不都合なものは見えない ◆X5fSBupbmM
●次の質問に答えて下さい。
問.「柊かがみとは何者か」
問.「柊かがみとは何者か」
1.「魔法使い、もしくは悪魔」
(確かに水が欲しいとは言ったけど、塩水は飲めないっての!)
それがふわふわとした感覚の中、結城奈緒が水に叩き落された時に覚えた感想だった。
口から、鼻からどんどん酸素が溢れ、塩辛い水が体を満たす。
泥酔していた彼女はそこでようやく呼吸ができないことを実感し、一気にパニックへ陥った。
手足をバタつかせて、頭を掴む誰かの手を外そうとしても、アルコールのせいでまともに回らない頭や力の入らない腕では叶わない。
口から、鼻からどんどん酸素が溢れ、塩辛い水が体を満たす。
泥酔していた彼女はそこでようやく呼吸ができないことを実感し、一気にパニックへ陥った。
手足をバタつかせて、頭を掴む誰かの手を外そうとしても、アルコールのせいでまともに回らない頭や力の入らない腕では叶わない。
唐突に、髪を引っ張られて水から解放された。
酸素を吸おうとした咳き込んだ矢先、また頭が、鼻が、口が水中へと逆戻りさせられる。
一瞬の安堵によって倍増された苦痛の中、奈緒はもがいた。
耐えられないと意識が消え入りそうになった時に限って、水が奈緒の世界から消える。
そこで反射的に呼吸をしてしまって、永遠と海水に捕らえられ続ける。
酸素を吸おうとした咳き込んだ矢先、また頭が、鼻が、口が水中へと逆戻りさせられる。
一瞬の安堵によって倍増された苦痛の中、奈緒はもがいた。
耐えられないと意識が消え入りそうになった時に限って、水が奈緒の世界から消える。
そこで反射的に呼吸をしてしまって、永遠と海水に捕らえられ続ける。
何時までも何時までもそれが続いていき、奈緒の意識が朦朧とし始めた頃、水から頭を引き上げられた。
嫌悪し恐怖する、魔女・柊かがみについて質問された。
水の中に戻されることを避けようと、咳と呼吸の合間に、必死に説明する。
嫌悪し恐怖する、魔女・柊かがみについて質問された。
水の中に戻されることを避けようと、咳と呼吸の合間に、必死に説明する。
不死身の柊かがみの再生能力。
奈緒がいた会場での所業や、水族館で聞いた他の世界での所業。
そして色んな殺し合いの場を渡り歩きながら、人の間に潜り込み配下を増やしていっていること。
今回の殺し合いの参加者が、柊かがみの関係者ばかりであること。
この会場にも何人かその配下と、そして魔女達の大元となる“柊かがみ本体”がこの会場にいること。
奈緒がいた会場での所業や、水族館で聞いた他の世界での所業。
そして色んな殺し合いの場を渡り歩きながら、人の間に潜り込み配下を増やしていっていること。
今回の殺し合いの参加者が、柊かがみの関係者ばかりであること。
この会場にも何人かその配下と、そして魔女達の大元となる“柊かがみ本体”がこの会場にいること。
交渉しようという考えが、塩水とアルコールがシェイクされた脳みそから生まれるはずもなく。
エレメントを出して抵抗する余裕もなかった。
頭がガンガンと痛む、喉がいたい、苦しい。
朦朧とする意識の中、唐突な痛みによって意識が覚醒し……また、水に沈む。
エレメントを出して抵抗する余裕もなかった。
頭がガンガンと痛む、喉がいたい、苦しい。
朦朧とする意識の中、唐突な痛みによって意識が覚醒し……また、水に沈む。
時折、勘違いじゃないか、とか夢でも見たのではないか、と尋ねられる。
奈緒はそれらの問いに首を横に振った。
奈緒はそれらの問いに首を横に振った。
夢だと思いたいのに、かがみは逃れられない現実として存在するのだ。
「あー、言ってることはよく分からねえが……。どうせ後で分かるしまあいいか」
プールの中に体がほとんど沈んでいる状態では、陸から押さえつけている相手を見るにも、首が上を向く形になる。
涙も混ざった塩水のせいで滲んだ視界の中、奈緒は金髪の男のギラついた目を見た。
声に含まれるふざけた調子など感じさせず、その青い目からは冷たさしか感じない。
何度か修羅場も潜ってきた奈緒にとって、戦いの場における殺気、というものには覚えがある筈である。
しかし殺人鬼の狂気を孕んだものを目の当たりにすることは、彼女の人生においてなかった。
涙も混ざった塩水のせいで滲んだ視界の中、奈緒は金髪の男のギラついた目を見た。
声に含まれるふざけた調子など感じさせず、その青い目からは冷たさしか感じない。
何度か修羅場も潜ってきた奈緒にとって、戦いの場における殺気、というものには覚えがある筈である。
しかし殺人鬼の狂気を孕んだものを目の当たりにすることは、彼女の人生においてなかった。
――殺される。
そう直感した奈緒の右手が水辺から離れようと、プールのフチへ動く。
ベキャ。
鈍い音が手から響いた。男が舌打ちと共に踏み砕いたのだ。
赤い花が奈緒の右手に咲く。一拍遅れて、熱が彼女の手から体中へ回った。
痛みに奈緒が声を上げようと口を開いた瞬間、彼女の世界は再び水の中へ沈む。
ベキャ。
鈍い音が手から響いた。男が舌打ちと共に踏み砕いたのだ。
赤い花が奈緒の右手に咲く。一拍遅れて、熱が彼女の手から体中へ回った。
痛みに奈緒が声を上げようと口を開いた瞬間、彼女の世界は再び水の中へ沈む。
取り込んだ酸素が零れていく。
ごぼごぼと、空気の泡が浮き沈みする音が聞こえる。
呼吸できない苦痛のせいで、いつの間にか右手の痛みは感じなくなってしまっている。
踏まれる感覚だけが、しつこく残っていた。
ごぼごぼと、空気の泡が浮き沈みする音が聞こえる。
呼吸できない苦痛のせいで、いつの間にか右手の痛みは感じなくなってしまっている。
踏まれる感覚だけが、しつこく残っていた。
(あ、こりゃダメだわ、死ぬ)
今までと違っていつまで経っても引き上げられない。さっき色々なことを話しすぎたと、後悔する。
恐怖で強張っていた手足から、力が抜けていく。肺どころか胃までが、水に満たされる。
苦痛から解放されるなら、かがみの恐怖から逃れられるのなら、と奈緒は意識を……。
恐怖で強張っていた手足から、力が抜けていく。肺どころか胃までが、水に満たされる。
苦痛から解放されるなら、かがみの恐怖から逃れられるのなら、と奈緒は意識を……。
手放すことができなかった。
息苦しさも水の感触も、鼻や喉を焼く塩辛さも。苦痛として体を蝕み続ける。
ふざけんなと思う程水中にいるはずなのに、苦しいという感覚に潰されそうな状態で、奈緒は奈緒を保っている。
ふざけんなと思う程水中にいるはずなのに、苦しいという感覚に潰されそうな状態で、奈緒は奈緒を保っている。
『あ……ま……3セ……♪ ……、にって……』
『……にしろ!』
『……にしろ!』
陽気な音楽が、唐突に海水にふやけた鼓膜を揺らす。それと同時に、髪を掴む手がなくなった。
反射的に水中から頭を上げた。
踏みつけられた右手はそのままに、左肘を軸にプールのフチから身を乗り出す。
激しく咳き込み、肺に溜まった海水を吐き出した。
反射的に水中から頭を上げた。
踏みつけられた右手はそのままに、左肘を軸にプールのフチから身を乗り出す。
激しく咳き込み、肺に溜まった海水を吐き出した。
「がふッ……うぇ、げぼ……ぅぇ……!」
気道だけでなく、過剰に摂取した塩分を排除しようと食道からも海水がせり上がり、他の胃の内容物と共に口から流れ出た。
視界の端に、妙なスクリーンが浮かんでいる。放送がかかっているのだ。
耳からも流れ出る水とはっきしない意識が邪魔をして、何を言っているのか聞き取れなかった。
視界の端に、妙なスクリーンが浮かんでいる。放送がかかっているのだ。
耳からも流れ出る水とはっきしない意識が邪魔をして、何を言っているのか聞き取れなかった。
『かがみ』
その名前を除いては。
(ぇ――!?)
