アスカ・シンカロン04
~審寡~
「おかしいぞ」
本屋を出た帰り道に立ち寄ったのだ。
繁華街の一角だった事も確か。
なのに。
繁華街の一角だった事も確か。
なのに。
「無い」
いつも通る道の何処にも、件の骨董屋は見つからない。
「無い訳無いだろう!?」
昨日の帰り道は、特に意識しては居なかった。
それは逆に言えば、何時もと同じ道を通ったからだ。
それは逆に言えば、何時もと同じ道を通ったからだ。
「なのに、なんで何処にも無いんだよ!?」
繁華街の入り口まで戻り、神姫センターを通って、昨日立ち寄った本屋へと辿り着く。
そして、その帰り道に古びた建物を見つけた筈だった。
そして、その帰り道に古びた建物を見つけた筈だった。
「左の方だったんだ、間違いねぇ」
「北斗ちゃん、そっち右なんだよ」
「……」
「……」
「い…、いいんだよ。『こっち』側なのは確実だ!!」
「北斗ちゃん、そっち右なんだよ」
「……」
「……」
「い…、いいんだよ。『こっち』側なのは確実だ!!」
本屋から繁華街の入り口まで戻る道を辿る。
右側と、念の為に反対側も確認しながら、ゆっくりと歩くが、該当する建物に巡り合わぬ内に、繁華街の入り口まで戻ってしまった。
右側と、念の為に反対側も確認しながら、ゆっくりと歩くが、該当する建物に巡り合わぬ内に、繁華街の入り口まで戻ってしまった。
「無いんだよ」
「んな訳無ぇ」
「んな訳無ぇ」
肩の上に腹這いになりながら寛ぐ明日香に、北斗は余裕の無い声で返す。
「なんで無いんだ。この通りなのは絶対に確実だ!!」
「あのさぁ、北斗ちゃん」
「んだよ」
「神姫を取り扱っているお店なら、神姫センターで聞けば分かるんじゃない?」
「……」
「あのさぁ、北斗ちゃん」
「んだよ」
「神姫を取り扱っているお店なら、神姫センターで聞けば分かるんじゃない?」
「……」
ぽん。と一つ手を打って、北斗は神姫センターに向かって走り出した。
「―――無いですねぇ」
大型神姫センターの店長である女性が、パソコンで検索しながらそう応える。
「んな訳無ぇだろ!!」
「でも、この近くで神姫を取り扱っているのは、ココとパソコンショップ、それにおもちゃ屋の3店だけです」
パソコンショップは場所も違うし、独立した大型店舗でどう間違っても骨董屋に間違えるわけが無い。
おもちゃ屋は、北斗も時折ゲームソフトなどを買いに行く行きつけの店だ。そこでもない事は確実だった。
パソコンショップは場所も違うし、独立した大型店舗でどう間違っても骨董屋に間違えるわけが無い。
おもちゃ屋は、北斗も時折ゲームソフトなどを買いに行く行きつけの店だ。そこでもない事は確実だった。
「小さな店でよ、骨董屋みたいな雰囲気なんだ。このすぐ近くの筈なんだよ」
「そう言われましても……」
「そう言われましても……」
流石に店長も困った顔をする。
「あの……」
「はい?」
「はい?」
北斗の肩の上から店長に話しかける明日香。
「個人経営の小さな店だと、ココに登録されていない事ってありますか?」
「オーナー登録は必須だし、出荷や、ユーザー管理の観点からも、本社が把握していない小売店なんか存在しないわね」
「そうですか」
「オーナー登録は必須だし、出荷や、ユーザー管理の観点からも、本社が把握していない小売店なんか存在しないわね」
「そうですか」
とりあえず礼を言って、二人はカウンターを離れる。
しかし、これで八方手詰まり。
こうなって来ると、昨日の記憶を疑う方が正しい気もするが、それが記憶違いでない事は今もポケットの中にある、あの墨で書かれた手書きの説明書が証明している。
こうなって来ると、昨日の記憶を疑う方が正しい気もするが、それが記憶違いでない事は今もポケットの中にある、あの墨で書かれた手書きの説明書が証明している。
「それ以外の可能性ね~」
「北斗ちゃん、携帯貸してほしいんだよ」
「…? どうするんだよ」
「骨董屋さんの検索をするんだよ」
「北斗ちゃん、携帯貸してほしいんだよ」
「…? どうするんだよ」
「骨董屋さんの検索をするんだよ」
テーブルの上に携帯と明日香を置いてやると、明日香は器用に掌でボタンを押し込みながらその操作を始めた。
「どうだ?」
「う~ん、該当件数3件なんだよ。……でも全部遠いね」
「違うか」
「どうだ?」
「う~ん、該当件数3件なんだよ。……でも全部遠いね」
「違うか」
一番近い店でも徒歩で30分以上掛かる。
候補に上げる事は出来そうに無かった。
候補に上げる事は出来そうに無かった。
「…狐にでも化かされたかな?」
