「……どうして、ですか?」
「そうしないと、そもそもあなたは戻れないのよ。抽象的な話になるけど、ここは今、私とあなたが同時にいる事で、バランスがとれた状態になっちゃってる。どっちかが消えてバランスを崩さないと、どうにもできない」
「そんな……!」
「……気にすることなんかないわよ。初対面だし、私は一度死んでる。遠慮なく刺して頂戴」
確かに、生みの親ともいうべき存在ながら、イヴと私は今まで出会うことはなかった。でも、
「……そうしたら、あなたはどうなるんですか?」
「完全に消えるでしょうね。そもそもが、データの屑だし。文字通り跡形もなく、きれいさっぱり消えるはず」
「……」
「ああでも、運がよければ、あなたに私の記憶データが引き継がれるかもね。まあ、あなたは自分の物じゃない記憶に苦しむかもしれないけど」
いずれにせよ、本来生きているはずのイヴは、完全にいなくなってしまう。
「できません……。できません、そんなの!」
「……そう。じゃ、これから母体そのものが壊れるまで、ずっとここにいる?」
「それなら……、あなたが私を消せばいいじゃないですか!」
苦し紛れに、私は言い放った。そうすれば、逆に彼女が戻ることができるのではないか?
「……それができなかったから、私はここにいるのよ」
「え……?」
「私は、自分が背負ってきた業に耐え切れなかった。たくさんの神姫を、この手で殺めてきた。その重さに耐え切れなくなって、一番大切なひとを、不幸にしてしまった」
言葉と同時に、明確な映像が、私に流れ込む。この特殊な空間のせいか、私とイヴの間で、情報の共有が行われているようだった。
「……大切なひとと、他のすべて。どちらか片方を選ぶ時、迷わず前者を選ぶだけの覚悟が、あなたにある?」
「そうしないと、そもそもあなたは戻れないのよ。抽象的な話になるけど、ここは今、私とあなたが同時にいる事で、バランスがとれた状態になっちゃってる。どっちかが消えてバランスを崩さないと、どうにもできない」
「そんな……!」
「……気にすることなんかないわよ。初対面だし、私は一度死んでる。遠慮なく刺して頂戴」
確かに、生みの親ともいうべき存在ながら、イヴと私は今まで出会うことはなかった。でも、
「……そうしたら、あなたはどうなるんですか?」
「完全に消えるでしょうね。そもそもが、データの屑だし。文字通り跡形もなく、きれいさっぱり消えるはず」
「……」
「ああでも、運がよければ、あなたに私の記憶データが引き継がれるかもね。まあ、あなたは自分の物じゃない記憶に苦しむかもしれないけど」
いずれにせよ、本来生きているはずのイヴは、完全にいなくなってしまう。
「できません……。できません、そんなの!」
「……そう。じゃ、これから母体そのものが壊れるまで、ずっとここにいる?」
「それなら……、あなたが私を消せばいいじゃないですか!」
苦し紛れに、私は言い放った。そうすれば、逆に彼女が戻ることができるのではないか?
「……それができなかったから、私はここにいるのよ」
「え……?」
「私は、自分が背負ってきた業に耐え切れなかった。たくさんの神姫を、この手で殺めてきた。その重さに耐え切れなくなって、一番大切なひとを、不幸にしてしまった」
言葉と同時に、明確な映像が、私に流れ込む。この特殊な空間のせいか、私とイヴの間で、情報の共有が行われているようだった。
「……大切なひとと、他のすべて。どちらか片方を選ぶ時、迷わず前者を選ぶだけの覚悟が、あなたにある?」
大切なひと。私にとって、慎一のこと。
その慎一と、他のすべて、それらを天秤にかけたとして。
……具体的に、想像がつかない。じゃあ、身近な別の、例えば、梓さんなら?
私は、間違いなく慎一を選ぶ。たとえ、慎一が梓さんを選ぶことを望んだとしても、それでも慎一を選ぶ。
……そういうこと?
私が戻るため、つまり、私が慎一を選ぶために、イヴをこの手で消す、殺す必要があるのなら、私は。
「……その覚悟があるなら、私を殺せるはずよね?」
慎一か、イヴか。選べと言われたら、私は慎一を選ぶ。
私の勝手。私のエゴ。そんなの、わかりきってる。
その結果、悲しむ人がいたとしても。それは私が背負うべき、生きる価値の代償だ。
ここでイヴを殺すことも、その代償。
「……はい」
「もし、記憶の引き継ぎが起これば、あなたは死ぬまで、偽物の記憶に苦しむ。それでも?」
それだって、私が背負う代償。
「はい」
「……最後に、これはお願いなんだけど、もし、あなたが戻れて、私のことを忘れてなかったら。あのひとに……高明に、伝えてほしいことがあるの」
「何を、ですか?」
少し間を空けて、イヴが口を開いた。
「……私は、あなたに大切にしてもらえて、たくさんたくさん、あなたの気持ちをもらえて、とっても幸せだったから……って」
「……はい、必ず、伝えます」
私はこれから、イヴのオーナーであった人の悲しみに、向き合わなければならない。
それが、私の背負うもっとも大きな代償なのかもしれない。
「じゃあ……お別れだね」
イヴが目を閉じた。私は無言で、剣を構える。
そして、イヴの胸に突き立てる。
瞬間、視界が真っ白に染まった。
その慎一と、他のすべて、それらを天秤にかけたとして。
……具体的に、想像がつかない。じゃあ、身近な別の、例えば、梓さんなら?