奈緒は目を見開いた。
柊かがみが死んだ。奈緒に苦痛を強いていたあの魔女が、死んだ。
咳き込みながらも周囲に視線を這わす。
プールの傍に自らのエレメントで破壊した別の水槽が見えた。
半分海側に突き出したショープールとステージがあるここは、彼女がこの会場で初めに転送された場所だ。
あの時沈んだ客席の水は排水されたらしく、歪な池は消え濡れた瓦礫が日の光に輝いている。
ゲームの舞台は消えていなかった。
放送が終わり、呼吸が整い始めたところでようやく、奈緒は殺し合いの継続を認識した。
柊かがみが死んだ。奈緒に苦痛を強いていたあの魔女が、死んだ。
咳き込みながらも周囲に視線を這わす。
プールの傍に自らのエレメントで破壊した別の水槽が見えた。
半分海側に突き出したショープールとステージがあるここは、彼女がこの会場で初めに転送された場所だ。
あの時沈んだ客席の水は排水されたらしく、歪な池は消え濡れた瓦礫が日の光に輝いている。
ゲームの舞台は消えていなかった。
放送が終わり、呼吸が整い始めたところでようやく、奈緒は殺し合いの継続を認識した。
(終わらない……の?)
二度目のゲーム開始前からの消耗。
加えて水責めによる精神的疲労を負った彼女に、この現実はさらなる追撃をなってダメージを与えた。
柊かがみさえ死ねば、殺人ゲームの連鎖が消滅すると思い込んでいた奈緒にとって、耐え難いものとして。
紫色の唇がわなわなと動く。
奈緒の手にエレメントが出現し、武装から赤い糸が放たれた。
加えて水責めによる精神的疲労を負った彼女に、この現実はさらなる追撃をなってダメージを与えた。
柊かがみさえ死ねば、殺人ゲームの連鎖が消滅すると思い込んでいた奈緒にとって、耐え難いものとして。
紫色の唇がわなわなと動く。
奈緒の手にエレメントが出現し、武装から赤い糸が放たれた。
「……ぅ、あぁぁああああぁぁっっッ!!」
悲鳴とも怒声とも取れぬ絶叫と共に、プールの傍のショーステージが切り裂かれた。
奈緒は鋼柔自在の糸を使い、プールのステージ側から客席へと跳躍する。
潰された筈の手の痛みが引いていたが、それを気にする余裕はなかった。
それを凌駕する、疑問と恐怖と混乱に身をまかせ、腕を振るい続ける。
攻撃対象はさっきまで自身に苦痛を強いていた男……ではなく、殺戮ゲームの舞台。
ショー用のステージ、客席、水槽、他に目に入る風景――この世界そのものに向かって、がむしゃらに凶刃を振るっていた。
日の光を反射する水面が半分に割れる。ステージが刻まれ、瓦礫と化したその一部が派手に水しぶきを上げて、プールの底へ沈んでいった。
潰された筈の手の痛みが引いていたが、それを気にする余裕はなかった。
それを凌駕する、疑問と恐怖と混乱に身をまかせ、腕を振るい続ける。
攻撃対象はさっきまで自身に苦痛を強いていた男……ではなく、殺戮ゲームの舞台。
ショー用のステージ、客席、水槽、他に目に入る風景――この世界そのものに向かって、がむしゃらに凶刃を振るっていた。
日の光を反射する水面が半分に割れる。ステージが刻まれ、瓦礫と化したその一部が派手に水しぶきを上げて、プールの底へ沈んでいった。
「どうし、消えな……、何で、何でよ……ッッッ!!!」
柊かがみは死んだ。放送で名前を呼ばれた。
地球破壊爆弾No.V-7が言っていた、あの女の大元が呼ばれたのだ。
別世界の彼女が主催であるこのゲームは消えてなくなっているか、停止していないとおかしいことになる。
でも、消えなかった。終わりもしない。ゲームは続く、奈緒の苦痛はずっと続いていく。
地球破壊爆弾No.V-7が言っていた、あの女の大元が呼ばれたのだ。
別世界の彼女が主催であるこのゲームは消えてなくなっているか、停止していないとおかしいことになる。
でも、消えなかった。終わりもしない。ゲームは続く、奈緒の苦痛はずっと続いていく。
「消えろっ……消えろぉッッ!!」
彼女は世界に向かってエレメントを振り回す。
地表から僅かに飛び出している、プールからドッと水が溢れ出した。
客席の方まで流れ出て、奈緒の足首まで沈めていく。
転落防止用に設置された手すりが、糸に切断され、屋外に設置されたショープールや、それを半円状に覆うステージが削られていく。
ただ、目の前にあるものを刻み続けた。
地表から僅かに飛び出している、プールからドッと水が溢れ出した。
客席の方まで流れ出て、奈緒の足首まで沈めていく。
転落防止用に設置された手すりが、糸に切断され、屋外に設置されたショープールや、それを半円状に覆うステージが削られていく。
ただ、目の前にあるものを刻み続けた。
やがて、ステージが崩壊する轟音が辺りに響き渡った。瓦礫が海へと落ちていく。
しかしステージと比べて、客席側はその3分の1も傷ついていない。
ヤケになった奈緒が目に付いたものから刻んでいた為だ。
壊れていない場所を見て、そちらへ体を返そうとして――あるものを目撃してしまった。
しかしステージと比べて、客席側はその3分の1も傷ついていない。
ヤケになった奈緒が目に付いたものから刻んでいた為だ。
壊れていない場所を見て、そちらへ体を返そうとして――あるものを目撃してしまった。
「つっ!?」
手が滑って、勢い余った糸が自身の左の腿を引き裂いてしまった。
思わず傷口を左手で庇う。スカートごと裂いた傷に塩を含んだ布が当り、酷い痛みが生まれる。
冷えた手に熱い血がドクドクと流れ出す感触が伝わった。相当深く斬ってしまったらしい。
それでも足を押さえたまま、顔を上げた。
先程の光景が夢であることを祈って、奈緒は傷を生んだ原因をもう一度見る。
思わず傷口を左手で庇う。スカートごと裂いた傷に塩を含んだ布が当り、酷い痛みが生まれる。
冷えた手に熱い血がドクドクと流れ出す感触が伝わった。相当深く斬ってしまったらしい。
それでも足を押さえたまま、顔を上げた。
先程の光景が夢であることを祈って、奈緒は傷を生んだ原因をもう一度見る。
「あーあ……ナオちゃん、随分と派手なことしてくれんじゃねえか?