冗談めかしてそう言った後、背もたれに寄りかかり、仰け反って転地逆の真後ろを見る北斗。
さかさまの視界に、蝙蝠型ウェスペリオーのCMが流れていた。
さかさまの視界に、蝙蝠型ウェスペリオーのCMが流れていた。
「…何やってるのよ、北斗」
「んあ? 夜宵?」
「んあ? 夜宵?」
本来なら天井からぶら下がっているのだろうその神姫のCMとの間に、割り込んでくる見慣れた少女。
「…んあ、じゃないわよ」
肩の上に白いストラーフを載せた夜宵が、北斗のすぐ後ろに立っていた。
「…って北斗、神姫買ったんだ?」
テーブルの上で正座する明日香を見つけ、夜宵が視線を動かす。
「あ、ああ、そうだ!! 夜宵―――」
「―――マスター、自己紹介ぐらい自分で出来ます」
「え?」
「―――マスター、自己紹介ぐらい自分で出来ます」
「え?」
明日香の事を説明しようとした北斗を遮り、明日香自身が立ち上がって夜宵の前に進み出る。
「始めまして。……私、マスターの武装神姫になりました、明日香です」
「……っ!!」
「……っ!!」
その名に、弾かれた様に硬直する夜宵。
「……お、おい明日香……」
「……………………北斗、あんた趣味悪いわよ……」
「……………………北斗、あんた趣味悪いわよ……」
一瞬、気持ちの悪い物でも見るような目で明日香を見て、夜宵は一歩後ずさる。
「……姉さんはもう居ないって、言ったでしょ? それなのにっ!!」
「大丈夫ですカ、マスター」
「大丈夫ですカ、マスター」
夜宵の肩の上でその頬に手を置きながら、彼女の神姫、パールが主を気遣った。
「……帰る……」
「では、これで失礼させていただきまス。北斗。……それから、明日香さン……」
「では、これで失礼させていただきまス。北斗。……それから、明日香さン……」
北斗を、そして明日香に視線を這わせてから、パールが頭を下げた。
「……北斗。……姉さんは、もう死んじゃったんだからね……。……もう、何処にも居ないんだよ……」
そう言い残し、夜宵は踵を返して小走りに走り去った。
「明日香、お前どういうつもりで!?」
「えっと、夜宵ちゃんには、しばらくナイショしようと思うんだよ……」
「…なんでだよ」
「えっと、夜宵ちゃんには、しばらくナイショしようと思うんだよ……」
「…なんでだよ」
何か考えがあるらしいと悟り、北斗は声を落した。
「ほら、あのさ。少なくとも私が何で神姫になってるのか。その理由を説明できないと、信じて貰えないかもしれないんだよ」
「夜宵なら大丈夫だって!!」
「……でも、ずっとこのままじゃないかもしれないし……。夜宵ちゃんには、心配かけたくないんだよ……」
「……ぁ」
「夜宵なら大丈夫だって!!」
「……でも、ずっとこのままじゃないかもしれないし……。夜宵ちゃんには、心配かけたくないんだよ……」
「……ぁ」
確かにその通りだった。
弥涼明日香は生き返った訳ではない。
例えば、神姫の素体に明日香の魂みたいなものが憑依したのだとしても、ずっとこのままという保証も無い。
或いは、次の瞬間に明日香の魂が消えて、飛鳥がただの神姫に戻る可能性だってあるのだ。
弥涼明日香は生き返った訳ではない。
例えば、神姫の素体に明日香の魂みたいなものが憑依したのだとしても、ずっとこのままという保証も無い。
或いは、次の瞬間に明日香の魂が消えて、飛鳥がただの神姫に戻る可能性だってあるのだ。
「だから、少なくとも。私がどうしてこうなったのかが分かるまでは、他の人には秘密にして欲しいんだよ」
「……ああ、分かった」
「……ああ、分かった」
頷くしかない。
もしも、明日香のこの状態が長く続かないのだとしたら。
心の整理をつけた夜宵に、もう一度別離を味わわせる事も無いのかもしれない。
もしも、明日香のこの状態が長く続かないのだとしたら。
心の整理をつけた夜宵に、もう一度別離を味わわせる事も無いのかもしれない。
「……でもよ、そのまま明日香って名乗ったのは不味くないか?」
「だって北斗ちゃんには、咄嗟に別の名前で呼ぶような演技は無理なんだよ」
「……はい、出来ません。演技力ゼロです。そういう機転も利きません。ゴメンなさいでしたぁ」
「うん、分かれば宜し~んだよ」
「だって北斗ちゃんには、咄嗟に別の名前で呼ぶような演技は無理なんだよ」
「……はい、出来ません。演技力ゼロです。そういう機転も利きません。ゴメンなさいでしたぁ」
「うん、分かれば宜し~んだよ」
にへへ、と笑うその顔が、生前のものと同じ事に、北斗の胸が少しだけ痛んだ。
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