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RHKにようこそ!

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RHKにようこそ! ◆X5fSBupbmM



 寝入ってしまったことが致命的なミスだった、と三村信史が後悔したのは、二回目の放送開始直後だった。
 延長コード代わりにするためのコードを隣室から切り取ってきたはいいが、
うまく適応せず四苦八苦している間に、放送を迎えてしまったのだ。
 元々、時間的余裕はなかったため、こうなったのはしかたなかったのかもしれない。

 放送で名前を呼ばれたジョセフ・ジョースターのことを思い出しながら、彼は歯を食いしばる。
 前の殺し合いでは『魔女』柊かがみの犠牲となり、この殺し合いでは、顔も見ることなく逝ってしまった。
 もしかして、と思い続けていたが、もしあのピエロの言葉が本当ならば…、

(あいつは蘇らされた上で、また殺し合わされたっていうのかよ…!)

 三村は歯を食いしばり、涙を流した。焦りのせいか、涙腺が緩んでいたのかもしれない。
 気のいいお人好しで、しかくクールに物事を見ることができる男だった。
 死を二度も迎えるという苦痛を受けていいような奴じゃ、なかったのに。

 真っ先に死ぬべき存在である柊かがみの名前は、死者の中にはなかった。
 魔女である『地球破壊爆弾No.V-7』が呼ばれたことだけは幸いだったが、
柊姉妹や泉こなたなどの脅威は未だ健在だ。

「…クールに、だ…。
 ここで俺が…冷静にならないでどうすんだ…っ!」

 熱くなった目頭を拭う。泣いている暇はない。
 ジョジョのような犠牲者を一人でも減らすためにも、自分の放送を急がなくては。
 そう決心した後、しばらくコード相手に奮闘していると、がしゃがしゃと何かが擦れる音が聞こえた。
 こんな時に、と憤りながらも三村は侵入者を迎える為、警戒態勢をとった。


☆☆☆
 アルフォンス・エルリックは、がしゃがしゃと放送局内に金属音を響かせながら歩いていた。

 逃げるようにスバル・ナカジマの元から走り去った彼はその後、C-6の交差点で死体を発見した。
 派手な戦闘に巻き込まれてしまったのだろう、体が真っ二つ裂かれた少女。
 内臓と人一人分とは思えない程の血液が、信号機の残骸を赤に染め上げる光景は余りにも悲惨。
 アルフォンスは彼女を埋葬しようと考えたが、ビルが密集した地帯では適した場所が見つからず、
遺体は損傷が激しくて動かすこともままならなかった。
 結局、近くのビルの仮眠室から拝借したシーツで彼女を覆い、黙祷するくらいしかできなかった。


 一連の行動が、アルフォンスを平静へ導いたのだろうか。
 そのまま放送局へ歩きながら、少しだけスバルから覚えた違和感について考えることができた。

 この会場にいるスバルと、前の会場で出会ったスバルは、何もかもが同じだった。
 アルフォンスが記憶しているスバルと、異なる点が存在しない。

 アルフォンスは前回の殺し合いで、スバルと共にいた記憶を持っている。
 彼女のはきはきとした口調や、快活で優しい性格を知っている。
 彼女がものを食べる時の表情も、覚えている。
 そんなスバル・ナカジマという少女の存在を、この会場のスバルが
塗りつぶしていくように感じてしまったのかもしれない。

 同一人物なのだから、その精神や動作が共通するのは当たり前のことだろう。
 しかし、一つの物事の顛末の変化で、新しい世界が誕生するという、
平行世界――パラレルワールドにいる人間同士では、その経験や記憶には細かい差異がある筈だ。
 その差異が分からなかった。別の人間として存在する彼女達の、違いが見つからない。
 それが苦しかった。
 時間を共にすればする程、アルフォンスの中に存在する
別人である筈の二人の少女が、同じ人物として記憶されていく。

 ――前の会場にいたスバルと、この会場にいるスバルの存在の両方を、殺してしまう。
 あの時、そんな思いが恐怖となってアルフォンスの中に浮かび、居たたまれなくなったのだ。


