ディアボロが自分の幻想郷探検談をぬえとマミゾウに語り終えてから少し経った。
彼は現在、宙に浮きながら命蓮寺の墓地を見下ろしている。
「(数多の妖怪が騒ぐ『聖人』とは一体何者だ?そして……)」
ディアボロは考え事をしながら墓地に下りた。
彼の疑問は現時点で二つ。
『聖人』とは何者なのか。もう一つは……
「(なんで命蓮寺の墓地の地下に『聖人』が眠る場所があったんだ?)」
『聖人』の眠っていた場所である。
彼は『聖人』に関する情報はあまり教えてもらっていない。
さらに白蓮の記憶からも情報を読み取っていない。その記憶が書かれたページを見る前に読むのを止めたためである。
それ故に今の彼が知っているのは『長きに渡り眠りについていた』ことと、『命蓮寺の墓地の地下に眠りについていた場所があった』ことだけである。
だが『聖人』が復活して今日にいたるまで、妖怪たちが騒いでいる。
それは即ち、妖怪は『聖人』を恐れている事を意味する。
『聖人』がそれほどの存在だというのは、日本の宗教にあまり詳しくない彼でも妖怪の騒ぎによって理解『可』能であった。
墓地に着地してなお、ディアボロは考え事をしつづけていた。
「(そもそも命蓮寺が上にあったのは『偶然』なのか?)」
偶然か、それとも『意図的』にやったのか。それに関して彼は一切知らない。
知らない故に、推測するしかないのだ。
「(もしも『命蓮寺が建つより前にあった』と仮定して、上に命蓮寺を建てたことを『意図的にやった』としたら……その『理由』はなんだ?)」
ディアボロは考えるが、その『理由』が全然わからない。
「(……もしかして『宗教』絡みか?)」
ディアボロはふと、ある結論に達した。
命蓮寺は『仏教』の施設だが、『聖人』が眠っていた場所も何らかしらの宗教に関わりがあるのではないかと。
何の根拠もない発言というわけではない。彼は『聖人』を一人知っているからだ。
その『聖人』はキリスト教に深く関わっている人物であり、同時に信仰の対象である。
そしてその『聖人』は、遺体となってもなお、その一部だけでスタンドを覚醒させる能力を秘めている。
もしも今回目覚めた『聖人』も何らかしらの『宗教』に関連する人物なら。
あの時の『聖人』と同様、何らかの『強い力』を持つ人物なら。
妖怪が恐れるのも少し理解できるかもしれない。
だがそこでもう一つの疑問が生まれる。
「(だとしたら、何故『そこにある』のが分かったんだ?)」
『聖人の眠っていた場所』は少しも地上に姿を見せていなかったのに、狙って上に建てれた理由が分からないのだ。
偶然上に建てたというのは少し不自然だし、狙ってやったとしてもどうやって上に建てられたのかわからない。
この疑問の答えを見つけるのは、彼だけでは不可能であろう。
「(……この疑問の答えは自力で解けそうにないな)」
自力で疑問を解決することはできないと判断したディアボロは、命蓮寺に戻ることにした。
だが、戻ろうとして振り向いた直後、彼の動きが止まった。
「誰だ?」
水色の羽衣を着た青色の髪の女性がいたからだ。
「私は霍 青蛾(かく せいが)。仙人をやっています」
女性はそう言いながら少しずつディアボロに近づいてくる。
「止まれ。それ以上近づくな」
ディアボロは警告と同時にキング・クリムゾンを出す。
女性との距離は2m以上離れているが、念のためというやつだろう。
「あら怖い」
女性はそう言っているものの、全く怯えていない。
が、近寄るのを止めるところを見ると、彼に対して高を括っているわけではないようだ。
「仙人……?」
「不老長寿、頭脳明晰、金剛不壊……それらを併せ持つ者のことですよ」
ディアボロの問いに青蛾は答える。
普通の人なら興味を抱きそうな話だが、その発言を聞いたディアボロの反応は意外なものだった。
「どんな意味の言葉だ?」
その問いの答えを聞いたディアボロは、言葉の意味を『理解できなかった』。
そのため、先ほどの話にまったく興味を持たなかったようだ。
……理解できなければ興味を抱けるわけがないのは当たり前である。
「『年を取ることなく長生き』ができて、『頭が良いことに加えて冴えていて』、『人間を超えた丈夫な体』を持つ者……と言えばわかります?」
