砂地獄。今アンドレとL・Aが置かれている状況をあらわすのにこれほどピッタリな言葉はないだろう。
「に、兄ちゃん!」
L・Aはアンドレの口を塞ぐ白い手に怯えきって、動けなくなってしまう。
アンドレは口を塞がれてもがくことしかできない。
「もう一回だけ言うぞ。死にたくないなら動くな」
アンドレは、自分の背中のあたりから聞こえてくる声に耳を傾け、もがくのをやめた。
「そうだ。そのままゆっくりと力を抜け。流砂は水と同じで、浮力を持っている。だから、力を抜けば自然と浮かび上がってくる……昔インディアンに教えてもらった砂漠で生きる知恵だ」
背中から聞こえてくる声の言うとおりに、アンドレは力を抜いた。
ずるずると手足が砂の中から姿を現してくる。
「やればできるじゃないか。いいか、そのまま浮かんでれば流されることはあっても死ぬことはねぇ。次はお前の弟も助けてやるから、そのまま静かにしていろ」
アンドレは、大の字になって流砂から浮かびながら、隣から聞こえてくる声に視線を向けた。
流砂の中から、銀色の糸が現れてくる。
砂が流れる音と共に、陶磁器のようなものが現れる。
「ちっ……しばらく死んでたおかげで服は血だらけだし口の中は砂だらけだ」
悪態をついて、妹紅の体が砂の中から現れた。
「いいか、アンドレ・ブンブーン。この流砂から出るにはアタシ一人だけじゃかなり骨が折れる。てめぇらにも手伝ってもらうからな」
不死鳥は失敗を恐れない第十八話 『砂の海の真ん中で』
「まずはアタシを磁力体質にしろ。あの溺れてるガキがお前と似たタイプの能力なら引き寄せられるだろ」
妹紅の言葉に、アンドレは眼を見開いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんなことしたら俺たちがぶつかって内臓ぶちまけるだけだぞ!」
アンドレは焦って妹紅の考えに反対する。
「賭けだ。内臓ぶち撒いて全滅か、流砂に飲まれて全滅か、3人そろって生還か」
妹紅はベルトの鞘からナイフを抜いた。
「覚悟しろ。流砂から抜ければ絶対に生きて帰れる」
妹紅の手からナイフが放たれる。
ナイフはアンドレの頬を切る。僅かな血を付けたナイフは妹紅の念動力の妖術により手元に帰ってきた。
瞬間、アンドレの体が浮かび、妹紅へと向かっていく。
「うわああああ! マジかよォォォ!」
アンドレの体が、妹紅の背中にがっしりとくっついた。
「いいか、決して能力を解除するんじゃねぇぞ……能力を解除したら、流砂で死ぬからな」
「ハイィィィィ!」
健気にもアンドレは磁力の与える痛みに耐えて、能力を維持し続ける。
「そこのゴーグル! 死にたくなかったら砂鉄を出せッ!」
妹紅は背中にひっついているアンドレの重さに耐えつつ、L・Aに向かって怒鳴る。
「ぼ、僕のこと!?」
L・Aは溺れながら、妹紅の方を向いた。
「そうだ! 砂鉄を出せッ! そうすれば流砂から脱出できる!」
言われるがままに、L・Aは磁力の能力を使って砂鉄を出した。
砂鉄を出したL・A目掛けて妹紅はアンドレの血が付いたナイフを投げる。血の付いたナイフがL・Aの髪を少し切る。
すると、妹紅とアンドレの体が浮き上がり、L・Aへ飛んでいく。
「「ぎゃああああああ!」」
絶叫するブンブーン兄弟。
ついに3人は塊となり、互いの磁力によって自壊へと向かっていく。
「もう駄目だもう駄目だ死ぬッ! 絶対に死ぬウゥゥゥ!」
アンドレは半狂乱になって騒ぎ立てる。
「黙ってろい! いいか、ゴーグル。あそこに岩山があるだろ?」
騒ぐアンドレを無視して妹紅は近くにある岩山を指差した。
