「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第4話「語られ無き革命の記憶」

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
C.E78/2/13、統一地球圏連合首席 カガリ=ユラ=アスハは統一地球圏連合軍並びに統一地球圏連合に所属する全国家に対し、東ユーラシア革命政権討伐のための軍の出動を命令、最高議会は満場一致でそれを受諾した。

当時、大西洋連邦大統領であったカール=レノンはこれを受けて大西洋連邦軍2個師団の投入を決定、統一地球圏へ投入されることとなる。

各国軍の師団クラスでの派遣の影響は即座に現れた。2月27日のハンブルグ駐留の革命軍主力部隊壊滅を皮切りに3月3日にベルリン、8日にはヴロツワフ地方の奪還に成功。そして12,13日には、ブハラ・ブタペスト・ワルシャワの三都市の奪還に成功した。

ベルリンの奪還を目標としたオペレーション=ピースオブユーラシア(=ファーストフェイズ」、ヴロツワフ地方の無能力化を目標としたセカンドフェイズが成功を収め、オーブを主力としたキエフ方面軍、スカンジナビア王国を主力としたミンスク方面軍、旧連合を主力としたビリニュス方面軍に分割し、ワルシャワからの三軍同時進攻による革命軍防衛線の突破を目標としたサードフェイズが23日、開始されることとなった。

そして、オペレーション=ピースオブユーラシア=ドライの開始から1日たった24日、旧連合兵を主力とした旗艦であるハンニバル級地上戦艦「ハミルカル」とカサエル級地上戦艦9隻の計10隻による一斉砲撃を皮切りに革命軍防衛線の1つであるビリニュスで戦闘が開始された。

ミサイルや機体の爆炎、ビームの閃光が白銀の世界を死の世界へと彩っていく。

その中にニールたちの部隊もいた。



ウィンダムのビームライフルによってディンが撃ち抜かれ、火の玉となって慣性に従って落下していく。


「よっしゃ、まずは1機目!」


『チームスコアで見たら三等分で0.33機だけどねって、後ろから来てるよ~。』


自慢げに言うルシオルに対し、フォスタードは言いながらも左腰のスティレットを手に取り、後ろから来たグフにライフルを撃って牽制しながらグフのシールドめがけて投げつけた。スティレットは自らが持つ推力によって速度を落さずにまっすぐグフのシールドに突き刺さり、爆発する。腕ごとシールドを失い、体勢を崩したグフに接近してビームサーベルで両断した。


「よ~し、きまった。」


フォスタードにカーディオンから通信が入る。


『フォスタード!グフ相手に格闘戦を挑んだら危ないじゃないか。』


「カーディオンかい。大事大事、剣抜かれる前に盾ご破壊しておいたし。」


『いや、そういう問題じゃなくて……』


カーディオンが言いかけたとき、センサーが敵機の接近を告げるアラームを鳴らす。

相手はGAT-02L2 ダガーL3機編成、いづれもエールストライカーを装備している。先ほどまでの単独になった機体を倒していたのとは訳が違う。相手もこちらと同様にチームで行動している。

カーディオンは2人に通信を繋ぐ。


「ルシオル、フォスタード。無理に格闘戦はしないで射撃で牽制しつつ1機ずつ確実に落すよ。それと、隊長がいないからって勝手に落ちないでよ。」


『はいはい、分かりましたよっと。』『O.K。』


ライフルを構え、2,3度発射する。それを合図としたかのように互いに散開した。



カーディオンたちがいる地点は前衛が撃ち漏らした機体が来る場所であり、前衛ではより激しい戦いが繰り広げられていた。

ニールはウィンドランナーの背中のビーム機関砲でAMA-955U ヴァローナを蜂の巣にし、爆炎を尻目に通り過ぎる。

後ろに付いた2機のヴァローナの砲撃をMS形態に変形しながら上へバーニアを吹かして急上昇して自機の速度を殺しつつ回避する。そのまま相対的に前に出た2機をロックオンし、ライフルを連射する。

