壊れた心に貫く想い ◆6XQgLQ9rNg



 それは炎でもなく氷でもなく雷でもなく、風でも光でも炸裂でも隕石でもなかった。
 音などしない。眩くもない。熱くもないし冷たくもない。
 そういったあらゆる要因によって生み出される結果ではなく、破壊という概念そのものがその場で暴れまわる。
 ミッシング。
 純然たる破壊が、大気を振動させ地面を食い潰す。
 草を消し飛ばし土を削る破壊に、明確な対象など存在しない。
 終末を呼ぶ破壊の奔流は、地割れによく似た轟音を立ててケフカを除く全てを否定し尽くすように暴走する。
 そこに意味などない。
 破壊という概念そのものが、破壊という行為に意味など抱きはしないのだ。
 やがて、破壊は収束する。
 一分にも満たない僅かな時間で、その概念は草原を一瞬にして荒れ果てさせた。

 またも生まれた荒野に佇むのはたった一人の、ボロボロの姿をした道化師のみ。
 度重なる魔法の連続とミッシングのような大技の使用による消耗と、リニアレールキャノンの直撃を始めとしたダメージによって、ケフカは三闘神の力を維持できなくなっていた。

 元の姿に戻ったというのに、傷だらけだというのに、ケフカは満足そうに周囲を見渡した。
 そして、見つける。
 うつ伏せに倒れ伏す黒髪の少女を、だ。

 終末の力が荒れ狂う直前に声が聞こえた気がしたが、幻聴ではなかったらしい。
 テレポートを使ってここに来たのだろう。
 紛れもない破壊に巻き込まれたのだ、死んでいてもおかしくはない。
 それでも、ケフカは思う。
 生きていてくれたら、と。

 ――生きていてくれたら、もっと傷つけてやれるのに。

 今にも倒れそうなふらつく足取りで、ケフカはビッキーへと歩み寄る。
 すると、ケフカの願いが届いたように、ビッキーがゆっくりと顔を上げた。
 ケフカは、ほとんど化粧の崩れてしまった顔に、歪んだ笑みを浮かび上げる。

「……三人だ」

 掠れそうな声で、ケフカは語る。
 ビッキーが、ぴくりと肩を震わせた。

「感謝しているぞ小娘。お前のおかげで、俺様は三人も殺せたんだ」

 ケフカは、嗤う。
 立っているのがやっとなほどの怪我を負っているのに、愉快そうに目を細め哄笑する。

「まだ終わらんぞ。これからもっと、もっと、もっと壊してやる。
 命も、夢も、希望も。
 全てをこの手で、壊し尽くしてやる」

 恍惚として告げられる宣言に、ビッキーは、ゆっくりと首を振る。
 ただひたすらに、哀しげな顔をして、口を動かす。

「……ダメ。ダメ、だよ、そんなの……」

 ビッキーは地面に手を付いて身を起こし、起き上がる。
 そのまま立ち上がろうとするが、足腰に力が入らないのか、無様に尻餅をつくだけだった。
 座り込んだまま顔だけを上げて、真っ直ぐな視線をケフカに向けてくる。

「お願い、だから、これで、最後にして……?」

 その代わりというように、ビッキーは両の手を自らの胸に当ててから、差し出すように手を伸ばす。

「わたしの命を、あげるから。だから、ね?」

 ビッキーは、微笑さえ浮かべていた。
 その健気さに溢れたビッキーの姿を目の当たりにして、ケフカは笑いを止めずにはいられなかった。
 心を打たれたわけではない。
 愛おしさを覚えたわけではない。
 満足な気分を害されたとしか、感じられなかった。
 まだか。
 まだ言うのか、この小娘は。
 やはり頭がオカシイ。狂っている。普通じゃない。どうかしている。
 本当に――なんなんだ、この女は。
 何故こうまでもこいつは、こいつは――。

「私を、こうまでも苛々させるんだッ!」

 衝動に任せ、ケフカはビッキーを蹴り飛ばした。
 華奢な体躯が、荒野に倒れる。
 再び起き上がろうとする彼女を押さえ込むように、ケフカは、その胸を思い切り踏みつけた。
 足の下で、ビッキーがけほりと咽る。
 それでも彼女はケフカを見て、哀しそうに微笑んでいた。
 噛み締められた奥歯が、ぎりりと音を立てる。
 苛々する、苛々する、苛々する。
 この苛立ちを消すには、こいつを殺すことが一番だ。
 最後まで生かしておいて、嘆き悲しみ後悔させてやりたかった。
 自分のせいで数え切れない死が訪れたのだと思い知らせてやりたかった。