「ゴーグル、あの岩山に砂鉄をひっかけて、ロープの要領で引き揚げろ。できるな?」
眼前に迫る妹紅の顔に、L・Aは凄みを感じてうなづいた。うなづかざるを得なかった。
岩山を血眼になって見つめるL・A。
砂鉄の触手が岩山へと延びていく。
砂鉄が岩山を捉えると、岩山ぼろぼろと崩れ去る。
「あっ……」
L・Aの目が細まった。彼はすぐに別の岩山を探し出し、そこに砂鉄を伸ばす。
2つ目の岩山に砂鉄が絡みつく。
しかしその岩山も崩れて流砂に沈んでしまった。
「さ、砂岩だ……あの岩山、砂岩でできているんだ! 砂岩はとても『もろい』ッ!」
岩山が崩れるのを見たアンドレが、絶望的だと言わんばかりの声を挙げた。
L・Aは諦めずに3つ目の岩山を捉えようとする。
その間にも3人を締め上げる磁力は強くなり、3人の皮膚を裂き始める。
「砂岩の岩山ではなくて本物の岩山を見つけなくては……でもどうしたらいいんだッ!」
磁力に頬を裂かれながら、妹紅は必死に打開策を考える。
岩山が何でできてるかを確かめる妖術なんて妹紅は知らない。
「クソッ!」
妹紅は歯を軋ませて砂を殴る。
ずるずると砂に潜りこむ手。流砂から手を抜き取ると、妹紅は手のひらに何かが入っているのを感じ取った。
「今、手の中に何かが……?」
妹紅は、手を開いた。手のひらの中には、一発の銃弾。
ジョニィの手から離れた銃弾が、偶然にも妹紅の手のひらにあった。
「……やって、みるか」
意を決した妹紅は指で、それを弾く。弾丸は手のひらの上でコマのように回った。
「なんか違う。もっと激しく、竜巻のように『回転』するはずだッ……」
再び指で弾丸を弾く。
弾丸はコマのように回転するのみ。
2回目の失敗をして、妹紅は深呼吸をした。
「イメージしろ。ジョニィは『回す』のではなくて『舞う』のをイメージしてた……」
祈るように、妹紅はコマのように回る弾丸に指をかけた。
手のひらのコマは、小さなバレエダンサーに変わった。
「で、出来た…………」
舞い踊る弾丸を妹紅は惚けた顔で見つめる。
見つめるうちに、これをどうすればいいのか自然と頭の中に浮かんできた。
「この弾丸を……砂に叩き付けるッ!」
妹紅は手のひらを返し、弾丸を流砂に叩き付けた。
すると、小さな砂の波が生まれた。
小さな砂の波は妹紅の手からどんどん広がっていく。
波が生み出す微細な振動は、周囲に立つ砂岩の岩山を次々と砕いて行った。
最後に一つ、流砂のふちに立つ岩山だけが残った。
「そこだァーッ! やれっ! ゴーグル!」
「うおおおおーッ!」
妹紅の叫びに応えて、L・Aは最後の砂山に砂鉄を伸ばした。
砂鉄はがっちりと岩山を捉え、岩山も締め付けてくる砂鉄に負けずに鎮座している。
「引きずれえぇぇぇ!」
妹紅の号令と共に、L・Aは砂鉄を操作。
3人の体を一気に流砂から引きずり出した。
「馬を呼べッ! すぐにこの土地から抜け出すぞッ!」
妹紅は擦り傷と切り傷だらけの体に鞭をうって、指笛を吹いた。
妹紅の元に愛馬のイワカサがやってくる。
この過酷な環境の中、安全な場所を見つけ出して隠れていたらしい。
動物の本能とは凄いものだと感心しながら、妹紅はイワカサに乗る。
L・Aとアンドレも馬を呼ぶが、アンドレの馬だけは来なかった。
流砂に巻き込まれて溺れてしまったのだ。
「兄ちゃん、乗って」
立ち尽くすアンドレに、L・Aは馬上から手を伸ばした。
アンドレは首を横に振った。
「ここで俺がお前の馬に乗ったら、俺もお前も失格だ。お前が行け。俺はここに残る」
目を伏せて立っているだけのアンドレ。
