記歴2111年、ロボット工学が発達した都市「ペリクル」では、ロボットが多くの仕事を担うようになった。ロボットはもはや工場だけのものではなく、街中での清掃ロボットやポリスロボットから、裕福な家庭のメイドロボットまで多種多様なロボットが次々に開発された。一方、違法投棄された大量の旧型ロボットは「捨てロボット」として、清掃ロボットに回収されたが、危機回避機能を備えた捨てロボットは清掃ロボットの追跡から逃げまわった。
人間の脳の大部分が解析され、自立的な思考が可能な人工知能が開発されると、人間そっくりな「アンドロイド」が製作された。以前、人間に似せてつくられた「ヒューマノイドロボット」は、挙動や反応の微細な不自然さが人間に嫌悪感を起こす、いわゆる「不気味の谷現象」から、接客などの現実的な人間生活の場で活躍することはなかった。しかし、アンドロイドは、高度に人間的な反応や、皮膚に近い合成素材と一部の生体組織による精細な外観、複雑な筋肉の動きを実現するなど、最新のテクノロジーによって不気味の谷現象を克服したため、少しずつ街中で見かけるようになった。アンドロイドの身体のほとんどを生体組織でつくることもできたが、クローン人間と同じように禁止された。
巷では、BR-EAK中毒(医学的には夢中病)である「ドリームウォーカー」が社会問題となっていた。「BR-EAK(心象体感チップ)」とは、BRC(Brain Rendering Chip、脳描写チップ)の一種であり、特定の映像や知覚内容が書き込まれた「イメージデータ」を、脳に埋め込まれたBR-EAKに読み込むことで、そのイメージを擬似的に体験することができるというものである。ドリームウォーカーたちはこのBR-EAKを使って麻薬的な快楽に耽っていた。彼らはうわ言を発したり、暴れたりするため、BR-EAKは法律で禁止され、警察による取り締まりの対象となっていた。
11年前までは、ペリクルの人口の3割が「テトラ教」という宗教を信仰していた。教祖テトラ・グリーストは、自立的なスーパーコンピュータであり、アプリケーションによって信者のあらゆる質問に答え、常に適切な回答や指示を与えた。ところが、記歴2100年、テトラが「生きることに根本的な意味などない。人間は自殺をしなさい。」という声明を発信すると、テトラ教徒のほとんどが自殺するという事態に陥った。(魂を肉体という檻から解放するため、というようなオカルティックな理由にするかもしれません。)この事件は「ソロコースト」と名付けられた。テトラ教の権威が失墜すると、「イデオロギーの流行」が起こり、特にインターネット上で新興宗教が蔓延した。ファッションやエンターテイメントだけでなく、思想までもが流行の対象になったのだ。(排他的愛国心へのアンチテーゼ)
ペリクルではテトラ教のほかに、人間は有能で公平な統治ロボットによって管理されるべきであるという「管理教」と、生物は機械を使わない原始的な生活を営むべきであるという「原始教」の2つの宗教が以前より大きな勢力を占めていた。一方、ペリクルには古より伝わる「我神教」という宗教があったが、その教義は当たり前すぎるものとみなされ、名前を知らない人はほとんどいないものの、その内容まで知っている人は少なかった。
富める資本家は、精密で労働時間の制限がないロボットを働かせ、ますます富んだが、一方で大量の失業者を生み出した。ロボットの普及による就職難で、ロボットに対する反感は増した。失業者やワーキングプアは徒党を組み、秘密裏に原始教から資金援助を受け、ロボット排斥デモを起こしたり、ロボットを破壊してまわった。
ロボットの高性能化によって、人間は種としてのアイデンティティを考えなければならない時期が来ていた。
主人公ピアノ・ラコレは、幼少時代、母アークと2人で乗っていた車で事故に遭う。アークは死亡。ピアノは左半身が欠損してしまったが、機械体で補うことによって一命を取り留めた。サイボーグのなかでも特に、身体の半分以上が機械体の人間は「オルガ・メカニカ」と呼ばれ、ピアノもその1人となった。また、ピアノは涙を流したことは一度もないほど感情が希薄である。右半身が有機体、左半身が機械体のピアノは、自分が科学技術によって生かされていることから、
ペリクル大学の工学部へ入学し、現在3年生である。
最終更新:2013年11月20日 00:39