「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

ミハシラの決意

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C.E74年5月、ロンド=ミナ=サハクは執務室で、第二次汎地球圏大戦、通称ロゴス戦役の行く末を最後まで冷ややかに見つめていた。結果としてラクス=クライン側の勝利に終わったが、それについてはさしたる感想は無い。
言ってしまえば、デュランダル議長とラクス=クラインのどちらが勝とうが負けようが、彼女と彼女が統治するアメノミハシラにとっての影響は小さい。
コーディネイター色・反プラント色の強いロード=ジブリールが覇権を握ると言うのならばともかく、彼は既に悲惨な死を遂げた。
ロゴスもトップを失い烏合の衆と化している。戦争が終わった後に、勝者が彼等を糾合することになるのであろう。
デュランダル議長にしろラクス=クラインにしろ、ミハシラとは基本的には友好的関係を保っていた。ディスティニー・プランの一方的な宣告や、武力に物を言わせての強引な戦争介入など、双方ともに信用できない部分は確かにあった。が、交渉がまったくできない相手ではないのだから、そこは自分の手腕次第でどうにでもなるとミナは判断していた。
今後の動きを側近たちと話し合う必要はあるだろうが、緊急性はあるまい。

「むしろ、前々から残っている宿題に目処を付けないと、な」



モビルスーツと呼ばれる兵器がC.Eにおける戦争の内容を一変させてしまって久しい。
製鉄技術の発達、銃器の発明、飛行機の開発、核分裂の発見……MSの開発はそれらにも匹敵する。
ではMSが登場して何が起こったか。
それは、優れた力量の個人が戦局を左右し得る可能性を持つようになった、ということである。
古代の英雄譚で、百人程度の英雄たちが数万人の軍勢を相手に切り結び、それを撃退するというような場面が多々ある。それは、C.E世界で現実のものとなった。
ヤキン戦やオーブ沖会戦において、フリーダムガンダムを駆るキラ=ヤマトが見せた圧倒的な力。
ユーラシア連合によるミハシラ侵攻を易々と退けたソキウスの戦績。
そしてヘブンズ・ベース攻防戦でZAFTのガンダム三機が見せた活躍。
優秀なパイロットと、その能力を完全に発揮するためのMS。軍事力というものを考える上で、この二つは絶対に外してはならないという状況ができつつあったのだ。



今、ミハシラはオーブからの難民を受け入れ、徐々に国民の数を増やしつつある。今までは、立法や行政や司法や経済といった分野を重点的に整備してきた。だが国防に関しても、そろそろ真剣に考えなくてはいけない時期に来ている、とミナは思っている。
ここでミハシラに、二つの大きな問題が立ちはだかる。
一つは、宇宙ステーションであるがゆえに、周囲を何もさえぎるもののない宇宙空間に漂っているという地理的な不利。もう一つは、国民の絶対数が少ないゆえに、兵員を増強して軍力を拡大ことが難しいという人的な不利だ。
MS開発については、オーブが持っていた技術をミハシラも受け継いでいる。また、ジャンク屋ギルドとの結び付きもあって、世界でもトップレベルの位置にいると言っても過言ではない。そうすると残るはパイロット、なのだが。

「ロウ、劾、イライジャ、ソキウス、カイト、今のところ手持ちの駒はこれくらい、か」

駒扱いされたことに、(ソキウス以外は)こぞってミナに抗議しそうな面々である。彼女もつい苦笑する。揃いも揃って一癖も二癖もある者ばかりだ。
ミハシラが危機に陥ったとして、きちんと礼を尽くして助けを請えば、それに応えてくれる者たちであるとは思う。だが、完全にあてにできるかと言われればそうではない。
ソキウスについては、ナチュラルに対抗できないという致命的な弱点がある以上、過大な期待は禁物であろう。
自分もゴールドフレームに乗れば、彼等と同程度の腕は持ち合わせている自負はある。しかし、ミナ自身が出るまでに人材が枯渇しているというのも、情けない話だ。
 できればもう少し兵士が欲しい。それも、キラ=ヤマトやアスラン=ザラに匹敵するレベルの、強力な兵士が。
ミナの偽らざる本音である。MSの開発に潤沢な予算を回し、傭兵を多数雇ってはその戦績を細かく報告させているのはそのためである。
しかし今のところ、めぼしい人材は数えるほどしかいなかった。最近では、地上にも手を広げてネットワークを構築し、リクルートに力を入れているものの、そちらの成果も芳しくない。
いまだに片付かぬ宿題。それが優秀なMSパイロットの確保という難問だった。
釣りのようなもので、人事を尽くした後は天命を待つしかないのだろうが。待っているこの時間がミナにはもどかしい。

