ、l、、l  l////l
ちょwww


「な、なんだ!?」

歌が始まった直後に爆発音が鳴り響いた。
俺も『かがみ』ちゃんもマイクを落としてしまう。
今度は歌を邪魔された怒りよりも驚きのほうが大きい。

「この方向、トイレの方角からよ!」
「なんだってー!?」

音はそれほど遠くはない。
聞こえてきた方向も確かに彼女の言うとおりトイレの方だ。

「こうしちゃいられない! かがみちゃん、すぐに行くぞ!」
「ええ!」

村雨さん、黒井さん、二人とも生きていてくれよ。
一度歌い始めた曲を放棄するのは性に合わないが今はそれどころではない。
歌い手がいなくなっても、なお虚しく流れ続ける機器を置いて、
俺達はカラオケボックスを後にした。




☆ ☆ ☆

「やった・・・・・・んか?」

崩れたトイレの中、ななこが呟く。
元凶であるはずの彼女自身、信じられないという表情だ。
エクスカリバーの説明を信じる気にはなったが、正直ここまで破壊力があるだなんて予想外だ。
やりすぎたかなと苦笑した。

「それは生存フラグだから言っちゃ駄目!」
「は?」

サスペリアが突っ込みを入れる。
だがななこは目の前の状況に唖然しているせいか、どうにも間の抜けた声しか出てこない。
個室の壁は完全に崩壊し、精々微かな破片が転がっているだけ。
人なんて生きていられるはずがない、そんな常識に囚われる。

「とわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なんや!?」

ななこは天を見上げる。
天井の面影をなくした個室の中心、そこで彼女は目にした。
太陽に重なって、その姿を誇らかに見せ付ける一つの影を。
地表に近づくにつれ、陰影が消え輪郭が顕になる。
やがてななこのいる位置から下方・・・・・・カラオケボックス外の道路に着地して、ななこを見上げる。
陽光を反射する真っ赤なボディに昆虫のような緑の複眼、そして腰に聳える白銀のベルトがキラリと光る。

「村雨さん・・・・・・?」

現れた異形に驚きこそすれ、恐れることはなかった。
日輪のように赤く輝く、村雨良の姿は、
人殺しの称号を受理した今の自分には眩し過ぎたのであろう。
昔、子供のころに見たことがあるTVでやっていたヒーロー、それに似ていたのだから。


「しまった、こいつ仮面ライダーだわ!」
「か、かめんライダー?」

サスペリアから発される未知の単語に、ななこは疑問符を浮かべる。
世界の平和を守るヒーローの名、与えられた力を人々のために使う者だけに与えられる称号だ。
名乗る者には、変身アイテムを使うタイプと改造手術によって改造人間となったタイプがあるが、
これは先ほど精力をほとんど吸えなかったことから、後者と見てよいだろう。

「つまり、どうあがいても搾り取ることができないということやな・・・・・・」
「それどころじゃないわ! 今はここから逃げるのよ!」

ななこは体中の不満を全て吐き出すように深く溜息をつく。
しかしサスペリアは心底焦りきった様子でななこに撤退を懇願する。
村雨良はBADANによって改造されたパーフェクトサイボーグである。
全身の99%を機械化しているので生身である部分はほとんど残っていない。
ここまでやるなら、改造するよりも一から肉体作ってそこに脳入れたほうが手っ取り早い気がするけど気にしてはいけない。
よってそこから精気を食らうことなどできるはずもない。 というか吸うって次元じゃない。 ほとんど機械だし。

「そいつがあなたと話していたやつか」

ななこの肩に乗っているサスペリアを見たZXが口にする。
改造人間特有の聴覚で、トイレの個室にいたときも聴いていたのだろう。
最初から自分たちの計画は筒抜けだったのだ。

「なるほどなぁ、つまりここはあんたを殺さなければならないわけなんか」
「なにを言っているのよ!」

相棒の宣戦布告を聞いたサスペリアは彼女を怒鳴りつける。
魔法少女(熟女)デザイア・ベルは己の性欲のためにエロスの力で戦うエロスの戦士である。
戦い方は至って単純。 男を雄に、女を雌に、生物としての本能を目覚めさせ、それを加速化、己の糧として喰らい尽くすのみ。

