空虚の輪郭 ◆6XQgLQ9rNg
まるで、打ち寄せる波が引くように。
まるで、吹き抜ける風が凪ぐように。
まるで、反響する山彦が薄れるように。
僅かな過去に命を落とした者の名と、少しの未来に立ち入りを禁じられる場所だけを残して、憎悪に塗れた声が消えていく。
魔王の声が立ち去れば、波音がよく聞こえてくる。
止まることなくリズムを刻むその音が響く民家の中に、四人の男の姿がある。
二度目の放送が始まったのは、民家に戻ったマッシュと高原が、チーム分割の話よりも先にヤキュウの話題を切り出した直後だった。
そして放送が終わった今、どのような言葉も誰の声も、そこには浮かんでいない。
望まずして訪れた沈黙の中、赤いバンダナを巻いた黒髪の男――
高原日勝は、とある男の姿を思い起こしていた。
葉巻とバーボン、くたびれた衣服がよく似合う男。
砂埃を孕んだ風を浴び、馬を駆り荒野を往く姿が絵になる男。
口数は少ないが、その胸に熱さと思いやりを抱いた男。
サンダウン・キッド。
卓越した動体視力で動作を見切り、驚異的な反応速度で銃を引き抜き、正確無比な狙いで標的を撃ち抜く。
そんな彼の姿が、瞼の裏に焼きついている。
たとえ最強を目指す挌闘家であっても、銃には勝ち目などないと思ったものだ。
それは、銃という武器そのものに対する先入観だった。
使い手が誰であろうと、銃口を向けられ引き金を引かれれば負けが確定すると思い込んでいた。
だが、実際は違う。
銃を操る敵と戦ったときに、高原は知った。
格闘技の世界と同じように、銃の世界にも達人と呼ぶに相応しい存在がいるという当然の事実を。
サンダウン・キッドは紛れもなく銃の達人と呼ばれるべき男だということを。
そして、もう一つ。
高原日勝の格闘技は、銃を前にしても通用することをも、知った。
なればこそ、高原がこう望むのは必然だった。
銃の達人であるサンダウン・キッドと、戦って勝ちたい、と。
しかし、その望みは叶わない。叶えるチャンスすら与えられない。
レイに続き、かけがえのない仲間を失ってしまった。
もう二度と。
もう二度と、あの芸術的ともいえる銃捌きは見れないのだ――。
――どいつもこいつも、勝手に逝きやがって。くそ、くそ……ッ!
内心で一人ごちても、そんな言葉は届くはずもない。
たとえ声に出していたとしても、届くわけもない。
届かせる術など、決してない。
そんな彼を鼓舞するように。
波が、鳴っている。
◆◆
嘘だと、そう思った。
そんなはずがないと、疑わずにはいられなかった。
だって、眼鏡がよく似合う幼馴染がそう簡単に死ぬなんて思えなかったから。
機械に詳しい彼女――ルッカ・アシュティアはとても聡明なしっかり者なのだ。
事実
クロノは、彼女に何度救われ、幾度助けられたか分からない。
たとえば、千年祭のときに事故でA.D.600年に飛ばされてしまったとき。
たとえば、ガルディア王国の裁判で有罪となり、投獄されたとき。
そう、たとえば。
クロノ自身が、死んでしまったとき。
彼女が側にいてくれたから、今ここにクロノがいると言っても過言ではない。
彼女の知恵が、勇気が、優しさが、その全てが、クロノの力になってくれていた。
嬉しかった。頼りになった。誇らしかった。
そして、間違いなく大切に思っていた。
ならば。
ならばと、クロノは思う。
――こんなに助けられたのに。
ルッカに、何をしてやれただろう?