私は、間違いなく慎一を選ぶ。たとえ、慎一が梓さんを選ぶことを望んだとしても、それでも慎一を選ぶ。
……そういうこと?
私が戻るため、つまり、私が慎一を選ぶために、イヴをこの手で消す、殺す必要があるのなら、私は。
「……その覚悟があるなら、私を殺せるはずよね?」
慎一か、イヴか。選べと言われたら、私は慎一を選ぶ。
私の勝手。私のエゴ。そんなの、わかりきってる。
その結果、悲しむ人がいたとしても。それは私が背負うべき、生きる価値の代償だ。
ここでイヴを殺すことも、その代償。
「……はい」
「もし、記憶の引き継ぎが起これば、あなたは死ぬまで、偽物の記憶に苦しむ。それでも?」
それだって、私が背負う代償。
「はい」
「……最後に、これはお願いなんだけど、もし、あなたが戻れて、私のことを忘れてなかったら。あのひとに……高明に、伝えてほしいことがあるの」
「何を、ですか?」
少し間を空けて、イヴが口を開いた。
「……私は、あなたに大切にしてもらえて、たくさんたくさん、あなたの気持ちをもらえて、とっても幸せだったから……って」
「……はい、必ず、伝えます」
私はこれから、イヴのオーナーであった人の悲しみに、向き合わなければならない。
それが、私の背負うもっとも大きな代償なのかもしれない。
「じゃあ……お別れだね」
イヴが目を閉じた。私は無言で、剣を構える。
そして、イヴの胸に突き立てる。
瞬間、視界が真っ白に染まった。
「……呼びかけ?」
見つかった手掛かりを聞いて、正直俺は信じられなかった。
「そんなことで、ネロの意識が戻るのか?」
「……停止直前に、慎一君がネロの名前を呼んだ時、一度、復旧するような動きがあったんです」
説明するかすみの口調には、疲労がにじみ出ていた。無理もない。ほぼ無休で、ネロの検査をしていたのだから。
「ですから……、慎一君が呼びかけを続ければ、もしかしたら……」
「ネロが戻ってくるかもしれない?」
「はい。……って、ちょっと、修也君……!」
聞きたいことは聞けたので、俺はかすみを俗に言う「お姫様抱っこ」の形で抱き上げ、研究室のソファへ運ぶ。よっぽど疲れてたのか、ほとんど抵抗らしい抵抗はなかった。
「……そういうことなら、朝まで寝てても大丈夫だろ」
「それは……そうです、けど」
どっちみち慎一君が呼びかける必要があるなら、朝まで待つ方がいい。今、彼を連れてくるというのも……アレだし。
「時間が経つとまずいってこともないよな?」
「……ないです」
「じゃあ寝てろ。そのうち倒れるぞ、お前」
最初は不満そうな目を俺に向けていたが、すぐにその目も閉じ、寝息を立て始めた。
「……呼びかけ、か」
「あながち、間違ってないかも知れねー」
ふと気付くと、隣にはやてがいた。
「あたしだって、かすみに何度も何度も呼びかけてもらって、こうして変われたんだ。こいつだって、きっと」
「……そうだな」
夜明けとともに、希望が見えてくる……ような気がした。
見つかった手掛かりを聞いて、正直俺は信じられなかった。
「そんなことで、ネロの意識が戻るのか?」
「……停止直前に、慎一君がネロの名前を呼んだ時、一度、復旧するような動きがあったんです」
説明するかすみの口調には、疲労がにじみ出ていた。無理もない。ほぼ無休で、ネロの検査をしていたのだから。
「ですから……、慎一君が呼びかけを続ければ、もしかしたら……」
「ネロが戻ってくるかもしれない?」
「はい。……って、ちょっと、修也君……!」
聞きたいことは聞けたので、俺はかすみを俗に言う「お姫様抱っこ」の形で抱き上げ、研究室のソファへ運ぶ。よっぽど疲れてたのか、ほとんど抵抗らしい抵抗はなかった。
「……そういうことなら、朝まで寝てても大丈夫だろ」
「それは……そうです、けど」
どっちみち慎一君が呼びかける必要があるなら、朝まで待つ方がいい。今、彼を連れてくるというのも……アレだし。
「時間が経つとまずいってこともないよな?」
「……ないです」
「じゃあ寝てろ。そのうち倒れるぞ、お前」
最初は不満そうな目を俺に向けていたが、すぐにその目も閉じ、寝息を立て始めた。
「……呼びかけ、か」
「あながち、間違ってないかも知れねー」
ふと気付くと、隣にはやてがいた。
「あたしだって、かすみに何度も何度も呼びかけてもらって、こうして変われたんだ。こいつだって、きっと」
「……そうだな」
夜明けとともに、希望が見えてくる……ような気がした。
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