だがそれは生物にとっての話。
人としての肉体を放棄され、戦闘機械に生まれ変わった彼の体は、生物としては途方もない時間を過ごすことを強要されるだろう。
そこに生殖活動は必要とされず、というかそれに突っ込むのはタブーな気がするのでこれ以上は言及しない。
とにかくデザイア・ベルにとって、エロスを必要としない仮面ライダーは分が悪すぎるのだ。

「教え子のために死んでもらうで!」

エクスカリバーをZXに向けて、彼女はそう言い放ち、カラオケ店内の廊下をかけていった。





「ゼクロスパンチ!」

廊下を走るななこに向かって拳を放つ。
狙いは右肩、まずは得物を叩き落とす。

「そんなヒョロヒョロパンチ当たらないで!」

ななこはそれを意図していたかのように、身を屈ませてかわす。
そして振り返りざまにエクスカリバーを逆袈裟に切り上げる。
だが、素人の剣裁きに遅れをとるほどZXは柔ではない。
身を横にして回避したZXは彼女の腕を掴もうとする。

「エクス・・・・・・」
「ッ!」

直後、ZXはななこを拘束することを諦めて彼女から離れる。
個室を完全に破壊した聖剣の光、まともに食らえばZXとて無事では済むまい。
己の前方に飛び立ち着地した彼をななこは軽く笑う。
一本道の廊下ならば行動は著しく制限される。
高く飛び上がることはできず、かといって回り込もうとしたらエクスカリバーを放たれる。
よってZXは自然と彼女と距離を置くかつめるかの二択のみに絞られる。

「やっぱりや、流石に今の距離から放ったら耐え切れんらしいな」
「ぐ・・・・・・」
「やんないならこっちからいくでぇ」

大振りに次々と振り下ろされる斬撃をいなしながらZXは後退をする。
今日、始めてななこは剣を持ったのだろうか。
一撃が振られるたびに、彼女の手が大きく震え、次の太刀までの動作に明らかに隙がある。
そこにカウンターパンチを叩き込むのは簡単だ。

「だからヘナチョコなんやって」

ボールが何処に来るのかわかるキャッチャーのように彼女は身を仰け反らせて避ける。

―教え子のために死んでもらうで!

その言葉がどうしても引っかかった。
彼女は『柊かがみ』の教師だ。
ということは必然と、柊かがみの親友である泉こなたや柊つかさ、高良みゆきの教師であることになる。
思えば高良みゆき、彼女も放送で名前を呼ばれてしまったのだろう。
黒井ななこはかがみ達を守るために殺し合いに乗っている。
彼女の想いは形こそ違うものの、人々を救うために戦う仮面ライダーと変わらない、そんな気がして。

「エクス・・・・・・」

深い闇を秘めた歪んだ光、それに怯えたように逃げ回ることしかできなかった。

☆ ☆ ☆

「これは・・・・・・ッ!」

いさじとロリスキーは目の前の光景に我を疑った。
既に厠の面影はなく、その空間全体がえぐられたみたいにむき出しになっている。
その横からさほど離れていない廊下、その先で二つの影が対峙していた。

「ななこさんから離れろぉぉぉぉぉぉ!!!」

いさじが咆哮し、チェンソーを持ってZXに襲い掛かる。
全く見覚えの無い蟲を彷彿とさせる怪人と、メイド服を着ている同行者、
どちらを疑うかといえば答えるまでもないだろう。

「違う、話を聞いてくれ、俺だ!」
「そ、その声は村雨さん!?」

ZXの静止にいさじは困惑する。
目の前の蟲野郎は自分の名前を自分の知っている声で問いかける。
両手を前に突き出して開いている、敵意は感じられない。
聞き覚えがある声と同様の声で話す人物、村雨良は善人だ。
思考の波に囚われて、それでも考え続けていさじは這い上がろうとする。
が、それは、突然手を引かれて中断せざるを得なくなった。