「それにしても我が賢弟よ。そなたが存命ならば、背負う労苦も半分になるのにな」

珍しくミナが愚痴めいたことを言う。二人でいたときは、この世に自分たちの思い通りにならぬことなど、何もないと思っていた。二人ならば何でも成し得ると思っていた。世界を制することすらも。
それが傲慢から生み出された過信だったことに今では気付いているが。それでも半身を失った心の空隙は埋められることは無い。特に、今のように難題に直面しているようなときは、なおさらだ。
ふと、二人がともにいた時代を思い出し、空想にふけっていたミナを無機質なコール音が現実に呼び戻した。特定のものにしか開放していない直通のコールを示すランプが転倒している。これは……ジャンク屋ギルドのトップからの通信だ。
端末を操作し、内容を表示する。そこには簡潔にこう書かれていた。

「稀少品入手。鑑定されたし。ただし付録有。処置の指示を求む」

ジャンク屋がホットラインを使って、商品の入手をいちいち報告することなど異例中の異例だ。それこそよほどの『稀少品』であるのだろう。
果たして何を見つけ出したと言うのか。確かめねばなるまい。
ミナは秘書に告げた。ジャンク屋と会う。段取りを付けるように、と。



「これか……なるほど、わざわざ緊急で連絡を入れるわけだな」

ミナは目の前にある、MSの残骸を感慨深げに見つめる。無重力のMS用ドックに浮かんでいるそれは、右腕を無残に切り落とされ、左脚も失い、全身が傷だらけの修復不可能な残骸にしか見えない。しかし、当然ただの残骸ではなかった。
ZAFT謹製。その技術の粋を集めた最新MS『DISTINY』がそこにはあった。
未知の複合機関ハイパーデュートリオン、新型スラスターユニット、掌部にあるビームユニットも無傷だ。これを解析すれば、現在すすめている新型MSの開発にも大きく寄与することだろう。
ジャンク屋からかなりの値段をふっかけられることになるだろうが、高い金を払うだけの価値はある。むしろ、これほどの上物を見つけてきた手腕を褒め称えたいところだ。
しかし、それにしても気になるのは……

「確か、付録と言っていたな。いったい何のことだ? 」

傍らのソキウスが答えた。

「このMSのパイロットが存命していました。重傷を負ってはいましたが、命には別状ありません。その処遇を決めかねたのでミナ様に一任したい、と。
 とりあえずは病院に運んで個室に軟禁しています。意識もほどなく回復するでしょう」

パイロット、か。ジャンク屋が今更ながらに人命優先でもあるまい。パイロットの無事だけを考えるのなら、戦闘後にラクス側が負傷者の回収を敵味方の区別なくおこなっていたところだ。それに引き渡せばいいだけのことである。
ミナが手駒を集めていることを知っているジャンク屋が気を回したというところか。
確かこのMSに乗るのはZAFTの赤服にしてデュランダルの二枚刀と呼ばれ、FAITHの称号を持つエースパイロットだったはずだ。
それを取りこめれば、優秀な手駒になることだろう。
しかしそれは同時に、ラクス=クラインたちに対する不安要素を抱え込むことにもなる。自分たちに苦汁を飲ませ続けた敵方のエースパイロットをかくまわれて、悪印象を持つなという方が無理な話だ。