さすがにブチ切れちまったか!? いや、悪ぃな、ちょっとばかしやり過ぎた!」
「お、お前……!」
さすがにブチ切れちまったか!? いや、悪ぃな、ちょっとばかしやり過ぎた!」
「お、お前……!」
瓦礫の一部だろう細い水道管を持って、未だに名前も知らない男が段になった客席の残骸を踏みしめて立っていた。
崩壊するステージやプールの傍にいた癖にその瓦礫に埋もれることなく、傷を受けることもなく、さっきまで彼女に水責めを強いていた張本人が平然とそこにいた。
崩壊するステージやプールの傍にいた癖にその瓦礫に埋もれることなく、傷を受けることもなく、さっきまで彼女に水責めを強いていた張本人が平然とそこにいた。
「そりゃあ、心の底から殺しが大好きな俺も思ったんだよ。
これからは人を殺すにしても一思いに、即座に、一瞬で終わらせてやろうってなあ」
これからは人を殺すにしても一思いに、即座に、一瞬で終わらせてやろうってなあ」
奈緒にとって、信じたくない現実を携えて。
「まあでも、ナオちゃんの場合は特別だ。
かがみちゃんの名前を聞いちまったし、話聞こうにも呂律回ってねえし?
よりにもよって飲んだのがあの酒だったし、これから殺さなくちゃいけねえピエロ共が指を銜えて待っているんでなぁ!
色ーんな理由があって、ああした訳だよ。酔っ払いにゃ水をぶっ掛けろっつーが、沈めた方が効果的だな」
かがみちゃんの名前を聞いちまったし、話聞こうにも呂律回ってねえし?
よりにもよって飲んだのがあの酒だったし、これから殺さなくちゃいけねえピエロ共が指を銜えて待っているんでなぁ!
色ーんな理由があって、ああした訳だよ。酔っ払いにゃ水をぶっ掛けろっつーが、沈めた方が効果的だな」
喜色を含んだ声で、男は訳の分からない言葉をまくし立てる。
目にはギラギラとした、だが耐えようとするかのように捩れ捻られた殺意の光。
その光を向けられ、妙に迫力のある声を身に浴びせられているだけで、精神を磨耗した奈緒の足がすくむ。
しかし、奈緒にとっての問題はそれとは別。
目にはギラギラとした、だが耐えようとするかのように捩れ捻られた殺意の光。
その光を向けられ、妙に迫力のある声を身に浴びせられているだけで、精神を磨耗した奈緒の足がすくむ。
しかし、奈緒にとっての問題はそれとは別。
「あいつと……かがみと、お、同じ能力……!」
奈緒の初撃を受け、深く切り裂かれた男の左腕。
その傷に、流れ出た血が収束して修復していく。
かつて“不死身の柊かがみ”が奈緒へ見せたものと同じ光景が、そこにあった。
その傷に、流れ出た血が収束して修復していく。
かつて“不死身の柊かがみ”が奈緒へ見せたものと同じ光景が、そこにあった。
「なぁるほど。かがみちゃんの不死身ってのは、やっぱりあの酒のおかげだったって訳か」
「お前もアイツの手下なの……!?」
「は?」
「お前もアイツの手下なの……!?」
「は?」
納得した、とばかりに頷く男に、奈緒は半ば確信をもってそう尋ねた。
呆けた声で男がトボける。
呆けた声で男がトボける。
(ふざけんなっ、あたしやかがみのことを知ってたクセにっ!)
憤りながらも、奈緒は事態を把握する。
この男も、衝撃のアルベルトやさっきの集団と同じ、かがみの仲間だったのだ。
同じ不死身の力を持っているということは、より彼女に近い手下なのかもしれない。
敵だ。またしても“かがみの味方”で、“奈緒の敵”。
そういえば、この水族館でかがみを敵対視する男女の会話を聞いた。
この男も、衝撃のアルベルトやさっきの集団と同じ、かがみの仲間だったのだ。
同じ不死身の力を持っているということは、より彼女に近い手下なのかもしれない。
敵だ。またしても“かがみの味方”で、“奈緒の敵”。
そういえば、この水族館でかがみを敵対視する男女の会話を聞いた。
(あいつらは、生きているのかな……?)
言葉尻からして彼らは間違いなく“かがみの敵”だ。
できれば合流したい。
だが今は、この状況と目の前の敵を、
できれば合流したい。
だが今は、この状況と目の前の敵を、
(どうにかしないと……!)
放送でかがみの名前が呼ばれても、殺し合いの連鎖が止まることはなかった。
恐らく名簿に記された“柊かがみ”も、ただのコピーに過ぎなかったのだろう。
魔女の大元は、まだどこかで生きているのだ。
足の傷から震える左手を放し、身構えた。
恐らく名簿に記された“柊かがみ”も、ただのコピーに過ぎなかったのだろう。
魔女の大元は、まだどこかで生きているのだ。
足の傷から震える左手を放し、身構えた。
「あれ?」
しっかりと立つことができた自分の体に、彼女は違和感を覚える。
恐怖が度を過ぎると痛みを感じにくくなる、とはよく聞く。しかし、足に血が伝う感触は重力に逆らって感じるものなのだろうか?
それに血に触れたり傷を負ったりした両手が肌色を保っていること自体、妙だ。
恐怖が度を過ぎると痛みを感じにくくなる、とはよく聞く。しかし、足に血が伝う感触は重力に逆らって感じるものなのだろうか?