1機はコックピットを撃ち抜かれてその場で爆散し、もう1機も翼を焼かれて落下していく。

ニールはすかさず戦況をスキャンして劣勢になっているポイントを検索、MA形態に変形してそのポイントに急行する。

劣勢になっている部隊を助けるためだけではない。もし劣勢になっている部隊がそのまま撃破されてしまうとそこにいる相手がそのまま進行する可能性が高い。そうなると後衛で撃ち漏らした相手の撃墜を担当するカーディオンたちのような新兵にそれだけ大きな負荷を与える
こととなり、どれほどの新兵がその命を落とすかも分からないからだ。

相手も守るもののある人間であり、結局は自分も人殺し。詭弁・自己満足だということは最初から分かっていたがニールはそれでもやらないではいられなかった。

センサーに敵影が映る。2機のヴァローナと1機のアルシオーネが友軍のGAT-X399/9 ワイルドダガー1機と交戦しているようだ。ウィンドランナーの従来機よりも広いセンサー範囲に加え、ニールの要望によるセンサー系の強化が可能にした広範囲探知の結果、双方ともにまだこちらに気づいていない。

ニールはすかさずウィンドランナーのマウントラックに装備されている超高速運動体貫徹弾「ヴェスペ」の照準を3機に合わせ、発射する。

ヴァローナはそのまま狙い通り貫かれたがアルシオーネにはギリギリのところでかわされた。


「ここは私が相手する。早く艦に戻れ!」


『す、すまない!』


ワイルドダガーのパイロットはニールに礼を言うとMA形態に変形してその場を立ち去る。アルシオーネがワイルドダガーに銃口を向けようとするのをライフルを撃って牽制しながらMS形態に変形してビームソードで切りかかる。



「っち、ウィンドランナーとか言う大西洋のバビモドキかよ。俺の出世のジャマすんな!」


アルシオーネのパイロット、エルビッシュ・ロマノフ中尉はシールドで受け止めながらビームライフルにマウントしたビームサーベルを振り上げる。

ニールは咄嗟に後ろに下がる。ビームがコックピットをかすめながらもその刃を避け、そのまま両腰の対MS誘導ミサイル「カズー」を発射した。

ロマノフは右に避けようとするが小鳥のようなフォルムに変形した2発のカズーは精密にアルシオーネを追尾し、爆発する。

しかし爆煙から現れたMA形態のアルシオーネには目立った損傷が見られず、若干両翼が傷ついている程度であった。


「馬鹿が!アルシオーネの翼は盾になんだよ!そんな小細工が通用するか!」


ロマノフは背中の高エネルギー砲をウィンドランナーに向けて撃つ。

この距離ではかわせないと判断したニールはシールドでその攻撃を防ぐ。シールドは高エネルギーのビームが直撃したことで激しく赤熱する。


「耐えたか。だがこいつはどうだ!」


ロマノフはそのまま即座にMS形態に変形しながらミサイルを放つ。数発のミサイルがシールドに命中し、シールドを破壊する。


「これで終いだ!」


防ぐ盾を失ったことを確認したロマノフはそのまま急接近してビームサーベルで両断した。


「さてと、あの犬モドキを探さねえとな。ん?なんで奴のアイコンが消えな……」


ロマノフが振り返ろうとしたそのとき、衝撃が走る。頭部と脚部を、ウィンドランナーのカズーが捉えていた。

ロマノフは機体のバランスを崩してそのまま地面に墜落する。

ウィンドランナーのライフルがアルシオーネのコックピットに向けられる。すでに勝敗は明らかだった。

両断したはずのウィンドランナーがその場にいることに驚きを隠せないロマノフは叫んだ。


「てめぇ!なんで生きてやがる!確かにぶった切ったはずだぞ!」


『刀身がなければ切りようがないだろう。柄だけでどうやって切る。』


「何言ってやがんだ、テメエは。俺は……」


ニールはそのままアルシオーネを撃ち抜く。結局、ロマノフは自分の敗因を悟ることなくその身をビームに焼かれて消えた。



「それにしても、シールドを失うとはな。私もまだまだだ。バッテリーも弾丸も心許なくなってきたし、一度帰還するまでこの機体のを使わせてもらうとするか。」


撃破したアルシオーネのシールドを手に取る。落下の衝撃とマウントラッチの企画が違う問題はあったがグリップを直接握れば帰るまでの間なら大丈夫だろう。

艦に帰還しようと母艦に信号を送るが反応が無い。異変を察知したニールがスキャンを行うとセンサーが高密度のジャミングの中で感知する。艦隊が敵機に襲撃されていると、ニールの直感がそう告げていた。

