いきてしんで――(ne pas céder sur son désir.) ◆MobiusZmZg


【6】


 白い上着が繊維を透かせて、アキラの肌に張り付いていた。
 体表の熱をうけた水がぬるむいとまも与えない、滝落としの大降り。
 天の竜が降らせているかのようにつかねて落ちる分竜の雨は、いまだ止む様子をみせない。

「時間は……」

 単調だが一撃一撃が致命傷になりかねない剣戟を経ての、第一声がそれだった。
 ジョウイが抱えるアナスタシアの傷をみなければならないのに、頭の芯には深いもやがかかっている。
 ピサロに注意を向けながらも、気力を振り絞ってユーリルの力を逸らす。
 ときにイスラをかばい、彼やジョウイにかばわれといった波こそあれ、結局のところはただ一点の目的に注力した
体が、頭の中身が飽和している。
 真っ白なもやが、脳裡から消えてくれない。
 委細はおいて、致命傷こそ逃れたが気を失った彼女にヒールタッチを。
 そうと思いきってみても、荒くはずんだ息がおさまってくれない。

「放送からは二時間以上経ってる。ピサロとロザリーがいなくなってからは、分からないね」

 イスラの手の中で、懐中時計の鎖が鳴った。
 ある意味では体感どおりとしか言いようのない言葉をうけて、肩が落ちる。
 体にはしる無用な緊張が解けたと同時に、精神集中を行うだけの余裕も戻ってきた。
 アナスタシアを抱きとめたジョウイへ視線をやると、彼は、静謐な瞳をこちらへ合わせてくれる。

「さっき……彼女が落としたぬいぐるみは、身代わり地蔵と似たようなものだと思います」
「地蔵?」
「ええ。致命傷を、代わりに引き受けてくれる」
「傷のほうは、全部引き受けてくれるってわけじゃなさそうだな……」

 ピサロの行方も知れないいま、これで、マリアベルの頼みに応えたと言えるのか。
 うつむいて線を崩し、呼吸をさえぎられかけた様子をおもんばかってか、紋章使いは無言で少女の体を仰向けにする。
 赤ん坊や子どもにそうするように、抱きとめた首もとには片腕の補助がかかった。
 傷の表面がふさがってなお内出血の危険がある傷に向かうアキラと、彼の視線が合ったのは一瞬きりだ。
 しかしてそんな配慮だけで、少年は彼への信頼を深めようという気になれる。

 視界の端ではイスラが、泥土にくずれたユーリルに対して似たような処置を行っていた。
 すぐに気絶から醒めてもらっては困るが、気道を確保することで窒息だけは避ける。
 体温の低下にも対処したいところだが、あいにくと、毛布や防水具といったものは手許にない。

「キミは……相手の心に働きかけて眠らせると、そんなふうに力を説明していたね」

 イスラが口を開いたのは、三者が三様に手持ち無沙汰になったとみえた、その時であった。
 事情を知るアキラでなくとも、言わんとすることは明らかなのだろう。
 影も見えないピサロの位置を探るためにか、厳しい視線を巡らせていたジョウイが自分に注意を向ける。


「じゃあ、その前段階として、純粋に相手の心を読むことは可能なのかい?」


 緑がかった紋章使いの瞳が、軽くではあるがはっきりと見開かれた。
 彼ら二人が、そこに反応するのも無理はない。
 アナスタシアは、ユーリルになにを言ったのか、話そうとはしなかった。
 ユーリルの言からは《勇者》という単語こそ聴き取れたものの、ことの詳細は分からないままだった。

「なにが起きたか、読み取れる……そういうことですね?」

 アナスタシアを呼んだときと同じような響きが、雨垂れがつたったジョウイの口許に残る。
 響きを確かめるように、あるいは、心を確かめるかのような語調は静かで、重い。
 誰の心を確かめているのかは定かではないものの、問題としたことと真剣に向きあっていることは確かだ。
 対して、主にアナスタシアへの嫌悪か、はたまた疑念か。イスラの表情に交じる色はすっきりとしない。
 だが、先刻放たれた彼の叫びを耳にした側としては、彼の真意を、真剣を疑いようもなかった。

 そんな二人に対するアキラは、意識的な呼吸を数度繰り返す。
 アナスタシアにせよユーリルにせよ、言動をみるに難物といっていいだろう。
 そんな彼らに対して、アイシャのときのように心を読み、足りないものを補填してやれるのか。
 がむしゃらに戦うなか、様々なものを取りこぼし、いまや疲れきってさえいる自分が。
 知らなくても良かったであろう、ひとの心の裏側を知ってひねた自分が。

「出来ると、思うぜ。あんまり好きなやり方じゃねーが、なんとか……してみせる」

 そう思いながらも、ここに眠っているアイシャの生き様を思えば――。
 彼女と同じ場所に立っているアキラに、うなずく以外の選択肢など初めからなかったのかもしれない。
 加えて、《英雄》になる願いの裏に隠れていた彼女の強い望みこそが、背中を後押ししてくれる。
 口の端にのぼらせていたか否かの違いこそあれ、ユーリルについては彼女と同じ程度に望みが前面に出ていた。
 アナスタシアにせよ、ユーリルをあそこまで歪めたのかもしれない言葉をかけ得たのなら、望みを読めるのぞみはある。

