第563話:汝は村人なりや? 作: ◆MXjjRBLcoQ
 口うるさい相棒がいないことが少し、本当に少しだけ悔やまれた。
風が吹いている。
雲は流れ、木々がざわめき、そして過ぎ去る。
やっぱり交渉は不快だった、ギギナへ明確に欠落を突きつける。
彼はあまりにも完成していた。完成した人格なんて閉殻だ。外に繋がる‘手’を持たない。
彼にはいくらかの嗜みがあったし、美貌があったし、なにより強い。
そういう物がつなぐ人たちは多かった。
だけど、損とか得とか、羨望とか賛美とか、そういうものじゃない繋がり方は、今はもうジオルグ咒式事務所と一緒にギギナの中のお墓の下で眠っている。
張り付くような同情は醜いと吐き捨てた。
依頼主や敵との関係はすべて相方に押し付けてきた。
縋り付くような親愛は煩わしかった。
放埓に遊び、愛が始まる前に切り捨てた。
馬鹿らしいにもほどがあるけど、孤独な記憶が心に浮かんだ。
そんな思考が中断される。
地響きと、それに続く大きな咒式の波に晒されて。
風が吹いている。
雲は流れ、木々がざわめき、そして過ぎ去る。
やっぱり交渉は不快だった、ギギナへ明確に欠落を突きつける。
彼はあまりにも完成していた。完成した人格なんて閉殻だ。外に繋がる‘手’を持たない。
彼にはいくらかの嗜みがあったし、美貌があったし、なにより強い。
そういう物がつなぐ人たちは多かった。
だけど、損とか得とか、羨望とか賛美とか、そういうものじゃない繋がり方は、今はもうジオルグ咒式事務所と一緒にギギナの中のお墓の下で眠っている。
張り付くような同情は醜いと吐き捨てた。
依頼主や敵との関係はすべて相方に押し付けてきた。
縋り付くような親愛は煩わしかった。
放埓に遊び、愛が始まる前に切り捨てた。
馬鹿らしいにもほどがあるけど、孤独な記憶が心に浮かんだ。
そんな思考が中断される。
地響きと、それに続く大きな咒式の波に晒されて。
 地下の通路は湿っぽい。空気自体は生ぬるいのに、結露の水滴が身体の芯から熱を奪う。
ここは薄暗い、上に大きな穴ががあいてるけど、曇り空はとても暗くて、逆にここだけ光が吸い取られてる感じ。
だから、ソレが、余計に惨めに見える。
ものすごく初歩的で、それでも全部の咒式士が逃げられないリスクの結末。
そこには、戦う人たちの持つ美しさとか、誇りとか、綺麗なものはどこにも無い。
「コレが貴様の成れ果てか? クエロ・ラディーン」
‘亡骸’は答えてくれない。
ただ血の泡のノイズを撒き散らしながら、ゆっくりと収束していく呼吸音。
身体から血が、その脈動を刻みながら零れ落ちる。
穴の開いた右肺は、もう空気と血液によって完全に潰れていた。
致命的な、しかし手遅れではない一撃。
でも、「咒式ならば」まだ間に合う一撃。
ネレトーの撃鉄に指がかかる。切先が、クエロの傷口に浅く刺さる。
それでも、咒式が発動することは無い。
そんなことをする意味も無い。
「すでに答える言葉も無いか」
彼女の瞳は、彼の美貌を映していた。
ただの鏡と変わらない。憎悪もなければ恐怖も無い、一欠けらの意思も無い眼が彼の憎悪を映していた。
「ならば、なぜ私はこの瞬間に」
ここに在るのはただの死体。
自らの限界を見誤り、自らの咒式に心を喰われた、哀れな弱者の惨めな末路。
「貴様を切り捨てていないのだろうな」
戦うところで、躊躇とか逡巡が彼の足をとめることは無い。
だからコレは余興だった。少し、昔のことを思い出したから。
彼の相方なら、散々迷った挙句生かそうとする。いや、生かしてくれと頼み込む。
自分では何一つ救えない相方は何時だって、惨めに、卑屈に、醜悪に彼にどうでもいいような他人の命を請う。
果汁に溶け込んだ鉛のような、度し難い程の己に対する甘さで、誇りを汚す毒物を撒き散らす。
生成系弾頭がない、そんなものは根拠にならない。
咒式抵抗の無い身体など、彼にかかれば肉の塊だ。
その気があるなら刻んで、繋げて、弄繰り回せば、この程度の致命傷なんて殺さず済ますぐらい簡単。
不可思議が跳梁跋扈するこの島なら、あるいは何かを、弔いたい人のことやその仇のことを引き出せるかもしれない。
それともこれは復讐心なのか、とも考えた。
生かせば、彼女は保護されるものとして、立ち上がろうとする人たちを支え慰めるし、もしかしたらそれこそ醜い人たちの慰みモノになる。