青蛾は分かりやすく教えるが、その表情は若干呆れていた。
『言葉の意味が理解できなかった』というのは、彼女も予想していなかったからだろう。
「なるほど、そういう意味だったのか」
青蛾の言葉の意味を理解してもなお、ディアボロは表情を変えることはない。
「仙人がここに何の用だ?墓参りか?」
「いいえ、貴方に用があるのよ」
青蛾がここにいる理由。それはディアボロに用があったからだ。
自分が目当てではないと思いながら質問をしたディアボロは、その言葉により警戒を強める。
「俺に何の用だ?」
だからといって、相手の話を聞かずに追い払うというのは酷い話である。
ディアボロはとりあえず相手の話を聞いてみることにした。
「貴方、仙人になる気はあります?」
「ない」
即答だった。
ディアボロは何の迷いもなく青蛾の誘いを断った。
そして何の迷いもなきその返事は
「あら……」
青蛾を驚かせるには十分だった。
ディアボロは命蓮寺に戻るため歩き始める。
……が、4歩歩いたところで急に止まった。
「……なんで俺を誘った?」
「貴方が『力のある者』だからですよ」
ディアボロの質問に、笑顔を見せながら青蛾は答える。
「どうやら私は力のある人間に惹かれる癖があるようで……」
青蛾はそういうが、先ほどの発言でディアボロは再び警戒を強める。
「…………」
そしてディアボロは、無言で一枚のDISCを……『中途半端』に挿入する。
中途半端に挿入されたDISCは彼の視界を覆ってしまった。
……そして5秒ほどたって、彼は再び口を開く。
「お前にもう一つ聞きたいことがある」
「何かしら?」
「あまり気配がないせいで今まで気づかなかったが」
ディアボロはそう言って
「俺の後ろにいる『札を貼られた奴』は誰だ?」
中途半端に挿入していたDISCを最後まで挿入する。
恐らくエピタフで、背後を含めた自分の周囲を確認したのだろう。
「ばれた!」
どうやら気づかれるとは思っていなかったらしく、背後にいた者は驚きの声を上げる。
「じっとしていればわからないと思っていたのか?」
ディアボロは振り返ることなく背後にいた者に質問をする。
「あら、芳香(よしか)に気づくなんて」
どうやらこれには青蛾も少し驚いたらしい。
「こいつに俺の背後を取らせてどうするつもりだったんだ?」
ディアボロは青蛾に質問をする。
ついでにもう一枚DISCを挿入して、何時でも戦えるようにしておく。
「貴方が『この場から逃げ出さないようにする』ためですよ」
「そいつが俺が逃げるのを妨害できるとは思えないんだが」
「浮いてしまえば遅くはありませんわ」
ディアボロは青蛾と会話をしながらもう一つのスタンドを出す。
猫のような頭部、肩や手の甲などに存在する髑髏の模様。ピンク色の肌。
そして外見上最も人間離れしている箇所は右手の人差指の側面で、スイッチのようなものがある。
『平穏』を望みながら『人を殺さずにはいられない性(さが)』を持つ男がいた。
その男の使うスタンドは、『爆弾』に関連する能力を持っており、彼はその能力で、『証拠無き人殺し』を何回も行ってきた。
そのスタンドの名は 『キラークイーン』
触れたものを爆弾に変え、周辺の熱を持つものの中で最も温度が高いものに向かっていく超強固な爆弾を分離させる。
やがて『切り札』となる第3の爆弾が『矢』の力によって覚醒し、その能力によって彼は戦いに勝ったはずだったのだが……。
「で、俺を逃がさないようにする理由はなんだ?」
ただ彼を誘うだけなら、彼を逃がさないようにする必要はない。
ならば、青蛾がディアボロを逃がさないようにする理由は何なのだろうか?
「貴方にお話したいことがありまして」
「……話?」
「『あのお方』についてですよ」
その言葉にディアボロが反応する
「(こいつ……何か知っているのか?)」
ディアボロはキラークイーンを戻すが、キング・クリムゾンは出し続けている。
話を聞き出すためにほんの少しだけ警戒を解くが、青蛾の言っている『あのお方』とディアボロの思っている『聖人』は果たして同一人物だろうか?
