Fate or Destiny or Fortune? ◆SERENA/7ps



例えて言うなら、それは舵の利かない帆船のようだった。
舵を壊し、憎しみという風に吹かれるまま漂うユーリル号という船。
勇者という積荷を下ろして、ユーリルは身軽になれたはず。
だが、現実はなんと非情なことか。
どこにも行けず、どこにも行くかも分らず。
もう前にも後ろにも進めなくなってしまった。
今のユーリルには、羅針盤も海図も双眼鏡もない。
自分がどこに行けばいいのか、自分がどこにいるのか、自分の周りを見通せる余裕もない。
魔王という鬼ヶ島を目指すこともできなくなった。

ほんの少し前には、こんなこと考えられなかった。
勇者だったら、やらねばならないことが今も沢山あったはず。
勇者だったら、あの鎧に身を包んだ黒髪の男を放っておくはずがない。
勇者だったら、友達を見殺しにしてしまうこともなかったのだ。
勇者だったら、きっと今頃こんなところでこんなこともしていない。

なのに。
なのに、今のユーリルは勇者でも何でもない。
しかし、しかしだ。
もう、ユーリルは勇者として生きた時間が長すぎた。
いらないからと捨てたくせに、いつの間にか勇者という肩書きはユーリルという人間の根幹をなすものになってしまっていたのだ。
友達を失い、家族を失い、勇者という拠り所であり生きる力でもあるものも失った今のユーリルは外殻を残し、中身は空っぽの存在。
そんな隙間風の吹くユーリルの心に、憎しみという感情が吹き荒れるのは当然だった。

「ああああああああああああああ!!!!」
勇者は生贄なんだというアナスタシアの言葉に、怒り狂う。

「うわああああああああああああ!!!!」
友達を失ってしまった悲しみがユーリルの心を苛む。

「あああぁっぁぁあ、あうっあああ!!!」
そして、それらの感情がごちゃ混ぜになって泣く。

「アナスタシアアアアアアアアアア!!!」
そして、全ての元凶であるアナスタシアに対する憎しみ。

感情の暴風だった。
怒り、悲しみ、憎しみ、絶望。
それらの感情がユーリルの中で荒れ狂い、どんどん大きくなり、ユーリル自身にも制御がつかない。
それら全てを受け止めるには、勇者でなくなったユーリルという少年の心の容量では足りない。
渦巻き、うねりを上げ、身体の中に押しとどめておくことができない。
胸が張り裂けそうだった。
だから、ユーリルは叫ぶ。
喉が枯れ果てんばかりの嗚咽と絶叫を地面にに叩きつける。
膝を折り、両手も地面につけ、あらん限りの声をあげた。
クロノの亡骸が傍に転がったまま、埋葬することもしない。
いや、今のユーリルにはそんな選択肢さえ浮かんでいない。
ただ泣き、ただ叫ぶだけ。
感情のタガが外れた今、ユーリルは立ち上がることもできず、止めどなく流れる涙を拭うこともできない。
しかし、叫んでも叫んでも、気が晴れたり落ち着いたりすることはなかった。
ユーリルの心は決して満たされない。

太陽はいつもと変わらぬ光を投げかけてくるだけ。
風はユーリルを嘲笑するようにただ背中を撫でていくだけ。
大地は叩きつけられるユーリルの拳に反発を返してくるだけ。
友達のくれたお菓子は、ちっとも甘くない。
仲間との楽しかったはずの思い出は、色を褪せて消えていく。
空っぽの男には、世界でさえ優しくしてくれない。
その事実が、なお一層ユーリルを打ちのめした。



どれくらい経っただろうか、ユーリル自身はもはや覚えていない。
ただ、一生分の涙を流すのにかかる時間だけは経っていたと分かる。
それでも、涙というのは体中の水分を絞りつくしても足りないほどに流れるのだ。
そのうち。
泣いたまま、ユーリルは立ち上がる。
泣いたまま、ユーリルは歩き出す。
泣いたまま、ユーリルはどこかへ行く。

友達を殺してしまった罪から逃げるため。
クロノの最期の笑みを嫌でも思い出してしまうから。
恨み言一つ言わずに死んでいったクロノの優しさが、逆に痛かったから。

流れ、流れて。
足の動くままどこかへ。
どこへ行くのかなど、ユーリル本人が一番知りたかった。



◆     ◆     ◆



「つまり、今はどっちの方が正しいかは保留するってこと?」
「そういうことだ」

疑問の種が芽吹き、するすると成長していく。
絶大な魔力を操り、あと一歩のところで逃してしまった男。
道化師のごとき面妖な格好をしたかの男が、本当にケフカ・パラッツォだったのか。

エドガー、ティナ、ケフカの人間像が全然違う。
マッシュとセッツァーが語ったこれら三人の人間像は真逆のものだった。
既知の情報であるため、確認しなかった情報が実は偽りに満ちていたことに、初めて三人は気づく。
ブラッドもイスラもヘクトルもどういうことなのか理解する。
マッシュかセッツァーに嘘をつかれたか?
しかし、ブラッドはあくまで慎重な判断を下した。

「根拠は?」
「例えば、エドガーという男が本当に世界を征服しようとしていたとする。 だが、肉親には甘い男なのかもしれない。
 そう考えると、マッシュがエドガーは安全だと言っていたのも納得できる」
「ケフカは? これは疑いようのないことだと思うけど?」
「まず第一に、ケフカとマッシュの関係が良好でない場合だ。 ケフカは普段優しいが、マッシュとだけは反りが合わない、などな。
 第二に、あれはそもそもケフカではなかった可能性もある。 あんな格好をした輩が何人もいるとは考えにくいがな。
 第三に、本来はまともな人間だったがこの異常な状況で精神を狂わせ、殺戮に悦楽を感じるようになったか、だ」
「それ、だいぶ苦しい根拠だと思うんだけどね……」
「あの道化師、暫定ケフカを庇おうとしていた少女は決して悪い女には見えなくてな……」
「単なるお人よしって可能性もあるよ? 騙されていただけとか」
「それも、俺の悪い女に見えなかったというのも全部推測だ。 そしてあの道化師がケフカだったかも状況証拠のみ。
 結論を出すには早い。 ただ、次にマッシュとセッツァーに会うときは警戒した方がいい。 そういうことだ」

イスラの質問に対し、次々とブラッドは答えていく。
ブラッドの答えには腑に落ちない点や苦しい点も多々あるが、帝国の諜報部に所属していたイスラも情報の真偽の確認が大事であるのは知っている。
実を虚と見せかけ、虚を実に見せる。
そうやって敵を欺き、また得られた情報の正誤を迅速に確認するのが諜報部の仕事の一つ。
何よりやってはいけないのが、間違った情報を真実だと鵜呑みにすることなのだ。
間違った情報ほど、もっともらしく見えるもの。
ここはイスラも折れて、マッシュとセッツァーのどっちが正しくてどっちが間違っている、といった極論ではなくブラッドの保留案に同意する。

「俺はなぁ……セッツァーが嘘を言っているとは思いたくないんだが……」

会話に加わっていなかったヘクトルが、セッツァーのことを思い出しながら呟く。
ブラッドたちの言っていたことを聞いてなかった訳ではないが、どうしてもセッツァーを疑いきることはできない。
怪我を負っていたブラッドを回復してくれた恩もある。
ブラッドが回復しなかったら、ブラッドはあのまま死んでリニアレールキャノンの一撃もなく、今頃ヘクトルはイスラと仲良くお陀仏になっていたかもしれない。
何より、正攻法を望むヘクトルはこんな大事な時に、陰でコソコソやるようなやり方は嫌いだ。
みんなで手を取り合って生きていかなければならない状況で、一人だけ甘い汁を吸おうという奴は大嫌いだ。
心情的に、どうしてもヘクトルはセッツァーを信じたい。
信じられるかどうかではなく、信じたいというのが本音だ。
エリウッドやリンとの旅の間、そういう疑惑や疑いといった言葉とは無縁だったからか、ヘクトルは人を疑うということをあまりしたくない。

「これは誰が一番強いかを決める戦いではない。 誰が最後まで生き残るかという戦いだ。 俺が生き残ってれば、誰かを殺してくれると考えたのかもしれないぞ」
「わーってるよ」

だがブラッドの言うこともまた一理ある。
ヘクトルも、次にマッシュかセッツァーに会ったときはそのことをキッチリ問い詰めるということを決めて、この場は納得した。

「では、この話はこれで終わりだ」 

ブラッドの声で、少しでも疲労と怪我を回復するため荒野に座り込んでいた三人の男たちが立ち上がる。
三人とも怪我も疲労も決して浅くはない。
だが、まだ立っていることはできる。
歩くことも、拳を握ることも、誰かのために戦うこともできる。
戦う意志だって少しも翳りを見せない。
それは死にたがっているイスラはともかく、ヘクトルとブラッドにとっては喜ばしいことだ。
おそらく、昼過ぎに見た光を作り出したのは、先刻戦った道化師によるものだと断定したブラッドたちは、次はアナスタシアを追うために西進することにした。
だが、その前にやることがある。

「念のために、この辺り一帯の探索もする」

いまだ戦闘の傷も癒えぬまま、三人の男たちは身体を半ば引きずりながらビッキーの埋葬とそれぞれ周囲の探索をした。
リニアレールキャノンのような強力な装備が、都合良く地面に落ちてるはずがない。
これは間違いなく死んだ誰かの支給品だと踏んだブラッドは、周囲の探索をイスラとヘクトルにも命じたのだ。
するとどうだ、数々の物品が見つかるではないか。
ナイフやマフラーや指輪……間違いなく誰かの支給品だと言える装備の数々が。
自分らが先立って目撃した光の跡が、この荒野なのは容易に想像がつく。
ということは、死者が出てもおかしくない。
さらに武器がその荒野に転がっていたのだ。
これで探索しない方がおかしい。
結果、支給品の数々が見つかった訳だ。
さらに、二人の男性の死体も。
見つけた銃はガンマン風の男に握りしめられており、明らかに死ぬ寸前まで戦っていたことを物語っている。
硬直した手から銃を抜き取るのに、イスラはかなりの力を必要とした。

「サンダウン・キッドなのかな……?」

高原の言っていた外見と一致する。
彼の仲間も、こうしてまた一人脱落していった訳だ。
戦って死んでいったであろう男に、イスラは羨望と嫉妬の念を抑えることができない。
何かを為そうとして死んでいった男に、イスラは自分もこうありたいと願う。
ヘクトルたちに出会って、多少心境の変化はあったとて、未だにイスラの死にたいという願望は消えない。
ただ、自殺して無為に死んで逝くより、何かを為して死にたいと思うようになっただけだ。

「おい! アンタッ!」

ビクリと、イスラの背中が跳ねた。
誰だろう、この声は。
聞きおぼえのない声が、背中の、それもすぐ真後ろから聞こえた。
あり得ないと、イスラは思う。
何故なら、今イスラのいる場所は荒野のど真ん中であり、今しがたまで、ここにはイスラたち三人しかいなかったこと。
さらに、新たな誰かが今ここに来たのなら、イスラはこうも易々と背後を取られたということになる。
もしも敵なら、ヤバい。
危機感を覚えたイスラはすぐさま腰にかかった剣に手をかけ、いつでも抜けるよう構えながら振り向いた。
するとそこにいたのは見た目にも重傷と判る異国風の装束に身を包んだ少女と、それを抱えるように立つこれまた見たこともないような奇抜な衣装の男。
女は気絶しているのであろう。
手と足に力が入っておらずダラリと投げ出されているのを、男が抱えているような体勢だ。
だが、それでイスラは警戒を緩めたりはしない。
後ずさりながら、剣を抜いて構え、誰何の声を上げる。

「誰だい?」
「待てよ、俺はやる気はねぇんだ! それよりもこの女が……リンディスが!」
「リンディス!? リンのことか!」

イスラの背後に来たヘクトルが大きな声を上げる。
どうやらヘクトルの知り合いらしい。
それでようやくイスラも若干剣を握っていた手の力を緩める。
ヘクトルはリンが男の手に抱えられた女がリンであることを確認すると、一目散に男に駆け寄る。
男から奪い取るようにリンを抱きかかえると、頬を軽く叩いてリンの意識を呼び起こそうとする。

「おい、リン! 聞こえるかリン!」

頬を叩きながら、ヘクトルはリンの身体を見る。
酷い怪我だった。
全身が刃物のようなもので切り刻まれ、背中にも大きな刺し傷が空いている。
衣服はもうボロボロで、赤い血が衣服にジワリと染み込んでいる。
一番の怪我は、左目から垂れ流している血だ。
しかし、閉じられた瞼に傷はついてないように見えるし、瞼を切っただけでこの出血量はあり得ない。
となると、もう考えられることは一つしかない。
リンは目をやられたのだ。
しかも、この出血量から考えて相当深い傷。
おそらく……失明していることをヘクトルも肌で感じ取る。
誰がこんなことをと怒りがヘクトルに沸いてくるが、それよりもリンの声を聞くことが大切だ。
根気よくヘクトルはリンの意識を呼び覚まそうとする。

「……ぅ……ぁ……」

聞こえた。
確かにリンの声が今、聞こえた。
呻き声に近いが、リンが声を上げたのは確かだ。
逸る気持ちを抑え、ヘクトルはまた根気強くリンの意識を呼び覚まそうとする。

「おい、リン! 俺だ、ヘクトルだ! 聞こえるか!?」
「ぁ……ヘク……トル?」
「ああそうだ、俺だ! 一体何があった!? 誰にやられた!?」
「やられたって……私は……死んでない、わよ……」
「細かい間違いはどうでもいいだろうが! 誰に襲われたんだ!?」

ようやく、リンは残された右目を開け、ヘクトルと視線が合う。
そして、力なく笑みを浮かべる。
知り合いに会えたことに対する安堵の笑みだ。
そして、また気を失う。
気を失う直前にリンが発した言葉は、ヘクトルに何があったかを伝えるのに十分な内容だった。

「ジャファ……ル……」



◆     ◆     ◆



胸に当てていた手を、ロザリーは下ろす。
深く息をつき、問題なくメッセージが届いたことを確信した。
伝えたいことは伝えた。
ロザリーの言いたいことの全てを伝えきった。
あとはこれを聞いた人が、心正しき者であることを願うだけだ。

「終わった……の……?」

ニノの問いかけに、ロザリーは満足そうに肯定の意を示す。
ニノは素直に喜び、マリアベルはロザリーの肩に手を置き、労いの言葉をかける。

「うむ、よくやったぞロザリー。 と言うても、わらわにはちゃんと伝わったかは判らぬがな」

もしも失敗してたら、何もない空間に向かって何かを言うだけというすごく間の抜けた光景になるだろう。
三人とも、それはあえて考えないようにする。
少し魔力を消費したことによりロザリーは立ちくらみを覚えるが、ゲートホルダーを使ったときのあの感覚とは比較にならないほど楽だ。
充実感のある疲労、とも言うべきだろうか。
むろん今すぐに成果があがる行動ではないので、成功したとは一概には言えぬが、少なくとも自分にできることをやったという満足感はある。
そう考えると疲労もなんのその、次にやるべきことを速やかに実行に移す。
すぐに移動を開始して、次の逗留場所を探さねばならないのだ。

時刻は逢魔ヶ刻。
西の空に落ちていく太陽が茜色の光を放っている。
カラスがカァカァと鳴くはずのこの時間、飛ぶ鳥は一羽もいない。
少しずつ明度を落としていくその光は、いずれ輝きを失ってしまう。

今は黄昏。
そして、また、夜が来る。
暗い暗い、常しえの闇にも似た夜が。
もう少し時間が経てば、これより先はノーブルレッドの領域、夜だ。

だが、マリアベルの気分はあまり浮かれはしていなかった。
西の空にはしっかりと晴れ渡る空と茜色に染まる夕日があるのに、頭上の空はどんよりとしたものがあるからだ。
分厚い雲が垂れ込み、どっしりと重い空。
今や、空は曇天。
しかも、これは雨雲に間違いない。
雲が明滅する頻度も多くなってる。
灰色の雲からはゴロゴロと、遠雷が鳴っている。
それは誰かの叫びのように、あるいは、誰かの怒りのように。
気温がグングン下降していくのが三人にも分かる。
日が落ちているだけことだけが原因ではない。
これは、間違いなく気圧が低くなっているのも関係している。
吹きつける風に厳しさが増してくる。
ニノが、少しだけ身震いした。
ザワザワと、せわしなく木々が鳴り響く。
空気が湿り気を帯びてくる。
今にも泣き出しそうな空模様は、まもなく雨が降りそうなことを如実に表している。
いやな天気だなと、マリアベルは思わずにはいられない。

「どうやら、ここはオディオの言っておった雨の降る場所のようじゃの」

空を見上げながら、マリアベルが言う。
垂れ込める雨雲を見ると、気分が沈みそうだ。
太陽が隠されるからといって、雨の持つ陰鬱さが好きな訳でもない。

天候を操るという力が本当にオディオにあるのは、驚くべきことではない。
ロザリーの世界には、そういった呪文が実在するらしいからだ。
それならオディオが使えてもおかしくはない。
高位の呪文になると、なんと一瞬にして昼夜を逆転させることができるとか。
それを聞いたとき、マリアベルは喉から手が出るほどに、その呪文を会得したいと思ったくらいだ。

「早くどこかで雨宿りする場所を見つけないといけませんね」

ロザリーも雨の降る可能性を考慮してだろうか、自然と足の動くスピードが速くなっている。
濡れ鼠になって、風邪をひいたりするのはどうしても避けたい。
落ち葉で足を滑らせ、ささくれ立った木が皮膚に薄い傷を走らせ、地面から突き出た木の根に転びそうになる。
どこか分からない森の中を、助け合いながらとりあえず進んでいく三人。
どこにいるかも分からない不安感が鎌首をもたげて襲う。
それでも、歩みを止めることはない。

見知らぬ世界。
頭上に重くのしかかるのは暗い雨雲。
そしてここは誰かの命を奪うのが目的の殺人劇、バトルロワイアル。
そう、ここは魔王の支配する異界。
そんな異界の中、寄りそう三種の種族。
人間と、エルフと、ノーブルレッド。
人と人が同属でいがみ合う中、手を取り合うこの異なる種族の少女たち。
それは果たして、何を意味するのか――。

「おお、開けた場所に出たぞ。 さすがわらわよ、抜群の方向感覚じゃな」
「あれ……湖?」
「海だったら対岸が見えるはずもないじゃろう。 それにあの橋を見てみぃ」

ニノに対して、マリアベルが指を指して方角を示す。
その方向には、湖の東から西までを結ぶ一つの橋があった。
それに、うっすらと対岸も見える。
これ以上ない分かりやすいランドマークだ。
どうやら、C-7の神殿近くにいるらしい。
それさえ分かれば、あとは誰か襲撃者がいないことを祈りつつ、あそこを雨宿りの場所にするだけだ。
急いでいた歩みの速度を緩めて、湖の外周部分に沿って歩きながら橋を目指す。
透き通るほどの透明感のある湖の水。
残り少ない西日によって、それは見事な黄金の光を反射していた。
しかし、風によって湖面が激しく揺れているのが少しばかりもったいない。

「そろそろ、いいかもしれぬな……」

自分に言い聞かせるようにマリアベルが呟く。
その声はロザリーとニノの耳には入らない。
宿探しの目星もつき、あとはあそこに歩いていくだけ。
当面は暇だ。
ならばこそ――今がその話をする状況なのかもしれない。
隠すことは二人との間に壁を作ることだ。
そして、二人は惜しみない信頼を寄せてくれている。
それならば、マリアベルもそれに応えるべきなのだろう。

「神殿に着くまで、少し昔話をしてやろうか……」

それは、とてもとても長くて悲しい、英雄と呼ばれた一人の少女のお話。



◆     ◆     ◆



「すまねぇ……俺のせいでリンディスが……」
「いや、お前のせいじゃねえ……お前はよくやってくれた」

頭を下げるアキラに対して、ヘクトルは気にするなと返す。
何とか、一命は取り留めた。
決死の看病とアキラのヒールタッチのおかげだ。
今は容態が落ち着いたリンをおいて、三人の治療を同じくヒールタッチでしていた。

「俺は……奴を倒しに行く」

右手を誓いのように固く握り締め、ヘクトルが言う。
しかし、現実的な問題として、どうしようもない距離が壁となって立ちはだかる。

「どうやって行く?」

椅子に座ったブラッドが冷静に言う。
聞くところによると、アキラのテレポートはあくまで緊急回避用であり、思った場所に行けるほど精度はよくない。
ここに来たのも偶然だ。
テレポートを使わないとなると、かなりの距離を踏破しなければならない。
時間がかかればかかるほど、ジャファルともう一人……他人の姿を模す特技を持った奴は遠ざかっていく。

「歩いてでも行くに決まってるだろ!」
「歩いていく必要は無い」

そう言うとブラッドに対して、ヘクトルは疑問の眼差しを向ける。
しかし、ブラッドはリンのベッドのそばに立っているアキラに視線を向けた。

「アキラ、お前のいた村の地理は覚えてるか?」
「ん? あぁ、覚えてるよ。 忘れるはずがねぇ……」

何故かそこにあったのは、幼い頃から過ごしてきた懐かしきチビッコハウス。
ミネアに扮した奴を追っていたときに見た町並みだって、決して忘れやしない。
あれは子供の頃から毎日のように歩き、慣れ親しんだ町。
そう、あれこそはアキラの住んでいた日暮里の町だ。
小さい頃に鬼ごっこやかくれんぼを何度もして、路地裏の地理まで把握している。
何故そんなものがこんなとこにあるのかは分からない。

「だったら、テレポートジェムで行ける」

その言葉に、ブラッドは満足してあるものを差し出す。
琥珀色に輝く結晶体のような物がブラッドの手に握られている。
一度行った町などの施設に、瞬時に飛んでいけるファルガイア製のアイテム。
これがあれば時間と距離の壁は易々と打破できる。

「どうしてそんな便利なもの今まで使わなかったんだい、ブラッドおじさん?」

イスラの当然の疑問にブラッドが事情を説明する。
元々ブラッドもこれを利用する気はあったのだ。
だが、深夜に出会った魔王のせいで河に飛び込む羽目になり、その後はヘクトルも知っているとおり町に寄る機会に恵まれなかっただけだ。
しかし、さすがにそんな便利なアイテム、しかも一つしかない貴重品を使わせるのはヘクトルも躊躇われた。

「いや、そこまでしてもらう義理はねえよ。 俺は一人で行く」
「いいから使え」
「いや、いいって! 第一、お前はこれでアナスタシアの行きそうな所に跳べるじゃねえか!」
「いや、アナスタシアに接触してからもう半日近く経っている……追跡は難しい。 これを使う意義はまだそこまで時間が経ってない人間を追うのにある」

アナスタシアの捕捉を諦めた訳ではない。
西に行くといっても、それだけの情報でそれ以上は追跡が難しいだけのこと。
目の前にやるべきことがあるのだから、アナスタシアの説得だけを優先させる訳にもいかないのだ。

「僕は、ヘクトルについていくよ。 アナスタシアに会うなんてこっちから願い下げだからね」

壁際にもたれ掛っていたイスラも、テレポートジェムを使うのに賛成する。
ヘクトル一人でやるつもりだったのに、いつの間にか多くの仲間に恵まれている。
そのことに、ヘクトルは感謝した。

「行くぜ……行ってくるぜ、リン」
「待って……私も行く……」
「無理するな。 俺に任せてお前は寝てろ」
「ううん……ミネアは大やけどを負っても頑張っていたんだもの……私だって」

自分だけが寝ているわけにはいかない。
無理を言って、ヘクトルについていく。
そのことに納得したヘクトルは、ベッドから起き上がろうとするリンを軽々と肩にかついだ。

「ちょっ、何するのよヘクトル!」
「俺がおぶってやらあ。 女一人なんて気にもならねえ軽さだ」
「バカっ! 恥ずかしいわよ!」
「うっせえ! だったら置いてくぞ? 怪我人は大人しく休んでろよ」
「ヘクトル……」
「俺は強いんだよ。 お前一人くらいなんてどうってこたあねえ。 それによ……フロリーナが死んで、お前にも死なれたら目覚めが悪いだろうが」
「……うん、分かった」
「おし、じゃあ行くぞ」

肩に担ぐという方法だけはなんとかして欲しいものだ。
しかし、それ以外となるとお姫様だっことかしか浮かばないし、肩車など持っての外だ。
結局、リンはそれで納得することにした。
ガチャガチャと鎧の音が聞こえる。
昔は、それがうるさくて喧嘩もしたことあってけど、今となっては懐かしい思い出だった。
外に出ると、先に出ていたアキラたち三人は各自身体を揉み解し、あるいはストレッチなどの準備に余念がない。
屈伸運動をしているブラッドに、ヘクトルは近寄りながら声をかけた。

「どうだ? 身体の調子は?」
「悪くないな」

全身についた傷を見ながら、ブラッドが答える。
リンを担いでいることには、特に何か言う気はないらしい。
アキラにとりあえず開いている傷の治療だけはしてもらっているから、これ以上は無理しなければ体調が悪化することはない。
といっても、開いた傷を元通りに治したりするものではないが。
暗示に近いもので、傷の痛みを感じないようにさせたり、人間の持つ自己治癒能力を無意識に活発化させるだけだ。
ブラッドの回答にとりあえず満足し、次にヘクトルはイスラとアキラも見やる。
こちらの二人も問題は特にないようで、準備運動を終わらせて後は移動を待つばかりになっている。
物珍しそうにテレポートジェムを見るアキラに対し、ブラッドが使用方法を教えた。

「それを持って、行きたい場所を念ずる。 それだけでいい。 
 行き先のイメージが難しいなら、行き先の町並みを思い浮かべながらでも、町の名を声に出しながらでもいい。 とにかくイメージが大切だ」
「なるほど、それなら朝飯前だぜ」

アキラは数々の超能力の使い手だ。
イメージを組み上げるのはお手の物。
ましてや、行き先は数々の思い出があるあの街。
アキラにとって、不安要素などあろうはずもない。
だが、自信ありのアキラに対して、ブラッドはある懸念を抱いていた。

「そんじゃ行くぜ。 お前らしっかり固まってろよ」

テレポートジェムを使う直前、アキラはミネアのことを考える。
短い付き合いだった。
自己紹介さえ満足にしてない、仲間と言えるかどうかも怪しかった間柄。
アイシャだってそうだ。
時間にすれば一時間にも満たないであろう時を、一緒に戦っただけ。
でも、それでいい。
人と人が繋がる理由はそれだけでいい。
目の前にある荒波を共に越えようと助け合う者たちは、それだけでもう仲間なのだ。
託された想いと絆という襷は、とても重い。
でも、決してそれを捨てたりはしようと思わなかった。
この荷物を背負って、ずっと歩き続けるつもりだ。

サンダウン・キッドの亡骸はリンを城下町に運ぶ前に確認した。
生まれた時代も着ている服も何もかも、統一性の欠片もない7人の奇妙なパーティー。
そんな中で、彼は最も寡黙な男だった。
だが、アキラは知っている。
彼の心の奥に秘められた熱き血潮と魂を。
彼の心を覗いたことのあるアキラは、サンダウン・キッドという男が自らを語らなくても、彼の性質を理解していた。
ああ、分かる、分かるとも。
きっと、サンダウン・キッドは何かを守ろうとしていたのだろう。
きっと、サンダウン・キッドは何かを守ろうとして戦っていたのだろう。
そして、魔王オディオを倒そうとしていたのだろうということが。
なら、それを俺が受け継いでやる。

こうして、またアキラの心の中に背負うべきものが一つ増えた。
人と人の思いを一つ、また一つと繋いでいけば、安易な方法に頼らなくても人はきっと一つになれる。
争いも苦しみもない未来をきっと掴み取れる。

「行くぜ!」

頭上にテレポートジェムを掲げ、アキラは行き先を思い浮かべる。
琥珀色のテレポートジェムが砕け、そこからいくつもの光の粒子が生まれると、5人の体を包み込む。
初めての経験に、ヘクトルとイスラは不思議な物を見るように、自分の体を包み込む光の粒子を見ていた。
イスラが自分の手を見ると、光の粒子に包まれた手は徐々に消えていく。
ヘクトルが自分の足を見ると、もう完全に消えて見えなくなっていた。
しかし、痛みなどは感じない。

「不思議な感覚だね……」

胸元まで来たテレポートジェムの光を見ながら、イスラが言う。
今この瞬間、消えている足は一足先に行き先に行っているのだろうか?
単純な疑問が浮かんでくる。
もうそろそろ、顔まで光に包まれてしまう。
まぁ、そんなことどうでもいいかと開き直って、このまま身を任せることにしたイスラ。
だが、琥珀色の光の色をしていた粒子が、一瞬だけ赤い光に変わる。
ブラッドが異変を察知して声を上げた。

「失敗だ! どこに飛ばされるか分からないから身構えていろッ!」

これがブラッドが唯一懸念していた材料だった。
テレポートジェムによる移動というのは、時折失敗することがある。
リルカなどは特にこのアイテムと相性が悪いらしく、よく全然違う場所に飛んでいたものだ。
だから、慣れない者がテレポートジェムやオーブを使う場合、迷子にならないよう熟練者についてもらったり、予備のジェムをたくさん持つのが常識なのだ。
今回はブラッドというテレポートジェムに慣れた人がいても、予備のジェムはない。
アキラがテレポートを使えるといっても、ファルガイア製のテレポートアイテムとは相性が抜群という訳にはいかなかった。
そう、四輪駆動の自動車が操縦できるからと言って、二輪車の扱いが同じ要領でできることがないように、
メラが使えるからと言って、ファイアの魔法をすぐに使えたりはしないのと同じ理屈だ。

「おい! じゃあ何処行く――」

ヘクトルが何かを言おうとするが、光はヘクトルの頭頂部まで包み、何も言えなくなる。
次いで、浮遊感を感じて、ものすごいスピードでどこかへ行ってるのだけが感覚として分かる。
一度発動を開始したテレポートジェムは、例え失敗しようと止まることは無かった。



◆     ◆     ◆



どうやら、勇者と英雄とは切っても切れない関係にあるらしい。
勇者も英雄も、ほぼ同じ意味を持つ言葉。
ならば、こうしてユーリルとアナスタシアが三度目の邂逅を果たすのは、もはや運命なのかもしれない。
アナスタシアのあるところユーリル在り。
ちょこの行こうとしていた教会にしばらく留まり遊んでいたら、ようやく涙も枯れ果て、幽鬼の様に彷徨うユーリルが来た。
アナスタシアとしても、こうまで縁のあるユーリルからはもう逃げるなり死んでもらうなりしたい。
だが、ちょこがユーリルに感情移入してしまった様子なのだ。
ほんの少し前のように、向かってくるユーリルをあしらいつつ、ちょこが友達になろうと喋る構図が再現されていた。

「ねっ、おにーさん。 おにーさん何て名前なの? ちょこはねー、ちょこって言うの!」
「うううう、うあっあああああああああああ!」

話が一向に進まない。
ちょこが友好的な対話を試みても、ユーリルはうめき声をあげるながら拳を振るうだけ。
そういった余裕綽々の態度がユーリルの癇に障るのだろうが、ちょこは気づいてない。
ちょこもまた、ユーリルからユーリル自身の存在意義を奪うことになっていることに。

「ねぇ、あなたどうするの? 私を殺して、どうするの? その先に何があるの? 何が――」
「うわあああああああああ! あっうっあああああああ!」

アナスタシアの声を遮るように、再びユーリルの絶叫が響く。
絶叫が響いた分だけ、ユーリルの攻撃も苛烈さを増していく。
しかし、それさえもちょこにとっては通じない。

酷く哀れだと、アナスタシアは思った。
反論できないことこそが、アナスタシアの言うことを認めていることにも気づいてない。
ユーリルは獣のような声を上げ、アナスタシアの言葉を遮ることしかできない。
言葉を発するという機能さえ失っているように見える。
いや、もうこれは獣のような、というより幼児退行現象にも似ていた。
正論を語り諭す母親に対して、泣き喚くことでしか反抗の意を示せないような子供。
自分が勇者であると自覚して、勇者として生きる以前のユーリル本人の人格が今の状態なのか。
そんなこと、もちろんアナスタシアの勝手な推測だ。
でも、それが正しい推測だとしたら、こんなにも小さい頃から彼は勇者という使命を背負い続けてきたのか。

どうすることも、ユーリルにはできないのだろう。
これから先、どうなるのかはユーリルにも分からないのだろう。
空っぽの心を満たすために、とりあえず直前までやっていたことに身を任せる。
とりあえずアナスタシアがいるから、殺そうとする。
それが終われば、今度こそユーリルの心に何も残らないはずなのにだ。
失意のどん底にある男が、とりあえず酒を呑んで気を紛らわせ、何かに八つ当たりするようなもの。
アナスタシアが絶望の鎌を振り上げ、ユーリルの方へ向かう。

「なら……こんなこと私が言うのもなんだけど……引導を渡してあげるのが私の役目なのね」

これは自分で蒔いた種だ。
ならば、刈り取るのも自分の責任であり役目なのだろう。
もうちょこがユーリルを殺すことはないだろうから。
もう三度目の出会い。
もう三回もこんなくだらないやり取りを繰り返してきた。
次は無い。
ジリジリとアナスタシアはちょことユーリルの方に向かい、機を窺う。
この絶望の鎌で、文字通り彼に死の絶望を与える。
ひょっとしたら、彼にはもう死は救いになっているかもしれないが。
さっきのように、ちょこに邪魔はさせない。
残念ながら、ちょこの言葉ではユーリルを救うことも殺すこともできないのだ。

大きく、息を吸う。
アナスタシアは、戦った経験があの焔の災厄の期間しかない。
素人に毛が生えたくらいの戦闘経験しかないのだ。
だが、ちょこに任せるだけではできないこともある。
そして、今こそがそのリスクを背負うべき時なのだろう。
『英雄』が『勇者』を、『勇者』が『英雄』を殺そうとする。
なんともおかしな話だと、アナスタシアは思った。

「ちょこちゃん!」
「なに~?」

今このときだけ、アナスタシアとユーリルの心は通じ合った。
アナスタシアがちょこの名前を呼び、ちょこはそれに対して振り返る。
そこを、ユーリルは見逃さない。
最強バンテージによって極限まで筋力を高められたボディブローがちょこの体に突き刺さる。

「うわぁっ!」

ちょこが大きく吹っ飛ぶ。
普通の人間なら、肉体を貫通してもおかしくないほどの威力の拳でも、ちょこはちょっと痛い程度だ。
だが、それでいい。
始めから殺そうとは思っていない。
ちょこが吹き飛び、重力の法則により着地して、そこから恐るべき脚力でユーリルとアナスタシアの前に戻ってくる前の間。
そこに、決着をつけるだけのわずかな時間があればいい。

ユーリルとアナスタシアの間に障害物が無くなる。
ユーリルがまっすぐにアナスタシアを目指して疾駆する。
アナスタシアは思い出す、あのロードブレイザーと戦ったときのことを。
あの時のように、絶大な力を振るうことはできないけど。
あの時の経験はきっと、無駄にはなっていない。
恐れず相手に切りかかる勇気、相手の攻撃を避ける技術を思い出す。
大丈夫、私はやれる、幸せを掴み取ってみせる。
アナスタシアもまた、相手の命を刈り取らんと、絶望の鎌を持って走る。
勝負は一瞬。
それ以上はちょこの邪魔が入る。

残り10メートル。
ちょこがアナスタシアとユーリルのやろうとすることに気づく。
火の鳥を二人の間に放とうとするが、今撃てばもう二人とも巻き込んでしまう。

残り5メートル。
「ハアアアアアアアアアアアッ!」
数百年ぶりに出す、アナスタシアの裂帛の気合を伴った咆哮。
思い切り、鎌を振りかぶる。
「うあああああああああああッ!」
怨敵アナスタシアを殺すために、絶叫を上げるユーリル。
今こそ天空の剣を抜き放ち、大きく振りかぶる。



しかし、その瞬間。



二人の間に一粒の光の粒子が生まれた。



一粒だったはずの光の粒子はいつの間にか大量に溢れ出し、人の足の形成する。
足から足首へ、足首から膝へ、膝から大腿部へ、次々と人間の形を成していく。
そこまでくれば、ファルガイア出身のアナスタシアには何が起こってるのか理解できる。

「誰か……テレポートしてるのッ!?」

光の中から足は8本生まれ、四人の者が転移してることが分かる。
アナスタシアもユーリルも、突然のことに足を止める。
振りかぶり、今にも下ろされんとしていた武器の勢いを必死で止める。
ユーリルは未経験の事態に、本能が停止を命じたから。
アナスタシアは、誰か一人でも傷つけたら残り三人ないし四人全員を敵に回してしまうから。

「な、何だ!?」

五人の内の誰かが叫ぶ。
どうやら四人ではなく五人のようだ。
残り一人は抱えられてて、地に足がついてなかったらしい。

ようやくちょこが着地して、地を蹴る。
ちょこも、危機感を覚え全速力で向かった。
しかし、ちょこがたどり着くには、刹那ほどの時間が足りなかった。

アナスタシアとユーリル、そして突如現れた5人を含めた計7人。
その7人を含む周囲の空間が揺らいだかと思うと、手品のように消え去ってしまった。
誰もいない地面に着地して、ちょこは誰もいない空間に向かって喋る。

「おにーさん?」
誰もいない。

「おねーさん?」
誰もいない。

「どこー?」
誰もいない。

「かくれんぼ? ちょこ鬼になったの?」
誰もいない。

「ちょこ……ひとりなの?」
これがかくれんぼでないと、理解する。

「おねーさん、おにーさん……どこ?」
残酷な世界に、彼女の叫びは誰にも届かない。


【F-1教会付近 一日目 夕方】

【ちょこ@アークザラッドⅡ
[状態]:腹部貫通(賢者の石+自動治癒で表面上傷は塞がっている)、全身火傷(中/賢者の石+自動治癒)
[装備]:黄色いリボン@アークザラッド2
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式
[思考]
基本:おねーさんといっしょなの! おねーさんを守るの!
0:おにーさんとおねーさんどこ?
1:おにーさん、助けてあげたいの
2:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
3:なんか夢を見た気がするのー
[備考]
※参戦時期は不明(少なくとも覚醒イベント途中までは進行済み)。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※放送でリーザ達の名前を聞きましたが、何の事だか分かっていません。覚えているかどうかも不明。
※意識が落ちている時にアクラの声を聞きましたが、ただの夢かも知れません。
 オディオがちょこの記憶の封印に何かしたからかもしれません。アクラがこの地にいるからかもしれません。
 お任せします。後々の都合に合わせてください。


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リン
ジャファル
シンシア
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ちょこ
アナスタシア
097-3:壊れた心に貫く想い ヘクトル
ブラッド
イスラ
079-2:約束はみどりのゆめの彼方に カエル
魔王
088-2:昭和の男とエルフの願い ニノ
マリアベル
ロザリー
094:銀の交差 ピサロ


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最終更新:2010年07月14日 16:52