 違和感の答えを模索している途中で、二回目の放送が始まった。

(僕は馬鹿だ…)

 アルフォンスは二度の殺し合いに渡って、放送で
自分や知り合いの仲間の名前が呼ばれるという経験がなかった。
 スバルの仲間の名前が出た時、初めて彼は放送に打ちのめされた。

 フェイト・T・ハラオウン。
 尊敬してやまない人だと話していた、こちらのスバルの顔を思い出す。
 今、彼女はどう思っているのだろう。そんな人物の死を、あんなふざけた調子で知らされて。
 傍にいた方が良かったのかもしれない、と後悔がアルフォンスを蝕む。

(スバルへの違和感から逃れたくて、自分から離れた癖に…。
 …身勝手だな)

 そう彼が自嘲した時、一抹の不安が脳裏を掠めた。
 この会場にいる泉こなたもアルフォンスを知らない、平行世界の住人ではないだろうか、と。


 17:00にこの辺りが禁止エリアになると分かった以上、
この周辺から早めに離れようとする人間がいるかも、と考え放送局まで来たが、誰とも遭遇しなかった。
 くさくさした思いに囚われながらも、彼は局内の全ての階を確かめるべく探索を続ける。

(ドアが全部開いてる…)

 既に、誰かが訪れていたのかもしれない。
 重厚そうな扉が全て開いている光景は、何者かが魔窟へと導く様を連想させる。
 不気味な雰囲気を漂わせる局内を歩いていると、『放送室』というプレートの嵌った部屋が見えた。
 そこから不穏な気配がする…ような気がして、彼はそちらへと慎重に進んだ。
 …ちなみにその不穏な空気は、『異臭』という非常に分かりやすい形で発生していたのだが、
嗅覚のないアルフォンスはこれに気づかなかった。

 放送室を覗き込もうとした時、背後からの僅かな音が彼の聴覚を刺激した。

「動く…ッ!?」

 瞬間、彼は巨体を感じさせない機敏な動きで、後ろに立つ存在から距離をとる。
 それが意外だったのか、目を見開いた表情で銀色の棒を構える少年がそこいた。

 普通ならば誰だ、と声を荒げる場面だろうが、

「…へ?」

 アルフォンスは場にそぐわない呆けた声を上げた。次いで、おずおずと浮かんだ疑問を口にする。

「あの…、どうして裸なんですか……?」
「……う、」

 少年が、生まれたままの姿を晒していたからだ。


☆☆☆
 結果として、この出会いは非常に有益だったといえるだろう。

「…よし、これで放送できるだろ」
「うん、よかった」

 電力供給用のコードを接続し、三村は埃で汚れた顔を拭った。
 疲れた上に焦燥の色を見せているが、その口元は笑みを浮かべている。
 ただ、パンツ一丁では決まるものも決まっていない。
 さすがに人前で全裸なのは問題だった為、パンツだけは履いておいた。
 制服は未だに生乾きだった為、放送室の片隅に干したままだ。
 アルフォンスは体格を見る限り同性だろうし、気兼ねする必要はない。
 …ガタイの割に、やたらと高い声が気になるが。


 初めは厳戒態勢でアルフォンスに接していた三村だったが、
彼がかがみの名前に反応しないことと、互いに殺し合いに乗っていないことを確認すると、
三村はアルフォンスに自身が一刻も早くここから放送したいこと、
しかし電気を供給させるためのコードがうまく繋がらず、困っていることを告げた。
 普段の彼なら、先ず柊かがみについての話をしていただろうが、今は非常事態。
 三村は、広い範囲に情報伝達できる放送を優先させることにしたのだ。

 すると、アルフォンスは放送室に置かれたコードや延長用に切り取ったもの、
隣室の電気系統のコード類を観察した後、延長用のコードを分解し、調べ始めた。
 そして突然ふんどし…もとい、腰のエプロンからチョークを取り出すと、
コンクリートの床に何かを描き出した。
 最終的に魔法陣のようになった絵の上に、彼は解体したコードの部品をいくつか置く。
 アルフォンスが手を添え陣が輝いたと思ったら、そこには真新しいコードが現れていた。

 錬金術、というらしい。魔法じみた力だが、アルフォンスが言うにはれっきとした科学のようだ。
 自分の知る錬金術とはかなり違うものだったが、三村はとやかく言わないことにした。
 もはやこのプログラムもどきに、常識を求めてはいけないのだろう。
 それに造られた延長コードはぴったりだったし、問題は何もない。
 電力の供給という問題は、解決することができたのだ。

 その後、彼がメイド服を薦めた時は変質者かと疑ったが、純粋に風邪を心配しただけの行動だった。
 考えてみれば、男にメイド服を着せようなどいう変態が、こんな殺伐としたゲームにいる筈もない。

(…なんだ、案外いい奴じゃないか)

 精神的にキツい状態で駈けずり回っていた三村は、ここで少しだけ安堵した。
 ちなみに服に関しては、丁重に断っておいたことを付け加えておく。

「…そういえば、シンジはこの機械を使えるの?」
「ああ、大丈夫だ。操作方法がこれに書いてあった」

 機械の傍に置かれたダッシュボードの中には、マニュアルが用意されていた。
 読む限りでは、放送するための操作は素人でも扱えそうな程簡単らしい。
 電気系統に問題があった癖に、マニュアルには読み仮名があるなど、妙なところで丁寧である。

(しかし、こんなモノがあるとは…。まるで参加者に何かを放送してくれと、いわんばかりだな…)

 疑問を覚えながらも、三村はマニュアルを確認する。
 どうやらこの機械はラジオを放送するのとは違い、会場の各地に設置されたスピーカーへ声を届けることができるもののようだ。
 ただ、屋内に設置していないのだろう。
 三村は、ページに書かれたキャラクターの吹きだしにある注記を睨んだ。
 『防音完備の場所には意味ナイョ ☆』とのことらしい。
 定時放送で見たナメクジを、デフォルメ化したようなキャラクターが実に腹立たしい。

(こんなところまで、人を馬鹿にするような工作をするとは…!)


 使えるようで良かった、と明るい声を上げるアルフォンスの隣で、三村は思案する。
 ここが禁止エリアに指定された以上、次の定時放送を用いて例のプランを実行することは不可能となった。
 かといって、ここが禁止エリアになる時間ギリギリに放送することはできない。
 あの魔女共の犠牲になる者が、それだけ増えてしまうだろうから。

 ――やはり、これしかないか。
 三村は意を決して、アルフォンスの方へ向き直った。

「ありがとう、アル。…それでお前に一つ、頼みがあるんだ」
「…何?」
「俺は20分後、これを使って会場にいる参加者にあることを呼びかけたいと思う。
 だから、お前は一刻も早くここから離れてくれ」
「え、どうして?」

 アルフォンスが驚いたように、高い声を上げた。

「考えてみろ。参加者が会場に放送するための設備があるのは、地図で分かる限りじゃこの放送局だけだ。
 俺が放送を始めた瞬間、ここに誰かいることがほとんどの参加者にバレる可能性も高い」
「…殺し合いに乗っている人も?」
「そうだ」

 三村は力強く頷く。

「殺し合いに乗った奴が目をつけるのは、間違いない。
 放送を済ませたら、俺もできる限り急いで逃げるつもりだが、危険なことに変わりはないんだよ。
 こいつに録音したものを放送する機能があればよかったんだが…、そんな都合のいいものはないみてえだ」

 どうやら簡略化する際、意図的に取り除かれてしまったらしい。
 やや大きめのマイクに、リアルタイムで声を吹き込むしか手はないようだ。

「そんなこと、やっちゃダメだっ。…、何か別の録音再生機器で…テープレコーダーとか、使えないの?」
「いや、俺もそれを考えたが無理だ。
 その類の機械どころか、材料になりそうなもんまで軒並み撤去されてやがる。
 お前の錬金術というのも…」