胸にのしかかってくるのは、暗い後悔の塊だ。
ひたすらに重いそれは、クロノ自身の声で問いかけてくる。
ルッカがクロノを支えてくれたように、クロノはルッカを支えられただろうか。
もっと何か、色んなことをしてやれたのではないだろうか。
そんな問いに意味はない。答えを見つけたところで、全ては遅く、より深い後悔が生まれ出るだけ。
過去を変えることは不可能ではないと、そう知っていたとしても。
見知らぬ時間軸にある見知らぬ世界での過去を変えられるとは限らない。
そもそも本来、過ぎ去った時というものは変わるものではないのだ。
だから、クロノは思う。
過去に捉われて歩みを止め続けてしまうよりも、未来に想いを馳せて歩いていたいと。
そんなクロノを、きっとルッカは見送ってくれると思うから。
それは、死んでしまったルッカが望んでくれていることだと思うから。
だってルッカは、サイエンスの申し子なのだ。
そんな彼女がレンズ越しに見ていた世界は、先でしかありえない。
ただそれでも、今だけは。
あと、少しだけでいいから。
立ち止まり振り返らせて欲しいと、そう願う。
そんな彼を慰めるように。
波が、鳴いている。
◆◆
無意識のうちに、強く強く、拳を握り締めていた。
鍛え上げられた武骨な拳の中、平たい金属の感触だけがある。
皮膚に食い込んでくるそれを握りつぶしそうになっていることに気付き、
マッシュ・レネ・フィガロは慌てて拳を解いた。
掌の上に乗っているのは、一枚のコイン。
表裏一体となったそれは、かけがえのない宝物。それは、マッシュだけの宝物では決してない。
このコインには思い出が詰まっている。
父が病に倒れ、死した夜。
マッシュはただ涙を流しながら、心から自由を求めていた。
父の死を心から悲しまず、悼まず、王位の話ばかりが聞こえてくる城から飛び出したかった。
兄もきっと賛成してくれると思っていた。
だから、兄を誘った。兄と共になら、寂しくないと思った。
だが、兄は大人だった。マッシュよりも、そしてマッシュが思っていたよりもずっと、大人であった。
兄は、このコインを使って計らってくれたのだ。
マッシュが望む道を――自由を選べるように。かつ、父の遺言を果たし、遺志を継ぐために。
申し訳ないと思った。少なからず負い目もあった。
だが、それに後ろ髪を引っ張られては、兄の思いやりを無碍にするように思えた。
だからマッシュは、迷うことなく城を出た。
全て、兄のおかげだ。その懐の深さは、まさに王の器だったのだろう。
そんな兄の力になりたくて、がむしゃらに身を鍛えた。
感謝している。尊敬している。
争いごとばかりの国を嫌って城を出た後も、マッシュはフィガロの名を捨てなかった。
それは、王族という身分に縋りついていたかったわけでは決してない。
大好きな父と、母と、兄の家族であるという繋がりを手放したくなかったからだ。
――俺は……親父が恥じないような王か?
当たり前じゃないか。当然じゃないか。
フィガロの王は、兄貴しかいないんだぜ。
なのに、なのに。
もう、彼はいないのだ。
――なんだよ。兄貴が死んだら、世界中の女が悲しむんじゃなかったのかよ。
あまりにも早すぎる、兄の死。
フィガロの名を冠する者は、もう、マッシュしかいない。
その現実は、寂しさは、悲しさは、どれほど身を鍛えていても重すぎて。
これから国はどうなるかなどといった賢しい考えは持ちきれなくて。
ただ、溢れ出る感情だけに流されて。
マッシュは、身を震わせる。大きな体を、ぶるぶると震わせて。
マッシュ・レネ・フィガロは、涙した。
そんな彼を抱き寄せるように。
波が、声を上げている。
◆◆
波の音に纏われたその部屋で、悲しみが落ちる部屋の中で、誰ともなく顔を上げた。
高原が外を一瞥する。
クロノがゆっくりと立ち上がる。
マッシュが太い親指で目じりを拭う。
三人は顔を見合わせると、同時に一つ頷いた。
彼らは知っている。
涙を流して塞ぎ込むだけが、死者に対する弔い方ではないということを。
大切な人のことを、大好きな人のことを想うのに、涙は似合わないと。
言葉では上手く伝えられない感情を、ダイレクトに伝える方法があるということを。
その全てを、もう一人――ユーリルにも伝えようとして、気付く。
いつの間にか、ユーリルが座っていたはずの椅子は、空になっていた。