いや、そんな回りくどいことでもないか、とため息一つ。
コレを生き永らえさせるだけで彼の復讐心は満たせる。戦う彼女を切り刻むより気が利いているのかもしれなかった。
撃鉄に指に力がこもる。金属の感触は夜露にぬれて氷みたいだった。
彼だって気付いている。
交渉をするということは、彼の相方に引きずられるという事。そうなって心に渦巻くのは、力の無い愚者の預言。
保険と後付で彩られた唾棄すべきもの。
彼の理想はいつだって美しい。なぜならそこに弱者は居らず、故に醜悪なものはその存在を許されない。
あるのは明快で、血塗られた決断だけだ。
迷いはあの眼鏡置きの悪癖。
彼ははいつだって、それを両断してきた。
両断していれば間違いは無かった。
(でもさ、こういうたわいもない話すら出来ないから……)
「クエロ、いつか貴様も言っていたな」
汚れなければわからない心があった。
美しいままでは聴こえない言葉があった。
「だがやはり私には不要のものだ」
ここは薄暗い、上に大きな穴ががあいてるけど、曇り空はとても暗くて、逆にここだけ光が吸い取られてる感じ。
だから、ソレが、余計に惨めに見える。
ものすごく初歩的で、それでも全部の咒式士が逃げられないリスクの結末。
そこには、戦う人たちの持つ美しさとか、誇りとか、綺麗なものはどこにも無い。
「コレが貴様の成れ果てか? クエロ・ラディーン」
‘亡骸’は答えてくれない。
ただ血の泡のノイズを撒き散らしながら、ゆっくりと収束していく呼吸音。
身体から血が、その脈動を刻みながら零れ落ちる。
穴の開いた右肺は、もう空気と血液によって完全に潰れていた。
致命的な、しかし手遅れではない一撃。
でも、「咒式ならば」まだ間に合う一撃。
ネレトーの撃鉄に指がかかる。切先が、クエロの傷口に浅く刺さる。
それでも、咒式が発動することは無い。
そんなことをする意味も無い。
「すでに答える言葉も無いか」
彼女の瞳は、彼の美貌を映していた。
ただの鏡と変わらない。憎悪もなければ恐怖も無い、一欠けらの意思も無い眼が彼の憎悪を映していた。
「ならば、なぜ私はこの瞬間に」
ここに在るのはただの死体。
自らの限界を見誤り、自らの咒式に心を喰われた、哀れな弱者の惨めな末路。
「貴様を切り捨てていないのだろうな」
戦うところで、躊躇とか逡巡が彼の足をとめることは無い。
だからコレは余興だった。少し、昔のことを思い出したから。
彼の相方なら、散々迷った挙句生かそうとする。いや、生かしてくれと頼み込む。
自分では何一つ救えない相方は何時だって、惨めに、卑屈に、醜悪に彼にどうでもいいような他人の命を請う。
果汁に溶け込んだ鉛のような、度し難い程の己に対する甘さで、誇りを汚す毒物を撒き散らす。
生成系弾頭がない、そんなものは根拠にならない。
咒式抵抗の無い身体など、彼にかかれば肉の塊だ。
その気があるなら刻んで、繋げて、弄繰り回せば、この程度の致命傷なんて殺さず済ますぐらい簡単。
不可思議が跳梁跋扈するこの島なら、あるいは何かを、弔いたい人のことやその仇のことを引き出せるかもしれない。
それともこれは復讐心なのか、とも考えた。
生かせば、彼女は保護されるものとして、立ち上がろうとする人たちを支え慰めるし、もしかしたらそれこそ醜い人たちの慰みモノになる。
いや、そんな回りくどいことでもないか、とため息一つ。
コレを生き永らえさせるだけで彼の復讐心は満たせる。戦う彼女を切り刻むより気が利いているのかもしれなかった。
撃鉄に指に力がこもる。金属の感触は夜露にぬれて氷みたいだった。
彼だって気付いている。
交渉をするということは、彼の相方に引きずられるという事。そうなって心に渦巻くのは、力の無い愚者の預言。
保険と後付で彩られた唾棄すべきもの。
彼の理想はいつだって美しい。なぜならそこに弱者は居らず、故に醜悪なものはその存在を許されない。
あるのは明快で、血塗られた決断だけだ。
迷いはあの眼鏡置きの悪癖。
彼ははいつだって、それを両断してきた。
両断していれば間違いは無かった。
(でもさ、こういうたわいもない話すら出来ないから……)
「クエロ、いつか貴様も言っていたな」
汚れなければわからない心があった。
美しいままでは聴こえない言葉があった。