高濃度のジャミングの中、1機だけかすかにセンサーに反応した。その機体の推定サイズを見てニールは驚愕する。


「このサイズは……デストロイクラスだと!!!」


ニールは急いで機体をMA形態に変形させて全速力で母艦にへと向かった



それはニールがその存在を確認する少し前にさかのぼる。

この戦いは局所的には別として全体で見ると統一連合軍が優勢であった。その勢いは今日中にでも要塞を陥落できるのではないかという楽観論がその場にいた兵士達にあったほどだった。

しかしそのような楽観論は、何もないはずだった真横からの奇襲によって跡形もなく吹き飛ばされることとなる。ステルス機能を強化したミステール級地上戦艦1隻、そしてミラージュコロイド技術を応用したステルスシステムを搭載したMS運搬車両十数台を予め側面に配置していたのである。


『諸君、我らの思いをあの統一連合の者達にぶつけるのだ!そして、奴らに見せ付けろ!我らの本当の力を!全軍出撃!敵艦隊を殲滅せよ!』


ミステール級地上戦艦「ヴォルポーニ」の艦長の演説めいた命令に合わせて運搬車両から多数のミサイルを積んだアルシオーネの部隊がジャミングのためのチャフとともに次々と飛び立っていく。

そして、ミステール級からは巨大な鴉を思わせる闇色の大型MAが隠れるのに飽きたといわんばかりに轟音を上げて飛び上がる。

アルシオーネたちのミサイル第1波がMSや艦にに向けて放たれる。

護衛隊のゲルズゲーが展開したリフレクターによってミサイルが遮られ、爆煙をあげる。その爆煙の中に大型MAが突入する。

煙が晴れ、曝したその姿はデストロイを思わせるほどに巨大な機体「ムラマサ」のMS形態がゲルズゲーの頭を握りつぶしている姿であった。

ムラマサの手から放たれたビーム刃はそのままゲルズゲーを押し潰すかのように瞬く間に破壊する。

アルシオーネたちは、真横からの現れた巨大な伏兵に浮き足立つ連合軍に対して抱え込んでいる大量のミサイルを再び放っていく。

突然の襲撃、そして盾となるゲルズゲーを失った統率の取れていないMSが次々と爆炎に飲み込まれていく。

最も近くにいたカサエル級級地上戦艦「ブルートゥス」が通信を遮断されながらも必死にミサイルの迎撃を行っていた。しかし迎撃網をものともせずに接近してきたムラマサの放ったビームスプレッサーがブリッジを火の海にへと変える。

沈黙したクラッススに容赦なくミサイルの雨が降り注ぐ。爆煙が収まったときには「ブルートゥスだったもの」はただの無残な金属の塊と化した。



そのころ、カーディオンたちは未だにダガーLの部隊と交戦していた。

カーディオンは1機のダガーLに照準を定めようとするが、エールを装備した相手の機動力を追いきれず、狙いをつけられない。

ダガーLがビームサーベルを引抜き、カーディオンのウィンダムに切りかかる。

距離をとって射撃戦に持ち込もうとするカーディオンだが、滞空性を重視したジェットでは高機動性を重視したエールに逃げ切れるはずもない。やがては追いつかれ、切りかかるダガーLのビームサーベルをシールドで受け止める。

(2人はいったい…!)

ビームライフルからビームサーベルに持ち替えて応戦しながらカーディオンは戦況を確認する。

ルシオルは自分と同様に近接戦に持ち込まれ、フォスタードは反対に距離をとらされ続けている。二人とも自分の得意な領域で戦うことができていないまずい状況だ。今起きている鍔迫り合いの均衡もエールとジェットの推力差を考えるとすぐに崩されるだろう。

どうしたらこの状況を打破できるかを思案していると、ふと一つの案が思い浮かんだ。……ただそれが成功するのか、といわれると微妙な案ではあったし、機体に大きな負荷をかけることにもなる。

(……整備陣に怒られて助かるなら安いもん…かな……)