【D-01 港町 一日目 日中】
【クロノ@
クロノ・トリガー】
[状態]:健康
[装備]:サンダーブレード@FFⅥ
鯛焼きセット(鯛焼き*1、バナナクレープ×1)@LIVEALIVE、
魔石ギルガメッシュ@
ファイナルファンタジーVI
[道具]:モップ@クロノ・トリガー、基本支給品一式×2(名簿確認済み、ランタンのみ一つ) 、
トルネコの首輪
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ユーリルを捜す。
2:
エイラのときのように、ルッカのことを皆に伝えたい。
3:打倒オディオのため仲間を探す(首輪の件でルッカ、エドガー優先、
ロザリーは発見次第保護)。
4:魔王については保留。
[備考]:
※自分とユーリル、高原、マッシュ、イスラの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期はクリア後。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。その力と世界樹の花を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※少なくともマッシュとの連携でハヤブサ斬りが可能になりました。
この話におけるぶつかり合いで日勝、マッシュと他の連携も開拓しているかもしれません。
お任せします。 また、魔石ギルガメッシュによる魔法習得の可能性も?
【高原日勝@
LIVE A LIVE】
[状態]:全身にダメージ(小)、背中に裂傷(やや回復)
[装備]:なし
[道具]:死神のカード@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:ゲームには乗らないが、真の「最強」になる。
1:ユーリルを捜す。
2:レイのときのように、
サンダウンのことを皆に伝えたい。
3:ユーリルと合流後、チームを分割する。
4:武術の心得がある者とは戦ってみたい。
[備考]:
※マッシュ、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済。
※ばくれつけん、オーラキャノン、レイの技(旋牙連山拳以外)を習得。
夢幻闘舞をその身に受けましたが、今すぐ使えるかは不明。(お任せ)
※ユーリルの装備している最強バンテージには気付いていません。
【マッシュ・レネ・フィガロ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:全身にダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:スーパーファミコンのアダプタ@現実、ミラクルショット@クロノトリガー、表裏一体のコイン@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:ユーリルを捜す。
2:ティナのときのように、エドガーのことを皆に伝えたい。
3:チーム分割はユーリルの様子次第にする。
4:首輪を何とかするため、機械に詳しそうな人物を探す。
5:高原に技を習得させる。
6:ケフカを倒す。
[備考]:
※高原、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期はクリア後。
◆◆
外に出れば、波音が耳につく。
海は穏やかにも関わらず、寄せては返し砂浜を洗っていく波の音は、無遠慮に鼓膜を震わせてきた。
石造りの、だだっ広い港町は恐ろしく静かだった。
港町とは、様々な国の人々が行き交い、あらゆる国の物品が集まる場所だ。
数え切れない人が集まり無数の文化が入り混じれば、活気が生まれる。そこは騒がしいくらいに生き生きとしていて、活力と力強さに溢れているはずだ。
無論、港町の規模によって差異はあるが、この広い港町は活気がよく似合いそうだった。
だというのに、今聞こえる物音は波音だけ。海鳥の声すら聞こえはしない。
だというのに、今街道を歩くのは一人だけ。話し声すら聞こえはしない。
ユーリルは、感情の宿らない表情で町を行く。
石畳を叩く靴音を、わざと立ててみる。
それでも返ってくる音は他になく、空しさだけが募っていく。