 しかしながら、《英雄》のつぎに《勇者》がくるとは予想だに出来なかった。
 どうやらここでは、そうしたたぐいの言葉に縁があるらしい。

「いけるのかい?」
「ひとまずはな。ただ、いまの俺じゃあ間違いなく」

 格好をつけるべく口をつぐみかけて、やめる。
 意識を喪った者の体がいかに重いかくらいは、分かっているつもりだ。
 片方は非戦闘員、片方は敵対にかぎりなく近かったとはいえ、三人で二人を抱えるいま、ここで。
 現在のアキラがもつ最大の弱点に触れないでいては、笑うに笑えない結果を呼びうるのだから。

「あぁ。心を読んだあと……ひょっとしたら心を読んでる最中に、意識が落ちる。
 すまねぇ。情けねー話だが、ちょっとばかり力を使いすぎちまったんだ」

 アキラに出来ることといえば、困ったように笑ってみせることくらいだった。
 やせ我慢に他ならない笑みを見せるべく視線を上げれば、さみだる雨が泉に流れ込むさまが見える。
 ――アイシャのなきがらも、いま、同じ霖雨(りんう)をうけているのだろうか。
 気絶や忘我を避けるかのように、意識の間隙を埋める思考が止まない。
 ひとを降りそぼしてまだ足りないとばかりに手数の多くある雨滴と同じように、止むことがない。

「まったく……前途は、多難だね」

 考えているようで、そのじつぼんやりしているのと変わらない思考を読まれたか。
 ほんの少しの棘を交えた口調にため息を交えて、イスラが雨の向こうを見やる。

ストレイボウさんたちも、無事だといいんだけど」

 ユーリルから少し遠い場所にアナスタシアを横たえたジョウイも、イスラと逆の方向につづく。
 彼らのあいだで二択をせまられたアキラは、第三の方角へ――。


 何者かの心を映したかのように晴れない雨をもたらす雲の合間に、しいて視線を持ち上げた。



【C-7橋の近く 一日目 夜中】
【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:気絶、疲労(極大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、アナスタシアへの強い憎悪、押し寄せる深い悲しみ
[装備]:最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6、天空の剣(開放)@DQ4、湿った鯛焼き@LAL
[道具]:基本支給品×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:アナスタシアが憎い
0:気絶中
1:アナスタシアを殺す。邪魔する人(ピサロ、魔王は優先順位上)も殺す。
[参戦時期]:六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところ
[備考]:自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えました。
※アナスタシアへの憎悪をきっかけにちょことの戦闘、会話で抑えていた感情や人間らしさが止めどなく溢れています。
 制御する術を忘れて久しい感情に飲み込まれ引っ張りまわされています。
※ルーラは一度行った施設へのみ跳ぶことができます。
 ただし制限で瞬間移動というわけでなくいくらか到着までに時間がかかります。

アナスタシア・ルン・ヴァレリアWILD ARMS 2nd IGNITION
[状態]:気絶、疲労(極大)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、自己嫌悪
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、賢者の石@DQ4
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
0:気絶中
1:……生きるって、何?
2:あらゆる手段を使って今の状況から生き残る。
3:施設を見て回る。
4:ちょこにまた会って守ってもらいたい。
[参戦時期]:ED後
[備考]:名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
 尚、黄色いリボンについては水着セットが一緒に入っていたため、ただのリボンだと誤解していました。
※アシュレーも参加してるのではないかと疑っています。

【アキラ@LIVE A LIVE
[状態]:テレポートによる精神力消費、疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える。可能ならばユーリルかアナスタシアの心を読む
2:無法松との合流。
3:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
4:どうにかして首輪を解除する。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。

イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0~1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドⅡビジュの首輪
[思考]
基本:感情が整理できない。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。
1:ピサロ、ユーリルを魔剣が来るまで抑える
2:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。

【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:キラーピアス@DQ4
[道具]:回転のこぎり@FF6、確認済み支給品×0~1、基本支給品
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロ、魔王を潰しておきたい。
2:座礁船に行く。
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※ピエロ(ケフカ)とピサロ、ルカ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾


【C-7中心部 一日目 夜中】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、MP0、人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:ロザリーを弔う
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
 ヴォルテック、クイック、ゼーバー(ニノ所持)、ハイ・ヴォルテック(同左)。


【やぎのぬいぐるみ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
ギア(アクセサリー)の一種。致命に至る一撃から、一度だけ復活することが可能となる。
ただし、装備者の身代わりになったぬいぐるみは失われてしまう。


 ×◆×◇×◆×


【7】










          ――――この袋小路からの抜け道を提供するのが「外的反省」だ。
          外的反省は、テクストの「本質」「真の意味」を到達不可能な彼方に
          追いやり、それを超越的な「物自体」にする。有限の主体であるわれ
          われの手に入るものはすべて、われわれの主観的視野によって変形
          された歪んだ反映であり、一部分である。<物自体>、すなわち
          テクストの真の意味は永遠に失われているのである。










 ×◆×◇×◆×


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114-3:いばらのみち――(ne pas céder sur son ―――) ユーリル 119:アキラ、『光』を睨む
アナスタシア
アキラ
イスラ
ジョウイ
ピサロ 118:ただ君だけを愛してる


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最終更新:2012年12月05日 01:58