それに血に触れたり傷を負ったりした両手が肌色を保っていること自体、妙だ。
「あーあ、ナオちゃんまだ気づいていなかったのかよ」
「な、え……?」
「な、え……?」
男の呆れたような声も耳に入らないまま、奈緒は自分の手を凝視した。
流血する足の傷を押さえていた筈の左手は、エレメントを装備しているだけでこれといって色がついた様子がない。
ひどい怪我を負った筈の右手も、痛みどころか靴痕すら残っていない。
体中を蝕む痛みも綺麗に消えていた。
まさか、と奈緒は左手で先程の傷に触れた。
なにもなかった。傷の痛みも血の熱さも、何かが重力に逆らって足を伝う感触も。
破れたスカートの濡れた感触だけしか手に伝わらない。
流血する足の傷を押さえていた筈の左手は、エレメントを装備しているだけでこれといって色がついた様子がない。
ひどい怪我を負った筈の右手も、痛みどころか靴痕すら残っていない。
体中を蝕む痛みも綺麗に消えていた。
まさか、と奈緒は左手で先程の傷に触れた。
なにもなかった。傷の痛みも血の熱さも、何かが重力に逆らって足を伝う感触も。
破れたスカートの濡れた感触だけしか手に伝わらない。
「ナオちゃんもさぁ、かがみちゃんと一緒じゃねえか」
足の傷が、綺麗に消えていた。
それだけではない。ぐっしょり濡れて水を滴らせる左腕に、あるはずのものがなかった。
奈緒の頭が真っ白に染まる。
それだけではない。ぐっしょり濡れて水を滴らせる左腕に、あるはずのものがなかった。
奈緒の頭が真っ白に染まる。
「う……そ……?」
かつて奈緒が与えた傷が倍返しになって襲ってくるという、柊かがみの呪い。
その発動の鍵である黒いリボンが、奈緒の左手から消えていた。
しかし、その傷を受けた痛みも記憶も彼女にはない。
身体に起こった変化といえば……。
その発動の鍵である黒いリボンが、奈緒の左手から消えていた。
しかし、その傷を受けた痛みも記憶も彼女にはない。
身体に起こった変化といえば……。
(ちょっと待ってよ、これが外れたら死ぬはずなんじゃ……?
話が違――げッ!?)
話が違――げッ!?)
愕然として生まれた決定的な隙を突かれ、男に距離を詰められる。
慌てて糸を放出しようと腕を上げようとしたが、男が振るった鉄パイプで両腕とも弾かれた。
痛みに怯む間もなく腹に膝が打ち込まれ、前のめりになった瞬間に頭部を強打される。
慌てて糸を放出しようと腕を上げようとしたが、男が振るった鉄パイプで両腕とも弾かれた。
痛みに怯む間もなく腹に膝が打ち込まれ、前のめりになった瞬間に頭部を強打される。
「ぐ、ぅッ!?」
「……つまり、だ!」
「……つまり、だ!」
客席の階段部分におもいっきり顎をぶつける。腕を捻り上げられた。
ぐわん、と脳が揺れて目が眩んだ。口の中に広がった血の味。
ぐわん、と脳が揺れて目が眩んだ。口の中に広がった血の味。
「俺も、ナオちゃんも、かがみちゃんも! みんな、みーんな、」
しかし、男の口上が耳に入る度にそれは薄まり怪我の痛みも引いていく。
その感覚が、奈緒の視界を絶望という黒に染め上げた。
その感覚が、奈緒の視界を絶望という黒に染め上げた。
(……イヤだ、)
一体、何の冗談なのだろう。
パチリ、と頭の中でピースが埋まり、一つの結論が生まれる。
柊かがみは、間違いなく魔女か悪魔の化身だったのだ。
うじゅり、とかがみの傷が治っていく光景が蘇る。血が、肉が、髪の毛が本体に戻っていくあの光景。
奈緒の頭に男の右手が乗せられた。視界が塞がれて、暗くなっていく。
パチリ、と頭の中でピースが埋まり、一つの結論が生まれる。
柊かがみは、間違いなく魔女か悪魔の化身だったのだ。
うじゅり、とかがみの傷が治っていく光景が蘇る。血が、肉が、髪の毛が本体に戻っていくあの光景。
奈緒の頭に男の右手が乗せられた。視界が塞がれて、暗くなっていく。
(イヤだ、そんなの、認めない……!)
かがみの血に混じって、ぐずぐずに溶けた自分が取り込まれるビジョンが脳を焼いた。
そう、あのリボンによる呪いは、奈緒を殺すためのものではなく――。
そう、あのリボンによる呪いは、奈緒を殺すためのものではなく――。
「同じ“モノ”ってこった」
――奈緒を不死身の柊かがみと同じ体にするためのものだったのだ。
2.「外道、あるいは狂人」
B-6。
病院から包帯やガーゼ、消毒液などの簡単な治療品の調達を済ませたシグナムは、ラスカルと共に市街地を歩いていた 。
探索の途中で、ある病室からロビーにかけて派手に崩れているのを見つけた。
ラスカルによると自分達が病院に訪れた時には既に、ああなっていたらしい。
病室には少年の死体が転がっていたが、彼はスバルとアルフォンスの手によって霊安室に安置したようだ。
自らに危険が及ぶ可能性もあったというのに、彼らは見ず知らずのシグナムの怪我の処置し、その後も留まって面倒を看ようとしてくれたという。
頭が上がらない。彼らにも、隣を歩くラスカルにも。
病院から包帯やガーゼ、消毒液などの簡単な治療品の調達を済ませたシグナムは、ラスカルと共に市街地を歩いていた 。
探索の途中で、ある病室からロビーにかけて派手に崩れているのを見つけた。
ラスカルによると自分達が病院に訪れた時には既に、ああなっていたらしい。
病室には少年の死体が転がっていたが、彼はスバルとアルフォンスの手によって霊安室に安置したようだ。
自らに危険が及ぶ可能性もあったというのに、彼らは見ず知らずのシグナムの怪我の処置し、その後も留まって面倒を看ようとしてくれたという。
頭が上がらない。彼らにも、隣を歩くラスカルにも。
『次の放送は6時間後になる。私にまた会いたかったら次の次、12時間後を楽しみにすることだな。
以後の諸君らの健闘を祈る』
『バイニ~』
以後の諸君らの健闘を祈る』
『バイニ~』
シグナムは空に浮かぶ巨大なスクリーンを睨む。
一回目の放送における奴らの醜態はラスカルから聞いてはいたものの……聞いた以上に、酷かった。
一回目の放送における奴らの醜態はラスカルから聞いてはいたものの……聞いた以上に、酷かった。
(テスタロッサ……? ……いや、別人か)
最後の方で呼ばれた死者はシグナムの知り合いと名前こそ同じとはいえ、姓が違った。
出遭った場が違ったなら、好敵手となりえただろう魔導師ではない。
その名前が、前回の名簿に複数記載されていたことが気になったが……今はそれどころではない。
ラスカルの主人、やる夫の名も呼ばれていたのだ。
シグナムはフェイト・T・ハラオウンの名前の横に他の死者と同じく『×』と書き込み、この人物への思考を打ちとめた。
放送を聞き、眉間の皺を増やした彼を見る。
出遭った場が違ったなら、好敵手となりえただろう魔導師ではない。
その名前が、前回の名簿に複数記載されていたことが気になったが……今はそれどころではない。
ラスカルの主人、やる夫の名も呼ばれていたのだ。
シグナムはフェイト・T・ハラオウンの名前の横に他の死者と同じく『×』と書き込み、この人物への思考を打ちとめた。
放送を聞き、眉間の皺を増やした彼を見る。
「ラスカル殿、」
『シグの字、これからどこに向かう?
すぐ南は禁止エリアに指定されてしまったが、まだ時間に余裕はあるぞ』
『シグの字、これからどこに向かう?
すぐ南は禁止エリアに指定されてしまったが、まだ時間に余裕はあるぞ』
シグナムの声を遮るように、質問をぶつけられた。
何も言うな、とその鋭い目が語っていた。深追いしても無駄だろう、とシグナムは悟る。
何も言うな、とその鋭い目が語っていた。深追いしても無駄だろう、とシグナムは悟る。
「……その前に一つ、聞いてくれないか?」
地面に膝を着け、二足で立つ彼と目線を合わせた。
「ラスカル殿の言うとおり、この先どうするか考えてみたのだが……。
……やはり、私は主はやての下に戻りたいと思う」
……やはり、私は主はやての下に戻りたいと思う」
ラスカルは渋面を作った。
『しかし、セフィロスは……』
「そうだな。あの者が朽ちた以上、ここに主の生死を知る術はない」
「そうだな。あの者が朽ちた以上、ここに主の生死を知る術はない」
自分は一度ならず二度までもはやての思いを裏切り、一度命を失った。
死体と化した己はどういう因果か蘇り、主の先を託した男も同じゲームに呼ばれ……死んだ。
死体と化した己はどういう因果か蘇り、主の先を託した男も同じゲームに呼ばれ……死んだ。
「ならば、確かめに行けばいい。
私がいた殺し合いの会場に戻り、確認すればいい。
主があの場を脱出できたのか、それとも未だゲームが続いているのかを」
私がいた殺し合いの会場に戻り、確認すればいい。
主があの場を脱出できたのか、それとも未だゲームが続いているのかを」
もしも、もしもはやてが無事ならば……今度こそ彼女の力になりたい。
不甲斐無い従者でおまけに死人の身ではあるが、それでも主を護るための機会が巡ってきたのだ。
シグナムはそれを無駄にすることなど、できなかった。
不甲斐無い従者でおまけに死人の身ではあるが、それでも主を護るための機会が巡ってきたのだ。
シグナムはそれを無駄にすることなど、できなかった。
「スバル・ナカジマとアルフォンス・エルリック。彼らに協力して、ここから抜け出す道を探る」
そして、この場にいるシグナムは、殺戮の道を辿り主の下へ行くことを選択できない。
八神はやてを生き残らせるべくゲームに乗り……その所業を他でもない本人から涙ながらに叱責された彼女には。
悔しいが、あの冷徹で恐ろしく強靭な天使は、道を見失った己よりも主のことを理解していたのだろうと、シグナムは思う。
でなければ剣を交えたあの時、自分を諭すような言葉を放つ意味がない。
彼がその領域に行き着くまでの経緯は、今も全く想像できていないが。
八神はやてを生き残らせるべくゲームに乗り……その所業を他でもない本人から涙ながらに叱責された彼女には。
悔しいが、あの冷徹で恐ろしく強靭な天使は、道を見失った己よりも主のことを理解していたのだろうと、シグナムは思う。
でなければ剣を交えたあの時、自分を諭すような言葉を放つ意味がない。
彼がその領域に行き着くまでの経緯は、今も全く想像できていないが。
『……そうか』
ラスカルはそこまで聞いて、納得したように頷いた。
シグナムは水族館で彼が柊かがみの情報と共に、零した内容を思い出す。
思わず口から出たように気の抜けた感想だった。
『あいつの回りはどこか抜けた空気が満ちていた。笑える奴は強い。特にこんな殺し合いではな。
奴ならば、俺がいなくなった後も、きっと……』
そこで言葉を濁して、誤魔化すように彼はかがみについての詳細を語り始めた。
シグナムは思う。
思わず口から出たように気の抜けた感想だった。
『あいつの回りはどこか抜けた空気が満ちていた。笑える奴は強い。特にこんな殺し合いではな。
奴ならば、俺がいなくなった後も、きっと……』
そこで言葉を濁して、誤魔化すように彼はかがみについての詳細を語り始めた。
シグナムは思う。
(もしかしたら、私はラスカル殿の主の意向に応えたいのかもしれないな……)
こんな答えを自分が出したのは、セフィロスやはやてだけが要因ではないことを。
そう考えていると、ラスカルが前方を見て声を上げた。
そう考えていると、ラスカルが前方を見て声を上げた。
『シグの字、参加者だ』
釣られて顔を向けると、覚束ない足取りで駆ける赤い髪の少女が見えた。
シグナムとラスカルはそちらに向かうが、
シグナムとラスカルはそちらに向かうが、
「ち、……近づくな!」
彼らに気づいた少女は、怯えた様子で身構える。
「待て、我らはゲームに乗っていない!」
『何があった?』
「――ぁ……」
『何があった?』
「――ぁ……」
シグナムとラスカルの声を聞いて、少女は小さく呟いた。
一人と一匹を交互に見ながら、引きつった声で彼女は言う。
一人と一匹を交互に見ながら、引きつった声で彼女は言う。
「もう、一度」
「……なに?」
「もう一度、喋ってくれない……?」
「……なに?」
「もう一度、喋ってくれない……?」
少女の手甲を構えた腕は震えていた。目からはぽろぽろと涙を零していた。
彼女を、これ以上混乱させてはまずいとシグナムは直感する。
彼女を、これ以上混乱させてはまずいとシグナムは直感する。
(しかし、何と言えばいいのか……)
『……そうだ、自己紹介を忘れていたな、シグの字』
「! あ、ああ、申し遅れた。
私はシグナム。もう一度言うが、このゲームに乗っていない」
『その支給品、ラスカルだ』
『……そうだ、自己紹介を忘れていたな、シグの字』
「! あ、ああ、申し遅れた。
私はシグナム。もう一度言うが、このゲームに乗っていない」
『その支給品、ラスカルだ』
二人の言葉を……いや、声を聞いた少女は安堵の表情を浮かべた。
心の底からホッとしたような笑みだった。
心の底からホッとしたような笑みだった。
「良、かった……」
そう呟いて、彼女は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
地面に衝突する前に、シグナムはその体を抱きとめる。
地面に衝突する前に、シグナムはその体を抱きとめる。
『怪我か?』
「いや、外傷も毒を服用した形跡もない。だが……」
「いや、外傷も毒を服用した形跡もない。だが……」
冷え切った体はまるで濡鼠だ。少女を抱えるシグナムのコートにまで水が染みる。
「このままでは体調を崩しかねん。どこかで休ませて、詳しい事情を聞こう。
私達のことを知っているようだったが……ラスカル殿、この子に見覚えは?」
『ないな。やる夫のクラスメイトなら、俺のことを聞いた可能性もあるが……。
シグの字も、会ったことはないのだな?』
「……ああ」
『それで、どこに行く? 病院に戻るか?』
「いや、この子の変えの衣服さえ手に入れば、この辺りで構わないだろう」
私達のことを知っているようだったが……ラスカル殿、この子に見覚えは?」
『ないな。やる夫のクラスメイトなら、俺のことを聞いた可能性もあるが……。