「危ない!」

いさじの腕を剣先が掠る。
彼の身体がZXに引っ張られたのだ。
ZXとともに地面を1,2回転する。

「うーんよく考えればいさじさんはそのまま搾り取ってもよかったなー」
「黒井さん、あなた何を言って・・・・・・」

刃を振り下ろした張本人、黒井ななこが彼らを見下ろしながら笑顔で言う。
いさじは両目を見開き呟いた。

「黒井先生! まさか・・・・・・」

今まで沈黙を保っていたロリスキーが口を開く。

「ああそうや柊、お前の・・・・・・いやお前らのためなんや。
こうして他のやつらを殺していけば、優勝させることができるやろ?」
「優勝だと?」

ななこの言葉にZXが問う。
優勝の条件は原則一人だ。
よってこの時点でかがみ達全員を救うという目的から外れることになる。

「そうや、優勝以外に生徒を救う方法はない。
 ワイやって生徒達の命を秤にかけることなんてしたくないんや。
 そしてお前ら以外にも、村雨さんやいさじさんみたいなええ人がおるね。 それもわかっておるんや
 でもな・・・・・・」

 「それでもワイは生徒達を救いたい!
できれば柊だけやなく、泉だって柊妹だって一年の岩崎だって小早川だって救いたいんや!
誰か一人でも、一人でも生き残ってくれればよいと思っとる!
ワイはどう恨まれてもええ、とにかく生き延びてくれればええんや!」

死んだ高良も救いたかったけどな。
そう締めるとななこは再び剣を構える。
全てを吐き出した彼女を抑える鎖は最早何もない。
一切の迷いが研ぎ落とされた彼女の言葉は、己が大切な者を守る剣となり、ZX達の心に突き刺さる。
彼らに最早剣を弾く術はなかった。

 「エクス・・・・・・」

黄金の剣が再び発光を始める。
ZXはそのまま引こうとするが、彼の足元にはまだ立ち上がっていないいさじがいた。
彼を連れてこの場から離れるか、しかしその思考は目の前で輝き続ける剣によって否定される。
ならば――

 「カリバァァァァァァ!!!」

ZXがいさじの前に立ち上がる。
されど光がそこで止まることをよしとせず、その破壊の矛先を周囲に拡散される。
エネルギーの奔流に耐え切れなくなったコンクリート上の床がひび割れて、
人を支えるだけの力を失ったそれは、彼らを奈落へと誘った。


☆ ☆ ☆

金色の光が包み込んだと思ったら、次に視界を覆ったのは桃色の淡い光だった。
己の身を焼き尽くす破滅のそれとは対称的に、何か優しいものに抱かれている、そんな感覚だ。

 「ん・・・・・・俺は・・・・・・」
 「気づいたか村雨さん!」

誰かの声が聞こえる。
目の前の人物から発せられているようだ。
僅かに俺の両目を見開いたのを確認したのか、安堵した表情を見せた。

 『これといった怪我はありませんね。 修復されているのでしょうか』
 「じゃあもう大丈夫なんですね!」

何故か玩具のような杖に語りかけている。
杖も杖で意思があるようで、点灯を繰り返しながら女性の声で返答した。
傍目から見れば滑稽なその姿も、彼女がやるならばどこか微笑ましく感じられる。

 『それよりもここはすぐに禁止エリアになります。 移動をお勧めします』
 「わかったよレイジングハート」

それがあの杖の名前だろうか。
彼女は俺を抱えて飛翔する。
咄嗟の出来事に意識が覚醒し、一先ず現状を把握することに移る。

 『さあマスター、生まれ変わったロリボディでフラグを作るのです』
 「俺は村雨さんとそんな関係になるつもりはないよ」
 『じゃあ生まれ変わった美声を持ってして耳元で囁くのです』
 「ああ声か・・・・・・前の声がなくなったのは残念だけど、これはこれで別の領域に足を踏み出せそうだな」