ここは、空っぽだ。
中身など何もない、ただ港町のカタチをしただけの模型。
声を張り上げる商人も、豪快な漁師も、異国からの来客者もいない。
カタチだけの港町。
そんなものに、何の価値があるんだろう。
ぼんやりと思いながら、ユーリルは歩く。
オディオの放送が終わるとほぼ同時に、ユーリルはクロノたちのいる民家からそっと出てきていた。
三人とも悲しみに暮れていたせいか、彼を見咎める者はいなかった。
彼らと共にいるのが、ユーリルには辛かった。
ヤキュウの話で楽しそうに盛り上がる彼らの側は、自棄になりつつあるユーリルには温か過ぎた。
思わず、溜息が漏れる。
これから、どうすればいいだろう。
空っぽの街を、生きていない街を歩きながら、考える。
勇者なんて止めてやる。
そう決めたのはいい。もう、そんな称号なんて欲しくない。
だが、だからといって何もしたくない。何をすればいいのか分からない。
思考は前進を放棄し後退を忌避し、すぐに停滞する。
時が止まってしまったような世界の中、波音だけが時間の進行を証明している。
不意に、ユーリルは気付く。
――僕とこの街は、同じだ。
拠り所を、道標を失い、何もかもがどうでもよくなってしまった自分。
恐怖を悲哀を絶望を押し殺し『勇者』であろうとした反動で、いつしか、『勇者』という肩書きに縋らなければ立てなくなっていた。
その肩書きを、使命を杖代わりにしなければ歩けなくなっていた。
だがもう、その肩書きなど存在しない。否、始めから存在しなかったのだろう。
ただ、気付けず踊らされていただけで。
勇者。導かれし者。
そんな、甘く勇ましい肩書きを大切に思っている間は、進んでいけた。
だがユーリルは、それが虚構であり、身勝手に押し付けられた重荷だと感じてしまった。
一度転がり落ちれば、転落は止まらなかった。荷物が重すぎたせいで、止められはしなかった。
だから捨てた。いらないから。邪魔だから。
だが、 未練などない重荷は、その質量ゆえに、ユーリルの心にふてぶてしく居座っていた。
結果、彼は空っぽになってしまった。
この街と、同じように。
張りぼて。模型。
ヒトのカタチをしているだけの、死んでいない人形。
外枠だけあって中身のない、空虚の輪郭。
――そんなものに、何の価値があるんだろう?
波音は止まらない。
そこに身を委ねてみようか。
そんなことを考えて、ユーリルは、足を止めた。
圧力にも等しい強烈な気配が、左手側――埠頭側にあったからだ。
その気配に追随するように、音がする。
がちゃり、がちゃり。
石畳を金属で叩くような、重厚な物音が、波間を縫って聞こえてきた。
隠そうともしない足音。奇妙に穏やかな靴音。
仮に足音などしなくても、ユーリルはその誰かの存在に気付いていただろう。
何故ならそいつは、圧倒的な存在感を放っていたからだ。
獲物を前にした肉食獣のような獰猛さによく似たその気配は、酷く生々しく血生臭い。
その気配は、生々しさゆえに、空っぽの街の中で際立っている。
がちゃり、がちゃり。
足音は近づいてくる。気配が強くなっていく。
ユーリルはぼんやりと、無感情なまま、確かに距離を詰めてくる音へと目を向けた。
そこにいたのは、水を滴らせた、たった一人の男だった。
白銀の鎧に身を包んだ、黒髪の男。
呪われし剣を携え、ゆっくりと歩いてくる男。
ただ、鮮烈だった。
何処までも痛烈だった。
その男――ハイランド狂皇子、
ルカ・ブライトは、ユーリルを認めると、唇の両端を吊り上げる。
純粋な笑みだった。
純粋な、たった一つの、強く深い感情から生み出された、暗い昏い笑みだった。
見ているだけで本能的な恐怖を駆り立てられるような、獰猛極まりない男が、禍々しい剣を片手に近づいてくる。
それなのに。
だというのに。
ユーリルは、胡乱な瞳でルカを眺めるだけだった。
恐怖も危機感もなく、無感情で無感動な視線を投げかけるだけだった。
ただ、単に。
空っぽになってしまった自分に、無価値な自分に、未練も執着も固執もなかった。
空っぽの街に現れた、空っぽではない男が振るう、皆殺しの名を冠した剣によって斬り殺されても。
別に、構わなかった。
価値など、ないのだから。
ユーリルの眼前で、男が立ち止まる。
皆殺しの剣が振りあがる。
数秒の後には、驚く間もなく呆気なくあっさりと殺されているだろう。