 だが、やはり。
 ここで殺しておくべきなのかもしれない。
 そうしないと、止まらない苛立ちで、気が狂ってしまいそうだった。
 足裏に、力を込める。
 柔らかな感触の中に、靴が沈んでいく。

 それでも、ビッキーは抵抗しない。
 まるで自身の願いが必ず叶うと信じているかのように。

「死ね、死ね、死ね……ッ」

 気が付けばケフカは目を血走らせ、呪詛のようにそう呟いていた。
 呟かずにはいられないほど、ケフカはビッキーに固執し、その精神は袋小路に陥っていた。

 だから、ケフカは思い至らなかった。
 ビッキー以外の三人も生きているという可能性に、だ。

「――死ぬのは、お前だ」

 背後から聞こえた声を認識すると同時に。
 ケフカの胸を、激痛が貫いた。

「な、に……?」

 呆然として、思わず見下ろす。
 胸元から、禍々しい刀身の剣が、生えていた。
 火薬が破裂する乾いた音が、背中で響いた。
 背中に押し当てられた銃から吐き出された弾丸が、ケフカの皮膚を食い破り肉に食い込んでくる。
 敵の息遣いを真後ろに感じる。
 だが、ブラッドを迎撃した破壊の翼は、今は生えていない。
 振り返る。
 肩越しに見えたのは、傷だらけになった線の細い男が、突き刺さった剣を引き抜き、更に発砲する瞬間だった。

「ぐ、そぉ……」

 喚き声は、銃声にあっさりとかき消されて。
 ケフカは、ビッキーに折り重なるように倒れこんだ。

 ◆◆

 怖い音が何度か響いたとき、わたしの上に、ピエロの姿をしたあの人が倒れてきた。
 せっかく治療したのに、一生懸命包帯を巻いたのに、あの人の身体はまたボロボロになっていた。
 どうしてみんな、戦いをするんだろう。
 どうしてみんな、傷つけ合って奪い合って殺しあうんだろう。
 わからない。
 わたしには、わからない。
 みんなで楽しく笑って、仲良くごちそうを食べるのが、幸せに決まっているのに。
 怪我をすれば痛いし、宝物がなくなったら悲しいし、大切な人がいなくなったら寂しい。
 そんなの、みんな知ってるに決まってるのに。
 わからないことだらけなのは、わたしの頭が悪いからだろうか。
 でも、それでいいや。
 この気持ちをなくすくらいなら、頭が悪いままでいい。
 わたしに覆いかぶさったあの人の向こうに、知らない男の人が立っている。
 綺麗な顔をしたその人は、あの人へと剣を向けている。
 やめて。
 もうやめてよ、こんなこと。
 お願いだから、傷つけあわないで。
 あれ? あれ? あれ?
 おかしいな。
 そう言おうとしたのに、言いたいのに。
 なんでかな。

 声、出ないや。

 男の人は、今にもあの人を殺そうとしているみたいだった。
 体は痛くて動かないし声も出ない。なんだか、目も霞んできた気がする。
 このままだと、あの人が死んじゃう。
 そんなのは、ダメ。
 ぜったいに、ダメ。
 誰かが傷つくのも死ぬのも、見たくない。
 できることをやるんだ。
 貫くんだ。

 お願い、瞬きの紋章。
 わたしの傷を心配してくれた人を、何処か遠くへ連れていって。
 優しくて、穏やかで、綺麗な場所へ。

 それさえ叶えてくれるなら、わたしはどうなったって構わない。
 だって自分の気持ちに真っ直ぐに、正直にいられたんだ。
 後悔なんて、するわけがない。

 ああ、でも。

 みんなで、一緒に。

 ごちそう、食べたかったな――。

【ビッキー@幻想水滸伝2 死亡】

 ◆◆

 あと一息だったのに、止めを刺し損ねた。
 その事実にイスラは舌打ちを漏らし、魔界の剣を下げる。
 突然現れた闖入者である少女は、もはや物言わぬ亡骸と化していた。
 何らかの方法で、彼女があの道化師を救ったのかもしれない。
 だとしたら、この女はあいつの仲間か。
 考えかけて、イスラは首を振る。
 どうでもいい。
 この女はもう、死んだのだ。
 放送直後に、自分でつけた傷が疼いた。
 イスラは少女の遺体から目を逸らす。
 じっと見ていると、死に招き入れられた彼女に、羨みを覚えそうだったから。

 だからイスラは、まだ生きている者へと視線を向ける。
 そこに何かを、求めるように。

 ヘクトルも、ブラッドも。
 ズタボロになりながらも、生きている。
 全身に破壊の爪跡を刻まれていても、彼らは両足で立ち上がっていた。

「で、君らはとどめを僕に任せて、ずっと寝てたってわけかい?」
 軽口のように言ったのは、未だ癒えぬ死への渇望を覆い隠すためだった。
「すまない。少し、意識が落ちていたのでな」
 ブラッドの返答に、イスラは肩を竦める。
 とりあえず、勝ちはした。
 この手には貫いた感触が残っているし、散弾を数発、確かにぶち込んだ。
 だとしても、死を確認していない以上、完全な勝利を収めたとは言えそうになかった。
 あいつは倒しておかなければ危険な敵だ。
 だから、次に会ったら確実に仕留めなければならない。
 自然と考えていた自分に気付き、イスラは思う。

 ――もう、守りたい人は何処にも存在しないのに。どうしてそんなことを考えているんだろう。

 分からない。
 分からないから、イスラの視線はヘクトルに向く。
 自分とかけ離れたところに立つ彼を見れば、その答えが見つかるような気がした。

 その視線の先で、ヘクトルがぼそりと口を開く。
「なぁ、ブラッド……」
 ヘクトルは、ぼんやりとした様子でブラッドを見つめていた。
 彼らしからぬ様子は、ダメージのためだけではなさそうだった。
「さっきの奴の格好、見たか?」
「……ああ。あんな奇抜な格好をした奴なんてそうそういないだろう。
 お前がセッツァー・ギャッビアーニから聞いた奴の特徴と一致する。
 妙な、話だ」

 イスラは、目が痛くなるような原色の衣装に身を包んだ道化師を思い出す。
 そいつは、イスラがマッシュから聞いていた一人の人物の外見と一致する。
 紫色の肌に翼を生やしていたときは気付かなかったが、恐らく間違いないだろう。
 そいつの情報を――そいつの危険さを、ヘクトルたちもセッツァーを介して掴んでいるはずだ。
 一体何が妙なのか、イスラには分からなかった。
 それを問おうとしたとき。

「まさか、まさかあいつが――ケフカ・パラッツォだったのか……?」

 まるで、現実だと信じていた御伽噺が架空の世界の物語であると教えられた子どものような顔をして、ヘクトルが呟いた。

【I-8 南西 一日目 午後】
ブラッド・エヴァンスWILD ARMS 2nd IGNITION
[状態]:全身に火傷(多少マシに)、疲労(大)、額と右腕から出血、アルテマ、ミッシングによるダメージ。
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI
[道具]:リニアレールキャノン(BLT0/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION
不明支給品1~2個、基本支給品一式、
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:ビッキーの亡骸を埋葬する。
2:西にとって返しアナスタシアを救いたい。
3:自分の仲間とヘクトルの仲間をはじめとして、仲間を集める。
4:セッツァーの情報に疑問。検証したい。
5:再度遭遇したらケフカを倒す。魔王を倒す。ちょこ(名前は知らない)は警戒。
[備考]
※参戦時期はクリア後。
※マッシュとセッツァーの情報の食い違いに気づいていません。


イスラ・レヴィノス@サモンナイト3 】
[状態]:アルテマ、ミッシングによるダメージ、疲労(大)
[装備]:魔界の剣@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]:不明支給品0~1個(本人確認済み)、基本支給品一式(名簿確認済み)
    ドーリーショット@アークザラッドⅡ
    鯛焼きセット(鯛焼き*2、ミサワ焼き*2、ど根性焼き*1)@LIVEALIVE、ビジュの首輪、
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ブラッドとヘクトルに、何が妙なのか聞き出す。
2:ケフカと再度遭遇したら確実に仕留める。
[備考]:
※高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期は16話死亡直後。そのため、病魔の呪いから解かれています。
※マッシュとセッツァーの情報の食い違いに気づいていません。

【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[状態]:全身打撲(小程度)、疲労(大)、アルテマ、ミッシングによるダメージ
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドⅡ
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、ビー玉@サモンナイト3
     基本支給品一式×2(リーザ、ヘクトル)
[思考]
基本:オディオを絶対ぶっ倒す!
1:ケフカと思われる男がセッツァーの情報と異なっていたことへの戸惑い。
2:リン達やブラッドの仲間、セッツァーの仲間をはじめとして、仲間を集める。
3:つるっぱげを倒す。ケフカに再度遭遇したら話を聞きたい。
4:セッツァーを信用したいが……。
5:アナスタシアとちょこ(名前は知らない)を警戒。シャドウを警戒?
[備考]:
フロリーナとは恋仲です。
※鋼の剣@ドラゴンクエストIV(刃折れ)はF-5の砂漠のリーザが埋葬された場所に墓標代わりに突き刺さっています。
※セッツァーとイスラと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
 ティナ、エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思っているが、少し疑問。
※マッシュとセッツァーの情報の食い違いに気づいていません。
※I-8の荒野がI-7の東半分まで広がりました。

 ◆◆

 そこは、色とりどりの花々で満ちていた。
 数え切れないほどの種類の花が、それぞれの美しさを競い合うようにして咲き誇っている。
 一本一本の花から、殺し合いの場には似つかわしくない生命の息吹が感じられる。
 そんな花々に囲まれて、傷だらけの道化師が大の字になって倒れていた。

 彼――ケフカ・パラッツォは気付いていなかった。
 ビッキーが生きていたのだから、他の三人が生きていてもおかしくはないという事実に。
 気付かなかった理由。
 それもまた、ケフカは気付かない。

「ちくしょう……ちくしょう、ちくしょう、ちく、しょう……」
 忌々しげな声が、花園に溶けていく。
 ケフカが苛立っている理由は、少なくない。
 たとえば、ミッシングを受けたのに男が生き延びていたこと。
 たとえば、大きすぎるダメージを受けて体が言うことを聞かないこと。
 たとえば。

 ――またもあの女に、救われてしまったこと。

 殺してやりたいほどに憎らしい。傷つけてやりたいほどに恨めしい。
 その想いは、ビッキーが手を伸ばすたびに、ただひたすらに深く大きくなっていく。
 ココロを壊してやりたかった。
 ハカイの愉快さを見せ付けてやりたかった。
 ビッキーだけは必ず最後まで生かしておいて、絶望を刻み込んでやりたかった。
 その欲望は、止め処なく膨れ上がっていて、ケフカはいつしか、ビッキーを生かしたままハカイすることに固執してしまっていた。
 故に、彼女の声が響いた瞬間、ケフカは無意識レベルで望んでしまったのだ。

 ビッキーを殺したくない、と。

 結果、破壊の顕現は通常よりも手加減され、その場にいる命を一つたりとも奪えなくなっていたのだ。

 透き通った青空が、何処までも広がっている。
 無数の花が、そよ風に身を躍らせている。
 それは、紛れもなく綺麗で優しい光景だった。
 しかしそれは、ケフカの大嫌いな光景でもある。

 壊したくて壊したくて壊したくて、堪らない。
 そうすればこの忌々しい苛立ちも、少しは晴れるだろう。
 痛む全身に命令し、右手を掲げた。
 炎を生み出し、今度こそ焼き払ってやる。
 そう思っても、願っても。
 掌に炎は、生まれない。
 無尽蔵に思われた魔力は、三人の戦士との戦いを経て枯渇してしまっていた。
 これではもう、回復魔法も使えない。
 先ほどの充足感が嘘のように、感じられるのは虚無感だけだった。

「ふん……」
 やはり、そうか。
 カタチあるものはいつか壊れる。
 イノチなんてものはいつか潰える。
 ユメは忘れてしまうものだしキボウは絶望への前触れに過ぎない。
 それはこの世界にすべからく存在する、絶対不変の掟。

 ならば結局、あの満たされた気持ちも、圧倒的な神の力でさえも。

 永遠に続くものであるはずが、なかったのだ。

「つまらん……」

 強い風に吹かれ、花弁がふわりと舞い上がる。
 その花弁は宙をたゆたい、道化師の顔にそっと着地する。

 なのに。
 ケフカ・パラッツォが、それを振り払うことは、なかった。

【ケフカ・パラッツォ@FINAL FANTASY Ⅵ 死亡】
【残り26人】

※E-9花園にケフカの遺体および、ランダム支給品1~3個、基本支給品一式があります。

時系列順で読む


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097-2:妖星乱舞(後編) ヘクトル 098-1:Fate or Destiny or Fortune?
ブラッド
イスラ
ケフカ GAME OVER
ビッキー GAME OVER


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最終更新:2010年07月14日 16:12