「さて、どうしたものか」

思案のしどころだと、顎に手を当てて考えるミナ。とりあえず、パイロットが回復したら一回直接会ってみるべきかと判断し、その場合は病院から早急に連絡を入れさせるように指示をする。
そして、ミナが件のパイロット、シン=アスカと会ったのは、DISTINYが運び込まれてから二日ほど経ってからのことだった。
シンを担当する医者はミナを目の前にした緊張もあってか、しきりに額の汗を拭いながら説明とも言い訳ともつかない言葉をくどくどと申し立てていた。

「いや、意識は運び込まれた当日には回復したのですが……精神的に不安定でして、ようやく落ち着いたと言いますか」

 どうやらすぐにミナに連絡を入れなかったことについて咎められるのでは、と危惧しているらしい。ともあれ、医者の語ったシンの様子は以下のようなものであった。



 痛む左腕と左の頬。シン=アスカが目を覚まして最初に感じたのは、その二つの痛みだった。

(ここはどこなんだ……)

 白い殺風景な天井を見上げながら彼は上半身を起こす。ぼんやりとした頭のまま、シンはふと聞こえてきた
 聞き覚えのある声に気づいた。慌ててそちらに目を向けると、小さなデスクの上に置かれた映像媒体からその声は流れていた。
そこの映っていたのは、優しげな微笑を浮かべるピンク色の髪の少女と、短い金髪の少女。

(ラクス=クライン……アスハ!?)

 何でコイツらが……呆然とするシンの目にさらに二人の人物が飛び込んできた。
短い茶色の髪に優しげな瞳。他の2人同様にその少年は微笑んでいた。
 だが、それ以上にもう一人の男の姿が彼に耐えがたい苦痛をもたらした。

(キラ=ヤマト……それに……!)

 蒼い髪に緑の瞳。一時は憧れを抱いたこともあった男。だが、そいつは自分たちを裏切った。
そして……

「思い出した、俺は……」

 寒いわけではないのに体に悪寒が走った。自分は撃たれたのだ、この男に。アスラン=ザラに!
 硬直したまま動けないシンの目の前で、優しげな笑みを浮かべた歌姫は言い放った。

「皆さん・・・世界は救われました。もうデスティニープランが発動することはありません。
議長は我々が捕らえました。平和が来るのです・・・」

 シンは最後まで聞くことはできなかった。考えるより早く絶叫しながら、彼の右手は画面の中で微笑む女に振り下ろされていた。
 その一撃で画面にひびが入り、無理な力を出したため左腕に激痛が走った。だが、体の痛みよりも心が痛かった。
 議長は負けた。そしてレイも、ルナもミネルバの皆も。あの人を上から見下ろし、神の視点で物事を見る連中によって……

「う……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 あふれ出す悔しさを抑えきれず、彼はその場に崩れ落ちると、獣の様に咆哮しながら泣いた……



結局それ以降、シンは逆上して拳を振り上げることも、絶叫することもなかったのだが、モニターを叩き割った暴挙に医師も看護師も恐れをなしてしまった。ミナを引き合わせて、シンが彼女に怪我でもさせたら自分たちの首が飛んでしまう、と。
医師たちの気の回しように、つい鼻白むミナである。怪我人如き遅れを取る自分と思われるのが、むしろ腹立たしい。相手が手を出してきたら、逆にその腕を捻り上げて骨の一本や二本を叩き折ってやるところなのに。
まあ、彼等を責めたところで何の益も無いので、ミナはとりあえず恐縮しきりの医師を、手を振って黙らせる。そしてシンの病室へとさっさと案内するように促した。


ご丁寧に鍵までかけられた個室にシンは入れられていた。強化ガラスで物が投げつけられても割れないようにもなっている。大層なもてなしぶりと言うものだった。
護衛が先に入ろうとするのを押しとどめ、ミナは病室に足を踏み入れる。
暗い室内だった。
時刻は昼なので、窓からは光が差しているはずなのだが、そこはカーテンを閉めたままで電気も点けていなかった。
ベッドに半身を起こし、視線を無地のカーテンに向けたままの患者、すなわちシン=アスカが来室者に気付き、ゆっくりと顔をミナの方に向ける。
二日の間に、ミナは様々な情報を得ていた。
過去のオーブ侵攻の際に、避難誘導の遅れのために、父母と妹を同時に失った男。
その後ZAFTに渡り、苦学の末に士官学校を卒業し、MSパイロットとなった男。
運命の悪戯からガンダムのパイロットとなり、その才能を開花させて新型MSのパイロットに抜擢された男。
 キラ=ヤマトを一度は倒したものの、再戦では完敗し、最後はキラの盟友であるアスラン=ザラに撃墜された男。
 果たしてどんな男なのか、自分の陣営に取り込んだほうが得な男か。それともラクス=クラインに引き渡して貸しを作ったほうが良いものか。
しかしシンの瞳を見た瞬間、ミナは釘付けになり、それまでの思考は遥か彼方に消え去ってしまった。