なのに、何の感慨も生まれない。
訪れるであろう痛みにも、失うであろう命にも、消え去るであろう自分にも。
興味なんて、ない。
呪われた剣に切り裂かれれば、痛いに決まっている。苦しいに違いない。
それでも、空っぽのまま生きるよりは、遥かにマシだった。
だからただ、ぼんやりと。
変わらない波音だけを聞きながら。
迫り来る死を、甘受する。
「……ふん」
それなのに。
不機嫌そうな声が聞こえただけで。
死は、いつまで経っても訪れてはくれなかった。
振りかざされた切っ先は、ユーリルへと落ちてはこず、静かに下ろされる。
感情の宿らないユーリルの視線の先、ルカの顔に笑みはなく、その双眸はユーリルを映していなかった。
「人間ですらないゴミか。下らぬ。斬る価値もない」
侮蔑するように吐き捨てられた、その言葉は。
皆殺しの刃よりも鋭くて、ユーリルを深く深く、抉り取った。
全身から力が抜けて立っていられなくなり、石畳の上にへたり込む。
そんなユーリルを一顧だにせず、ルカは立ち去っていく。
がちゃり、がちゃりと足音を立てて、ユーリルの横を歩き去っていく。
求める欲するように、思わず、振り向いた。
それでも、ルカ・ブライトが手を差し伸べるなどありえるはずがない。
彼の手は命を奪うためにある。人を壊すためにある。
そんな男と相対して死なずに済んだのは、人として認識すらされなかったからだ。
彼の手に在る剣は貪欲に血を求める。
そんな武器を前にして生き延びているのは、血を啜るだけの値打ちすらないと断じられたからだ。
憎悪の対象にすらならなかったユーリルに、ルカが振り向くことなど、決してしなかった。
【D-01 港町西部 一日目 日中】
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]疲労(小)、精神的疲労(小)、全身打撲と軽度のやけど(処置済み)
[装備]皆殺しの剣@
ドラゴンクエストIV 導かれし者たち、
魔封じの杖(4/5)@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち、聖鎧竜スヴェルグ@サモンナイト3
[道具]工具セット@現実、基本支給品一式×3、カギなわ@LIVE A LIVE、不明支給品0~1(武器、回復道具は無し)
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る4人及び、名を知らないがアキラ、続いて
トッシュ優先。
[備考]死んだ後からの参戦です 。
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。
※召喚術師じゃないルカでは、そうそうスヴェルグを連続では使用できません。
◆◆
取り残されたユーリルは、立ち上がることもなく俯いた。
視界に広がる、妙に小奇麗な石畳。生活感のない、空虚の街。
どうやらそこには、大きなゴミが落ちているらしい。
空っぽなままでは、生きているには辛すぎる。
それは、身をもって知った。
空っぽなままでは、死ぬことすら許されない。
それは、空っぽではない男から知らされた。
「どうしてだよ……」
意識せず、弱々しい声が落ちた。
「どうして、どうして、こうなっちゃったんだよ……」
その呟きは弱すぎて、簡単に波に攫われてしまう。
波音はユーリルを鼓舞しても慰めても抱き寄せてもくれず、それどころか、嘲笑し蔑み見捨てていく。
それは、世界の声であり世界の意思のように思えた。
無価値な存在には、世界すら優しくしてはくれない。
どうしてこうなった。
全てを投げ捨て自分を律し世界を救ったはずなのに。
どうしてこうなった。
望まれるまま期待されるがまま戦ったはずなのに。
どうしてこうなった。
どうして。どうして。どうして。
どんなに理由を求めても、どんなに答えを欲しても。
誰も答えてはくれない。導いてはくれない。
だから、答えは自分の中から探すしかなかった。
ユーリルは目を伏せて耳を塞いで、閉ざされた世界の中答えを探す。
真っ暗になれば、記憶が甦ってくる。
『勇者』として旅をした記憶。
ライアンと、
アリーナと、クリフトと、ブライと、トルネコと、マーニャと、
ミネアと共に旅をした、思い出。
記憶には、楽しかったことだって含まれている。