L・Aは馬から降りて、アンドレの目の前に立った。
「兄貴のバカ! 兄貴が死んだら僕の家族は一体どこにいるっていうんだ!」
アンドレの頬にL・Aの握り拳が叩き付けられた。
「家族を見捨てる家族がいるかッ! いいから乗ってッ!」
拳の跡で真っ赤になった頬をさすりながら、アンドレはうなづいた。
黙ったままL・Aの馬に乗るアンドレ。
事を黙ってみていた妹紅は、空を見上げる。
「馬に乗ったみたいだな。まずは方角を確かめる」
妹紅の視線の先には、満天の星空。
降り注ぐ月光と星明りが、3人の影を砂に映しこませている。
「空を見て、方角がわかるの?」
L・Aは疑問の視線を妹紅にぶつける。
星明りで青白く照らされる妹紅の首は、縦に動いた。
「インディアンが夜、道に迷った時に使う知恵だ。空にある北斗七星を探しだし、そこから北の方角を知る」
「北斗七星? 何それ」
きょとんとした表情で、アンドレはL・Aの背後から顔を出した。
「ある特殊な並び方をした、7つの星だ。その星を一直線につなぐとフライパンの形になる」
妹紅は、空を指差した。
指の先には、北斗七星が並んでいるが、そもそも北斗七星を知らなかったアンドレとL・Aはさっぱりわからない。
「その北斗七星の星の先に、北極星がある。少しずつ動き続ける星空の中で、北極星は動かずに常に北の方角に位置している」
妹紅は馬を動かして、方向を変える。
「この方角が北だな。早く行くぞ」
妹紅を先頭を走り、3人は悪魔の手のひらを駆ける。
吹き込む風が砂を巻き上げる。
叩き付けられる砂粒に耐えて馬を走らせ続けて約30分。3人の周囲には平穏な砂漠の光景が広がっていた。
「抜けた、な。このまま水場まで突っ切ろう」
夜の砂漠を、2頭の馬が走る。
冷たい風が3人の頬を撫でる。
3人は黙って馬を走らせ続けた。
「に、兄ちゃん!」
L・Aはアンドレの口を塞ぐ白い手に怯えきって、動けなくなってしまう。
アンドレは口を塞がれてもがくことしかできない。
「もう一回だけ言うぞ。死にたくないなら動くな」
アンドレは、自分の背中のあたりから聞こえてくる声に耳を傾け、もがくのをやめた。
「そうだ。そのままゆっくりと力を抜け。流砂は水と同じで、浮力を持っている。だから、力を抜けば自然と浮かび上がってくる……昔インディアンに教えてもらった砂漠で生きる知恵だ」
背中から聞こえてくる声の言うとおりに、アンドレは力を抜いた。
ずるずると手足が砂の中から姿を現してくる。
「やればできるじゃないか。いいか、そのまま浮かんでれば流されることはあっても死ぬことはねぇ。次はお前の弟も助けてやるから、そのまま静かにしていろ」
アンドレは、大の字になって流砂から浮かびながら、隣から聞こえてくる声に視線を向けた。
流砂の中から、銀色の糸が現れてくる。
砂が流れる音と共に、陶磁器のようなものが現れる。
「ちっ……しばらく死んでたおかげで服は血だらけだし口の中は砂だらけだ」
悪態をついて、妹紅の体が砂の中から現れた。
「いいか、アンドレ・ブンブーン。この流砂から出るにはアタシ一人だけじゃかなり骨が折れる。てめぇらにも手伝ってもらうからな」
不死鳥は失敗を恐れない第十八話 『砂の海の真ん中で』
「まずはアタシを磁力体質にしろ。あの溺れてるガキがお前と似たタイプの能力なら引き寄せられるだろ」
妹紅の言葉に、アンドレは眼を見開いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんなことしたら俺たちがぶつかって内臓ぶちまけるだけだぞ!」