(私は、この瞳を知っている。いや、かつてこの瞳を持っていた人間を知っている)

(これは、望まぬ運命を強いられ、それを受け入れられず覆そうとする人間が宿す瞳だ)

(戻らない、手に入らないものを追い続ける強い意志の炎。それがやがて自分自身をも焼いてしまう業火であることに気付かないままに)

しばしシンの瞳をじっと見つめるミナ。やがて口を開いたのはシンの方だった。

「……いったい誰だ? アンタは」

不機嫌そうな、それでいて悲しそうな、不思議な声だった。



ミナはシンを匿うことに決めた。医療を提供し、世界情勢を伝え、しかもその行動には監視こそ付け制限を一切加えないと言う破格の待遇だ。
三ヵ月後に、傷が回復したシンが地上に戻ることを決めたときも一切引き止めず、好きなように任せた。その行動を追跡できるようにしっかりと方策を取ってはいたが。
あの日、シンに会う前に既にミナの心は決まっていた。キラ=ヤマトに土を付けた二人のうち一人。それだけのパイロットを手放すのは惜し過ぎる。たとえそれが、ラクス=クラインの不興を買う行動だとしても。
シンを何としてでも自分の手駒として取り込むつもりだった。
しかし、彼女には分かっていた。理由はそれだけではないことも。

(私は、ギナの姿を彼に重ねていたのか。野望の業火で我が身を焼き尽くす破滅の運命から、救えなかった弟を)

愚にも付かない考えだと思う。シンはシン=アスカ。ギナはロンド=ギナ=サハク。彼等は別々の人間だ。同一視するなど意味の無い行為である。
それでも、ミナはシン=アスカと言う人間に対する関心を捨てきれない。その自覚はあった。ただ、彼をミハシラの戦力に加えるという計画は十分に利に適ったものであり、決して自分が感情に流されて判断を誤っているのではない、という自信もまたあった。



そして、彼を宇宙港で見送ってから五年の歳月が経った。
シン=アスカはキラ=ヤマトとの戦いで惨敗し、現在は統一連合の治安警察に身柄を拘束されている。このままではオーブに移送されて、重犯罪人として裁かれることになろう。
そろそろ行動を起こすべきか、とミナは腹をくくる。ガルナハンで統一連合が取った行動も、ミナの決断を後押しした。ユーラシアを無慈悲に蹂躙する選択をした統一連合が、ミハシラを見逃してくれると言う保証はどこにもない。
能力的には疑問が残るが、決して悪い人間ではない従兄弟のカガリ=ユラ=アスハが、この暴挙を瀬戸際で食い止めてくれるのではないかという淡い期待も持っていたが、それも無駄に終わった。
統一連合との平和的交渉は不可能である。そうミナは結論付けた。



この日のために準備は怠っていない。エターナル・フリーダムとトゥルー・ジャスティス、そして暁に対抗するためのMSはすでに完成を目前にしている。後は……パイロットだけだ。
あの炎を瞳に宿した少年は、今どのような若者になっているのだろうか。定期的に行動報告こそ受けていたが、実際に会うのはまた別の話だ。
ミナは通信機のスイッチを入れると、秘書に命じた。

カナード=パルスは今どこにいる。会う段取りを取り付けてくれ」



地上を遠く離れた宇宙ステーション、アメノミハシラ。
その指導者により、決断が下された。
そして世界が、ふたたび激動の渦中へと包まれることになる。

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