残されているであろう時間は少ないからと自分に言い聞かせ、カーディオンはウィンダムの左足でダガーLの腹を思いっきり蹴りつけた。

普通、MS戦ではUMF-5 ゾノのような一部の機体を除いてパンチや蹴りといった攻撃をすることは無い。なぜなら火器を使って攻撃するよりも相手に与えられるダメージが少なく、むしろ自分の方が壊れる危険性が高いからである。しかし、トン単位の物質と衝突するのだからいくらダメージが少ないといってもMSの体勢を崩すには十分である。

だからこそダガーLのパイロットはその行動に反応できず、その一撃を直に受けることになった。

体勢を崩したダガーLに向けて、シールドに内蔵されたヴェルガーSA10多目的ミサイルを1発発射する。

ダガーLが体勢を戻すより早くミサイルはダガーLの右腕を捉え、破壊した。カーディオンは続けてもう1発発射する。

こちらはシールドで防がれるが、カーディオンはそのまま接近して抜いたままだったビームサーベルでそのシールドを突く。

鍔迫り合い、そしてミサイルによって限界に達していたダガーLのシールドは腺ではなく点で来るビームサーベルの熱量を処理しきれず、コックピットごと貫かれた。コックピットを貫かれたダガーLが力なく落下していく。

カーディオンはルシオルと相対しているダガーLに向けてライフルを数度発射する。

サーベルで切りかかっていたダガーLはその攻撃をかわすが、それによってルシオルと間を取ってしまう。


「散々纏わりつきやがって、喰らいやがれ!」


ルシオルはストライカーに装備されているMk438 3連装ヴュルガー空対空ミサイルをビームライフルと共にダガーLに向けて発射する。

ダガーLはバルカンで撃ち落しながらかわそうとするがカーディオンのビームライフルの1発に頭部を捉えられ、そのまま次々とミサイルをその身に受けて爆散する。

フォスタードと相対する残りのダガーLに対して二人はビームライフルを発射する。

フォスタードを相手していて対処が遅れたダガーLはエールストライカーを撃ち抜かれて落下していく。


「これで終わりっと!」


フォスタードは残る右腰のスティレットを取り出して落下するダガーLに投げつけた。スティレットはそのままダガーLのコックピットを突き破り、爆ぜた。



「二人とも、大丈夫?」


『うん。大事だよ~。』『ああ、あんがとな。こっちも大事だ。』


「それじゃ、一度艦に戻ろう。フォスタード、連絡をお願い。」


カーディオンはフォスタードに指示する。


『分かったよ~っと。……あれ?おかしいなぁ……。』


「どうしたの?」


『それが、艦と全く通信が繋がらないんだよ。いくら通信が混雑しててもここら辺なら届くはずなのに。』


『おいおい、そんなことあるわけねえだろ。俺等か艦隊のどっちかが妨害受けてるならまだしもよ。』


ルシオルの一言を聞いたカーディオンが機体を急上昇させながら周囲をスキャンし、艦隊のいるであろう方角を確認する。

そこに映ったのは大量の戦闘機型MAと大型MS、所々火を噴いている艦隊の姿であった。戦闘機型MAはアルシオーネ、大型MSはアンノウンとモニターは示している。

カーディオンが叫んだ。


「艦が攻撃されてる!」


『そんな!』『マジかよ!どうやって来やがったんだ。』


「そんなことより今は早く救援に行かないと……!」


カーディオンが言いかけたとき、機体に衝撃が走る。ヴァローナの攻撃によってジェットストライカーが被弾したのである。飛行機能を失ったウィンダムはそのまま高度を落していく。


「ジェットは……もう使い物にならない。だったら。」


カーディオンはウィンダムからジェットストライカーを切り離して着地する。切り離されたジェットストライカーはそのまま前方の地面に激突し、爆散する。


『大丈夫!?カーディオン。今ルシオルが相手を抑えてるけど押されてるよ。早く来て!』


「フォスタード、分かった。こっちは大事だよ。今援護に……。」


そのとき、体を突き刺すような感覚を覚えた。

無意識のうちに左肩のスラスターを吹かしてその場を離れる。その数瞬後、機体にロックオンされたことを示すアラームが鳴り響き、先ほどまで自分がいた場所にミサイルが降り注ぐ。アラームがなった後に反応していたら間に合わなかっただろう。