アンドレは焦って妹紅の考えに反対する。
「賭けだ。内臓ぶち撒いて全滅か、流砂に飲まれて全滅か、3人そろって生還か」
妹紅はベルトの鞘からナイフを抜いた。
「覚悟しろ。流砂から抜ければ絶対に生きて帰れる」
妹紅の手からナイフが放たれる。
ナイフはアンドレの頬を切る。僅かな血を付けたナイフは妹紅の念動力の妖術により手元に帰ってきた。
瞬間、アンドレの体が浮かび、妹紅へと向かっていく。
「うわああああ! マジかよォォォ!」
アンドレの体が、妹紅の背中にがっしりとくっついた。
「いいか、決して能力を解除するんじゃねぇぞ……能力を解除したら、流砂で死ぬからな」
「ハイィィィィ!」
健気にもアンドレは磁力の与える痛みに耐えて、能力を維持し続ける。
「そこのゴーグル! 死にたくなかったら砂鉄を出せッ!」
妹紅は背中にひっついているアンドレの重さに耐えつつ、L・Aに向かって怒鳴る。
「ぼ、僕のこと!?」
L・Aは溺れながら、妹紅の方を向いた。
「そうだ! 砂鉄を出せッ! そうすれば流砂から脱出できる!」
言われるがままに、L・Aは磁力の能力を使って砂鉄を出した。
砂鉄を出したL・A目掛けて妹紅はアンドレの血が付いたナイフを投げる。血の付いたナイフがL・Aの髪を少し切る。
すると、妹紅とアンドレの体が浮き上がり、L・Aへ飛んでいく。
「「ぎゃああああああ!」」
絶叫するブンブーン兄弟。
ついに3人は塊となり、互いの磁力によって自壊へと向かっていく。
「もう駄目だもう駄目だ死ぬッ! 絶対に死ぬウゥゥゥ!」
アンドレは半狂乱になって騒ぎ立てる。
「黙ってろい! いいか、ゴーグル。あそこに岩山があるだろ?」
騒ぐアンドレを無視して妹紅は近くにある岩山を指差した。
「ゴーグル、あの岩山に砂鉄をひっかけて、ロープの要領で引き揚げろ。できるな?」
眼前に迫る妹紅の顔に、L・Aは凄みを感じてうなづいた。うなづかざるを得なかった。
岩山を血眼になって見つめるL・A。
砂鉄の触手が岩山へと延びていく。
砂鉄が岩山を捉えると、岩山ぼろぼろと崩れ去る。
「あっ……」
L・Aの目が細まった。彼はすぐに別の岩山を探し出し、そこに砂鉄を伸ばす。
2つ目の岩山に砂鉄が絡みつく。
しかしその岩山も崩れて流砂に沈んでしまった。
「さ、砂岩だ……あの岩山、砂岩でできているんだ! 砂岩はとても『もろい』ッ!」
岩山が崩れるのを見たアンドレが、絶望的だと言わんばかりの声を挙げた。
L・Aは諦めずに3つ目の岩山を捉えようとする。
その間にも3人を締め上げる磁力は強くなり、3人の皮膚を裂き始める。
「砂岩の岩山ではなくて本物の岩山を見つけなくては……でもどうしたらいいんだッ!」
磁力に頬を裂かれながら、妹紅は必死に打開策を考える。
岩山が何でできてるかを確かめる妖術なんて妹紅は知らない。
「クソッ!」
妹紅は歯を軋ませて砂を殴る。
ずるずると砂に潜りこむ手。流砂から手を抜き取ると、妹紅は手のひらに何かが入っているのを感じ取った。
「今、手の中に何かが……?」
妹紅は、手を開いた。手のひらの中には、一発の銃弾。
ジョニィの手から離れた銃弾が、偶然にも妹紅の手のひらにあった。
「……やって、みるか」
意を決した妹紅は指で、それを弾く。弾丸は手のひらの上でコマのように回った。
「なんか違う。もっと激しく、竜巻のように『回転』するはずだッ……」
再び指で弾丸を弾く。
弾丸はコマのように回転するのみ。
2回目の失敗をして、妹紅は深呼吸をした。
「イメージしろ。ジョニィは『回す』のではなくて『舞う』のをイメージしてた……」
