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幻想郷の奇妙な物語 第十一話

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匿名ユーザー

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「ここは……何処なんだ?」

 あの思い出すことも憚られる惨状から無我夢中で逃げてきたアレッシー。
 彼は決して鳥目と言う訳ではない。月の明かりもあって、幻想郷に住まうものならば、薄暗い魔法の森で無い限り歩くのにさほど苦労はしないであろう。
 だが彼はこの地に住まうものではない。何しろエジプトとは全く環境が違う。
 彼の地では夜空を見上げるとそこには何も遮るものはない、満点の星の世界と月が乾いた砂の地を照らしてくれる。
 しかしこの地はどうだろうか。空はどの地にも行っても普遍的なもので、日本のような光害のないこの幻想の地ではエジプトに劣らないような美しい星空が見ることができる。
 そこが草原のように遮るものさえなければの話だが。そう、アレッシーが空を見上げようとしてもそこには彼の見慣れない木々が鬱蒼と覆い茂り、空からの柔らかな光を遮っているのだ。
 マヨヒガに抑留されていた時も彼は夜空を見上げたことがある。それでもそこは開けている場所であり、暗いと感じたことはなかった。
 慣れない土地、見慣れぬ暗い世界、おぞましい光景……つまり彼はパニックに陥って走り回っていたのだ。
 その様な状態で走り回っていて転ばぬ道理があるはずが無い。
 無様に頭から地面に滑り込むアレッシー。その痛みによってようやく我を取り戻したのだ。それと同時に全身に痛みが奔る。
 それもそのはず。服は小枝に引っ掛かり破れ、体中に擦り傷を負わせた。それだけではない。不慣れな土地を走り回ったため足腰にかなりの負担を強いたのだ。
 何とか立ち上がったもののそれが精一杯。膝が笑い、走る事はおろか歩くこともしばらくはままならない。
 荒い息を吐きながら怯えた目で周囲を見渡す。
 竹々の隙間から見れる空は薄っすらと白ばみ始めており、時たま吹き抜ける風が竹の葉を優しく揺らすだけ……彼の近くには誰もいない。

「ふぅ~」

 溜息とともに力なくその場に座り込む。彼を追う者がいないと分かったとたん安心してしまいその場にへたり込んだのだ。
 もし彼が永琳に何もされていないければ、恐らく眼を閉じて眠りに就いただろう。しかしそんなことすら彼には許されない。
 いくら目蓋を閉じても眠気は一切襲ってこない。辛うじて疲労感が少し抜けていく程度か。

「畜生~。全然疲れが取れねぇよ」

 一人愚痴をこぼすアレッシー。そこで彼はようやく気付いた。今己がいる場所がどこなのかを。

「まさか……そうだよな。グヘへ」

 気色の悪い笑い声を上げて己の幸運を喜ぶ。この陽が昇ったにも関わらず薄暗い竹林は忘れもしない。怨敵の居処、永遠亭の存在する迷いの竹林。
 期せずして訪れた幸運に積もり積もった疲労も吹き飛んでしまう。アレッシーは嬉々としてその足を動かし始めるのだった。
 しばらくして吹き飛んだはずの疲労がどっと押し寄せてきた。それは何故か。迷いの竹林の名に違わず、彼は迷ってしまったのだ。
 竹林のある場所に永遠亭はある。それは確かに正しい。だがアレッシーはそこに到るまでその様な手段であったのか思い出せばよい。
 八雲紫のスキマ空間を通って永遠亭に連れてこられたのだ。どこをどの様にして通れば永遠亭に辿り着けるのか彼は全く検討がつかない。もっとも、その様な目印があればそこは迷いの竹林などと呼ばれないだろうが……。

 ぬか喜びに終わったアレッシーは意気消沈してしまいその場に座り込んでしまう。
 どこか諦めた顔で空を見上げる。しかし竹の葉に遮られ青空を見ることは叶わない。
 これからどうした物かと考えるアレッシーの耳に何かが動く音のようなものが届いた。風が竹の葉を揺らしたのではない。生き物が動いた時に発生する音だ。
 気だるげに視線をその音のした方角へ向けた。竹々のスキマから覗きみた物は人の衣服だった。そしてそれはすぐに見えなくなった。
 アレッシーはそれを見とめると慌てて立ち上がった。

「お、おいッ! 待ってくれッ!」

 彼は走り出したもののすぐにその歩みを止める。思い出したのだ。昨夜に何があったのかを……あのおぞましい光景を。
 不用意に近付けばまた昨夜のような目に会うのでは、いや今は昼間だから大丈夫。アレッシーは心の中でそう迷っていた。
 しかし、結論を彼は出すことは出来なかった。何故なら待ってくれと言う彼の声はソレに届いたのだ。
 アレッシーが見たもの、それは垂れた兎耳と黒髪の幼い女の子。そう、幸運の素兎、因幡てゐ。
 彼女は目を見開いて驚いた。迷いの竹林で人に出会ったことではない。アレッシーの格好だ。

「へ、変態だーッ!」

 脱兎となり逃げ出した彼女を一体誰が責めることができるのか。彼のその格好は全身がズタボロで破れた服からその見栄えのよくない肌が露出している。
 これは健全な子供の教育にまことに良くない。それだけではない。疲労から顔色も悪く、風呂も水浴びもしていないその髪は脂ぎってフケが落ちるほど汚れているのだ。
 加えてその目も充血して赤く、一見して危ない人とわかるそれなのだ。てゐがアレッシーを変質者だと確信して逃げるのも無理も無い話しだ。
 だがアレッシーは幸運にも自分がその様に見られているとは気付いていない。
 変態ではないと言いながら思わず逃げ出したてゐを追いかけしまったのだ。
 走りながらもアレッシーは少し考えた。思わず走り出してしまったが、相手が逃げ出すのなら自分に危害は無いだろうと。
 しかし、考え事をしていたのが良くなかった。霧が漂う迷いの竹林。足元が覚束無いのに考えごとをして走ったら……

「あいでッ!」

 当然の如く転んでしまう。そして、躓いてしまえば同じく、当然の様にてゐの行方さえ分からなくなってしまう。霧の濃い竹林では再び彼女を見つけ出すのは困難であろう。

「クソッ!」

 やる事為す事全てがうまくいかない。人間その様な状態に陥ったらストレスが溜まってしまう。そのストレスが溜まった場合は多くの人はそれを発散させようとするだろう。
 よくあるものが……物に当たるというものだ。
 アレッシーもその例に漏れず、腰の辺りに付けていた手斧を掴み、手当たりしだいに竹に斧を叩きつけ始めた。
 お世辞にも力自慢ともいえない彼の腕力では一度竹に斧を叩きつけたところでそれを切ることなど叶わない。
 竹に弾かれて無残に転げ落ちるだけだった。

「何だか調子狂うな」

 ボリボリと頭を掻きながらブラブラと竹々の間の獣道を歩く妹紅。その姿を人里の上白沢慧音が見止めたらはしたないと怒るだろう。
 永遠亭で朝食を終えた彼女は、引き止める永琳たちから逃げるように出て来たのだ。
 そしてのんびりと散歩をしながら可笑しな永遠亭の事を考えていた。
 ぶらりぶらりとゆっくりと足を動かす。特に急ぐ予定も無い、妙に美味しかった食後のお茶の余韻を踏みしめながら永遠亭からゆっくりと遠ざかる。
 するとどうだろうか。背後からとてとてと軽快な子供が走ってくるような足音が聞こえるではないか。ボーっとしていた妹紅はソレに気が付くのが遅れてしまった。
 だがどうと言うことはない。それでも彼女の腰あたりに軽い衝撃が走る程度だ。妹紅がその視線を下に向けると目に付くのはウサギの耳、色素の薄い長い髪。悪戯ウサギこと因幡てゐではない、鈴仙だ。

「お姉ちゃん遊ぼう」

 妹紅のモンペの裾をクイクイと引っ張る鈴仙に目線を合わせずに答える。

「輝夜は……あいつとは遊ばないのか?」
「えーりんがかぐやであそんでる」
「……」

 八意永琳『が』輝夜『で』遊んでいる。何をどうして遊んでいるのかを聞かないことに決めた妹紅の判断は賢明と言わざるを得ない。

「あーそうだなぁ……」

 ほんの一瞬の静寂の後、彼女は口を開いた。妹紅をじっと見つめてくる鈴仙。きっと彼女は永琳の魔の手から逃げて来たのだろう。
もしもこのまま永遠亭に彼女を帰したのなら……あぁ、恐ろしいッ! 幼女で可愛らしい鈴仙を見捨てることが出来ようかッ! いやできないッ!
 そう、妹紅は知らず知らずのうちに彼女の瞳に魅入られていたのだ。
 それにまさかとは思うがこの竹林で迷ったりしたら……しかもそれが慧音にでも知られたら……想像もしたくない。

「そうだな、筍掘りでもするか?」
「うん! スコップ取ってくるね!」

 小さな鈴仙は踵を返すと永遠亭へパタパタと駆けていった。妹紅はそんな彼女の様相を見て自然と頬が緩んでいた。

 のんびりと穏やかな時間が過ぎて行く。妹紅にとってこのような事は本当に久しぶりだった。筍を掘るにしてもいつも一人。
最後に慧音と筍を一緒に掘ったのはいつだろうか(慧音に掘られたのはつい最近)。

「たけのこみーつけた♪」
「うん? ああ、それはだめだよ。美味しい筍は土を被って隠れているんだ」
「どうやって探すの?」
「まぁ、目でちょこっと盛り上がっている所を探すか、足で踏んで確かめるんだよ」

 妹紅の言葉に小さな鈴仙はわかったと元気な声で返すとダンダンと地面を足で踏みしめる。子供らしい短絡的だが愛すべき行為。その頬は自然と緩み、知らず知らずに笑い声が出てしまった。
 そして彼女は慧音の言葉を思い出していた。
 彼女は常々寺子屋の手伝いなどをしてはみないかと言っていた。妹紅とて里の人間と交流が無いという訳ではない。里の自警団として、迷いの竹林の案内人として少なくない里の人間と知り合いではある。
 しかしそれらの人々は皆成人の男女だ。子供ではない。妹紅は子供との接触は極力避けるようにしていた。それが例え病気で永遠亭に運ぶときでも声をかけたりはしなかった。それは何故か。
 慧音はそんな彼女に子供は嫌いかと訪ねたときがある。妹紅は正直に嫌いではないと告げた。そう、嫌いではない。
 子供が嫌いならば、今の鈴仙、子供の姿に戻った彼女の相手などするはずが無い。
 子供は嫌いではない……ただ怖いだけだ。子供たちは成長し、妹紅に並び、そして越え、やがて死ぬ。大人ならばそこまで彼女に見せつけはしない。だが子供は彼女にありありとそれを突きつけてくるのだ。
 愛くるしい子供たちは妹紅に常に突きつける、彼女の時が止まっている事を。だから怖い、あの笑顔を失ってしまうことが怖いのだ。
 慧音にはそれははぐらかしはしたが、聡明な彼女のことだから気付いてはいるかもしれない。
 蓬莱人はその肉体は衰えも成長すらしない。だが精神は別だ。成長するかもしれないのだ。
 今の鈴仙を見ても恐ろしくは思わない。その成長した姿を知っているからだろうか。それとも……。

「よし決めた。今度慧音に言って、里の子供たちと一緒に筍掘りをしよう」

 筍を持ってはしゃぐ鈴仙を見つめながら小さく呟いた。
 ちょうどその時だった。どこからか少女の悲鳴が聞こえてきたのだ。

「メリーさん、竹林ですよ竹林ッ!」
「ええ、そうだけど、どうしてそんなにテンションが高いの?」
「いやだって竹林といえば筍でしょう。お嬢様が迷いの竹林に行けと言ったのは筍を取ってこいということだったんですよ!」
「そうなの?」
「そうなんです! 咲夜さんは土いじりとか服が汚れるから嫌いって言っていましたから私に行くようにいったんです」
「うーん、でも竹林に入っては駄目って言われなかったかしら?」
「え!? そんな事言っていましたっけ?」
「言っていたわ」

 少しの間目を閉じて云々唸る美鈴。そして何かを思いついたのかハッと目を開け、いきなり叫びだした。

「し、しまった!」
「美鈴さん?」
「私、筍掘りなんてしたこと無いんだった……」

 がっくりと膝をつき、項垂れる美鈴。どうしたものかとオロオロするメリーであったが、急に美鈴に縋る様に掴まれて驚いてしまう。

「メリーさん」
「は、はいッ!?」
「筍掘ったことはありますか?」
「ええ、一度だけ……」
「なるほど。合点がいきました」

 一人で悩み、一人で勝手にそれを解決した美鈴。メリーは置いてけぼりだ。

「きっと私と一緒に筍を掘ると美味しい筍が掘れない運命なのです。ですからメリーさん、あなたに任せました」
「え、えぇ!?」
「美味しい筍を掘ってくるのをここで待っていますね」
「ちょっと待って……」
「御武運を祈っています」

 あたふたと慌てるメリーを美鈴は恭しくお辞儀をして送り出すのだった。

 こうして何だかよく分からない内にメリーは筍を掘るために竹林へと入っていく羽目になったのだ。

 レミリアの尊厳の為に補足せねばなるまい。彼女は筍ご飯が食べたいが為に彼女たちを竹林へと行かせたのではない。
 メリーと彼女が初めて出会ったとき、どこでメリーの夢物語が終わったのかを彼女は知っていたのだ。
 運命を読む彼女ならばそんな事は雑作も無い。
 本来あるはずのない二度目の邂逅の物語。それを終わらせる為にレミリアは敢えて同じシナリオを歩ませているのだ。
 違うのは配役のみ。誰が獣で誰が炎を纏ってそれを追いやるのか。全ては彼女の掌の上。

「お嬢様、美鈴は迷いの竹林に行ったのですよね」
「ん? どうしたの咲夜」
「いえ、だったら筍を取って来てくれないかと」
「ああ、そうだね。筍ご飯とかいいかも」

 そして次の瞬間、レミリアは咲夜の言葉を聞いて絶句する。

「筍の灰汁を取った煮汁で紅茶を淹れたら……」
「(美鈴、筍を持って帰ったりしたら殺すわ。でも大丈夫よね。竹林には入るなと言ってあるから)」

 全てはレミリアの掌の上、そう思っていた時期もありました。

第十壱話

筍、美味と不味さの境界

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