『カ、カーディオン!』


「新手だって!?くそ、こんな時に!」


ミサイルの方向からエールを装備したダガーLに似た機体が現れた。



『へえ、雑魚ぞろいの連合としてはなかなかやるみてーだな。』


「ダガーL!?でもなんだか……違う?」


『そりゃそうさ。こいつはカタール、ダガーLを弄くってできた機体だ。ちなみに、俺は雇われの身でね、給料もらうのに後1機落さなきゃならないんだよ。っつう訳であんた、死んでくれや。』


そういうとカタールのパイロットは右腕の攻盾システムに装備されている52mm機関砲をウィンダムに向けて撃ってきた。


「そんな理由で殺されたくありませんよ!」


カーディオンはシールドで弾幕を防ぎながら左側へかわし、ビームライフルで反撃を試みたがカタールに軽くかわされて当てられない。


『っへ、攻撃はなっちゃいねーな!』


カタールの右肩に装備されたミサイルが発射される。

カーディオンは後ろへ下がってミサイルを引きつけて一気にジャンプし、ミサイルの上を通り抜ける。着地を追撃されることは予想できたので着地した直後に右へかわそうとしたが、アラームが鳴り響く。


「このアラームは……、左足関節に異常な負荷が…!やっぱりあの時…。」


その一瞬の差が回避を遅らせた。カタールの放ったパンツァーアイゼンがウィンダムの左足を捉える。


『捕まえたぜ…、オルァー!』


カタールはアンカーケーブルを引っ張りウィンダムを転倒させる。そしてそのまま攻盾システムのブレードを展開しながらジャンプした。

カーディオンはシールドを掲げて防ごうとするが直感的に防ぎきれないことを理解する。

(このままだと、死ぬ!どうしたら!)

そのとき、カーディオンは無意識的に信じられない行動に出ていた。



「これでボーナスは頂きだ!」


カタールの重量を乗せたブレードがウィンダムのシールドに振り下ろされる。ウィンダムのシールドは鈍い金属音を立てて切り裂かれる刹那、その裏側から2本のスティレットを指に挟んだ腕が突き破ってきた。そのスティレットの片方はブレードと接触し、もう一方のスティレットは腕を離れてカタールの左肩に突き刺さってそれぞれ爆発した。


「な、何ぃ!ぐあぁ!!!」


カタールのパイロットにとって戦いの素人だと思っていた相手が突然、捨て身の攻撃を繰り出してきたことは信じられなかった。

カタールはそのまま弾き飛ばされる。



「た、助かっ…たの?」


カーディオンは先ほどの光景……っというよりも先ほどの自分の行動が信じられなかった。

なぜあのような行動をとったのかをあのときの自分に問いただしたい感じがしたが今はそれどころではなかった。


「えっ……えっと、機体の状態は……、右腕は全壊、全身にダメージ有り。よく…生きてたな。…でも」


ウィンダムのモニターは武装を使うための残った左腕のコネクターに損傷が発生し、ビーム兵器の使用が不可能であることを示していた。
もっとも、コネクターが生きていたとしても引き倒されたときの衝撃でビームライフルが使い物にならなくなっていただろうから大して変わらないが。

(助けに行きたいのに……、何もできないだなんて。)

感傷に浸るカーディオンの耳に突然アラームが鳴り響く。画面に見やると頭と左腕を失っていてもはやジャンクと見分けがつかないほどに破壊されらカタールが立ち上がろうとしている。


「そ、そんな。こんなときに!っく、動け、動け!」


カーディオンはウィンダムを起動させるが駆動系にも相等ダメージがあり、ウィンダムのフレームが悲鳴をあげ、思うように動けない。
立ち上がったカタールは52mm機関砲をウィンダムのほうに向ける。

そのとき、カタールはコックピットをビームに撃ち抜かれて爆散し、正真正銘のジャンクとなっていた。


「え!?……何…?」


カーディオンがその方向を見ると1機のムラサメがライフルを手にその場にいた。



この俺、タキト・ハヤ・オシダリ二尉は今、旧式となったムラサメに乗って激戦地となってるミンスクにいる。

なんでオーブ兵がこんなところにいるのかって?大きなお世話だ!