例えば漢気あふれる歌を歌ってみるとか。
そんなことを言いながら彼女は苦笑いを返した。
年は10代前半だろうか。薄い桃色のショートカットに碧眼、白を基調としたローブを纏う。
そして胸には金細工がなされたブローチが着けられていた。

 『ではマスターいさじ、これから何処に向かいますか?』
 「まずは黒井さんを探したいな、そこにかがみちゃんもいるはずだ」
 「いさじだと?」

村雨は思わず素っ頓狂は声を上げる。
突然だが説明しよう!
エクスカリバーによっていさじは村雨とともに瓦礫に埋もれてしまった・・・・・・ように見えた。
しかし、何処からか飛んできたレイジングハートがいさじの尻に命中、
その際レイジングハートの能力が発動した。
実は萌え絵も描けるいさじは、その素質をレイジングハートに見込まれて、魔法少女に物理的に変身したのだ!

 『ちなみに服装は劇場版仕様です』


【D-5/上空/1日目-朝】
 【いさじ@ニコニコ動画バトルロワイアル】
 [状態]:健康、魔法少女
 [装備]:レイジングハート@カオスロワ
 [持物]:デイパック、支給品一式、スタンドが不明のDISC@漫画ロワ、日吉のフライパン@ニコロワ、チェーンソー@現実
 [方針/目的]
  基本方針-1:ロワより脱出する。
  基本方針-2:つかさと会い、彼女を救う。
  1:かがみ(ロリスキー)及び黒井ななこを探す
  2:村雨と行動する。
 [備考]
  ※登場時期は死亡後です。
  ※魔法少女時の姿は、薄桃色のショートカットに碧眼のロリ。
   服装はなのは劇場版。


 【村雨良@漫画ロワ】
 [状態]:疲労(小)、身体全体に怪我(小)
 [装備]:
 [持物]:デイパック、支給品一式、iPod@ロワ全般、PS3@ニコロワ
 [方針/目的]
  基本方針:この殺し合いを潰し、BADANとの最終決戦に帰還する。
  0:いさじ?
  1:黒井ななこと柊かがみ(ロリスキー)を探す。
  2:柊かがみ(ロリスキー)が何者か確かめる。
  3:かがみ、アカギ、ヒナギク、ジョセフとの合流。
  4:パピヨン、泉こなた、柊つかさ、高良みゆき、三村信二、川田章吾、ルイズとの接触。
  5:エビル(シンヤ)を止める、もしくは倒す。また、Dボゥイなる人物にエビル(シンヤ)の事について訊く。

 [備考]
  ※参戦時期は漫画ロワ254話、「真・仮面ライダー ~決着~」の直後です。
  ※ジェネラルシャドウ、こなた、つかさ、みゆき、三村、川田、ルイズの生存に疑問を抱いています。
  ※アカギ、圭一、6/の名前が複数ある事に疑問を抱いています。
  ※力、自己修復能力等に制限が掛けられています。
  ※テッカマンエビル(相羽シンヤ)を記憶に刻みました。

☆ ☆ ☆

川の中からツインテールの少女を抱えた妙齢の女性が出てくる。
黒井ななこはいさじと村雨が瓦礫に巻き込まれるところを確認すると、『かがみ』を連れて逃げ出したのだ。
彼女を巻き込まないため、エクスカリバーの威力を弱めたのでひょっとしたらまだ生きているかもしれない。
元々実力差があり、また、ZXの耐久力もわからなかったので、死亡を確認することはできなかった。
瓦礫に潰されてはいるが、ヒーローのことだ。
恐らく生きているだろう。 とどめを刺そうとして返り討ちにされるなんて馬鹿な怪人みたいにはなりたくない。
そう危惧したのでカラオケボックスから川を渡った別のエリアに出たのだ。
近くに橋があったのだが、生憎禁止エリアになってしまった。
だがその分向こうもこちらを探すのは困難であろう。