思い出には、嬉しかったことだって沢山ある。
だがそれらはもう、信じられない。
綺麗な思い出に『彼女』は介入してきて、囁くのだ。
『勇者』なんて綺麗な言葉は、『生贄』という本質を覆い隠しているだけだと。
耳を塞いでも、頭を振っても。
その声は、ユーリルの深奥まで根を張ってしまっていて、消えてなどくれない。
ユーリルは、彼女から目を逸らせない。
だからこそ。
ユーリルは、気付く。
――ああ、そうか。そうだ。そうじゃないか。
ユーリルが空っぽになってしまったのは、<剣の聖女>の亡霊に取り憑かれてしまったせいだ。
何故、取り憑かれてしまったのか。
そんなこと、考えるまでもない。
――あの女だ。
青い長髪をした、美しく凛とした女性の姿が思い出される。
アナスタシア・ルン・ヴァレリア。
ユーリルに<剣の聖女>の話を聞かせ、『勇者』は『生贄』と等しいと示唆した女。
――あの女のせいだ。
アナスタシアに出会わなければ、『勇者』が『生贄』であると考えなどしなかった。
考えず気付きもしないということは、無知で愚かなことなのかもしれない。
だとしても。
世界には、知らずにいるほうがよいことだってある。
考えなければ、失わずに済んだ。
気付かなければ、立っていられた。
――あの女がいなければ、僕は……!
空っぽの胸が、急速に満ちていく。
何も感じなかった心に、衝動的な激情が鎌首をもたげる。
始めて覚えるその感情は、ずっと出番を待っていたかのように、ユーリルの意識中に広がっていく。
その感情に衝き動かされて。
いつしか、ユーリルは立ち上がっていた。
いつしか、ユーリルは歩き出していた。
いつしか、ユーリルは。
歪な笑みを、その顔に浮かべていた。
まるで、ルカ・ブライトの憎しみに中てられたかのような様相で、ユーリルは呟く。
「――殺してやる」
彼を知る誰もが想像しないような、そのゾッとする声音は、波音の中で気味が悪いほどによく響き渡った。
かくして。
『勇者』の称号を捨て拠り所を失った少年は、たった一つの感情で空虚を敷き詰める。
『勇者』であったが故に、少年は、その感情を一度たりとも抱きはしなかった。
初めて抱く感情であったが故に、少年は、その感情を御する術を持っていなかった。
その感情は、御しなければ容易に暴走する、衝動的で暴力的で破滅的なものであるにも関わらず、だ。
だが、その生々しい剥き出しの感情は激烈で強い。
だからこそそれは拠り所となり、強烈な指向性を与えてくれる。
その感情だけで心を染め、人類を滅ぼそうとした、魔族の王のように。
その感情だけで心を浸し、人間を斬り捨て続けようとした、狂皇子のように。
その感情だけで心を潰し、殺戮の宴を開いた、かつて勇者と呼ばれていた魔王のように。
ユーリルは往く。
アナスタシアを殺した果てに何が待っているのか。
吹き荒れる感情の先にどんな末路があるのか。
そんなことを考える余裕もなく、ただ、感情に衝き動かされるままに、ユーリルは往く。
暗く深く生々く、純粋で強烈で、紛れもなく『人間らしい』感情。
その名は、憎しみ。
或いは――。
【D-01、E-01の境界。一日目 日中】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(小)。アナスタシアへの強い憎悪。
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@ファイナルファンタジーVI
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:アナスタシアを殺害する。
1:憎しみのまま、アナスタシアを捜して殺す。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※アナスタシアへの憎悪しか意識にはなく、彼女を殺害した後どうするかは考えてもいません。
※ヘケランの洞窟のリーネ付近の渦に繋がっていた洞窟奥の水路は、D-1港町近海に繋がっています。
D-1港町近海側の渦に飛び込んだ場合はゲーム本編同様、ヘケランの洞窟入り口近くに繋がっています。
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最終更新:2010年07月02日 21:55