祈るように、妹紅はコマのように回る弾丸に指をかけた。
手のひらのコマは、小さなバレエダンサーに変わった。
「で、出来た…………」
舞い踊る弾丸を妹紅は惚けた顔で見つめる。
見つめるうちに、これをどうすればいいのか自然と頭の中に浮かんできた。
「この弾丸を……砂に叩き付けるッ!」
妹紅は手のひらを返し、弾丸を流砂に叩き付けた。
すると、小さな砂の波が生まれた。
小さな砂の波は妹紅の手からどんどん広がっていく。
波が生み出す微細な振動は、周囲に立つ砂岩の岩山を次々と砕いて行った。
最後に一つ、流砂のふちに立つ岩山だけが残った。
「そこだァーッ! やれっ! ゴーグル!」
「うおおおおーッ!」
妹紅の叫びに応えて、L・Aは最後の砂山に砂鉄を伸ばした。
砂鉄はがっちりと岩山を捉え、岩山も締め付けてくる砂鉄に負けずに鎮座している。
「引きずれえぇぇぇ!」
妹紅の号令と共に、L・Aは砂鉄を操作。
3人の体を一気に流砂から引きずり出した。
「馬を呼べッ! すぐにこの土地から抜け出すぞッ!」
妹紅は擦り傷と切り傷だらけの体に鞭をうって、指笛を吹いた。
妹紅の元に愛馬のイワカサがやってくる。
この過酷な環境の中、安全な場所を見つけ出して隠れていたらしい。
動物の本能とは凄いものだと感心しながら、妹紅はイワカサに乗る。
L・Aとアンドレも馬を呼ぶが、アンドレの馬だけは来なかった。
流砂に巻き込まれて溺れてしまったのだ。
「兄ちゃん、乗って」
立ち尽くすアンドレに、L・Aは馬上から手を伸ばした。
アンドレは首を横に振った。
「ここで俺がお前の馬に乗ったら、俺もお前も失格だ。お前が行け。俺はここに残る」
目を伏せて立っているだけのアンドレ。
L・Aは馬から降りて、アンドレの目の前に立った。
「兄貴のバカ! 兄貴が死んだら僕の家族は一体どこにいるっていうんだ!」
アンドレの頬にL・Aの握り拳が叩き付けられた。
「家族を見捨てる家族がいるかッ! いいから乗ってッ!」
拳の跡で真っ赤になった頬をさすりながら、アンドレはうなづいた。
黙ったままL・Aの馬に乗るアンドレ。
事を黙ってみていた妹紅は、空を見上げる。
「馬に乗ったみたいだな。まずは方角を確かめる」
妹紅の視線の先には、満天の星空。
降り注ぐ月光と星明りが、3人の影を砂に映しこませている。
「空を見て、方角がわかるの?」
L・Aは疑問の視線を妹紅にぶつける。
星明りで青白く照らされる妹紅の首は、縦に動いた。
「インディアンが夜、道に迷った時に使う知恵だ。空にある北斗七星を探しだし、そこから北の方角を知る」
「北斗七星? 何それ」
きょとんとした表情で、アンドレはL・Aの背後から顔を出した。
「ある特殊な並び方をした、7つの星だ。その星を一直線につなぐとフライパンの形になる」
妹紅は、空を指差した。
指の先には、北斗七星が並んでいるが、そもそも北斗七星を知らなかったアンドレとL・Aはさっぱりわからない。
「その北斗七星の星の先に、北極星がある。少しずつ動き続ける星空の中で、北極星は動かずに常に北の方角に位置している」
妹紅は馬を動かして、方向を変える。
「この方角が北だな。早く行くぞ」
妹紅を先頭を走り、3人は悪魔の手のひらを駆ける。
吹き込む風が砂を巻き上げる。
叩き付けられる砂粒に耐えて馬を走らせ続けて約30分。3人の周囲には平穏な砂漠の光景が広がっていた。
「抜けた、な。このまま水場まで突っ切ろう」
夜の砂漠を、2頭の馬が走る。
冷たい風が3人の頬を撫でる。
3人は黙って馬を走らせ続けた。