「ここ最近妖怪たちを騒がせている奴のことか?」
それを確かめるために、ディアボロはもう一度質問をする。
「その通りですわ」
青蛾の回答は、『あのお方』と『聖人』が同一人物であることを意味していた。
「……なるほど」
それを理解したディアボロは、青蛾の話を聞くことにした。
『聖人』が『敵』か『味方』か、それとも『どちらでもない』のかを、これから知ることができる。
そして仙人は語り始める。
『聖人』の偉大さと、『白蓮のとった行動』について。
曰く、『聖人』は未来を背負う賢者であり、『白蓮がお寺を建てた理由』は聖人の復活を阻むためだと。
そのため、白蓮は青蛾からすれば『悪の大王』なのだそうだ。
そしてその語りはこの言葉で終わる。
「あのお方は必ずや、妖怪を滅してくれる」と。
「………………」
青蛾の話を聞いて、ディアボロは無言で考える。
「お寺なんて離れて、あのお方に仕えてみます?」
青蛾はディアボロを誘いこもうと、さらに声を掛ける。
「…………」
ディアボロは無言のまますこし考えると、空気を集めて床を作る。
「結論はまだ言えないが、話を聞かせてもらったお礼だ。うまく使ってくれ」
ディアボロはそう言って空気の床に触れて少し押した後、空気の床から離れる。
「あら、ありがとう」
風を自在にコントロールできるなら、制御は難しそうだが、楽に移動できそうだ。
だが所詮は空気の塊。穴が開いたり切られてしまったら使い物にならなくなる。
青蛾はお礼を言って空気の床に座った。
次の瞬間
空気床が突然真上に向かって進み始めた。
ディアボロの側には、キング・クリムゾンに加えていつの間にかキラークイーンが再び姿を見せていた。
しかも、右手の人差指についていたスイッチを『押している』。
ディアボロが空気床を押したあの時……そう、彼が空気床を押したのと同時に、キラークイーンも『触れていた』のだ。
触れることさえできれば、対象が気体だろうが関係ない。爆弾にしてしまうことができる。
そして空気弾は一部をキラークイーンの能力によって爆破すると、『爆弾のまま穴が開く』ため、穴から空気が漏れ出てスピードを上げながらロケットのように一直線に進んでいく。
青蛾は慌てて空気床から降りてすぐに宙に浮く。
爆発音は小さ目だったため寺までは聞こえる可能性は低い。
「結論は『まだ言えない』のであって、『出していない』わけじゃないからな」
ディアボロはそう言いながら振り返る。
彼の背後には芳香がいたが、その芳香は上に飛んでいく空気床をポカーンとした感じで見上げていた。
……特に攻撃してくる様子はないようなので、ディアボロは気にしないことにした、
「俺はこの寺に暮らす者たちに世話になりすぎた。……ただの『居候』だったはずなのに、な」
そんなこと言いながら、彼は笑みを浮かべていた。
「『正義』も『悪』も、所詮は価値観によって決められたものでしかない」
嘗て、『悪』だと言われながらも、最期まで自分のとった行動を『正義』だと思っていた神父がいた。
神父は『運命を受け入れ、覚悟を決める』ことが人々を救うことになると頑なに信じていた。
その為に用いたスタンドが『メイド・イン・ヘブン』。
ディアボロは現象加速能力として使っているが、本来は時の加速により宇宙を『一巡』させ、全ての生物の潜在意識に『運命』を記憶させる能力である。
その『運命』はどう足掻いても変えることはできない。
だが、メイド・イン・ヘブンの本体ならその運命を変えることができる。
……それは即ち、(自覚はなかったのだろうが)神父自身が『自分の運命を受け入れる覚悟』がなかったのかもしれない。
本当に運命を受け入れて覚悟を決めることが人々を救うことになると思うのなら、メイド・イン・ヘブンに運命を変える能力はないはずなのだ。
或は、かのイエス・キリストのように自己犠牲によって人々を救済するつもりだったのか。
彼の記憶を見ているディアボロは答えを知っているはずだが、誰にも語らず、何にも記さず、詮索すらせず、である。
そして、神父を殺した少年は『正義の道を歩むことこそが運命』だと言った。
だが神父自身からすれば、自分が歩んだ道も『正義の道』だと頑なに信じ込んでいるのだろう。
但しその『正義』は独善的で、他者から見れば『正義』として認められることすらない。
結局神父は最期まで、自分の考えを曲げることも、疑うことすらなく死んだ。
少年の価値観からすれば神父は紛れもなき『悪』だろう。
だが神父の価値観からすれば、友の夢を実現することこそが『絶対的な正義』で、少年を含む、彼の目的の妨げになる者こそが『悪』なのだ。
「お前から見ればあの寺の僧は『悪』かも知れないが、他の奴からすればどうだ?」
ディアボロは歩いて距離を詰めてくる。
青蛾はその場から動くことなく無言でディアボロを見下ろす。
「そして、その『聖人』から見て妖怪は『善』か『悪』か、あるいはその『中間』か……どちらだろうな?」
ディアボロは青蛾に問いかけながらストレイ・キャットのDISCを別のDISCと入れ替える。
……青蛾はその質問に答えなかった。
いくら仙人といえども、心を読む術を持っているとは限らない。
そして彼女は『恐らく』持っていない。
「……まあ、『聖人』に会ったことすらない俺がそいつについてどうこう言うつもりはない」
ディアボロはキラークイーンを戻す。
青蛾をヘブンズドアーで本にして調べるという手もあるが、背後には芳香がいる。
本にして読もうとすれば、何らかしらの妨害を受ける可能性は十分にあるだろう。
「『聖人』について、情報を与えてくれたことについては礼を言わせてもらうぞ」
もう一度DISCを入れ替え、ディアボロがそう言った次の瞬間
彼の姿は、どこにもなかった。
「……あら、消えちゃったわ」
青蛾は少し驚いた。
ディアボロは強いとは聞いていたが、こんなことができるとは思っていなかったようだ。
「どこにいった?」
ディアボロを探そうとする芳香だが、彼の姿はどこにもなかった。
「……もうこの辺りにはいないようね」
それを理解した青蛾は、芳香にそう伝えた
「(『聖人』が何者なのかについてはある程度はわかったが……やはり詳しいことは会ってみなければわからないか)」
青蛾から『聖人』についてある程度聞き出せたものの、彼女からの情報だけでは敵か味方かの判断ができない。
『妖怪を滅してくれる』というのも、青蛾の期待でしかない可能性もある。
「(仕方ない……いずれ会う機会があるだろう)」
恐らく時を止めてその間に入ったと思われるジッパーの中で、ディアボロはそう考えるのだった。
彼は現在、宙に浮きながら命蓮寺の墓地を見下ろしている。
「(数多の妖怪が騒ぐ『聖人』とは一体何者だ?そして……)」
ディアボロは考え事をしながら墓地に下りた。
彼の疑問は現時点で二つ。
『聖人』とは何者なのか。もう一つは……
「(なんで命蓮寺の墓地の地下に『聖人』が眠る場所があったんだ?)」
『聖人』の眠っていた場所である。
彼は『聖人』に関する情報はあまり教えてもらっていない。
さらに白蓮の記憶からも情報を読み取っていない。その記憶が書かれたページを見る前に読むのを止めたためである。
それ故に今の彼が知っているのは『長きに渡り眠りについていた』ことと、『命蓮寺の墓地の地下に眠りについていた場所があった』ことだけである。
だが『聖人』が復活して今日にいたるまで、妖怪たちが騒いでいる。
それは即ち、妖怪は『聖人』を恐れている事を意味する。
『聖人』がそれほどの存在だというのは、日本の宗教にあまり詳しくない彼でも妖怪の騒ぎによって理解『可』能であった。
墓地に着地してなお、ディアボロは考え事をしつづけていた。
「(そもそも命蓮寺が上にあったのは『偶然』なのか?)」
偶然か、それとも『意図的』にやったのか。それに関して彼は一切知らない。
知らない故に、推測するしかないのだ。
「(もしも『命蓮寺が建つより前にあった』と仮定して、上に命蓮寺を建てたことを『意図的にやった』としたら……その『理由』はなんだ?)」
ディアボロは考えるが、その『理由』が全然わからない。
「(……もしかして『宗教』絡みか?)」
ディアボロはふと、ある結論に達した。
命蓮寺は『仏教』の施設だが、『聖人』が眠っていた場所も何らかしらの宗教に関わりがあるのではないかと。
何の根拠もない発言というわけではない。彼は『聖人』を一人知っているからだ。
その『聖人』はキリスト教に深く関わっている人物であり、同時に信仰の対象である。