こっちにだっていろいろ事情があんだよ。

治安警察の職権乱用ぶりに口出ししてメサイアでの功績でようやく舞い戻った三佐からまた二尉に逆戻りしたとか、今回の作戦では旧連合軍の支援という名目で本隊から単身飛ばされたとか、そういうんじゃねえからな。……ぐすん。

とにかく、今回の一件で学んだことがある。

それは、「人は同じことを繰り返す生物だ。」ってことだ。しかも特に感情が理性より先走る奴ほどそれが多いというオマケつきだ。

リンナとはよりを戻せるかと思ったら結局振られちまうし、セイラン家から持ち出した隠し財宝もメサイアに行ってる間に隠した場所に場違いな建物を建てる計画のせいで測量の際に見つかって回収されちまうしホントろくなことがねえ。まあ、その財産が俺らが持ち出したものとばれずに済んだのだけは不幸中の幸いだったけどよ。

機体に関しても本当なら新型のマサムネが良かったんだが治安警察からの圧力(に違いねえ)があって乗せてもらえねえ。本当ならルタンドに乗るところをスズキ一曹とタナカ三曹がデータを改ざんしてくれたおかげでどうにか乗り慣れたムラサメに乗ることができた。

おまえら、もし生きて帰れたらあとでなんかおごってやるからな。

そんなわけで俺はたまに隙だらけの奴に1発攻撃しては離れる程度で極力MA形態で逃げ回り続けていたんだが、そんな考えでいたバチが当たったのかいつも間にやら4機のヴァローナに追いまわされるはめになっていた。

冗談じゃねえ、一体俺が何したんだってんだよ。追いやすい獲物なら他にごろごろいるっつうのに、畜生!

奴らはどうにか振り撒けたが考えてみると今のところ1機も撃墜しちゃいねえ。支援という名目で来た奴が前線に出ておきながら1機も撃墜せずに帰ってきたらさすがにやべえな。

そう思って俺は周囲をスキャンすると左後方に敵軍の機体がいた。この形式番号は確かカタールとか言うPMCでよく使われるカスタムMSだったな。

そっちを振り向いてカメラで見てみると頭と左腕のないジャンク寸前の機体が突っ立っていた。おそらくこいつがカタールだったんだろう。どうやったらこんな壊れるんだ?こんな状態の奴を撃つのはちと気が引けるが結果を出さないわけにもいかねえからやらないわけにも行かない。


「悪いな。」


俺は短く謝るとムラサメのビームライフルの照準をその機体に合わせ、発砲する。通信を繋いでいないのだから聞こえるわけがないがそこはまあ、ノリだ。

発射されたビームは全て正確にコックピットを貫いて機体を爆発させる。

一応結果を残したからとっとと帰ろうとしたとき、通信が届く。予想だにしていなかった俺は内心ビビリながらその通信を繋いだ。


『あ、あの。助けてくれてありがとうございます!』


それはまだあどけなさの残る少年だった。礼を言われるのは嫌な感じはしないがどうせなら美女に言われたかったもんだ。

助けるつもりどころか、いた事にも気づかなかったんだが……まあ、そこは言わないでおこう。


「い、いやー。間に合って何よりだ。それよりもそんな状態じゃ戦えないだろ?早く自分の艦に戻った方がいい。」


『それが……。仲間がまだ戦っているのです。おいてはいけません。虫のいい話ですが、僕の代わりに助けに行って頂けませんか。』


まじかよ。本当になんで俺はこういう面倒ごとに巻き込まれるんだ。正直言えばこいつの言うことを無視して帰りたいんだが、このままほっとくのも何だが目覚めが悪くなりそうなんだよなぁ。しょうがねえし、引き受けるか。


「あ、ああ……。わかった。何とかしよう。」


俺はもう一度戦況をスキャンし、いるであろう方向を確かめる。程なくして少年が言っていたと思しきウィンダムを発見する。あー、こりゃやべえな。どっちも押されてやがる。ちっと急いだ方がいいか。