 チラリ、とアルフォンスへ視線を向けると、彼はバツが悪そうに俯く。

「確かに素材がないと練成は…無理だ」

 三村は機械に置いたパイプ椅子に座った。放送を行う為のスイッチを見る。
 電源は入っており、動作の問題も無さそうだ。これさえ入れれば、会場に音声が響き渡るだろう。

(だが、その前に…)

 ギシリ、と軋む背もたれに体重を預けながら、彼は口を開いた。

「この会場には危ない奴らがいる。俺はそいつらの危険性を伝えた上で、殲滅しなければいけない。
 詳しいことは放送で言おうと思っていたが、俺自身が危険になる以上…アルフォンス。
 お前にしっかり覚えて、そして生き残っている参加者に伝えて貰いたいんだ」
「危ない奴ら? 信史が放送で言いたいことって、主催者に対抗するためのことなんじゃ…?」
「いや、俺が伝えたいのは…」

 凄みを効かせた声で、三村は仇敵の名を紡ぐ。

「柊かがみを初めとした、魔女達の脅威についてだ……!」


☆☆☆
 三村信史はクールであり続けようとした。

 冷静に事を運ばなければ、柊姉妹ら魔女達に多くの人が蹂躙されることになる、という強い危機感を持って。
 しかし彼は、桂言葉を視認し動揺したことをきっかけに、体力を相当消耗する事態に陥った。
 その消耗は少なからず精神を磨耗させ、磨耗した精神が注意力散漫を招き、
 ついには、誤り(バグ)を発生させた。

 蓄積した疲労のために寝過ごし、時間を無駄にするという痛恨のミスがその一つ目。
 目の前に立つ鎧の胸に穿たれた穴から、背後のドアが見ているのに気づかなかったことが二つ目だ。
 ジョセフ・ジョースターの死も影響し、三村が内心抱き続けていた動揺は事態に変動を与え続けていた。

 彼が犯したミスはまだ存在する。
 その内の一つは、自らの計画を急くあまり、
 鎧の少年――アルフォンス・エルリックと遭遇した時にすぐ、柊かがみの『仲間』について聞かなかったこと。


☆☆☆


「…ヒイラギカガミ、ってさっきの…?」
「そうだ。あいつらは…!」
「あ」

 三村の言葉を遮り、アルフォンスは何かを思い出したらしく、装甲に覆われた手を打った。

「まさか、知ってるのか?」
「…いや、直接は会ってないけど、確か――」

 なるほど、既にあの女の名前は知っているようだ。好評か悪評かは知らないが、高確率で前者だろう。
 予定外だが、今すぐにでも正しい情報を与えなければ、と三村は考えた。

「アル、冷静になって聞いてくれ。
 その柊かがみという女を、信用してはいけない…」

 ここで、一瞬の間を挟む。

「…つまり! あの女は…殺戮を楽しむ、最悪の魔女だったんだよ!」
「な なんだっt ――いや、ちょっと待った! 何でいきなり『つまり』なんだよ?」
「…悪い、とちった」

 焦るあまり、結論から言ってしまった。三村は軽く咳をしてから言い直す。

「お前も知っているかもしれないが…、あの女は弱弱しいところを見せて集団に取り入る。
 そして最悪のタイミングでその集団を裏切り、皆殺しをはかる。
 俺はこの殺し合いに放り込まれる前に、別の殺し合いの会場にいた!
 そして、俺の仲間は柊かがみに殺されたんだっ!!」
「お、落ち着いてっ」

 慌てた様子のアルフォンスに制止させられ、三村は一旦口を閉じる。

「いきなりそんなことを言われても、信じられないよっ…。
 それに僕が知っているのは泉こなたっていう女の子で、そのかがみさんと直接面識は…」
「泉こなた…!」

 その名前を聞いて、三村は遅かったと嘆いた。
 明け方に対峙し退治し損なった、柊かがみが口にしていた仲間の名前だ。
 惨劇が起こる前に、アルフォンスを説得しなくては。

「そいつも、柊かがみと同類だ! そのかがみが仲間といったんだ、間違いないっ」
「え、ええーッ!!?」
「信じてくれ! お前を、あいつらの毒牙にかけたくないんだ!」

 車が燃える様が、三村の脳裏を焼いた。三村を庇ったジョジョが命を失った光景だ。
 ジョジョの仇、柊かがみ。最悪の魔女。
 次にあの女を見つけた時、彼女は新たな集団に入り込み、保身を完璧なものとしていた。
 園崎魅音が話していた妹のつかさも、姉程ではないがやはり警戒すべき存在だ。
 今朝見かけた、青い髪の双子も危険。
 そして尋常じゃない力を持った銀髪の男を、それ以上の力で嬲り殺しにしていた奴らと同じ制服の女。
 こいつは本当にヤバイ。
 どうやれば殺せるのか検討がつかない、かがみと同じ正真正銘のバケモノだ。

 そしてアルフォンスの言う『泉こなた』は、柊かがみ自身が仲間を認める危険人物。
 ――放置するわけにはいかない。
 この理不尽なプログラムもどきに巣食う悪魔共の犠牲者を、これ以上増やして堪るかッ!

 三村はバン、と手をついていた放送用の機材を叩く。
 自身の意気を高め、かつCOOLになるためだ。
 カチリ、という鼓膜へ届く小さな音を、些細なことと意識の枠外に押し出しながら、彼は粛々と語りだした。


☆★☆

 アルフォンスは困惑していた。
 三村は殺し合いを打破するために尽力せんという、いい人だった。
 その彼がゲームを止める為にどうしても必要だと言っていた放送の内容が、まさかこんなものだったとは。
 三村は共に放送設備を直す過程で知りえた限り、正義感溢れる人間だ。

 けど、泉こなたは前の会場で共にいた仲間だ。
 彼女と、彼女が友だちであると楽しそうに語った柊かがみが、
人の心に付け込む魔女だと言われても、にわかに信じがたい。
 『な なんだってーー!!』 とかいうセリフで済ませられるようなことではなかった。

 バン、と三村が放送するための機械の中央部を叩くのが見えた。
 呆気に取られるアルフォンスを見上げながら、三村が熱弁を振るい始める。

「いいか、アル。柊かがみとその妹のつかさ、そしてこの二人と同じ赤い制服を着た連中…、
 こいつらは全員、この殺し合いに乗った魔女なんだ! 特に、柊姉妹はヤバイ!
 さっきも言ったが、かがみはその常軌を逸した演技力で集団に潜り込み、隙を突いて殺しにかかってくる。
 妹のつかさもかがみが死んだ後に、
 殺戮を繰り返すバケモノと化したと他の参加者から聞いた!
 それに俺は、あの制服を着たピンク髪の女が、
 魔物のような力で他の参加者を虐殺しているのを見たんだよ!!」

 その目には当時の恐怖を思い出したのか、うっすらと涙が浮かんでいる。
 チャチな嘘を言っているようには見えない。

「そして柊かがみは、泉こなたが自分の仲間であると言いやがった…。
 こなたってのは、こういった魔女達の仲間なんだっ!
 お前に仲間がいるのなら、そいつらがヤバイ。今すぐ戻って排除しないと…!」
「…いや、この名簿の『泉こなた』さんは、今は僕の仲間と一緒にいない。
 心配しないで大丈夫だよ」
「そうか…。だが、放送で名前を呼ばれていない以上、まだどこかで生きてて…」

 思案する三村の瞳は真剣で、自分を犠牲にしてでも、事を成そうという決心で光っていた。

 しかし、アルフォンスは彼の言葉に同意できなかった。
 三村は自分が見たことが真実であると確信し、他人へ危険であると伝えようとしている。
 それは分かる。真実なら、一刻も早く伝えなくてはならないことだ。

 だが、アルフォンスも泉こなたを知っている。
 この会場ではなく、螺旋王の実験場で出逢い、自身の体のせいもあって錯乱させてしまった女の子。
 殺し合いが本物と悟った時、
彼女が見せた恐怖に震える姿や声が演技であるなど、彼には思えなかった。

 恐怖の種類は違うが、同じ絶望に晒された時の悲鳴をアルフォンスは聞いたことがある。
 自分の体が消えていく喪失感の中に聞いた、
兄エドワードの絶望に塗りつぶされながらも絞り出した悲鳴。
 こなたが叫んだ悲鳴や恐慌にきたした様子は、それとよく似ていた。

 ――彼女が嘘を吐いていたなんてこと、信じられない。
 アルフォンスは自身の記憶にいる、こなたを信じたいと思った。

 少しだけ、間を置いた。もし身体があったなら、深呼吸していただろう。

「でも、…こなたさんは、ちょっと早とちりなところもあるけど、
 殺し合いに怯える普通の女の子だった。
 彼女や、彼女が友だちだって話していたかがみやつかさって子も、そんな凶暴な人じゃない。
 僕はそう信じる」
「…聞いてくれ、それが罠なんだ。
 あの魔女達はそうやって弱者を装うことで、集団に溶け込み信用させる。
 あいつらは人の心に付込み、こんな殺し合いの場を渡り歩いている!
 俺とジョジョが前の殺し合いで、柊かがみに食らったテなんだ、そいつはっ!」

 三村は叫んだ。アルフォンスはその剣幕に怯まないまま、彼の顔を見つめる。

 柊かがみが三村の言う通りの危険人物だったとしても、それは彼がいた前の殺し合いでの彼女だ。
 平行世界のスバルの性格は、完全といっていい程同じだった。
 逆に平行世界の同一人物同士で、全く性格が異なる人もいるかもしれない。
 もしも柊かがみが、それに当てはまるとしたら…。
 いや、たとえそうだったとしても、この会場で放送させる訳にはいかない。

「…シンジが知っているかがみさんが、たとえ魔女だったとして…、
 ここにいる彼女も魔女っていう証拠があるの?」
「…どういうことだ?」

 三村が怪訝な表情を見せる。
 アルフォンスは、できるだけ平静に話を進めようと静かな口調で伝えた。

「ここへ連れてこられる前、僕も別の殺し合いに参加させられていた。
 『泉こなた』と『柊かがみ』、『柊つかさ』の名前はその時の名簿にあった。
 けど、『三村信史』や『ジョジョ』という名前はなかったんだ」
「混乱するな、惑わされるな。 60人くらいいたんだぞ、見落としがあっても…」
「僕がいた会場の名簿には、80人以上の名前が載っていた。
 そこにあった名前も全部覚えてるし、間違いないよ」

 アルフォンスは有り体にいえば、兄と同じく天才だった。
 若干9歳で難解な錬金術の書をいくつも読み解き、兄と協力して禁忌とされる人体の構築式を完成させたほどである。
 記憶力の面においてもその才能は発揮されたらしい。
 実際、今回の殺し合いが始まった直後、彼は名簿の中から認識非認識に関係なく、
正確に前回見た参加者の名前を見つけている。(参照:No.003『合成獣(キメラ)が哭く夜』)

「大体、6/氏とかでっていうとかクールなロリスキーとか、
 この名簿に載っているのは人名らしくないものが多すぎる。
 こんな名前を見つけたら、そうそう忘れられるはずがない」
「!!」
 三村の表情が歪む。
 アルフォンスはそれを妙に思いながらも、自分の知る情報について話し続けた。

「この会場に来る前、僕らが参加していた殺し合いは、それぞれ別のものなんだ。
 …こなたさん以外にも、今回の名簿の中に僕の仲間の名前があった。
 前の殺し合いをどうにかしようと、一緒に行動していた仲間だ。
 けどスバル…その仲間は、全く違う殺し合いから呼ばれた別人だったんだ。
 外見や仕草、そして性格は同一人物と思うほど同じだったけど、彼女は僕を知らなかった。
 …シンジ、平行世界――パラレルワールドって分かる?」
「…大体は」

 その可能性を考えることが、怖かった。
 それを認めてしまうと、アルフォンスがこなたとスバル、ヒューズと一緒にいたという事実を
保障する人間が、魂だけの生き物という不確かな存在の、アルフォンス自身しかいなくなってしまう。
 曖昧なアルフォンスの存在を現実のものと認める者が、消えてしまうような気がしていた。

 しかし、あえてその可能性について言及する。
 こなたが泣く顔を見るのも嫌だったのだ。


「この名簿にある『泉こなた』も、スバルと同じように僕を知らない別人かもしれない」


 記憶というものは積み重ねていくことで、その人物の人格を形成し、
関わった他の人物の記憶と合わさることで、その人物の存在を証明する。
 アルフォンス自身が、そのいい例だろう。
 鎧に宿った魂だけの存在である彼が、元はアルフォンス・エルリックという人間であること。
 それを確信させるのはアルフォンス自身と、兄を筆頭とした多くの人たちが持つ記憶だ。

 かつてアルフォンスは自分の人格が兄によって作られた、玩具ではないかと畏怖した時があった。
 その誤解も、自分や幼馴染の記憶を介することで解くことができた。
 故に、魂だけの姿という、普通の人間よりも存在が曖昧な彼はそれを強く意識してしまう。

 元の世界での知り合いがいない今では、
 記憶による存在の証明という現象に固執している、と言っていいのかもしれない。

 だからアルフォンスはスバルが自分を知らないこと、
彼女が自分が知る別の存在とそっくりであることに、強い違和感を覚えた。
 自分の中で二人のスバルが重なる様が、彼女達を『殺してしまう』という危機感となって彼を襲ったのだ。

(もう一度、スバルに謝らないといけないなぁ)

 アルフォンスのわがままで、彼女から無理やり離れたことになったことに変わりはない。
 今度はきちんと説明した上で謝ろうと決心た。
 彼は、スバルのことを思い出しながら話し続ける。
 …いや、自分自身への苛立ちのせいか、叫んでしまっていた。

「スバルが仲間だって言っていた参加者も、スバルのことを知らない別人みたいだった。
 …この会場にいるかがみさんも、パラレルワールドに住む、シンジの知らない人かもしれない!
 ここにいるのかがみさんは、何も害なんてない普通の女の子かもしれないじゃないかっ!
 放送で彼女が殺人者だ、なんて広めたら、彼女はきっと命を落としてしまう!!」
「…俺はこの会場で、かがみの奴に会ったと言っただろ。
 あいつは間違いなく、俺の知る柊かがみだった。
 しかも、しかもだ…あの時、あいつは俺達に向けた仕打ちを、あろうことか誤魔化そうとしたッ!」

 アルフォンスは、三村の『柊かがみ』に対する恨みと怒り、
そして恐怖は想像以上のものだと直感した。
 きっと、彼は今までずっと、こうやって叫び続けていたのだ。

「自分は『柊かがみ』と別人だ、というそんな小さい嘘だけじゃねえ…!
 あの殺し合いが…ジョジョや杉村の死が、ネット小説だの予定調和だの抜かしやがった!
 俺はそれが許せねえ! かがみが…いや、あの魔女共が許せないんだ!
 あんな、あんなありえねぇ大嘘を平気で吐く奴らがっ!」

 彼らは互いにヒートアップしていた。
 かがみに対する怒気を露に、三村は叫んだ。
 しかし、アルフォンスも言葉を紡ぐことを止めない。
 『ネットショウセツ』というものがよく分からないまま、続けようとしたことがなによりの証拠だ。

 まだ理解していないのに、その事実から新しい言葉を再構築しようとしている。
 そんな無理を通して道理を蹴っ飛ばしたくなる程、
 アルフォンスはこなたやその友だちを、危険に晒したくなかった。

「ありえないことは、ありえない…! 彼女の言ったことは、本当かもしれない。
 別人である可能性が少しでもある人について、
 そんなことを無差別に吹聴するのは無責任だし、こんな場所じゃ洒落にならない!!」
「…よく聞け、アルフォンス! 洒落にならないのは、あの魔女達の恐ろしさの方だっ!!
 お前は騙され、て……っ! …まさか、お前はあいつらの――!」

☆☆☆

 キ…ィー…ン……。

 三村が眉を顰めた時、彼ら二人の聴覚へなにかが戦慄くような音が届いた。
 まるで、音の大きさに耐えかねた拡声器が悲鳴を上げたような……。

「!!?」

 その違和感にいち早く気づいた三村は黙し、視線をアルフォンスから放送設備の方へ向けた。
 クールなロリスキーの名前を聞き、朝方にかがみに言われたことを思い出した時以上の動揺を、
その端正な顔に浮かべている。
 つられるように、アルフォンスもそちらへ顔を向けた。

 二人が見つめる先には――、


 マイクの傍で、赤々と光る『放送中』という文字があった。

「「……あ゛」」


☆☆☆

 三村信史が犯した、放送局での最大のミス。
 それは――機材を叩いた弾みで、放送開始のスイッチを入れてしまったこと。
 ここまで来るとやはり、COOLよりもKOOLという称号の方が彼には相応しいのかもしれない。

 ……そこ、それがデフォだろうとか言ってやるな。




【C-6/放送局/1日目-日中】

 【三村信史@漫画ロワ】
 [状態]:健康、パンツ一丁、KOOL
 [装備]:金属バット@ニコロワ
 [持物]:デイパック、支給品一式、光の護封剣@ニコロワ
 [方針/行動]
  基本方針:魔女の犠牲者を出さない。
  0:何…だと…!?
  1:アルフォンスへの対処。
  2:魔女の危険性を多くの参加者に伝える。
  3:自分に同調する仲間を集め、魔女達に対抗できるようにする。
  4:魔女やその仲間は殺す。

 [備考]
  ※登場時期は漫画ロワ185話「誰がために」の直後からです。
  ※柊かがみが自分と同じ殺し合い(漫画ロワ)から来ていると思い込んでいます。
  ※柊かがみと同じ制服を着た者は全て魔女かその仲間だと思いこんでいます。
  ※現在、以下の人物を魔女やその仲間だと認識しました。
   [魔女]:柊かがみ
   [名前を聞いた]:柊つかさ、泉こなた、地球破壊爆弾No.V-7
   [姿を見た]:小早川ゆたか、泉こなた、地球破壊爆弾No.V-7、6/氏、結城奈緒、忘却のウッカリデス、遊城十代
  ※クールなロリスキーのことは柊かがみ本人だと思いこんでいます。
  ※パンツ以外の服一式は放送室の中に乾くように引っ掛けてあります。まだ生乾きで、異臭を放っています。


 【アルフォンス・エルリック@アニメキャラ・バトルロワイアル2nd (アニ2)
 [状態]:鎧胸部に貫通傷
 [装備]:チョーク(1ダース)
 [持物]:デイパック、基本支給品一式、対弾・対刃メイド服@やる夫ロワ、こなた×かがみのエロ同人誌@オールロワ
 [方針/行動]
  基本方針:殺し合いを止める
 0:嘘…だろ…!?
 1:三村の放送を止める
 2:情報収集。また、三村の話の真偽を本人達にあって確かめる
 3:こなたに会いたい、スバルに会って謝りたい
 4:21時になったら豪華客船にいく

 [備考]
 ※スバル・ナカジマ、ラスカルと情報交換しました。
 ※スバル・ナカジマが自分と違う殺し合い会場から来たことを把握しました。



 ※桂言葉の遺体はシーツに包まれた状態で、C-6の交差点の隅に放置されてます。
 ※会場に設置されたスピーカーから、(☆★☆以降の)二人の会話が放送されました。
   しかし、スピーカーの場所によって聞こえていないところもあるかもしれません。


122:女はひとり道をゆく 投下順に読む 124:Fuck you all niggaz wanna do!
127:不都合なものは見えない 時系列順に読む 124:Fuck you all niggaz wanna do!
114:RHK(らきロワ放送協会) 三村信史  
115:Survivor Series アルフォンス・エルリック  


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