シグの字も、会ったことはないのだな?』
「……ああ」
『それで、どこに行く? 病院に戻るか?』
「いや、この子の変えの衣服さえ手に入れば、この辺りで構わないだろう」
少女を抱え上げながら、ふと、シグナムはこの会場にいる幼い魔導師を思い出す。
心の芯も正義感も強い彼女――高町なのはは、既にこの殺し合いの打破に向けて行動しているのだろう。
同時に、気を失う前に見た彼女とどこか似た少女の顔が浮かぶ。
心の芯も正義感も強い彼女――高町なのはは、既にこの殺し合いの打破に向けて行動しているのだろう。
同時に、気を失う前に見た彼女とどこか似た少女の顔が浮かぶ。
―― シグナム副隊長! ――
この言葉が、未だ魚の小骨のようにシグナムの中に引っかかっていた。
3.「一般人? それとも悪女?」
「……ぶはっ! がッ、ゴホッ! ゼェ……糞っ、またかよ」
水族館側の水辺。海から這い出てきたラッド・ルッソは荒く息を吐く。
まさか、一日に二度も水落ちするハメになるとは。
まさか、一日に二度も水落ちするハメになるとは。
「にしても、どうなってやがんだ……?」
破けた袖に覆われた右腕を眺めた。
不死者の殺害条件――右手を相手の頭に乗せ『喰いたい』と願う。
奈緒を相手に、その条件を満たしたはずだが……何も起こらなかった。
呆気に取られてから数秒後、奈緒の手から無理やり関節外す音を聞き、身を転がしたところで恐慌さが増した彼女に右手を斬られた。
不死者の殺害条件――右手を相手の頭に乗せ『喰いたい』と願う。
奈緒を相手に、その条件を満たしたはずだが……何も起こらなかった。
呆気に取られてから数秒後、奈緒の手から無理やり関節外す音を聞き、身を転がしたところで恐慌さが増した彼女に右手を斬られた。
その後、錯乱し再度無差別攻撃を繰り出す奈緒を見て、ラッドは思った、「面倒だ」と。
攻撃の狙いはデタラメ、トリッキーな動きが強みであろう鋼線を用いているにも関わらず、軌道は全て直線的。
瓦礫が撒かれようが、その攻撃を避けるのは容易だった。
攻撃の狙いはデタラメ、トリッキーな動きが強みであろう鋼線を用いているにも関わらず、軌道は全て直線的。
瓦礫が撒かれようが、その攻撃を避けるのは容易だった。
だが、それを掻い潜ってから不死者である彼女を殺すのは手間がかかる。
水責めの合間に、色々と引きちぎったり石やガラス片で刻んだり、鼻骨をへし折ったりしてみたが、奈緒は死ななかった。
頚動脈を抉っても傷口が修復されていった時は、思わず感嘆の声を上げた程だ。
その不死者を、簡単に仕留められる手段は潰れた。
沈黙させて禁止エリアに放り込めばいいのだろうが、奈緒が追撃を仕掛けているのは壊れかけの舞台。
長居は無用、と放置し撤退しようとした時だった。
半壊したショープールとステージの強度が限界に達したらしく、海に面していた側が完全に崩壊。ラッド自身も海に転落した。
瓦礫の大部分が先に落下していった為、海の底で埋もれなかっただけマシか。
水責めの合間に、色々と引きちぎったり石やガラス片で刻んだり、鼻骨をへし折ったりしてみたが、奈緒は死ななかった。
頚動脈を抉っても傷口が修復されていった時は、思わず感嘆の声を上げた程だ。
その不死者を、簡単に仕留められる手段は潰れた。
沈黙させて禁止エリアに放り込めばいいのだろうが、奈緒が追撃を仕掛けているのは壊れかけの舞台。
長居は無用、と放置し撤退しようとした時だった。
半壊したショープールとステージの強度が限界に達したらしく、海に面していた側が完全に崩壊。ラッド自身も海に転落した。
瓦礫の大部分が先に落下していった為、海の底で埋もれなかっただけマシか。
そして、水を吸い錘と化したコートは海中に棄て、ここに泳ぎ着いた訳である。
周りを見渡す。
どうやらここは、水族館の半地下にあたる場所らしい。職員用の出入り口が近くにあった。
波打ち際の岩の上に、派手な色彩の厚紙が打ち上げられているのを見つけた。
周りを見渡す。
どうやらここは、水族館の半地下にあたる場所らしい。職員用の出入り口が近くにあった。
波打ち際の岩の上に、派手な色彩の厚紙が打ち上げられているのを見つけた。
「『強……、装……』? チッ、ロクに読めやしねえ」
ラッドが手にしたそれは、支給品・DMカード(強制脱出装置)@ニコロワ。
ゲーム開始直後に6/氏(神)が海で紛失した後、会場のループを経由し、ここに打ち上げられていたものである。
ラッドがそれを知るはずもない。
だが、用途の知れない拾い物がトンでもない代物である場合が存在することは、よぉく身に染みていた。
ゴミかと疑いつつも、念のためデイパックにそれを仕舞う。
ゲーム開始直後に6/氏(神)が海で紛失した後、会場のループを経由し、ここに打ち上げられていたものである。
ラッドがそれを知るはずもない。
だが、用途の知れない拾い物がトンでもない代物である場合が存在することは、よぉく身に染みていた。
ゴミかと疑いつつも、念のためデイパックにそれを仕舞う。
入れ替わりに取り出したのは黒いリボン。
奈緒がプールでもがいている内に解け、目についたのでなんとなしに回収したものだ。
なんの変哲もない、ただの布切れ。
そういえば、前回のゲームで遭遇した時も奈緒はこのリボンを手首に巻いていた。
奈緒がプールでもがいている内に解け、目についたのでなんとなしに回収したものだ。
なんの変哲もない、ただの布切れ。
そういえば、前回のゲームで遭遇した時も奈緒はこのリボンを手首に巻いていた。
「こいつが、そんなに大切なお守りだったんかねえ」
左腕を見た奈緒の愕然としていた様子と、その後の狂乱っぷりを思い出す。
彼女が語った情報についても。
彼女が語った情報についても。
「さてさて、どうしようか? こうなると、かがみちゃんから話を聞いた方がいいのかねぇ?」
6/氏(かがみ)というややこしい名前の参加者は死んだらしいが、本人は生きている。
百貨店で遭遇したかがみは自分を知っていたようだが、その態度は“不死身の柊かがみ”とは乖離していた。
ラッドはこの島と螺旋王の実験場以外で、彼女に会った覚えは全くない。
では、あのかがみらしき人物は一体なんだったのか?
死に際の記憶が消失していただけのシンヤはともかく、彼女に対する疑問はラッドの中で燻り続けていた。
だからこそ、かがみが不死者であることを語った奈緒から、強引に情報を吐かせたのである。
結果、残ったのは更なる疑問だ。
奈緒の話通りならば、柊かがみはとんだモンスターの上、参加者兼主催側のボスということになる。
百貨店で遭遇したかがみは自分を知っていたようだが、その態度は“不死身の柊かがみ”とは乖離していた。
ラッドはこの島と螺旋王の実験場以外で、彼女に会った覚えは全くない。
では、あのかがみらしき人物は一体なんだったのか?