そしてその『聖人』は、遺体となってもなお、その一部だけでスタンドを覚醒させる能力を秘めている。
もしも今回目覚めた『聖人』も何らかしらの『宗教』に関連する人物なら。
あの時の『聖人』と同様、何らかの『強い力』を持つ人物なら。
妖怪が恐れるのも少し理解できるかもしれない。
だがそこでもう一つの疑問が生まれる。
「(だとしたら、何故『そこにある』のが分かったんだ?)」
『聖人の眠っていた場所』は少しも地上に姿を見せていなかったのに、狙って上に建てれた理由が分からないのだ。
偶然上に建てたというのは少し不自然だし、狙ってやったとしてもどうやって上に建てられたのかわからない。
この疑問の答えを見つけるのは、彼だけでは不可能であろう。
「(……この疑問の答えは自力で解けそうにないな)」
自力で疑問を解決することはできないと判断したディアボロは、命蓮寺に戻ることにした。
だが、戻ろうとして振り向いた直後、彼の動きが止まった。
「誰だ?」
水色の羽衣を着た青色の髪の女性がいたからだ。
「私は霍 青蛾(かく せいが)。仙人をやっています」
女性はそう言いながら少しずつディアボロに近づいてくる。
「止まれ。それ以上近づくな」
ディアボロは警告と同時にキング・クリムゾンを出す。
女性との距離は2m以上離れているが、念のためというやつだろう。
「あら怖い」
女性はそう言っているものの、全く怯えていない。
が、近寄るのを止めるところを見ると、彼に対して高を括っているわけではないようだ。
「仙人……?」
「不老長寿、頭脳明晰、金剛不壊……それらを併せ持つ者のことですよ」
ディアボロの問いに青蛾は答える。
普通の人なら興味を抱きそうな話だが、その発言を聞いたディアボロの反応は意外なものだった。
「どんな意味の言葉だ?」
その問いの答えを聞いたディアボロは、言葉の意味を『理解できなかった』。
そのため、先ほどの話にまったく興味を持たなかったようだ。
……理解できなければ興味を抱けるわけがないのは当たり前である。
「『年を取ることなく長生き』ができて、『頭が良いことに加えて冴えていて』、『人間を超えた丈夫な体』を持つ者……と言えばわかります?」
青蛾は分かりやすく教えるが、その表情は若干呆れていた。
『言葉の意味が理解できなかった』というのは、彼女も予想していなかったからだろう。
「なるほど、そういう意味だったのか」
青蛾の言葉の意味を理解してもなお、ディアボロは表情を変えることはない。
「仙人がここに何の用だ?墓参りか?」
「いいえ、貴方に用があるのよ」
青蛾がここにいる理由。それはディアボロに用があったからだ。
自分が目当てではないと思いながら質問をしたディアボロは、その言葉により警戒を強める。
「俺に何の用だ?」
だからといって、相手の話を聞かずに追い払うというのは酷い話である。
ディアボロはとりあえず相手の話を聞いてみることにした。
「貴方、仙人になる気はあります?」
「ない」
即答だった。
ディアボロは何の迷いもなく青蛾の誘いを断った。
そして何の迷いもなきその返事は
「あら……」
青蛾を驚かせるには十分だった。
ディアボロは命蓮寺に戻るため歩き始める。
……が、4歩歩いたところで急に止まった。
「……なんで俺を誘った?」
「貴方が『力のある者』だからですよ」
ディアボロの質問に、笑顔を見せながら青蛾は答える。
「どうやら私は力のある人間に惹かれる癖があるようで……」
青蛾はそういうが、先ほどの発言でディアボロは再び警戒を強める。
「…………」
そしてディアボロは、無言で一枚のDISCを……『中途半端』に挿入する。
中途半端に挿入されたDISCは彼の視界を覆ってしまった。
……そして5秒ほどたって、彼は再び口を開く。
「お前にもう一つ聞きたいことがある」
「何かしら?」
「あまり気配がないせいで今まで気づかなかったが」
ディアボロはそう言って
「俺の後ろにいる『札を貼られた奴』は誰だ?」
中途半端に挿入していたDISCを最後まで挿入する。
恐らくエピタフで、背後を含めた自分の周囲を確認したのだろう。
「ばれた!」
どうやら気づかれるとは思っていなかったらしく、背後にいた者は驚きの声を上げる。
「じっとしていればわからないと思っていたのか?」
ディアボロは振り返ることなく背後にいた者に質問をする。
「あら、芳香(よしか)に気づくなんて」
どうやらこれには青蛾も少し驚いたらしい。
「こいつに俺の背後を取らせてどうするつもりだったんだ?」
ディアボロは青蛾に質問をする。
ついでにもう一枚DISCを挿入して、何時でも戦えるようにしておく。
「貴方が『この場から逃げ出さないようにする』ためですよ」
「そいつが俺が逃げるのを妨害できるとは思えないんだが」
「浮いてしまえば遅くはありませんわ」
ディアボロは青蛾と会話をしながらもう一つのスタンドを出す。
猫のような頭部、肩や手の甲などに存在する髑髏の模様。ピンク色の肌。
そして外見上最も人間離れしている箇所は右手の人差指の側面で、スイッチのようなものがある。
『平穏』を望みながら『人を殺さずにはいられない性(さが)』を持つ男がいた。
その男の使うスタンドは、『爆弾』に関連する能力を持っており、彼はその能力で、『証拠無き人殺し』を何回も行ってきた。
そのスタンドの名は 『キラークイーン』
触れたものを爆弾に変え、周辺の熱を持つものの中で最も温度が高いものに向かっていく超強固な爆弾を分離させる。
やがて『切り札』となる第3の爆弾が『矢』の力によって覚醒し、その能力によって彼は戦いに勝ったはずだったのだが……。
「で、俺を逃がさないようにする理由はなんだ?」
ただ彼を誘うだけなら、彼を逃がさないようにする必要はない。
ならば、青蛾がディアボロを逃がさないようにする理由は何なのだろうか?
「貴方にお話したいことがありまして」
「……話?」
「『あのお方』についてですよ」
その言葉にディアボロが反応する
「(こいつ……何か知っているのか?)」
ディアボロはキラークイーンを戻すが、キング・クリムゾンは出し続けている。
話を聞き出すためにほんの少しだけ警戒を解くが、青蛾の言っている『あのお方』とディアボロの思っている『聖人』は果たして同一人物だろうか?
「ここ最近妖怪たちを騒がせている奴のことか?」
それを確かめるために、ディアボロはもう一度質問をする。
「その通りですわ」
青蛾の回答は、『あのお方』と『聖人』が同一人物であることを意味していた。
「……なるほど」
それを理解したディアボロは、青蛾の話を聞くことにした。
『聖人』が『敵』か『味方』か、それとも『どちらでもない』のかを、これから知ることができる。
そして仙人は語り始める。
『聖人』の偉大さと、『白蓮のとった行動』について。
曰く、『聖人』は未来を背負う賢者であり、『白蓮がお寺を建てた理由』は聖人の復活を阻むためだと。
そのため、白蓮は青蛾からすれば『悪の大王』なのだそうだ。
そしてその語りはこの言葉で終わる。
「あのお方は必ずや、妖怪を滅してくれる」と。
「………………」
青蛾の話を聞いて、ディアボロは無言で考える。
「お寺なんて離れて、あのお方に仕えてみます?」
青蛾はディアボロを誘いこもうと、さらに声を掛ける。
「…………」
ディアボロは無言のまますこし考えると、空気を集めて床を作る。
「結論はまだ言えないが、話を聞かせてもらったお礼だ。うまく使ってくれ」
ディアボロはそう言って空気の床に触れて少し押した後、空気の床から離れる。
「あら、ありがとう」
風を自在にコントロールできるなら、制御は難しそうだが、楽に移動できそうだ。
だが所詮は空気の塊。穴が開いたり切られてしまったら使い物にならなくなる。
青蛾はお礼を言って空気の床に座った。
次の瞬間
空気床が突然真上に向かって進み始めた。
ディアボロの側には、キング・クリムゾンに加えていつの間にかキラークイーンが再び姿を見せていた。
しかも、右手の人差指についていたスイッチを『押している』。
ディアボロが空気床を押したあの時……そう、彼が空気床を押したのと同時に、キラークイーンも『触れていた』のだ。
触れることさえできれば、対象が気体だろうが関係ない。爆弾にしてしまうことができる。
そして空気弾は一部をキラークイーンの能力によって爆破すると、『爆弾のまま穴が開く』ため、穴から空気が漏れ出てスピードを上げながらロケットのように一直線に進んでいく。
青蛾は慌てて空気床から降りてすぐに宙に浮く。
爆発音は小さ目だったため寺までは聞こえる可能性は低い。
「結論は『まだ言えない』のであって、『出していない』わけじゃないからな」
ディアボロはそう言いながら振り返る。
彼の背後には芳香がいたが、その芳香は上に飛んでいく空気床をポカーンとした感じで見上げていた。
……特に攻撃してくる様子はないようなので、ディアボロは気にしないことにした、
「俺はこの寺に暮らす者たちに世話になりすぎた。……ただの『居候』だったはずなのに、な」
そんなこと言いながら、彼は笑みを浮かべていた。
「『正義』も『悪』も、所詮は価値観によって決められたものでしかない」
嘗て、『悪』だと言われながらも、最期まで自分のとった行動を『正義』だと思っていた神父がいた。
神父は『運命を受け入れ、覚悟を決める』ことが人々を救うことになると頑なに信じていた。
その為に用いたスタンドが『メイド・イン・ヘブン』。
ディアボロは現象加速能力として使っているが、本来は時の加速により宇宙を『一巡』させ、全ての生物の潜在意識に『運命』を記憶させる能力である。
その『運命』はどう足掻いても変えることはできない。
だが、メイド・イン・ヘブンの本体ならその運命を変えることができる。
……それは即ち、(自覚はなかったのだろうが)神父自身が『自分の運命を受け入れる覚悟』がなかったのかもしれない。
本当に運命を受け入れて覚悟を決めることが人々を救うことになると思うのなら、メイド・イン・ヘブンに運命を変える能力はないはずなのだ。
或は、かのイエス・キリストのように自己犠牲によって人々を救済するつもりだったのか。
彼の記憶を見ているディアボロは答えを知っているはずだが、誰にも語らず、何にも記さず、詮索すらせず、である。
そして、神父を殺した少年は『正義の道を歩むことこそが運命』だと言った。
だが神父自身からすれば、自分が歩んだ道も『正義の道』だと頑なに信じ込んでいるのだろう。
但しその『正義』は独善的で、他者から見れば『正義』として認められることすらない。
結局神父は最期まで、自分の考えを曲げることも、疑うことすらなく死んだ。
少年の価値観からすれば神父は紛れもなき『悪』だろう。
だが神父の価値観からすれば、友の夢を実現することこそが『絶対的な正義』で、少年を含む、彼の目的の妨げになる者こそが『悪』なのだ。
「お前から見ればあの寺の僧は『悪』かも知れないが、他の奴からすればどうだ?」
ディアボロは歩いて距離を詰めてくる。
青蛾はその場から動くことなく無言でディアボロを見下ろす。
「そして、その『聖人』から見て妖怪は『善』か『悪』か、あるいはその『中間』か……どちらだろうな?」
ディアボロは青蛾に問いかけながらストレイ・キャットのDISCを別のDISCと入れ替える。
……青蛾はその質問に答えなかった。
いくら仙人といえども、心を読む術を持っているとは限らない。
そして彼女は『恐らく』持っていない。
「……まあ、『聖人』に会ったことすらない俺がそいつについてどうこう言うつもりはない」
ディアボロはキラークイーンを戻す。
青蛾をヘブンズドアーで本にして調べるという手もあるが、背後には芳香がいる。
本にして読もうとすれば、何らかしらの妨害を受ける可能性は十分にあるだろう。
「『聖人』について、情報を与えてくれたことについては礼を言わせてもらうぞ」
もう一度DISCを入れ替え、ディアボロがそう言った次の瞬間
彼の姿は、どこにもなかった。
「……あら、消えちゃったわ」
青蛾は少し驚いた。
ディアボロは強いとは聞いていたが、こんなことができるとは思っていなかったようだ。
「どこにいった?」
ディアボロを探そうとする芳香だが、彼の姿はどこにもなかった。
「……もうこの辺りにはいないようね」
それを理解した青蛾は、芳香にそう伝えた
「(『聖人』が何者なのかについてはある程度はわかったが……やはり詳しいことは会ってみなければわからないか)」
青蛾から『聖人』についてある程度聞き出せたものの、彼女からの情報だけでは敵か味方かの判断ができない。
『妖怪を滅してくれる』というのも、青蛾の期待でしかない可能性もある。
「(仕方ない……いずれ会う機会があるだろう)」
恐らく時を止めてその間に入ったと思われるジッパーの中で、ディアボロはそう考えるのだった。