そう思って俺はムラサメの変形シークエンスを作動させた矢先にウィンダム2機と交戦していた2機のヴァローナが撃ち抜かれ、爆散する。

この行き場の無い機体はどうしたらいいんだ……。俺は虚しくなった。


『えっと……、どうしましたか……?』


動かなくなった俺を心配したのか、はたまた怪しく思ったのか少年が声をかけてきた。


「あっいや。君の言っていた仲間と思しき機体はほかの友軍に助けられていてね。」


『そうですか。良かった……。』


どうやら心配していたようだ。こいつ、本当にいい奴だなあ。気を取り直して機体を確認する。

シグナルによるとヴァローナを撃ち抜いたのはウィンドランナーとか言う航空MSだった。

いたるところでバビモドキって言われてるから名前だけは覚えてたが、見ても脚部の変形機構が同じぐらいでモドキというには違いすぎると思うんだがなぁ。

まあ良いや。お守りをとっとと済ませたいし早くあいつらと合流すっか。


「早く彼らと合流して艦に戻ろうか。私の母艦はブルートゥスなのでね。ここでお別れだ。」


そう言って離れようとしたとき、少年があっけにとられた感じに答えた。


『えっ、ひょっとして……知らないんですか。艦隊が奇襲にあってブルートゥスが轟沈したこと。』


「……ほぇ?」

(ぶるーとぅすがごうちんした?)

突然知らされた事実に俺は何を言っているのかが暫しの間、理解できなかった。



「お前ら、早く乗り込め!」


ニールはウィンドランナーのビームライフルでカサエル級地上戦艦「スッラ」に取り付こうとするヴァローナを撃ち抜きながら被弾しているカーディオンたちに激を飛ばす。

スッラへ放たれたアルシオーネのミサイルを、ニールは奪ったシールドで防ぎ、オシダリ二尉がムラサメのビームライフルで敵機を追い払う。

突貫で修理を終えた友軍機が出撃したのを確認して二人も急いでカタパルトに入り込んだ。MSデッキに着地し、メカニックに指示を出す。


「ウィンドランナーに弾薬とバッテリー、それと新しい盾の補給を頼む!補給が完了しだいすぐに出撃する。」


「こっちのムラサメもだ!」


メカニックの分かってるという返事を聞いてそのまま二人は機体から降りる。


「オシダリ二尉、先ほどは私の部下を助けていただいことに礼を言わせていただきたい。」


「いやいや、礼を言うのはこっちだ。あんたの部下が教えてくれなかったら俺は死んでたかもしれなかったんだからよ。」


ニールの礼に対し、オシダリも礼を述べる。オシダリはそのまま話を続ける。


「そういや、そのあんたの部下は今どこにいるんだ?一目あってみてえんだけど。」


「あいつらにですか。この艦に先に入れたのは確かですが……。あっ、おそらくは…その…あそこらへんです。」


ニールが間が悪そうに指差した方には、精根尽き果てた様子の新兵達がいた。中には体力・気力も残っていないらしく、倒れこんだままの者もいる。
惨状を目の当たりにしたオシダリは呆れかえって答えた。


「おいおい、1回でこれかよ。こいつらっつうかおまえんとこの国、本当に大丈夫か?」


「……まあ、あいつらは今まで後方支援に回ってて、今回のような修羅場は初めてだった。っということにしておいといてくれ。」


ニールは苦笑しながらもフォローに回る。

そのとき、着弾音とともに艦に震動が走る。


「おっと、まだ戦闘区域は脱していなかったな。」


「しょうがねえな。もう一回出るか。」


そう言って、2人は再び自分の機体の方へ向かって歩き出した。

ポンペイウスが戦闘区域を脱出したのはそれから数時間後のことである。



作戦に携わった大西洋連邦軍人の話ではビリニュス方面軍はオペレーション=ピースオブユーラシア=サードフェイズ初日だけでカサエル級地上戦艦7隻・MS66機・大型MA3機を失い、旗艦「ハミルカル」も今後の運用は絶望的という大損害を被って撤退の憂き目に会ったとされている。

しかし、統一連合の公式記録においてはそのような記録は記されておらず、援軍の到着した3月26日まで膠着状態であったとだけ記されている。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー