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幻想郷の奇妙な物語 第十話

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匿名ユーザー

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 レミリアは取り留めない話をメリーと交わしていた。時折訳の分からないことを口に出すのにも慣れられていた。
 要は話半分に聞いていれば良いのだ。時間は緩やかに過ぎていく。暗闇に太陽の柔らかな日差しが差し込んできた。

「お嬢様、そろそろ夜が明けます」

 咲夜の言葉がメリーとレミリアのお茶会に終わりを告げる。

「あらそう? もうそんな時間なのね。メリー、最後に予言をしてあげる」
「予言?」

 レミリアはそう言うと不適に運命を嗤う。

「竹林へ、迷いの竹林へ行きなさい。そこに道はある。あの時のように全てが終わる」

 その言葉にメリーは眉を顰める。彼女は思い出したのだ。以前竹林で見てしまったあの獣を。人間の顔をもった大鼠の姿を。
 メリーの不安そうな表情を見て取りレミリアはクスクス笑う。そんな事は承知していると言わんばかりに。

「安心なさい。あの獣は火鼠の裘を被ったエイリアン。貴方が逃げたから追いかけただけよ。面白そうだとかいう理由でね。そうね……だったら美鈴を竹林まで案内させるわ」
「えっ!? 私ですか?」
「そうよ。竹林までよ。竹林へ入ってはいけないわ」
「はぁ……」

 その言葉にどうして竹林までなのかと問いたそうにしているメリーを彼女は手でその問いを遮る。

「運命は己が手で掴むものよ。その方が面白いもの」
「見ている方は楽しくても危ない目に会うのは私でしょう?」
「大丈夫よ。全てはあの時と同じ。貴方というヒロインの窮地には必ずヒーローが駆けつけてくれるわ」
「あの赤い眼をした女の子?」
「人間じゃないから怖い?」

 レミリアの言葉にコクリと首を縦に振った。

「私も人間じゃないわ」
「でも貴方は……そうね、そんな事は些細なことね。あの女の子にお礼を言っていなかったわ」
「別にお礼なんてしなくてもいいんじゃないの?」
「どうして?」
「どうしてか? だってあの女の子はエイリアンと喧嘩をしているだけですもの。エイリアンが逃げたのは無力な貴方を巻き込まぬようにするため。女の子は周りが見えていなかったようだしね」
「まるで全てを見てきたかのような言い回しね。それにしてもエイリアン……」

 彼女の頭の中ではSF映画に出てくるようなエイリアンがキシャーキシャーと鳴く姿が出てきた。
 そしてそのエイリアンと喧嘩をする女の子の頭が割れ、そこから何か出てきて、同じくキシャーキシャーと鳴きながら喧嘩をする姿が思い浮かんでしまった。

「やっぱり不安なのだけど……」
「大丈夫よ。今美鈴にクッキーを包ませているわ」
「ええ、ありがとう」
「所でそのクッキーは誰と食べるのかしら?」

 唐突にレミリアから問われる。彼女はそれに答えようと口を開くが……そこで止まってしまう。声が出せないのだ。

「答えられないの?」
「私は、私は……」

 その者の名が告げることができない。ただ口をパクパクと動かすことしかできないのだ。

「蓮子かしら? それともその腕に抱いた狐さんと猫ちゃん? それとも姫の亡骸? もしかして神社の巫女?」

 メリーは俯いて答えない。いや答えることができない。

「うふふ。行きなさい。答えは自分で出すしかないのだからね」



 こうしてメリーはどこか心の中に靄を抱えたまま、朝陽に見送られて美鈴と共に紅魔館を後にするのだった。

 夜明け。それは始まりの時間。この幻想の地に置いて異変が生じ始めていた。それに気が付いた二人が動き始めたのもこの夜明けの時刻であった。
 一人は博麗霊夢。この幻想郷を覆う結界に異常が生じたのをその与えられた役割故に気付いてしまったのだ。
 博麗大結界と呼ばれるこの結界は二人の力によって完成する。一人は博麗神社の巫女。もう一人は境界を操る大妖、八雲紫。
 前者が結界という存在を守護し、後者が外の世界と幻想郷を隔てる境界を付与する。この二つによって結界は完成するのだ。
 結界が存在した頃は、一人が結界の存在とその結界の能力を付与し、保持し続けるという形であったのだ。だが八雲紫はわざわざ結界を二つに別けた。
 それは一人が守護するが故の弊害、もしその一人が斃れてしまったのならば結界はどうなってしまうのか。その事を考えた保険であった。そしてその保険が役に立ったのだ。
 彼女はそれに逸早く気が付いた。結界という存在は揺らぎないのにその力に揺らぎが出てきたのだ。
 早くに気が付いたとは言え、それを防ぐことはできない。幾人かの人間が外の世界よりこの幻想の地に迷い込んだのだ。
 それだけならば良い。彼女が元の地にと送り返せば済む話だ。しかし、もしその人間が悪意を持つ人間であったのならばどうだろうか。彼女が彼等を送り返すまでに幻想郷に如何なる被害がもたらされるのか。
 全てが悪意を持つ人間ではない。紛れ込んだ人間は良き隣人となりうる資格を持ち合わせた者もいた。もしその彼等が力を持っていたのならば彼女の心は苦しまなかっただろう。
 彼等は自分の力で己の身を守ることができるのだ。彼女は自身の役目を、結界を強化し、これ以上外の世界からこの地へと紛れ込む人間を防ぐことができるのだから。
 しかし悲しい事に悪意ある者は力を持ち、守るべき良き者は力を持っていないのだ。
 博麗霊夢は決断を迫られていた。目の前の命を切り捨て更なる災厄を防ぐか、それとも……。
 そんな彼女の悩みなど知ったことかと上空より能天気な声が響いてきた。

「よう、何しけた顔して悩んでんだ?」
「魔理沙か。何かよう? 今忙しいのよ。これから外の世界に人を送り返さないといけないの。その後に厄介な仕事が残っているしね」
「あん? 送り返すって……ああ、あそこのおっさんか。何であのおっさん泣いてんだ?」

 魔理沙の問いに霊夢は溜息交じりに答える。

「奥さんと……妊娠中の奥さんとはぐれたんですって。妖怪に襲われたからこの人は助けてあげたんだけど……」
「おいおい、妊婦さんが迷ってんのか!? だったらのんびりしている暇はないぜ。さっさと探しにいかないと」
「ダメよ。そんな子としている暇ないわ」
「何だよ! まだ生きているかもしれないぜ。 お前がそんなに冷たい奴だとは思わなかったぜ!」

 どこか突き放したかのような霊夢の言動に魔理沙は言葉を少し荒げた。だが次いで放たれた彼女の言葉は霧雨魔理沙以上に強い口調であった。

「うるさいわね! 私だって探してあげたいわよ! でもね、異変なのよ!」
「わ、悪かったよ。だから怒鳴るなって。それで……異変って何だ?」

 怒鳴る霊夢に驚き、魔理沙は詫びの言葉を口にすると話の続きを促す。

「結界が緩んでいるの」
「緩んでいるってどういうことだ?」

 魔理沙の問いに彼女は少し眉を顰めながら答えた。

「結界は確かに存在している。それに揺らぎはない。だけどね、外の世界とを隔てる境界が緩んでいるの」
「それって紫が何かしたって事なのか?」
「違うわ」

 そして霊夢はどこか投げやりに溜息を付きながら言う。

「何かをしているんじゃなくて、何もしていないの」
「おいおい。それって……」
「紫の怠慢よ。もしそうでなければ紫の身に何かあったと考えるのが妥当ね」
「ん? 待てよ。もしかしたらあのスキマが異変を企んでいるんじゃないのか?」

 その推測に霊夢は首を横に振る。そして告げる。『有り得ない』と。

「何でそうなるんだ?」
「この結界に起きている異変はやがて幻想郷に害をもたらす。そんなこと紫がするはずが無いじゃない」
「で、紫が犯人じゃないのなら誰が犯人だ? いつもの勘はどうしたんだ。そいつの見当ぐらいつけているんだろ?」
「そんなの知るわけないじゃない。それに、そんな事よりしなければいけないことがあるの」
「しなければいけないことって?」
「結界よ、結界。このままじゃ外の世界との境界が無くなってしまうわ。私が結界の強化をしないと……だから魔理沙、貴方に頼みがあるの」
「いいぜ。迷い込んだ外来人を助けてこいって言うんだろ?」
「違うわ。マヨヒガに行って欲しいの。そこで紫か狐、猫でもいいから見つけて神社に連れて来てちょうだい」

 霊夢の言葉に魔理沙は不満そうに言葉を漏らす。

「おいおい、それじゃあ迷い込んだ外来人はどうなるんだ? あのおっさんの奥さんのような人がまだいるんだろ?」
「そうね」
「そうねって、見捨てるのかよ!」
「でも仕方が無いじゃない。二兎を追うもの一兎を得ず。この結界の異変をどうにかすることが結果的に一番被害を少なくすることができるんだから」
「でもよ!」
「そうね~貴方は迷い込んだ人を助けてあげなさいな」

 魔理沙が興奮して霊夢に突っかかりかけたその時、二人ではない声が上空から聞こえてきた。どこか間延びした声には明確な怒りが携えられている。

「あら? 白玉楼の亡霊が何か用かしら? これでも私は忙しいのよ」
「ちょっと霊夢、何で喧嘩腰なんだ? 今の声聞いただろう。何か知らないけどあいつ怒っているぜ?」
「怒ってないわよ~」

 その笑顔と裏腹に確かに怒気を滲み出しているのは西行寺幽々子、その人だった。
 彼女が何故この神社にやって来たのか、話は朝の陽が昇る前に遡る。

 妖夢は陽が昇るよりも早く目を覚まし、朝の鍛錬に勤しむ。それは白玉楼では日常的な光景、しかし今日は違った。世界が未だに闇に包まれているというの彼女は、幽々子は目を覚ましたのだ。

「妖夢、妖夢!」

 布団から上半身を起こし、大きな声で既に目を覚ましているであろう彼女の名を呼ぶ。呼ばれた妖夢は何事かとおっとり刀で幽々子の元へ馳せ参じる。

「こんなに早くどうされたんです? まだ陽は昇っていませんよ?」

 苦笑しながらも幽々子に呼ばれた理由を尋ねるものの彼女はどこか遠くを見る様な視線で妖夢の問いに答えない。
 それどころか一人呟き始めたのだ。

「異変……異変よ」
「はぁ? 異変って何がですか?」
「どうして気が付かなかったの!」
「いやそんなことを仰られても何のことかさっぱり……」
「そうよ、有り得ないのよ! 紫が私を忘れるなんて!」
「ああ、その事ですか。でも異変だなんて……幽々子様は心当たりはありませんか? 何かあの方の御気に触るようなことをされたご記憶は御座いません?」

 幽々子は妖夢の問いにぷぅっと頬を膨らませて反論をする。

「紫は絶対にそんな事しないもん! だって紫は……紫は!」
「ゆ、幽々子様?」

 言葉に詰まる幽々子の目からポタリポタリと涙が零れ落ちていた。
 彼女は思い出していたのだ。人としての生を終え、全てを失い何もない無垢な彼女を優しく抱きしめ、幻想郷という世界を教えてくれた紫の姿を。
 それは嬉しさか悲しさか、共に涙を流した、あの出会った日を、共に笑った長き日々を。もし紫に出会うことが無ければ喜怒哀楽無く、ただ冥界の管理人としての役割を果たすだけの日々を送っていたかもしれない。
 だから哀しかった。もう共に喜びを分かち合うことができないのかと。許せなかった。紫に自身を否定されたを怒り思わずぶつけてしまった。忘れられなかった。あの楽しかった日々を。
 そして疑問に思った。紫にとって自分はすぐに忘れてしまうような存在だったのか。
 故に答えを出した。それは否と。共に過ごしてきた日々を目を瞑り思い出せば当然の結論でもある。
 有り得ないのだ。だから……

「紫の身に何かあったのよ! そうでないと……」

 幽々子の出した結論は彼女の願望でもあったのかもしれない。
 その思いは今は紫に届かなくても目の前にいる妖夢には伝わった。

「あの……幽々子様、私は何をしたらいいんです?」

 妖夢は幽々子に告げる。ならば一刻も早くこの異変を解決して紫様を助けましょうと。
 その言葉に彼女は目を拭うとスッと立ち上がり、妖夢に告げる。

「妖夢、貴方はマヨヒガへ行きなさい。紫はきっと気付いていないわ。だから式神に聞きなさい」
「藍や橙ですか?」
「そうよ。もしかしたらその子たちにも異変が起こっているかもしれないわ。その時には博麗神社来なさい。私はそこで待っているわ」
「幽々子様はマヨヒガに来られないのですか?」
「ええ。異変が起きているのなら巫女に聞くのが手っ取り早いわ」
「二手に分かれて異変を迅速に解決する。そういう事ですね」
「ええ、では行きなさい」

 こうして朝陽が昇りきる前に妖夢はマヨヒガへ、幽々子は博麗神社へと飛び立ち、今に至る。

「ふーん、でどういうつもり? さっさと紫に結界を如何にかして貰わないといけないのに……もしかしてあんたもグル?」
「だから霊夢はどうしてそんなに喧嘩腰なんだ?」
「うっさいわね。だって結界を強化すんのは疲れるのよ。で、あんた邪魔すんの? じゃあ弾幕ごっこで決着を……」
「自惚れるな博麗の巫女! 今の状況を考えろ!」
「でも……」
「でもじゃない! 所詮は人間、弾幕ごっこでも怪我や死ぬ可能性だってある!」

 ピシャリと言い放たれ二の句が告げず、スペルカードを取り出そうとする格好のままで固まってしまった。
 そして幽々子は大きく息を吸い、それを吐き出すと、今度は優しく諭すように話しかける。

「マヨヒガには妖夢が行っているわ」

 だから大丈夫だと彼女は告げる。

「そ、そうなのか! じゃあ安心だな!」
「そうね。魔理沙の言う通りね」
「じ、じゃあ私は迷っている人がいないか探してくるぜ!」
「そ、そう。いってらっしゃい」

 少し慌てながらも魔理沙は話を打ち切ろうと試みる。彼女はお説教や怒られるというのが大嫌いなのだ。
 幽々子は自らの言わんとした事が伝わったと思い、それに、満足して二人をただニコニコと微笑みながら眺め始めた。
 その様子に焦るのは魔理沙であった。ヒソヒソと小声で霊夢に話しかける。

(おい、何だかやばくないか?)
「何が?」
(声が大きいって……ほら、幽々子の奴、笑っているけど絶対心の中ではまだ怒っているぜ?)
(私だってそんなの知らないわ)

 つい先ほどまで真顔で怒り、彼女らしくないお説教のようなものをしていたのだ。それなのに急に微笑を浮かべてこちらを眺めるというのは不気味だった。
 もしかしたら腹の底では未だに怒っているのではと彼女達が勘繰るのも無理はない。ヒソヒソと内緒話を始める二人に、幽々子はそんな事を思われているとは露ほどにも思わず、優しく話しかける。

「ねえ、何話しているの?」
「な、何でもないぜ! それじゃあ行ってくるぜ!」
「あ、魔理沙! 逃げる気なの!?」

 あばよと箒に跨り、勢い良く神社から飛び出していく。当然二人は取り残されたままだ。
 その雰囲気は何とも微妙なものだった。
 先ほど誰彼構わず喧嘩を売るなと怒られたばかりだけに話を何とも切り出しにくい。

「あーと……その、お茶でも飲む?」
「お団子も頂戴ね」



第十話

そして彼女達は動き出す



 迷いの竹林では一人の女性が朝早くから当てもなく彷徨っていた。いや彷徨うというのは語弊があった。とある目的の為にある場所へ行こうか行くまいか夜通し考えながら歩き回っていたのだ。
 結局は日が昇っても結論を下せずにこうして竹林を歩き回っているだけなのだ。
 苛立ち気味に頭をガリガリと掻き毟りながらも一人言葉をこぼす。どうしてあいつのことでこんなにも悩まなくてはいけないのかと。
 ふと立ち止まり、顔を上に向ければ竹の葉の隙間から朝日が差し込む。溜息と共に帰ろうと呟き、再び歩み始める。
 だがその行く先は彼女の意思とは裏腹に永遠亭へと向かっていた。



 そして気が付けば藤原妹紅は永遠亭の前にいた。結局ここに来てしまったのだが、これからどうしようかと棒立ちになって考える。
 最近姿を見せない輝夜を呼び出すのか、それともこっそり姿を確認してから立ち去るのか……一人云々唸っていた。

「ねぇ、お姉ちゃん……」

 ふと気が付けば服の裾を、兎の耳をつけたの可愛らしい女の子がクイクイと引っ張っていた。

「あん?」

 妹紅が怪訝な顔をしてその視線を女の子に向ける。妹紅と女の子の視線が絡み合う。

「おはようございます」
「あ? ああ、おはよう……」

 礼儀正しくお辞儀をしながら朝の挨拶をする女の子。妹紅はおざなりに口を開きながらもこの子の親の躾はいいんだなと、どこか見当違いな事を考えていた。
 突然現れた見知らぬ女の子に何を話せば良いのかと話をすることができない。それは女の子からも、何も言い出してこないのだから二人の間には静けさだけが残る。
 しばしの沈黙。朝の静謐な空気に小鳥の囀り、風にそよぐ竹々の葉音。言葉を交わさないこの刹那の一時がどこか心地よかった。
 その心地よい時間も直ぐに終わりを迎えた。永遠亭の中から朝餉を告げる声が聞こえてきたのだ。

「あ、てゐが朝ごはんって呼んでる」
「そうかい。じゃあ私はこれで……」

 帰るとは言えなかった。何故ならば女の子が服の裾を掴んで放さないからだ。
 困惑する妹紅を他所に、女の子は裾を引っ張り永遠亭の中に連れて行こうとしている。

「なぁ、放してくれないか?」
「ダメ。一緒に朝ごはん食べようよ」

 無理やりにでも妹紅を連れて行こうと引っ張るのだが悲しいかな、所詮は非力な女の子、妹紅の体は動かない。
 そんな女の子の様子に彼女は困惑してしまう。
 妹紅はこのような善意に離れていない。彼女に対してこの様な善意を向けてくる相手は限られていた。例えば上白沢慧音のように数少ない相手である。
 故にどのように対処してよいのか分からない。女の子の手を無下に振り払うことすらできない。

「何しているの?」

 そうこうしている内に永遠亭よりもう一人の女の子が出てきた。恐らく来るのが遅い女の子を呼びに来たのだろう。その女の子は妹紅を引っ張っている女の子とおそろいの着物を着ている。

「あ、ちょうどいいや。このお姉さんもいっしょに朝ごはん食べるからね」
「いや、一緒に食べるとは言っていないよ」
「わかった!」

 妹紅の言葉など聞き入れることなく、今度は二人係で彼女を引っ張り始めたのだ。
 ついに根負けした妹紅は二人に連れられるまま、ついに永遠亭へと足を踏み入れたのだった。

「で、何で貴方がここにいるのかしら?」
「いや、この子達が無理やり……」
「そうなの。ふーん……」

 永琳は何故か食卓に女の子二人と一緒に座っている妹紅に嫌々ながらもご飯をよそっていた。

「手は洗ったの?」
「うん洗ったよ」

 てゐの言葉に可愛らしく答える黒髪の女の子の様子に思わず頬が緩んでしまう永琳。そんな彼女を妹紅は怪訝な顔でそれを見詰める。

「何よ」
「いや、別に……」
「可愛いじゃない」
「まぁ、確かに可愛いけど……」

 可愛いという永琳の言葉に妹紅は同意する。確かに場所が永遠亭であるということを覗いて考えればそれは微笑ましい光景であった。
 妹紅の顔も、どこか表情の硬い表情も少し緩む。永琳が爆弾を落とすまでは。

「そういえば輝夜は……」
「あげないわよ」
「え? 輝夜をか? いらないよ」
「でも可愛いって言ったじゃないの」
「それはその子の事で……」
「ああ、そうか!」

 何かに気付いたのか永琳は笑顔を浮かべている。

「な、何だよ」

 その様子を妖しく思い、彼女に問う妹紅。そしてその言葉に促されるように爆弾を投下したのだ。

「その子……うちの輝夜です」
「今何て言ったんだ?」
「だから輝夜でーす。それでこっちが鈴仙ね。可愛いでしょう?」
「な、何を言うだーッ!?」

 妹紅絶句。よりにもよって鈴仙は兎も角、天敵にして仇敵の輝夜を可愛いと言ってしまったのだ。
 彼女の心を駆け巡る感情、それは羞恥だろうか、それとも己の迂闊さに怒りを覚えたのか。その感情は分からぬものの、彼女の顔は真っ赤になっていた。

「あら? 照れているのかしら? この調子で仲直りしてくれると嬉しいんだけど……」
「わ、私は帰るぞ!」

 もうこの場に入られないと立ち上がろうとしたが小さな手が彼女の服を掴んでそれを阻止しようとする。
 その小さな手の持ち主は輝夜であった。

「な、何だよ」

 妹紅が問いを投げかけても輝夜は頬を膨らませていかにも拗ねていますといった行動を見せるばかりであった。そんな彼女を永琳は可愛いわねと微笑みながら見守っていた。
誰も妹紅を助けてくれるはずが無い。
 もしもその相手が本当に嫌いであるならば、心身共に子供の姿に戻ったとしても気にも留めなかっただろう。罪悪感など微塵も感じるはずが無いのだ。
 輝夜には友情も親愛の情など微塵も持ち合わせていた。頭の中ではそう信じようとしていた。だがどうだろうか。彼女は頭の中ではそうはしたくは無いと言っているのに体は自然とそこに腰を下ろしたではないか。
 それこそが妹紅の心の奥底に眠る真なる思いか。輝夜は心が幼い時に戻ったが故に機敏にその思いを感じることができた。膨れっ面から満面の笑みに。
 それとは対照的なのは妹紅。ムスッとした顔付きでその場に座っている。彼女が何を考えているのか……どうしてこの場に留まっているのかと自問しているのか、それとも何が原因で輝夜が子供になっているのか。
 心を読むことができるものはこの場にはいない。

 静かで心地よい朝の時間。まさか輝夜と妹紅が一緒にいてこんなにも穏やかな時間が過ごせるとは夢にも思わなかった。アレッシーさまさまである。
 しかしそれも嵐の前の静けさというものだ。
 物語は終結へと向かっていた。それは誰も気付けない……いや、もしかしたら運命を操る彼女ならばこの結末が見えているのかもしれない。



 朝、それは夢から覚める、目覚めの合図だ。
 夢は……唐突に終わる。


TO BE CONTINUED…
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