 「いやぁ危なかったわほんま」
 「自分で言うな」

頭を掻きながら笑うななこにきつい口調でサスペリアが言い返す。

 「だがあれで村雨さん達にはワイが哀れな女教師であるという印象を植え付けたはずや」

サスペリアが苦笑する。
黒井ななこが最初から殺し合いに乗っていたということは、既に村雨にばれていた。
デザイア・ベルの能力も利かないとすれば逃げるしかない。
だがそれをやってしまうと単なる殺人鬼と扱われ、今後自分のことを他人に吹聴されるとやりずらくなる。
そうなってしまえば村雨みたいな人外に立ち向かうには致命的だ。

 「あなたもよくやるわね。 大げさに振舞って慈悲を誘うなんて」

ならばどうするか。
簡単である。 村雨良は殺し合いを憎んでいる、所謂正義の味方をいうやつだ。
そんな男を手玉に取るならば、自分がとことん道化を演じているのだとアピールしてしまえばよい。
同情させてしまえば後はこちらのものだ。

 「まあ、半分は本当だったんやけどな・・・・・・」
 「・・・・・・」

連れてきた『かがみ』を見てななこは呟く。
そうだ、黒井ななこが道化であることには変わりない。
ピエロに踊らされて殺し合いを強要されているにすぎないのだ。
願いに溺れた人間は、ここまで手を汚すことを受容できるのだろうか。

 「そういえば魔力不足でエクスカリバーもう放てないわよ」
 「補給すればええやん。
  これからはじゃんじゃん精を絞ったるでーまずは男漁りや!」

途端に娼婦の如く、だらしない笑みを浮かべるななこ。
訂正、欲に溺れた人間はここまで醜くなれるのだろうか。

 【黒井ななこ@らき☆すた(原作)】
 [状態]:健康、魔力不足
 [装備]:エクスカリバー@オールロワ、エロスの鐘(ミニ・サスペリア)@書き手2
 [持物]:デイパックx2、支給品一式x2、チェーンソー@やる夫ロワ、不明支給品x0-3(キョン/ルイズ)
 [方針/行動]
  基本方針-1:こなた、つかさ、かがみ、みゆき、ゆたか、みなみのいずれかを優勝させる。
  基本方針-2:このピチピチボディを維持するんや。その為に男の精気を吸う!
  1:『かがみ』を安全な場所にかくまう。
  2:男漁りや!
  3:女とか対象外は普通に殺すわ☆
※魔力が不足してエクスカリバーの力を出せませんが、デザイア・ベル時には何の問題もないかと思います

しまった・・・・・・
やってしまった。
私は今、『柊かがみ』として捕らえられている。
村雨さん達と合流してから打ち明けようとは思ったが、少し考えが甘かったようである。
結局私がロリスキーだということを打ち明けることはできなかった。
黒井ななこに打ち明けろ?
できるはずがない。
彼女は私を『柊かがみ』だと信じきっている。
こんなときに私が『柊かがみ』ではないと思われてしまったら・・・・・・
怖いよ爆弾、助けて・・・・・・

 【クールなロリスキー@書き手2】
 [状態]:不死者、吸血鬼
 [装備]:綾崎ハヤテの女装時の服@漫画ロワ
 [持物]:デイパック、支給品一式、大量のポケットティッシュ@カオスロワ、不明支給品x0-2
 [方針/行動]
  基本方針:地球破壊爆弾No.V-7を探し出して合流する。
  1:ひとまずななこに従う
 [備考]
  ※登場時期は「238:trigger」の冒頭辺り。ウッカリデスが死亡するより前です。

096:悲しみは絶望じゃなくて明日のマニフェスト 投下順 098:飢え「無我夢中」の無礼講
096:悲しみは絶望じゃなくて明日のマニフェスト 時系列順 100:MURDER×MURDER(前編)
073:ここにいるのは―― クールなロリスキー 112:話に絡めない少女、地図の読めない女
いさじ 113:俺の占いは当たる。 次の話でホテルは乱戦になる
村雨良 113:俺の占いは当たる。 次の話でホテルは乱戦になる
黒井ななこ 112:話に絡めない少女、地図の読めない女

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