「だがやはり私には不要のものだ」
――銃声。
 回転式大口径とは程遠い、高く、軽く、洗練された発砲音。
そして大質量の衝突が引き起こす多重音声。
彼は第七階位を過信していた。彼女が、処刑人が仕留めそこなうことなど夢想だにしていなかった。
近くにいて、先ほどの地響きに気付かないほうがおかしい。
戦っているのはは十中八九彼女も殺す‘乗った’化物。
彼は両断された昔の仲間を一瞥し、その手元に握られたマグナスを一瞥。
そして彼は笑った。獰猛に、野蛮に、高貴に笑った。
ほんの少しだけ、悲しかったけど。
そして大質量の衝突が引き起こす多重音声。
彼は第七階位を過信していた。彼女が、処刑人が仕留めそこなうことなど夢想だにしていなかった。
近くにいて、先ほどの地響きに気付かないほうがおかしい。
戦っているのはは十中八九彼女も殺す‘乗った’化物。
彼は両断された昔の仲間を一瞥し、その手元に握られたマグナスを一瞥。
そして彼は笑った。獰猛に、野蛮に、高貴に笑った。
ほんの少しだけ、悲しかったけど。
【E-4/地下通路/1日目・19:05】
【ギギナ】
[状態]:普通
[装備]:屠竜刀ネレトー、魂砕き 
[道具]:デイパック1(支給品一式・パン4食分・水1000ml)
デイパック2(ヒルルカ、咒弾(生体強化系5発分、生体変化系5発分))
[思考]:廊下の先を追う
ガユスとクリーオウの情報収集(無造作に)。ガユスを弔って仇を討つ?
0時にE-5小屋に移動する。強き者と戦うのを少し控える(望まれればする)。
【ギギナ】
[状態]:普通
[装備]:屠竜刀ネレトー、
[道具]:デイパック1(支給品一式・パン4食分・水1000ml)
デイパック2(ヒルルカ、咒弾(生体強化系5発分、生体変化系5発分))
[思考]:廊下の先を追う
ガユスとクリーオウの情報収集(無造作に)。ガユスを弔って仇を討つ?
0時にE-5小屋に移動する。強き者と戦うのを少し控える(望まれればする)。
【E-4/地下通路/1日目・19:05】
【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:右腕に火傷。 交戦中
[装備]:強臓式拳銃“魔弾の射手” 
[道具]:デイパック(支給品一式・地下ルートが書かれた地図・パン4食分・水1000ml)
缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)。議事録
[思考]:ピロテースを呼んで来る。
みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい
[備考]:アマワと神野の存在を知る
【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:右腕に火傷。 交戦中
[装備]:強臓式拳銃
[道具]:デイパック(支給品一式・地下ルートが書かれた地図・パン4食分・水1000ml)
缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)。議事録
[思考]:ピロテースを呼んで来る。
みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい
[備考]:アマワと神野の存在を知る
【ドクロちゃん】
[状態]:健康。足は大体完治。
[装備]:愚神礼賛 
[道具]:無し
[思考]:クリーオウを追いかける。クエロは後で治そう。
[備考]:まともに治療できないことは忘れました。
[状態]:健康。足は大体完治。
[装備]:
[道具]:無し
[思考]:クリーオウを追いかける。クエロは後で治そう。
[備考]:まともに治療できないことは忘れました。
- 2007/04/13 試験投下スレ911-912
| ←BACK | 目次へ(詳細版) | NEXT→ | 
| 第562話 | 第563話 | 第564話 | 
| 第522話 | 時系列順 | 第568話 | 
| 第550話 | ギギナ | 第571話 | 
| 第555話 | ドクロちゃん | 第571話 | 
| 第555話 | クリーオウ | 第571話 | 
| 第550話 | ヒルルカ | 第571話 | 