死に際の記憶が消失していただけのシンヤはともかく、彼女に対する疑問はラッドの中で燻り続けていた。
だからこそ、かがみが不死者であることを語った奈緒から、強引に情報を吐かせたのである。
結果、残ったのは更なる疑問だ。
奈緒の話通りならば、柊かがみはとんだモンスターの上、参加者兼主催側のボスということになる。
職員用の通路を辿り、ショープールへ戻る。
案の定、奈緒の姿は消えていたが、床に残った水滴を追えば足取りは掴めるだろう。
そう考えながらも、ラッドはかがみについての思考を続ける。
案の定、奈緒の姿は消えていたが、床に残った水滴を追えば足取りは掴めるだろう。
そう考えながらも、ラッドはかがみについての思考を続ける。
百貨店で見たかがみは、つかさとかいう連れを庇っていた。
狡猾な魔女とやらが、自らを犠牲にしようとするか?
そういえば抜群のタイミングで邪魔が入ったが、かがみはそれを予測していたのか?
じゃあシンヤと緑髪の女はかがみの仲間? かがみの下僕?
いやねえよそれはない。あのブラコン野郎がラダムとかいう宇宙人以外の何かを信奉する訳も意味も理由もない。
では“柊かがみ”とは一体なんだ? ただの一般人か? 狡猾な悪女か? 化け物か? 人か?
かがみはかがみをかがみががかがみがかがみをかみがかがみん参加者をかがみが主催かが……………………。
狡猾な魔女とやらが、自らを犠牲にしようとするか?
そういえば抜群のタイミングで邪魔が入ったが、かがみはそれを予測していたのか?
じゃあシンヤと緑髪の女はかがみの仲間? かがみの下僕?
いやねえよそれはない。あのブラコン野郎がラダムとかいう宇宙人以外の何かを信奉する訳も意味も理由もない。
では“柊かがみ”とは一体なんだ? ただの一般人か? 狡猾な悪女か? 化け物か? 人か?
かがみはかがみをかがみががかがみがかがみをかみがかがみん参加者をかがみが主催かが……………………。
「ああああああぁあああ! 面倒臭ぇっ! 考えてもしかたねえ、本人から聞きだしゃいいだけだ。
んで、殺す! 悪魔だろうが戦闘狂だろうが化け物だろうが、死ねば全てきれいさっぱり片付く!
ぁあ!? 死んでもバトロワにかこつけて逃げられるってか!? じゃあまたぶっ殺す!!
よし、決まりだ決まり!」
んで、殺す! 悪魔だろうが戦闘狂だろうが化け物だろうが、死ねば全てきれいさっぱり片付く!
ぁあ!? 死んでもバトロワにかこつけて逃げられるってか!? じゃあまたぶっ殺す!!
よし、決まりだ決まり!」
ラッドは苛立ちに任せてまくし立てる。
訳が分からずイラつくことはもう一つあった。
奈緒が語った、前回のバトロワについての情報だ。奈緒は螺旋王の実験場にいた。これは確実だ。聞き出した。
しかし、同じ場所にいた筈の奈緒とラッドの記憶には齟齬が多すぎた。
訳が分からずイラつくことはもう一つあった。
奈緒が語った、前回のバトロワについての情報だ。奈緒は螺旋王の実験場にいた。これは確実だ。聞き出した。
しかし、同じ場所にいた筈の奈緒とラッドの記憶には齟齬が多すぎた。
奈緒は“金ぴか”ことギルガメッシュが、かがみに殺されたと言ったのだ。
元が金色だろうが黒色だろうが、色も原型も分からなくなる程に磨り潰してやろうと思っていたあれは、正真正銘のバケモノだった。
ラッド自身、彼の殺害がほぼ不可能と直感していた程である。あの時は死んでも殺すつもりだったが。
それを、柊かがみが殺した?
多少修羅場を潜った様子はあったが、柊かがみの纏う空気はどう見ても素人だった。
いくら慢心しまくりの相手とはいえ、素人が果たしてギルガメッシュを殺せるだろうか。
元が金色だろうが黒色だろうが、色も原型も分からなくなる程に磨り潰してやろうと思っていたあれは、正真正銘のバケモノだった。
ラッド自身、彼の殺害がほぼ不可能と直感していた程である。あの時は死んでも殺すつもりだったが。
それを、柊かがみが殺した?
多少修羅場を潜った様子はあったが、柊かがみの纏う空気はどう見ても素人だった。
いくら慢心しまくりの相手とはいえ、素人が果たしてギルガメッシュを殺せるだろうか。
それに、果たしてかがみはいつ殺害を敢行し、奈緒はいつそれを知ったのか。
螺旋王の管轄内、映画館での戦闘。
そこで奈緒とギルガメッシュが共にいたことは知っている。
だがその後、再度遭遇した時の奈緒にギルガメッシュの死を知った様子は見られなかった。
夢でも見てたんじゃねえの? と思わず聞いたが、奈緒はこの言葉を覆そうとはしなかった。
螺旋王の管轄内、映画館での戦闘。
そこで奈緒とギルガメッシュが共にいたことは知っている。
だがその後、再度遭遇した時の奈緒にギルガメッシュの死を知った様子は見られなかった。
夢でも見てたんじゃねえの? と思わず聞いたが、奈緒はこの言葉を覆そうとはしなかった。
ここは死んだ人間ばかりを集めた闘技場と思っていたが、どうにもおかしい。
その情報と『相手を喰うことでその記憶と知識、経験を自らのものにできる』という支給品の説明書に気を取られ、過剰な程に水責めを行ってしまった。
悪手を打ってしまった、と今更ながら後悔する。
おまけにその方法にも踏み切ることができないまま、放送を迎えてしまったとは間抜けなこと極まりない。
その情報と『相手を喰うことでその記憶と知識、経験を自らのものにできる』という支給品の説明書に気を取られ、過剰な程に水責めを行ってしまった。
悪手を打ってしまった、と今更ながら後悔する。
おまけにその方法にも踏み切ることができないまま、放送を迎えてしまったとは間抜けなこと極まりない。
(ああ糞、意味が分からねえ…………ん?)
崩落したステージから戻る途中、事務室と書かれた扉が開いているのにラッドは気づく。
部屋の中で、『録音再生』と記された電話機のボタンが赤い光を撒いていた。
部屋の中で、『録音再生』と記された電話機のボタンが赤い光を撒いていた。
問.「柊かがみとは何者か」
時刻は日中。
彼らがその回答の一つを知るまで、あと――。
彼らがその回答の一つを知るまで、あと――。
【B-6/1日目-日中】
【結城奈緒@アニ2】
[状態]:不死者、気絶、疲労(大)、精神疲労(大)、柊かがみ症候群、ずぶ濡れ
[装備]:なし(エレメントは引っ込んでいます)
[持物]:なし
[方針/目的]
基本方針:柊かがみを滅して、この殺し合いを終わらせ、元の世界へ帰る。
0:……。
1:不死能力を消したい。
【結城奈緒@アニ2】
[状態]:不死者、気絶、疲労(大)、精神疲労(大)、柊かがみ症候群、ずぶ濡れ
[装備]:なし(エレメントは引っ込んでいます)
[持物]:なし
[方針/目的]
基本方針:柊かがみを滅して、この殺し合いを終わらせ、元の世界へ帰る。
0:……。
1:不死能力を消したい。
[備考]
※登場時期は、212話「その少女、ゼロのリスタート」の直後です。
※柊かがみが全ての元凶であり、魔女である彼女を滅すれば殺し合いは無くなると思い込んでいます。
※衝撃のアルベルト、スーツ姿の外人(ラッド)は柊かがみの手下だと思い込んでいます。
※爆弾、こなた、6/氏、ウッカリデスを柊かがみの手下だと疑っています。
※不死者になったと気づきましたが、柊かがみが呪いをかけた結果によるものと思い込んでいます。
※奈緒が聞いた第二回放送の「かがみ」の名前は、6/氏(「かがみ」)のものです。またそれ以外の内容を把握していません。
※登場時期は、212話「その少女、ゼロのリスタート」の直後です。
※柊かがみが全ての元凶であり、魔女である彼女を滅すれば殺し合いは無くなると思い込んでいます。
※衝撃のアルベルト、スーツ姿の外人(ラッド)は柊かがみの手下だと思い込んでいます。
※爆弾、こなた、6/氏、ウッカリデスを柊かがみの手下だと疑っています。
※不死者になったと気づきましたが、柊かがみが呪いをかけた結果によるものと思い込んでいます。
※奈緒が聞いた第二回放送の「かがみ」の名前は、6/氏(「かがみ」)のものです。またそれ以外の内容を把握していません。
【シグナム@なのはロワ】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:ラスカル@やる夫ロワ
[持物]:支給品一式(食料少し減)、治療道具(外傷用)@現地調達、不明支給品0~2(確認済み・少なくとも刀剣類はない)
[方針/目的]
基本方針:プレシア主催のゲーム会場へ戻り、はやての安否を確かめる。
1:情報収集。赤毛の少女(奈緒)を保護、話を聞きたい。
2:柊かがみに激しい警戒。
3:21時に豪華客船でアル、スバルの両名と合流する。
4:出来れば眼帯の男と戦いたい。
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:ラスカル@やる夫ロワ
[持物]:支給品一式(食料少し減)、治療道具(外傷用)@現地調達、不明支給品0~2(確認済み・少なくとも刀剣類はない)
[方針/目的]
基本方針:プレシア主催のゲーム会場へ戻り、はやての安否を確かめる。
1:情報収集。赤毛の少女(奈緒)を保護、話を聞きたい。
2:柊かがみに激しい警戒。
3:21時に豪華客船でアル、スバルの両名と合流する。
4:出来れば眼帯の男と戦いたい。
[備考]
※第一放送を聞き逃しましたが、ラスカルから内容を把握しました。
※主はやて(@なのはロワ)の安否が確認できないと理解しました。
【ラスカル@やる夫ロワ】
[状態]:健康
[方針/目的]
基本方針:シグナムの行く末を見守る。
1:赤毛の少女(奈緒)を保護、話を聞きたい。
2:21時に豪華客船でアル、スバルの両名と合流する。
※第一放送を聞き逃しましたが、ラスカルから内容を把握しました。
※主はやて(@なのはロワ)の安否が確認できないと理解しました。
【ラスカル@やる夫ロワ】
[状態]:健康
[方針/目的]
基本方針:シグナムの行く末を見守る。
1:赤毛の少女(奈緒)を保護、話を聞きたい。
2:21時に豪華客船でアル、スバルの両名と合流する。
[備考]
※シグナムの心が安定していないことを理解しています。
※パラレルワールドについて理解しました。
※スバル・ナカジマ、アルフォンス・エルリック、衝撃のアルベルト、以上三名と情報交換をしています。
※ですが、スバルの世界についてはシグナムには話していません。
※シグナムの心が安定していないことを理解しています。
※パラレルワールドについて理解しました。
※スバル・ナカジマ、アルフォンス・エルリック、衝撃のアルベルト、以上三名と情報交換をしています。
※ですが、スバルの世界についてはシグナムには話していません。
【治療道具(外傷用)@現地調達】
B-6病院よりシグナムが調達した。医療施設の定番調達品。
素人でもなんとか使えそうな道具類。
B-6病院よりシグナムが調達した。医療施設の定番調達品。
素人でもなんとか使えそうな道具類。
【C-7/水族館・事務室/1日目-日中】
【ラッド・ルッソ@アニ2】
[状態]:不死者(不完全)、ずぶ濡れ
[装備]:黒いスーツ(損傷(小))
[持物]:デイパック、基本支給品一式、結城奈緒のデイパック(基本支給品一式(食料ほぼなし))、DMカード(強制脱出装置)@ニコロワ(2日目深夜まで使用不可)、
:黒いリボン@アニ2、テッカマンエビルのクリスタル@アニ2、不死の酒の空瓶@アニ2
[方針/行動]
基本方針:参加者を皆殺しにして優勝。そして主催者達も皆殺しにする。
1:奈緒を追う? 他の参加者を探す?
2:あの変態野郎(阿部)を探し出して、完膚なきまでに殺す。
3:武器をどこかから調達する。
4:かがみから奈緒の情報の真偽を聞き出す。そして殺す。
5:死にたがってる奴は殺してやる。死にたがってない奴も漏れなく殺す。
【ラッド・ルッソ@アニ2】
[状態]:不死者(不完全)、ずぶ濡れ
[装備]:黒いスーツ(損傷(小))
[持物]:デイパック、基本支給品一式、結城奈緒のデイパック(基本支給品一式(食料ほぼなし))、DMカード(強制脱出装置)@ニコロワ(2日目深夜まで使用不可)、
:黒いリボン@アニ2、テッカマンエビルのクリスタル@アニ2、不死の酒の空瓶@アニ2
[方針/行動]
基本方針:参加者を皆殺しにして優勝。そして主催者達も皆殺しにする。
1:奈緒を追う? 他の参加者を探す?
2:あの変態野郎(阿部)を探し出して、完膚なきまでに殺す。
3:武器をどこかから調達する。
4:かがみから奈緒の情報の真偽を聞き出す。そして殺す。
5:死にたがってる奴は殺してやる。死にたがってない奴も漏れなく殺す。
[備考]
※238話「ディナータイムの時間だよ(食前)」の、死亡前から参加。
※自分が不死者化していることに気づきました。
※他の不死者を『喰う』ことができないことに気づきました。その原因を分かっていません。
※238話「ディナータイムの時間だよ(食前)」の、死亡前から参加。
※自分が不死者化していることに気づきました。
※他の不死者を『喰う』ことができないことに気づきました。その原因を分かっていません。
※遊城十代の遺体はB-6病院内、霊安室に安置されています。
126:予定通りの非日常 | 投下順に読む | 128:私にできること/一緒にできること |
122:女はひとり道をゆく | 時系列順に読む | 123:RHKにようこそ! |
111:こくまろみるく | 結城奈緒 | : |
111:こくまろみるく | ラッド・ルッソ | : |
115:Survivor Series | シグナム | : |